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在庫のデータ構造を考える

「わたし」は新米のエンジニアである。最近、先輩からオフィス備品類の在庫管理を手伝うようにいわれた。ペンだとかノートだとかフォルダとかいった文具類が中心である。これまである意味、ルーズな管理だったが、経費節減の折、きちんと在庫数量を管理した方がいい、と部長が方針を出したとのことだ。今まで、各人が勝手にネットからモノを注文して取り寄せ、請求伝票だけが部の庶務係に回される。これをやめて、部で必要数量を考え、集中的に購入し、部のキャビネに保管しておく。そして各人が必要時に庶務係に申請して受け取る、という管理方式にかえることになった。その、キャビネの在庫管理の仕組み作りが、「わたし」の仕事だ。

在庫管理の仕事ははじめてだ。だからいきなり部の仕組みを作り始める前に、たとえば自分の家のモノを在庫管理するとしたらどうするかを考えてみることにした。題材は何でも良いが、出入りの多い食べ物にしてみよう。

在庫管理というのだから、何よりもまず、「在庫の表」が必要なはずだ。何が何個ある、そういう台帳のようなものだ。そのイメージは、表(1)のようにするのが良さそうだ。まず、品番がある。次に品名が来る。そして在庫数量と、数量単位だ。ここでは、いろいろなモノに品番をふって管理するのがポイントだ。たとえば「玉ネギ」ならば品番A12がといった風だ。こうすると、いかにも“プロが管理してる”っぽい感じがするではないか。うん、これがいい。

ところで、この表の中では、品番と品名は一対一に対応している。していないとこまる。同じA12が、ある行では「玉ネギ」で、別の行では「ほうれん草」では何が何だか分からなくなる。ということは、品番と品名の関係は、別の表で管理して、両者を関係づけるのが良さそうだ。つまり、在庫量のデータを表す(2a)「在庫テーブル」と、品名を登録する(2b)「品目マスタ」である。こういう風に、依存関係が混乱しないように独立させるやり方を、『正規化』と呼ぶんだと先輩が言っていたな。ま、この程度は初歩だよ、ワトソン君。
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ん? でも、ちょっと待てよ。考えてみると、同じ食べ物でも、家の中の置き場所はいくつかあるな。まず、冷蔵庫。それと冷凍庫か。一方、物置に近い場所にストッカーもあって、腐りにくい野菜類はそちらに置いたりもしている。うーん。じゃ、在庫テーブルには、保管場所の欄も必要らしい。同じ品番が、複数の保管場所に存在することもあるからな。となると、本当は台帳は(3)の「保管場所別在庫テーブル」みたいな形をしているべきなのか。そして、(2a)の「在庫テーブル」は、それを集計サマリーした結果の表ということになりそうだ。うむ。これでいいだろう。
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「わたし」はリラックスしようと思い、冷蔵庫からジュースの1Lパックを取り出し、コップについだ。そして無意識のうちに、このジュースはいつ買ったかなと、パックの賞味期限を確認した。そのとき、ふと自分が大事なことを一つ見落としていたことに気がついた。

在庫量というのは、日々、変動しているではないか。たとえばこのリンゴジュースも、自分が買ったときには1リットルあったが、飲んでいくうちに少しずつ減っていく。ただ、それを毎日まさか測ったり確認したりはできない。だって手間がかかりすぎるもの。ということは、在庫数量のデータを台帳に登録したら、その登録日も同時に記録しないとまずいのだ。となると、あるべき台帳の姿は(4)の「保管場所別在庫テーブル・登録日付き」みたいなイメージになりそうだ。
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これでいいのだろうか? なんだか「わたし」は少し自信がなくなってきた。そもそも、部の備品を管理したいんだったよな。庶務係がまとめて注文を出す。文具が会社に届く。それを部のキャビネにしまう。各人が、たとえば「わたし」が、ペンを必要なときに、庶務係に伝票を書いてペンを1本払い出してもらう・・。

そうすると、ペンの在庫量のデータというのは、いつの時点で登録するんだろう? キャビネの中にペンが何本はいっているのかを登録するのは、ペンが文具屋さんから到着したときなのか、それとも各人に払い出すときなのか・・。

「わたし」は急に、驚くべき真理に気がついた。いや、革命的なアイデアと呼ぼうか。「在庫は登録すべきデータではない!

業務のプロセスを考えてみると、実際に人が把握しているのは、保管場所にモノが出入りする数なのだ。保管場所にいくつモノが入っているか、ではない。表(5a)の入出庫テーブルを見てほしい。家の食べ物の例で行くと、たとえば8月12日に玉ネギを1個、冷蔵庫に入れました。結果、冷蔵庫の中の在庫量は1個になりました。さらに14日に、八百屋から6個、玉ネギを買ってきてストッカーに置きました。結果、ストッカーの在庫は6個になりました。ところが翌日、冷蔵庫から1個、出して料理に使いました。すると冷蔵庫の中はゼロ個になり、今度は20日にストッカーから1個、玉ネギを取り出して冷蔵庫に移しました・・

自分たちが把握し、きちんと登録すべき実体は、入出庫のデータであって、在庫量はそこから計算で導出されるデータなのだ。そして入出庫の種類は、供給による入庫、消費のための出庫が基本だが、ある保管場所から別の保管場所に移動するための入庫と出庫もある。移動の場合、全体の在庫量は変化しない。
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そして、考えてみると、部の備品在庫量も、月単位の記録が必要になりそうだ。そのためには(5b)のような「月別在庫サマリーテーブル」を、(5a)から計算して作成すればいい。表には月初材料量と、最新の在庫量を、それぞれ日単位で集計して更新する。過去の月については、最新在庫量=月末在庫量、ということになる。じつにスマートじゃないか。ああ、自分はなんて優秀で頭が良いんだろう!「わたし」は仕事の進み具合に満足した。

これで完璧だろうか? もう、見落としていることはないか?

慎重な「わたし」は、もう一晩だけよく考えてみることにした。そして夕食のために豚肉の玉ネギ炒めを作っているときだった。なぜか冷蔵庫に玉ネギが見当たらないのだ。たしか残っていたはずなのに。わたしは冷蔵庫の中をひっくり返し、中身をほとんど空っぽに出して探したところ、ようやくケースの後ろに引っかかって、つぶれかかった玉ネギが見つかった。あーあ、これじゃ食べられないや。

そしてなぜかふと、自分が研修のために工場見学をしたときのことを思い出した。その工場では、ちょうど資材倉庫で「棚卸し作業」というのをやっていた。半期に1回の作業ということだった。部品類を全部棚から出して、数を数え直すのだ。なんでそんなことをやるのですか?とたずねたところ、「帳簿の数と現物の数が合っているか確認しているのさ」、という答えだった。「そして、傷んだり古くなって使えない部材は捨てるんだ」と。

部の備品キャビネでも、同じ作業をやらなければいけないかもしれない。棚卸しかあ。そのデータは、どう扱うんだろうな。「わたし」は(6)のような「棚卸しテーブル」を想像した。品番と、保管場所ごとに、棚卸し作業日を決めて、確認できた在庫量、そのうち廃棄すべき数量を入力する。結果として現在庫数量が導出される。

でも、もしかしたら棚卸しというのは、入出庫の一種として扱うこともできるかもしれないな。でもまあ、作業のサイクルが別だから、別の表にした方が便利かもしれない・・。
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せっかく夕方に感じた自信と高揚感が、夜のうちに傾きかけたばかりではない。翌朝、「わたし」はもっと面倒なことに気がついた。工場では確か、「ロット管理」というのをやっていた。これ、部の備品でも必要になるだろうか? 工場でなぜロット管理が行われているかは、一緒に見学に行った同僚の質問に、工場の人がこう答えていた。「不良が見つかったとき、それがロット固有の不良ならば、そのロットだけを破棄すればいい。もしロット管理していなかったら、全品を検査して破棄しなければいけない可能性が高まる」と。

まさかペンやノートにロット管理が必要だとは思わないけれど。でも、もしロット管理が必要だったら、(7)のような「ロット別受払テーブル」がいるんだろうか。それを集計サマリーして在庫量のデータを作るのかな。でも、ロットがいつもひとまとめで扱われるとは限らない。ロットの中から一部だけ払い出したら、それはどうするんだろう。それと、もしかりにロット不良が出たら、それは在庫量のデータとしてはどう扱うんだろう・・「わたし」は頭がくらくらしてきた・・

・・というのは、むろんフィクションである(最初から分かっていたと思うけど^^;)。ただ、この例を通して、在庫のデータモデルについて、いくつか教訓を学ぶことはできる。

(1) 在庫は実体データではない。入出庫から導出されるデータである。
(2) 在庫量は日時と紐づいてはじめて意味を持ち、通常はその履歴も必要だ
(3) 在庫管理には棚卸し業務が必須である。(棚卸し業務を経てはじめて実在庫量が確定し、それが収支決算のベースになる場合も少なくない)
(4) 在庫をロット管理する場合もある。

そして、この新米君のケースでは省略したけれども、在庫金額(=単価×数量)、消費期限、シリアル番号、引当処理と有効在庫、品質検査結果による減損やロットアウト、倉庫間移動などなど、数々の業務要件があるのが普通だ。また、例に挙げたテーブルだって、まだまだ改良すべき余地もある(長くなるからもう書かないが)。だから、たかが在庫管理システム、などとあなどると、結構痛い目にあうこともある。在庫管理は奥が深いのだ。

世間で言うモノの管理(わたしの用語では、マテリアル・マネジメントないしマテリアル・コントロール)というのは、なぜか会社の中で単純業務と軽んじられるケースがある。モノを設計したり加工したりする方が本質だ、と思う人々や、お金の管理の方がずっと大切だと信じる人々などに囲まれて、仕事をしている。そして、在庫量は見えて当たり前、在庫はちゃんと管理できて当たり前、みたいに扱われたりする。このような風潮は、少しは反省されてしかるべきだと考える。そういったマインドセットのまま、自社のサプライチェーンが国境を超えて広がると、あっという間に仕事のプロセスが混乱してくるのは目に見えている。

それと同時に、在庫データを扱うシステムについて、システム屋さんたちももう少し腕を磨いたらどうかと思うことがある。上の例でも分かるとおり、ちょっとした在庫管理でも、それなりのエンティティとリレーションの組立が必要になるのだ。むろん、こうしたデータ構造の問題に決まった『正解』はない。データ・モデリングという仕事は、客観的・科学的な面もある半面、どうすればエレガントで美しく作れるかという、技芸(英語で言うArt)の面も併せ持っているからだ。そして、この両面を磨くのに、在庫のデータモデルほど、格好の例題はないと思うのである。
by Tomoichi_Sato | 2015-08-30 22:26 | サプライチェーン | Comments(0)

広域サプライチェーンのためのPSI(生産・販売・在庫)計画と、その立案手法DRPとは

ときどき感じるのだが、「広域」という言葉でどれほどの距離をイメージできるかは、その人の育ってきた社会によって、かなり異なる。もう20年以上も前になるが、はじめて北海道の帯広から札幌まで、夜、鉄道で移動したことがある。特急で確か5時間程度の距離だったと思うが、途中、かなりの間、両側に全く人家のない漆黒の闇を走る。窓の外に見えるのは、車内灯からかすかに照らし出される大きな蕗の葉ばかり。まことに広漠な大地という感じで、都市に近づき人家の光が見え始めると、どこかほっとする。北海道の人は内地の人よりも大陸的だ、といわれるのも当然かな、と思った(古い世代の北海道人は、今でも本州以南を「内地」と呼ぶ)。

しかし、その北海道人だって、シベリアの鉄道や、北米の横断道路などを何日も何日も走り続ければ、「広域」とはこういう意味かと思うに違いない。たしか50年代の米国映画「ジャイアンツ」だったか、テキサスっ子が東海岸から花嫁を連れて故郷に戻る際、鉄道がテキサス州境を超えたので「もうすぐつくわね」と花嫁がいうと、「いや、まだあと二日かかる」(Two more days.)と男が答えるシーンがあったと記憶する。列車であと二日。この距離感は、ただ飛行機にのって一気に飛んだだけではピンとこない。

これだけ広大だからこそ、米国人は、いや米国に限らず大陸の人間はおおむね、補給とかロジスティクスといったことに関心が高くなるのだ。それは製造業とて同じである。電話一本で何でも翌日に届く日本国内にいると、モノが足りなくなる心配は売り手にとっても消費者にとっても、あまりシリアスではない。しかし大陸国で欠品が生じたら、それを手配するのに1週間かかるなんてのは、ある意味、ザラである。

仮にあなたが全米相手の消費材を作る会社の社長だったとしよう。たとえば、何でもいいが、出版社としようか。米国の出版事情に詳しい訳ではないが、少なくとも米国には再販制度という便利な仕組みは、存在しないはずだ。本は自分のリスクで製造(印刷)して、売れそうな全米各州の書店に自分の判断で配本しなければならない。書店の店頭になければ、消費者はたぶん別の本を買ってしまうだろう(よほどのベストセラーや特殊な専門書でない限り)。だから店頭在庫は必須だ。しかし再販制度がないから、書店では、仕入れた本が一定期間売れずに不良在庫化したら、赤札付き値下げ商品として叩き売るしかない。その在庫水準の決め方はむずかしい。

この事情は食品・飲料だろうが、家電製品だろうが、自動車だろうが、ほぼ同じである。流通在庫を維持できるよう、販売量(需要)を読みながら、供給(プッシュ)していく。生産拠点(工場)と流通の末端を結ぶ、長いサプライチェーンの途中に、物流センターやデポを持つケースも多いだろう。では物流センターを、全米50州の、どことどこに配置するべきか。なにせテキサス州の端から端までだって陸送で2日かかるのだ。消費者ニーズに即応、などといっていた日には、全米に100ヶ所くらい建てなきゃならない。実際、Amazon.comはそれくらいの数を持っていて、あの会社が巨大なくせにあまり儲かっていないのは、この投資負担もあるのだ。ところが、じつは物流センターというのはある程度集約した方が、需要のぶれが小さくなって、在庫効率が高くなる。輸送のリードタイム短縮を狙うのか、それともトータルな在庫削減を狙うのか。これも難しい判断である。

だから広域サプライチェーンを抱える企業は、サプライチェーン全体の生産・販売・在庫を一括して計画する仕組みが必要になる。これを生産(Production)・販売(Sales)・在庫(Inventory)の頭文字をとって、PSI計画とも呼ぶ(日本語では『生販在計画』だが、こちらは気をつけないと仮名漢字変換がとんでもない誤変換をしてくる^^;)。これは営業と生産を統括する機能である点に注意してほしい。よくある話だが、営業と工場が不仲で、営業本部は営業本部でチャレンジ目標なんだか需要予測なんだかわからない『販売計画』を立て、工場側は工場側で、「どうせ営業の数字なんてあてにならないから」勝手に割り引いて『生産計画』をたてる、なんてことをしていた日には、あっという間に欠品と不良在庫で会社は回らなくなってしまうだろう。

そのPSI計画の立て方だが、大別して、集中型と分散型がある。集中型は、本社1ヶ所で、全体の計画を立てる方式だ。分散型は、販売拠点や物流センターなどが一定の権限を持ち、拠点や地域単位で、それぞれ計画を立てる。両者は、一長一短であろう。需要に地域差や季節性が強い場合、現地の感覚を肌身で感じる場所で需要を読んだ方が、正確だ。需要の変化にも即応性が高くなる。そのかわり、サプライチェーンの中で複数階層の計画機能を持つと、どうしてもブルウィップ効果が生じやすくなり、上流側の生産量のアバレが大きくなってしまう。在庫の無駄も増えてくる。

全体の在庫や生産効率の最適化を求めるなら、集中型の方が有利である。ただ、集中型が通用するのは、需要にあまり地域性や季節性などのムラが少ない商品だ。あなたが小説やビジネス書の出版社主なら、きっとこちらに該当する。この集中型で使われる手法の一つが、DRP = Distribution Requirement Planningである。日本語では流通資源計画などとも訳すが、これでは何のことだかちょっと分かりにくいだろう。

DRPは、生産計画におけるMRPと対比すると理解しやすい。

DRPでは、BODというデータを中心的に用いる。BODはBill of Distributionの略で、マテリアルに所在情報を付加したリストである。日本語には対応する適当な言葉がないので、ここでは「物流表」と仮に呼ぶことにしておくが、MRPでいうBOM(部品表)に相当する。製造の世界では、同じマテリアルはどこにあっても同じマテリアルだが、広域物流と輸送機能を考えた場合は、たとえ同じマテリアルであっても、テキサスにある物とニューヨークにある物を同一視できない。テキサスの工場で製造したマテリアルをNYのデポにもってくるには、輸送という作業が必要になるからだ。

BOMとは、(著書「BOM/部品表入門」でもこのサイトでも何度も書いているように)、相互に関係を持つマテリアルと数量のリストである。製造の世界では、一連の作業(工程ないし工順)にしたがって、インプットのマテリアル(つまり子部品)から、アウトプットのマテリアル(親部品)が作られる。
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広域サプライチェーンの視点に立つと、物流・輸送も広い意味で製造と並ぶ供給活動の一環である。したがってテキサスの工場の部品資材を、製品としてニューヨーク市場に供給するためには、両者を区別して、その間に輸送という活動をはさむ必要がある。DRPでは、以下の手順に従って生産・輸送量を決める。

(1)各地域別に独立需要を予測し、これをベースに地域別販売数量(地域別総所要量)を定める。
(2)地域別の総所要量から、各地域の物流センター/デポに保有している引当可能在庫を差し引いて、地域別正味所要量を計算する。この際、各地点で安全在庫量を定めている場合は、それを加味した上で所要量を算出する。
(3)地域別の供給ルートと、標準輸送リードタイムにしたがって、供給元における総所要量を計算する。
(4)このようにして求められた生産工場における従属需要(所要量)が、その工場の基準生産計画(MPS=Master Production Schedule)に相当する。あとはMRPの手順に従って生産計画・購買計画を立案する。
(5)なお、生産自体を海外に出している企業では、海外工場への手配計画も必要であるし、主要資材を海外から調達する場合にも、その手配計画も作成する。
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DRPを利用している企業は、日本では非常に少ないと思われる。今日の日本では物流網が発達し、だいたい1日あればどこにでも品物を送れるからだ。このため、大げさな輸送計画は不要なのである。また、物流と生産のタイムバケットがうまく整合できない(物流は1日、生産は1週など)という技術的な問題もあるだろう。

ただ、日本企業でも、中国や東南アジアを含むグローバルなサプライチェーンをかかえて、本社で集中的計画を立案している企業では、DRP的なニーズがあるし、前々回紹介したトヨタ自動車などは、まさにその例である。今後、望む・望まないに関わらず、サプライチェーンが国境を越えて広がる企業が増えていくと思う。その際、営業と生産の二元論的な経営を超えて、統合的な計画を立てられるようになるかが、試されていくだろう。


<関連エントリ>
 →「ブルウィップ効果とは何か」 (2009/03/23)
 →「トヨタのグローバル・サプライチェーン・マネジメントを理解する鍵」 ()
by Tomoichi_Sato | 2015-07-25 19:10 | サプライチェーン | Comments(0)

トヨタのグローバル・サプライチェーン・マネジメントを理解する鍵

「生産革新フォーラム」の6月例会では、明治大学の富野貴弘教授を迎えて「トヨタのグローバルSCM」について、講演していただいた。全世界に生産と販売の拠点を持つ巨大企業・トヨタのSCMの全貌について、非常に分かりやすく、かつ示唆に富む解説をしていただいたので、おさらいをかねてここでご紹介したいと思う。もちろん聞き書きであるので、間違いがあれば責任はわたしにある。ちなみに「生産革新フォーラム」(通称『MIF研究会』)は、生産情報系に関心を持つコンサルタントや企業内診断士の集まる会で、わたしも幹事の一人を務めている。

富野教授の講演は、「生産システムの第一の目標は、納期短縮と在庫削減の両立にある」という点から始まる。一般的な理想は、短納期型受注生産である。

だが、それは生産側が「顧客の注文を言われるままに必死に作る」だけで実現できるわけがない。自動車は多数の複雑な部品群からなる製品であり、その生産には一定の時間がかかるからだ。作る時間の方が買い手の望む納期よりも長ければ、何らかの形で「読み」が必要であり、また需要のコントロールが求められる。そのためには生産と販売の連携が大事になる。にもかかわらず、製販連携は、「リーン生産研究でわりと手薄だった」と富野教授は指摘する。今までの研究者は、生産なら生産、マーケティングならマーケティングをそれぞれ専門家的に研究し、システムの全体像を把握しようとする視点が薄かったのだ。

自動車業界は、グローバルに広がった生産販売の姿の典型である。ちなみに統計によると、2013年度における各社の国内生産に占める輸出分の比率は下記の通りだ:
トヨタ 55%
日産  58%
ホンダ 10%
マツダ 81%
富士重工業 77%
全体で 46%
つまり、世界で作り売っているといっても、じつはかなりまだ日本国内で製造し輸出しているのである。

ただ、上の表を見て、「トヨタはホンダに比べて、かなり海外生産へのシフトが遅れているから、問題だ」と考えるのは早計である。それについては後で述べる(それどころか、ホンダは必死になって日本生産に戻している)。

「海外生産、現地生産が進めば進むほど、グローバル化した良い企業だ」と考える単純な経営観の持ち主も、日本には多い。そういう人たちは、トヨタの生産リードタイムが、現地で生産しても日本生産と変わらないくらい長いと聞いて、驚くに違いない。以下の表は、富野教授の調査結果である:

生産地→消費地
・日本→日本 1ヶ月
・日本→米国 3ヶ月
・米国→米国 3ヶ月
・中国→中国 3ヶ月
・日本→南ア 3ヶ月
・南ア→南ア 4ヶ月

ここでいう生産リードタイムとは、ディーラーの注文を受けて基準生産計画を立ててから、ディーラーに納品されるまでの期間をいう。日本→日本が最短なのは当然として、米国や中国で売る車は、現地生産でも日本生産でも変わらない。それどこから、南アの場合は現地生産の方が日本で作ってえんえん船で運んでいくより、長くかかる!

この理由は、部品手配がネックになるからだ。現地生産と言っても、すべての部品を現地で調達できるわけではない。品質の問題もある。とくにハイブリッド系の部品は日本から作って配っている。だから結局、船積み輸送期間は同じようにかかる訳だ。では、このようなサプライチェーンを、トヨタはいかにマネジメントしているのか?

ここで、(順序がやや逆になったが)富野先生について少しご紹介する。明治大学の商学部で、主に経営学を教えておられる。専門は自動車業界の仕組みであり、とくに「生産システムの市場適応力」が研究テーマだ。同名の著書も出されている(「生産システムの市場適応力 -時間をめぐる競争-」)。富野教授は世界各地の自動車メーカーを、ていねいに実地訪問していて、トヨタについても社員が驚くくらい、内実を正確に調査しておられる。

じつはトヨタ社員でも、トヨタのグローバル・サプライチェーンの全貌を知っている人は、ほとんどいないらしい。計画は日本本社が集中的に立案しコントロールしているのだが、担当者は地域別に分担しているためである。

ついでに、世界の自動車市場について理解すべき事をいくつか書いておく。日本の常識が必ずしも世界の常識ではないからだ。たとえば日本では、個別仕様を顧客が決めてから納車を待つのが普通だ。だからディーラーでの店頭在庫はほとんど不要である。(もっとも例外として、トヨタ系の大手ディーラーの中には、色は白ですべてトヨタから仕入れ、自社の塗装工場で顧客の望む注文に色を仕上げる所がある。こうした企業は在庫を多少持っている)

ところが米国・中国などでは、基本的に店頭販売である。顧客はディーラーにやってきて、そこにおいてある車をその場で買って、乗ってかえる(米国の場合、ナンバープレートはあとで送り届けられる)。もし、店頭に気に入った車がなければ、ぷいっと別の店に行ってしまうだろう。だから、ディーラーはたっぷり店頭在庫を持つ必要がある。これはいいかえると、見込生産で作りだめが必要だということである。「作りすぎのムダ」を避けるよう、系列企業に対して口を酸っぱくして説いているトヨタ本体が、外国では見込みで生産し、在庫しているのだ。

さらにいうと欧州(ドイツなど)では、社用車の市場が非常に大きい。これは、給与以外の目に見えないフリンジ・ベネフィットととして、社用車を管理職に支給する慣習があるからだ。こうなると、市場に入り込むには相当な労力がいる。トヨタをはじめとして、日系メーカーが欧州で今ひとつ振るわないのは、この理由による。

さて、トヨタの世界生産拠点は27カ国、52拠点にのぼる(部品メーカーは別) 。年間販売台数を見ると、日本228万、米国208万、アジア168万、欧州80万である。米国での生産は、1988年からケンタッキーで開始した。直近ではメキシコ新工場が2019年に生産開始予定だ。販売面で言うと、米国はリーマンで落ちたが、最近また少し復活している。

このトヨタのグローバル生産システムを理解するにあたっては、まず日本国内での仕組みについておさらいしておこう。

トヨタには「月度生産計画」と呼ばれるものがある。多くの会社では月間生産計画と呼ぶものだ。ただし生産計画という名前だが、これは同時に販売計画でもある。そしてこれは、トヨタ社内で一番重要な計画である、という。

富野教授によると、月度生産計画を作るおおよその手順はこうだ:
(1) 月初に、向こう3ヶ月分の販売予測値を販売会社から入手する。この数値は、製品の大分類(製品ファミリー)単位で入ってくる。
(2) つぎに、メーカー自身の予測などを加味して、基準となる計画を立案する。ここで、販売側の情報だけでなく、メーカー自身の意思が入ってくる点が重要である。
(3) その後、トヨタが旬毎に配車台数枠(=ファーム)をディーラーに提示し、引き取り台数をすりあわせる。ただ、この時点では色やシートなどオプションはまだ決まっていない
(4) ここに海外輸出分が加味される。輸出分は、この時点でほぼ確定受注(最終仕様展開)が多い。
(5) 車種別の生産計画を、予測にもとづいて最終仕様まで展開し、部品サプライヤーへの内示の基本材料になる
(6) 直近1ヶ月分に関しては、毎月20日過ぎに、車種別生産枠(工場別・ライン別)を決定する。
(7) ディーラーは、最終仕様レベルでの旬間オーダーを、見込み発注する。ただし、一部の小さなディーラーと車種は、随時発注(デイリーオーダー)を許している。その場合は、トヨタ自身が在庫を持つ。
(8) なお、生産日の3日前までは、仕様変更が可能(デイリー変更)。この先は仕様固定となる。

では、アメリカではどうなっているのか。米国はトヨタの稼ぎ頭である。トヨタのシェアは14%だ。その7割が現地生産、3割が日本生産である(レクサスブランドは7割が日本製)。北米の完成車生産拠点は
カナダ、ケンタッキー、インディアナ、ミシシッピ、テキサス、メキシコにある。販売についてみると、カリフォルニアのトーランス市にTMSという販売統括会社がある。トーランス市はいわゆる西海岸のモータータウンで、日本人も多い(ただしTMSは近い将来、テキサス州のダラスに移る予定らしい)。

販売側を見ると、全米を12地域に分け、1,468ディーラーを抱えている。ディーラーはすべて独立系で、基本的に1ディーラー1店舗、という点が米国風だ。上に述べたように、その日のうちに買って帰る客が8割である。だから店頭在庫を多く持っている。トヨタで40日分の店頭在庫がある(日本ではせいぜい2週間分)。でも ビッグスリーは3ヶ月~半年分も持っているから、これでもかなり善戦している方だろう。

米国市場では、販売の3ヶ月前に計画を立案している。その手順を下図に示す。ディーラーからの発注をTMSが統括会社としてまとめ、トヨタに伝える。その後のプロセスは現地生産車と、日本生産車に分かれるが、いずれも日本からの物流に1ヶ月かかる点がネックになり、2ヶ月かかって生産され現地に配車される。ディーラーの発注というのは、まだ顧客がついていない段階での見込発注であるから、その翌月までは、色やオプションなどの仕様変更は受け付ける。その後は確定である。トヨタはディーラーの注文をそのまま受けるのではなく、ある程度の調整を加えた上で、部品・完成車の生産計画に展開していく。
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ご存じの通り、日本ではトヨタはサプライヤーに対して先行内示を向こう3ヶ月分与え、これに対して当月はカンバンで分納の量とタイミングを指示していく。では米国生産の場合はどうかというと、先行内示を与える点は同じだが、カンバンによる引っ張りではなく、週次のバケットによる確定注文になっている。納期も、日本のような納入時間指定ではなく、工場出荷(FOB)である。国内輸送に1日〜数日かかるのがザラで、日時指定など非現実的だからだろう。日本に比べるとのんびりしている。

富野教授はもう一例として、中国の広汽トヨタを説明された。この会社のスタートは2004年9月で、中国で一番新しい。現在は2つの生産ラインだが、第3ラインを増強中で、2017年生産開始予定である。生産能力は38万台。187万m2の面積に従業員1万人を抱える巨大工場である。ここはサプライヤーパークが工場に隣接して立地している点が特徴で、現地調達部品の輸送リードタイムは短い。なお現地調達率は約70%(一次部品)であるが、それでもエンジン、ミッション、そしてボルト・ナットは日本から持ってきている。ボルト・ナットのたぐいが日本製というのが面白いが、それだけ品質や長期耐久性などがまだ低いと言うことだろうか。

中国では「SLIMシステム」と呼ばれる、サプライチェーン可視化のための情報システムが動いている。これは豊田章男氏の肝いりで作られたもので(ちなみに氏はMBAだ)、2008年4月から稼働している。ほぼ壁いっぱいの大きさに液晶パネルが並んでいるシステムで、縦に販売店、横軸にサプライチェーンが上流から下流までならんでいて、そこに星の光のごとく多数の点が表示されている。点の一つ一つが、個々の車のオーダーに対応する。中国では車にRFIDがついていて、これで生産から流通まで、すべてをトラッキングできるようになっているのである。どこで滞留しているかも、すぐわかる。そこで中国トヨタでは、週1回、幹部がこの前に立って会議する「SLIM会議」をやっている(詳細は「日経情報ストラテジー」2010年4月号に紹介されている)。

もう一つ、TOSS(Total Order Support System)と呼ばれるシステムも特徴的だ。こちらは2009年1月から稼働している。TOSSはディーラー別に、販売実績からみた適正な基準在庫量を算出し、現在庫量との差を見せてくれる。そして、車種別の推奨オーダーを出してくれる。中国のディーラーは米国などと比べて経験が浅いため、適正な販売予測に基づく発注ができないため、トヨタ側でそれを支援する目的で開発したのだ。ちなみに中国でも店頭在庫販売が主流で、現金販売である。TOSSのような情報収集の仕組みが可能だったのは、中国の広汽トヨタが、生産と販売の同時立ち上げをしたからだ。ディーラーは320社で、車種も5車種のみに限られている。

このTOSSは、セブンイレブンの発注システムを参考にしたと言われている。セブンイレブンは、各店舗の側に仕入れ発注権があるが、店の仕入れ発注をサポートする情報を、たくさん本部から送ってくる。その日の天気や気温から始まり、運動会や道路工事などのイベント情報まで。

中国においては、2ヶ月前に、月度生産計画をたてる。米国よりは1ヶ月短い。それでも2ヶ月前なのは、主要部品を日本から持ってくるためだ。生産計画後のプロセスは上図の米国と似ており、ただ生産や物流のリードタイムが半分の2週間になっている姿である。なおディーラーから見ると、発注後の仕様変更は可能だが、店頭在庫販売なのであまり多くない。仕様変更後、日本支給部品を出荷する。

部品のリードタイムが2週間のため、2週間の計画サイクルである。トヨタとしては週次のサイクルにしたいが、その場合は部品在庫を抱えることになる。部品メーカーに対してはかんばんとは別に、2週間分のまとめロットのオーダーを流している。

この中国の仕組みは、トヨタのSCMの基本形である、と富野教授はいわれる。基本的な発想は、プロダクトアウトで見込生産である。販売店には引き取り枠と在庫責任を持たせる。在庫責任を持つ部署が発注権を持つ、というのがトヨタの思想だ。ただしメーカー側からディーラーに対する発注支援と仕様変更の仕組みを提供している。これにより、予想と実需の乖離をできるだけ防ぐ。「超インテグラル」なプロセスだ、と表現できるだろう。

そして、日本本社で作る月度生産計画は、世界中の工場のための計画になっている。この点がトヨタのグローバルSCMの最大の特徴である。「月度」は英語でもGetsudoと呼ばれており、すべての計画の要である。マクロに見ると、プッシュ的な面が強い。その方が作りやすいし、安く作れるからだ。そしてトヨタの「市場適応力」は、生産と販売の泥臭い調整によって支えられている。プッシュを支えるために営業力がある。「客に言われたとおり作るなら、営業はいらない。」と、トヨタの別のOBからもきいたことがある。客がほしいという商品ではなく、トヨタの売りたいものを買ってくれるよう誘導する。これが営業の仕事だと。

ここでちょっと注釈を入れると、先に述べたように、日本の自動車工場ではどこも国内向けと海外向け製品が混在している。これは言いかえると、見込生産と受注生産の混在である。純粋に個別仕様の受注生産ばかりを受けると、工場が平準化できず苦しい。そこで自動車メーカーでは、海外分(見込生産分)に自由度があるため、生産の平準化と効率化のために、海外分を潤滑油として使っているのである。だから、ホンダのように国内生産比率を下げてしまったメーカーが苦戦することになる。単に、ホンダは円安にふれたから苦しいという単純な話ではない、とMIF研の本間峰一会長は指摘している。

それにしても、なぜトヨタの正しい姿が世間につたわらないのだろうか。トヨタのグローバルSCMの仕組みをまとめると、次の3点に集約されると思う。

(1) トヨタ生産システムとは、じつは「トヨタ生産・物流・販売システム」である。
10年ほど前から、「トヨタ生産物流システム」という言い方を社員から聞くことはあった。だが、上図を見ても分かるように、三つの機能をすべてカバーしたSCMとなっている。

(2) 営業と生産が共通の月度計画で協力して動いている。
営業と生産の連携が、SCMの鍵となっている。トヨタ自身はよく「ウチは営業と生産に壁があって」などと言うが、これは例のトヨタ節であって、「トヨタに壁があるなら、他の普通の会社など、営業と生産は別会社も同然」と富田教授は言われる。

(3) トヨタのグローバルSCMははDRPシステムである
これは講演を聴いたわたしの所感である。本社がグローバル全体の計画を立てて、プッシュしていく。これはトヨタが中央集権思想だからというより、コア部品を日本から供給せざるを得ない現状から生まれた姿かだろう。(DRP=Distribution Requirement Planningとは何かについては、すでに長くなりすぎたので、項を改めて解説したい)

トヨタ自身は、計画中心で見込生産で、世界中に在庫を持ってビジネスをしている。にもかかわらず、「自分で妙に計画など立てて見込生産するな。作りすぎのムダを省け。受注に即応できる生産体制を作れ」と、トヨタは系列企業にずっと説いてきた。おそらく、ここが世間の誤解の源なのだろう。トヨタの作り上げた自動車のサプライチェーンとは、唯一メーカーのみが計画立案し、それに沿って販売側と生産側を動かす仕組みだ。そのためにリアルタイムで正確な情報を、メーカーに集中しなければならない。少なくとも、これがトヨタにとっての、現時点での現実解なのだ。

だがもちろん、あなたやわたしの業界における現実解が、これと似た姿になるかどうかは、分からない。MIF研による共著のサブタイトルにあるように、「トヨタの真似だけでは儲からない」のだ。答えはわたし達自身が、自分の頭をつかって考えなければならないのである。

<関連エントリ>
 →「Pushで計画し、Pullで調整する」(2014/02/25)
 → 富野教授の論文「トヨタのグローバル・サプライチェーンマネジメント」(東京大学ものづくり経営研究センター ディスカッションペーパー No.463)
 →生産革新フォーラム・著「“JIT生産”を卒業するための本―トヨタの真似だけでは儲からない
by Tomoichi_Sato | 2015-07-01 12:31 | サプライチェーン | Comments(0)

物流センターとは何か

物流センターとは何か。それは、物流のセンターである・・と答えたら、正解だろうか? 

物流とはモノの流れ、すなわち販売者(生産者)から消費者へのモノの移動と輸送のことを指すのが普通だ。だとすると、産地も消費地も全国にちらばっているのだから、物流に「センター」があるというのはおかしな話ではないか。全国をカバーするJRの鉄道に、どこか「中心」があるだろうか。全国の高速道路網の、どこがセンターなのか?

もちろん、そんな意味ではない。物流センターとは、企業あるいは商品(群)にとっての、物流のハブなのだ。「ハブ&スポーク」の意味はご存じだろう。ハブはものの流れの集まる焦点であり、またそこから流れが出る中心である。つまり、モノが大量に・頻繁に出入りする施設をいう。そこにモノを在庫・保管し、そこから仕向先にモノを出荷する機能を持つ、施設。これが物流センターだ。モノを分配・配送する拠点。英語ではDistribution Centerなどともいう。

この物流センターとは、具体的にどのような仕組みのものだろうか。念のため、ネットで検索すると、いろいろな解説が出てくる。たとえば、保管のための倉庫と棚が並んでいて、云々と。では、物流センターと倉庫とは同じものなのだろうか? あるいは、中をフォークリフトやコンベヤが走り回っている写真や図もある。どうやら中でモノがけっこう動いているらしい。それはなぜか? そして、自動倉庫や自動ソーターなど機械化されたマテリアル・ハンドリングの設備も紹介されている。では、高度に自動化されていないと物流センターとは呼べないのだろうか。もちろんそうではあるまい。

物流センターとは何かをわたしが説明するとしたら、どんな設備や機械が並んでいます、みたいな工場見学的な解説ではなく、それがどういう機能を持つシステム(仕組み)なのかを言うだろう。

まず、そもそもどうして物流センターなるものが出現したのか。その昔、つまり昭和の高度成長の初期には、明確な物流センターという種類の施設は無かった。工場の倉庫がそれを代用したのである。いや、第一その当時は、『物流』という言葉すらなかった。意外に思うかもしれないが、物流は「物的流通」という語を略して生まれた言葉で、当初は流通という概念しかなかったのだ。もちろん、モノを動かしたり保管したりする作業自体はあった。だが、それには独立した名前がなかった。「流通」という業務に含まれると思われていたのである。

流通とは、生産者からモノを仕入れ、消費者に届け、代金をいただく仕事である。戦後しばらくの間は物不足時代であり、モノは作るはしから売れていった。そのころは、流通・販売は製造業に従属する、一段下に見られる仕事であった。しかし高度成長を経て、次第に市場が成長に向かうにつれ、だんだんと販売側の力が強くなっていった。その中で、商流とモノの流れの分化が進んでいく。こうして物流という独立した職域が認知されるようになる。

とくに、平成に入って、一般消費財や部品類の海外生産が進み、アジアなどからの輸入が増えると、港で荷揚げした物品をいったん受け入れて、集中的に保管・開梱・出荷する施設が必要になる。かりに国内生産を続けている場合でも、複数工場の倉庫にバラバラに保管しているよりも、一カ所に集めて、需要の気ままな変動に耐えやすい形にした方が、効率的だと考える企業が増えた。これが物流センターの増加の原因である。

もともと、物流とは、生産と消費のギャップを埋めるための機能である。生産地と消費地の不一致を埋めるために、輸送という機能が必要になる。また、生産の時期と消費のタイミング・季節のずれを埋めるために、在庫という機能が必要になる。さらに、生産は大ロットでの効率を望むのに対し、消費者は小口でしか買わない。ここに、切り分けや梱包などの物流加工機能が必要になる。

そしてもう一つ忘れてはならないギャップがある。それは、消費者は普通、単品だけを買うことは少ない、という事実だ(とくに企業がモノを購入する場合は)。つまり、複数種類の物品をまとめて注文し、配送するニーズが生まれる。そのためには、物品を取りそろえる業務、すなわち『ピッキング』機能が必要となる。

今日の物流センターは、基本的にピッキング作業が機能的な中心である。ピッキングをはさんで、その上流側には、
・入荷機能、
・保管機能、
・物流加工機能
などがあり、そして下流側には
・出荷機能
がある(もっとも、場合によってはピッキングと物流加工の手順が逆になるケースもある)。

それぞれの機能を果たすためには、作業と、その作業場所・設備がいる。そして、それらを統括するための、倉庫管理システム(WMS = Warehouse Management System)を持っているのが普通だ。図にすると、以下のような姿になる。
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ピッキング作業のためには、通常、何らかの形で、ストックされたモノが並ぶ棚が必要である。棚でなく、パレットを平置きしたり、パレットを段積みしている場合もある。だが、いずれにせよ、その保管場所にアクセスでき、モノを取り出せるスペースがいる。これをピッキング場と呼ぶ。ピッキング場におけるモノの位置は、きちんとロケーション管理されていなければならない(さもないと、人が一々毎回モノを探して歩かなければならなくなる)。

ピッキング棚やピッキング場が、そのままモノの保管場所を兼ねる場合もある。だが、物流センターが大規模化し、物流量が大きくなると、保管庫とピッキング場は場所を分けた方が効率的である。ピッキング棚は、どうしても人やフォークリフトなどがアクセスする間口をあけておく必要があるし、異なった品種のモノを上下に重ねて積むわけにはいかない。まして、先入れ先出しや保管期限の管理が必要な物品の場合、どうしても棚入れと取り出しの二面アクセスがほしくなる。保管の視点で考えると、スペース効率に制限が生じるのだ。

そこで、中期的な保管場所は別に確保し、ピッキング場には、そこから短期的に必要な量だけを補充していくようなやり方の方が効率的になる。かくして、物流センターの中にも、結構な量のモノの移動と流れが定常的に生まれることになる。それに伴い、コンベヤーなどの搬送設備がいるようになるかもしれない。あるいは、手間のかかる人的なピッキングではすまない量の場合、コンベヤと組み合わせた自動ソーター(仕分け機)などの機械設備もいるだろう。保管庫も、立体自動倉庫のような仕組みが有用だろう(とくに敷地面積の限られた日本では)。

だが物流センターの基本になるのは、保管庫とピッキング場であり、そこに働く人やフォークリフトなどの動線である。

ついでにいうならば、物流加工の指示を出すためには、物流のBOM(部品表)が必要である。たとえば、入り数12個のカートンボックスでは、1:12という員数比による、個品とダース箱の親子関係の定義がマスタ情報になければならない。

BOMがあり、加工材料の入荷・保管機能と、加工後の品目の保管・出荷機能がある、という点では、物流センターはある意味、工場と相似形であることが分かる。むろん、加工作業のしめる重要性とボリュームは大違いである。だが、抽象化して考えれば、両者には共通性がある。ということは、工場の設計と物流センターの設計には、互いに学び合えるところがある訳である。

物流センターの規模を示す指標としては、SKU(Stock Keeping Unit)の数がしばしば用いられる。SKUとは、センターにおいて扱うモノの種類を示す用語である。物流センターでは、同じ品目(たとえば単3乾電池)であっても、個品か、2個パックか、4個パックか、1ダースパックか、1ダース箱入りか、といった包装形態によって、別の種類として扱わなくてはならない。これをSKUと呼ぶのである。SKU数が多いセンターほど大規模であり、棚数も多く、ピッキング動線も複雑になるため、それなりの設計上の工夫がいる。

もっとも、上に説明したのは在庫機能を持つ、ストック型の物流センターの仕組みである。物流センターの中には、在庫を原則持たず、入荷した荷物を積み替え・振り分けて出荷するだけの「トランスファー型」物流センターも存在する。センターがどのタイプになるかは、基本的にどの業種が保有する施設かで決まる。

サプライチェーンの中には、
・製造業、
・流通業(卸)、
・運送業、
・小売業、
という4種類のプレイヤーがいる。この中で、基本的に運送業だけは在庫を保有しない。だから、運送業の物流センターは、トランスファー・センターになる。

それ以外の業種は、自分で在庫ストックを持ち、(大小の差はあれども)在庫陳腐化リスクを抱えつつ、それをテコに利益を得ている。だから、基本的にはストック型の物流センターを運営することになる。その立地や大きさなどは業種や商品特性によりまちまちであるけれども、サプライチェーンの中における重要性は、今後とも増えることはあっても減ることはないだろう。


<関連エントリ>
 →「ピッキングとはどういう仕事か」(2015-05-12)
by Tomoichi_Sato | 2015-06-15 22:51 | サプライチェーン | Comments(0)

お知らせ:納期遵守のための1日セミナー(7月4日・大阪)

来る7月4日(土)に、大阪府工業協会で納期遵守をテーマとした1日セミナー(有償)を行います。昨年からはじめたセミナーですが、幸いにもご好評をいただいているため、第3回の開催となりました。

製造業の実務家向けに、主に受注生産型の工場における、納期遵守のための生産計画と統制(コントロール)について、理論・事例と演習を含めてお話しします。

拙著「革新的生産スケジューリング入門―“時間の悩み”を解く手法」や「BOM/部品表入門」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視しています。そのため、生産活動全般を『システム』としてとらえ、その生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、より上手に設計するためには何に留意したらいいを考える『システムズ・アプローチ』をとります。
したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です(もちろん、ここでいうシステムとは仕組みのことであり、コンピュータのことではありません)。

普通の現場改善コンサルタントの講義に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんのヒントになればと思っています。関心のある方のご来聴をお待ちしております。


<記>

日時: 7月4日(土) 9:30-16:30

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ こうすればうまくいく、受注型生産工場の生産計画 ~」

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会
     http://www.opmia.or.jp/

会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 4-2-5 本町セントラルビル6F
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅8番出口すぐ)

セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)
     https://dl.dropboxusercontent.com/u/17787880/OsakaSeminar-20150704.pdf
by Tomoichi_Sato | 2015-06-12 23:45 | サプライチェーン | Comments(0)

マテリアル・コントロールとはどういう仕事か

ちょっと前にも書いたことだが、拙著『BOM/部品表入門』のサブ・タイトルは「マテリアル・マネジメント改革の基本技術」と帯に銘打っている。BOMは製造業における中核的な情報であり、モノの供給・流れ・消費を司っているからである。だが実際には多くの企業において、同一社内にE-BOMやM-BOMなど複数の部品表が存在し、その間に不整合や矛盾が絶えない、といった問題が見受けられる。あるいは逆に、マスタが存在しないまま設計図や発注書が作成され、いざ組立の段階になってから、どれがどれだか分からぬ混乱状態に陥ったりしている(受注設計生産の業態に多い)。だからBOMの諸機能と重要性について社内で認識し、オーナーシップをとりもどそう、というのがこの本の主旨である。

ところで、わたしはこのサイトで「マネジメント」と「コントロール」を区別して使っている。マネジメントはコントロールのいわば上位概念である。であるから、マテリアル・マネジメントとマテリアル・コントロールも、別の仕事と考えている。マネジメントの原義は「人を動かして目的を達すること」、すなわち人に働いてもらうことだ。しかしこの用語は、人間以外にもいろいろな対象を動かして、自分の目的に役立たせるという意味で広く使われるようになった。お金のマネジメントだとか、時間のマネジメントといった具合だ。マテリアル、すなわちビジネス上で扱う物品(材料・部品・製品等)も、マネジメントの対象の一つになる。

もともと英語のManageという言葉には、ちょうど暴れ馬を乗りこなすような、御しがたい相手を何とかして自分の望むとおりに動かす、という語感が強い。他方、Controlとなると、もっと精密な作業の雰囲気がただよう。日本語で制御という訳語があるように、計画した通りに、相手を動かしていく。だから、Controlの対象は人間ではなく、機械や無生物のことが多い。車のスピードをコントロールした、といえば上手な運転手のイメージだ。だが、車のスピードをマネージした、と言ったら、お前の車は大丈夫なのか? と心配になる。そんな違いである。

余談だが、生産管理やサプライチェーン・マネジメントの分野では従来から、まちまちな用語が業種ごと通用し、相互コミュニケーションの障害となってきた。だからわたしは、せめて自分のサイト内ぐらいは、一貫した用語と概念でしゃべろうと努力している。まあ幸い、プロジェクト・マネジメント分野ではPMBOK Guide(R)の強い影響力があり、またISO21600:2012の制定も相まって、用語のブレは比較的小さい。

ただ、分野・業種別の用語のブレと並んで、もう一つ厄介なのが、日本語と英語との間のブレである。『管理』という用語がその最たるものだ。管理という日本語に該当する英語は、Management, Control, Administration の3つある。これはそれぞれ、かなり異なる概念だ。ManageとControlの違いは上に述べたとおりだが、Administrationはどちらかというと事務処理とか行政とかを思わせる言葉である。よく企業の中には、人事・経理・総務・営繕などをまとめて「管理部門」と呼ぶ場合が多いが、これがAdministrationの語感である。

そんなバカな、米国の経営学修士はMBA (Master of Business Administration) ではないか、だからAdministrationは『経営』という意味だ--こう反論される向きもあろう。ところが、そう単純ではないのである。まず、"Master of Business Administration"という名称が制定されたとき、あまり良い用語ではない、という批判が米国内でもあったことは知っておくべきだ(ミンツバーグ著「MBAが会社を滅ぼす」による)。また、わたしの勤務するエンジニアリング業界では、Project Managerが最高責任者で、その下に、Project Control ManagerとProject Administration Managerがいるのが欧米でも一般的だ(AdministrationのかわりにBusiness Managerという職名を使うことも多い)。ここでAdministrationの仕事はまさに、人の手配や金銭出納・職場環境の面倒を見る、総務的な業務である。ITの世界でも、System Adminは「管理者」と呼ばれるが、しかしマネージャーの職位とは限らない。

この話をさらにややこしくしているのは、英語には『経営』に相当する言葉が存在しないことである。日本語で経営と言えば、企業・官庁・学校などの組織体を維持運営するための、最高位の意思決定権限を含む職務である。経営者と言えば、会社なら社長・会長クラスか、少なくとも役員以上を指すだろうし、学校法人などでは理事・理事長クラスだろう。ところがこういう人たちは、英語ではTop Managementと呼ばれる。彼らの仕事は英語で何というか? 答えは”Management”である。それじゃ課長の仕事と同じじゃないかって? そうなのだ。経営者も中間管理職も、英語では同一の仕事になってしまう。

日本語における「経営」「管理」と、英語における”Management”, “Control”の領域の違いを、おおざっぱに図示したのが下図である。むろん、厳密に言えば、経営者の職域にもControlに属する仕事はあるだろうから、分かりやすく示した目安だと思ってほしい。ともあれ、このような差異があることに、多くの人は気がついていないか、無頓着である。だから、プロマネに任命された若手エンジニアが、何か勉強しようと思ってドラッカーやポーターを読む、といった奇妙な現象が起きるのである。
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そのようなわけで、わたしは無用な誤解を避けるため、このサイトでは極力「管理」という言葉は使わないようにしている。かわりに、カタカナで「マネジメント」「コントロール」と書いている。

マネジメントとは、不確実性が高く、比較的変動の大きな対象を、何とか自分の目的に役立てようとする営為である。その中には、先読みと、リスクテークと、決断が含まれる。そしてしばしば、取り組みのために配下の人間を動員することが求められる。そうした、人を動かすルールを定めるのもマネジメントの一部である。同様に、結果への評価と学びもマネジメントの大事な要素だ。

他方、コントロールとは、比較的予測しやすい対象を、自分の計画したとおりに動かしていく営為である。対象の現状をきちんと観察・測定し、本来の計画からずれている場合は、是正すべくアクションを取る。すなわち、方向を修正したり、スピードを上げさせたり(緩めさせたり)する。ハンドルとアクセルとブレーキで、地図通り運転するようなものだ。マネジメントは道のないところに道を引く。コントロールは引かれた道の通りに、走って行く。

それで(ようやく本題に戻るが)、「マテリアル・マネジメント」という仕事は、御しがたいマテリアルを何とか役立つ状態にしようとする営為だ。企業の中でハンドリングしているモノが少なければ、誰もそんな心配はしない。モノの種類や量や場所が増えすぎて、収拾がつかない状態においてはじめて、必要性が意識される。その要点は、まず、モノの台帳(マテリアル・マスタ)を整備して、何はどれであるか、どんな名前で呼ぶかを、統一することだ。それから、マテリアルの供給の流れ(設計→調達→保管→使用→廃棄)の仕組みを作る。さらに、それぞれの段階では、どのようなルールに則ってマテリアルを登録したり動かしたりするのかを決める。そして、適正な在庫レベルや改廃を判断することなどが含まれる。とくに在庫レベルや改廃の判断には、需要の先読みとリスクテーク、そして評価が不可欠である。

マテリアル・コントロール」の仕事は、もう少し日々の定常的業務に近い。それは、上記のマテリアルの供給の流れの交通整理役である。現在、どのモノがどこにいくつあるのか、そして来月はそれが増えるのか減るのか、そうしたことを把握する。また、具体的に、マテリアルの保管や移動についても差配する。ただし、実際に人手や機械でモノを動かしたり置いたり仕分けたりする業務は、「マテリアル・ハンドリング」と呼ぶ。コントロールは、モノの流れの制御である。コントロールの仕事は、現状の正確な把握、近い将来の予測、そして予実分析と是正措置の勧告・手配からなる。(計画立案作業もコントロールの職務に含める場合もあるが、ここでは除外しておく)

マネジメントの特徴は、先読みやリスクテークや決断といった、人間が介在する行為が中心となる点だ。したがって自動化できないし、コンピュータ・システム化も難しい。他方、コントロールは技術的な客観性が高く、コンピュータ化に向いている。すべてを機械で置き換えることはできないし、すべきでもないが、モノの数を数えたり、位置を記憶したり、先行きの数の計算をしたりといった部分は、自動化しやすい。

逆に言うと、マテリアル・コントロール業務がどれだけIT化されているかで、その企業のマネジメント・レベルを見ることができる。この事情は、コストやスケジュールなど他のコントロール領域も共通で、どれだけきちんとIT化されているかが、マネジメント・レベルの指標となる。もっとも、用語の混乱はこの領域にもあって、IT分野ではしばしば、状況レポートに過ぎないプログラムが「○○マネジメント・システム」などと呼ばれたりしているから、注意は必要であるが。

あなたの会社には、マテリアル・コントロール・システムはおありだろうか? え、「在庫管理システム」ならあるって? もちろん、1工場・1拠点なら、それでも結構。だが、モノを拠点間で動かしたり、外注先に支給したり、設計と並行して調達手配をかけたりしなければいけない業態だとしたら、交通整理は十分だろうか。途中で在庫が行方不明になったりしないだろうか。在庫の数値と現物がしばしば食い違って悩むようだったら、在庫「管理」の内容を、もう一回確かめた方がいいかもしれない。
by Tomoichi_Sato | 2015-04-26 23:31 | サプライチェーン | Comments(0)

とれるだけ仕事をとってはいけない

最初に、損益分岐点の説明からはじめよう。企業は、製品やサービスを売って売上を得る。しかし、世の中にタダの物はないので、そこには必ず費用(原価)が発生する。その費用が製品の販売数量に単純に比例する場合、企業は売上に比例した利益を得ることになる。この関係を図(a)に示す。横軸は、売上である。工場の視点から言うと、売上向上すなわち稼働率向上を意味するから、横軸は稼働率と見てもよい。縦軸は金額で、実線が売上高を、点線が費用を示す。費用は純粋に、売上高に比例する。これを変動費ともいう。売上に伴って、変動するからである。たとえば製品を作るのに必要な原材料の購入費がそうだ。あるいは、製品を加工するための外注費などもそうだ。
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ところが、企業にはこれとは別に、売上高にまったく関係なく、固定的に発生する費用がふつうある。これを固定費という。その典型例は、設備機械の減価償却費である。あるいは、従業員の給料などもそうだ。売上があろうがなかろうが、給料は払わなくてはならない。事務所や工場用地の賃料もそう。

こうした固定費があるため、費用合計の線は、図(b)に示すように、グラフの原点ではなく、縦軸に少しプラスの切片を持つようになる。ところが売上の方は当然ながら原点から右上がりの直線だから、この二つの線は、どこかでクロスして、それより右側は売上の方が大きく(つまり利益が出る)、その点より左側は、費用の方が大きく(つまり赤字に)なる。損失と利益を分ける点なので、これを損益分岐点(Break-even Point)とよぶ。経営者は当然、なんとかして売上を損益分岐点よりも大きくして、利益を出そうと努力することになる。また逆に、なんとか固定費を下げて、損益分岐点を小さく(原点よりに)ずらそうと工夫するだろう。
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ここまでは、まあ基本である。問題はこの先だ。

以前、「稼働率100%をねらってはいけない」(2014-07-27)にあげたグラフ(c)を思い出してほしい。工場の設備は、稼働率が高くなり100%に近づくと、急激に待ち行列が長くなる。これは、受注のタイミングや製造作業の時間にバラツキがあるために生じる現象である。注文が立て続きに来ると待ち行列が長くなるが、注文の間隔が開いたときは(行列の長さはゼロ以下にならないので)行列の短縮効果には限界があり、プラスとマイナスが打ち消し合わないために発生する。だから工場には、ある程度は余剰の能力が必要であり、不況になったからといって、遊休設備を捨てて工場稼働率を100%に近づけよう、などといった施策をとってはいけない。これはORの一分野である待ち行列理論から論理的に導き出される性質だ。
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ところで、この待ち行列の長さはすなわち、その会社における仕掛在庫量を表している。なぜなら、注文を受ける→すぐ原材料を手配する→原材料がサプライヤーから到着する→製造機械の前で行列になって待っている、という訳だから。いや、たとえ物が手元にあろうと輸送中であろうと、手配をかけてしまえば事実上、それはもう在庫なのだ。そして在庫であれば必ず、保管費用や在庫金利が発生する。それだけではない。待ち行列が長くなり、製造リードタイムが長くなることは、納期遅れの頻度が高まる訳だ。厳しい顧客だとペナルティを要求されるだろう。不良が出た際、作り直しの工程への影響も甚大になる。苦肉の策で他社に製造の一部を外注すれば、当然コストがかかる。そうでなくとも、工場にモノがあふれかえってくると、動線が錯綜し、モノ探しのムダな手間が増える。つまり、全体としてコストが増えるのだ。

したがって、
 全体の費用 = 固定費 + 変動費 + 製造待ち行列にかかる余計な費用
ということになり、図(d)のような右上がりの曲線(下に凸)になる。この図から分かるように、費用の線は、今度は2回、売上と交わる。一つは先ほどの損益分岐点のあたりだ。もう一つはもっと右側、稼働率が危険水域に達する地点である。これ以上、仕事をとると逆に赤字が発生する。これをわたしは「危険稼働率」と呼んでいる。

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だから製造業では、急に好況になったからといって、営業部門が「とれるだけ仕事をとって」きてはいけない、ということが言える。ほとんどの企業では営業部門を「売上高(受注高)」で目標管理しているから、仕事があればあるだけ取ってこようと、まるで獲物の群れを追う狩猟動物のように反射的に動くが、これは実は危険なのだ。もっとも図(c)は、工場を単一工程でモデリングしたケースであり、実際の工場はもっと複雑な構成になっているから、この危険稼働率は簡単には算出できない。だが、いずれにせよ費用合計が下に凸の曲線になること自体は確かである。

さて、ここまで読んだ読者の中には、「ウチは製造業じゃないから関係ないや」と思うサービス業の方もおられるかもしれない。「別に、仕掛在庫とか発生しないし」と。

ところが違うのである。たとえ在庫の発生しないサービス業でも、それが受注ビジネスであり、かつ受注前に見積設計作業が必要であったら、受注量を増やしすぎるとかえって赤字になることが、最近の研究で明らかになってきているのだ。なぜか。

昨年11月に、わたしが主催する「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」は文教大学の石井信明教授をお招きして、講演していただいた。タイトルは「需要変動化における受注戦略のマネジメント 〜受注ビジネスを例に〜」である。石井先生の講演は、まず、とある受注ビジネス型業界におけるライバル企業2社の、過去40年間の売上と経常利益の比較から始まる。じつは、わたしがよく知っている業界である。この業界では過去40年間に、ほぼ10年ごとに成長局面があった。顧客となる市場に、一種のブームがあったからである。

しかし2社の業績をよく比べてみると、受注変動の大きなA社の方が、そうでないB社と比較して利益が低い傾向が読み取れる。とくに、大きな受注高を上げた少し後に、ひどく赤字を出す傾向があり、長い年月の間では、それが企業の収益力の足を引っ張っていることが分かる。いいかえるなら、同じような業界のアップダウンを経験しても、受注量が比較的平準化されているB社の方が、長期的には成長力が高いのである。

どういうメカニズムでこのような現象が生じるのか。石井教授の立てた仮説は、こうである。競争入札が主体で、受注前に見積設計を要求されるような業界においては、精度の高い見積ができる人材はある程度経験を積んだベテランであろう。そうした人材は、当然ながら社内で限られている。経験の足りない人間が見積をすると、見積自体の精度が落ちる。精度が落ちるというのは、別に見積の値自体が小さくなるという意味ではなく、平均値からのプラス・マイナスの振れ幅が大きくなる訳である。

さて、入札できまる受注ビジネスにおいては、当然ながら提示価格が競合企業の中で最も低い者が、仕事を受注できる。コストを低く見積もった案件ほど、受注の可能性が高まるが、とうぜん受注後の採算は低くなる。そして、見積の精度が悪いほど、コストを低く見積もる可能性が高まり、低採算で案件を受注してしまう可能性も高まることになる。そうなれば、受注段階からすでに、プロマネの管理範囲を超えるような想定外のコスト差異を背負って、スタートしなければならないわけだ。

そして、受注ビジネスにおいて、企業は普通、受注した案件の遂行と、次の案件の見積作業を複数、平行して抱えている。ところが、受注量が多くて業務繁忙期にあるときは、見積に十分なリソース(ベテラン人材)を投入できるとは限らない。その結果、見積の精度が落ち、不採算で仕事を受注してしまうのだ。そして、いったん赤字のジョブを受注してしまうと、その問題を押さえ込むために、さらにベテラン人材を張り付けざるを得ない。また赤字プロジェクトは納期も遅れがちだから、そうした人材を次の案件に回すことも難しくなる・・

石井教授は上記のようなダウン・スパイラルの現象をモデル化して、シミュレーション実験を行った。見積精度は、見積作業に割り当てられる人時に対するロジスティック曲線(S字カーブ)で近似する。詳しい説明は省くが、多期間にわたり、毎年同額の受注を継続する場合、受注高が上がると平均利益も上がっていくのだが、ある点を超えると利益が下がりはじめる結果になった。つまり、平均利益を最大化する受注高が存在するのである。これは、上に説明したような繁忙による見積精度低下によって起こる。

つぎに、三つの受注戦略をシミュレーションで比較してみる。戦略Aは固定型で、目標受注量を固定し、毎年、その目標額を受注すべく、案件の入札を繰り返す。戦略Bは変動型で、前期の受注量が小さかった場合は目標値を大きくし、前期にたくさん受注高が上がった場合は、翌年の目標値を下げる、という具合にする。そして戦略Cは抑制型とよばれ、戦略Bと同様に前期が良ければ当年の受注は抑制するが、たとえ前期の受注量が小さくても、毎年の受注量上限を達成したらそれ以上は入札には参加しない、というものである。そして、今度は、市場の需要にも変動を加えた。

それを15年分、回した結果は、きわめて明瞭だった。市場の需要に変動がある場合、15年間の合計利益は、
 戦略C(抑制型) > 戦略B(変動型) >> 戦略A(固定型)
となったのである。つまり、毎年の受注量に上限を決めて、受注量の平準化を図る戦略が、もっとも安定して収益を上げられる。そして、不況時にも目標を変えずに「とれるだけ仕事をとろう」と入札を繰り返す戦略Aは、他よりもかなり利益が低くなるのである。

ちなみにこの研究は、プロジェクト・マネジメント分野では世界トップの論文誌であるInternational Journal of Project Managementに昨年掲載されたので、もし詳細を知りたい方は、そちらを参照されるといい(Ishii, N., et. al.: An order acceptance strategy under limited engineering man-hours for cost estimation in Engineering–Procurement–Construction projects. JPMA, Vol. 32, pp.519-528, 2014)。

という訳で、教訓は一つである。つまり、たとえ市場環境が好況であっても、“この際、とれるだけ仕事をとろう”、としてはいけないということだ。自分の組織の処理能力を超えて受注してはいけない。それどころか、たとえ稼働率100%に満たなくても、危険水域を超えて受注をしてはいけないのだ。そうすれば、後でツケが回ってくる可能性が非常に高い。短期的には、運がよければ、切り抜けられるかもしれない。しかし、長期的には、自分の成長力を損なうのである。

そして、わたしが何より心配なのは、世の中にはこうした研究があるのに、産業界ではいっこうに気にしないどころか、知ろうともしない様子であることだ。最初に書いた、工場内の仕掛在庫に関わるダイナミクス研究は、米国ではFactory Physics(工場物理)と呼ばれ、広い意味での経営工学の一部である。後半に紹介した石井先生の研究は、プロジェクト・マネジメント分野の研究だ。どちらも、たしかに理論的研究に見える。しかし、ビジネスに対する示唆は非常に大きいものがある。それなのに、わたし達の社会では、産業界はこうした研究に関心がなく、もちろん研究費を投じようという動きもろくにない。

「ウチの社長は文系だから」という言い訳もよくきく。だが、上記の理屈は、ふつうに考える能力のある人なら、理解できる範囲のことである。まともな経営者は、「じゃあ、ウチの危険稼働率は何%なんだ?」とたずねるだろう。それを推算するのが、エンジニアの能力ではないか。「製造業を捨てた」はずの米国では今なお、工場物理が盛んに研究されている。一方、「ものづくりが日本を救う」はずのわれらが社会では、“数式の載った本なんて出版しても、誰も買いません”、と出版社がいう始末だ。どこかで、わたし達の社会の知的風土は、劣化してきていないだろうか? ・・これが単なる杞憂であることを、わたしは願うが。
by Tomoichi_Sato | 2015-03-03 23:12 | サプライチェーン | Comments(7)

減らすべき在庫、生かすべき在庫の区別 — 在庫管理論を再考する(3)

昨年末、拙著『BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)』が増刷になった。初版が2005年1月だから、ありがたいことに10年間、現役で売れ続けていることになる。累計部数も1万部近い。多くの人に手にとっていただけたということは、それだけ部品表の問題に悩む人も多いことを示しているのだろう。

この本は帯の部分に「マテリアル・マネジメント改革の基本技術」とサブ・タイトル風に銘打っている。BOMはマテリアル・マスタ(品目マスタ、部品マスタなどとも呼ばれる)とともに、製造業におけるDNAにも似た役割を持っており、モノの供給・流れ・消費を司っているからである。

ところで、わたしは勤め人なので、本を書くには土日か夜の時間しかつかえない。したがって、1冊の本を書くのに丸1年はかかる。そして1年もあると、執筆してているうちに、本の主旨が最初の意図から変わっていってしまうことがある。本書を書いたときが、まさにそうだった。書き始めた当初は、ERP技術者のために、MRPのパラメータ設定のノウハウを書くつもりだったのだ。だが、書き上げてみると全く別の主張をもつ本になっていた。すなわち、「BOMは製造業のDNA情報であり、そのデータを特定のパッケージソフトなどに依存すべきではない」という結論になったのだ。

BOMの概念は、生産計画手法MRPとともに、米国で’60年代に発達した。MRPの基本コンセプトは、当時の米国における生産管理思想を色濃く反映している。大量見込生産、豊富な生産資源(機械設備能力)、大ロットにふんだんな在庫・・そして何より、生産という仕事を一種のシステムとしてとらえ、非常に理性的かつロジカルにモデル化して、コンピュータ(当時のことだから大型汎用機)で計画・指示しようという発想だ。

この発想は、’70年代前半のオイルショック以降、転換を迫られて、需要にミートしたタイムリーな生産と、在庫陳腐化リスクの低減が求められるようになるのだが、そこでの武器もまたMRPであった。ATPなど様々な機能拡張を経て、’80年代にはMRP IIとして模様替えされ、’90年代には各種ERPパッケージに組み入れられるようになった。その流れは今でも連綿として続いており、グローバル化したサプライチェーン全体での生産・在庫を最適化するために、現代流の超高速MRPを中核にして、販売操業計画S&OPをまわしていく方策が、多くの欧米系企業でとられている。

ところが日本は’80年代、電機業界や自動車業界の輸出の黄金期であり、「日本流経営」に自信満々、“もう欧米に学ぶところなし”と公言してはばからぬ人が続出した。さらに麗しきバブル時代に入ると、生産管理なんて泥臭い仕事には、誰も関心を示さなくなった。このためMRP II以降の発展がまったく入ってこないし、普及もされない状況が10年間続いた。これをわたしは「生産管理の失われた10年」と呼んでいる。バブル崩壊後の’90年代後半は、米国からSCMなどの最新概念がまた入るようになったが、しかし同時に日本企業は工場の閉鎖と海外移転に走るようになった。こうして、生産管理論全般の足腰が弱まってきた。

わたしの本業は工場づくりである。製造業のお客様に工場を作り、また工場の操業管理のためのコンピュータシステムを設計して納める仕事に、ずっとたずさわってきた。ところが、国内顧客はバブル経済崩壊以降、なんとなく、生産管理の基本コンセプト自体がぐらついているケースが多いように、感じられた。同時に、長引く不況のせいか、あるいはERPブームのためか、生産管理システムをきちんと構築できるIT技術者の数も減ったようだった。このままではまずい。わたしがときおり本を書いたり、こんなサイトをずっと運営し続けているのも、もう少しきちんとした議論の土台作りに微力ながらも貢献したいと考えてきたからだ。

さて、BOMの本を書いている途中で、中間部品および原材料の在庫の問題にぶつかった。在庫管理の本は、主に製品在庫に焦点をあてて書いていることが多い。しかしBOMは部品材料の表なのだから、そいつをどう定義し、どう管理すべきか、あらためて考えることになった。『BOM/部品表入門』の第5章「在庫管理のためのBOM」は、まるまる一章を、その問題にあてている。

それを考えるうちに、在庫と一口に呼ばれるものの中にも、じつは複数の異なるカテゴリーがあることに気がついた。そのきっかけは、「引き当て」の概念である。

「引き当て」とは、モノに使用の予定を紐づけることである。あなたが本を探しに書店に行ったとしよう。たとえば、名著の呼び名も高い佐藤知一の『BOM/部品表入門』(笑)を探しているとする。店頭を探したが見当たらない。そこで仕方なく注文をいれることにする。数日後、書店から入荷の連絡を受け、また店にいってみる。注文カウンターにいくと、奥から本を出してきてくれる。たぶん注文主の名前を書いたスリップが添付されているだろう。ところが、よく見ると、棚にも同じ本が置かれているのを発見する。書店がこの本は売れ筋と判断して、2冊仕入れていたのだ。店頭に置いてある本と、注文カウンターの奥にとってある本は、同じモノの在庫である。だが、そのカテゴリーが異なる。1冊は、すでにあなたという特定顧客による消費予定が決まっている。書店はこの本を、他の客先に売るわけにはいかない。しかし店頭に積んだ1冊の方は、誰に売っても良い。というか、誰に売るか(売れるか)決まっていない。

このような状況のことを、引き当て済み在庫=1冊、未引き当て在庫=1冊、と表現する。こうした引き当ての概念は、製品のみならず中間部品にも原材料にも適用される。

さて、「在庫を減らせ!」という号令がかかったとき、減らすべきなのは引き当て済み在庫の方なのか、それとも未引き当ての方なのか? いうまでもないことだが、すでに顧客のついている引き当て済みの本を処分(返品)する訳にはいかない。減らすなら、まず未引き当ての在庫を減らすべきである。

ところで、店頭にある製品で引き当て済みのものは、「売約済み」在庫になる。しかし、中間部品や原材料で、特定の使用予定(製造オーダー)に引き当てられているものは、まったく別の呼び方になる。それは英語でWork in Process = WIPと呼ぶ。日本語なら「仕掛品」とか「仕掛在庫」になる。原材料で使用予定が決まった瞬間から、製品になってめでたく工場から出荷するまでの間は、次の使用予定が決まっている限り、WIP=仕掛在庫になる。工場内や工場間で輸送中のモノもそうだ。いいかえると、製造リードタイムがゼロでない限り、工場内には必ず仕掛在庫が存在する。たまに、「うちの工場は在庫ゼロを目指しています」などという所があるが、それは仕掛品ゼロ、すなわち「何も製造しないこと」を目指していることになる。

仕掛在庫(WIP)と似ているものに、エージング在庫がある。たとえばウィスキーを樽の中で熟成させる。これには年月がかかる。だが、ウィスキー工場で「15年も在庫しているのか! 死に筋在庫だから早く処分しろ!」と叫ぶ者がいたら愚かである。必要があって寝かしている。このように、仕掛在庫やエージング在庫、輸送中在庫など、すべて次工程で使用されることが確定しているものをまとめて、わたしは『フロー在庫』と呼んでいる。

では、特定の使用予定に紐づいていない、未引き当て状態の在庫は何と呼ぶのか? 答えは、ストック(Stock)である。英語で見込生産のことをMTO = Make to Stockとよぶが、この事情をよく表している。ストックするために製品を作る。ストックの在庫を店頭に積み上げて、客を呼ぶ。そしてこの用語は、中間部品でも原材料の在庫でも、共通だ。まだ特定の使用予定に紐づいていない状態、すなわち、いつか発生するかもしれない将来の需要に備えるために置いておくものをストック在庫と呼ぶ。

ところで、ストック在庫であれフロー在庫であれ、その発生には二種類の理由が考えられる。計画的につくって置いているものと、偶発的に生じるものだ。たとえば、工程間でロットサイズが異なる場合は、どうしても途中で在庫が生じる。これは工程間バッファーの一種で、計画上やむをえず生じるフロー在庫である。しかし、同期するべき工程間のタイミング不良が起きて、発生してしまう滞留品は、偶発的なフロー在庫である。そして、意図せずにできてしまって、しかも使用予定が決まっていない種類の在庫は、いわば『できちゃった在庫』だ。

工場がまず第一に撲滅すべきなのは、この『できちゃった在庫』である。それに比べれば、タイミング不良による滞留は、望ましくはないが、下流工程で全部消費されるのだから、まだしも罪は軽い。そして、計画的なストック在庫やフロー在庫などは意図した在庫であり、むしろ積極的に活用すべきだ、というのがわたしの考えである。

在庫削減もけっこうだが、この4つのカテゴリーを区別せずに、むやみに減らすことばかり取り組むべきではない。ためしに、現在、工場内で抱えている在庫のうち、どれがストック在庫でどれがフロー在庫なのか、一度落ち着いて区分してみてはどうか。そして、そのうちのどれくらいの割合が偶発的な発生かも、概算してみるといい。そうすれば、より適切で現実的な削減目標が決まるだろう。

ちなみに、『BOM/部品表入門』では、6つのカテゴリーに分類していた。しかしちょっと多すぎて覚えにくく、また、APICS(米国生産在庫管理学会)の分類定義などを見ても4つに大別しているようなので、最近は4つのカテゴリーに集約して説明している。また企業個別の事情によっては、もっと適切な分類だってあり得るだろう。

いずれにせよ、わたしがここに書いたようなことは、落ち着いて考えれば、誰にだって分かることである。だが、今日、こうした分類で在庫問題に取り組んでいるところも少ないし、生産管理の解説書などでもあまり見かけない。とても残念なことだ。それこそ、「生産管理の失われた10年」の影響だろうと思う。そして、念のために書いておくが、その10年間の空白は、決して不況のために生じたのではなかった。わたし達の社会の、実力以上の好況と自信過剰によって生じたのである。


<関連エントリ>
 →「その在庫はストックですか、フローですか?」 (2012-06-02)
→「MRPとは何か」 (2008-05-15)
by Tomoichi_Sato | 2015-01-25 21:55 | サプライチェーン | Comments(0)

生産スケジューリングと生産統制に関するセミナーのお知らせ

来る2月18日(水)と19日(木)に、それぞれ大阪と東京で、有償セミナーの講師を務めます。
内容的にはかなり重なっており、日本に多い受注生産型の工場を主な対象に、納期遵守のための生産計画とスケジューリング、リードタイム短縮ならびに生産統制について、事例と演習を含めてお話しします。

拙著「革新的生産スケジューリング入門」や「BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視しています。そのため、生産活動全般を『システム』としてとらえ、その生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、より上手に設計するためには何に留意したらいいを考える『システムズ・アプローチ』をとります。したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です(もちろん、ここでいうシステムとは仕組みのことであり、コンピュータのことではありません)。

普通の現場改善コンサルタントの講義に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんのヒントになればと思っています。関心のある方のご来聴をお待ちしております。

<大阪>

日時: 2月18日(水) 10:00-17:00

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ こうすればうまくいく、受注型生産工場の生産計画 ~」
主催: 公益財団法人 大阪府工業協会
     http://www.opmia.or.jp/
会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 4-2-5 本町セントラルビル
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅8番出口すぐ)
セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)
     https://dl.dropboxusercontent.com/u/17787880/Osaka20150218.pdf


<東京>

日時: 2月19日(木) 10:30-17:30

テーマ: 「生産スケジューリングの基礎とリードタイム短縮のポイント 
     〜 デモ付 〜」
主催: 株式会社日本テクノセンター
     http://www.j-techno.co.jp
会場: 株式会社日本テクノセンター研修室
     東京都新宿区西新宿2-7-1 小田急第一生命ビル22F
     (都営地下鉄大江戸線「都庁前」駅または丸ノ内線「西新宿」駅)
セミナー詳細: 下記のURLをご参照ください(受講申込もここからできます)
     http://www.j-techno.co.jp/seminar/ID50L7N0O4H
by Tomoichi_Sato | 2015-01-22 23:03 | サプライチェーン | Comments(0)

在庫をどの形で持つか — 在庫管理論を再考する(2)

前回、このサイトでわたしは「在庫というものの意義をちゃんと積極的に評価して、そのコストやリスクに見合う適切な活用方法を考えるべき」だ、と書いた。「そのコストやリスク」のうち、『在庫のコスト』とは、前回も説明したとおり、保管費用と在庫金利に代表されるコストである。

それでは『在庫のリスク』とは何か。代表的なものは二つある。保管期限切れリスクと、不動在庫化のリスクである。在庫品目の中には、保管期限のあるものが存在する。電子材料系や化学品などに多いが、一定の有効期限がある。飲料・食品などでは賞味期限というかたちをとる。いずれにせよ、ある一定の期限を過ぎたら、在庫として無価値になってしまうのだ。したがって、基本的には保管期限が来る前に、使い切ってしまわなければならない。ちなみに生産スケジューリングの分野では、とくに中間在庫品に有効期限のある問題は、解くのが最も難しい部類に属する。これに保管スペースの容量上限などが組み合わさると、もう超絶技巧級の難物である。手作業ではまず解けないと思っていい。

そこまで難しくなくても、よく悩みの種になるのが、「3分の1ルール」というやつだ。大手流通チェーンではよく、「3分の1ルール」なる規則が納入業者に課されることがある。これは、「有効期限(賞味期限)が残り3分の2以上あるものしか受け取らない」というルールである。そもそも大手流通チェーンでは、有効期限付きの商品はロット逆順の納入を許さない。つまり、2月末の期限付き商品のロットが出荷された後で、1月末期限のロットを納めようとしても受け取ってくれない、という慣習である。「3分の1ルール」はこれに加えて、「有効期限が3分の2を切ったもの」、すなわち製造日から有効期限の3分の1以上が経ってしまった商品は、受け取らない、とする。さらに、「販売期限は、賞味期限の3分の2の時点までを限度とする」というルールも、しばしば同時に行われている。

たとえば有効期間が6ヶ月の商品を1月末に製造したとする。有効期限は7月末だ。ところがこのルールによると、4月に入ったら、もうその商品は大手流通チェーンは受け入れてくれなくなる。1/3経ってしまったからだ。そして、受け取ってもらった商品でも、もし小売店頭で5月以降まで売れ残っていたら、どうなるか。その場合は、残り期間が1/3を切ってしまったので、卸に返品されてしまう。当然、卸は廃棄せざるをえなくなる。これが「3分の1ルール」に伴う在庫リスクである。

この慣習は2000年頃から食品業界を中心に広まったと言われている。が、さすがに問題が多いので、最近はやや見直しの機運にある。問題が多いといっても、別に、サプライチェーンにおける『在庫リスク』が大きすぎ、経済の生産性阻害要因になるから、という観点ではない。主に「返品された食品を廃棄するのはもったいない」という価値観ないし道徳観(?)からである。もちろん、チェーン側からすれば「消費者の要求からこうなった」との説明がされるから、ことは消費者意識にまで問題の裾野は広がっている。

さて、もう一つの在庫リスクは、不動在庫化、いわゆる「死に筋在庫」化の可能性である。作ったはいいが、使われぬまま、いつまでも動かずに残ってしまう。広い意味では、品目の陳腐化のリスクもこれに含まれる。使えることは使えるのだが、もう仕様が古くなって、使いたくない。(なお、「不動在庫」のかわりに「不良在庫」という用語が使われることもあるが、後者は品質検査の結果、ロットアウトした在庫なども含んでしまうので、ここでは不動在庫と呼んでおく)

不動在庫になってしまった品目が見つかった場合、最終的には除却廃棄処分にするか、あるいは捨て値で見切り販売するか、ふつうは二つに一つである。まあ、製鉄やガラスなど素材産業の一部では、製品を原料の一部に戻すこともあるが、いずれにせよ会計上はコストが発生する。有効期限切れも同様である。

ところで、この件について、ある方からご質問をいただいたので、少しここで補足させてもらうことにしたい。それは、在庫を持つことによるコスト・メリットと、不動在庫化するリスクとの数値的比較の方法についてである。

一般に、リスクとコストを比較する場合には、

 (発生確率)×(影響金額)

で計算して比較する、というのが、標準的な考え方だ。これはプロジェクト・リスク・マネジメントでも、あるいは労働安全のリスク・アセスメントなどでも共通である。では、「不動在庫化する事態」の『発生確率』とは、どういう定義で、どうやって見積もるのか。

これは、計画上の意思決定をする際の、「計画のタイム・ホライズン内において、不動在庫化する確率」を意味している。つまり、在庫日数の期間内に、死に筋品目となってしまう確率である。たとえば、今、適正在庫量が1ヶ月分だという計算が成り立ったと仮定しよう。その場合、「向こう1ヶ月間に、その品目が(需要ストップのために)破棄せざるを得なくなるリスク」の確率を推定するのである(1ヶ月分のストックが無くなった時点で、再び製造手配をかけるのだから、1ヶ月以上先の心配はする必要が無い)。同じように、たとえば5日分が適正在庫量なら、向こう5日間に陳腐化する確率、1年分なら、向こう1年間に陳腐化する確率、ということになる——まあ、適正在庫量が1年分もあるという状況はふつう考えにくいが。

仮にこれが、向こう1ヶ月間に陳腐化する確率が10%くらいあるような、足の速い分野の製品や部品の場合、陳腐化リスクを金額に換算すると、年間売り上げの0.83%ということになる。これが大きいとみるか小さいとみるかは、その企業それぞれの事情や判断によるだろう。たとえばこの在庫を持つことによって、納期遅れ(欠品)リスクが減るとか、あるいはロットまとめ効果によって生産コストが低減するとか、そうした効果との比較になるわけだ。無論、こうした検討評価をするためには、過去、自社の品目が、どれだけの頻度で除却処分になったかを、分析しておく必要がある。不動在庫化が、きちんと定期的に検知されるような管理の仕組みも必須である。

しかし、比較検討において、在庫期間ではなくもっと長期間(たとえば年度内)での確率を考えてしまったり、あるいは「確率」という見方をせずに、その在庫品目の評価額それ自体を使って計算してしまうと、リスクは必ず過大評価になってしまうだろう。じつをいうと、リスクを論ずるときに、確率の概念に抵抗を示す人は、案外多い。確率がいくら小さくても、万が一起きたらどうするんだ、不確かな確率論などナンセンスだ、という訳である(これは余談だが、エネルギー問題や環境問題に関しては、市民活動家達の「絶対安全」論を批判するわりに、自分のビジネスの話になると、突如ひどくリスク回避的になる人も、まま見かける)。もちろん超長期的に見れば、どんな品目だっていつかは寿命が尽きる。つまり100%陳腐化するのである。だからといって、どんな品目も作るのはムダだ、生産は無常だ、となったら、ほとんど仏教の禅問答であろう。

ところで、もう一点だけ、補足しておきたいことがある。前回の記事でのべた在庫活用論を、なぜか『製品在庫』という文脈のみで受けとめた方が、ある程度おられたようだ。もちろん違う。在庫には、製品在庫も、中間部品の在庫も、そして原材料の在庫もある。それを、どの形で(どの位置でと言ってもいいが)ストックしておくべきか。これは生産システムの設計・運用上、とても大事なポイントである。

図を見て欲しい。工場では、最上流の原材料の形から、部品、中間製品を経て、自社の最終製品まで、モノは形を変えていく。主なストック・ポイントを最終製品の形で持つのが、いわゆる『見込生産』(英語でMTO = Make to Stock)形態である。Dell Computer社のBTO方式に代表されるような『受注組立生産』(ATO = Assemble to Order)では、中間製品やモジュール単位でストックし、受注と同時に組立作業に入る。一般の『繰返し受注生産』(MTO = Make to Order)では、ふつうさらに上流側の部品や原材料でストックを持つ。『個別受注生産』(受注設計生産とも言う:ETO = Engineer to Order)は都度手配品のみでストックは通常もたない。

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そして、どの生産形態であれ、主要なストック・ポイントまでの上流側は、需要見込み(需要予測)で製造し、下流側は確定受注にひもづいた製造になる。もし、主要なストック・ポイントを上流側にもっていけば、受注から納入までのリードタイムは長くなるだろう。リードタイムが長いと言うことは、生産計画(需要見込み)の誤差も大きくなる。ただし、汎用的な原材料のストックだから、在庫の不動化・陳腐化リスクは小さくなる。逆に、ストック・ポイントを下流側に移すほど、納入リードタイムは短縮され、計画誤差も小さくなるが、在庫品の汎用性は失われ、陳腐化リスクは大きくなる。

このようなトレードオフ状態の中で、主要なストック・ポイントをどの形で持つのかは、生産活動全体のシステム・デザインと運用にとって、とても大事な判断なのである。一製品には複数の部品が関わるのが通例だから、話は決して単純ではない。さらに生産のサプライチェーンが地理的にも広がっている場合、それぞれどこに配置するのか、冷静で合理的な見きわめと、そのための原理原則が必要になる。

そして最後に、もう一言だけ付け加えさせていただこう。中間部品・原材料の不動在庫化リスクがいやなので、自社では一切、主要な在庫を持たず、すべてサプライヤーから都度調達することにしている、という企業も、ときおりある。いわゆるJIT調達化である。しかし、考えてみてほしい。もし、あるサプライヤーから仕入れる部品・材料が、特定の顧客向けで汎用性がなく、他に転用も転売もできない種類のものだとしたら、そのサプライヤーだって、その部材(=彼らにとっての製品)の不動在庫化リスクを抱える点では同じである。結局、自社のリスクを、サプライヤーに押しつけているだけで、サプライチェーン全体のリスクはちっとも下がっていない。それはまるで、机の引き出しを整理して、見つけたいらないモノを、他の引き出しにしまうのと似ている。サプライヤーは、その在庫陳腐化コストを、結局は価格に乗せて請求してくるだろう。

もし買い手側の企業がそれなりの企業規模なら、そんな無意味なJIT調達などはやめて、むしろ自分で部品在庫のリスクを引き受ける代わりに、毎月一定量の発注をして、部品メーカー側が平準化生産をできるように、手助けするべきだ——これは畏友・本間峰一氏の主張だが、まったくその通りと思う。生産効率を上げ、生産コストを下げる一番の定石は、生産量の平準化なのだ。セットメーカーである大企業がリスクをとって、中小の部品メーカーには作りやすい平準化生産の環境を与えてやる。こんな風に、多くの業界が動いてくれれば、わたし達の経済だって、もっと活性化すると思うのだが。


<関連エントリ>
 →「在庫は本当に悪なのか — 在庫管理論を再考する」 2015-01-11
 →「ATO、BTO、CTO」 2007-11-09
by Tomoichi_Sato | 2015-01-18 23:04 | サプライチェーン | Comments(0)