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スマート製造のボトルネックはどこにあるのか?

  • 「生産システム」のIPOモデルとは

時折頼まれて生産マネジメントの研修セミナーの講師を引き受けることがある。その時大体いつも最初に話すのが、「工場を生産のためのシステムとして捉える」と言うトピックだ。

システムと言うと、すぐコンピューターと情報システムを連想する人がほとんどだろう。だが、ここで言うのは「仕組み」の意味で、人間を含むいろいろな要素が、互いに機能し合い、助け合って目的を達するメカニズムのことだ。現代のシステムズ・エンジニアリングでは、仕組みを理解するために、「IPOモデル」を用いる。インプット・プロセス・アウトプットの略である。

工場という仕組みの主要なアウトプットは、当然ながら製品=プロダクトである。プロセスは文字通り、製造工程である。では、主要なインプットは何だろうか。

それは部品材料だ、と言うのが昭和時代の答えだった。部品材料をインプットして、製品というアウトプットを生み出す。これが工場だ、と。まあ部品材料以外に、副資材や用役などもサブのインプットとして必要だろうが。


  • 需要情報と、製造業の変化

ところが現代では、この答えはもはや、間違いなのだ。現代の工場の主要なインプットは何か。それは、「需要情報」である。需要情報をインプットして、製品(の形に込められた付加価値)をアウトプットする。サブのインプットとして、部品材料や副資材・用役を用いる。これが現代の生産システムの姿なのだ。

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なぜ、そう言えるのか? 考えてみてほしい。あなたがどこかの工場の、工場長さんだったとする。あなたは、「部品材料があるなら、その分だけ製品を作れ」と指示するだろうか? 需要を無視して勝手に製品を作っても、ムダな製品在庫が積み上がるだけかもしれない。だから需要の明確な製品を優先して、作ろうとするだろう。すなわち、需要情報がメインのインプットに変わったのだ。

このような変化の起きた理由は、単純である。物不足時代は昭和で終わり、市場が成熟した。もはや「作れば売れる」時代ではない。だから企業は差別化を求めて、製品種類を増やしてきた。種類が増えれば、単純な外挿による昨年度並みの計画では当たらなくなる。かくして需要情報が、いちばん大事な、メインのインプットの座につくことになった。製造業とは、需要情報を得て、それを製品に変換する仕事になった。

すなわち製造業の中核部分は、じつは情報処理産業に変わったのだ。この変化にいち早く気づいた欧米人たちは、「スマート製造」とか「インダストリー4.0」といったスローガンによって、この変化を先取りしようとしている。


  • 設計機能の問題

ところが、ひるがえってわが国では、このような意識変化についていけてない企業や、経営者・メディア・学者たちがまだまだ多いように思われる。

情報処理産業である以上、組織の外部からの情報を収集し取り込む「感覚器官」が必要だ。もちろん組織内部の状態をセンシングする内的感覚器官もなくてはならない。そして何よりも、外と内、中枢と末端をつなぐ情報のチャネル=中枢神経系が必要である。神経系である以上、バケツリレーではなくリアルタイム伝達が必須だし、一方通行ではなく双方向でないとこまる。

そして当然ながら、情報変換機能も必要だ。形のない需要情報、顧客の「ニーズ」を、具体的な製品の形に変換するのは、誰か。むろん、設計部門だろう。では、あえて質問するが、あなたの会社の設計能力は、どれほどの水準だろうか?

わたしが見聞きしてきた限り、日本企業では、詳細設計は今でも一流だ。世界的に遜色ないレベルだと言える。

しかし、はっきり言って、基本設計は二流だ。なぜか。顧客の要求事項に個別に対応し続けることが、設計だと思い込んでいるからだ。一流の設計には、設計思想がいる。そして標準化への強い意思がなければならない。まして超一流の設計とは、新しい製品カテゴリーを創造する能力である。

技術カンファレンスなどを見ても、設計のツール論はたくさんあるが、設計論自体は内容が乏しい。設計を導くガイディング・プリンシプルが足りない。


  • 製造業の本当の問題は、工場の外にある

しかし設計機能よりも、もっと問題な部分がある。それはマーケティング・営業である。これは需要情報をインプットし集約するとともに、需要喚起のための製品情報をアウトプットし、顧客を誘引する機能だ。生産システムのメインのアウトプットは製品それ自体だが、同時に製品に伴う情報も、アウトプットし続ける。この情報アウトプットを上手に制御しつつ、インプットの需要情報にうまくフィードバックする仕事こそ、営業に他ならない。

マーケティングとはどちらかというと中枢系の機能で、営業セールスは末端組織の力仕事という区分が、西洋社会にはある。しかし、日本企業ではこの区分が明確でない。マーケティング機能自体が、一部のB2C大企業以外では、とても乏しい。

マーケティング・営業の仕事とは、煎じ詰めれば「いかに高く売るか」を考える仕事だ。しかし、日本企業の多くは奇妙なプル型(下請型?)体質がしみこんでいて、「いかに安く売るか」「顧客にどれだけ従うか」が、思考のモノサシになっている。これでは情報の一方通行である。よい基本設計は、すぐれたマーケティングとワンセットでなければならない。末端組織の一人ひとりの営業マンは足で稼ぎ、エンジニアは詳細設計で汗をかいて努力している。だが肝心の、中枢機能がつながっていないのだ。

こうした状況は、全体システムを統合する経営レベルの問題である。組織図をつくり、KPI・KGIを与えて目標管理で皆をドライブするが、サイロ化した部署の間で、情報の流れがどうなっているのか無頓着でいる。

これらの問題は、すべて工場の外で起きている。日本の製造業を再生したかったら、設計、マーケティング、そして経営者の思考習慣を、何とかしなければならない。

もちろん工場の刷新は、必要だ。デジタル化だって、省人化だって、待ったなしだろう。でも工場のスマート化は、製造業の活性化にとって必要条件だが、十分条件ではない。製造現場にどれだけIoTセンサーを詰め込んだって、スマート製造は実現しないのである。


<関連エントリ>


# by Tomoichi_Sato | 2025-12-10 17:36 | E3 組織・経営・戦略論 | Comments(0)

良い設計者はなぜ、他部門の知識を広く求めるのか

  • 他部門の知識は必要か

エレベーターに乗っていたら、急に声をかけられた。「今、あの本を読んでます。とっても面白いです。本にしていただいて、ありがたいですよ」。勤務先でのことで、他部署の人だった。あの本、とはもちろん、新著「攻めの工場づくり」のことに違いない。本の中身は100%わたしのオリジナルではなく、会社の多くの同僚との共著だ。それでもまとめた人間としては、単純にうれしい。たとえ職場で、先輩格のわたしへのご挨拶半分だとしても、だ。

でも、なぜ彼は「まとめてくれて、ありがたい」とまで言ったのか? それは、この本に書いた工場エンジニアリングに関するほとんどの事柄が、社内の暗黙知か、さもなければ部内知識だったからだろう。部内知識とは、その部の書庫かデータベースのどこかには書かれているが、他の部門の人間には検索もできないし、アクセスもしにくいという意味である。

エンジニアリング会社というのは、技術の総合デパートみたいな存在だ。今どきのデパートなら、在庫マスタはどの売り場からでも参照できるだろう。だが社内の知識在庫を参照できる知識在庫マスタは、今のところない(知識在庫の半分以上は、たぶん個人の脳の中にあるし)。そもそも知識って、SQLで値を参照するようには取り出せない。RAGはどうかって? 設計技術は正確性が大事なので、生成AIの中途半端なハルシネーション回答では迷惑だ(そのうち推測確度74%とか、表示されるようになるのだろうか?)。

ともあれ職場では、部門間のインタフェースが一応、Functional WBSを基準にして、業務標準で決まっている。インプットとアウトプットは明確だ。だから他部門の知識の中身まで知らなくても、普通の仕事は回る。それでも部門横断的な知識を総合化した本がありがたいのは、なぜだろうか。単純な知識欲? それも少しはあるかもしれないが、もう少し別の理由があろう。一般に、三つくらいの動機が、考えられる。


  • プロジェクト・マネジメントは、広く薄い知識の上に成り立つ

第一の動機は、プロジェクト・マネジメントのためだろう。エンジ会社のプロマネ職は、設計部門のシニアや、販売部門のやり手営業マンの仕事ではなく、独立した専門的職種である。そして独立したキャリアパスがある。とはいえ工場づくりやプラントづくりは、設計→資機材の調達→建設管理、という順番がある。とくに設計には時間と工数がかかり、その品質と出来映えが資機材や工事に直結する。

だから良いプロマネを目指したければ、設計を理解し、その計画立案と予算化ができるようになる必要がある。とくにプロジェクトを構成する様々なアクティビティについて、その時間軸上の前後関係や矛盾を理解し、ボトルネック工程を見極められるかどうかが、大事だ。

たとえば建屋や屋外プラントなどの構築物は、ふつう上物から設計して、それから土台・基礎の設計へと進む。ところが工事は基礎から始めて下から上にしか、進めない。だから、基礎コンクリートの設計・施工がボトルネック工程になりやすい。こうした事を理解するためには、機械・配管・建築・土木など様々な設計について、広く薄く知っておく必要がある。

そして、プロジェクト途上の問題解決をファシリテーションするのも、プロマネの大事な仕事だ。プロマネは全分野の専門家ではないから、すべて自分で問題解決はできない。各専門担当者をつなげて、問題解決をファシリテーションしなければならない。それには、問題事象とその文脈や影響範囲について、広い知識と見通しがいる。


  • 経営企画と投資判断も、広く薄い知識を必要とする

もう一つの動機は、経営企画の仕事のためだ。わたし自身、もう10年以上も経営企画畑で働いてきたので知っているが、この種の仕事は(会社によってバラエティはあれども)自社内の仕事について、広く薄い知識を必要とする。

日本企業の経営企画部門の大きな仕事は、中期経営計画の策定とモニタリングである。すなわち企業経営視点から見た、大きな課題・ニーズの把握と、リソース体制を見通す事、そしてそれを数字に落とし込むのが仕事である。だからどの部署でどんな仕事を何人がかりでやっているのか、理解しなければならない。

もう一つ重要な仕事が、投資判断のサポートである(判断自体は経営層の仕事だが、経営企画部門は事務局的な準備と調整作業を担う)。投資にはいろいろな種類がある。産拠点や営業拠点の新設、設備投資、IT投資、研究開発投資、技術提携からM&Aまで。それら各種案件が生み出すビジネス価値と、必要なコスト・時間が評価できることが大切だ。

企業内のには常に複数の投資案件の候補が動いているから、優先順位を決める必要がある。また進行中の案件リスクを見極め、必要なら中止させることもある。こうした仕事を進めるには、ファイナンスの尺度さえ知っていれば良い訳ではない。社内業務について、広く浅い、しかし構造化された知識が必要なのだ。


  • 設計者が、より良い作り方を知っているとは限らない

だがPMも経営企画も、エレベーターで声を掛けてくれた人のケースには当てはまらないかもしれない。むしろ単純に、良い設計を実現するために、他の部門の知識を知りたいという事だった可能性が高い。だが、なぜ設計に、他の部門の知識が有用なのか。オーケストラでヴァイオリン奏者が、隣のヴィオラ奏者の楽譜をのぞき込むだろうか? 空軍のパイロットが、駆逐艦の操舵を知りたいと思うだろうか?

実はそこが、設計と他の仕事との違いなのだ。設計技術者は、器楽奏者というより作曲家の立場だ。作曲家は、すべての楽器は演奏できないだろうが、楽器と奏法の基本的な特性は知らなければ、オーケストラ曲はかけない。作戦の立案者は、輸送機や駆逐艦の能力や限界について、基本を知らなければ仕事ができない。つまり、実装の基本的なやり方を知らずに、良い設計はできないということだ。

また逆に、実装しやすい設計を目指すことの意義も大きい。もちろん設計の良さには複数の尺度があり、作りやすさだけで良し悪しが決まる訳ではない。それでも工場で加工しやすく組立てやすい製品を設計すれば、コスト・品質・納期では有利である。普通は、設計→製造という風に情報は流れる。しかし設計←製造というフィードバック情報があり、双方向につながることで、より良いものを作る可能性が高まる。

これがアメリカの企業だったら、良い仕事には他分野の知識など邪魔だ、と思われるだろう。専門化と分業化の追求が是とされる文化だからだ。英米企業との仕事の経験からいうと、彼らの情報の流れは完全にウォーターフォール型であり、設計は調達や実装はお構いなし、作りやすいかどうかは関係なく、出図さえすれば問答無用で設計完了となる。日本企業は、程度の差はあれど、もう少し「下流側に優しい」。下流に優しいとは、設計技術者一人ひとりが、実装の苦労を少しは気遣いながら、仕事をするという意味だ。

もっとも、英米企業はその代わり、マネジメントの計画力が高い。個人の優しさではなく、トップダウンの仕組みで実装側の効率性を確保していく(たとえば手待ちを減らす、など)。


  • 双方向の統合のために

やや話がそれたので戻すが、設計と実装では分担の区切りが異なる。設計は機械・電気・制御・・みたいに機能別・工学別なのに、製造は加工・組立・検査みたいな作業種・工程別になる。だから実装を知ってちゃんと理解しようとすると、結局、隣接する設計領域のことも、少しは知らなくてはならなくなる。かくして、良き設計者は、広く薄い知識を得たいという気持ちを持つようになるのだ。

設計とは、Whatを決める仕事だ。それを実装するのは、Howに関わる仕事である。そして情報の双方向のつながりは、組織の統合(もっと言えば「スマートさ」)の尺度である。わたしが危惧するのは、仕事のサイロ化が進んでいる多くの日本企業で、WhatとHowがバラバラになっていく現象だ。

幸いにも拙著「攻めの工場づくり」は、出版直後にAmazonの「コンサルティング」ジャンルでランキング上位にはいった。工場に関する広く薄い知識を提供する本書が、多少なりとも好評を得ている事は、サイロを再統合したいというニーズの表れかもしれない。多少なりとも、この本がお役に立てるなら望外の喜びである。
(なお、紙のペーパーバック版は、順調にいけば12月10日頃から販売開始できる予定です)

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# by Tomoichi_Sato | 2025-12-04 17:54 | E2 設計のマネジメント | Comments(0)

工場ハードウェアの構造と、その現代的な『設計思想』を考える

  • 建築とレイアウトと動線と

「ちょっと想像してみてください。もしも家の台所が1階と2階に分かれていたら、どうなると思いますか。冷蔵庫と流し台は1階にあり、ガスレンジは2階にある、と。それはどんなに不便か、お分りでしょう?」――これは、わたしが工場の建築レイアウトについて、よく使うたとえだ。「ところが、製造業のお客様の工場を訪問すると、こんなレイアウトをよく見かけるんです。モノづくりの工程が、上下階に分かれていて、途中に上下の移動が必要になっています。どんな結果が生まれるか、分りますか?」

「工程間で互いに相手の状況が見えないから、作業の同期がとりづらくなりますし、そもそも垂直搬送自体が、時間とエネルギーのムダです。ところが、働いている人は、誰もそれを不思議と思っていません。なぜなら、工場ができた時から、そうなっていたからです。」

日本は敷地が狭い。だからどうしても、工場は平屋ではなく多層階になる。それ自体は仕方があるまい。だがフロアが分かれると、いくつか弊害が出る。一つは視認性がなくなること、もう一つは垂直搬送が増えること。それは直接、生産性を阻害する。

いや、生産性という言葉は誤解を招くかもしれない。機械1台あたり・作業者1人で加工組立できる数量は、平屋でも多層階でも変わらないからだ。だが同期がとれないと、「整然とした動き」ができなくなる。組織としての俊敏性が下がるのだ。もっと分かりやすく言うと、渋滞が起きる。結果としてリードタイムが長くなる。仕掛在庫量も増える。すると、スペースも圧迫する。


  • レイアウトが不便な建物とは

わたしは東急東横線・みなとみらい線を毎日通勤に使っている。でも(個人の感想だが)東横線の横浜駅のつくりは感心しない。人の流れを導く動線が、無理に遠回りするような感じを与えるからだ。昔は地上2階にあり、ホームも狭く混雑したが、動線に迷うことはなかった。2004年にみなとみらい線とつながり、地下化してできた現在の駅は、動線の方向が直感に反している。南北両側に連絡通路があるのだから、エスカレーターや階段は両側に別れて向かうべきなのに、中央に誘導するようになっている。

混雑時のバッファリングなど、何らかの理由があってこうしたのだろうが、利用者にとって不自然である。東横線渋谷駅も、ある種似たような不便さを感じるので、これは東急電鉄の「設計思想」の結果ではないかと想像している。建築レイアウトの設計では、利便性とか安全性とかコストとか、いろいろな評価尺度がある。そして、すべてを満足させる解を作るのは難しい。その際に、どれを優先するかを決めるのが、設計思想だ。この駅の設計では、何か別の要素が優先され、結果として動線の視認性と利便性が犠牲となったのではないか。

もう一つ例を挙げる。横浜みなとみらい地区にある、ランドマークプラザとクイーンズスクエアという二つの建物だ(神奈川以外の読者の方すみません)。超高層のランドマークの隣に、ひな壇のように三つクイーンズの建物がならぶ絵姿は、横浜の代表的光景になっている。前者は三菱地所が設計し、後者は日建設計が手がけた。

だがこの二つ、動線の分かりやすさが天と地ほど違う。ランドマークプラザは自分がどこにいて、どの階のどの店にどう行けば良いか、きわめて明快だ。ところがクイーンズの方は、どこがどうつながっているのか、実に分かりにくい。クイーンズタワーA棟が勤務先なので、もうかれこれ25年以上使っているのだが、つい先日も「え、こんなところに誰も使わなそうなエレベーターが」と、新鮮な発見(笑)をしたくらいだ。

建物というハードウェアは、外観の美しさも大事だが、それと並んで動線が大切だ。クイーンズは日本建築学会賞を受賞したが、審査委員の先生方は、本当に何日間も自分の足で歩いて使ってみて、審査されたのだろうか。建物は箱ではない。大勢の人が動く場だ。その動きが、きれいな層流なのか乱流なのか、考えるべきだろう。


  • 工場を「流れの場」として考える

もっとも、人の動きを流体力学にたとえるのは、お前さんが建築出身ではなく、プラント屋だからだろ、と言われるかもしれない。別に否定はするまい。いわゆる建築美学とはかけ離れた、プラント・エンジニアリング会社で働いてきて、美術館にも教会建築にも携わったことはない。わたし達が設計するのはそうした「純建築」ではなく、工場とか研究所とか病院などの、機能的に複雑な建築物だ。

わたし達プラント・エンジ会社の技術者の目からは、工場とは「人と物が流れる場」に見える。これは、製造業の生産技術や工務部門の人たちとは、相当違う視点だろうと思う。ほとんどの製造業の生産技術者にとって、この部品はどんな機械でどう加工するか、この複雑な製品はどう精度を確保して組立てるか、が命だ。部品をどう供給するか、人はどこで着替えるか、クリーンな空気はどこから供給するか、とかは付随的な問題に過ぎない。

そして正直に言うが、エンジ会社は、製造業の顧客の本当に中核的な技術ノウハウには、タッチしない(できない)。それならば、どうやって工場づくりのインテグレーションができるのか? 中核が分からないのに、どうして周辺を決めて組上げられるのか?

それは、人々がCPUチップの内部回路を知らなくても、自作PCを組上げられるのと一緒だ。CPUはパソコンの命だが、CPUだけではパソコンは機能しない。メモリや外部記憶や電源や筐体やキーボード・ディスプレイ・周辺機器がそろってはじめて、CPUが威力を発揮できる。PCを設計し組上げるのには、CPUの外部I/F要求を理解すれば十分で、必ずしも内部知識はいらない。ただしCPU以外の様々なデバイスを、性能やサイズやコストを勘案しながら、バランス良く決めなければならない。


  • 工場を「システム」として設計するために

特にCPUにとっては、各種資源にアクセスするためのバスが大切だ。CPUだけが速くても、バスの能力が低ければ、システム全体のパフォーマンスが上がらない。バスは、信号の動線だ。同じように、工場の建物というハードウェアを建てるときだって、モノと人の流量と、動線の設計が大切なのだ。

バスの能力問題は、CPUが遅いときはクローズアップされない。CPUを高速化しスケールアップ(多重化)していくと、システム全体のボトルネック工程が、CPUの外部に生じるようになる。工場も同じだ。小さな町工場に動線問題はない。だが工場を大きくし、生産量を拡大し、多品種化しようとすると、この問題がクローズアップされるようになる。だからこそ、工場の動線とレイアウト設計には、設計思想が必要なのだ。

電子機器には回路図がある。だが、あなたは工場にも、モノの流れを表す「回路図」が必要だし、存在することをご存じだったろうか? それが『マテリアルフロー図』であり、『メカニカルフロー・ダイアグラム』である。それがどういうものであるかは、ぜひ新著「攻めの工場づくり」(佐藤知一・丸山幸伸)を見ていただきたい。回路図なしに、工場を作ろうとしていないだろうか? 建築図面と機械図面があれば工場ができると思っている人にこそ、ぜひ本書を読んでほしい。

工場は、各工程という機能要素と、その間を結ぶ動線というリンクからなる、一つのシステムである。それは製造設備だけでなく、物流設備や用役設備や空調設備や、建築というハードウェアの組合せで実現される。その上で人々が働き、モノが動き、さらに情報が流れる。それを動かすためのソフト(ITシステムならびに、人を動かす手順・ルール群)がいる。それを作り上げるのが「工場のシステムズ・エンジニアリング」だ。

機械を買ってきて、建屋にポンと置けば工場ができた昭和時代から、今はここまで変わったのである。現代流の工場づくりの考え方が、我が国にももっと広まってくれれば良いと、強く願っている。
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攻めの工場づくり」第9章より引用

<関連エントリ>

# by Tomoichi_Sato | 2025-11-26 14:36 | C1 工場計画論 | Comments(0)

工場エンジニアリングに関する新著:「攻めの工場づくり」を刊行しました

新著刊行のお知らせです。
工場とは何か、どんな風に計画し、いかに作っていくかを、誰にも分かりやすく説明した本を、本日(11/17)発刊しました:

投資価値を最大化する『攻めの工場づくり』 〜 10のスマート化戦略
  佐藤知一・丸山幸伸著

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(丸山幸伸氏は日揮の同僚で、医薬品工場をはじめとする非プラント系工場づくりのプロジェクトに、長年携わってきたエキスパートです)

電子書籍Kindle版は、11月17日よりAmazonから以下のurlにてお買い求めいただけます。

 定価1,200円(ただし今週・来週ははキャンペーン価格で入手可能ですので、ぜひ早めにお申込みください)。そしてKindle読み放題の対象です。
 なお、紙の書籍は2〜3週間後に販売開始となる予定です(予価2,500円)。あわせてご利用ください。

日本にも海外にも工場は無数にあります。それはモノづくりの場所で、産業の基幹である製造業を支える役目を果たしています。しかし、工場とはそもそもどんな仕組みとして成り立っていて、どう作れば良い工場ができるのか、分かりやすく解説した本は、不思議なことにほとんどありません。

中で動かす機械を決めて注文して、それを入れる建物を作れば、「工場」ができあがる。そう考える人も多いでしょうが、率直に言って昭和時代の発想です。物不足だが労働力は豊富だった頃の考え方だからです。かつ、その後の長い不況の間、工場新設は(一部産業を除いて)抑えられ、社内で技術を継承発展する事も難しい状況でした。その結果日本は、現代的なスマート製造の実現で、欧米や中国に後れを取る事態になりつつあります。

このような状況を逆転するために、わたし達は筆を執りました。国内外で多数の工場・プラントづくりを手がけてきた日揮のエンジニアリング・ノウハウを、惜しみなく公開し、現代的な『仕組みづくり』としての工場設計・建設手法を詳述しています。現代的な工場設計の考え方が、上に書いた昭和的な発想といかに違うか、驚かれると思います。

本書を読んでいただきたいのは、製造業で工場投資の意思決定に携わる方、具体的には以下のような方々です:
  • 経営企画部門で、工場立地計画や投資採算分析に関与する方々
  • 生産技術部門で、工場の増改築・リノベーション、製造ライン増設、そして新設に関わる機械系・電気制御系の技術者
  • 生産技術あるいは施設管理部門で、工場の建築面に関わる方々
  • 工場の製造部門・生産管理部門で、現場の実務に携わるスタッフ、あるいは購買・物流・品証その他工場内の業務に関わる方々
  • 製品開発・設計部門で、自分たちの設計図がどのような形で、製造プロセスに実現されるかに関心のある技術者
  • 製造業の情報システム部門や情報子会社の技術者

また、製造業以外の方にもおすすめしたく思っています:
  • ITエンジニアで、工場や製造の実務を理解したい方
  • 建築設計事務所、ゼネコンの設計部門の方
  • 工作機械、マテハン機械メーカーの方
  • 経営コンサルタント

内容は実物を見ていただくのが一番ですが、とりあえず目次の一部をご紹介しておきます。

序章:あなたの工場は「コストセンター」?
【戦略1】立地選定・敷地計画
  • 「敷地」で工場の未来は決まる
【戦略その3】生産方式とレイアウト設計
  • レイアウトは利益を左右する
【戦略その4】採算分析・投資判断
  • 巨額投資を成功に導く!「工場マスタープラン」の作り方
【戦略その5】製造工程設計
  • 工場の設計は「回路図」で考えよ
  • 「製造工程の見える化」がライン設計の出発点
【戦略その7】建築・空調設計
  • 「レイアウト」と「空間構成」で進化する工場へ
  • 製品品質と歩留まりを決める「空調設備設計」
【戦略その9】ITシステム導入
  • ITなんて怖くない! スマートな工場の制御・ITシステム
【戦略その10】PMと立上げ組織
  • 工場づくり、誰に任せる? 失敗しないアウトソーシングと契約の鉄則

これから工場づくりに関わる方にも、今まさに工場を作りつつある方にも、そして、まだ予定はないけれど「現在の工場は、本当はどうあるべきなのか」を考えたい方にも、きっとヒントになると信じています。

なお本書は2022年から1年半の間、日刊工業新聞社の月刊誌「工場管理」に連載した記事がベースになっていますが、全体構成の部分からかなり見直し、図表等もかなり描き直しました。より分かりやすく、実戦的な内容になっていると思っています。

大勢の方に手に取っていただければ幸いです。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)

# by Tomoichi_Sato | 2025-11-17 10:31 | C1 工場計画論 | Comments(0)

久しぶりに、プロジェクト・マネジメントの1日セミナーを開催します(12月17日)

お知らせです。

リアル会場で1日かけて行うプロジェクト・マネジメントの研修セミナーを、久しぶりに開催します。今回は、内容も従来の形をかなり刷新したプログラムとします。企業の実務レベルの方に役立つよう、とくに製造業のような縦割り組織の強い職場で、どうプロジェクトを構想し進めるべきかも含めて、構成を組み直しました。

これまでもわたしは、PM研修をいろいろな形で行ってきました。大学でも1学期間の授業を持っていますし、職場でも教え、また依頼されれば企業や官庁向けにクローズドなセミナーも開催しています。昨年度までは、「P&PA研究部会」のPM教育分科会の仲間たちとの共同セミナーもありました。

そこでは主に、20世紀半ばに生まれたモダンPMの中心的概念を理解してもらい、プロジェクト計画とコントロールを客観的・定量的に進める技法の習得を、ねらいとしてきました。モダンPMの概念とは、プロジェクトをアクティビティから構成されるネットワークの「システム」として理解することです。そこから、スコープを表すWBS、スケジュールをおさえるPERT/CPM、コスト・コントロールのためのEVMSなどの技術が出てくる訳です。

ただし、PERT/CPMやEVMSのような技術は、プロジェクト・マネジメントの「ハード・スキル」と呼ばれる面であり、もう少しかみ砕いていうと、それなりに規模のある、スコープ(役務範囲)が明確なプロジェクト向きの手法です。

しかし世の中には、もっと「ソフト」なプロジェクト、すなわち目標や責任範囲が柔らかで不確実性の高い仕事に、取り組まれる方々も多いと思われます。こうした領域は、ハードなPM技術だけでは必ずしも十分に進められません。かと言って、最初から最後まで「リーダーシップの発揮!」の気合い一本槍では、やり抜けないのも事実です。

そこで今回のセミナーでは、不確実性の高いプロジェクトのマネジメントに焦点を当てようと決めました。製品開発や、DXなどの改革、それに伴うIT開発などが典型でしょう。そして、リスク予知やコミュニケーションなどの、ソフト・スキルからスタートします。そしてチームと組織デザインに進み、漏れのないタスクの洗い出しとWBS化、設計とミッション・プロファイリング、といった順序で解説を進めます。

知識のインプット学習だけではマネジメントは身につきにくいため、あえて自分で手を動かすグループ演習を取り入れます。そのため、リアル開催のセミナー形式としています。ソフト面を重視するといっても、モダンPMの知見を援用しますので、わたしが以前行ったハード・スキル中心のPMセミナーを受講された方にも、おすすめしたく思います。拙著「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」でも、ある製造メーカーを舞台に、誰がプロマネかさえ不明確な製品開発プロジェクトを、一担当のエンジニアが乗り切っていく話を書きましたが、実務ではソフト面とハード面の両立が望ましい訳です。

ちなみに、もうじき米国PMIからPMBOK Guide第8版が出ます。PMBOKは2000年刊行の第2版で大枠が固まり、その後はPMP試験と連携しながら第6版まで拡充しましたが、第7版で大幅に内容が変わりました。それは、ハードなPMからソフトなPMへの転身の試みだと言えるでしょう。第8版の予告された目次を見ると、再び構成がそれなりに変わり、ソフト面とハード面の両立・融合に苦心している様子がうかがえます。なお、わたしのセミナーは、用語概念などは可能な限りPMBOK Guideに合わせていますが、もちろんPMP資格試験をねらいとしたものではありませんので、その点ご留意ください。

<記>

プロジェクトを成功させるマネジメントの実践とそのポイント

日時: 2025年12月17日(水) 10:30~17:30

主催: 日本テクノセンター
会場: 〒163-0722 東京都新宿区西新宿二丁目7番1号      小田急第一生命ビル22F

セミナー詳細: 下記をご参照ください(有償です)

大勢の方のご参加をお待ちしております。


<関連エントリ>



# by Tomoichi_Sato | 2025-11-09 12:24 | B1 プロジェクト・マネジメント全般 | Comments(0)