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★★★ 江崎浩司の世界

みなとみらいホールにて。
副題は「愛するがゆえに笛は飛ぶ」。まあ実に、江崎さんらしいタイトルではある。

曲目は、バレンタイン・デーにちなんで、第1部は江崎浩司・脚本編曲による音楽物語「シンデレラとウグイス夫婦」(エイク・クープラン・モーツァルト・クライスラーなどの小曲とナレーションで構成する)、第2部はヘンデル・スカルラッティ・ヴィヴァルディなどのバロック歌曲をオーボエで演奏する前半と、バッハ・モンティ・R=コルサコフ・モーツァルト・ドビュッシーなどのヴァイオリン曲やピアノ曲をリコーダーで(!)演奏する後半からなる。実に意欲的なプログラムだ。

それにしても、この人の笛の巧さは、まことに驚嘆すべきレベルだ。長久真実子さんのチェンバロ伴奏も良いが、「マルチ笛吹き職人」を自称する江崎さんの演奏のクオリティの高さには、心底驚いてしまう。リズムの正確さ、音程やフレージングの絶妙さ、指使いの速さ(誰がいったい「くまんばちの飛行」や「チャルダッシュ」をあのスピードでリコーダーで演奏できるだろうか!)、ブレスの巧みさ、そして何よりも歌心の繊細な表現が素晴らしい。これほどのレベルのリコーダー奏者は、賭けたっていい、世界中を探しても、そうは居まい。

しかも、彼はどんどん上手くなってきている。今回出たばかりのCD「空飛ぶ笛」を買ってかえって聴いたが、彼がほんの3年前に録音した缶入りCD「Bath Herb & Music」と聴き比べてみると、その進歩の度合いが分かる。同じジャズ曲「煙が目にしみる」が入っているが、その差は明瞭だ。この人は最近2,3年で、はっきりと音楽とは何かをつかんできたのだ。小節線に区切られた音のかたまりではなく、歌うフレーズの生きた流れとして、音楽を表現できるようになっている。30代の人間の成長力というものだろう。

それほどのレベルの演奏会を、横浜みなとみらいの小ホールで、満員とはいえない人数の聴衆とともに、たったの3千円で聴けるのだ。この国の音楽環境の良さを感心するよりも、この国の音楽愛好家の耳のありかを疑ってしまう。本当にこれでいいのだろうか? 彼が先月タブラトゥーラで披露したオリジナル曲のタイトルに「だれもわかってくれないし」というのがあったが、まさに、彼の気分を表わしているに違いない。サントリー・ホールで、大真面目に「男はつらいよ」を演奏して、耳が化石になった石頭連中の顰蹙を買ったりした彼だ。成長しつつある彼の才能は、今やクラシックだの古楽だのといった枠の中に押し込めておくには、大きすぎるようになったのだ。

どうか、江崎さんのコンサートがあったら聴きに行ってほしい。これからも彼がどんどん新しい音楽に挑戦していけるようなチャンスに恵まれることを、私は切に祈っている。
# by Tomoichi_Sato | 2005-02-10 23:49 | 映画評・音楽評 | Comments(0)

プロジェクト・マネジメントの世界は動いている

1年ぶりに米国に行って来た。6月1日からボストンで開かれた"ProjectWorld 2003" に参加するためだ。帰り道、米大陸を横断する飛行機内で、つくづく思った。プロジェクト・マネジメントの世界は動きつつある--しかも、かなり急速に。プロジェクトマネージャを自認し、仕事にしている人たちも、そうでない人たちも、この変化にキャッチアップするため、最新のPM手法を学ぶ機会をつくった方がいい。そして、あらためてPMとは何かを考え直すべき時が来たようだ。

CPM(クリティカル・パス法)がデュポン社で開発され、PERTの手法が原子力潜水艦プロジェクトのために米海軍で(正確には彼らのコンサルタント会社によって)開発されたのは、1950年代の終わりのことだ。両者は別々に、しかしほとんど同じ時期に現れた。時代がそれを要請したのだろう。『プロジェクト』という概念が米国で成立する時期だったのだ。

それから40年以上の歳月がたった。その間、あまり進歩がなかった、とまでは言うまい。しかし、他のManagement Scienceの分野と比べると、穏やかな歩みでしかなかった。たとえば生産管理でのMRP→MRP II→APSといった劇的な進化を考えると、その違いがわかる。

プロジェクト・マネジメントの世界が、再び変動しはじめるきっかけを作ったのは、1996年版のPMBOK Guideの制定だった。正式には、"A Guide to the Project Management Body of Knowledge"という、一種のハンドブックである。作成者は非営利の業界団体PMI(Project Management Institite)で、80年代半ばから続いた努力の集大成であった。ここで、用語・概念の共通化、管理対象の9分野の定義や、アーンドバリュー分析といった基本的手法への手引きがそろったわけだ。

それをきっかけにして、従来は建設・エンジニアリング業界中心だったPMIに、他の分野、とくにIT業界から、かなりの数の参加者が来るようになった。その前は数千人単位だった会員数は、いまや全世界で10万人を超えている。その半分以上がIT業界といわれるが、かなり広い業界で『プロジェクト・マネジメント』が注目されているのだ。今回のProjectWorld 2003でも、金融業界や医薬品業界に向けたワークショップが開かれている。

こうして世界中から、より多くの有能な人材が参加するにつれ、従来のPERT/CPM手法を広めるだけではなく、その枠にとどまらぬ新しいアイデアがどんどん生まれつつある。古い革袋に新しい酒、という訳だ。

その沸騰する中心の一つが、Project Portfolio Managementという考え方である。これまで単一プロジェクトの中だけで考えがちだったPM論の枠を超え、複数プロジェクトをかかえる企業において最適ポートフォリオをつくるため管理手法だ。そのための技法もいろいろ提案されている。ソフトウェア的にも、Primavera社等の専門ソフトが続々このPortfolio Management用ツールを出しはじめたばかりか、Microsoft社も最新版のMicrosoft Project 2003 サーバー版で採用したから、おそらく今後の中心トレンドとなることは間違いない。

もうひとつ、今回"ProjectWorld 2003"に参加して感心ことは、女性の参加者の多さだった。全体の4割以上が女性だったと思う。少なくとも米国にあっては、プロジェクトマネージャとは、もはや根性と体力と男臭さで勝負するような「男のための職業」ではなくなりつつあるのだ。そして、それはとても良いことだと思う。

このように、今、PMの世界はホットで非常に面白い。私自身も今年はプロジェクト・マネジメントをキーワードとした新しいビジネスに挑戦しようと考えている。当分この世界からは目が離せなさそうだ。
# by Tomoichi_Sato | 2003-06-07 21:57 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)