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欠品を起こさないための在庫手配入門(2)――引当てとストック在庫

前回のつづき:)あなたは新米の営業マンとして、営業所の製品在庫の手配担当を任されている。あなたの担当する製品Xは、平均して1営業日あたり、平均5個の需要がある。そして本社に製品Xの生産依頼をかけると、納入されるのは最長2ヶ月先になる。

さて、製品Xの在庫量は月初に24日分(=120個)あった。加えて、先月のはじめ、すでに18日分(90個)の生産依頼を本社に出していた。それは来月初に入荷するから、累積で24+18=42日分(210個)の供給がある訳だ。でも逆に言うと、42営業日(=2ヶ月と2日、再来月の月初め)後には、欠品が起きる見込みだ。

だからあなたは、再来月中に欠品を起こさないためには、やはりここで、40日分(200個)の生産依頼を出しておこうと考えた。ところが、隣の先輩が、「おい、製品Xの在庫のうち、55個はもう引当てしているからな」と、あなたに言うのだ。

在庫の引当てって、なんだろうか?

前回記事でも説明したとおり、在庫問題を考える際には、「累積需給曲線」を使うと便利だ。これは横軸に日時をとり、縦軸に製品量の日数基準(=数量を1日あたり平均消費量で割った値)をプロットしたグラフである。ここに需要(出荷)の線と、供給(生産)の線を書き入れて、バランスを見ていくのに使う。生産管理分野で使う「流動数曲線」のバリエーションだが、縦軸に日数基準を使うのがポイントだ。

ところで、前回の図では、累積需要線は右肩上がり45度の直線で描いた。これは毎日、製品Xが律儀に5個ずつ売れていくならば、正しい。しかし、現実には、そんな風には売れていかない。個別のお客様から、もっと大きな数量単位で、ときどき注文が入っては出荷していくのだ。だから実際の需要線は、図に描くと階段状になる
欠品を起こさないための在庫手配入門(2)――引当てとストック在庫_e0058447_23250786.jpg
上図の例を見てほしい。ここでは向こう3ヶ月分の需給状態を示している。青が需要で、赤が供給だ。需要の正確な予測は難しいから、当初は計画線として、45度の右上がりの青い点線を引いた。しかし、個別の顧客からの注文と出荷の累積線を描くと、青い実線のような階段状になる。5日後と17日後に、それぞれ10日分を出荷した。ちなみに本日は、25日目であるとしよう。

そして、当然のことだが、受注をうけた日と、実際に出荷する日はイコールではない。お客が八百屋の店頭にやってきて、大根を買って持ち帰るような訳にはいかないのだ。顧客は普通、複数の製品をまとめて引き合ってくる。こちらは、まずは価格を見積もり、さらに該当する製品の在庫状況を調べて、納期を回答する。営業所に在庫がない場合は、近隣の営業所から「横引き」してもらうか、あるいは本社に緊急の生産依頼をかけなければならない。そして価格と納期を回答し、交渉して、ようやく確定注文をもらえるのだ。もちろん欠品を理由にその注文を断るという選択肢もありうるが、それはできる限り避けたい。

図でいうと、本日ある顧客から16日分(80個)の注文を受けたが、出荷予定日は10日後の35日目になる。この80個の在庫品は、もう出荷が予定され、「予約済み」状態になっている。

このように、受注日と出荷日の間には、通常、ある程度の日数の開きがある。言いかえるならば、手元には在庫品として物理的に存在しているが、すでに近い将来出荷用に予約されている。これを在庫の『引当て』と呼ぶのだ。

さて、ここで重要な概念を一つ、理解してほしい。在庫には、『ストック在庫』と『フロー在庫』の二種類があるのだ。ストック在庫とは、文字通り、ストック用途であり、まだいつ消費するか、どこに出荷するかが定まっていないような在庫だ。これに対して、フロー在庫とは、具体的な消費予定が決まっている種類を指す。引当てされた在庫は、フロー在庫の範疇になる。

営業所の製品倉庫の中には、じつは二種類の在庫がある。まだ出荷先の決まっていない「ストック在庫」と、すでに出荷予定に引き当てられている「フロー在庫」である。同じ品目でも、この二種類がある。顧客から新規に注文が入った時、割り当てて良いのは「ストック在庫」の分だけである。これを区分できないような受注管理システムや在庫管理システムは、いささか機能不足と言えよう。

また、たとえば本社から営業所に向かって「輸送中」の在庫(トラックの車上や輸送船上にある在庫)も、同様にフロー在庫である。少なくとも、向かうべき営業所は決まっているからだ。だなお、営業所の倉庫に入った途端に、その物品は「ストック在庫」のカテゴリーに戻るかもしれない。でも輸送中はフロー在庫なのだ。から、車上や船上にある在庫を、ストックだと思って勝手に転用してはいけない。

あなたのケースに戻るならば、先輩が、「55個はもう引当てしている」というのは、すでに受注済みの分として、その55個(=11日分)が近い内に出荷され、在庫から無くなってしまうことを意味している。ということは、24-11=13日分しか、手元にはストック在庫がないのだ。これでは今月中に欠品の可能性がある。ただ、来月の月初に既手配済みの18日分が入るので、一息つくことはできるが。

それで、どうすべきか。いずれにしても、本社への生産依頼は不可避だ。じゃあ、何個を手配するべきか。あなたの選択肢は、2つある。一つは、前回の記事で述べたような考え方、すなわち、発注から納入までのリードタイム=2ヶ月間分の数量(製品Xでは200個)を、まとめて手配するというもの。そして、入荷したら、在庫量を定期的にチェックして、残りの数量が2ヶ月分を切ったら、また2ヶ月分を手配する。

そうなると、納入される直前には、在庫はほぼゼロになる。納入直後は、2ヶ月分=200個になる。だから、営業所における製品Xの平均在庫量は、長期的には、その半分の1ヶ月分=100個になるだろう。

だが、もう一つの考え方もある。あなたは、とにかく毎月のはじめに、製品Xの生産依頼をかけるのだ。その時の数量は、累積需給曲線から予測される、2ヶ月後の基準在庫量からの不足分とする。基準在庫量とは、もちろん月初に1ヶ月分(100個)の在庫があることだ。今のあなたの状況では、2ヶ月(40日後)には在庫ゼロになっている。だから、とにかく1ヶ月分100個を、依頼する。来月も同じように、1ヶ月分を依頼することになるだろう。でももし、たとえば翌月末に5日分でも在庫が残る見込みなら、20-5=15日分の手配で良い。

このようなやり方をすると、長期的に製品Xの平均在庫量は、手配量の半分の0.5ヶ月分=50個になるだろう。

営業所の先輩は、「営業部門には『在庫責任』があり、過剰な在庫量を抱えていると、査定でマイナス点をくらう」と言っていた。だとしたら、平均在庫量は少ないほうが良いはずだ。だとしたら、後者のやり方のほうが良いではないか。

いやいや、ちょっとまてよ。あなたは考える。毎月1回、100個からの不足分を頼むより、毎週手配すればいいではないか。基準在庫量を、1週間分の需要量25個とする。週のはじめに、そこから不足している分を補充するよう、生産依頼する。そうすれば、平均在庫量はその半分の12.5個にまで下がっていくはずだ。ああ、なんと名案なのだろう。

さっそくあなたは先輩に、毎週、生産依頼をかけることにします、と報告すると、
「馬鹿じゃないのかお前は!」
と叱られてしまった。

――えっと、なぜですか?

「鉛筆みたいな文房具を手配するんだったら、そういうやり方も分かる。注文すれば、明日くるからな。だが、ウチの製品は本社に依頼しても納品は2ヶ月後だ。来週のことすらよく分からないのに、なんで基準在庫量を1週間分25個にできるんだ。もしお客から26個以上の注文が来たらどうする? たちまち欠品だろうが」

――あっそうか。そうですね。

「そうですね、じゃないだろが。それに本社工場の立場になってみろ。毎週毎週、うちの営業所から小刻みな生産依頼を受け取ったって、月次生産計画にはどうせ全部の営業所からの依頼を集計して、まとめ生産を考えるんだ。生産ってのは、まとめて作るほうが安くなるからな。」

――そうすると、生産依頼の手配の間隔は、月より短くしても意味ないですね。

「そうだ。生産計画のサイクルが月次である以上、それより短くはできない。無理に短くしたら、工場に対しては、月の半ばで追加変更をかけているのと同じことだから、迷惑なんだ。これが商社みたいに、よそから仕入れた商品を売ってるなら別だがな。」

――でも本社の計画サイクルがもっと短ければ、もっと在庫は減らせますね。

「理屈じゃあ、そうだ。だがな、本社工場からこの営業所まで、トラックの配送にかかる運転手の時給やガソリン代なんかは、製品を1個運ぼうが、トラック満載で運ぼうが、コストはほとんど同じなんだ。だから少量多頻度の配送は、相対的にコスト高になっちまう。」

――じゃあ、どうしたら良いですか。やっぱり、月1回ずつ生産依頼するのが良いでしょうか?

「まあ多くても月1回だろうな。ていうか、そもそも毎月、定期的に需給の傾向を見て、足りなそうな分だけ手配するやり方ってのは、要するにベースになる予測が必要なんだ。そいつは手間がかかる。精度も必要だ。製品Xなんか、わりと一定のペースで売れていく商品だし、季節性もあんまりないから、在庫量があるラインを切ったら発注をかける方式でも、十分じゃないのか?」

(ちなみに在庫管理学の分野では、在庫があるレベルを切ったら一定数量発注手配する方式を、「不定期定量発注」とよぶ。また、定期的に在庫の推移をチェックして、不足分を発注手配する方式を「定期不定量発注」とよぶ約束になっている。前者は、ある意味、受動的・簡易的な手配方式であるのに対して、後者は、能動的・計画的な手配方式である。だがそれゆえ、計画=予測の精度が要求されることを、先輩は先輩は指摘している訳だ。

また、この記事の例でも分かる通り、定期不定量での補充手配を行う場合、発注から納入までのリードタイムよりも短いサイクルで期間を設定すると、手配した品目が入荷する前に、次の手配をかけなければならなくなり、難易度が高いので、注意が必要である)

――そうですね。分かりました。じゃあ、製品Xはとりあえず、2ヶ月分の200個を注文しておきます。それで、再来月以降も、在庫量が200のラインを切ったら手配するようにします。

「いやいや、お前さんまだ分かっていないな。それだけじゃ、足りないんだ、」

(この項続く)


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(2020-07-20)



by Tomoichi_Sato | 2020-07-26 23:39 | サプライチェーン | Comments(1)

欠品を起こさないための在庫手配入門(1)――まず、累積需給曲線を理解しよう

あなたは新米の営業マンである。営業所に配属になって、先輩と一緒に客先まわりをするかたわら、営業所の抱える製品在庫の手配担当になった。具体的には、顧客の注文に応じて「出荷指示」を出し、また足りなくなりそうだったら、補充のために本社に「生産依頼」をかける仕事だ。出荷指示も生産依頼も、コンピュータの販売管理システムから入力する。箱詰めとか荷揃え・入出荷などの手作業は、委託先の物流会社がやってくれる。

あなたの担当する製品Xは、平均して毎月100個の需要がある。週休2日で月20日の営業日と考えると、1日あたり平均5個、売れていく勘定だ。

本社に生産依頼をかけると、納入されるのは2ヶ月先になる。なぜそんなに時間がかかるのか、と疑問に思って、先輩に聞いてみた。先輩の説明によると、各営業所が入力した「生産依頼」は、月締めで本社が集計し、翌月の生産計画に反映する。生産計画も月単位で動くし、本社から営業所への配送も、トラックに複数製品をまとめたりするので日数がいるから、最大2ヶ月のリードタイムがかかるという。

ここで、やさしいクイズを一つだそう。今が月初だとしようか。あなたがコンピュターの端末から調べてみると、営業所の手元には、製品Xの在庫が120個あった。では、あなたが本社に依頼すべき生産数量と、その結果起きる事を考えてみていただきたい。

別に難しく考える必要はない。今、製品Xは120個の在庫がある。月間の需要量は平均100個だ。だから今月は間に合う。しかし、来月になったら早々にも、在庫がなくなって、注文を受けても欠品状態になる。たとえ本社に今日、生産依頼を出しても、それが納入されるのは再来月だ。あなたの営業所は、製品Xについて、来月は欠品のため100-20=80個分を売り損なう、ということになる。

この売り損ない(販売機会損失)を防ぐ方法はあるだろうか? 今からでは、方法はない。だとしたら、せめて次回以降は二度と、こういう欠品の事態がおきないようにするしかないと、あなたは考える。

では、あなたが今日、本社に依頼すべき生産数量はいくつかのか?

生産依頼をかけてから納入されるまでのリードタイムが2ヶ月間、ということは、少なくとも、2 x 100 = 200個分を依頼しなければ、次回以降もまた同じ問題が起きるはずだ。だから、最低でもあなたは200個の生産依頼を出す必要がある。さらに、在庫数量はコンピュータの端末を見れば分かるのだから、あなたは定期的に製品Xの在庫レベルをチェックし、残りが200個を切りそうになったら生産依頼をかけるべきだ、と分かる。

このように、在庫レベルを見て、ある数量を切ったら補充のための手配をかけるやり方を取る場合、その基準となる在庫量(=手配数量)は、発注リードタイムの期間内に消費(=出荷)する数量に等しくなる。

 基準在庫量 = 発注リードタイム期間の需要量

では、あなたの営業所における、この製品Xの在庫量の平均値はいくつになるのだろうか?

この計算も、それほど難しくはない。あなたは製品Xの在庫数量が200個を切ると、生産依頼をかける。その後2ヶ月間で、ちょうど在庫はゼロになる。ゼロになったタイミングで、200個が補充される。つまり、在庫数量は、200個と0個の間を、行ったり来たりするのだ。だから在庫量の平均値は、ちょうどその中間、100個になることが分かる。

こういう在庫量の問題を考える際に、よく「ノコギリ状の線図」が使われる。横軸に日付をとり、縦軸に在庫量を取るグラフだ。在庫から毎日、需要に従い出荷されていくと、在庫量は右下がりのスロープで減っていく。そして補充があると、垂直にぽんと立ち上がる。縦軸は数量を取る場合が多いが、金額で表示するケースもある。

だが、わたしはそのかわりに、『累積需給線図』を使うことをおすすめしている。横軸は日付で、そこは同じだ。しかし、縦軸には毎日の需要量と供給量を取る代わりに、期初からの需要量と供給量の累積値を取るのだ。生産管理の分野では『流動数曲線』と呼ぶことも多い。

また、縦軸には個数や金額ではなく、「日数分」を取ることをおすすめする。日数分というのは、数量を、1日あたりの平均需要量で割った値だ。あなたの製品Xのケースなら、1日平均5個の需要があるから、120個ならば24営業日分、という計算になる。

図を見てほしい。これは、会社全体における、ある製品の需給の状態を示している。青い線は、累積需要曲線を示している(ここでは直線的だが)。毎日、1日分が顧客に出荷されていく。赤い線は累積供給曲線で、こちらは生産計画に従って描く。
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供給曲線の傾きが、なだらかだったり急だったりするのは、一日あたりの生産量の変化を示している。傾きが急なときは、高速な製造ラインを使っているとか、あるいは複数工場で生産しているなどの事情を表している。また、縦軸に切片があるのは、期初の在庫量を示している。もちろんこのチャートは、工場単位や営業所単位に、個別に作成することもできる。

そして、ある日の時点で、流動数曲線における供給曲線と需要曲線の縦の差は、その日に会社が持っている在庫量を表している。だから、供給曲線は原則として、需要曲線よりも上にあることが望ましい。供給曲線が需要の下に来ていると、その時点で欠品が生じていることを表すからだ。

また、グラフを横方向に見た際に、供給曲線と需要曲線の差は何を表すかというと、「納期余裕」を示すことになる。これがゼロになっていれば、ジャスト・イン・タイムに供給している訳だ。つまり累積需給曲線(流動数曲線)での、縦の差は在庫量を、横の差は納期余裕を示すのだ。だから、結局、

「生産マネジメントの主要な目標の一つは、需要曲線と供給曲線を可能な限り一致させること」

にある、と言ってもいい。ジャスト・イン・タイムで、かつ、在庫も最小である、と。これが、製品のみならず、半製品や部品を含めた、すべての品目について達成できている状態が、一つの理想だ。

在庫量それ自体の表ではなく、累積需給曲線のようなチャート形式に表現することで、あなたは在庫手配について、時間軸をもって考えることができるようになる。さらにいうと、倉庫の中に静かに寝ている「在庫」というイメージではなく、もっと動的な「フローの視点」を得られることが、より重要だ。

ちなみに、縦軸に日数分換算をとるメリットは、2つある:

(1) 需要のブレが少なく一定の場合、需要曲線がちょうど45度の傾きの線になること
(2) 尺度が共通になるため、複数の品目間の比較ができるようになること

もっとも、日数分を計算するためには、個別の品目の平均需要量をおさえる必要がある。これはまあ、製品については取りやすいだろう。必ず出荷(納品)記録があるからだ。だが、工場内の品目となると、きちんと部品倉庫で入出庫を記録していないと、難しい。もちろん、生産量から部品表をつかって逆算(バックフラッシュ)することも可能だが、現場在庫の処理など、やや面倒ではある。


さて。営業所におけるあなたの話に戻ろうか。あなたは製品Xの在庫量が120個あることを確認して、今から本社に生産依頼をかけようとしている。ところで、じつは先月、あなたの先輩がすでに90個、生産依頼をかけていたことを、販売管理システムの端末から、あなたは知ることになった。すると、来月の月初に、90個が補充される訳だ。てことは、来月末の在庫は、いくつになる計算だっけ。

そう。こういうときに、流動数曲線の表示が便利なのである。月初に120個(24日分)ある。来月初に90個(18日分)入るから、累積で210個(=42日分)の供給線だ。営業所の供給線は、階段状になる(毎日工場から製品が供給されるわけではないので)。それに対して、需要線は、45度の右上がりの線になる。来月末(40営業日後)には、まだ2日分の在庫が残っている。しかし、42営業日(=2ヶ月と2日)後に、両者はクロスしてしまう。それは再来月の月初めだ。
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だからあなたは、再来月中に欠品を起こさないためには、最低でも60-42=18日分(90個)の生産依頼がいるのかな、と考える。もっとも、それではまた来月の頭に手配をかけなければならなくなるから、やはり40日分(200個)を依頼しておくべきかもしれない。

ところが、外出先から隣の席に戻った先輩が、妙なことを言いはじめた。
「おい、製品Xの在庫のうち、55個はもう引当てしているからな」

引当て? 在庫の引当てって、なんだろうか?
(この項続く)


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  (2015-01-11)



by Tomoichi_Sato | 2020-07-20 20:18 | サプライチェーン | Comments(0)

プロジェクトの発想を活性化させる、『チームの思考能力』とは何か?

「あなたは、同期30人の集まるパーティの幹事になりました。
 あなたが最初にすべきことは何ですか?」

以前も書いたが、これは、わたしがプロジェクト・マネジメントを学生や社会人に教えるときに、最初に出すクイズの一つである(「Structured Approachができる人、できない人」)。「店を探して予約する」「日取りを決める」「参加者を確定する」、等々、いろんな答えが考えうるし、どれも間違いとは言えない。しかし、わたしがあえてPM講義の最初にこの問いを出すのは、「計画を立てる」という、もう一段抽象度の高い答えが欲しいからだ。

時限的で一過性の取り組み、それも複数の人が関わって、失敗のリスクも伴うような事に取り組む際は、「まず計画を立てる」という思考習慣がほしい。言われなくても、当たり前のことである。そう思う人も多いだろう。ただ、その『当たり前』が、ちゃんと意識され言語化されていてほしいのだ。

ちなみに上記の記事を書いたのは、8年前の2012年7月だ。この年、わたしは東大大学院の柏キャンパスで、毎週金曜日の午後に「プロジェクト・マネジメント特論」の講義を持つようになった。東大PM講義の資料をもとに、2015年には著書『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』を上梓した。もっとも、大学の講義同様では面白くないので、製造業の若手エンジニアを主人公にした、ストーリー仕立ての対話編である(わたしが本を書くときは、なぜか対話篇が多くなる)。

東大柏キャンパスの講義は、今年からは同じ勤務先の後輩に譲ることにした。とても楽しい仕事で好きだったのだが、移動も含め毎週、半日を割くことが、次第にきつくなってきたのである。ただ、同じ東大の本郷キャンパスでの講義は、まだ引き受け続けている。こちらも10年くらいやっているが、年2コマのみなので、時間的にはずっと楽である。幸い評判も良いらしく、複数講師の交代する形式だが、毎年、継続のリクエストを頂いている。

ところで今期は、パンデミック禍の影響で、どこの大学もオンライン授業形式になっている。だから先週の東大本郷の講義も、横浜の自宅からzoomで行った(東大はzoomが標準らしい)。わたしは授業を極力、インタラクティブにやりたい人間なので、ずいぶん勝手が違ったが、まあそこは仕方がない。

プロジェクト・マネジメントの入門編を教える場合、まずは「アクティビティ」の概念と、WBSについて理解して貰う必要がある(無論、ここでいっているWBSとは、プロジェクト・スコープの階層的構成の意味であり、世間で誤解しているようなガントチャートのことではない)。

これを教えるため、上記の同期会パーティの質問に加えて、わたしは次のような簡単なグループ演習を出すことにしている。

「あなたは同期30人の集まるパーティの幹事になりました。企画のはじめから、パーティを終えるまで、やらなければならない作業(アクティビティ)をすべて洗い出してください。
 ただしアクティビティは、1枚のカードに1つずつ、必ず動詞を使って書くこと。」

こういって、いつもは学生たちを二人一組に分け、それぞれの組にPost-It!の付箋カードを、20枚ずつ配って考えさせている。もちろんパーティについては、予算その他、もう少し条件をつけて説明し、イメージが湧きやすいようにしてある。こうすると、一気に教室の中が活性化し、隣同士でああでもないこうでもないと、議論雑談が始まるようになる。

わたしは教室の中を巡回して、課題がちゃんと理解されているかどうかをチェックし、進んでいない班には相談に乗ったりして、授業を進めることにしている。パーティの幹事とは、いいかえればプロジェクト・マネージャーである。プロマネがプロジェクトを始めるにあたり、計画の第1ステップとして、やるべきアクティビティを洗い出してリストアップする。これを体験してもらうのが、この演習の狙いだ。

ところが今回はオンライン形式だったので、やむなくzoomのブレークアウトセッション機能を使って、二人一組に分けて、考えてもらうことにした。Post-Itは配れないので、Excelの表を共有してもらい、そこに書き出すやり方である。

簡単な、ある意味で他愛もない演習だが、学生たちの頭がブーンと回りだす音が聞こえる。ここが楽しいところだ。なぜなら、事を始めるにあたって、最初にやるべきアクティビティ(作業)を、全部洗い出してリストアップする、という行為自体を、たいていやったことがないからだ。

全アクティビティの洗い出しというのは、プロジェクトの最初から最後までを、頭の中でシミュレーションすることに他ならない。パーティ程度なら身近だから、想像力さえ惜しまなければ、別に有名大学の学生でなくたって、ちゃんとできる。逆に東大生だって、考えなければ、答えは出てこない。この問題は正解のない、暗記型では解けない問題だからだ。

この演習をやっていると、開始して10分をすぎる頃から、議論の声で騒がしかった教室の中が、しだいに静かになってくる。だんだんと、洗い出すべきアクティビティの種が尽きてくるのだ。アクティビティの数も、足りなければカードを追加で配る、と宣言してるが、20を超えることはめったにない。これはどこの大学だろうが、あるいは社会人だろうが、あまり変わらない。わたし達の頭の作りは、だいたい似たようなものなのだろう。

そこで、12〜15分たった時点で演習を打ち切りにし、どこかの班を指名して、出した答えを言ってもらう。カードに書き出したアクティビティを、順不同でいいので、はしから読み上げてもらうのだ。他の班は、それを聴きながら、自分たちの出した答えと、どこが一致して、どこが違うかを考えてもらう。聞いているうちに、「え、それがあったか!」という顔が、あちこちに浮かんでくる。

たとえば「店を予約する」とか「参加者数を確定する」とかは、どの班でも書いている。しかし「部屋の飾りつけの調達をする」とか「司会プログラムを作成する」とか「二次会を予約する」とかは、まちまちだ(別に必須ではないから、ないと間違いだとはいえない)。

そして、「参加費を集める」はあっても、「終わってから会計報告をする」は忘れる班が多い。だが30人の集まるパーティともなれば、費用は10万円をかるく超えるだろう。だとしたら、会計報告はしたほうが良いよ、と学生には教える。

時間があるときは、もう一班くらいに、答えを言ってもらう。案外違っているものだし、それでいいのだ。その違いを体験してもらうことが、もう一つの狙いだからだ。

わたし達が頭の中でプロジェクトをシミュレーションするとき、その想像は個人個人の見方、観点によって、かなり固定されてしまう。だから、二人一組で演習するのである。二人で話し合うと、自分の盲点や死角になっていた部分を、相方が気づくことがある。

でも、二人で考えても、まだ視点は固定されがちで、見えていない。それは3人目、4人目がいて、やっと気づくことだったりする。それが、チームの力なのだ。複数の人間で、異なる視点から、対象となる問題を分析して、総合的に考える。一緒に考える能力を持つことーーそれがチームの能力なのである。

チームワークというと、スポーツで、ポジションを決めてパスを回したり、スクラムを組んで一緒に押したりすることを思いがちだ。それはそれで大事である。しかし、複数の人間が同じ問題を、多面的・総合的に考える、というのも、チームの効果だ。このときは、各自の分担や持ち分を超えて、互いに対等に発想できることが大事になる。「複合的な知の創出」だとか「グループによるデザイン思考」、などとカッコつけてよんでもいいし、三人寄れば文殊の知恵、という古い諺を出しても良い。

下の図は、以前「どうどう巡りの議論を避けるために」に描いたものの再掲である。ディスカッションでは、視点が限られているため、ある時間を超えるとだんだん煮詰まっていってしまう。しかし、そこに新しい視点が加わると、また一段レベルがあがるケースが多い。
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このように、東大生が一人でウンウン考えるよりも、普通の人間が数人寄り集まって、あれこれ議論し合うほうが、こうした想像力の部分では、まさることが多いのだ。このことは、暗記上手で、正解をすばやく手繰り寄せるタイプの受験教育を受けてきた学生には、ちゃんと理解して貰う必要がある。もっとも、直接対面している方が、 オンラインより創発効果は高いが、それでも意義は実感できるだろう。

逆に言うと、プロマネは、自分のプロジェクト・チームが、お互いにフランクに議論して、「知の創出」が闊達に起きやすいよう、組織をマネージしていく必要がある、ということだ。

そしてこれが、とても難しい。たいていの会社組織は、ピラミッド型の構造になっている。上司部下・先輩後輩の関係があり、能力もこの順に高いはずだ、ということになっている。予算や人事評価の仕組みも、その構造の中に組み込まれている。上司一人と部下数名でプロジェクト・チームを組んだ時、その中で、対等に議論できるのか?

わたし達の社会で、チームが知的生産性において十分機能しにくい理由は、チーム内のディスカッションがちゃんとできないからだ。理由は3つほど考えられる:

(1) 権威の存在

上司先輩は、仕事の能力・経験において上である、という建前がある。事実かどうかは別として、彼らは仕事上の意見において、より大きな権威をもっている。意見が異なる場合、権威を持つ側の発言力のほうが強い。賢い上司は、自分の意見は言わずに、部下や若手の発言を待つものだが、(わたし自身を含めて)さほど賢くない上司は、部下の話を遮って、自分の意見を先に出したりする。そうすると、その時点で新しい視点や発想も、打ち止めになってしまう。

(2) 権力者への忖度

上司自身ももちろん、権力を持っている。もっとも、プロジェクト・チームの場合は、複数部門からのメンバーがいて、直属の上司部下関係とは限らない。だが、たとえばプロマネより、もさらに上級のマネージャー(部長や役員など)が、プロジェクト・スポンサーとして影響力を持っていることも多い。この場合、当然ながらチーム員は、その意志を「忖度」して物事を決めやすい。「自分たちとしては、この方式が良いと思う。でも役員は、あの方式を望んでいるんだろうなあ」という具合である。このような場合、判断の結果に自分たちのオーナーシップ(当事者意識)を持ちにくいから、問題が表出すると挫折しがちになる。

(3) 批判・質問を嫌う態度

ワイガヤ的議論では、「なぜ?」「誰が?」「どうやって?」といった質問を投げかけることで、さらに発想をかきたてることが大切だ。だが、他人から質問されると、まるで批判されたかのように反応する人も、案外多い。質問の仕方にも上手下手があるのは事実だが、質問を封じられたり自粛したりしていたら、そこで新しいアイデアの種は芽を出さずに終わってしまう。

ことに(3)番目の問題は根が深い。わたしは授業だとかワークショップだとかをいろいろやってきたが、多くの場合、最後に「ご質問はありますか?」とたずねても、海外と違い、日本ではほとんど挙手して質問する人がでないのが普通だ。だから、本当に相手が理解してくれたのか、講演する側が逆に不安になる。それは、質問=批判である、という通念が邪魔するのかもしれない。ただし日本でも、メールや紙で質問を出させると、それなりに出てきたりする。質問を活性化させるには、一種の「心理的安全性」が必要なのだろう。

かつてオズボーンが「ブレーン・ストーミング」技法を案出した際には、「他人のアイデアを批判しない」をルールにした。しかし質問までは禁じていない。質問=批判を嫌う態度は、「俺の言うことが聞けない(伝わらない)のか?」というスタンスである。逆に言うと、「このアイデアの所有権は俺自身だから、意見への質問・批判は俺に対する批判になる」と考えている訳だ。

こうした態度は、プロジェクトを個人やグループ単位に細分化して分業させ、その間で互いに競わせるような競争原理型の組織で、強まりがちだ。アイデアの発案者=アイデアの権利者、という考えでいる限り、「良いアイデアは組み合わせで生じる」「生まれたアイデアはチーム全体のパフォーマンスを上げるための、共有財産」との思想には、たどり着けない。分業・競争型組織は、繰り返し型オペレーションでは効率的かもしれないが、プロジェクトの計画・設計段階ではクリエーティブになりにくいのである。

それでも、天才的なリーダーがプロジェクトを率いて、彼が一から十まで全てを完璧に計画すれば、仕事はうまくいくはずだ、というのが英米式の思想なのかもしれない。PMBOK Guideなどをよんでいると、紙面の背後にそういった考えを、うっすらと感じるときがある。わたし達の社会も英米型に影響されやすいので、「天才型リーダー」を嘱望する声は高い。

ただ、社会がそんなに大勢の天才を供給できないのも、事実である。東大生は天才的に頭がいい、と思っている人も世の中には多少いるかも知れないが、本人たちに「貴方は天才ですか?」と聞いてみれば分かる通り、そんなのはまるきり見当違いである(笑)。無論、稀には本当に頭のいい人もいたりはするが、そうした人の社会適合性が高いかといえば、また別だ。

わたし達は基本的に、個人個人ではそんなに頭の良くない存在なのである。視点も限られていて、記憶力も頼りなく、判断ミスもする。それでもチームとしてなら、もっと高い思考能力を持つことができる。もし良い成果を出したければ、誰かリーダー個人に頼るのではなく、組織レベルで「知的生産能力」を確保するしかない。そのためにはチームが、対等で率直な議論=ディスカッションの場になるよう、工夫していく必要があるのだ。

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by Tomoichi_Sato | 2020-07-11 15:45 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

お知らせ:次世代スマート工場に関するオンラインセミナーを再度開催します(7月14日10:30〜)

先月の23日に開催したオンラインセミナー:
日揮の考える《次世代スマート工場》とは ~どう動くのか、どう作るのか~
は、おかげさまで大勢の方から参加申し込みをいただき、すぐ定員100名に達しました。

そこで、参加できなかった方のために、下記の要領で7月14日(火)10時30分から、アンコール開催をいたします。もちろん前回同様、無償です。

1時間枠で、最初にわたしが40分ほど講演し、その後20分ほどQ&Aをオンラインで行うという形式で行います。講演内容は前回と同じですが、後半のQ&Aはもちろん、その場で頂いたご質問にできる限りお答えする形式です。

前回も書きましたが、『次世代』スマート工場とつけたのは、現在あちこちで語られている「スマート工場」と、少し区別したいからです。その多くは、現場の機械やセンサーからデータを取得し、蓄積・分析して、故障予知や生産性カイゼンに活かす取り組みだと想像します。

ただ、それだけでは、デジタル技術やIoTの使い方として、非常に勿体ない。こうした新しい技術は、日本の工場の在り方を根底から変えるインパクトを秘めているはずです。工場全体が「インテグラルな(統合された)システムとして設計され、スマートに操業される」存在にかわる可能性がある。それを称して、「次世代スマート工場」とよんでいます。

そして、この話を理解していただくためには、どうしてもシステム工学的な視点=システムズ・アプローチを持っていただく必要があります。今回のオンラインセミナーでは、人と、機械と、モノと、建築と、データとからなる、実体を持つシステム=工場に関する、システム工学的なアプローチについて、まずご説明します。デジタル技術に興味を持つ技術者で、製造業の仕事に関わる方ならば、どんな職種・ご専門でも、興味を持って聞いていただけると思います。

オンラインセミナーは前回、初めて実施してみましたが、その場にいなくても、多くの方と直接やり取りができるのがオンライン形式の良い点だと、実感しました。また、沢山の良い質問を頂戴しました。たとえば、

・ディスクリート系の工場は製造能力の把握が困難だが、方法はあるか
・現場責任者が工場ダッシュボードを見て判断する仕組みと、中央がガイダンスを下す仕組みの優劣
・ディスクリート系とプロセス系の中間に位置する生産方式の工場の特性とは
・工場全体のスマート化は必要と思うが、予算がかかると上の了解がとれないジレンマの解決法は
・生産効率と「人が働きたくなる工場」の間には,密接な関係があるか

などなど。中には答えの難しい問いもありましたが、また皆さんと一緒に考えられればと思っています。


<記>

日揮の考える《次世代スマート工場》とは  ~どう動くのか、どう作るのか〜

日時: 2020年7月14日(火) 10:30~11:30 (講演40分+質疑応答20分)
主催: 日揮ホールディングス(株) IT Grand Plan 2030事務局

講師: 佐藤知一
    日揮ホールディングス(株)チーフエンジニア(ビジネス・アナリスト)

講演概要:
「スマート工場」の概念は、IoT技術の進展やドイツIndustry 4.0などの動きとともに、世界的に注目を浴びています。しかし日本国内の取組みの多くは、単純なデータ収集・可視化に留まり、工場全体のスマート化につながらないように見受けられます。本講演ではまず、一般的な組立加工系の工場に生じやすい問題を、システム工学の観点から分析します。その上で、工場全体の知能化のために必要な『中央管制システム』の概念を紹介し、これからの新しい工場づくりのあり方を論じます。

参加費: 無料(事前登録制)
申込み: 下記をご参照ください

※ご登録後、ウェビナー参加に関する確認メールが届きます。
※今回も定員100名となっております。もし定員を超えた場合は、別途ご連絡させていただきます。

以上、よろしくお願いします。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


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 → 
(2017-09-04)


by Tomoichi_Sato | 2020-07-06 21:01 | 工場計画論 | Comments(2)