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いや、そもそもデジタル化って、どういう意味なのさ?

――(あわてて会議室に入ってきて、まわりを見渡す) 遅くなって、どうもすみません。急な現場のトラブルで、電話で呼ばれちゃって。・・あれ、もうお客様は帰っちゃいました?

財務「うん、先ほど帰られたよ。」

――そうですか、せっかくの話を聞けなくて、残念です。それと、専務と、情シスの次長は?」

営業「専務はお客様と一緒に行かれた。たぶん今夜は会食するんじゃないかな。情シス次長は、エレベーターホールまでお見送りにいっただけのはずだけど、まだ戻らないね。みんな、待っているんだけどね」

――じゃあ、ぼくらDXチームの社内打合せは、まだ続けるんですね。少し遅れても、来てよかったです。コンサルタントの方々のお話って、どんなでした?

経営企画「いやあ、すごくカッコよかったですよ! GAFAの戦略からはじまって、VUCAの時代にはイノベーションを起こさないと生き残れない、そのためにはデジタル技術をコアに、スモールスタートでいいから、アジャイルなチームをフェイルファーストで高速に回していく必要がある、魅力的なUXでユーザを巻き込んで、リカレントなビジネスモデルを作るのが『DXの勝利の方程式』だから、皆さんの活動こそ、これからの御社を救う道ですって言われて、僕は感激でした。製造IT担当さん、聞けなくて残念でしたね」

生産技術「うーん、そうかあ? 俺にはピンとこなかったけどねえ。なんだか遠い世界の話みたいで。」

設計「GEの、IoTを使ったデジタルツインの事例は、技術屋として興味深かったですよ。」

経営企画「コマツさんのKOMTRAXの事例も、面白くありませんでした? 製品を売った後まで、サービスとしてビジネスを組み立てられるんですから、すごい先見の明ある戦略ですよ。プラットフォームを制するものは、デジタル時代を制す。僕らもやっぱりプラットフォーマーを目指さなくちゃあ!」

財務「わたしはスペインのBBVA銀行の話は少し聞いていましたけど、詳しく知ったのははじめてです。」

営業「でもねえ。銀行と違って、ウチは消費者相手に物売ってないし。ウチが製品を納める相手はメーカーさんで、基本B2Bだからねえ。便利でカッコいいWebサイト作ったからって、注文はくれないよ。コスト勝負だもの。」

――じゃ、ぼくらはどうやって、DXってのをしたらいいんでしょう? コンサルの人は何かヒントはくれなかったんですか。

営業「いや。答えを知りたければ、こっから先は有料で、ってことじゃないかな。」

品管「コンサルタントって一般に、答えを考えるのはお客様で、ただ答えをだすのを助けるだけ、って私以前ききましたけれど。」

生産技術「そうなの? 使えねえ奴らだなあ。」

財務「それはケース・バイ・ケースだと思いますが。」

品管「でも結局、考えるのは私達なんじゃないでしょうか。製品も作り方も売り先も、知っているのは私達ですから。」

経営企画「ぼくらが知ってるのは、現状のビジネスですよね。で、現状のままでは先行きがない。だからデジタル技術で変革しよう、というのがDXでしょ?」

――たしかにそうですね。でもなんか、議論が堂々めぐりしていませんか。

人事「今の業務プロセスを洗い直して、デジタル化すべきところを進めましょう、というのがキックオフミーティングでの合意でした。」

生産技術「いや、でも、そもそもデジタル化って、どういう意味なのさ?」

――自分もなんか混乱しているんです。いわゆるIT技術と、デジタル技術って、どこが違うんですか。

営業「さあ〜。情シスの次長さんが帰ってきたら、聞いてみようよ。おんなじだと思うけど。」

経営企画「違いますよ。デジタル技術ってのは、さっきのコンサルの人も話してたように、ディスラプティブ・テクノロジーなんです。つまり破壊的なイノベーションを起こすものです。AIとかクラウドとかドローンとか。AIはコンピュータが目を持つようになって、顔認証とか自動翻訳とか、人間の代わりができるようになってきてます。Uberも、スマホとGPSとクラウドを組み合わせて、タクシー業界を駆逐したでしょう?」

財務「そういえば、コンサルの人、ちょっとゾッとすることを言っていましたね。」

――どんなことですか?

財務「近年の日本では、いろんな業界が衰退したり消滅してますけど、それには順番があるんだそうです。それは、デジタル技術が入ってきた順だというのです。」

――へえ。たとえば、どんなですか?

財務「アナログのレコードは、CDが出てきて駆逐されました。でもCD屋は、音楽のデジタル配信が始まると、売れなくなりました。ビデオ屋も同じです。テープからDVDになり、今はNetflixやYouTubeでレンタルがダメになった、と。」

営業「言われてみると、街の書店もAmazonに駆逐されているし、新聞メディアも同じで、ネット時代は息も絶え絶えだ。」

――つまり情報を扱う産業は、そうなるっていうことですか。

営業「それだけじゃないと思うよ。サービス業もだ。タクシーとUberがいい例だし、ホテル業とAirbnbなんかもそうだね。旅行代理店もネットで比べて買う時代だし。」

――まあ、それもサービスの手配情報とか、価格情報ですからね。サービスそれ自体を、たとえば、マッサージを、全部ロボットがやってくれる訳ではないと思いますけど。まして、ウチは製造業じゃないですか。

財務「でも、そこがポイントなんです。なぜ日本の家電産業がおかしくなっていったか。それは、電子部品が次第にアナログからデジタルにかわっていって、組立や調整が、熟練工の感覚に頼らなくても製造できるようになってきたからだ、というんです。そうなると、製造の競争力は日本国内ではなく、中国やアジアの低賃金国にうつってしまう、と。これが衰退の原因だと説明してました。」

品管「たしかにブラウン管とか、ビデオデッキとか、すごく調整と品質管理が微妙でしょうね。」

財務「自動車産業がまだ日本に残っているのは、機械部品が中心で、多数を順序よく組み立てる部分がまだ、うまくデジタル化できないからだと言ってました。ところが電気自動車の時代になると、もっと部品点数が減って、組立工程もずっとシンプルになるから危ない、と」

生産技術「たしかに他人事じゃねえな。」

――うーん、それだけなんですかねえ。だったら英国のDysonとか米国のTeslaとか、なんで元気なんでしょう。

経営企画「Teslaは自動運転ですもん! デジタル化の権化ですよ」

――でもDysonのヘアドライヤーは、自動で乾かしてはくれないですよ。掃除機だって、手で持って動かしてます。

設計「あれはまさに、製品設計の力だろうな。やはり製造業は、製品開発が命だから」

人事「そうなると、設計のデジタル化がポイント、ということでしょうか。」

設計「うちの部はそれを見越して、3D-CADへの転換を2年前から着々と進めています。」

生産技術「着々と、ね。だったら2D図面に手書きのマークアップで流してくるのは、いい加減やめてもらいたいもんだ。」

設計「あれは過去の流用設計だからです。設計部門の人員が限られているので、ベストのやり方をしているまでです。それがいやなら、生産側の出図締切をもっと遅らせてほしいですね。」

――まあまあ、ちょっと待ってください。デジタル技術って、従来のITと違うのか同じなのか、という議論をしていたところです。

生産技術「あんた自身はどう思うんだね、製造IT担当さん。誰がどう見たって、製造業DXの中心は、製造現場そのものじゃないか。」

――うーん。正直よく分からないんです。現場にロボットを並べることがデジタル化、とも思えないんです。今でも一応、生産管理システムで作業の指示は回っていますし、実績もとらえています。

生産技術「工作機械だって、ほとんどNC制御化しているし、な。」

――これ以上、どうするとデジタル化なんでしょう。まさか工場内にドローンを飛ばして、進捗管理する訳にも行きません。3Dプリンタだって、まだコスト的に引き合わないですし。

営業「工場内に5Gネットワークとか引けないの?」

――まだ5Gについては勉強不足ですが、そもそもそんな高速なネットワークが必要なほど、トラフィックがないと思っています。

品管「ちょっと待ってください。5G、ドローン、3Dプリンタ・・。えーとそれから、GPS、RFID、ビーコン、スマホ、クラウド、ロボット、自動運転、AIの画像認識ですか。そんなのが、最近、デジタル技術って言われているものですよね。」

経営企画「あと、Uberとか、Airbnbとか」

品管「それは実現したサービスの名前です。技術的な要素は、今挙げたようなものじゃないでしょうか?」

人事「何を言いたいの。」

品管「ええと・・これってみんな、PCの箱の外にあるものですよね。」

(一同)「はあ??」

品管「あの、つまり、今までのITって、PCの箱の中にあって、動いていたと思うんです。でも、ドローンとか3Dプリンタとかって違うじゃないですか。つまり、私が言いたいのは・・」

――物理世界と直接、関わっている、と。そういう事ですか? 今までのITは、PCやサーバの箱の中にあって、端末画面や印刷帳票だけが、UIだった。でも最近のデジタル技術ってのは、物理世界と直結している。そこが違だ、と。なるほど。

品管「結局、こういう事じゃないでしょうか。今までのITは、インプットは端末で、データ処理して、アウトプットも端末か紙の帳票でした。でも、さっきのリストを整理してみると、こんな風に、インプットやアウトプットが現実世界と接する面が、広がってきています。」
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設計「ドローンにしても、ロボットにしても、センサー系と機械系がつながっているのは確かだ。だけどクラウドは、サーバをどこか遠くのデータセンターに移しただけじゃないか。」

品管「・・そうなんですけど、それと5Gや4Gの無線通信のおかげで、データ処理機能を持つデバイスが、どこにでも置けるし、動けるようにもなったと思います。」

生産技術「ふーん。現実世界とインタラクションできるようになった、と。もしそれがデジタル技術の特徴なら、NC制御の工作機械なんて、30年前からあるけど、デジタルだった、ってことになるぜ。あなたが頑張って去年入れた、画像認識の表面検査機だって、デジタル化の先駆けなのかい?」

品管「別にそうは思っていませんでしたけれど・・」

生産技術「ウチの製造現場はそうすると、すごくデジタル化が進んでいたってことになるな。よし、これでこのDXプロジェクトは一件落着、チームは解散だ。飲みに行こうよ(笑)」

――いや、そうは行きません。デジタル化というにはまだ、足りない事があると思います。

生産技術「どういうこと?」

――つながりです。スムースなつながり。

(この項つづく)


by Tomoichi_Sato | 2020-10-24 23:36 | ビジネス | Comments(0)

製造業のデジタル化におけるミッシング・リンクとは + オンライン講演のお知らせ(10/30)

2000年の4月に、共著で「MES入門」(中村実・正田耕一編)という本を上梓した。わたしは第3章「MESを中核とした垂直統合 -プロセス産業のケース-」を執筆し、その中でMES/ERP/SCM/DCSなど、製造業の生産物流活動に関わるITシステム群の機能関係と構造を図解した、一種のソリューション・マップを提示した。それが下図である。
製造業のデジタル化におけるミッシング・リンクとは + オンライン講演のお知らせ(10/30)_e0058447_23220930.jpg

この図は、プロセス産業を念頭に置いたものだが、今眺めても、それほど違和感はない。本社にあるSCMシステムが広域の生産・物流計画や需要予測などの計画系業務を受け持ち、ERPが受発注や販売・財務・人事など取引と管理系業務を受け持つ。中央にMESがあって、製造のスケジューリング・指示や製造実績・品質・技術図書(図面)・保全などを差配する。そして、製造のレベルでは、DCSが様々な現場のサブシステムをコントロールしている

念のために、主要な略号を説明しておこう。
SCM: Supply Chain Management(サプライチェーン・マネジメント)
ERP: Enterprise Resource Planning(基幹情報システム)
MES: Manufacturing Execution System(製造実行システム)
DCS: Distributed Control System(中央制御システム)

なんだか英語と日本語が対応していないじゃないか、と思うかもしれない。とくにDCSなど、英語と日本語が、よく見ると真逆の意味になっている(笑)。だが、これでいいのだ。英語ではいろいろな経緯を背負って用語が成立してきたが、日本に翻訳される際には、そのエッセンスで紹介されるので、日本語のほうがむしろ、実情にあっている。(図には、他にもESDだのMMSだの見慣れない用語が並んでいるかもしれないが、ここでは説明は割愛する)。

そして図にあるように、複数のソリューションからなる全体が、きちんと統合されて動いている。もちろん、図はモデルを示したもので、現実の統合の度合いは、会社や工場によって違いがある。だが、目指す方向が概ねこのような姿であることは、業界内の暗黙の合意だ。

過去20年で目指す姿があまり変わっていないのは、石油や化学などのプラント分野の技術変化が遅い証拠だ、と思うかもしれない。だが、それだけプロセス産業は、他の組立加工系などの製造業よりも、先に進んでいたのだ、という解釈も成り立つだろう。

プラントは大型の装置や配管などの中を、原料や製品の流体が動いていくので、基本的に製造の様子が外から目に見えない。したがって、プラント内の随所に、温度計・圧力計・流量計など、各種の計器・センサーが多数、設置されている。そして、そこから継続的に得られるリアルタイムのデータを元に、中央制御室から、プラントの主要な決断や指示や制御を下すことになっている。相手が流体なだけに、手作業の介在も少なく、機械化が進んでいる。

つまり、ある意味では最新の「スマート工場」を、20年以上も前からプロセス産業は実現している訳だ(なので、この産業に働く皆さんは、いまさら「Industry 4.0」だの「製造業DX」だのの言葉にびっくりせずに、もっと胸を張っていいのに、とも思う)。

ただし、プロセス・プラントにも泣き所が一つある。それは品種切り替えとか多品種少量化に弱いことだ。そもそもプラントは24時間連続運転を前提に作られている。そこにはバッチ的な仕組みも混在しているが、順次切り替えて、擬似的な定常運転を作り出すタイプが多かった。

ところが化学産業が、付加価値の高いファインケミカルに特化していくと、次第に顧客別の仕様の受注生産形態が入ってくる。そして多品種化してくる。プラントはあちこちの装置が配管でつながっているので、品種切り替えに伴うレシピの管理、といった問題が出てきた。連続変数だけで制御できていたシステムに、離散変数が入り込んでくる。そして、このようなプロセスを制御する方式を、業界内で共通に記述する方法が必要になった。

この問題を解決するために、『ISA-88』(略称S88)という標準規格が、計装制御の国際組織 ISA(International Society for Measurement and Control)によって策定された。1988年に始めたので、この番号がついている。詳細はここでは説明しないが、興味のある方は、ジャパン・バッチ・フォーラムが「S88入門」という非常に分かりやすい小冊子を出しているので、ぜひ参照されたい。

S88の誕生によって、DCSやSCADAなどの制御システムの設計・運転は、格段に分かりやすくなった。他方、受注生産におけるオーダーや在庫量などの扱いは、本社でERP(基幹業務システム)が受け持つ。あとは、両者をインタフェースでつなげば、これでオッケー、と思われた。

だが、実際にやってみると、話はそんなに簡単でないことが、次第にわかってきた。90年台前半のことだ。なんといっても、客先からの受発注の業務と、製造現場における制御の指示では、粒度が全然違うのだ。受発注は製品単位である。納期だって日単位だ。ところが制御の世界では、相手はバルブや計器などデバイス単位で、流れるモノは工程ごとのバッチ(ロット)単位、そして時間は秒単位だ。この両者を、どうやってつなぐのか。

明らかに、両者をつなぐ輪が、欠けている。ここにミッシング・リンクがあった、という認識が次第に広まって、ISAでは、それをつなぐための新しい標準、『ISA-95』(S95)の策定が始まった。S95は、プロセス産業のみならず、製造業全体における、ERPと現場制御の間をつなぐ業務プロセスをカバーするという、野心的な構想のもとに、進められた。

そして、製造業における汎用的な階層モデルの記述のために、Purdue Modelが参照された。パデューは、米国の生産分野研究のメッカの一つ、インディアナ大学のある場所の名前だ。階層は下から、
 Level-0(物理的処理)、
 Level-1(インテリジェント・デバイス)、
 Level-2(制御システム)
 Level-3(製造オペレーション・システム)
 Level-4(ビジネス・ロジスティックス・システム)
と分類さている。

では、ミッシング・リンクとはどこなのか。それはLevel-3のところにある。パデュー・モデルでは製造オペレーション・システムとよんでいるが、これはいわゆるMESの層にあたる。本社系ERPと現場の制御系をつなぐもの=それがMESなのだ(最近はLevel-3を表す「製造オペレーション管理」ソフト、英語でManufacturing Operetions Management = MOMという用語もよく使われる)。

そこで、前回の記事の図を思い出してほしい。製造業における情報とデータの流れの、中段に「工場管理者レベル」があった。じつはこれが、ISA-95におけるLevel-3を表している。だから、製造業の生産システムを上から下まで、ちゃんとデジタル化したかったら、真ん中にMES(MOM)が必要だ、ということがわかると思う。前回記事の図は、業務と情報の流れだった。それを、あえてシステムとデータの流れに翻訳し、さらにS95のレベルを追記したのが、次の図だ。
製造業のデジタル化におけるミッシング・リンクとは + オンライン講演のお知らせ(10/30)_e0058447_23252433.jpg

次世代スマート工場にはMESが必要だ」というわたしの主張は、ここが立脚点なのである。もちろん、MESは工場スマート化の必要条件であって、十分条件ではないから、MESを入れてもスマートでない操業はありえるが、MESがないスマート工場なんて考えられない。

ところが。このISA-95のカバーする概念領域自体が、日本ではほとんど知られていない。なんといっても、80年代後半から90年代初頭まではバブル絶頂期で、「ジャパン・アズ・ナンバー1」=日本的経営の絶賛の頃だ。「もう欧米に学ぶこと無し」と言われていた時代だった。だから90年代の終わり頃まで、日本の製造業には、欧米発の経営思想やIT思想がほとんど輸入されなかった。S88もS95も、流行らなかった。

ERPやSCM、そしてTOCなどが知られるのは、ようやく90年代も終わり近くだった。その頃にはバブルが崩壊し、製造業は不況で生き残りに必死モード、今度は情報投資どころではなくなってしまった。かくて、欧米企業とは20年分のギャップが空いたまま、Industry 4.0やら製造業DXやらの潮流を迎えたわけだ。

このギャップ、経営思想の認識の違いに根ざしているから、お金で最新IoT技術を買ってくるだけで、簡単に埋まりはしない。回り道でも、概念レベルから学び直す必要がある。ただ、幸い日本企業の基本的なオペレーションの水準は高いので、ちゃんと理解さえすれば、キャッチアップは可能だろう。

その一つの手がかりが、ISA-95のいうLevel-3の領域である。ISA-95には問題点もあると個人的には考えているが、知っていて使わないのと、知らないのではぜんぜん違う。もっと普及と認知が必要であろう。

ということで、このような問題意識を共有する人たちと、下記の通りパネル・ディスカッションを開催することになった。テーマは、スマート工場と経営システムのギャップ、つまりまさにミッシング・リンクとしてのLevel-3領域の話だ。出席者の藤野直明氏、水上潔氏、藤井宏樹氏はいずれも、この分野で名を知られた論客ばかりである。


<記>

(1) ダッソー・システムズ『DELMIA Operations World Tour 2020 Japan』(オンライン・セミナー)

日時: 2020年10月30日(金) 14:00 ~ 17:30
   (小生の出席するパネル・ディスカッションは16:30~17:30の時間帯です)

テーマ:「デジタル変革を支える持続可能な製造システムの再考」

主催: ダッソーシステムズ(株)

登壇者: 野村総合研究所 主席研究員 藤野直明氏
     RRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会)統括 水上潔氏
     日揮ホールディングス(株) チーフ・エンジニア 佐藤知一
     (司会)ダッソー・システムズ ディレクター 藤井宏樹氏

セミナー詳細: 下記からお申し込みください(無料、定員なし)

急に決まったので、かなり直前の案内になってしまったが、オンライン形式なので、もし時間があったら少しでもご参加いただけると、大変うれしい。


<関連エントリ>

 →
 (2012-10-12)


by Tomoichi_Sato | 2020-10-19 23:56 | 工場計画論 | Comments(2)

製造業のデジタル化に必要な、情報とデータの基本的流れを理解しよう

製造業のデジタル化をめぐる動きが最近、活発である。理由は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉がバズワード化してきたからかもしれないし、あるいは経産省が「2025年の崖」というレポート を発表して、日本企業のデジタル化の遅れに警鐘を鳴らしたことも、後押ししているかもしれない。とにかく企業の経営層が、『デジタル』なる言葉を、普通に口にする世の中になったようだ。世の中全体は不景気だが、そして不景気になるとIT予算が真っ先に切られるのが常だったが、状況が少しは変わったらしい。

まあ、デジタル化の「動きが活発」といっても、今のところはまだ、議論が活発なだけで、実装はまだまだかもしれない。ともあれ、こうした状況は、IT業界にとっては慶事だろう。また、コンサル業界にとっても嬉しいに違いない。しかし製造業各社がこぞって、デジタル化のバスに乗り遅れまいと走り出すと、今度はもう一つの崖というか、ギャップがあらわになってくるに違いない。

そのギャップとは、製造業の情報化に強いITエンジニアやコンサルタントが、とても少ない、という事実である。日本のITエンジニアは、知っての通り3割がユーザ企業の情報システム部門に、残る7割がIT業界に働いている。そして製造業の情シス部門は、ふつう本社にあって、人事・財務・販売・IT基盤など、いわゆる本社と営業部門系のシステムを面倒見ている。工場に情シス部門がある企業は、少数派である。

IT業界の方だって、発注権のあるユーザ企業の情シス部門に顔を向けて、仕事をとってきている。だからいきおい、生産に関わる分野が、不得意になる。製造業向けと言っても、せいぜい製品企画設計部門(これはたいてい本社にある)に、CAD/PLMなどの技術系システムを売り込むくらいだ。泥臭い製造現場に入り込んで、機械騒音の中をあちこち調整して回るような仕事を好むSEは、めったにいない。その証拠に、「設計製造ソリューション展」のような展示会にいっても、設計系と製造系は、感覚的に8:2くらいで、製造系が少ない。

それでは工場の側はどうするか。しばしばあるのが、生産技術部門か製造部門の中に、「パソコン好き」なる若手がいて、自発的に現場が便利になるツールを、ExcelやAccessなどで作り始めるケースである。するとそのうち工場長の目に止まって、いつの間にか「製造IT担当」に昇格し(あるいは命令されて)、生産管理システムなども面倒見るようになる、という姿だ。

こういう人は現場のニーズを肌身で知っているから、作ったけど使われないようなシステムは、生み出さない。しかし、もう少し大きな会社レベルの視点で、あるべきITのグランドデザインを考え、それに合わせて業務のあり方を変えるような訓練は、もちろん受けていない。

こういう状態でいきなり、専務から「生産を含めた全社DX」の指令がおりたら、どうなるか? 専務だって技術屋で、設計開発部門の出身かもしれないが、ITのことも製造現場のことも、たいして知らないダンナである。本社に急遽集められた「DXプロジェクト・チーム」は、さきの現場の元パソコン青年・現「製造IT担当」をはじめ、営業、設計、購買、製造、物流など各部門の、若手中堅の面々である。情シス部門の次長が一応、事務局を務める。

キックオフ・ミーティングで、まずは当社の「あるべき姿」To-Beと、「現状の姿」As-Isを把握して、ギャップ分析をもとに、デジタル改革すべきである、というような話になる。とはいっても、製造業の業務プロセスは、複雑で奥が深い。多数の部署にまたがっている。この全体像の、どこをどう突っつくと、どう改善できるのか。そもそも、As-Isの業務だって、全貌を知っている人など、社内に一人もいないのだ。

一方、専務のオフィスには、おいしそうな匂いを嗅ぎつけた高級戦略系コンサルや、外資系ITベンダーが入れ代わり立ち代わり、訪れる。彼らはDXの通り相場の処方箋、すなわち「デザイン思考+アジャイル開発+MVP(minimum viable product) × AI」で、サイクルを超高速に回せば驚くような成果が現れる、というような話を吹き込んでくる。だが、その気になった専務から紹介されて、彼らとDXチームが対話を始めるが、なんのことはない、製造のことなんかロクに知らないことがすぐに分かってくる・・

あ、念のため、これはフィクションですよ、フィクション。あなたの会社がもっと上手にやられていることは、よく承知しております。

ただ、こうした混乱がときおり生じているのは、製造業における基本的な情報とデータの流れが、あまり整理されていない(少なくとも社会の中で共有されていない)ためだ。だから、どこにどのようなソリューションを当てるべきかについて、ユーザ企業とITベンダーの間にコミュニケーションのギャップが生じる。

実務とITのギャップ、マネジメントと現業のギャップ、本社と工場のギャップ・・わたし達の社会にある
こうしたギャップを埋めるための、概念と技術を提供し、議論の土台を作りたいというのが、このサイトの基本的な願いである。もちろんわたしは会社員だから、エンジニアリング会社と顧客企業とのギャップを埋めたい、という気持ちももって、やっている(笑)。

そもそもソリューションとは、本来は「解決法」であって、課題ありきで発明され開発されたものだ。課題は、A-IsとTo-Beのギャップから生じる。そして製造業における課題とは、個別の企業・業種を超えて、かなり普遍性があるのである(そうでなければパッケージ・ソリューションなるものも、生まれる訳がない)。

そこで、ITエンジニアと実務者のギャップを埋め、両方の人が理解できるよう、製造業における情報とデータの基本的流れを説明してみよう。

まず、製造業の持つ生産の仕組みを、『生産システム』ととらえてみる。システムであるから、インプットと、プロセスと、アウトプットを持つ。以前の記事にも書いたとおり、「生産システムとは、需要情報というインプットを、製品というモノに(あるいは製品の形に具現化された付加価値に)変換してアウトプットする仕組みである」。

では、インプットをアウトプットに変換する仕組みの、中身はどうなっているのか? それは抽象化していうと、直接的な業務である製造プロセスと、間接業務として製造を支援し方向づけるマネジメント・プロセスからなる。

図を見てほしい。左側は、小さな製造業のケースを描いている。経営者がいて、現場で製造をする人がいる。そして企業内では、Plan-Do-Seeの基本的な経営サイクルにそって、情報が流れていく。まず需要情報(受注かもしれないし需要見込かもしれないが)を受けて、経営者が計画を立てて(Plan)、現場に指示を出す。現場はそれを実行し(Do)、その結果を報告する。経営者は生産量・在庫などを把握評価し(See)、顧客への出荷指示を出すと共に、次の計画に反映する。かくして、指示と報告の情報は、両者の間を反時計回りに流れていく。

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しかし零細企業を脱し、中堅あるいは大企業になると、企業は本社と工場に分かれる(図右)。工場内は、工程・作業区単位に分業化が進む。とうぜん、工場の中を束ねるために、スタッフ部門(オフィスにいる工場管理者)が必要になる。工場も社内に複数、あるかもしれない。

本社と各工場との間の情報の流れは、基本的に左の図と同じである。一方、工場内での工場管理者と現場の実行者との間も、よく似たマネジメントのサイクルが作られる。ただ、現場とやり取りする情報は、本社とやり取りする情報とは、粒度や中身が少し異なる。

本社から各工場に降ろされる指示情報は、製品単位が基本だ。製品に、数量と納期が付随している。Whatだといってもいい。ところが、工場管理者から各現場に出される指示は、製品を構成する部品表をもとに、工程展開された、工程(作業区)単位の製造指示に、詳細化される。そこでは工程単位の期限と、必要な人員・機械・金型等の製造資源と、さらに製造仕様や作業手順など、詳細化されたHowが必要である。

逆に、各工程・作業区から上がってくる報告情報も、製品単位や工程レベルで集約して、何がどこまで進捗し、あるいは完成したか、そして品質はどうかを、まとめなければならない。本社を通じて顧客に出荷できるのは、品質がOKとなった完成品だけだからだ。

このように、ふつうの製造業では、業務は3階層になっていて、その間の情報の流れは、それぞれが反時計回りに、2つのサイクルが重なって、いわば「8の字」のように動いていく。

これをもう少し粒度を上げて描いたのが次の図だ。なお、煩雑を避けるため設計業務は略したが、個別受注生産では設計プロセスも入る。また購買と入荷は、サプライヤーとの情報のやり取りだから、サプライヤーの生産業務が、製造の下側に並ぶ。実際には、その中身は、これと似たような三層構造になっている。そして、さらにサブサプライヤーにつながっていく。このように、複数のサプライヤーが鎖やネットワークのようにつながって、サプライチェーンを形成していく。
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さて、ここまでの話では、指示情報・報告情報のように、すべて「情報」と表記してきた。ところで、「情報」と「データ」は別物であり、わたしは意識して区別して使っている。

情報は人に意味をもたらすもので、不定形なものだ。それ自体は紙に書いてあっても、口頭で言ったものでも、かまわない。データは、定型化された記号の並びであって、電子媒体、あるいはゆずっても、せいぜい紙のカードなどでハンドリングされる。データは蓄積・ソート・検索・集計など、機械的処理に向いている。

零細企業では、指示も報告も、口頭や紙の伝票の「情報」だけで、十分、回るだろう。しかし、企業規模が大きくなり、扱う量が増えると、必然的に機械処理に向いた「データ」化していく必要がある。これが『デジタル化』の基本的モチベーションだ。そしてデータを扱う仕組みを、ITシステムとかソリューションと呼ぶ。

しかし、人間が生み出した情報を、定型的な「データ」に転換するためには、ある種の標準化・コード化が必須である。機械に「あれ持ってこい」では通じない。「棚番1234にある品番XYZを、コンベヤ搬出ステーションに置け」になる。そのためには、品目や機械や人員や倉庫棚に関する、台帳を整備しなければならない。

製造業の場合、その中心に来るのは、品目の台帳(マテリアル・マスタ)と、品目間の関係を規定した部品表(BOM)になる。ここができていないと、8の字のサイクルを、データがスムーズに流れず、あちこちで人間が介在しなければならなくなる。人間が介在した途端、スピードは落ちるし、ミスも混ざるし、状況も見えなくなりがちだ。

そして、この情報とデータの流れが、いかにシームレスに統合されているかが、その企業の「デジタル化」を図る尺度となるのである。


<関連エントリ>
 →「データと情報はこう違う」 (2012-07-24)


by Tomoichi_Sato | 2020-10-12 08:15 | サプライチェーン | Comments(0)

価格リスクと豊作貧乏を解決する、サプライチェーン・マネジメントの知恵

前回の記事「経済学を疑う — 価格リスクと豊作貧乏は本当に不可避か?」で、わたしは、農産物のサプライチェーンに「在庫・納期」による調整機能が存在しないため、需給のアンバランスは価格メカニズムのみに頼ることになると書いた。その結果、豊作になると供給過剰で価格が下落し、それが生産者を直撃する仕組みになっているのである。

ちなみに、昭和時代にできあがった、従来型の農産物のサプライチェーンは、図のような形をしている。生産者(農家)はとれた作物をJA(農協)に集める。JAはそれを青果市場に送り出す。青果市場は、それ自体は在庫機能を持たない。一日に入荷した商品は、原則としてその日のうちに、全量をさばききってしまう。供給過剰の時は、価格を下げてでも売り切る。そして、仲買や二次卸等を通じて、青果店やスーパーなどに卸していくのである。
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経済学者は、「市場メカニズムは人類最大の発明」と信じている人達だ、だから、価格メカニズムで需給が一致すれば一件落着、それで何がまずいんだ、均衡点が経済効率の最大値となる状態なのだし、と考えるかも知れない。でもそれは、農業という天候と自然に左右されがちな産業の安定性を損ない、働く人達のモチベーションを傷つけることになる。

誰も農業をやらなくなると、社会全体の経済効率は、今より案外、もっと最大化するかも知れない。だが、われわれは皆、飢え死にしてしまう。だとしたら、この問題を解決する方法を考える必要があろう。

解決策の一つは、「在庫ができない」という商品性質をどうにか改善する事である。

事実、たとえばコメという作物は、昔から貯蔵がきく。芋類なども、比較的長持ちする。だからこうした作物は、少なくとも在庫による需給調整が、ある程度までは可能だ(コメには価格制度という別の問題があるが、ここでは深入りしない)。

冷蔵ないし冷凍の物流も、多少その助けにはなっている。冷凍・冷蔵の物流技術は、「鮮度の高い商品の遠隔デリバリー」が主目的で開発されてきたが、在庫機能を拡大しうる面ももっている。いいかえると、優れた貯蔵・保管方法の考案は、サプライチェーン・マネジメントにおける、最大の技術的イノベーションなのである。

他にも、在庫の方法が無いではない。それは、「畑に在庫する」方法だ。これについては以前、埼玉県深谷の農業生産者の方に関する記事「農業のサプライチェーンを考える」 (2011-07-05)で書いたことがある。深谷ネギは、植え付けは1ヶ月以内だが、収穫期間はなんと9ヶ月間もある。その間、注意深い栽培方法を用いて、少しずつ平準化して出荷していくのだ。だから1反あたりの収入で比べると、米に比べて、ネギは断トツに高くなるときいた。

もちろん、この栽培方法は、誰もがすぐ真似られるような簡単な技術ではない。また、すべての作物に使えるわけではない。だが、明らかにヒントにはなる。生産量をできるかぎりピークの小さい、平坦化(平準化)した形にすること。かつ、市場の需給状況を見ながら、生産量を調整できる能力を持つこと。それは、農業の高度化の、一つの方向性だ。

在庫以外に、もう一つの需給ギャップの解決方法がある。それは長期契約や直販といった、別な販売チャネルを構築するやり方である。これも以前から、様々な形で工夫されてきた。長期契約である程度、事前に供給量と価格を合意することができれば、価格変動の直撃を避けることができる。

これは、上の図に示した、JA(農協)と青果市場と仲卸をバイパスして、生産者と流通を(場合によっては消費者を)ダイレクトに結びつける方策だ。基本的に当事者同士の相対取引(「あいたいとりひき」)だから、市場メカニズムのような、その日その場で、多数の候補から最適な相手を探し合うことは、できない。事前の合意が必要であり、そのためには、供給者と需要者との間で、双方向の信用が必要である。

ただ、知り合いの専門家・河野律子氏によると、青果市場には「商品の目利き」能力という、独自の提供価値があるという。それを全部スキップしてしまうのは、せっかく過去から蓄積された仲買・卸のノウハウを、社会的に捨ててしまうことになりかねまい。また、直販といっても、個別の生産者がマーケティングできる能力には限界がある。職人的な作物作りの能力と、商売人の才覚は、別物だ。両者を兼ね備えるのは、なかなか難しい。

そうした課題はあるが、たしかに販売チャネルの多様化は、サプライチェーンにおけるリスク回避の定石の一つである。

また、この方策のバリエーションとして、「農産物の加工用途開発」も有用であろう。農業のいわゆる「6次産業化」が提唱されて10年以上になるが、ここで提案されているのは、1次産業の農業に加えて、食品への加工という第2次産業(製造業)、そして第3次産業(流通業)の機能をも、かねそなえたビジネス形態を目指すべきだ、という主張である。

もしも農業生産者が、自分で製造業及び流通販売業も兼ねることができるなら、それは販路の拡大、かつ付加価値の拡大につながる。また、自分で製造販売も行えるなら、在庫・平準化生産の意義もかねることになろう(自分でやらない場合は、この機能は薄れてしまう)。たしかに、これはチャレンジする価値のある事業だと言えるだろう。

(ところで余談だが、この「第6次産業」というのは、1+2+3=6、という足し算ではなく、1×2×3=6、という掛け算を表しているのだそうだ。まあ、言いたいことは分からないでもない。だが、普通の理工系の感覚では、1m x 2m x 3mの直方体の体積が、6mではなく6になるように、1次×2次×3次を計算すると、6次^3になるはずである。提唱者は理科系の人ではないのだろう)

さて、第3の需給ギャップ解決方法は、需給情報の共有である。これは、サプライチェーン・マネジメントでは良く知られた定石でもある。生産側で、供給量の予定(直近の収穫量の見込)の総量を可視化し、自律的な生産調整をできるようにする。

そのために必要なことは、生産品種別(作物別)の生産者の全国レベルの連合体、一種の組合の組織化だろう。現在のJAというのは、地域単位で組織されている。これは農業共同体(ムラ)の歴史から生まれた姿かと想像する。だが、サプライチェーンの視点からいうと、物流の発達した今日では、地域単位の物流集荷機能よりも、作物単位での全国レベルの情報交換機能の方が、重要になっているのではないか?

このような作物別の組合が作れれば、農作物の輸出についても、有用だろう。現在の輸出は、県単位での取り組みになっているようだ。そうやって海外でも地域間で競合するのは、もったいない。全国をまとめたマーケティング機能を持つべきであろう。そうなれば無論、チェーンストア等との長期契約上も、有用だ。

チェーンストアとの長期契約は、個別の小規模生産者単位では、あまり実質的メリットが大きくない(買い手側の方が強い)だろうが、全国レベルの組合となれば、状況はかわる。地域単位での収穫量の変動を、別の地域とのバーターで吸収することができる。交渉力も上がるだろう。

情報の共有という点では、本当は需要側の情報も可視化できるといいのだが、こちらは飲食店と家庭の集合体だから、まずムリだ。でも、少なくとも生産者側が見えるだけでも、サプライチェーンのマネジメント力はかなり向上するはずである。

* * *

まあ、わたしは農業分野については素人だし、上述の案にも、さまざまな現実の障害はあろうと想像する。ただ、本当にめざすべきビジョンがあれば、乗りこえられない障壁はない。障壁はたいてい、人間がつくったものだからだ。

そして、サプライチェーンにおいて農業に当てはまることは、それ以外の産業にも同様に当てはまるのだ。労働力需要にピークと谷があって、不安定な産業。サービス業的で在庫のきかない産業。こういう業種を、あなたは知らないだろうか? あるいは、似たような製品を作っているのに、地域単位で競争していて、情報共有や輸出に目が向かない産業。こうしてみると、たとえば受託ソフトウェア開発のSIerなど、案外よく似た特性を持つ業界がありそうではないか。

前の記事のはじめに書いた、北フランスのシャンパーニュ地方では、ブドウが豊作でできすぎると、シャンパンの価格を維持するために、収穫せずに畑でつぶしてしまうのだという。その話を聞いたときに、「賢い」と賞賛すべきなのか、「愚かしい」と断ずべきなのか、正直、胸の内で二つの感情が入り交じった。お金が儲からなければ生活は成り立たない。だが、作物を育てる人は、ただお金のためだけに、太陽の下で働いているのではあるまい。

葡萄の木々と毎日対話している人達を、列車の車窓から見つつ、経済社会の知恵がもっと働く人のためになればいいのに、と思わずにはいられなかった。


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  (2020-09-28)



by Tomoichi_Sato | 2020-10-05 08:15 | サプライチェーン | Comments(0)