人気ブログランキング |

<   2020年 11月 ( 6 )   > この月の画像一覧

お知らせ:TOCシンポジウムでプロジェクト・マネジメントに関する基調講演を行います(11月30日 13:00-14:00)

またまた、お知らせです(^^)

TOC(Theory of Constraint)という考え方について、聞いたことのある方も少なくないと思います。イスラエルの科学者・故ゴールドラット博士が提唱したマネジメントに関する理論で、『制約理論』とも訳されますが、最近はTOCと略称で呼ぶ方が一般的でしょう。

TOCはサプライチェーン・マネジメント、プロジェクト・マネジメント、スループット会計、思考プロセスなど、幅広い分野に対する手法を提供しています。とくに90年代に、サプライチェーン・マネジメント分野に与えた影響は大きく、『全体最適』の思想や、生産スケジューリングのアルゴリズムなどにも、そのインパクトを見ることができます。

かくいうわたし自身も、1998年に出版した共著『サプライチェーンマネジメントがわかる本』(SCM研究会・編)の中で、ゴールドラット博士のTOCを、思考プロセスも含めて簡単に紹介しました。これは、まだ邦訳書のなかった当時としては、かなり早い紹介文だったと思っています。

ゴールドラット博士にはどこか教祖的な魅力があるらしく、TOCを実践に移す人たちのコミュニティは、日本でも着実に成長し、博士の没後も続いています。今年の「TOCシンポジウム」はコロナ禍の影響を受けてオンライン開催形式ですが、それなりに大勢の方が参加されると思います。

たまたまお声がけいただき、わたしも今年は基調講演をさせていただくことになりました。ただ、わたし自身はTOCについては素人ですので、得意の知ったかぶりは避けて(笑)、自分自身が考え出したプロジェクト・マネジメントに関する理論について、あえてお話するつもりです。そのエッセンスは、2010年に東大に提出した学位論文に書いている内容ですが(「リスク確率に基づくプロジェクト・マネジメントに関する研究」静岡大学出版・参照のこと)、今回はその後10年間の発展も含めて、できる限り分かりやすい形でご説明するつもりです。

最近は直前のご案内が多くて恐縮ですが、多くの方のご来聴をお待ちしております。


<記>

「TOCシンポジウム&TOCインダストリーフォーラム 2020」

講演タイトル「リスク確率に基づく価値評価とプロジェクト・マネジメントの提案

日時: 2020年11月30日(月) 13:00〜14:00
主催: 日本TOC推進協議会 他

講演概要:
 プロジェクト・マネジメントの目的は、「プロジェクトの価値を最大化すること」にあります。また、プロジェクト・マネージャーの仕事の中核には、つねに「決断」があって、複数の選択肢の中から、プロジェクトの価値が最も大きくなるものを選び取っていく必要があります。
 それでは、あなたの関わっているプロジェクトは、現在、具体的にいくらの価値があるのでしょうか? そして、プロジェクトを構成する各アクティビティは、全体の価値に対し、いくらずつ貢献しているか、ご存知ですか? 典型的なトレードオフ状況、たとえば、値段が高いが品質の良い外注先Aと、安いけれど品質に問題含みの外注先Bから、どちらかを選ぶ時、判断基準はありますか?
 本講演では、リスク確率に基づくプロジェクトの価値評価と、そのマネジメントについて解説します。さらにサプライチェーンの中での中間製品の価額決定や、生産部門と販売部門の貢献度の比較、そしてフロート日数を1日消費することは、いくらのコスト増に相当するのかといった問題を、全く新しい視点から解決します。

申込み: 下記をご参照ください

以上、よろしくお願いいたします。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


by Tomoichi_Sato | 2020-11-21 00:43 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

そうか、製造業のデジタル化って、そういう意味なのか

前回までのあらまし)工場で『製造IT担当』として働くあなたは、ある日、「全社DXチーム」の一員に任命され、会議のため本社に呼び出される。事務局を務める情報システム部次長のもと、経営企画・営業・設計・生産技術・品管など、社内各部の若手中堅が集められていた。何をすべきなのか皆で議論するが、甲論乙駁、なかなか方向性が定まらない。あなたは、社内の各種ITシステムがバラバラで、かつ情報が一方向にしか流れない状態を何とかすべきと訴える。と、そこに突然、DX活動の責任者である専務から電話が入る。指示を受けた情シス次長は、こう宣言した。

情シス次長「諸君、専務からだ。方針変更だよ。」

全員「ええ!?」

情シス次長「社用車の中からだったので聞こえにくかったけど、戦略コンサルの方々と接待の店に向かう途中で、さらにいろいろと話されたらしい。それで専務がおっしゃるには、ものづくりの中心は設計だから、DXは設計を変えなきゃいかん。すなわち、製品のアーキテクチャを改革しろ、と。」

設計「そ、そんな・・! 過去の設計資産はどうするんですか。全部捨てることになりますよ!」

情シス次長「でも、設計畑出身の専務兼CTOの、おっしゃる事だからねえ。それで、モジュール型アーキテクチャに変革すべきだ、と。なんでも、オランダのAD・・なんとかって半導体製造装置メーカーの話に、感銘を受けたらしい」

生産技術「今のウチの中核技術は、昔、専務がイギリスから導入したものですよね。今度はオランダですか。つくづく、欧米の輸入とモノマネがお好きらしい」

情シス次長「こら、余計なことは言いなさんな。ともかく、オープンな製品アーキテクチャにして、協力企業を呼び込み、エコシステムを形成しろ、とおっしゃってる。設計は全部3Dでデジタル化する。また技術開発も、オープン・イノベーションに切り替えて、ベンチャー企業を発掘投資する、という事です。すでにその方向で、コンサルとも話を始めたらしい。」

財務「コンサル費用のほうが、ベンチャーへの出資金よりもかかりそうで、心配ですね・・」

設計「・・自分は方針に納得できません。あとで専務に直接談判してみます」

情シス次長「ああ、君は専務の大学の後輩だったね。やってみたら? でも専務もプライドの高い方だからね、いったん口にしたことは、なかなか引っ込めないんじゃないかな。」

――じゃあ、工場側のシステムはどうするんですか?

情シス次長「設計が変われば、製造は自然とあとからついてくる、と。」

――・・・。

情シス次長「専務は工場の子会社化や海外移転を積極的に進められた方だし、製造現場の業務はあまり眼中にはないのかもね。」

――でも、さっきの僕らの話と、なんとか折り合いはつかないんでしょうか? デジタル技術で単調な工場労働を機械に任せる、とか、エンド・ツー・エンドのシステム統合って方向で、みんな一応納得していたと思うんですが。全部忘れるしかないのかな。

(その時、それまでずっと黙っていた標準化部門のベテランが、はじめて口を開いた。こわもてな顔つきだが、口調は優しい)

標準化「別にそれはそれで、両立するんじゃない?」

――どういう意味ですか?

標準化「文字通りの意味だよ。システムの統合と、現場の自動化・データ化と、製品の設計思想の改革と、三つ全部やるべきだろうね。むしろ、どれかを捨てたら、他も効果が出なくなる。」

――もう少し詳しくおっしゃってください。

標準化「さっき品管さんが言ったように、デジタル化はそれ自体が目的じゃない。手段のはずでしょ。で、戦略コンサルの今日の講演によると、流通サービス業や金融業のデジタル化ってのは、ビジネスモデルの変革が目的だって事だ。つまり『売り方の変革』だね。」

――はあ。

標準化「だとしたら、ぼくら製造業にとってのデジタル化のねらいは、『作り方の変革』になると思わない?」

経営企画「それって、現場にロボットとかを並べて作る、って意味ですか」

サービス「いや、いや。ウチの今の製品を、今の材料から、今の作り方していたら、たとえ人手を全部ロボットに変えたって、効率化がちょっと進む程度だよ。ぼくも昔、製造にいたから知ってる。もし製造を根本的に改良したかったら、製品の設計から直さなけりゃ無理です。」

設計「しかしモジュール型アーキテクチャへの転換で、製造の非効率が万事解決するとは思えません。」

サービス「いや、ポイントはそこじゃない。デジタル技術の製造業への一番のインパクトは、新素材の開発にあるんじゃないかって、ぼくは考えている。すでにこの何年か、CFRPやらナノファイバーやら、いろんな新素材が出ていて、我々のお客さんの業界にも、少しずつ広まっている。で、こういう新素材の開発って、AIとかシミュレーション技術で、そうとう加速しているらしい」

設計「MI、つまりマテリアル・インフォマティクス技術ですね。それで?」

サービス「結局ね、ものづくりでは、素材の革新が一番大きいと思う。技術の歴史を考えると、設計上の大きな変化は必ず、材料の進歩か、動力の発達によって起きている。自動車業界がEV化で今、あれだけ大騒ぎしているのも、内燃機関から電動への、動力の変化だ。」

――僕らの製品は、昔から電動ですけれど。

サービス「だから、大きく変化するなら素材の方だろう。今の材料は金属が中心だけど、金属加工って結局、鋳物にするか、削るか、折り曲げるか、叩くしかないよね。重いし、うるさいし、煙は出るしで、3K職場になる。でも新素材は全く別の作り方になるんじゃないかなあ」

生産技術「ウチの工場の機械で、扱えますかね?」

設計「新素材なんて、高くてダメですよ。」

――あの、もし性能が5倍や10倍になるんなら、今よりずっと高く売ってもいいんじゃないですか?

営業「ま、そんなに性能が変わるんだったらね。」

経営企画「その新素材を、ウチが開発するってことですか?」

標準化「さあて、ウチができれば最高だけれど、たぶん素材分野の企業さんの仕事だろうね。専務の言うように、ベンチャーかもしれない。でも、新素材を利用した製品設計と、それを加工する技術は、製造業各社のノウハウになるはずです」

設計「くどいですが、過去の設計資産はどうするんですか。全部捨てることになりますよ」

標準化「中核部分に革新的な素材が出てきたら、どうせ設計は全部見直すことになるんだよ。今のウチの技術標準なんかも、全部パー。だったら今のうちから、新素材の出現を予測しながら、設計思想の根本的な見直しを始める方が、賢くない? 欧米のライバルとだって、この点では同じゼロからの競争だからさ」

生産技術「そういっても、新素材の実用化までは、何年もかかるでしょ? それまではどうしますか」

標準化「専務のおっしゃるモジュール型アーキテクチャへの転換だって、試作や製造ラインの準備を入れたら、最低でも2年はかかるはずだよ。今の素材のままでもね。でも、デジタル化の成果がそれまで何も出ないじゃ、ぼくらも専務も、メンツが立たない。」

経営企画「そうですよ、DXにはクイックウィンが必須です!」

標準化「だからこそ、製造現場の自動化から手を付けるべきでしょう。こっちは目に見えやすい。それに専務はお忘れみたいだけど、ウチを含めて今の製造業の最大の問題は、若い人材が離れていくことです。エンジニアも技能員も、工場勤務と聞いただけで敬遠する。」

人事「本社からだって、やる気のある優秀な人財がボロボロ抜けています」

標準化「仕事の中身が変わらないからだよ。だから経験値のある、ぼくらオッサン世代がでかい顔をしてる。仕事の中身が大きく変わって、先がどうなるか誰も読めないときは、若手だって発言権が出るもの。それに、品管さんみたいに、とにかく単調な労働を減らさなきゃ、外国人だって働いてくれなっちゃうよ。仕事は、やって面白くしなけりゃあ、いい製品だって生まれない。」

人事「従業員のエンゲージメントって事ですね」

標準化「ただ、現場作業の自動化を進めたら、今度は当然、製造IT担当くんが指摘したような、バラバラ・システムの問題が表面化する。でも、幸い専務は、設計を全面的にデジタルにしろ、とおっしゃってる。だったら今度こそ本当に、設計部門は出図して終わり、じゃなく、部品表やCAMや生産スケジューラまでつながった、トータル・システムのフロントエンド役になればいい。」

情シス次長「でもそれも、長い道のりですよ。どっから手を付けるといいのかな。」

標準化「やっぱりね、真っ先に手を付けるべきなのは、最上流だよね。つまり営業と設計の界面です。お客さんの個別要求がすごく増えているでしょ? それをメールで設計部門が受け取って、毎回個別にチェックしては図面起こす、ってやってるから、設計の仕事量も増えるし、行き違いやミスが出やすい。そのしわ寄せは結局、製造と修理サービスに来るんです。」

品管「たしかに、そうですね。」

設計「詳細設計はなるべく、ベトナムの子会社にさせて、コストダウンと負荷分散しています」

標準化「でも設計を外注化したら、相手は新図面を作る事自体が仕事の目的になるでしょ? そうじゃなく、新図はなるべく、起こさない。できる限り標準図面で、まかなうようにしなけりゃ。営業所で直接端末に仕様データをインプットしたら、システムが機能型番を選定して部品表まで自動展開し、追加設計の必要箇所だけ設計部門に回すようにかえるべきです。そうすれば設計の仕事量も減る上に、ミスもなくなるし。」

営業「台湾のライバル会社はそんな風だって聞いたなあ。そうしてくれると助かるんだが」

情シス次長「たぶんそれ、コンフィギュレータって種類のソフトの応用じゃないかな」

経営企画「・・ちょ、ちょっと待ってください。頭がこんぐらがってきた。整理させてください。
(ホワイトボードに駆け寄って)コンサルの方が言っていた、流通サービス業とか金融業のDXって、まずMVPのアプリ作って、魅力的なUXと、AI分析機能で、顧客、つまり買い手のエンゲージメントを獲得する訳です。これがSTEP-1。」

情シス次長「うんうん。」

経営企画「それから、アジャイル開発を高速に回して深掘りし、ニーズの変化に即応できる仕組みを作ります。これがSTEP-2です。STEP-3では、リカレントなビジネスモデルに変革する。これが最終ゴールです。これって、今やろうとしていることと、全然違いますね!」

――そうでもないかもしれませんよ。だって、最初にやるのは、製造現場の自動化・情報化ですけど、それは効率よりも、まず働き手のエンゲージメントを上げる取り組みでしょう?

品管「次は、営業からサービスまで、双方向に情報がフィードバックできるような、統合的なシステムです。これは、ウォーターフォール型から脱して、アジャイルな即応力を作るんだって、さっきご自分でおっしゃってました」
そうか、製造業のデジタル化って、そういう意味なのか_e0058447_12301137.jpg

経営企画「・・言われてみればそうですね。すると最終ゴールは?」

設計「製品アーキテクチャからの設計の変革です。」

標準化「つまり、『作り方の変革』ね。」

経営企画「えと、リカレントなビジネスモデルは?」

――そこまでシステム化できれば、海外工場に展開する時に、製造ノウハウの90%は、ブラックボックス化して持っていけませんか。10%だけ移転するなら、今みたいに立ち上げに苦労はいらなくなります。提携の相手方だって、僕らから離れにくくなるでしょう。

財務「そこまで製造がスケーラブルになれば、資本のレバレッジを効かせたビジネス戦略も考えやすくなりますね」

情シス次長「3つのSTEPとも全部、ぴったり符合しているじゃないか。」

経営企画「ホントだ。そうか、製造業のデジタル化って、そういう意味なのか」

情シス次長「それにしてもあなたは、こういうマンガを描かせると上手いなあ」

経営企画「それって、ほめてくれてるんですよね(笑)。でもなんだか、腹落ちしました」

設計「でもこれは、一般解じゃなくて、我が社の状況という境界条件を入れた特殊解ですね。」

営業「またあんたは、難しいことを言う。でもさあ、さっきの客先仕様を入れると自動展開するソフトの話だけれど、あなたとしては、どう思うの?」

設計「・・考えてみると、これは仕様から機能セル単位への展開ですね。だとすると、たしかに専務のモジュール型アーキテクチャ構想につながりそうだ・・うーん。面白い、ぜひやってみましょう。」

情シス次長「お、さっきは凹んで、専務に直談判に行くとか言ってたけど、立ち直りが速いね(笑)」

設計「自分が前から考えてたアイデアがあったんです。でも、今のままじゃ使えないと諦めていました。これだったら、生きるかもしれません。」

標準化「どうせ無理だと、この会社の人はみんな諦めてるんですよ。それでますます、何事も無理になっちまう。あんた一人だけでも、このループから抜け出したら?」

設計「はい。ありがとうございます」

情シス次長「なあに、君一人じゃない。ぼくらも応援するから。」

経営企画「でもどうして、アーキテクチャ改革だけでなく、三つが全部必要なんですか?」

標準化「経営企画さん、たまには、人の話ばかり聞いていないで、自分でも考えてみなよ。」

生産技術「でもさあ、何だか全体、お金がかかりそうだなあ。大丈夫なの?」

情シス次長「財務さん、減収減益でボーナスはカットされたけど、実はうちは無借金経営だよな」

財務「・・まあ、その通りです。内部留保を戦略的な成長投資に使わないのなら、配当に回せと、投資家からはいつも責められています」

営業「じゃまあ、俺たちが上手に使って、財務さんの苦労を少し減らしてあげますよ(笑)」

財務「でも、こういうデジタル化の費用対効果を、トップにうまく説明できますか?」

標準化「ぼくが運転免許を取った若い頃はさあ、全部マニュアル車だったんだよね。ギヤシフトとか、坂道発進とかを練習させられたもんだ。当時、オートマの車は値段が高いだの、燃費が悪いだの、カーマニアからは散々言われてた。」

財務「??」

標準化「でも今じゃ、街中を探したって、マニュアル車なんかほとんど走ってないでしょ? カーナビもそう。出たときは、そんなもの装備したって、運転が上手になる訳でも、ハンドルさばきのキレが良くなるわけでもないって、みんな言ってたよね。でも今じゃ、カーナビはあって当たり前です」

財務「オートマチック車は現場の自動化に、カーナビはITシステムに相当する、ていうことですか?」

――うーん、確かにそうですね。それなのに僕らの工場では、車にたとえると、今でもマニュアル運転で、毎朝みんなで紙の地図を見ながら、道を探している状態です。海外のライバルなんか、もう自動運転への道を歩んでいると言うのに。

標準化「そいつを称して、『第4次産業革命』とか言うんじゃないのかな。」

情シス次長「・・どうも、ありがとうございます。おかげで議論の方向性がまとまってきました。でも先輩は、どうしてそんなにいろんな物事が見えてるんですか?」

標準化「標準化部門は仕事の傍流だからね、ライン業務の流れに何か無理があると、かえってわかるのさ。それにウチの技術屋は、それなりにみんな優秀だ。機械も、材料も、電気も、制御も、ITもね。だからぼくは、どこの大学でも教えていないけど、みんなが必要とする技術について、ずっと考え続けてきた。」

――教えてないけど、みなが必要とする技術って、いったい何ですか?

「管理のための技術だ。マネジメント・テクノロジーだよ。」

(完)


<このささやかな対話編を、職場の同僚にして畏友、故・秋山聡氏の霊前に捧げます。氏は「マネジメント・テクノロジー」という言葉を作ってわたしに教えてくれたばかりでなく、その普及のために粉骨砕身、尽力されながら、志半ばで亡くなられました。秋山聡氏のご冥福をお祈りいたします。

なお、この対話はフィクションです。特定のモデルはありません>


<関連エントリ>



by Tomoichi_Sato | 2020-11-15 12:00 | ビジネス | Comments(2)

お知らせ:BOM/部品表のマネジメントに関するオンライン・セミナーを開催します(11月19日・25日)

えー、ここでまた恒例のお知らせです(^^)

BOM=部品表に関するセミナーを、今月の後半に2つ、行います。一つは無償のウェビナー、もう一つは有償のオンライン・セミナー(一日コース)です。

「製造業のデジタル化に関する問題は、ITシステムが足りないことではない、むしろシステムが多すぎることだ」――これは最近、ある大手製造業のキーマンの方から聞いた言葉です。その方によると、自社のある事業部を調べたところ、なんとシステムは大小合わせて千以上もあったが、その多くがExcelで書かれ、互いにデータがちゃんとつながっていない状態であった、と・・。

相互につながっていない多数のシステムを抱え、その間のつなぎを、人間が手作業で行っている組織に、アジリティ(俊敏性)など求めようもないことは、言うまでもありません。

製造業におけるシステム・インテグレーションの中核部分には、基準情報としてのBOM(部品表)データがあります。製造業なら、どの企業も必ず、BOMを持っています(そうでなければ材料も購入できません)。しかし、BOMデータをきちんとマネジメントできている会社は、決して多くないようです。BOMには、受注・製品設計・工程設計・購買・生産管理・製造・品管・物流・保全・サービス・会計と、数多くの部門が、いろいろなフェーズとタイミングで関わるからです。

この問題を多面的に理解するために、2004年に「BOM/部品表入門」を山崎誠氏と共著で出版しました。以来、15年以上が経ちましたが、本書はいまだに現役で、累計1万2千部以上が売れ、中国語版も好評です。それだけ、この問題に悩む企業が多い証拠なのでしょう。

じつは、本書は最初、ERPパッケージの生産管理部分を担当するITエンジニアに対して、その設定方法の基本を教えるための本として、構想しました。BOM構築に悩む企業に、前著「革新的生産スケジューリング入門」の主人公である矢口先生がレクチャーに行き、各部門と対話を行っていく、というスタイルの設定です。

ちなみに、わたしの著書は、前述書をはじめ、「時間管理術」や「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」など、なぜかみな、登場人物たちの対話による構成になっています。もしかしたら前世は、売れない劇作家だったのかもしれません(;_;)

ところが書き進めていくうちに、BOMに関する全く違った主張の本に、変わっていきました。BOMは製造業におけるインテグレーションの中核データであり、維持と保守を、特定の外部パッケージソフトに依存するのではなく、自社でBOMプロセッサを構築すべきだ、というのが、本書のたどりついた結論です。

では、具体的にはどうすべきか。もちろん、その企業の生産方式やBOMの特性、そして現状システムのあり方に応じて、答えは千差万別です。ただ、共通の基本概念を理解し、BOM特有の各種テクニックを飲み込んだ上で取り組まなければ、あまりにも非効率でしょう。さらに近年では、BOP(Bill of Process=工程表)概念の普及や、海外を中心としたPLM(Product Lifecycle Management)ソフトウェアの発達など、この分野で紹介すべき進展もあります。こうした事柄を理解しながら、自社のBOMデータのあるべき姿について、考えるきっかけにしていただければと願う次第です。

BOM/部品表マネジメントに関心のある方のご来聴を、心よりお待ちしております。


<記>

(1) 「製造業デジタル化のボトルネックを考える 〜 BOM/部品表のマネジメント入門

日時: 2020年11月19日(木) 15:00〜16:30
主催: (株)三菱総合研究所

セミナー:「DX戦略の実現に向けたデータマネジメント 〜 BOM/部品表のマネジメント」
内容:
・製造業デジタル化のボトルネックを考える 〜BOM/部品表のマネジメント入門
  日揮ホールディングス株式会社 佐藤知一

・サプライチェーンをまたいだデータマネジメントに貢献するSImount(シマント)
  株式会社シマント 代表取締役 和田 怜
  株式会社シマント CTO 渡邉繁樹
 (SImountというユニークなnon-SQLデータベース技術を持つベンチャー企業さんです)

・DX戦略策定と実装
  株式会社三菱総合研究所 企業DX本部 DX戦略グループリーダ 中西祥介

セミナー申込み: 下記をご参照ください


(2) 「BOM/部品表の基礎とBOM構築の成功ポイント

日時: 2020年11月25日(水) 10:30〜17:30
主催: 日本テクノセンター

本セミナーでは、BOMの基本概念の再整理からはじめて、マテリアル・マスタの統一、BOMの応用テクニック、そしてBOM構築プロジェクトの進め方について、演習をとりまぜつつ、平易に解説します。特に、BOM構築の3つの難所について重点的に説明し、E-BOM/M-BOMの乖離問題などについても、詳しく述べます。一日セミナーですので、じっくりと学ぶには最適です。

なお、量産型製造業だけでなく、拙著「BOM/部品表入門」で触れられなかった個別受注生産でのBOMの取扱いなどにも光を当てて、「自分で考え身につく」セミナーを目指します。

セミナー申込み: 下記をご参照ください(有償です)

なお、PC環境等の制限によりオンライン視聴が難しい方は、日本テクノセンター研修室でも受講が可能です。

以上、よろしくお願いします。
               (佐藤知一)


<関連エントリ>


by Tomoichi_Sato | 2020-11-11 23:31 | サプライチェーン | Comments(0)

ふーん、デジタル時代には双方向のインテグレーションが必要って事?

前回からつづく)

――ええと、今日このDXチームで議論しているうちに、やっと自分の言いたいことがわかってきました。たしかにウチの社内の各システムの間には、インターフェイスはあります。でも、全体がつながるって、別のことだと思うんです。

情シス次長「意味がまだよく分からないけど。」

――つながるって、1方向だけじゃダメだと思うんです。両方向のループになっていないと。最近のデジタル技術、例えばロボットとか、3Dプリンタとか考えてみてください。プログラムが命令をして、ハンドやノズルを動かすんですが、でも対象物の種類や状態を見て、自分の側の動きも調整できるでしょう?

生産技術「フィードバック制御をかける、っていうこと?」

――そうですね、フィードバックです。動く主体と、働きかける対象との間がループになって、対象のデータが戻ってくる点が大切なのです。それによって、次のアクションを変化させます。そうしないと、物理世界とうまく関われないのです。現実社会は変動が大きいですから。それも、速いスピードでフィードバックが戻ってこないと、役に立ちません。

設計「何を言いたいんだね。」

――例えば製造原価の大半は、設計で決まります。設計部門からは、図面と仕様書の形で、情報が工場に渡ってきます。でも設計者の所には、実際の製造原価のデータが戻っていないでしょう?

設計「だから、早く製造原価管理システムを入れるべきだと、さっき言ったばっかりじゃないか」

――はい。だからこれって、片つながりで、フィードバックループになっていないんです。納期についても同じことがいえます。営業さんが受注伝票を起こして、納期を工場に連絡します。でも現実の納期はさっき言ったような状態で、ちゃんと営業さんに返せていません。

営業「それやってくれると、すごく助かるんだけどな」

――品質も同じです。品質の大半は、工程設計で決まります。でも製造記録と品質データがつながっていないので、生産技術に毎回の品質実績を戻すことができません。サービス部門も同様です。保守の指示は工場から出ますが、お客さんの実際の使用状況は、工場にも設計部門にもすぐには戻ってきません。人事採用だって、同じでしょう。

人事「つまり・・」

――つまり全然スピード感がない、ダイナミックじゃない、ってことです。現実の動きに対応して、いろんな部署がつながりあって協力し、即応できるような能力を作るのが、製造業のデジタル化の目的じゃないんですか。デジタルは伝票や月報や喋り言葉よりも、はるかに速いですし、広く伝わりますから。

品管「たしかに、今の仕組みって、受注から始まって、最後の出荷納品まで、いろんな部署のシステムの間を案件の情報が流れていきますけど、バケツリレーっていうか、水が河を流れていくみたいな、一方通行ですね。」

経営企画「そっか! 会社全体がウォーターフォール型なんだ。それをアジャイル型に変えようってこと? たしかにアジリティって素早さのことですよね。ふんふん、それがさっきのコンサルの人の言っていた、企業のダイナミック・ケイパビリティってことか!」

――かもしれません。中でもとくに、ループが切れていて、データのつながっていないのが、工場の生産管理と製造現場の間なんです。本社の受注オーダーから現場の製造指図につなぐ、生産スケジュールもExcelですし、製造日報と品管日報から製造実績を集計するのもExcelです。

生産技術「ついでに言えば、設計部品表から製造部品表への展開も手作業、製造仕様書からNC加工や搬送ロボットのプログラムも手修正だな」

情シス次長「まあたしかにそれじゃ、アジリティからは全然遠いね。ふーん、デジタル時代には、受注から製造現場、製造現場から顧客サービスの現場まで、双方向でエンド・ツー・エンドのインテグレーションが必要、って事かい。顧客の要求仕様をインプットしたら、工作機械のプログラムや検査器械のセットアップまで、してくれると。そうなりゃカッコいいけど、お金のかかりそうな話だ。」

ふーん、デジタル時代には双方向のインテグレーションが必要って事?_e0058447_23010776.jpg
――でも、すでに海外のライバル会社は、そっちに向かっているような気がします。

営業「それどころか、お客様も最近じゃあ、製品だけじゃなく3D-CADのデータも収めてくれ、なんて言い出しているところがあるよ。今は平身低頭、2次元のCAD図面で勘弁してもらっているけどね」

――あるサプライヤーさんによると、実際、ウチの韓国の競争相手からは、図面のFAXではなく、属性付き3D-CADデータで注文が来るのだそうです。なので、そこから製作図をすぐに展開・作成しているようです。

営業「どうします、設計さん? 既存のCAD図面に手書きでマークアップして、関連部門やサプライヤーに流す時代じゃない、ってさ。最終納品時までに図面をCAD化するんじゃ、時代のスピードに遅れるみたいですよ。」

設計「3D-CAD化は粛々と進めています。しかし、属性まで入力するなんて、技術部の仕事でしょうか。なんでもCADに入力すればいい、というものではないですよ。少なくとも今の人員と出図納期では、とうてい無理です。もし必要なら工場側で入力してほしいです」

生産技術「いや、そもそもCADってのは、図面清書用の道具じゃなくて、CAMとBOM展開のためのフロントエンドとして位置づけてほしいなあ。そうすれば設計納期の考え方も、がらりと変わるもの。」

設計「いや、過去の膨大な設計資産があるのだから、それを活かすことが省力化の道です」

情シス次長「どうやらエンジニアリング・チェーンを製造現場に結びつけるまでには、まだハードルが高そうだね。他に、どこから手を付けたらいいんだろ。」

財務「だから、製造原価管理システムからじゃないですか?」

――やはりそっちの話になってしまうんですね。でも現場の作業時間の実績を取るのが、また難問です・・

品管「あのぉ、質問なんですが、セットアップ時間のコストって、原価はどこにつくんですか?」

生産技術「セットアップって、機械の段取り替えとか、例の画像検査装置の設定替えの作業のこと? だとしたら、次に作る製品の原価だろうな。」

財務「その製造ロットの原価に計上するのが決まりです」

品管「でもそれって、不思議じゃないですか? だって、こないだも工場では、午前中にAラインである製品を作って、終わったと思ったら、夕方Cラインで同じ製品を流し始めたんですよ。連続して作れば、セットアップなんて不要なのに」

――客先からの急な飛び込み変更で、生産スケジュールがたまたま、そうなっちゃったんだと思います。なにせウチは多品種ですから。今、部品加工マスタだけで3万点近くあるんです。

品管「それって、作る製品のためのコストなんでしょうか? セットアップ作業って、工場ではすごく多いんです。それを減らすのも、コストセンターとしての工場の責任範囲なんでしょうか。」

生産技術「もう少し、内作加工で作る部品のバラエティを減らしてもらえると助かるんだけどな。」

設計「設計側としては、個別の客先ニーズに合わせて、部品を1mmでも小さく、1gでも軽くしていくのがミッションです。それが原価低減になるはずじゃないですか。」

――でも確かに、バリエーションが増えると、製造で目に見えないコストがかかるんです。

生産技術「1mm違ったって、NC工作機械のプログラムは書き直さなきゃいけないし、セットアップも変えなきゃならない。コーディングと実作業と教育の手間が増えるよね。」

設計「NCプログラムに、長さのパラメータだけその都度、渡してやるようにできないのか」

生産技術「あのねえ、そもそもNCプログラムってのは、工作機械メーカーによって少しっつ違うんですよ。ウチは昭和時代からの各種機械を大切に使ってるからね。その部品をどの機械にかけるかによって、直す箇所も変わる。どの機械にかけるかは、生産スケジュール次第です。」

設計「だったら、NCプログラムを標準化しておいて、機械ごとに自動コンバータを作ればいいじゃないか。頭を使ってください。」

生産技術「それより、設計で部品をもっと標準化していただけませんか、って言ってるんだけど。」

――そうですね、そうしていただければ、流用設計の手間も減るはずですし。既存の部品を使うほうが、トータルでは安いってことになりませんか。

設計「広い範囲で部品を共通化するのは、今の製品アーキテクチャじゃ無理ですね。設計思想を根本から変えれば別だけれど、そうしたら、過去の設計資産が全部ムダになってしまうから、部門としては絶対に飲めません。それに、そんな事がDXですか」

情シス次長「まあ、多品種化は、製造業の宿命なんじゃないの。」

人事「・・なんだか議論がデッドロックですね。品管さんが去年導入して、コスト低減で社員表彰までもらった画像検査装置なんかは、画像認識でいわばAIの一種なんだから、あれを軸にしてDX展開を考えられませんか?」

品管「DXの目的って、DXをすることなんでしょうか。・・あの、生意気いってすみません。でも、あの装置を入れたのは、コストダウンがねらいじゃないんです。ホントは、あの全品目視検査っていう工程を、なくしたかったからなんです。」

人事「どういう事ですか」

品管「私、工場に配属になって最初にショックを受けたのが、あの検査工程を見たときだったんです。部屋の中に机をぎっしり並べて、大勢の人、それもほぼ女の人ばかりが、一つ一つ部品をチェックしていました。なんだか息が詰まるような気がして。」

生産技術「まあ、あの手の仕事は、忍耐力のある女性向きだからな」

品管「でも、来る日も来る日もずっと、ただ検査用ルーペで部品を全品にらんで、ひたすら欠陥を探すだけの単調な仕事なんです。それって、皆さんは、自分の妹や弟にやらせたい仕事ですか?」

設計「だったらそういう仕事は、中国かベトナムに出せばいいじゃないか」

人事「まあ待ってください。中国人やベトナム人だって人の子ですよ。他に職がなければどんな仕事だってやるでしょうけど、単調でやりがいのない労働って、お金だけが目的になるから、諍いや退職が多くて、労務管理がすごく大変になるんです。」

品管「それで、以来ずっと何年も、あの仕事をなくせないかと考えていました。やっと去年頃から、どうやら何とかウチも手の届く値段で、実用的な精度の機械がでてきたので、誤認識の問題とかいろいろありましたけど、とにかく使えるようにしたんです。」

――それで、精度も上がり、コストも下がったんですよね。

品管「でも、それよりも、単調でつらい仕事を、世の中から一つ減らした、って事のほうが、ホントは自分にとって大切でした。デジタル化って、よく分からないですけど、機械的な労働から人を解放できる、っていう意味なんじゃないでしょうか?」

財務「それがコストに見合えば、ですね」

品管「もちろんそうです。ここは会社ですから。でも工場の中には、目視検査の他にも、人間らしくない仕事がいっぱいあるんです」

経営企画「そういうのって、なんで全部ロボット化できないんですか? 単純にコストの問題?」

――そうでもないと思います。結局、ロボットって、石頭で融通がきかないんです。位置精度も妙に要求が高いし。画像認識もそうですね。それに比べて、人間て器用で臨機応変です。ものを見て、それが何だか判別して、不定形な品物でも適度に手で持って運んでくれますし、位置が少しずれていたって分かります。

生産技術「ロボットって、バリエーションや例外に弱いんだよ。画像認識とか、3Dプリンタとかだって同じ。デジタル化したきゃ、もっと標準化を進めなけりゃ。」

――結局人間がありがたいのは、その場で判断してくれるからです。判断といっても、別に高度なことじゃありません。リンゴかみかんか、皮にキズはあるのか、腐ってたら捨てるべきなのか、たとえて言えばそんな事なんです。

設計「人間の判断には、判別と、決断の2つの面がある。そのうち、判別の方は、AIがだんだんやってくれるようになるから、不要になる。デジタル化で、人間の決断だけが残る、と言うことですか」

品管「決断だって、ルールが決まっていて定量化されていれば、機械に任せられる分はかなり多いと思います」

――そうやって引き算していけば、残るのは、人間が決めるべき大事な決断だけになるでしょうね。データ化とルール化と、自動機械化を進めていけば、人の仕事からきつくて単調な部分が減って、もっと働きやすい職場になるはずです。

人事「デジタル技術は、さっきおっしゃていたように、物理的な世界と直接関わるように進化してきた訳ですから、データ化と自動化によって、人の仕事から、ロボット的な部分を取り除くことになるんですね。それが製造業のデジタル化だと。それって、働くことが楽しい工場・職場を作るんだから、良い話じゃないですか。」

情シス次長「ふーん、そっちの方が近そうだねえ。DXで現場作業のデジタル化かあ。
(そのとき突然、携帯電話が鳴り出す)
はい・・あ、専務! いえ、まだ打合せの途中で・・え? はい、それはもう・・。
(後ろを向いてしばらく小声で話してから、急に皆の方を振り返る)
諸君、専務からだ。方針変更だよ。」

全員「ええ!?」

(次回完結)


<関連エントリ>
  (2020-10-24)
  (2020-11-01)


by Tomoichi_Sato | 2020-11-08 23:48 | ビジネス | Comments(1)

お知らせ:プラントのレイアウト(Plot Plan)最適設計手法に関するウェビナーを開催します(11月13日11:00〜)

えー、続き物の記事の途中ですが、ここでまたスポンサーからお知らせです(笑)

以前の記事で、設計行為には4つのレベルがある、と書きました。
1. 選択問題(選択的決定):設計の選択肢からどれかを選ぶ(いわゆるカタログ・エンジニア)
2. 求解問題(演繹的決定):科学技術計算で、主要な設計変数を逐次導出する
3. 最適問題(最適化決定):評価関数を最大化する設計変数の組を探索する
4. システム合成問題   :多軸的な評価関数をバランスよく満たすような構造と機構を合成する

この順で、設計は難しくなります。と同時に腕の見せ所でもあり、エンジニアにとって、やりがいが大きくなる訳です。とくに4番目のシステム合成問題は、複数の評価関数をバランスよく満たす必要があり、多目的最適化の考え方が必要になります。

その典型が、工場・プラントの3次元レイアウト設計問題でしょう。工場の全体レイアウト(プラントの場合はプロットプラン=Plot Planと呼びます)を決める仕事は、考慮すべき項目の多い、難しい仕事であり、ふつうはかなりのベテランが取り組みます。

基本的には、工場やプラントの製造工程を構成する機械・装置群を、ムダなく配置し、かつ、モノの流れや人の動線が短く、合理的となるよう設計すれば良いのです。ただし実際には、ある流れを優先すると、別の流れの邪魔をしたり、敷地効率を追求して詰め込みすぎると、機械のメンテに支障をきたしたり、といった問題が発生します。つまり、「あちらを立てればこちらが立たず」=『トレードオフ現象』が生じるのです。

このような複雑なレイアウト設計問題に対し、コンピュータの力を借りて、最適化問題としてアプローチしようという考えは、以前からありました。しかし、ちょっと調べれば分かりますが、「計算爆発」「次元の呪い」「NP完全問題」など、恐ろしそうな言葉が並ぶ分野です。最適化どころか、実行可能解を一つ求めるだけでも大変という世界でした。

さらに、評価関数が複数あるので、それらの線形荷重和を最小化する、というアプローチが多くとられてきました。でも、それは結局、多目的なモデルの評価を、単一目的の最適化で解いている訳ですから、問題の全体構造を俯瞰して、トレードオフを考たりするのは難しいのです。しかも、配置問題においては、定量化できる評価軸ばかりとは限りません。むしろ、定性的な評価項目も結構多く存在します。

という訳で、やはりレイアウト設計はベテランの経験と勘に頼る、という時代が長く続いてきました。そして人手でやる仕事ですから、案は一つか、せいぜい少し変えた2案を比較する程度が限界でした。

この限界を打ち破りたい、と考えたわたし達は、あらためて問題を根本から考え直してみました。最適化問題は、モデリングが命です。対象の系を、どのような要素に分解するか。それをどう組合せるか。そして制約条件をも、目的関数化できるか。これがポイントです。そして、トレードオフ状況の中で、ユーザが対話的に、もっとも満足できるバランスを探すような仕組みを作りたいと、技術開発を続けてきました。

今回、ようやく、その成果を公開できる段階に達しましたので、一緒に開発してきた同僚・仲間と、ウェビナーを開催することになりました。題して、

プロットプラン自動設計システム「Auto Plot PATHFINDER」
〜 プロットプランを最適設計する新しい方法 〜

このセミナーでは、良いプロットプランの条件とは何なのかについて考え、日揮が開発した、最適なプロットプランを設計する新しいシステム「Auto Plot PATHFINDER」について、ご紹介します。またゲストとして、当分野の権威である香川大学教授 荒川雅生氏から「多目的最適化の最新の技法」についての解説もいただきます。

日時:2020年11月13日 11:00 - 12:00 AM
(事前登録制、参加無料です)

講演者:崎山弘道(日揮グローバル)、佐藤知一(日揮ホールディングス)
ゲスト:香川大学教授 荒川雅夫氏

ウェビナー登録サイト
LinkedIn ウェビナー案内

なお、内容の概略については、以下の短い動画でのご覧になることができます。
YouTube :
LinkedIn :

工場・プラントのレイアウト問題に対する、次世代の新しい設計手法にご興味のある皆様の、幅広いご参加をお待ちしております。


日揮ホールディングス(株) 
チーフ・エンジニア(Business Analyst) 佐藤 知一


<関連エントリ>
  (2020-05-07)
  (2020-05-15)
  (2020-05-20)


by Tomoichi_Sato | 2020-11-05 00:12 | 工場計画論 | Comments(0)

製造業のデータって、ほんとはDXに向いていないのかもしれないね

前回のあらすじ)あなたは、ある製造業の工場に勤める若手のエンジニアだ。案外パソコンに詳しい、などとおだてられて手製のツールなどを作っているうちに、いつのまにか工場長から『製造IT担当』なる係にされてしまった。なんだか技術者というよりも便利屋みたいだな、などと思いながら、それでも製造ラインのデータを取得するIoTなどの仕組みを工夫したり、生産管理システムの改修要件をとりまとめたりしてきた。

そんなある日、本社から突然、「全社DXチーム」のメンバーに任命されたから会議に来い、と命じられる。専務が委員長で、情報システム部の次長が事務局長だ。社内の主な部署から、若手中堅メンバーが集められている。だが、参加してみたものの、皆、何をすればいいのか思案顔であった。最近のデジタル技術は、従来のサーバとPCの中のITより、現実世界とインタラクションが強い、だからそれを利用すればいい、という意見もでた。だが、あなたは何かまだ「つながりが足りない」と感じて、思わずそう発言した・・


生産技術「つながりが足りない? よく分からないな。」

――さっき、ウチの現場は生産管理システムで回っていると言いましたが、それは正確じゃありません。実際には、生産管理システムの個別納期を元に、工程担当者がExcelの工程表を毎日作って、現場の職長に配布しているんです。

設計「そんな事してるのか。」

――はい。現場はその表をもとに作業順序を決めますが、都合によっては必ずしもその通り着手しないし、その通り完成できないこともあります。

品管「検査ではねられて、作り直しも結構ありますよね。」

――だから、実際のところは、どのオーダーがどこまで進んで、最終出荷日がいつになるのか、納期に間に合うのか、現場に聞いて回らないとよくわからないのです。

営業「だよな。だからいつもこっちはお客に責められて、こまっちまう、」

――ええ。そこで工程係には「追いかけマン」がいて、進捗確認をして回っています。

経営企画「だったらそれ、現場にカメラつけて進捗データの収集やりません? AIの画像処理で、追いかけマンに知らせるんです。すごくDXですよ」

――いや、そもそもExcelと進捗の「追いかけマン」は、なんとかやめたいと思ってるんです。ていうより、問題なのは、上位の生産計画と、現場のスケジューリングがスムースにつながっていない事です。ドローンとか3Dプリンタとかいったデジタル技術って、情報処理と物理的な世界が、スムースにつながっているでしょう? でも、ウチの製造現場はそうなっていないんです。

品管「たしかに製造記録と品質データも、つながっていません。あとでロットをトレースするのが、いつも大変です」

生産技術「設計図とNCのプログラムだって、つながってないぜ。そもそも設計部品表と製造部品表だって、俺達がいちいち、手で変換してるんだからな。勘弁してほしいぜ」

設計「設計部品表は、ちゃんとデータ形式で渡しているはずです。なんで自動変換しないんだ?」

――工場と本社で、部品の品番が合っていないんです。それだけじゃありません。営業の月次販売予測と、工場の生産計画も、合っていません。営業が多めにサバを読むからって、工場側で減らしています。

営業「おいおい、聞き捨てならない事を言ってくれるじゃないか。サバを読んでるだとぉ?」

人事「まあ皆さん、ちょっと落ち着いてください。たしかに、あちこちギャップがあるのは分かりました。でも一応、人が介在するにしても、なんとか仕事は回っている訳ですよね。注文を受けたものが出荷できない、といった事は起きていないんですから。これをもっとつなげるのが、製造IT担当さんのいう、デジタル化なんですか?」

――すみません、ぼくはただ、情報系と物理的な世界が、スムースにつながっていない、という事を言いたかっただけなんですが。

(その時、会議室に情報システム部の次長が、汗をふきふき入ってくる)

情シス次長「いやー、ごめんごめん。廊下で、今度来た常務につかまっちゃってさあ。君、ちょっと一言、とかいわれて、部屋でしぼられちゃって。」

人事「常務って、あの銀行から来られた方ですか?」

情シス次長「そうそう。それで、DXチームを集めて活動をはじめましたと言ったら、SAPの話をされるんだよね。『SAPも十分使いこなせないようだから、日本企業は世界に勝てないんですよ』とか言われてさあ。もう、大汗かいたよ」

財務「SAPだったら、ちゃんと使いこなしてますけれど?」

情シス次長「そりゃ会計と販売は、一応ね。だが、肝心の生産系から購買がつながっていない。だからきちんとした原価管理ができていないんだ、個別の受注が儲かっているのかどうかも分からないで、なにがERPだ、って言われてね。いま全社DXで検討してますからって、やっと逃げてきたよ。いやはや、まいった。」

財務「そんな事、安請合いしないでいただきたいですね。たしかに製造の個別原価管理は、大きい課題だと思っています。ですが、同業他社だって、SAPをそこまで生産系に使い込んでいる会社はないです。」

設計「なぜなんですか。ウチの業界だけが製造業で特殊だとは言えないでしょう。キチンと使いこなせないのは、工場側に問題があるとぼくは思います。」

――でもSAPって、細かな生産スケジュールの変更に弱いって聞いたことがあるんですが。

設計「それは、機械がしょっちゅう故障して止まったり、サプライヤーの納品がしょっちゅう遅れたりするからじゃないのか。工場の管理の問題に思える。」

――それは確かにありますが、仕様変更や急な納期の変更など、工場では抑え切れない原因もあるんです。客先の先行内示と、実需がかなりばらつく問題もあります。

営業「それは、ウチだけじゃ抑え切れないな。お客様の都合だから。」

経営企画「でも、新しいビジネスモデルを創造するために、DXを進めるのが僕らのミッションでしょう? そのために顧客接点のデータを蓄積して、AIとアジャイルで高速に回すのが、DXの方程式ですよ。せめて製造原価くらいは分析できるんじゃないですか。SAPの受注データと、生産管理システムのデータを組み合わせて、AIで分析すれば。」

人事「そうですね。社内にはすでに、かなりの過去データが溜まっているはずです。ビックデータ解析できるんじゃないですか」

情シス次長「同じことを、さっき常務さんにも言われたよ。でもね、障害が2つあるんだ。1つは、生産管理システムと財務の過去データが、ちゃんとつながっていないこと。ウチの生産管理システムときたら、20年以上前に稼働したレガシーだけれど、SAPは3年前にやっと稼働したからねえ。それ以前の財務データなんて費目コードやフォーマットが違うし。」

経営企画「フォーマット変換とかできないんですか?」

情シス次長「できなくはないが、 別の問題もある。皆さんが思うほど、ウチのデータはビッグじゃないんだよ。」

経営企画「どういうことですか」

情シス次長「ウチみたいな製造業は、データの全体量は多いけど、言って見れば狭くて深いデータなんだよね。受注一件ごとに見れば、受注・設計・購買・生産・検査・出荷… と、つながりは深いけれど、件数が少ない。年間のオーダー数、つまり製番の数は数千の下の方だ。 IT用語で言うと、テーブル数が多くリレーションが深いが、トランザクション数が少ない。たとえてみれば、井戸か洞窟みたいなもんだ。」

経営企画「はあ?」

情シス次長「 AIのいわゆる機械学習は、広くて浅いデータに向いているんだね。つまりデータ項目数は多くても良いが、複雑につながっていないシンプルでフラットなデータが、たくさんある状態に向いているんだ。プールみたいなもんだね。それでも、教師なしデータの学習には、一声、十万件が必要だと言われちゃう。10年分でも、全然足りない」
製造業のデータって、ほんとはDXに向いていないのかもしれないね_e0058447_22354947.jpg

品管「最近では、GANとかいう、少ないデータでも学習できる技術が出たって、読みましたけど。」

情シス次長「さすがにあなたは、よく勉強しているね。画像処理の分野では、確かに進歩してるらしい。でも、お金や納期の分析の分野では、どうかな。ウチみたいな製造業のデータって、ほんとはDXに向いていないのかもしれないね。もしウチがもっと超大企業なら、件数も多いだろうけど」」

設計「何とかならないんですか?」

情シス次長「教師あり学習なら、もう少し少なくても済むらしいんだ。でも、今度は過去のデータに、僕らが一つ一つ手でラベリングしなければならない。君はそんなこと、やりたくないでしょ? 」

設計「それは技術部の仕事じゃありません」

情シス次長「DXなんて、どこの部の仕事でもないさ。そういえば今朝、家内が、僕の予定表にDXチームって書いてあるのを見て、『このデラックスチームって、何のこと?』って聞いてきたっけ、あっはっは。」

(一同、つまらぬ冗談にしらけつつ、しぶしぶ笑う)

営業「どうするね、製造IT担当さん。つながりが足りないってご説だったけど、むしろつながりが多すぎるってさ。」

情シス次長「つながりが足りないって? これでも、社内システムのインタフェース構築には、苦労しているんだけどなあ。」

財務「でもかなり、ツギハギなのは事実です。」

品管「とくに工場の中がつながっていないんです。あちこち手作業があって・・どうしてなのかしら?」

――システムは各部の手作りですから。

設計「工場はコストセンターで、その使命はコストダウンじゃないか。なぜ原価管理だけでもまとめられないんだ。」

生産技術「お言葉ですけどねえ、先生。そのコストセンター政策で、3年前にぼくら工場は100%子会社化したじゃないですか。処遇は変わらないけれど、コストセンターなんだから、利益を上げちゃいけない、全部配当で召し上げる、って状態ですよ。どうやって再投資しろって言うんです?」

財務「必要性があれば、本社が投資を負担する決まりになっています。」

――その説明が、難しいんです。システム導入してもすぐ在庫が減る、コストが下がる、と言うような直接効果が見えないものも多いので。

品管「SAPは、入れたら在庫が下がるって話を聞きましたけど、実際はどうだったんですか?」

営業「実際には減っていないね。誰のせいだか知らないけど」

情シス次長「まあ、SAP導入はさあ、アメリカ帰りの管理部長の、鶴の一声で進められたものだからね。社長の息子さんには、誰も逆らえないじゃないか。ああでも言わないと、株主に説明がつかなかったんだよ。」

設計「そうやって、つぎはぎだらけのシステムを作っていくから、インターフェイスがやたらと増えるんです。当社における、長期的なITのグランドデザインが必要ですよ。」

情シス次長「耳の痛いお言葉だけどね。情報システム部も、コストセンター部門なんですよ。ユーザ側からの要求があって、初めてシステム投資ができる決まりです。自分で投資方針を決められないのに、グランドデザインを作るのは、まぁ難しいですね」

人事「なんだかまた、議論が堂々巡りになっていませんか。全体を考える人がいない。だからつぎはぎになっている。でも、つぎはぎでも一応仕事は回っている。だから全体を考える人がいない。」

――・・いや、やっと自分の言いたいことがわかってきました。たしかにインターフェイスはあるんです。でも、全体がつながるって、別のことだと思うんです。」

(もう一度つづく)




<関連エントリ>
 (2020-10-24)
  (2020-10-12)


by Tomoichi_Sato | 2020-11-01 22:48 | ビジネス | Comments(0)