人気ブログランキング |

欠品を起こさないための在庫手配入門(3)――安全在庫を確保する


前回は、営業所の在庫手配において、「物理的にはそこに存在しているが、近い将来出荷用に予約されている」状態の在庫品、すなわち『引当て』の考え方を説明した。手元にある総在庫量の内、自由になるのは、したがって、まだ引当されていない分である(もちろん不良品はないという前提)。これを未引当在庫量、ないし有効在庫量という。

 [有効在庫量] = [総在庫量] − [引当済み在庫量]

工場の部品在庫などでも、すでに製造オーダーが切られていて、使用予定が決まっている分は、「引当されて」いる状態にある(たとえ仮にまだ、資材倉庫の棚にあっても、近い内にピッキングされて製造現場に払い出される)。だから、MRP(Material Requirement Planning)の資材所要量計算では、各品目について

 [総所要量] − [有効在庫量] = [正味所要量]

という計算をする決まりになっている。この正味所要量から、さらに子部品の総所要量へと、部品表(BOM: Bill of Material)にしたがって展開していく計算を、MRPの部品展開という。

さて、営業所にいるあなたの場合は、できあがった製品在庫だけを相手にしているため、部品展開だの製造オーダーだのといった話は、関係がない。純粋に、現時点での有効在庫量を元に、先々顧客から入るであろう注文の数量(需要量)と、本社から補充供給される予定の数量(供給量)から、在庫量の推移を考えればいい。

あなたは、担当する製品Xについて、現在庫量が24日分、そして来月初に18日分の供給予定があることを知っている(なお、1ヶ月は平均20営業日とする)。だが、現在庫量のうち、11日分はすでに引当されていて、有効在庫量は実質13日分だ。

引当済みの分は、一週間後、すなわち5営業日後に出荷される予定になっている。ということは、今月の需要を1ヶ月分=20日分とすると、そのうち11日分はもう引当済みだから、残る20-11=9日分の需要を、賄えれば良い。手元には13日分の有効在庫があるから、なんとか今月は乗り切れそうだ。今月末の在庫は13-9=4日分まで減少しているだろう。だが、来月の月初には、先月手配した18日分の追加供給があるから、月初在庫量は4+18=22日分ということになる。来月末まで、なんとかもちそうだ。

ただしこのままでは、来月末の在庫は22-20=2日分しか残らない。再来月の早々には、欠品が起きる可能性がある。だから本社に今日、生産依頼をかける必要があると、あなたは判断した。納期は2ヶ月なので、今日頼めば再来月の頭には届く。そこで、製品Xの需要は比較的安定しているという先輩の経験知にしたがい、発注から納入までのリードタイム日数分、すなわち40日分(数量でいうと200個)を、本社に依頼しようとした。

ところが先輩はあなたに、「それだけじゃ、足りないんだ」という。

――なぜですか。200個あれば、次の補充までの2ヶ月間の需要には間に合う計算です。

「計算上は、な。だが世の中、計算通り行くとは限らないんだ。月の需要量が100個と言っても、それは平均だろ。もっと売れる月もある。あまり売れない月もある。たくさん売れたらどうする。たちまち欠品するじゃないか。たくさん売れたら自分が困るような営業所じゃ、ビジネスにならない。」

――てことは、もっと多めの生産依頼をかけろ、ってことですか?

「とりあえずは、な。2ヶ月分ってのは、いわば最低必要な基準の数量だ。それじゃ欠品が起きる可能性があるから、それにゲタを履かせるべきだ。安全在庫ってやつだな。」

――分かりました。それじゃ、いくつ上乗せすればいいですか?

「いちいち聞かずに、自分で調べて考えてみろよ。」

先輩はそう言い残すと、客先まわりに出かけてしまった。あなたは例の、累積需給曲線を描いて考えてみる。需要を表す線は、毎日平均的に売れていく場合、右上がりの 45度の直線になる。横軸も縦軸も、おなじ日数単位だからだ。どの品種をとっても、この図の描き方に従えば、右45度の線になる。それが、この図の利点だ。

欠品を起こさないための在庫手配入門(3)――安全在庫を確保する_e0058447_20481848.jpg
だが、先輩の言うことも分かる。たしかに、多く売れる月もあれば、あまり売れない月もある。売れ行きの良いときは、線の傾きはきつくなるし、逆に、売れ行きが芳しくないときは、傾きは緩やかになるのだ。傾きが急になると、供給線とぶつかってしまう。需要線が供給線を上回るときは、欠品の発生を表す訳だ。欠品を起こさないためには、本社に手配する生産依頼の数量を増やして、供給線を需要線からもっと離す必要がある。

では、どれくらい離せば良いのか? 自分一人では、見当もつかない。仕方なく、あなたは過去1年間の製品Xの出荷量を調べてみることにした。といっても、販売管理システムには、個別の受注オーダーと出荷実績しか残っていない。しかたなく、全部をリストアップして印刷し、手元のExcelに転記して、月ごとに集計してみた。結構めんどくさい仕事だったが、次のような数字を得た。

月  出荷量
  1  89
  2  41
  3 147
  4 122
  5 101
  6 123
  7  70
  8  83
  9 126
 10 114
 11  82
 12 102

ウーン。この先どうすれば良いのかなあ。ともあれ、数字を眺めてみると、たしかにずいぶんバラツキがあることは分かった。安定した需要だ、なんて先輩はいっていたが、一番多い月は、147個も売れている。平均のほぼ5割増しだ。逆に少ない月もある。一番売れなかった月は、41個で、平均値からは6割減だ。ちなみにExcelで平均値を見ると、ちょうど100個になった。まるで作った問題みたいだ(笑)。

だとすると、最大値の147個から見て、ざっくり50個ほど、余裕を見て「安全在庫」をもっておけば良さそうに思える。でも、これって、過去1年分の数字を見ただけの結果だ。それで十分と言えるのか? あなたはだんだん意地になって、先輩の鼻を明かしてやりたいような気持ちになっている。ただ、じゃあ過去3年分を調べるかというと、あんな面倒くさい作業はもう嫌だ。何か、もっとうまい方法はないのだろうか?

あなたは、ネットで検索してみた。すると、安全在庫の計算式というのを見つけることができた。なんとかコンサルタントの日誌から、というようなタイトルのサイトだったが、そこには、発注点管理の場合の適正在庫量は、次の計算式で求める、と図が示されてあった。

 適正在庫の発注点 = 基準在庫量 + 安全在庫量
 
 基準在庫量=手配から入手までのリードタイム期間分(L)
 安全在庫量(安定需要の場合)=
  サービス率:95%    1.65 × 需要量の標準偏差 × √L
  サービス率:99%    2.33 × 需要量の標準偏差 × √L
欠品を起こさないための在庫手配入門(3)――安全在庫を確保する_e0058447_20532252.jpg

手配から入手までのリードタイム期間分(L)、ってのは、2ヶ月分だな。それが基準在庫量になる、と。あなたが考えていた事はそこまでは正しかった訳だ。ただ、安全在庫量のところにある「サービス率」って何だっけ? 以前、先輩が何やら口にしていた気もするが、これも調べてみると、「サービス率とは、顧客の要求に応じて製品を出荷できる割合。欠品率の逆。」と書いてある。

すると、サービス率が95%というのは、欠品する確率が5%ということなのだな。サービス率99%は、欠品率1%だ。どっちが良いのだろう?

2ヶ月分ずつを発注するんだから、まあ平均すると2ヶ月に一度、発注手配をかけるわけだ。すると、サービス率95%なら、20回に1回、欠品が起きる。つまり40ヶ月=3年と4ヶ月に1回ずつ、という訳だ。これがサービス率99%だと、100回に1回、つまり200ヶ月に1回だ。それって18年弱だ・・そんなに先まで、この営業所にいないよな。そもそも、製品Xだって、そんな先まで売れてるかどうかあやしい。じゃあ、95%でいいや。これでも3年は持つわけだから、立派なもんだ。

あとは、需要量の『標準偏差』かあ。聞いたとこはあるけど、どうやって求めるんだっけ。・・えーと、なになに、「標準偏差は、ExcelのSTDEVA関数で求めれば良い」か。親切なサイトだなあ。

言われたとおり、Excelで過去1年分のデータを選択して標準偏差を計算してみると、28.9個という数字になった。それに、1.65をかけて、さらにリードタイム期間の2の平方根をかける、と。2の平方根は、SQRT(2)だな。結果は、67.5個となった。まあ端数は繰り上げて、68個が、適正な安全在庫量ということだ。需要量の平均は1営業日に5個だから、3週間分よりちょっと少ない程度の量だな。

あなたは外回りから戻った先輩に、今月は268個の生産依頼を本社にかけます、また今後(再来月以降)は、在庫量が268個を切ったら、200個ずつ手配をかけることにします、と伝えた。先輩は「わかった」とだけ答え、特にそれ以上、何も言わなかった。サービス率や標準偏差について、聞かれたら説明しようと思っていたので、あなたはちょっと拍子抜けだった。だが、ともあれ宿題は一つ果たしたのだ。

ただ、こういう作業を担当する全部の品種についてやらされたら、たまらないな、とも思った。こういうのは、販売管理システムか何かの中で、自動的に計算してほしい。コンピュータなんだから、さ。この式は、どんな品種にも、当てはまるんじゃないか。それが安定した需要である限り(そして安定需要かどうかだって、コンピュータで計算できるはずなのだ)・・


以上が、欠品を起こさないための在庫手配の顛末である。なお、もう少しだけ注記を付けておく。

(1) サービス率について:

需要量には上限がないので、あたりまえだが、サービス率=100%ということは、理論上ありえない。だから、99% とか95%とか、実用的な目標値を設定することになる

(2) 安全係数と需要変動のパターンについて:

上の式に出てくる1.65とか2.33という数字は、『安全係数』と呼ばれる。これは統計学的に言うと、正規分布において、標準偏差のn倍の領域内の面積比率に対応している。だが、世の中の需要パターンが、正規分布に従うとは限らない。だから本当は、まず過去の出荷量の変動パターンをきちんと分析して、正規分布に近い場合にのみ、使うべき係数である。

たとえば、もっと間欠的な需要(つまり、数ヶ月おきにポツリポツリと出ていくような製品)の場合、上の式の安全係数を当てはめると、在庫が大きくなりすぎる傾向がある。その場合は、別の計算式(ここでは省くが)を使ったほうがいい。

(3) 計画手配時の安全在庫について:

上に説明したのは、「不定期・定量発注」で、発注点方式の在庫手配を行う場合の計算方法である。毎月、定期的に行う「定期・不定量発注」方式の場合は、先の期間の需給量を予測して、計画手配を行うことになる。この場合にも安全在庫の考慮は必要だが、上の式を機械的に適用してはいけない(安全在庫がかなり多くなってしまうはずだ)。計画手配を行う品目は、売れ筋商品の場合が普通だし、季節性を伴うケースもあるだろうから、より深刻な在庫過剰を招く。

同様に、MRPなどの計画生産を行っている工場での部品資材在庫にも、適用すべきではない。この問題については、機会があれば、また別に解説することにしよう。

ともあれ、心に留めておいていただきたいのは、上に述べたような考え方は(在庫理論としては初歩に属するが)、どんな業種のどんな品目にも当てはまる汎用的な式だ、という事である。このような方法論を、『マネジメント・テクノロジー』とわたしは呼んでいる。

マネジメント・テクノロジーの領域は、どんな業界の、どんな会社でも共通に当てはまる。いわば協調領域の知識である。あなたの会社が知らなければ、あなたの会社は見えない損をしている。しかし、ライバルも知らないだろう、と思ってはいけない。少なくとも、海外の有力なライバル企業は、よく知って活用していると想像したほうが良い。日本にはまだ、マネジメント・テクノロジーを教える大学は少ない。だが、欧米では確立した分野だし、中国やアジアの優秀な人材は、そうした国々に留学し、現代的な手法を学んで帰ってきているのだ。

我々だって、気合と根性の「竹槍時代」を卒業し、もう少しモダンの時代に飛び込むべきときが来ているはずである。


<関連エントリ>
 (2020-07-20)
  (2020-07-26)


# by Tomoichi_Sato | 2020-08-05 21:12 | サプライチェーン | Comments(0)

欠品を起こさないための在庫手配入門(2)――引当てとストック在庫

前回のつづき:)あなたは新米の営業マンとして、営業所の製品在庫の手配担当を任されている。あなたの担当する製品Xは、平均して1営業日あたり、平均5個の需要がある。そして本社に製品Xの生産依頼をかけると、納入されるのは最長2ヶ月先になる。

さて、製品Xの在庫量は月初に24日分(=120個)あった。加えて、先月のはじめ、すでに18日分(90個)の生産依頼を本社に出していた。それは来月初に入荷するから、累積で24+18=42日分(210個)の供給がある訳だ。でも逆に言うと、42営業日(=2ヶ月と2日、再来月の月初め)後には、欠品が起きる見込みだ。

だからあなたは、再来月中に欠品を起こさないためには、やはりここで、40日分(200個)の生産依頼を出しておこうと考えた。ところが、隣の先輩が、「おい、製品Xの在庫のうち、55個はもう引当てしているからな」と、あなたに言うのだ。

在庫の引当てって、なんだろうか?

前回記事でも説明したとおり、在庫問題を考える際には、「累積需給曲線」を使うと便利だ。これは横軸に日時をとり、縦軸に製品量の日数基準(=数量を1日あたり平均消費量で割った値)をプロットしたグラフである。ここに需要(出荷)の線と、供給(生産)の線を書き入れて、バランスを見ていくのに使う。生産管理分野で使う「流動数曲線」のバリエーションだが、縦軸に日数基準を使うのがポイントだ。

ところで、前回の図では、累積需要線は右肩上がり45度の直線で描いた。これは毎日、製品Xが律儀に5個ずつ売れていくならば、正しい。しかし、現実には、そんな風には売れていかない。個別のお客様から、もっと大きな数量単位で、ときどき注文が入っては出荷していくのだ。だから実際の需要線は、図に描くと階段状になる
欠品を起こさないための在庫手配入門(2)――引当てとストック在庫_e0058447_23250786.jpg
上図の例を見てほしい。ここでは向こう3ヶ月分の需給状態を示している。青が需要で、赤が供給だ。需要の正確な予測は難しいから、当初は計画線として、45度の右上がりの青い点線を引いた。しかし、個別の顧客からの注文と出荷の累積線を描くと、青い実線のような階段状になる。5日後と17日後に、それぞれ10日分を出荷した。ちなみに本日は、25日目であるとしよう。

そして、当然のことだが、受注をうけた日と、実際に出荷する日はイコールではない。お客が八百屋の店頭にやってきて、大根を買って持ち帰るような訳にはいかないのだ。顧客は普通、複数の製品をまとめて引き合ってくる。こちらは、まずは価格を見積もり、さらに該当する製品の在庫状況を調べて、納期を回答する。営業所に在庫がない場合は、近隣の営業所から「横引き」してもらうか、あるいは本社に緊急の生産依頼をかけなければならない。そして価格と納期を回答し、交渉して、ようやく確定注文をもらえるのだ。もちろん欠品を理由にその注文を断るという選択肢もありうるが、それはできる限り避けたい。

図でいうと、本日ある顧客から16日分(80個)の注文を受けたが、出荷予定日は10日後の35日目になる。この80個の在庫品は、もう出荷が予定され、「予約済み」状態になっている。

このように、受注日と出荷日の間には、通常、ある程度の日数の開きがある。言いかえるならば、手元には在庫品として物理的に存在しているが、すでに近い将来出荷用に予約されている。これを在庫の『引当て』と呼ぶのだ。

さて、ここで重要な概念を一つ、理解してほしい。在庫には、『ストック在庫』と『フロー在庫』の二種類があるのだ。ストック在庫とは、文字通り、ストック用途であり、まだいつ消費するか、どこに出荷するかが定まっていないような在庫だ。これに対して、フロー在庫とは、具体的な消費予定が決まっている種類を指す。引当てされた在庫は、フロー在庫の範疇になる。

営業所の製品倉庫の中には、じつは二種類の在庫がある。まだ出荷先の決まっていない「ストック在庫」と、すでに出荷予定に引き当てられている「フロー在庫」である。同じ品目でも、この二種類がある。顧客から新規に注文が入った時、割り当てて良いのは「ストック在庫」の分だけである。これを区分できないような受注管理システムや在庫管理システムは、いささか機能不足と言えよう。

また、たとえば本社から営業所に向かって「輸送中」の在庫(トラックの車上や輸送船上にある在庫)も、同様にフロー在庫である。少なくとも、向かうべき営業所は決まっているからだ。だなお、営業所の倉庫に入った途端に、その物品は「ストック在庫」のカテゴリーに戻るかもしれない。でも輸送中はフロー在庫なのだ。から、車上や船上にある在庫を、ストックだと思って勝手に転用してはいけない。

あなたのケースに戻るならば、先輩が、「55個はもう引当てしている」というのは、すでに受注済みの分として、その55個(=11日分)が近い内に出荷され、在庫から無くなってしまうことを意味している。ということは、24-11=13日分しか、手元にはストック在庫がないのだ。これでは今月中に欠品の可能性がある。ただ、来月の月初に既手配済みの18日分が入るので、一息つくことはできるが。

それで、どうすべきか。いずれにしても、本社への生産依頼は不可避だ。じゃあ、何個を手配するべきか。あなたの選択肢は、2つある。一つは、前回の記事で述べたような考え方、すなわち、発注から納入までのリードタイム=2ヶ月間分の数量(製品Xでは200個)を、まとめて手配するというもの。そして、入荷したら、在庫量を定期的にチェックして、残りの数量が2ヶ月分を切ったら、また2ヶ月分を手配する。

そうなると、納入される直前には、在庫はほぼゼロになる。納入直後は、2ヶ月分=200個になる。だから、営業所における製品Xの平均在庫量は、長期的には、その半分の1ヶ月分=100個になるだろう。

だが、もう一つの考え方もある。あなたは、とにかく毎月のはじめに、製品Xの生産依頼をかけるのだ。その時の数量は、累積需給曲線から予測される、2ヶ月後の基準在庫量からの不足分とする。基準在庫量とは、もちろん月初に1ヶ月分(100個)の在庫があることだ。今のあなたの状況では、2ヶ月(40日後)には在庫ゼロになっている。だから、とにかく1ヶ月分100個を、依頼する。来月も同じように、1ヶ月分を依頼することになるだろう。でももし、たとえば翌月末に5日分でも在庫が残る見込みなら、20-5=15日分の手配で良い。

このようなやり方をすると、長期的に製品Xの平均在庫量は、手配量の半分の0.5ヶ月分=50個になるだろう。

営業所の先輩は、「営業部門には『在庫責任』があり、過剰な在庫量を抱えていると、査定でマイナス点をくらう」と言っていた。だとしたら、平均在庫量は少ないほうが良いはずだ。だとしたら、後者のやり方のほうが良いではないか。

いやいや、ちょっとまてよ。あなたは考える。毎月1回、100個からの不足分を頼むより、毎週手配すればいいではないか。基準在庫量を、1週間分の需要量25個とする。週のはじめに、そこから不足している分を補充するよう、生産依頼する。そうすれば、平均在庫量はその半分の12.5個にまで下がっていくはずだ。ああ、なんと名案なのだろう。

さっそくあなたは先輩に、毎週、生産依頼をかけることにします、と報告すると、
「馬鹿じゃないのかお前は!」
と叱られてしまった。

――えっと、なぜですか?

「鉛筆みたいな文房具を手配するんだったら、そういうやり方も分かる。注文すれば、明日くるからな。だが、ウチの製品は本社に依頼しても納品は2ヶ月後だ。来週のことすらよく分からないのに、なんで基準在庫量を1週間分25個にできるんだ。もしお客から26個以上の注文が来たらどうする? たちまち欠品だろうが」

――あっそうか。そうですね。

「そうですね、じゃないだろが。それに本社工場の立場になってみろ。毎週毎週、うちの営業所から小刻みな生産依頼を受け取ったって、月次生産計画にはどうせ全部の営業所からの依頼を集計して、まとめ生産を考えるんだ。生産ってのは、まとめて作るほうが安くなるからな。」

――そうすると、生産依頼の手配の間隔は、月より短くしても意味ないですね。

「そうだ。生産計画のサイクルが月次である以上、それより短くはできない。無理に短くしたら、工場に対しては、月の半ばで追加変更をかけているのと同じことだから、迷惑なんだ。これが商社みたいに、よそから仕入れた商品を売ってるなら別だがな。」

――でも本社の計画サイクルがもっと短ければ、もっと在庫は減らせますね。

「理屈じゃあ、そうだ。だがな、本社工場からこの営業所まで、トラックの配送にかかる運転手の時給やガソリン代なんかは、製品を1個運ぼうが、トラック満載で運ぼうが、コストはほとんど同じなんだ。だから少量多頻度の配送は、相対的にコスト高になっちまう。」

――じゃあ、どうしたら良いですか。やっぱり、月1回ずつ生産依頼するのが良いでしょうか?

「まあ多くても月1回だろうな。ていうか、そもそも毎月、定期的に需給の傾向を見て、足りなそうな分だけ手配するやり方ってのは、要するにベースになる予測が必要なんだ。そいつは手間がかかる。精度も必要だ。製品Xなんか、わりと一定のペースで売れていく商品だし、季節性もあんまりないから、在庫量があるラインを切ったら発注をかける方式でも、十分じゃないのか?」

(ちなみに在庫管理学の分野では、在庫があるレベルを切ったら一定数量発注手配する方式を、「不定期定量発注」とよぶ。また、定期的に在庫の推移をチェックして、不足分を発注手配する方式を「定期不定量発注」とよぶ約束になっている。前者は、ある意味、受動的・簡易的な手配方式であるのに対して、後者は、能動的・計画的な手配方式である。だがそれゆえ、計画=予測の精度が要求されることを、先輩は先輩は指摘している訳だ。

また、この記事の例でも分かる通り、定期不定量での補充手配を行う場合、発注から納入までのリードタイムよりも短いサイクルで期間を設定すると、手配した品目が入荷する前に、次の手配をかけなければならなくなり、難易度が高いので、注意が必要である)

――そうですね。分かりました。じゃあ、製品Xはとりあえず、2ヶ月分の200個を注文しておきます。それで、再来月以降も、在庫量が200のラインを切ったら手配するようにします。

「いやいや、お前さんまだ分かっていないな。それだけじゃ、足りないんだ、」

(この項続く)


<関連エントリ>
(2020-07-20)



# by Tomoichi_Sato | 2020-07-26 23:39 | サプライチェーン | Comments(1)

欠品を起こさないための在庫手配入門(1)――まず、累積需給曲線を理解しよう

あなたは新米の営業マンである。営業所に配属になって、先輩と一緒に客先まわりをするかたわら、営業所の抱える製品在庫の手配担当になった。具体的には、顧客の注文に応じて「出荷指示」を出し、また足りなくなりそうだったら、補充のために本社に「生産依頼」をかける仕事だ。出荷指示も生産依頼も、コンピュータの販売管理システムから入力する。箱詰めとか荷揃え・入出荷などの手作業は、委託先の物流会社がやってくれる。

あなたの担当する製品Xは、平均して毎月100個の需要がある。週休2日で月20日の営業日と考えると、1日あたり平均5個、売れていく勘定だ。

本社に生産依頼をかけると、納入されるのは2ヶ月先になる。なぜそんなに時間がかかるのか、と疑問に思って、先輩に聞いてみた。先輩の説明によると、各営業所が入力した「生産依頼」は、月締めで本社が集計し、翌月の生産計画に反映する。生産計画も月単位で動くし、本社から営業所への配送も、トラックに複数製品をまとめたりするので日数がいるから、最大2ヶ月のリードタイムがかかるという。

ここで、やさしいクイズを一つだそう。今が月初だとしようか。あなたがコンピュターの端末から調べてみると、営業所の手元には、製品Xの在庫が120個あった。では、あなたが本社に依頼すべき生産数量と、その結果起きる事を考えてみていただきたい。

別に難しく考える必要はない。今、製品Xは120個の在庫がある。月間の需要量は平均100個だ。だから今月は間に合う。しかし、来月になったら早々にも、在庫がなくなって、注文を受けても欠品状態になる。たとえ本社に今日、生産依頼を出しても、それが納入されるのは再来月だ。あなたの営業所は、製品Xについて、来月は欠品のため100-20=80個分を売り損なう、ということになる。

この売り損ない(販売機会損失)を防ぐ方法はあるだろうか? 今からでは、方法はない。だとしたら、せめて次回以降は二度と、こういう欠品の事態がおきないようにするしかないと、あなたは考える。

では、あなたが今日、本社に依頼すべき生産数量はいくつかのか?

生産依頼をかけてから納入されるまでのリードタイムが2ヶ月間、ということは、少なくとも、2 x 100 = 200個分を依頼しなければ、次回以降もまた同じ問題が起きるはずだ。だから、最低でもあなたは200個の生産依頼を出す必要がある。さらに、在庫数量はコンピュータの端末を見れば分かるのだから、あなたは定期的に製品Xの在庫レベルをチェックし、残りが200個を切りそうになったら生産依頼をかけるべきだ、と分かる。

このように、在庫レベルを見て、ある数量を切ったら補充のための手配をかけるやり方を取る場合、その基準となる在庫量(=手配数量)は、発注リードタイムの期間内に消費(=出荷)する数量に等しくなる。

 基準在庫量 = 発注リードタイム期間の需要量

では、あなたの営業所における、この製品Xの在庫量の平均値はいくつになるのだろうか?

この計算も、それほど難しくはない。あなたは製品Xの在庫数量が200個を切ると、生産依頼をかける。その後2ヶ月間で、ちょうど在庫はゼロになる。ゼロになったタイミングで、200個が補充される。つまり、在庫数量は、200個と0個の間を、行ったり来たりするのだ。だから在庫量の平均値は、ちょうどその中間、100個になることが分かる。

こういう在庫量の問題を考える際に、よく「ノコギリ状の線図」が使われる。横軸に日付をとり、縦軸に在庫量を取るグラフだ。在庫から毎日、需要に従い出荷されていくと、在庫量は右下がりのスロープで減っていく。そして補充があると、垂直にぽんと立ち上がる。縦軸は数量を取る場合が多いが、金額で表示するケースもある。

だが、わたしはそのかわりに、『累積需給線図』を使うことをおすすめしている。横軸は日付で、そこは同じだ。しかし、縦軸には毎日の需要量と供給量を取る代わりに、期初からの需要量と供給量の累積値を取るのだ。生産管理の分野では『流動数曲線』と呼ぶことも多い。

また、縦軸には個数や金額ではなく、「日数分」を取ることをおすすめする。日数分というのは、数量を、1日あたりの平均需要量で割った値だ。あなたの製品Xのケースなら、1日平均5個の需要があるから、120個ならば24営業日分、という計算になる。

図を見てほしい。これは、会社全体における、ある製品の需給の状態を示している。青い線は、累積需要曲線を示している(ここでは直線的だが)。毎日、1日分が顧客に出荷されていく。赤い線は累積供給曲線で、こちらは生産計画に従って描く。
欠品を起こさないための在庫手配入門(1)――まず、累積需給曲線を理解しよう_e0058447_20013770.jpg
供給曲線の傾きが、なだらかだったり急だったりするのは、一日あたりの生産量の変化を示している。傾きが急なときは、高速な製造ラインを使っているとか、あるいは複数工場で生産しているなどの事情を表している。また、縦軸に切片があるのは、期初の在庫量を示している。もちろんこのチャートは、工場単位や営業所単位に、個別に作成することもできる。

そして、ある日の時点で、流動数曲線における供給曲線と需要曲線の縦の差は、その日に会社が持っている在庫量を表している。だから、供給曲線は原則として、需要曲線よりも上にあることが望ましい。供給曲線が需要の下に来ていると、その時点で欠品が生じていることを表すからだ。

また、グラフを横方向に見た際に、供給曲線と需要曲線の差は何を表すかというと、「納期余裕」を示すことになる。これがゼロになっていれば、ジャスト・イン・タイムに供給している訳だ。つまり累積需給曲線(流動数曲線)での、縦の差は在庫量を、横の差は納期余裕を示すのだ。だから、結局、

「生産マネジメントの主要な目標の一つは、需要曲線と供給曲線を可能な限り一致させること」

にある、と言ってもいい。ジャスト・イン・タイムで、かつ、在庫も最小である、と。これが、製品のみならず、半製品や部品を含めた、すべての品目について達成できている状態が、一つの理想だ。

在庫量それ自体の表ではなく、累積需給曲線のようなチャート形式に表現することで、あなたは在庫手配について、時間軸をもって考えることができるようになる。さらにいうと、倉庫の中に静かに寝ている「在庫」というイメージではなく、もっと動的な「フローの視点」を得られることが、より重要だ。

ちなみに、縦軸に日数分換算をとるメリットは、2つある:

(1) 需要のブレが少なく一定の場合、需要曲線がちょうど45度の傾きの線になること
(2) 尺度が共通になるため、複数の品目間の比較ができるようになること

もっとも、日数分を計算するためには、個別の品目の平均需要量をおさえる必要がある。これはまあ、製品については取りやすいだろう。必ず出荷(納品)記録があるからだ。だが、工場内の品目となると、きちんと部品倉庫で入出庫を記録していないと、難しい。もちろん、生産量から部品表をつかって逆算(バックフラッシュ)することも可能だが、現場在庫の処理など、やや面倒ではある。


さて。営業所におけるあなたの話に戻ろうか。あなたは製品Xの在庫量が120個あることを確認して、今から本社に生産依頼をかけようとしている。ところで、じつは先月、あなたの先輩がすでに90個、生産依頼をかけていたことを、販売管理システムの端末から、あなたは知ることになった。すると、来月の月初に、90個が補充される訳だ。てことは、来月末の在庫は、いくつになる計算だっけ。

そう。こういうときに、流動数曲線の表示が便利なのである。月初に120個(24日分)ある。来月初に90個(18日分)入るから、累積で210個(=42日分)の供給線だ。営業所の供給線は、階段状になる(毎日工場から製品が供給されるわけではないので)。それに対して、需要線は、45度の右上がりの線になる。来月末(40営業日後)には、まだ2日分の在庫が残っている。しかし、42営業日(=2ヶ月と2日)後に、両者はクロスしてしまう。それは再来月の月初めだ。
欠品を起こさないための在庫手配入門(1)――まず、累積需給曲線を理解しよう_e0058447_20084552.jpg

だからあなたは、再来月中に欠品を起こさないためには、最低でも60-42=18日分(90個)の生産依頼がいるのかな、と考える。もっとも、それではまた来月の頭に手配をかけなければならなくなるから、やはり40日分(200個)を依頼しておくべきかもしれない。

ところが、外出先から隣の席に戻った先輩が、妙なことを言いはじめた。
「おい、製品Xの在庫のうち、55個はもう引当てしているからな」

引当て? 在庫の引当てって、なんだろうか?
(この項続く)


<関連エントリ>
  (2015-01-11)



# by Tomoichi_Sato | 2020-07-20 20:18 | サプライチェーン | Comments(0)

プロジェクトの発想を活性化させる、『チームの思考能力』とは何か?

「あなたは、同期30人の集まるパーティの幹事になりました。
 あなたが最初にすべきことは何ですか?」

以前も書いたが、これは、わたしがプロジェクト・マネジメントを学生や社会人に教えるときに、最初に出すクイズの一つである(「Structured Approachができる人、できない人」)。「店を探して予約する」「日取りを決める」「参加者を確定する」、等々、いろんな答えが考えうるし、どれも間違いとは言えない。しかし、わたしがあえてPM講義の最初にこの問いを出すのは、「計画を立てる」という、もう一段抽象度の高い答えが欲しいからだ。

時限的で一過性の取り組み、それも複数の人が関わって、失敗のリスクも伴うような事に取り組む際は、「まず計画を立てる」という思考習慣がほしい。言われなくても、当たり前のことである。そう思う人も多いだろう。ただ、その『当たり前』が、ちゃんと意識され言語化されていてほしいのだ。

ちなみに上記の記事を書いたのは、8年前の2012年7月だ。この年、わたしは東大大学院の柏キャンパスで、毎週金曜日の午後に「プロジェクト・マネジメント特論」の講義を持つようになった。東大PM講義の資料をもとに、2015年には著書『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』を上梓した。もっとも、大学の講義同様では面白くないので、製造業の若手エンジニアを主人公にした、ストーリー仕立ての対話編である(わたしが本を書くときは、なぜか対話篇が多くなる)。

東大柏キャンパスの講義は、今年からは同じ勤務先の後輩に譲ることにした。とても楽しい仕事で好きだったのだが、移動も含め毎週、半日を割くことが、次第にきつくなってきたのである。ただ、同じ東大の本郷キャンパスでの講義は、まだ引き受け続けている。こちらも10年くらいやっているが、年2コマのみなので、時間的にはずっと楽である。幸い評判も良いらしく、複数講師の交代する形式だが、毎年、継続のリクエストを頂いている。

ところで今期は、パンデミック禍の影響で、どこの大学もオンライン授業形式になっている。だから先週の東大本郷の講義も、横浜の自宅からzoomで行った(東大はzoomが標準らしい)。わたしは授業を極力、インタラクティブにやりたい人間なので、ずいぶん勝手が違ったが、まあそこは仕方がない。

プロジェクト・マネジメントの入門編を教える場合、まずは「アクティビティ」の概念と、WBSについて理解して貰う必要がある(無論、ここでいっているWBSとは、プロジェクト・スコープの階層的構成の意味であり、世間で誤解しているようなガントチャートのことではない)。

これを教えるため、上記の同期会パーティの質問に加えて、わたしは次のような簡単なグループ演習を出すことにしている。

「あなたは同期30人の集まるパーティの幹事になりました。企画のはじめから、パーティを終えるまで、やらなければならない作業(アクティビティ)をすべて洗い出してください。
 ただしアクティビティは、1枚のカードに1つずつ、必ず動詞を使って書くこと。」

こういって、いつもは学生たちを二人一組に分け、それぞれの組にPost-It!の付箋カードを、20枚ずつ配って考えさせている。もちろんパーティについては、予算その他、もう少し条件をつけて説明し、イメージが湧きやすいようにしてある。こうすると、一気に教室の中が活性化し、隣同士でああでもないこうでもないと、議論雑談が始まるようになる。

わたしは教室の中を巡回して、課題がちゃんと理解されているかどうかをチェックし、進んでいない班には相談に乗ったりして、授業を進めることにしている。パーティの幹事とは、いいかえればプロジェクト・マネージャーである。プロマネがプロジェクトを始めるにあたり、計画の第1ステップとして、やるべきアクティビティを洗い出してリストアップする。これを体験してもらうのが、この演習の狙いだ。

ところが今回はオンライン形式だったので、やむなくzoomのブレークアウトセッション機能を使って、二人一組に分けて、考えてもらうことにした。Post-Itは配れないので、Excelの表を共有してもらい、そこに書き出すやり方である。

簡単な、ある意味で他愛もない演習だが、学生たちの頭がブーンと回りだす音が聞こえる。ここが楽しいところだ。なぜなら、事を始めるにあたって、最初にやるべきアクティビティ(作業)を、全部洗い出してリストアップする、という行為自体を、たいていやったことがないからだ。

全アクティビティの洗い出しというのは、プロジェクトの最初から最後までを、頭の中でシミュレーションすることに他ならない。パーティ程度なら身近だから、想像力さえ惜しまなければ、別に有名大学の学生でなくたって、ちゃんとできる。逆に東大生だって、考えなければ、答えは出てこない。この問題は正解のない、暗記型では解けない問題だからだ。

この演習をやっていると、開始して10分をすぎる頃から、議論の声で騒がしかった教室の中が、しだいに静かになってくる。だんだんと、洗い出すべきアクティビティの種が尽きてくるのだ。アクティビティの数も、足りなければカードを追加で配る、と宣言してるが、20を超えることはめったにない。これはどこの大学だろうが、あるいは社会人だろうが、あまり変わらない。わたし達の頭の作りは、だいたい似たようなものなのだろう。

そこで、12〜15分たった時点で演習を打ち切りにし、どこかの班を指名して、出した答えを言ってもらう。カードに書き出したアクティビティを、順不同でいいので、はしから読み上げてもらうのだ。他の班は、それを聴きながら、自分たちの出した答えと、どこが一致して、どこが違うかを考えてもらう。聞いているうちに、「え、それがあったか!」という顔が、あちこちに浮かんでくる。

たとえば「店を予約する」とか「参加者数を確定する」とかは、どの班でも書いている。しかし「部屋の飾りつけの調達をする」とか「司会プログラムを作成する」とか「二次会を予約する」とかは、まちまちだ(別に必須ではないから、ないと間違いだとはいえない)。

そして、「参加費を集める」はあっても、「終わってから会計報告をする」は忘れる班が多い。だが30人の集まるパーティともなれば、費用は10万円をかるく超えるだろう。だとしたら、会計報告はしたほうが良いよ、と学生には教える。

時間があるときは、もう一班くらいに、答えを言ってもらう。案外違っているものだし、それでいいのだ。その違いを体験してもらうことが、もう一つの狙いだからだ。

わたし達が頭の中でプロジェクトをシミュレーションするとき、その想像は個人個人の見方、観点によって、かなり固定されてしまう。だから、二人一組で演習するのである。二人で話し合うと、自分の盲点や死角になっていた部分を、相方が気づくことがある。

でも、二人で考えても、まだ視点は固定されがちで、見えていない。それは3人目、4人目がいて、やっと気づくことだったりする。それが、チームの力なのだ。複数の人間で、異なる視点から、対象となる問題を分析して、総合的に考える。一緒に考える能力を持つことーーそれがチームの能力なのである。

チームワークというと、スポーツで、ポジションを決めてパスを回したり、スクラムを組んで一緒に押したりすることを思いがちだ。それはそれで大事である。しかし、複数の人間が同じ問題を、多面的・総合的に考える、というのも、チームの効果だ。このときは、各自の分担や持ち分を超えて、互いに対等に発想できることが大事になる。「複合的な知の創出」だとか「グループによるデザイン思考」、などとカッコつけてよんでもいいし、三人寄れば文殊の知恵、という古い諺を出しても良い。

下の図は、以前「どうどう巡りの議論を避けるために」に描いたものの再掲である。ディスカッションでは、視点が限られているため、ある時間を超えるとだんだん煮詰まっていってしまう。しかし、そこに新しい視点が加わると、また一段レベルがあがるケースが多い。
プロジェクトの発想を活性化させる、『チームの思考能力』とは何か?_e0058447_15253563.jpg
このように、東大生が一人でウンウン考えるよりも、普通の人間が数人寄り集まって、あれこれ議論し合うほうが、こうした想像力の部分では、まさることが多いのだ。このことは、暗記上手で、正解をすばやく手繰り寄せるタイプの受験教育を受けてきた学生には、ちゃんと理解して貰う必要がある。もっとも、直接対面している方が、 オンラインより創発効果は高いが、それでも意義は実感できるだろう。

逆に言うと、プロマネは、自分のプロジェクト・チームが、お互いにフランクに議論して、「知の創出」が闊達に起きやすいよう、組織をマネージしていく必要がある、ということだ。

そしてこれが、とても難しい。たいていの会社組織は、ピラミッド型の構造になっている。上司部下・先輩後輩の関係があり、能力もこの順に高いはずだ、ということになっている。予算や人事評価の仕組みも、その構造の中に組み込まれている。上司一人と部下数名でプロジェクト・チームを組んだ時、その中で、対等に議論できるのか?

わたし達の社会で、チームが知的生産性において十分機能しにくい理由は、チーム内のディスカッションがちゃんとできないからだ。理由は3つほど考えられる:

(1) 権威の存在

上司先輩は、仕事の能力・経験において上である、という建前がある。事実かどうかは別として、彼らは仕事上の意見において、より大きな権威をもっている。意見が異なる場合、権威を持つ側の発言力のほうが強い。賢い上司は、自分の意見は言わずに、部下や若手の発言を待つものだが、(わたし自身を含めて)さほど賢くない上司は、部下の話を遮って、自分の意見を先に出したりする。そうすると、その時点で新しい視点や発想も、打ち止めになってしまう。

(2) 権力者への忖度

上司自身ももちろん、権力を持っている。もっとも、プロジェクト・チームの場合は、複数部門からのメンバーがいて、直属の上司部下関係とは限らない。だが、たとえばプロマネより、もさらに上級のマネージャー(部長や役員など)が、プロジェクト・スポンサーとして影響力を持っていることも多い。この場合、当然ながらチーム員は、その意志を「忖度」して物事を決めやすい。「自分たちとしては、この方式が良いと思う。でも役員は、あの方式を望んでいるんだろうなあ」という具合である。このような場合、判断の結果に自分たちのオーナーシップ(当事者意識)を持ちにくいから、問題が表出すると挫折しがちになる。

(3) 批判・質問を嫌う態度

ワイガヤ的議論では、「なぜ?」「誰が?」「どうやって?」といった質問を投げかけることで、さらに発想をかきたてることが大切だ。だが、他人から質問されると、まるで批判されたかのように反応する人も、案外多い。質問の仕方にも上手下手があるのは事実だが、質問を封じられたり自粛したりしていたら、そこで新しいアイデアの種は芽を出さずに終わってしまう。

ことに(3)番目の問題は根が深い。わたしは授業だとかワークショップだとかをいろいろやってきたが、多くの場合、最後に「ご質問はありますか?」とたずねても、海外と違い、日本ではほとんど挙手して質問する人がでないのが普通だ。だから、本当に相手が理解してくれたのか、講演する側が逆に不安になる。それは、質問=批判である、という通念が邪魔するのかもしれない。ただし日本でも、メールや紙で質問を出させると、それなりに出てきたりする。質問を活性化させるには、一種の「心理的安全性」が必要なのだろう。

かつてオズボーンが「ブレーン・ストーミング」技法を案出した際には、「他人のアイデアを批判しない」をルールにした。しかし質問までは禁じていない。質問=批判を嫌う態度は、「俺の言うことが聞けない(伝わらない)のか?」というスタンスである。逆に言うと、「このアイデアの所有権は俺自身だから、意見への質問・批判は俺に対する批判になる」と考えている訳だ。

こうした態度は、プロジェクトを個人やグループ単位に細分化して分業させ、その間で互いに競わせるような競争原理型の組織で、強まりがちだ。アイデアの発案者=アイデアの権利者、という考えでいる限り、「良いアイデアは組み合わせで生じる」「生まれたアイデアはチーム全体のパフォーマンスを上げるための、共有財産」との思想には、たどり着けない。分業・競争型組織は、繰り返し型オペレーションでは効率的かもしれないが、プロジェクトの計画・設計段階ではクリエーティブになりにくいのである。

それでも、天才的なリーダーがプロジェクトを率いて、彼が一から十まで全てを完璧に計画すれば、仕事はうまくいくはずだ、というのが英米式の思想なのかもしれない。PMBOK Guideなどをよんでいると、紙面の背後にそういった考えを、うっすらと感じるときがある。わたし達の社会も英米型に影響されやすいので、「天才型リーダー」を嘱望する声は高い。

ただ、社会がそんなに大勢の天才を供給できないのも、事実である。東大生は天才的に頭がいい、と思っている人も世の中には多少いるかも知れないが、本人たちに「貴方は天才ですか?」と聞いてみれば分かる通り、そんなのはまるきり見当違いである(笑)。無論、稀には本当に頭のいい人もいたりはするが、そうした人の社会適合性が高いかといえば、また別だ。

わたし達は基本的に、個人個人ではそんなに頭の良くない存在なのである。視点も限られていて、記憶力も頼りなく、判断ミスもする。それでもチームとしてなら、もっと高い思考能力を持つことができる。もし良い成果を出したければ、誰かリーダー個人に頼るのではなく、組織レベルで「知的生産能力」を確保するしかない。そのためにはチームが、対等で率直な議論=ディスカッションの場になるよう、工夫していく必要があるのだ。

<関連エントリ>


# by Tomoichi_Sato | 2020-07-11 15:45 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

お知らせ:次世代スマート工場に関するオンラインセミナーを再度開催します(7月14日10:30〜)

先月の23日に開催したオンラインセミナー:
日揮の考える《次世代スマート工場》とは ~どう動くのか、どう作るのか~
は、おかげさまで大勢の方から参加申し込みをいただき、すぐ定員100名に達しました。

そこで、参加できなかった方のために、下記の要領で7月14日(火)10時30分から、アンコール開催をいたします。もちろん前回同様、無償です。

1時間枠で、最初にわたしが40分ほど講演し、その後20分ほどQ&Aをオンラインで行うという形式で行います。講演内容は前回と同じですが、後半のQ&Aはもちろん、その場で頂いたご質問にできる限りお答えする形式です。

前回も書きましたが、『次世代』スマート工場とつけたのは、現在あちこちで語られている「スマート工場」と、少し区別したいからです。その多くは、現場の機械やセンサーからデータを取得し、蓄積・分析して、故障予知や生産性カイゼンに活かす取り組みだと想像します。

ただ、それだけでは、デジタル技術やIoTの使い方として、非常に勿体ない。こうした新しい技術は、日本の工場の在り方を根底から変えるインパクトを秘めているはずです。工場全体が「インテグラルな(統合された)システムとして設計され、スマートに操業される」存在にかわる可能性がある。それを称して、「次世代スマート工場」とよんでいます。

そして、この話を理解していただくためには、どうしてもシステム工学的な視点=システムズ・アプローチを持っていただく必要があります。今回のオンラインセミナーでは、人と、機械と、モノと、建築と、データとからなる、実体を持つシステム=工場に関する、システム工学的なアプローチについて、まずご説明します。デジタル技術に興味を持つ技術者で、製造業の仕事に関わる方ならば、どんな職種・ご専門でも、興味を持って聞いていただけると思います。

オンラインセミナーは前回、初めて実施してみましたが、その場にいなくても、多くの方と直接やり取りができるのがオンライン形式の良い点だと、実感しました。また、沢山の良い質問を頂戴しました。たとえば、

・ディスクリート系の工場は製造能力の把握が困難だが、方法はあるか
・現場責任者が工場ダッシュボードを見て判断する仕組みと、中央がガイダンスを下す仕組みの優劣
・ディスクリート系とプロセス系の中間に位置する生産方式の工場の特性とは
・工場全体のスマート化は必要と思うが、予算がかかると上の了解がとれないジレンマの解決法は
・生産効率と「人が働きたくなる工場」の間には,密接な関係があるか

などなど。中には答えの難しい問いもありましたが、また皆さんと一緒に考えられればと思っています。


<記>

日揮の考える《次世代スマート工場》とは  ~どう動くのか、どう作るのか〜

日時: 2020年7月14日(火) 10:30~11:30 (講演40分+質疑応答20分)
主催: 日揮ホールディングス(株) IT Grand Plan 2030事務局

講師: 佐藤知一
    日揮ホールディングス(株)チーフエンジニア(ビジネス・アナリスト)

講演概要:
「スマート工場」の概念は、IoT技術の進展やドイツIndustry 4.0などの動きとともに、世界的に注目を浴びています。しかし日本国内の取組みの多くは、単純なデータ収集・可視化に留まり、工場全体のスマート化につながらないように見受けられます。本講演ではまず、一般的な組立加工系の工場に生じやすい問題を、システム工学の観点から分析します。その上で、工場全体の知能化のために必要な『中央管制システム』の概念を紹介し、これからの新しい工場づくりのあり方を論じます。

参加費: 無料(事前登録制)
申込み: 下記をご参照ください

※ご登録後、ウェビナー参加に関する確認メールが届きます。
※今回も定員100名となっております。もし定員を超えた場合は、別途ご連絡させていただきます。

以上、よろしくお願いします。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


<関連エントリ>
 → 
(2017-09-04)


# by Tomoichi_Sato | 2020-07-06 21:01 | 工場計画論 | Comments(2)

パンデミック後の『ニュー・ノーマル』の姿を考える

りんごが木から落ちるのを見て、ニュートンは万有引力の法則を思いついた、という有名な逸話がある。17世紀中盤のことだ。ところで、ケンブリッジ大学の多忙な研究者だったはずのアイザック・ニュートンは、なぜ、のんびりと林檎の木の下なんかで、寝転がっていたのか? (寝転がっていたというのは、もしかしたらわたしの誤解なのかもしれないが、でもなぜ彼は、田園地帯でブラブラしていたのか?)

答えは、「疫病のため、都市のロックダウンが行われ、ケンブリッジ大学も封鎖されていたから」である。当時、恐ろしい疫病ペストがロンドンを始め英国の各都市をおそい、ニュートンも1年半にわたって故郷の田舎に帰っていたのだ。

ペスト(黒死病)は、中世末期から何度かにわたって欧州に蔓延し、ヨーロッパの人口の1/4以上が亡くなるほどの恐ろしい病気だった。農民反乱が頻発して、封建領主は農奴への負担を軽減し、また貨幣地代への移行も進んで、ヨーロッパ荘園経済は衰微する。他方、宗教と学問の権威は失墜する。ペストの大流行は、中世社会の秩序を崩すきっかけとなるほど、インパクトある出来事であった。

西洋社会は、これまでの歴史上、パンデミックを何度も経験してきた。彼らにとって都市封鎖は、決して今回が初めての体験ではない。そしてパンデミック現象は、すでに限度に近づいている社会制度の歪みを、あぶり出し、突き崩すものだということを、彼らは経験的に知っている。世界規模での疫病の流行は、社会に不可逆的な変化をもたらす可能性が高い。それが、西洋人の基本的な認識なのだ。

“New normal”という言葉は、3月頃から欧州のメディアに登場するようになった。今回のCovid-19によるパンデミック禍の後に来る、新しい社会秩序である。今の疫病が去った後も、社会は、決して元と同じ状態には戻らない。それを、『ニュー・ノーマル』と呼ぶ。ニュー・ノーマルの語は、2008年の世界金融危機(リーマンショック)後にも使われたが、今回はより真剣な形で、多くの人が論じている。

たとえば、10年前から感染症の危険について警告を発してきた、ビル・ゲイツ。ちなみに彼の財団は、米国についで2番目に多くWHOに資金を拠出している。中国寄りと批判されたWHOだが、誰の影響が強いか、話はそう単純ではない。

あるいは、自分自身もCovid-19に感染して入院し、ICUまで行った英国のボリス・ジョンソン首相。彼はSocial distancingが今後の常態になり、学校再開も以前の形では行えないとする。

(余談だが、英語で"social distance”という時のソーシャルとは、「社交上の」「人と人の間の」という意味だ。これを「社会的な」距離、と訳してしまうと誤解する。西洋人や中東人は、握手し合ったり、体を接して頬を寄せ合ったりする、接触的な挨拶が習慣だ。だから、他人と1.5m以上の距離を取れ、などと言われると、ひどく面食らった気分になるだろう。知り合いのフランス人は、「わたし達はお互いに、まるで日本人みたいに挨拶するようになった」とジョークを言っていた)

そしてもう一人、イアン・ブレマー氏の「ニュー・ノーマル」論も紹介しておこう。彼はビル・ゲイツやジョンソン首相ほど有名ではないが、地政学リスク専門のコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」の社長で、毎年「世界の10大リスク」を発表してきた人だ。彼は3つの潮流を予想している(日本経済新聞4月16日朝刊)。

1. 脱グローバル化:グローバル企業は「ジャストインタイム」方式のサプライチェーンを世界中に構築してきたが、生産拠点を国内に戻すなど再構築を迫られている。
(彼は最近、これを"Great decoupling"とよんでいる。ちなみにDecouplingとは、在庫によってサプライチェーンを機能分割することであるが、日本の経済メディアはSCM用語をよく知らないらしく、「分断」と訳している)

2. ナショナリズム:今回の危機に各国はバラバラに対応しており、協調性の欠如は世界の新秩序の特徴になる。また貧困層が打撃を受け、社会には極端な意見が飛び交うようになる。

3. 中国の台頭:経済大国や技術大国としてだけでなく、今回のコロナ危機を機会に政治超大国として「ソフトパワー」を高めている。

まあ、こうした御託宣を信じるかどうかは、読者次第である。ただ、ロックダウン解除後も、「社会は元の状態に決して戻らない」と予測する西洋人が多いことは、頭に入れておいたほうが良い。

とくに、いつ封鎖が解除されるかに加えて、どのように解禁するのか、の方が重要である。というのも、ワクチンや有効な治療方法が現れるまで、我々の社会は、見えないウィルスとの危険な共存を強いられるからだ。おそらく、1〜2年程度は、「だまし運転」のように社会をソロソロと動かしていかなければならない。うっかりアクセルを吹かすと、また感染流行の再燃になる。これが不可逆的な社会変化になる理由である。

たとえば日本でもこの3ヶ月間、少なからぬ職場で、在宅勤務・テレワークを導入すべく、四苦八苦してきた。そして今回の事態が、我々に対しすでに明らかにした事が一つある。それは、「直接業務」と「間接業務」の区別である。

直接業務とは、対人・対物的な付加価値を生む仕事である。それは、製造・物流・建設・医療介護・農業など、現場のある業務だ。こうした仕事は原則的に、テレワーク不可能である。

これに対して、テレワーク可能なのは間接業務である。それは、情報のやり取り(文字・データ・視聴覚)だけで済む種類の業務であり、たとえば、販売・購買、設計、マネジメント、教育、などだ。ちなみに、わたしの職場も4〜5月は全面的に在宅勤務に入ったが、それはエンジニアリング会社のホームオフィス業務が、ほぼ情報処理的な間接業務であることを示している。

緊急事態宣言が開けて、今後、また出社勤務が増えるが、多くの職場ではテレワークも当分、併用され続けるだろう。その結果、仕事の中から情報処理機能だけを、切り出す動きが加速するに違いない。会議も、テーマと人数を絞った、短いものが望まれるようになる。Web会議は1時間を超えるとけっこう疲れるし、参加者が30人以上になると、司会進行や発言権の譲り合いが難しくなるからだ。

もちろん対面コミュニケーションと感情のやり取りは、仕事の上でも重要だ。だが、その一部(週1回の顔合わせ等)は切り捨てられるだろう。ハンコ文化は衰退し、ワークフロー承認に変わる。

テレワークでは、集中して行う知的仕事や処理作業は、むしろ能率が上がると言われている。ただ、それは在宅勤務に適した環境を持てる、恵まれた場合の話だ。小さな子供がいたり、家に自分のPCがなかったりすると、いや、そもそも机がないとか、逆に家族の間でPCが取り合いになったりするケースでは、落ち着いて在宅勤務などできたものではあるまい。

実際、Unipos社の調査では、「チームの生産性はテレワーク開始前と比較してどのように変化したか」と質問したところ、「とても低くなった」「やや低くなった」と回答した人の割合は合計44.6%となり、「とても高くなった」「やや高くなった」と回答した合計の7.6%を大きく上回っている、との結果が出ているという。

しかし、先日参加した欧州主催の石油ガス業界におけるWebカンファレンスでは、大手企業の元CDOが、「今回のパンデミック禍によって、業界は図らずも大規模なテレワークにシフトせざるを得なかったが、その結果かなり生産性が上がった」と、キーノート・スピーチで発表していて、彼我の違いにあらためて驚いた。

結局、多くの人が指摘するように、わたし達の社会では、そもそもテレワーク向きな形に、業務が設計されていない。職場のアドホックな対話で、すり合わせ的に仕事が進められる。職務範囲を示すJob description(職務記述書)もないし、仕事の公式な手順を示すStandard Procedure(業務要領書)もない。何がインプットで、どういうツールやリソースを使い、何をアウトプットすべきか、すべて「臨機応変」と「暗黙知」と「俺の背中を読め」の中で、できあがっている。業務評定は「結果が全てだ」といいながら、労働時間(拘束時間)と態度(やる気)が最低条件になっている。

しかしこれからのニュー・ノーマルの時代では、間接業務は、勤務時間ではなく、細かな作業指示(Ticket)ごとに、スキル(能力)とパフォーマンス(成果)で管理・評価していくように、変わらざるを得ないだろう。そのためには、業務知識・手順の文書化やビデオ化が、必須になるはずである。結果として、ホワイトカラー業務のJob description化が行われる。そして、ネットを通じた短期契約、いわゆるギグ・エコノミーも広がって、人材流動化も進むだろう。それはある意味、アメリカ・中国型の社会に近づく、といってもいい。

ただし、直接業務が回らなければ、製造業も建設業も物流業も、お金を稼げない。ニュー・ノーマルの状況下では、従来よりも直接業務の側(現場側)の発言力が、間接部門(本社側)に比べて増すであろう。なぜなら、危険をかけて現場仕事をする人々の希少性が、高まるからだ。直近は失業の影響で労務費が下がるだろうが、中期的にはむしろ上がると思われる。

テレワーク普及とともに、通勤の移動量も激減する(東京圏では一時、7割台に減った)。また地方間の移動も抑制されるので、鉄道需要・航空機需要の減少が起きる。

しかし、より大きな視点で見ると、従来のトレンドだった、グローバル化、都市集中、経済のサービス化、資源浪費型の産業といった、社会構造自体の見直しが迫られるはずである。それは、今回の事態が以下のような課題を突きつけたからだ:

* 都市封鎖とグローバル・サプライチェーンの分断、
* 実物経済(供給・在庫)の重要性、
* BCP(事業継続計画)の実装、
* 医療・保険など社会的セーフティネットの役割、
* 食料・エネルギー資源の海外依存の危険性

その結果、よりレジリエンシー(復元力)の強い、分散型の産業・社会構造への変化が加速するだろう。こういう予測は、とくに欧州で多い。彼らの好きな言葉で言うと、サステイナブルな経済への移行を意味する。また、ベーシックインカム制度などの試行も始まるだろう。

もっとも、極東のわたし達の社会では、全く別の議論も耳にする。それは、「早くもとに戻って欲しい」「身をすくめて台風一過を待つ」という態度だ。今回のパンデミック禍により、旅行・観光業をはじめ、多くの業種が痛手を被った。とくにその被害は中小企業や独立事業主に著しいが、そうした人々に対して、いわゆる経済団体が、具体的になにか助けの手を緊急に差し伸べた、という話も聞かない。この国では、DGPにも匹敵する500兆円近い内部留保を、大企業が抱えているにも関わらず、である。

サプライチェーンに関しても、中国リスクが顕在化したから、チャイナ・プラス・ワンの東南アジアや、欧米3極体制の強化、という方向に考えが向くらしい。上にあげたイアン・ブレマーは、「ジャスト・イン・タイムからジャスト・イン・ケース(=万が一)へのシフト」と、うまい表現をしていたが、日本ではリーンな調達をやめて、部品在庫を積み上げたという話も、ほとんど聞かない。サステイナブルどころか、SDGsもパリ協定も、コロナ不況で当然棚上げだ、という論法もきく。

このような考え方の違いは、どこから来るのだろうか。

疫病というのは、個人で防ぎようのない外部環境の変化である。こうしたリスク事象に対応する戦略には、回避・転嫁・軽減・受容の4つあると、PMBOK Guide(R)やリスク・マネジメントの教科書は説く。このうち、軽減戦略は、ワクチンや治療薬の開発だから、これは年単位の時間がかかる。もちろん受容戦略(=何もしない)など、誰だってとりたくない。すなわち、転嫁戦略か、回避戦略を選ぶことになる。

転嫁戦略とは、すなわち社会的に保険をかけることを意味する。保険とは、多数の人間が少しずつ保険料を負担して、被害にあった人を助ける費用を用意する、という仕組みだ。いいかえると、共有によるリスク分散である。医療・保険制度は、その典型だ。もっと分かりやすく言うと、支え合いである。

これに対して回避戦略とは、極力、リスク発生を避けるために、自分の行動に制限をかける方策だ。すなわち、ロックダウンであり、外出時は三密を避けることであり、巣ごもりで自分を守る(その間は貯金をおろして食いつなぐ)、を意味する。つまり、自助努力・自己責任の論理だ。

そして世界中の国が、このどちらの方策もとってきた。問題は、どちらに軸足を置くかだ。たとえば、ロックダウン解除後の生活で、お金(経済=賃金)をとるか、安全をとるか。その選択と責任は、転嫁戦略では社会全体がカバーすることになる。回避戦略では、個人の側にヘッジされる。

たとえばイタリアの場合、EUから財政赤字と巨額累積債務の削減を迫られ、医療費がカットされた。公的病院は統廃合され、病床数は減少、医療従事者の早期退職と給与削減を進めた。結果として医師は民間病院や海外に流出し、医師不足を引き起こしたと言われる。医療制度という社会的な保険のシステムを、やせ細らせた結果が、今回の疫病流行だった(もちろん、それ以外の要因もあるだろうが)。

アメリカなどは、州によって(ないし州知事の所属政党によって)対応方策はかなり分断されている。そして世界には、回避戦略どころか、そもそもこの問題の所在を認めない国もある。そうした国では、疫病は基本的に個人責任である。疫病だって、個人が強い意志を持てはコントロールできるはず、というのがその背後にある論理だ。

結局、環境原因によるパフォーマンス低下は、100%本人の責任なのか、それとも一部を社会が背負うべきなのか。これが、現在突きつけられている問なのである。そして、答え方によって、ニュー・ノーマルの将来の姿が異なってくる。

ただ、社会の95%を解決しても、5%が未解決で残ったら「失敗」なのが、感染症の問題だ。そういう意味では、たとえ強い個人が大多数でも、社会に少数の弱者がいたら、封じ込めは難しい。シンガポールの場合、当初の対応は称賛されたが、のちに外国人労働者の低劣な環境から、感染症が外に広がってしまった。つまり社会の中に、極端な格差が共存すると、問題が発生するのだ。同じように、たとえ日本や先進諸国が感染症問題を解決しても、アジア・太平洋やアフリカのどこかに感染国が残ったら、やはり失敗なのである。

欧州中世末期のペストの流行は、パリなど都市の下水道整備のきっかけとなった。社会全体で、対策のシステムを共有した訳である。しかし英国ではこれが遅れて、19世紀まで下水道が整備されなかった。ニュートンが疫病流行で故郷に帰っていた背景には、そうした違いもあったのだ。社会レベルでリスク対策のシステムを考えるべしというのが、パンデミック後のニュー・ノーマルの姿なのだろう。


<関連エントリ>


# by Tomoichi_Sato | 2020-06-30 23:36 | ビジネス | Comments(0)

IT、プライド、プロフェッショナル 〜 人間不在のデジタル論議

Tさん、メールどうもありがとうございます。久しぶりですが、お元気そうで何よりです。
あの奇妙な「半強制的自粛」の数ヶ月間も、ずっと職場で忙しくされていたと伺い、少し驚いています。たしかに現場を持っておられる立場ですから、やむを得ないとはいえ、まことにご苦労様です。

ところで今回、突然、新任の上役からTさんに降ってきた「DX化」の指示の事を伺い、失礼ながら思わず、昔読んだDilbertのマンガを思い出してしまいました。「Dilbert」とは、ハイテク企業のバカバカしさを風刺した、米国の新聞連載マンガです。

その中で、ずっと部長の秘書をしていた女の子(たしかティナとかいう名前でした)が、秘書業という仕事の報われなさに嫌気が差して、エンジニアに職種転換を希望しようとします。しかし、同じ職場のアリスという女性エンジニアが、忠告して言うのです。
「エンジニアになるには、何年もの訓練がいるのよ。」

そして、付け加えます。
「でも、エンジニアのボスになるには、何の訓練もいらないわ。それって、労力のいらない労働なの。」
これを聞いてティナも答えます。
「だったら、わたしにもできそうね。」

エンジニアに、ただ指示や命令を下し、また結果を論評して業績評価をするだけなら、何の訓練もいらない。また、訓練なしに、エンジニアのボスになっている人間が、あまりに多い。そういう状況を、作者のScott Adamsは皮肉っています。

もちろん、本当にちゃんとエンジニアを指揮したかったら、少なくともその仕事の概形について、また難所やトラップについて、熟知している必要があります。また仕事を頼んだ際に、そのコスト感や必要なスケジュールの感覚を持っていなければ、まともな指揮ができる訳はありません。

それはちょうど、オーケストラの指揮者と同じです。指揮者は、別にヴァイオリンやファゴットやティンパニなど、全部の楽器を演奏できる必要はありません。でも、譜面からまともな音を作るための構想を持ち、ほしいアウトプットについて、各演奏者に的確に伝える能力が必要です。演奏のどこが難しいのか、足を引っ張りがちなのはどのパートなのか、分かっていなければなりません。もちろん、指揮者になるには、楽器演奏とは別の、専門的な訓練が必要です。たんに棒だけふればいい、という訳ではないのです。

それにしても、DXですか。IT業界という世界は、どうして繰り返し、バズワードの流行を追いかけて回っていくのでしょうか? DXすなわちDigital Transformationという用語に、正確な定義があるかどうか知りませんが、少なくともそれは、ビジネスの転換(すなわちBusiness transformation)のための手段であったはずです。それが、いつの間に目的に昇格してしまったのでしょう。

まあ、手段が目的化するのは、人間社会の常だといえなくはありません。プロジェクトなんてのも、多分にその性質を持っていて、わたしも身の回りでよく見かけますし、自分も苦しくなるとそういう病に落ち込んだ経験があります。なんとか青息吐息、プロジェクトを完遂した。しかし出来上がったプロダクトは、ユーザがちっとも使ってくれなかった。大声では言えないですが、そういう事だって一度だけではありません。

ただ今回、Tさんが受けたご指示のように、「ITのプラットフォームを作れ、プラットフォーマーになれ」という話となると、あらためて「それは目的ですか、それとも手段ですか?」と問い直してみる方が良さそうです。DXの物語は、なぜかプラットフォーム化とワンセットに語られることが多いようです。が、企業や市場の規模の大小も無視して、誰もが目指すべきことでしょうか。

iPhoneのアプリ市場は、Appleがプラットフォーマーですが、個別のアプリを売っているプレイヤーだって、それなりに利益を上げ、成長している所も多いのです。プラットフォーマーになるか、プレイヤーの立場を取るか。必要な先行投資額も違いますし、リスクも収益モデルも違います。結果さえ出れば、別にライバル企業のプラットフォーム上で、プレイヤーとして活躍するのでも、良さそうに思えます。まずは落ち着いて、戦略的選択をするべきじゃないでしょうか。

AI活用の話も同様です。ITには素人だという、その新任の役員の方が、AI=人工知能なるものを、どう理解されているのかは分かりません。ただ現時点のAIというのは、要するに機械学習です。機械学習がちゃんと働くめには、相当量の「教師データ」が必要です。ところで、たいていの職場で障害になるのは、「データがない」という問題です。

データがない? そんなバカな! この会社な何十年、業界で稼いできたと思っているんだ。過去のデータなんていくらでもあるじゃないか。第一、そうでなけりゃ、毎回の見積だって出せやしない・・そんな声が聞こえてきそうです。

しかし、大抵の人が「ウチには沢山あるはずだ」と思っているのは、『情報』であって、『データ』ではないのです。こんな事をいまさら、Tさんに申し上げる必要はないと思いますが、世の中の多くの人は、データと情報の違いを知らないし、混同して使っています。

情報とは、「人間にとって意味をもたらすもの」です。
これに対し、データとは、「数字や文字の形式化・定型化された並びのこと」を言います。

さらに言うなら、データとは、きちんと索引化され、機械が迷わずにアクセスできる状態になったものでなければなりません。大抵の人は、Excelで作った請求書の金額の数字を、「データ」だと思っています。しかし、もし請求書の欄の位置や行数がバラバラで、毎回少しずつ違い、かつ、保管されている請求書のExcelファイル名もきちんとルール化されていなかったり、PCのフォルダに勝手気ままに保存されていたりしたら、それは「データ」とは呼べません。

少なくとも、そんな状態では、過去のAIのインプットとしてのデータの名には値しない、ということになります。それをAIに食わせて「学習」できる状態にするまでに、相当の手間暇がかかるのは、火を見るより明らかでしょう。

でも、メールを拝見して、何よりも気になったのは、そういった戦略論や技術論ではありません。心配なのは、Tさんの配下にいる、ITエンジニアの方々の事です。

「そもそもウチみたいな部品メーカーに、ITがやりたくて、入社してくる人間は居ない」と、上役の方はおっしゃる。「だから、本当のプロフェッショナルがいない。だったら、外から連れてくるしかない。」とも。そして、「DX実現のためなら、高い給料を払ってでも良い」と、Tさんの前で発言されたそうですね。

それを、周りのITエンジニアの皆さんが、聞いていなかったことを祈ります。まあ、役員室の中の会話だったのでしょうが。ただ、もしこの理屈が通るなら、同様に、財務や法務や人事のプロだって、御社にいないはずになります。だって、そうした仕事を求めて部品メーカーには来ないはずですから。

それなのに、なぜITエンジニアだけが槍玉に上がるのでしょうか? もし、その乱暴な断定にも一理あるように見えるのだとしたら、なぜでしょうか。

それは、失礼ながら、御社では、ITエンジニアとして技術を極めても、能力を磨いても、あまりいいことがない、と見えているからではないでしょうか? 財務畑や営業畑からは、役員レベルに出世できる。だがITエンジニアからは、部長レベルより上には、上がれない。違っていたら、お許しください。でも、もしそうだとしたら、IT職種の人は、どこに評価ややりがいを見出し、何を励みに勉強して技術を磨くでしょうか。

かなり以前のことになりますが、わたしがはじめてリーダー格として中間管理職になったとき、大先輩から教わった教訓があります。それを、ここにもう一度披露させてください。部下を持ったら、心がけるべき3つのレベルの話です。

・第一レベル:部下が、安心して働けるようにすること
・第二レベル:部下が、責任感をもって働けるようにすること
・第三レベル:部下が、よろこびをもって働けるようにすること

これは、この順序で達成すべし、と言われました。まず、安心して働けること。安心できなければ、責任感を持てるはずがない。そして責任感がなければ、よろこびを持てないから、と。

安心して働けるとは、すなわち、働く職場の労働環境を、清潔で心地よくすることであり、また、労働時間と賃金が一致する(つまり残業はちゃんとつけられるし、サービス残業などない)ことです。さらにいえば、いつクビになるかと、心配しながら働く状態でもない、英語で言うジョブ・セキュリティが確保されていることも大切です。

責任感を持って働けるとは、言いかえれば仕事への「オーナーシップ」と、プライドを持つこと意味します。部下が、これは自分の仕事であると、前向きに思い、結果に対してプライドを感じること。「やらされ感」やリスク回避だけで、仕事をやっつけないこと。そうしないと、まともな結果は出ません。

ただ、昨今多くの人は、「プライド」という言葉についても、妙な誤解をしているようです。プライドとは、誰か他人と自分を比べて、自分に優越感を感じることだと、思い込んでいます。それが故に、だれかマウンティングできる相手を、無意識のうちに探していたりする。しかし本来、自尊感情・プライドとは、自分自身の矜持を指します。つまり、かりに自分がどんなに社会的・経済的に苦しくなっても、「これだけはしない」という矜持を心の中に持つことです。

プライドという英語を、あえて「気高い心」と訳した知り合いの翻訳家がいますが、名訳に思えます。気高い心を持つ人は、すぐ他人や他国をバカにする人ではありません。そういう行為は、あまり気高くないですから。

そして第3のレベル、よろこびをもって働けるとは、すなわちプロ意識と、成長のキャリアパスが明らかである状態を指します。誰でも、成長して新しい能力を身につけることは、よろこびです。よろこびのない職場から、良い仕事が生まれるはずはありません。また矜持のない人間がプロ意識をもつことも不可能でしょう。

プロ意識を持つ人は、他のプロも尊重します。逆に、他人の職域やスキルに敬意を持たない人は、自分がプロ意識を求めていないのでしょう。そういう人は、たぶん別の何かで、自分を支えているのです。たとえば地位だとか学歴(入学歴)だとかで。そして、プロ意識がない人は、他人の職域に対して勝手に口を出したり、批評したり、「自分ならもっとうまくできる」と思い込んだりする傾向があります。

そして、もし御社のIT部門で、「DXに向けた人材不足」が語られるのだとしたら、上記のレベル3やレベル2が、十分満たされていないのかもしれません。将来のキャリアパスも見えず、希望も喜びも感じられないなら、誰が成長しようと頑張るでしょうか。社内のIT人材の、希望の在り処はお構いなしに、ビジネスの道具として外部デジタル技術にばかり目を向ける「デジタル論議」は、人間不在で歪んでいるとわたしは感じるのです。

そして、この根底には、ITシステムという仕組みの経済的価値が「見える化」されていない、という問題があるのでしょう。もし、ITシステムの構築と運用が、目に見える形で金銭化され、利益や資産に計上されるなら、社内での位置づけも変わってくるはずです(会社って、そういう「現金な」場所ですから)。

それはちょうど、御社における設計の位置づけの問題に、少し似ています。以前、Tさんが技術部門にいたとき、こぼされていましたよね。「一所懸命がんばって良い設計をして客先に持っていっても、それでお金になる訳でもなく、結局、量産段階になって横並びで買い叩かれるだけ」と。そういう状態では、設計部門のエンジニアが社内的に報われるはずがありません。なんとかして「価値の見える化」を具体的に講じて、エンジニアのモチベーションを高める道を、探す必要があると思います。

・・すみません、いつもの癖で、つい長広舌をふるってしまいました。ITエンジニアのキャリアパスについては、まだ論じたいこともあるのですが、別の機会にしましょう。こういう時勢で、なかなか県境を超えた移動もままならない日々が続いていますが、できれば近い内にまたお目にかかれますように。
どうかご自愛ください。そして御社のDX論が、実りあるものになることを祈っております。


<関連エントリ>


# by Tomoichi_Sato | 2020-06-19 23:56 | ビジネス | Comments(0)

お知らせ:次世代スマート工場に関するオンラインセミナーを開催します(6月23日15:00〜)

という訳で、お知らせです。
(「という訳」の意味を知りたい方は、前回の記事 をご覧ください)

次世代スマート工場に関する、オンラインセミナーを6月23日に開催します。もちろん無償です。1時間枠で、わたしが40分ほど講演し、その後20分ほどQ&Aをオンラインで行うという形式でやろうと思っています。

わざわざ『次世代』スマート工場とつけたのは、理由があります。現在あちこちで語られている(そして実証実験=PoC等が進められている)「スマート工場」と、少し区別したいからです。

もちろん、世の中にスマート工場の厳格な定義はありませんので、誰でも、どんな工場だって、「これはスマート工場です」と呼ぶ権利はあります。ちょうど、昨今のDX=デジタル・トランスフォーメーションという言葉にまつわる状況にも、少し似ています。

ただ、スマート工場という言葉が普及し始めて3〜4年たちますが、その多くは、現場の機械やセンサーからデータを取得し、蓄積・分析して、故障予知や生産性カイゼンに活かす、という枠組みの活動に見受けられます。分析にはデータ・アナリティクスや深層学習なども、利用するのでしょう。そうした取組み自体の価値を、否定するつもりは全くありません。ただ、それだけでは、新しく登場したデジタル技術やIoTの使い方として、非常に勿体ないと思っているのです。

わたしは、デジタル技術やIoTが、日本の工場の在り方を根底から変えるインパクトを秘めていると考えています。すなわち、工場全体レベルでの操業の知能化であり、また物理的なレイアウトの劇的な変革です。もう少し言うならば、工場全体が「インテグラルな(統合された)システムとして設計され、スマートに操業される」存在にかわる可能性を持っているのです。それを称して、「次世代スマート工場」とよぶ次第です。

そして、この話を理解していただくためには、どうしてもシステム工学的な視点=システムズ・アプローチを持っていただく必要があります。ただし、システム工学といっても、ITプログラミングの話ではありません。人と、機械と、モノと、建築と、データとからなる、実体を持つシステム=工場に関する、総合的なアプローチのことを指しています。

こうしたアプローチや技術を教えてくれる大学・学科は、あいにく、日本にはありません。ですから、自分の本来の専門とは別に、学ぶ場が必要です。自分が電気屋だろうが土木屋だろうが機械屋だろうが、もちろんITエンジニアだろうが、ある意味平等に、「工場のシステムズ・エンジニアリング」のプロになれるチャンスが有るのです。(ちなみに、そうした教育を施してくれる大学・学科は、他所の国にはあります。そういう違いが、日本との競争力の差を少しずつ生んでいるのです)

という訳で、今回のセミナーは、デジタル技術に興味を持つ技術者で、製造業の仕事に関わる方ならば、どんな職種・ご専門でも、興味を持って聞いていただけると思います。

おっと、いつものように、前口上ばかり長くなってしまいました。 委細は下記のとおりです。

<記>

日揮の考える《次世代スマート工場》とは  ~どう動くのか、どう作るのか〜

日時: 2020年6月23日(火) 15:00~16:00 (講演40分+質疑応答20分)
主催: 日揮ホールディングス(株) IT Grand Plan 2030事務局

講師: 佐藤知一(日揮ホールディングス(株)デジタル統括部 Chief Strategic Analyst )

講演概要:
「スマート工場」の概念は、IoT技術の進展やドイツIndustry 4.0などの動きとともに、世界的に注目を浴びています。しかし日本国内の取組みの多くは、単純なデータ収集・可視化に留まり、工場全体のスマート化につながらないように見受けられます。本講演ではまず、一般的な組立加工系の工場に生じやすい問題を、システム工学の観点から分析します。その上で、工場全体の知能化のために必要な『中央管制システム』の概念を紹介し、これからの新しい工場づくりのあり方を論じます。

参加費: 無料(事前登録制)
申込み: 下記をご参照ください
 または、itgp2030@jgc.com までお問い合わせください。
※ご登録後、ウェビナー参加に関する確認メールが届きます。
※定員100名となっておりますので、定員を超えた場合は別途ご連絡させていただきます。

以上、よろしくお願いします。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


<関連エントリ>



# by Tomoichi_Sato | 2020-06-11 21:36 | 工場計画論 | Comments(0)

工場のデジタルツインとは何か、製品のデジタルツインとはどこが違うか

1.「デジタルツイン」概念はどこから来たか

デジタルツインという言葉を、以前よりよく聞くようになった。例によって、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に関連する文脈で、登場する。とくに製造業のDXと共に、語られることが多い。

デジタルツインとは、物質的(フィジカル)な存在のモノの、双子のコピーを、サイバー(デジタル)空間内に構築したもの、というほどの意味である。IT関係の流行言葉の常として、あまり厳格な定義がある訳ではない。だから、いろんな人が、思い思いの文脈で使っている。

デジタルツインという概念は、ドイツの「Industry 4.0」戦略とともに注目された。Industry 4.0それ自身も、ずいぶんと広範な概念だが、一応リファレンスとなる定義文書がある。とくに2013年にドイツのAcatech(国立科学技術アカデミー)が連邦政府に提出した、「『戦略的イニシアティブ Industrie 4.0』の実現へ向けて」は、初期の重要な文献である。ドイツ語版だけでなく英語版もあるし、さらには野村総研の藤野直明氏らが訳した日本語版も存在する。

この文書の最初の方に、Industry 4.0は、Cyber Physical Systems(CPS)の活用によって実現し、それは「スマート製品」と「スマート工場」の二本立てで行う、という意味のことが書いてある。とくに、スマート製品というコンセプトは重要である。ここから、デジタルツイン概念までは、ほんの一跨ぎだからだ。

ところで、不思議なことに日本では、「インダストリー4.0は無人工場を目指すものだ」といった誤解が案外、広まっている。昨年わたしは、慶応大学の松川弘明教授らと一緒に、ドイツのフラウンホーファー研究所や複数の工科大学を訪問して、インタビューを行ったが、無人工場が理想だ、などとは誰も言わなかった。むしろ、Industry 4.0は"Human-centered production"(人間中心の生産)を目指す、という発言を聴き、なるほど明確な思想に基づいているな、と感じたものだ。

人間が生きて働くことの中心には、ものづくりがある、とドイツ人たちは思っている。だからデジタルが、それを支えるべきだ、と。

ところが、ものづくり大国ニッポンに来ると、話は全然逆の受け止め方をされるらしい。デジタル技術やロボットは人間を駆逐する、だから無人化の最先端の競争に乗り遅れてはならない、というふうに。どうやらよほど、日本の製造業は(少なくともメディアは)「人間ぎらい」であるらしい。他方、日本のものづくりの現場を見ると、働いている人の「やる気」と、職人的な「感覚」にばかり頼っている。まこに奇妙である。それとも、日本企業は人間ぎらいというよりも、「労働者ぎらい」なのだろうか? たしかにロボットは労働組合を作ったりしないが。

話がそれた。

Industry 4.0の中核にあるCPS (Cyber-Physical System)というのは、これまた一種の抽象概念である。これは特定の種類のITシステムを意味している訳ではない。サイバー世界と現実世界の間に紐づけ、ないし橋渡しをして、上手にマネジメントを進化させる「仕組み」についての概念だ。

フィジカル(現実)空間内だけで戦わないで、サイバー空間内でシミュレーションや分析を行い、決断を下す。これがI4.0のCPSが目指すところである。現実世界で何か試したり、実験したりすることは、製造業の場合、必ずしも容易ではない。サイバー空間内なら、もっと気軽に予測や検討ができる。そこで、現実に瓜二つな「双子」をデジタルで作ろう、という発想になる。これが「デジタルツィン」だ。

もっとも、CPSもデジタルツインも、別にドイツ人が発明した言葉ではない。CPSは2006年に、米国国立科学財団(NSF)が言い出した概念だ。Digital twinという言葉はもっと早く、2001年に米国ミシガン大学のM. Grievesらによって提唱された。だが、どちらの言葉も2010年代の半ばになるまでは、あまり普及しなかった。その証拠に、2012年にGEが作ったIndustrial Internetのコンセプト・レポートには、CPSという言葉は登場しない。

ただ、デジタルツインの概念については、GEによる積極的な喧伝が大きかった。ジェットエンジンや火力発電用のガスタービンはGEの主力商品の一つだが、彼らはそれを早くから3Dモデルで設計しただけではない。その動作状況を各種センサーとIoTでモニタリングし、コンピュータ内で3Dで精密に再現することを、新しいビジネスモデルのコア技術として採用した。GEのデジタル戦略自体はいささか迷走気味で、業績も近年はふるわないが、IICコンソーシアムの設立活動と共に、デジタルツイン概念を皆に知らしめる上で大きな力となった。


2.スマート製品・スマート工場・デジタルツィン

ところで、ドイツIndustry 4.0でいう「スマート製品」とは、ユーザの手に渡ってからも、自分の状態を克明に検知発信できる機能を持つ。まさにGEがガスタービンで実現しようとした機能である。いや、そればかりか、製造途中の段階でも、それぞれの半製品や部品が、複数工場からなるサプライチェーン上で、次にどこに行くべきかを、自分で知っていて、行き先も自発的に制御できるという、いささかSFチックなコンセプトでもある。

彼らは、なぜ、こんな事を考えたのか。その理由は大きく2つあった。一つは、スマート製品が、顧客の手に渡ってからも、IoT技術を使って、顧客の使用状況をリアルタイムにモニタリング可能とすることで、新しい製品の付加価値をもたらしたり、設計に有用な情報をフィードバックできるようにするためだ。スマート製品は、「自らが最適に機能可能なパラメータ、及び、ライフサイクルを通して消耗の徴候を検知可能な、パラメータ」をビルトインしている(上掲書P. 19)。それによって、ベストな使い心地をユーザに提供できる、という。

もう一つは、スマート製品(スマート部品も含む)により、生産におけるマス・カスタマイゼーションを実現したいからだ。マス・カスタマイゼーションとは、顧客の個別ニーズに応じた製品でありながら、大量生産の利点も得ようとする生産思想である。そのためには、製品のコンフィギュレーションに応じて、部品・半製品が、異なる工順や工場ルートをたどる必要が出てくる。そこで、スマート製品は「製造中でさえ、自らの詳細な製造プロセスを知っている。これは、スマート製品が半自律的に個々の生産段階を制御できることを意味する。」(同、P.19)のである。

このような流れから、とくに、ジェットエンジンや風力タービン、あるいは電気自動車など、複雑な機械の分野におけるスマート製品の開発において、デジタルツィンが注目されるようになった。さらに、ビジネスモデルのサービス化(サービタイゼーション)の道具にもなることで、GEやロールスロイスなどの取り組みが注目をあびた。

ところで、自動車とか携帯電話ではなく、素材を作る業界、たとえば資源・化学・石油・建材などの業界では、どうか。こうした分野では、さすがに「スマート製品」は実現困難だ。そこで、デジタルツインの関心の向かう先は、「スマート工場」の取り組みとなった。

たとえば、海外での石油・化学業界のDXに関する最近のカンファレンスを見る限り、この分野でのデジタルツィンの目的は、生産設備の効率化が主眼にある(彼らはこれをAsset optimizationと呼ぶ)。とくに石油・ガス企業は、オフショア(洋上)生産設備のデジタルツインに関心が高い。洋上設備だけに、安全性の要求も厳しいし、問題が起きたからといって、すぐ見に行くという訳にも行かない。したがって、コンピュータ内に双子のモデルを作り、遠隔から監視・操業できるならばメリットも大きいはずである。

そういう意味で、デジタルツィンは、工場・プラントのO&M(操業・保全)が主目的になっている。そしてITベンダーの積極的な宣伝もあって、デジタルツィン実現への期待は高い。しかし、その具体的な定義や内容はまちまちで、業界としてまだ定まっていないのが実情である。


3.スマート工場のデジタルツイン――その機能と構造を考える

では、デジタルツィンはどのような機能と構造を持つべきなのか。多くの人の期待感を抽象化してみると、ある程度の共通項が見えてくる。すなわちデジタルツインとは、機械や建築など人工物に対して、以下のデータと機能をサイバー空間内に表現したものである:

(1) 設計データ(とくに形状に関する3D modelと、構成部品に関するBOM・属性データ)
(2) オペレーション・データ(使用状況、入出力、パフォーマンス、保守履歴等)
(3) 分析・表示・予測機能(シミュレーション機能)
工場のデジタルツインとは何か、製品のデジタルツインとはどこが違うか_e0058447_21263149.jpg
データは当然データベースに格納されマネージされるが、通常は、3Dモデルのビューから、ユーザに統一的なアクセスを与えるようなUIを持っている。またオペレーションデータは、時系列で膨大となるため、データ・アナリティクス技術の対象となる。もちろん、BIツールでコックピット表示などもできるだろう。しかし、単に過去を分析し、現状を「見える化」するだけでは、意思決定に役立ちにくい。やはり予測のためのシミュレーション機能が必要である。それは以前、「工場コックピットで、何を見たいか?」にも書いたとおりだ。

そしてデジタルツインは、自動車や航空機など機械製品の分野が先行してきた。これに対し、建築や工場・プラントなどの分野では、利用企業もITベンダーも、機械業界のアナロジーから出発しているように見える。だが、機械・建築・プラントでは、特性や機能に差異が大きい点に注意が必要だ。まとめると、以下のようになる。

(1) 機械業界(自動車・航空機など)

・デジタルツィンの対象は、製品である。
・機械製品においては、部品の幾何形状と、その力学的機能・構造が一体化している点に特徴がある。そこで設計データとしては、3Dモデル・部品表(BOM)・材質等が必要になる。オペレーション・データとしては、個別製品の使用状況(IoT技術で取得)、位置・速度・燃費などで、製品数が多いため、ビッグデータになる。
・予測機能としては、動きのシミュレーションが中心だが、構造解析、伝熱なども必要かもしれない。

(2) 建築・土木業界

・デジタルツィンの対象は構築物であるが、この分野では「BIM(Building Information Modeling)概念」を業界全体が志向している。
・建築の全体構造と、設備や各室の機能は、相対的に分離している点が特徴である。そこで、3Dモデル・材料表・コンポーネント属性(ベンダー固有情報等)が設計データになる。オペレーション・データとしては、利用者(人間)の動きが中心で、センサーが少ない。いわゆるビル・マネジメント系+補修履歴などで、データ量は比較的少ないだろう。
・予測機能は、建築では動きのシミュレーションの要素は少なく、構造解析と流体力学が主になる。

(3) 一般製造業(素材産業を含む)

・デジタルツィンの対象は、工場・プラントである。
・工場においては、プロセス(機能)設計と空間設計とは、ある程度独立している。そこで設計データとしては、機能的なVSM(プラントならばP&ID)と、3Dモデル、機械設備(アセット)とその部品表(BOM)・材質・属性等になる。とくに機械設備はベンダー固有情報が多い点が要注意だ。また人の作業が重要な要素となるため、人間のモデリングが必要である点が、特徴だ。
・オペレーション・データとしては、4M(人・機械・物品・製造方法)のデータ収集が望ましい。センサーデータをPLC/DCSがリアルタイムに処理し、データロガーやヒストリアンに蓄積することになろう。保守履歴データも要蓄積である。
・予測機能としては、機械と人による製造・物流のシミュレーションが必要だ。ただ化学プロセスでは、反応を含む動的シミュレーションが必要で、こちらは難易度が高い。応力解析や腐食もテーマだが、優先度は低い。

そして、CPS(Cyber Physical System)の観点から言えば、工場のデジタルツインを実現するためには、少なくともMESが必要であることは分かる。それがないと、現場の機械やデバイスがいくら自動化されIT化されても、そのデータが上位系とつながっていかないからだ。現在の日本の多くの工場では、そこを人手とExcelあたりが繋いでいる。おかげで、現場の機械にセンサーをいくら付けても、それが「どのオーダーの何を作っているのか」すぐに分からず、分析も簡単でないという状況になる。

なお、工場のデジタルツイン構築についていえば、既設の工場やプラントの双子を、ゼロから作成するのは非常に手間がかかる。無論、3D Scanなどの技術は利用可能だろうが、それでも大変な仕事だ。他方、新設の工場・プラントならば、設計・建設を請け負うメイン・コントラクター(もし居れば)に、アセットの設計データ部分の作成協力を依頼しやすい。そういう理由か、最近プラント分野では、海外の先進企業から、「フィジカルなプラントだけでなく、デジタルツインも納入してくれ」といった要求が出てくるようになった。

だが、業界としてまだ共通の合意がないので、どこまでがスコープの範囲なのか、から始まって、まだまだ解決すべき道のりは遠い。デジタルツイン構築のためには、プラントのオーナーやエンジ会社だけでなく、多数の機器・装置ベンダーなどの協力も必要になるため、もっと互いのベネフィットとリスクを共有できる、標準的な合意点をつくりたいところだ。


4.スマート化に関する勉強と議論の場の必要性

・・と、ここまで書いてきて、あらためて気づいたことが、ひとつある。本サイトの読者諸賢には、製造業に働く技術者、とくに生産技術者やITエンジニアの方が少なくないと思われる。そういう方々にとって、デジタルツインだの、スマート製品・スマート工場といった話題は、技術的興味の対象にはなりえても、実際の日々の仕事からは遠い領域のトピックに、聞こえるのではないか? 興味はある。だが現実にはあまりに障害が多い、と。

実際、日本の製造業における生産技術者は不足しており、非常に忙しい。しかも、長年の不況の結果、工場への設備投資は抑えられ、通信ポートさえ持たない旧式の機械のお守りや、頻繁な新製品の試作対応、そして海外工場への支援対応などで忙殺されているケースをよく見かける。さらに、製造現場に詳しいITエンジニアが、SIベンダーには驚くほど少ないため、製造用ITシステムの導入・保守もままならぬ。デジタル音痴の上層部については言うに及ばず、という具合だ。

しかたなく多くの技術者が、自分の関われる範囲で、こつこつ実践を重ねてスキルをつけたり、経験をもとに将来の絵を描いたりしている。ただ、それが自らの状況の枠内からの発想に留まっているとしたら、とても残念なことだ。

技術者にとって、環境依存の知識やスキルを積み上げても、これからはあまり活きない。環境依存というとIT系の人は、OSやマシンのことかと誤解されるかもしれないが、そういう意味ではない。「自社内という環境」に特化した知識・技術、という意味だ。自社でしか通じない用語・概念、自社の固有の業務ニーズ、そして自社がたまたま伝統的に使用してきた特定メーカーの技術や製品。そういった物事の上に、自分のスキルや技術成果を積み上げても、汎化も転用もできない。別の言い方をするなら、不況で自分が会社からバイバイを言われたら、その瞬間に価値がなくなるような技術スキルのことだ。

どうせ情報収集をするなら、自分のバリューにつながるような勉強をしたほうが良い。バリューにつながるとは、すなわち「抽象化された概念モデルにもとづく」思考や技術であろう。なぜなら、それならば特定の環境にもベンダーにも依存しないからだ。

そして、そういう問題意識を持つ技術者のために、情報収集や意見交換の場を作りたい、というのが最近のわたしの願いだ。

そこでトライアルとして、今月の後半に、1時間程度の短いオンラインセミナーを、わたしの勤務先の応援を得て実施しようと計画している。くわしい案内は後ほど開示するが、現時点では6月23日(火)午後14時頃からを予定している。テーマは、「次世代スマート工場とは何か」である。わたしがまず40分ほどお話し、残る20分程度を質疑応答にあてたい。

デジタルツインだのスマート工場といった物事は、この会社・この業界・この国では夢物語かもしれない。だが、他の会社・他の業界・別の国では、もう手の届く現実だったりする。そこで、何を考え、どう現実を変えていくべきなのか。簡単な答えはない。だが、少しでも一緒に議論できればと願っている。


<関連エントリ>


# by Tomoichi_Sato | 2020-06-03 22:18 | 工場計画論 | Comments(0)

お知らせ:BOM/部品表に関するオンラインセミナー講演を行います(6月16日)

お知らせです。
来る6月16日(火)に、BOM/部品表に関する有償オンラインセミナーを行います。昨年12月に行った対面セミナーのアンコール版です(お陰様で昨年は満員でした)。ただし昨今の情勢を鑑み、オンラインで受講可能としております。

2004年に「BOM/部品表入門」を上梓して以来、わたしは15年以上にわたって、BOM=部品表のマネジメント重要性を、訴え続けてきました。幸い本書はいまだに現役で、累計1万部以上が売れたばかりか、中国語版もかなり好評です。

いやしくも製造業である限り、どの企業も、BOMは必ず持っています(そうでなければ材料も購入できませんから)。しかし、BOMのデータをきちんとマネジメントできている会社は、決して多くないようです。なぜ、BOMのマネジメントが難しいのか。それは、生産の中核に位置づけられる基準情報であるにもかかわらず、複数の部門がいろいろなフェーズとタイミングで関わるからです。

とくに近年は、
 ・新製品開発・投入のサイクルが早くなった、
 ・製造のサプライチェーンが国境をまたいで海外に伸びた、
 ・企業買収や提携が進んだ、
などの要因が相まって、BOMデータの維持運用を難しくしています。

他方、最近は製造業でも「DX」ブームの声とともに、データ・サイエンスやデータ・マネジメントに関心が集まり、あらためてBOMのあり方が注目されているようです。さらに、BOP(Bill of Process=工程表)概念の普及や、海外を中心としたPLM(Product Lifecycle Management)ソフトウェアの発達など、この分野での進展も確かにあります。

今回は、前回の内容をさらにバージョンアップし、著書に述べた量産型製造業だけでなく、BOMを扱いにくい個別受注生産にも光を当て、「自分で考え身につく」セミナーを目指します。

BOM/部品表マネジメントに関心のある方のご来聴を、心よりお待ちしております。


<記>

BOM/部品表の基礎と効果的な活用ノウハウ

日時: 2020年6月16日(火) 10:30~17:30
主催: 日本テクノセンター(東京・新宿)

セミナー詳細: 下記よりお申し込みください(有償です)
なお、PC環境等の制限によりオンライン視聴が難しい方は、日本テクノセンター研修室でも受講が可能です。


よろしくお願いします。
               (佐藤知一)

<関連エントリ>
  
  

# by Tomoichi_Sato | 2020-05-28 21:48 | サプライチェーン | Comments(0)