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生産マネジメント手法の系譜を考える(3) 90年代以降の発展とこれから

--ちょっとこれまでの流れをおさらいします。生産マネジメントの手法は20世紀前半に、米国の自動車産業が牽引する形で誕生・発展しました。複雑な機械製品を、大量生産することが主眼でした。60年代には計算機を利用するMRPという計画手法が開発され、需要に合わせてロット生産のタイミングを調整し、工場全体を采配する事が現実化します。

「集中管理の実現ですね。」

--そうです。そしてMRPはその後も、発展を続けます。資材調達だけでなく、人員や資金など、製造に必要な経営資源全体の計画ツールにまで拡大し、80年代にはManufacturing Resource Planning = MRP IIという概念が生まれます。そして、これにヒントを得て、ドイツのSAPという名の企業が、Enterprise Resource Planning = ERPという用語を作ります。こちらは皆さんご存じですね。

「ERPって、元は生産管理用語から来たんですね・・」

--はい。だから、今でも主要なERPパッケージは、その生産マネジメント部分にMRP IIのロジックを実装しています。
 ところで一方、日本では70年代ごろから小ロット・多品種で、市場の需要にきめ細かくより添う、トヨタのような生産方式が主流になります。かつての「メード・イン・ジャパン=安物」の汚名をそそぐべく、また現場のモチベーション向上も込めて小集団活動を中心としたTQCが盛んになり、石油ショックも手伝って、日本製品は米国市場で力をふるいます。そして80年代後半には、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」、日本型経営礼賛の時期が来ます。

「なんだか遠い昔の話を聞いているような気がします。」
「でもこれ、今も変わらぬ現実だと思ってるオジサンたちも多そう・・」

--かもしれません。ところで、この間、米国も指をくわえて見ていた訳ではありません。あなたがアメリカ企業の経営者だったら、どうしますか?

「ええと。関税をかけるよう政治家を動かして、輸入をブロックします。」

--なるほど。政治に頼る解決ですね。実際、そういう動きもあって、日本の自動車会社は米国での現地生産に取り組みはじめます。しかも、部品の現地比率その他の規制までかかって、単に部品を全て米国に持って行って、現地で最終組立だけするような生産方式は通じなくなります。部品の調達からやらざるを得ない。かくして米国企業は、日本の工場マネジメントのやり方を間近に見ることができるようになります。そして気がつくんです。これは単に、安価な労働力を人海戦術的に使ったやり方ではないのだ、と。

「当たり前ですよ!」

--また、日本にも盛んに調査団を送ります。その結果を、MITが’90年代の初めに報告にまとめ、こうした日本企業の生産方式を「リーン生産」と名付けます。Leanとはお肉の赤身のこと。贅肉のない、つまり徹底して在庫を減らした生産マネジメント方式です。また品質問題についても考え直し、「シックス・シグマ」という概念に至ります。徹底した品質追求から、生産のムダやムラをあぶり出す方法論です。

「日本のやり方を、呼び名を変えて真似しただけじゃないか。」

--そうとも言えません。彼らは概念の体系化に長じていますし、技法も生み出します。それに日本のQCだって、もともと米国の統計的品質管理から学んだのです。

「たしかにITマネジメントの世界でも、アメリカではLean Six Sigmaという言葉を時々見かけます。」

--ところで、少し話は戻りますが、貿易摩擦と関税による障壁は日本企業だけでなく、米国企業をも悩ませることになりました。すでに部品製造を安価な外国にかなりシフトしたしまった会社は、同じく関税に直面します。それだけではありません。米国内での生産と、中米やアジアでの部品製造を、どう上手につなぎ、どうタイミングを合わせるか、という問題に直面します。そしてここから、『サプライチェーン・マネジメント』という重要な概念が登場してくるのです。

「SCMですね。」

--そうです。サプライチェーンという言葉や、供給連鎖という概念は、古くからあったものです。しかし、その全体をマネージしよう、との発想は’90年代以降のものです。最初は流通業における企業間の取り組みからスタートし、製造業にもその概念が波及します。そしてSCMとともに、個別最適 vs. 全体最適、といった問題意識が出てくるのです。

「へえ。全体最適とか、昔からある議論かと思ってました。」

--80年代後半はちょうど、計算機が汎用機からPCへとシフトし、かつ計算能力も通信速度も、飛躍的に伸びていく時期でした。そこでサプライチェーン・マネジメントを実現するために、ITを利用した、新しい発想による技術が生まれます。それが、Advanced Planning & Scheduling = APSでした。APSは、MRPの難点であった負荷計画問題を克服し、最適な生産スケジューリングを可能にしたのです。そして90年代には、実用の時代に入ります。
関税が政治に頼る解決だとしたら、こちらは論理とITに頼る生産マネジメントの改革法です。

「マネジメントのIT化、ですか。うーん」

--同時期にもう一つ、米国では重要なマネジメント理論が現れます。イスラエル出身の物理学者ゴールドラットが、制約理論(Theory of Constraints = TOC)を提案するのです。彼は最初、OPTというAPSソフトウェアを開発していたのですが、ソフトよりも生産マネジメントの考え方の変革の方が重要だと考え、’84年に『ザ・ゴール』という、ベストセラーになったビジネス小説を書きます。これがSCMの概念とマッチして、90年代には生産マネジメントの世界に多大な影響を及ぼしました。TOC理論は、MRP IIなどの持っていた、計画偏重・中央管理のやり方とは一線を画す思想から生まれ、それがSCMにマッチしたのです。ポイントは何だったと思いますか?

「え、何だろう。現場の自主性を尊重するんですか?」
「私、TOCのクリティカル・チェーンという、プロジェクト管理の方法を聞いたことがあります。現場尊重っていうより、なんか、バッファー・マネジメントとかって話だったような気がします」

--そうです。TOC理論では、現場にはいろいろな変動要因があり、計画通りになかなか進まない、という認識がベースにあるのです。生産マネジメントでは、DBRとかDBMといった方法論が提案されます。これらは、工場にある「ボトルネック工程」へのコントロールに集中して、工場全体のスループットを最大化しよう、との発想が中心にあります。複数のサプライヤーをまたぐSCMでは、こうした変動への対処が、さらに重要になるのです。
 でも、日本の製造業は、こうした新しいマネジメント手法には、馬耳東風だった・・。

「え?」

--アメリカから日本に、MRP IIやSCMなどの考え方が紹介されるのは、じつは10年近く遅れたのです。わたしは’98年に、仲間と共著で『サプライ・チェーン・マネジメントがわかる本』を出版しました。この中でAPSやTOC理論の紹介もしたのですが、これは日本語で書かれた入門書としては、かなり早いものでした。なぜ、そんなに情報が遅れたのだと思いますか?

「わかりません。いつもアメリカの情報はすぐ入ってくるのにな。」
「バブル崩壊と関係があるんじゃないですか?」

--バブル崩壊よりも、バブル経済それ自体に関係があります。つまり、’80年代の半ばから’90年代の前半まで、日本人は鼻高々の絶頂期にあった。日本型経営、日本のものづくり、これは世界最高である、と。「もうアメリカに学ぶものはない」--そういう標語さえ、世間を闊歩していたのですよ。

「嘘みたい・・」

--この時期を、わたしは「生産マネジメントの失われた10年間」だと考えています。90年代、バブル崩壊で日本の製造業は、困難に直面します。工場も海外移転し、サプライチェーンが長くなってしまった。でも、日本の生産現場や、経営それ自体の考え方に、ITの重要性がすこしずつ認識されるようになるのは、ようやく2000年代に入ってからでしょう。

「それって、IT開発プロジェクトの世界も、似ているのかもしれません。米国でPMBOK Guideが初めて出たのは90年代前半とききました。でも、日本のIT業界が、PMに真剣に取り組みはじめるのは、2000年代の半ば頃からだったそうです。」

--たしかにね。90年代中頃までは、半導体もPCも、日本の計算機メーカーが世界市場を制覇していました。日本のIT技術は世界一である、とメーカーが思っていたとしても、不思議はありません。

「それってハード製造の分野だけの話で、ソフトウェアが弱いのは昔からなんですけれど。」

--そうですか。まあ、ともあれ、21世紀に入っても、日本からは新しい生産マネジメント思想が生まれません。「現場力」が大事で、職人的な技を磨く「ものづくり」が企業を支える、みたいな考えが強く、あとはヒットする新製品をどう生み出すかが、話題の中心になりました。トヨタは相変わらず強いので、トヨタ生産方式の表面的な真似をする人たちは、たくさん出ましたが、最初に申し上げたように、生産形態も需要特性も違うところに、技法だけ持ち込んだって活きないのです。

「2000年代に、欧米から新しい考えはでてきたのですか?」

--いい質問ですね。二つあげましょうか。米国の「工場物理学」と、ドイツの「Industry 4.0」です。米国では、MRP II・APS・SCMといったメインの流れに沿って、大学にも生産マネジメント学を教育する学科があります。その中からW・ホップという学者が、Factory Physics(工場物理学)という考え方を提唱します。これは待ち行列理論を出発点として、工場内のモノの滞留現象を解析し、リードタイム短縮をねらうとともに、より効率性の高い生産ラインを設計しようという考え方です。これまでの生産マネジメント思想は、すでにある工場を、どう効率よく運用するか、という問題意識でしたが、こちらは一歩踏み込んで、より効率的な工場の生産ライン設計にまで踏み込んでいきます。

「それと、例のインダストリー4.0、ですか?」

--そうです。これは2013年に、ドイツの科学アカデミーが国策として提唱した概念です。最初はかなり抽象的でしたが、だんだんと具体的な技術論に発展してきました。こちらは世界でも高賃金で労働時間の短いドイツが、それを維持しながら国内製造業の競争力をどう向上すべきか、という問題意識が底流にあります。賃金の安い国に工場を移転すればいい、という風には彼らは考えません。かわりに、彼らは市場の要求にきめ細かく対応できるような生産マネジメント能力を作る必要がある、とします。このための手段として、スマート機械とスマート製品の二本立てで、フレキシブルなバリューチェーンを構築すべきだ、と構想します。

「バリューチェーンって、サプライチェーンと違うものですか?」

--バリューチェーンは本来、同一企業内の価値連鎖を指す経営学の言葉ですが、Industry 4.0では複数企業間をまたがるようなケースも想定しています。製品の個別仕様ごとに、違った経路を部品が渡り歩く、というイメージです。ドイツも自動車産業の国なので、量産型機械のイメージが強いのですが、単なる大量ロット生産ではなく、顧客の個別の要求にあわせた製品を作る必要があります。これを、「マス・カスタマイゼーション」といいます。

「日本では、当たり前に実現していることじゃないですか!」

--ですが、それは下請け部品メーカー達の、相当な努力と犠牲で成り立っていることを、忘れてはいけません。それと、機械加工系の工場では、従来、各工程の進捗をつかむのが大変でした。工作機械は皆、スタンドアローンで動いているからです。生産スケジュールをどんなに精密に立案しても、現実の進捗をちゃんとフィードバックしてあげないと、工程表はすぐ絵に描いた餅になります。日本はこれを、現場の職長達の判断でフォローしています。
 ドイツは、IoTなどの技術を使って機械をよりスマート化し、リアルタイムに状態を把握できる仕組みをつくればいい、と考えました。また、CAD/CAMの設計データを、工作機械に直結して流せるよう、あらゆる機械のインタフェースを標準化できる「管理シェル」を作っています。こうしてERPから現場の機械までを垂直統合する「スマート工場」が生まれます。

「あの、スマート工場というのは、何となく分かる気がするんですが、スマート製品って何ですか?」

--部品や製品自体に、たとえばチップか何かが載っていて、自分が何か、今どこにいるか、次にどこに行くべきかを、自分で判断できるような仕組みをつけたものです。組立加工系の工場の悩みは、モノの場所探しにあります。それを、複数企業からなるサプライチェーンの中でも、行き先不明にならないよう、スマート化しようという訳です。さらに顧客の手に渡っても、どのような使い方をされているかを逐一、記録し報告することで、さらなるサービス価値を生み出せる,という訳です。

「それだって、コマツの建機などはもう実現していますよ!」

--製品的には、おっしゃる通りです。日本企業は個別には、Industry 4.0の目指すところを実現している例があります。ですが、システム化とか標準化になると、突然弱くなる。特定個人や企業の強みが、日本全体の強みに共有されません。なぜだか、分かりますか?

「え! ・・産業界にリーダーシップが足りないから、ですかね。」

--ほお。トヨタさんにも、リーダーシップが足りない、と?

「それは違うような気がします。・・でも、分かりません。」

--わたしの答えを言いましょうか。マネジメントに関する科学的・体系的思考が弱いからです。科学として考えないから、技術として定着できない。体系的でないから、個別事例で終わってしまう。あるいは、もっと皆さんに分かりやすい用語を使うと、「システム思考が弱い」になるかもしれません。マネジメントの問題を、リーダーや現場の「人間力」のレベルだけで説明する考え方など、その典型です。

「でも、人間力のどこがいけないのですか?」

--じゃあ皆さんは、デスマーチに陥ってしまったITプロジェクトの問題を、プロマネ個人の人間力不足として、人事評定されたら満足ですか? そうじゃないからこそ、こうやってわざわざ生産マネジメントについて、勉強しにいらしたのでしょう?

「それはそうですが。でも、そうしたら私たちは、この表にあるいろいろな考え方の、どれを学べばいいのでしょうか?」

--どれかを学べば、それがすぐ皆さんの役に立つとは考えない方が良いです。というのも、マネジメントの手法というのは、それぞれ、その時点で直面していた課題を解決するべく、開発されたものだからです。(わたしはボードの表に欄を書き加えて説明した)
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--フォード・システムは連続大量生産の実現が課題でした。それができるようになったら、次は多品種での大ロット生産の在庫適正化のために、MRPが生まれます。他方、より少量生産で、かつ多品種混流でのコストダウンのために、トヨタ生産方式が工夫されます。TQCは品質向上と現場のモチベーションアップが課題でした。
 リーン・シックス・シグマは同じく在庫最小化と改善活動を、米国の企業文化の中で実現することがねらいです。APSはMRP IIの生産計画をより現実的なものとし、SCMを可能にしようとしました。TOCはスループットの最大化と変動へのフレキシブルな対応が、問題意識の中心でした。工場物理学はリードタイム短縮と工程設計論を目指し、インダストリー4.0は先進国の製造業における生産システムの将来形を構想し、マス・カスタマイゼーション実現をターゲットとしています。
 こういう風に、マネジメントの方式は、それぞれ課題意識があって生まれているのです。世の中には今のところ、完全無欠な生産マネジメント手法はありません。それぞれ、何を主要なねらいとするかによって、とるべき手段がかわるのです。

「じゃあ、私たちがトヨタ生産方式に学べるところは、ないのでしょうか?」

--多くの日本企業がトヨタに学ぶべきところは、生産と販売が同じ計画で動くことを徹底している点です。彼らは月度計画と呼びますが、とにかく、実行可能な計画を立てて、それを生産側も販売側もきちんと守る点が、あの会社の最大の強みなのです。つまり、トヨタのやり方は、実は「トヨタ生産販売方式」と呼ぶべきだと、わたしは思っています。ところが、多くの企業では、生産と販売の両輪がかみ合っていない。とくに多くの企業では、販売側が弱い。

「僕の会社では、営業の方が強いですけど。」
「IT系企業を見ると、たいていそうですね。お客様の会社でも、営業の方が強いところが多いです。」

--わたしが言っているのは、社内の発言力の強さのことではありません。計画を立てて、その通り実行できる能力のことです。計画なのか精神目標なのか分からない数字を立てて、そこからズレたら全部、製造側に変動を押しつけるようなやり方は、能力が高いとはいいません。生産と販売が共同で立てる計画のことを、英語ではSales & Operation Plan = S&OPと呼びます。この概念は、MRP IIの中で80年代に生まれたものです。皆さんの会社にS&OPと言える計画はありますか?

「・・ないと思います。」
「しいて言えば、半期の予算計画かなあ。あれも当てにならないけど」

--ITは分かりませんが、製造業では最低でも月サイクルで回していかなければ、S&OPとは言えません。ここがブレると、まずリソースに余計な負荷がかかります。調達にも影響が出て、サプライヤーをこまらせることになります。納期も延びコストも上がるでしょう。

「IT分野でも、人ごとには聞こえません・・」

--さらに物販の場合は、製品在庫が過大になったり欠品したりします。これらは全部、製造と販売がリンクしないために起こります。それを避けたければ、リソースに無理やムラが生じないように、営業側も販売努力しなければならない。

「ですが、営業部門の事なんて、私たちの手に余ります。技術の側で、学ぶところはありませんか?」

--ありますよ。仕事=作業+改善、というのも、トヨタの考え方です。改善におけるPDCAサイクルの概念は、TQC以来、広く普及しています。ですが、業務に必要な作業をしているだけでは、仕事をしたとみなさない、というトヨタの徹底ぶりは学ぶべきです。

「受注したプロジェクトのために、設計や実装作業をしているだけでは、たとえそれが新しい技術要素を含んでいても、改善とはいえない、ということですか? 厳しいですね。」
「でも、自分から新しい方式にチャレンジすることだって、やっていますよ!」

--標準なくして改善なし、というのも、トヨタの標語です。だから先ほど皆さんに、改善活動による効果についてご質問したのです。バグ数でもいい。生産性指標でもいい。何か、これが標準、と定めた上で、その標準をどうやって持ち上げていくかを考えるのが、改善の姿です。
 いや、この考え方は何もトヨタにはじまったものではありません。もっとずっと前、フォードとほぼ同時代に、米国で初めて「科学的管理法」という概念を打ち出し、近代経営学の基礎を作ったテイラーも、それを実践しました。彼の方法論を受け継いだInustrial Engineerng = IEの人たちも、同様です。

「でも、ITの仕事は、工場の労働者とは本質的に違います。繰返し性が少ないんです。」

--プロジェクトはすべて個別だから、比べられない、と皆さんはおっしゃる。たしかに表面的にはその通りです。ですが、その違いの下にある共通プロセスを明らかにして、そこに科学の光をあててこそ、マネジメントが技術となるのではないでしょうか?
 仕事のパフォーマンスを測定し、数値化し、原因を分析して、工夫を加える。これがマネジメントに関する科学的・体系的思考の姿です。それを全部、リーダーや経営者の人間力のせいにしていたら、何の進歩もなくなってしまいます。皆さんがもし、エンジニアとしての自負をお持ちなら、ぜひ、仕事を科学する意識をもっていただきたいのです。


<関連エントリ>
→「生産マネジメント手法の系譜を考える (1)」 https://brevis.exblog.jp/27426439/ (2018-07-23)
 →「生産マネジメント手法の系譜を考える(2) 日本型生産思想のあり方」 https://brevis.exblog.jp/27462519/ (2018-08-02)

by Tomoichi_Sato | 2018-08-11 23:24 | サプライチェーン | Comments(0)

生産マネジメント手法の系譜を考える(2) 日本型生産思想のあり方

「’73年の石油ショックについては聞いたことがあります。石油の値段が急に上がったんですよね。」

--そうです。それまで中東アラブ諸国の原油生産は、事実上、欧米の石油メジャーが支配しており、バーレル$3の超安値で、原油を欧米に輸出していました。しかしイスラエルとの中東戦争に端を発し、ナショナリズムに目覚めた各国が団結し、輸出を止めると脅したので、原油価格は$10以上にはね上がったのです。それが、アメリカの製造業にどう影響を与えたと思いますか?

「エネルギー価格が上がって、製造原価が高くなったんじゃないでしょうか。」

--たしかに、それもあります。でも、一番影響を受けたのは、消費者の側でした。米国の自動車市場で、それまで常識だった、安いガソリンを湯水のごとく消費する、大型のアメ車に頼ったライフスタイルが、ピンチに瀕しました。消費者はやむを得ず、燃費の良い中小型車に目を向けることになります。その市場に入り込んできたのが日本車でした。そして、またたく間にシェアを伸ばしていった。

「高性能・高品質な日本車が、米国市場を席巻したんですね!」

--いや、それは現代から振り返って考える人の錯覚です。’70年代の前半まで、日本製品は、「安かろう悪かろう」の代名詞でした。そして当時の米国への最大の輸出商品は、衣料品と雑貨です。今日のメード・イン・チャイナが持っているイメージと同じですね。

「そんな馬鹿な!」

--信じにくいでしょうけれども。まあ、その時代のことを覚えている人は、もう現役引退の世代ですからね。Deep Purpleという英国の人気ロックバンドが、’72年に日本公演のライブ盤を二枚組LPで出したとき、原題は”Made in Japan”でした。皮肉なタイトルだったのです。日本車も、当時はそういう目で見られていました。そして事実、安かった。まだ固定相場制度で、1ドル360円の時代でしたから。こうして、日本車は米国市場のスキマに侵入し、少しずつ地歩を固めていくのです。

「それで、どうなるんですか?」

--70年代は、アメリカが自信喪失に陥っていく時期でした。石油ショックの後、’75年にはベトナム戦争に最終的に敗北します。アジアの小国ベトナムが、超大国アメリカに史上初めて勝利し、自国から追い出すのです。’70年代は米国の製造業が企業買収で多角化したり、工場を労賃の安い中米に移転したりする動きが、目立ちはじめた時期でした。70年代はまた、あるサービス業種がのびた時期でもありました。何だと思いますか?

「さあ・・鉄道か通信業でしょうか。」

--経営コンサルタントという業種です。彼らの主要な仕事は、経営者にかわって首切りリストラと、コストカット計画を立案することでした。工場の主要問題は立地で、生産管理やMRPではなくなってしまいました。そしてこの時期、日本に対して怒っていた米国人も多かった。皆さんは知らないでしょうが、ハンマーで日本製品を打ち壊すパフォーマンスを、TVカメラの前で議員がやったりしました。彼らの多くは、日本は不公正に安い通貨レートで輸出しているし、何より日本国内の安価な労働力を酷使して、大量に製品を作っているから価格競争力があるんだ、と本気で信じていました。

「なんだか、今、世間の経営者の人たちが、中国製造業に対して抱くイメージと、よく似ていますね。」

--いいポイントです。歴史の皮肉ですね。ただ、日本の製造業が実際に考えて、取り組んでいたやり方は、すいぶん違っていました。自動車産業で言えば、トヨタは’70年頃から、独自の生産方式を築き上げてきました。その発想の原点はきわめてはっきりしている。それは、「トヨタの会社の規模では、フォードやGMみたいに大量生産で安く作ることはできない」でした。

「え? トヨタの規模じゃ小さすぎる、ということですか?」

--そうです。フォードやGMは生産台数が非常に多く、生産ラインを単一車種専用にできました。ラインは同じモノを繰り返して作るわけですから、きわめて生産効率が高い。しかし、当時のトヨタの規模では、一つの生産ラインに複数の異なる製品を流さざるを得ません。小ロット生産の中で、いかに安く効率よくモノを作るか。これがトヨタ生産方式を引っ張った、大野耐一という人の問題意識の原点なのです。

「その答えがカンバン方式ですか!」

--いえ。かんばん方式はツールの一つでしかありません。トヨタ生産方式については、どうも「群盲象を撫でる」的な誤解が多いのです。が、根幹にあるのは、生産と販売が同じ一つの計画で動くこと、その中で徹底した平準化を行うことです。月度計画で、まず大きな線を引く。細かな変動は、かんばん方式などで調整・同期化する。だからかんばんは従であり、ツールなのです。

「・・トヨタって、計画生産だったんですね。」

--そうです。生産と販売がバラバラの計画で動いていたら、良いことはない。80年台前半には、別会社だったトヨタ自工とトヨタ自販が合併します。一体化を進めることも、目的の一つだったんじゃないでしょうか。そもそも営業部門が、製造現場の事情など無視して、勝手に仕事をとってきたらどうなると思いますか?

「ウチの会社なんか、営業がムリな納期や値段で仕事を取ってきて、あとはプロマネに押し付けています・・。」

--工場の生産は、一定のペースで進めるのが一番効率が良い。多品種であっても、月度の中で均等に作っていく。これがトヨタの平準化で、販売もこれを意識するのです。「ムラがあるから、ムリをする。ムリをするから、ムダが出る」という標語があるくらいです。そのために小ロットでも、切り替え時間を短く工夫する。自働化といって、不良が出たら機械が自分で止まるようにする。こういった現場の工夫と改善を引き出すため、あえて中央管理による指示の形を避けるのです。皆さんの職場では、改善はどのように位置付けられていますか?

「ぼくらITの世界では、技術進歩が激しいので、日々、開発のやり方を改善して、生産性を上げる工夫を重ねています。」

--そうですか。それは、すばらしい。それで、過去10年間で、御社では何%くらい生産性がアップしたのですか?

「いや、僕らのは考えるタイプの仕事ですから、生産性は簡単に数字では表せません。」

--なるほど。では品質はどうですか? 品質の改善効果なら、バグの数などで係数化できるでしょう。

「それは、計量化できなくはないですが、開発環境自体が進化していますからね。比較は難しいんです。」
「あの、システム開発は個別設計ですから、量産品のように効果測定はできませんので。」

--なるほど、なるほど。それでも皆さんは、仕事を改善したいという熱意を持って、こうして勉強会をされているんでしたね。すばらしい。日本の現場は、皆さんのような優秀かつ士気の高い人たちが支えているのだと、よく感じますよ。工場に行っても、そうです。
統計的品質管理の手法は、もともと米国から輸入したもので、デミング博士などが指導者として有名です。デミング・サイクルという言葉はご存知ですか?

「たしか、PDCAサイクルのことですね。」

--その通りです。マネジメントとは、PDCAサイクルを回し、改善を積み上げていくこと、との認識が日本の製造業に定着しました。さらには、この品質管理による改善を、職場の小集団活動に結びつけて、TQC (Total Quality Control) という独自の手法に発展させました。「品質は工程で作り込む」。つまり、品質は検査係の仕事ではなく、製造に携わる全員の責任と考えられました。

「まあ、たしかにバグはテスターの責任ではないですね。」

--また小集団による改善活動には、現場の人材育成とモチベーション維持という意義もあります。部門ごとに目標KPIを決め、自分で考えて仕事を改善していく訳です。MRP的な集中管理の排除、品質重視、現場の自主性尊重と責任移譲。これは80年代を通じて、日本の生産管理に広く見られた考え方です。日米を比較すると、こんな感じです:

米国:中央集権。計画重視。現場の人間はただ、マニュアルと命令に従うだけ。
日本:分権的。実行重視でフレキシブル。現場の裁量と自主的改善活動にまかせる。

--こうした比較から、日本型経営は人間重視だと自賛する声も、よく聞きました。ただ、こうした特徴には、裏の面もあります。何だと思いますか?

「うーん、こうして比較を見ると、やはり日本の方がずっと優れているように見えますが。」
「ええと、日本型は、現場に優秀な労働者が揃っているから可能だ、という面はないでしょうか。移民社会の米国では、文字も読めない人が案外いると聞いたことがあります。」

--そうですね。日本型の生産管理は、たしかに分権的ですが、現場の優秀さに依存している面があります。現場の人の会社へのロイヤリティ(忠誠心)は、ある程度、終身雇用制に裏付けられていました。米国の北部、デトロイトあたりの工業は、もともと奴隷解放で南部から大量に来た黒人労働者で成り立った時期がありましたが、彼らに会社への忠誠心は希薄です。改善しても会社が儲けるだけで、自分たちの給料に反映されないなら、誰が進んでわざわざ時間外に改善活動などするでしょうか。
それと、分権的であることにマイナス面はないでしょうか?

「中央集権より、良いと思いますが。」
「リーダーシップが、弱いと思います。」

--リーダーシップは、なぜ必要なのですか? あるいは、こう聞きましょうか。リーダーシップを必要とされるのは、どんな時ですか?

「そりゃ、無いより、ある方が良いに決まっているじゃないですか!」

--あなたは、電車の運転士や、航空機のパイロットに、リーダーシップを期待しますか? ジャンボジェットの席に座ったら、アナウンスが流れたと想像してみましょう。「皆様、ご安心ください。当機の機長は、強いリーダーシップを持っております。どんな変化や苦境も見事乗り越えて進むことができます…

「(笑って)それは、いやですね。席を立って逃げたくなります。」
「そうすると、リーダーシップって、変化が大きくピンチの時に必要なんですね。」

--その通りです。それだけではありません。分権的で現場任せの組織は、意思決定が縦割りで、皆が部門単位の利害を求める、いわゆる『局所最適』マインドになりがちです。この、局所最適・全体最適という言葉自体、米国で、90年代ごろからポピュラーになってきます。それは、ある重要な概念が米国で生まれて来たからです。

(この項つづく)



<関連エントリ>
→「生産マネジメント手法の系譜を考える (1)」 https://brevis.exblog.jp/27426439/ (2018-07-23)


by Tomoichi_Sato | 2018-08-02 22:32 | サプライチェーン | Comments(1)

生産マネジメント手法の系譜を考える(1)

「佐藤さん、お忙しいところ、時間を取っていただき、ありがとうございます。突然お邪魔して恐縮です。」

--別にいいですよ。それより、何のお話しをすればいいんですか?

「ぼくら、生産管理について、少し勉強したいと思っています。ただ、どこから手をつけていいか、よく分からなくて。教科書もあるような、ないような、Amazonとかで探せば、山のように候補は出てくるんですが、どれが良いのか迷ってしまいます。また逆に、自分たちの社内にはあまりそういう資料はなくて。」

--なるほど、生産管理の勉強ですか。皆さんは受託開発のシステム・インテグレーターにお勤めですね。すると、製造業向けのシステム開発に取り組まれるんですか。生産の実務を知っているITエンジニアは少ないので、勉強されるのはいいことですね。

「いえ、少し違うんです、佐藤さん。たしかにぼく自身は今、製造業向けの仕事をしていますが、業務分野は会計システムですし、他のメンバーも、製造業はあまり経験がないんです。ぼくらの勉強会は、しばらくプロジェクト・マネジメントについて勉強してきました。ご存知でしょうが、ITプロジェクトはいろんな問題があって、ひどい赤字が出ることもあります。それで、議論しているうちに、ほんとは製造業の方がずっと上手なマネジメントをしているんじゃないか、って話になって。」
「あのお、たとえば、『トヨタ生産方式』とか、よく聞きますよね。ああいうのを導入したらいいんじゃないかと、私なんか思ったんです。それで、まず生産管理の基本的なところを勉強しよう、となりまして。だったら、佐藤さんがお詳しいらしいので、教えていただこう、と。」

--ははあ。そういう事ですか。ただ、どうかな。IT系のプロジェクト・マネジメントに改善余地があるのは同感だけれど、“製造業の方が管理は上”とか、“トヨタのやり方を導入すれば解決”、とかって意見は、必ずしも賛成できないなあ。

「そうなんですか?」

--うん。そう思い込む人は、よくいますけどね。マネジメントというのは、対象とする組織なり仕組みがどういうもので、何を主眼にして動かすのかによって、全然異なってきます。プロジェクトというのはそれぞれが個別の、一度きりのもので、チーム組織もその場限りの時限的なものですよね。そしてプロジェクト・マネジメントの主眼は、プロジェクトの価値をどう最大化するかにあります。

「はい。」

--ところが、生産マネジメントが対象とするのは、ふつう『工場』と呼ばれるパーマネントな仕組みで、その中を複数の案件・オーダーが動いています。いわば、多数のマルチ・プロジェクトが走っている状態です。おまけに働く人数や機械の数も制限がある。その多数のオーダー間を調整して、リードタイムや在庫や生産性や品質など、互いにトレードオフのある目標値をなんとか合わせようと苦心する訳です。おまけに次々に追加受注や変更が入ってくる、動的な環境です。つまり、動的な適応制御のようなものですね。
 たとえて言えば、プロジェクト・マネジメントは月ロケットの操縦で、方や生産マネジメントは混雑する空港の管制塔みたいなもの、といえるかな。ずいぶん違うでしょう?

「でも、トヨタさんはあれだけ利益を上げているじゃないですか。それにひきかえ、弊社では・・」

--いやいや、ちょっと待ってください。トヨタにはプリウスをはじめとするハイブリッド車などの、新製品開発もあります。製品開発は収益力の重要な柱です。ところがSIビジネスは基本、受注産業でしょう? 林檎とオレンジを比べて、林檎はオレンジに学ぶべきだ、といっても役には立たないですよ。

「じゃあ、どうしたらいいですか?」

--まず、オレンジはオレンジで、どんな種類があるのか、どう進化してきたのかを知りましょう。つまり、生産マネジメントの方法論には何があり、それらは製造業において、どう発展してきたのか。多少、遠回りに思えるかも知れないけど、その方が学ぶ価値があると思いますよ。

「生産管理の考え方って、そんなに種類があるんですか?」

--もちろん、あります。(わたしはホワイトボードに、簡単な表を書いた)ええと、ざっくりいって、7〜8種類くらいあるかな。まあ数え方にもよりますが。

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「最初がフォード・システムですか。」

--うん。そうです。ものづくりの歴史は何千年もあるけれど、非常に複雑な機械製品を大量に生産する必要が出てきたのは、20世紀の自動車工業からです。課題は同じものの大量生産。もう、ここからして皆さんのITプロジェクトと違うでしょ?

「・・そうですね」

--それを解決するために、ヘンリー・フォードという人は、組立中の自動車をコンベヤで一定速度で動かし、順番に部品を組み付ける方法を考えた。そのために、作業を徹底的に分業化し、またタクトタイムという概念で標準化しました。おかげで労働は単純化し、負担も増えたが、フォードは労働者の賃金を上げることで報いた事も、公平のために言っておきましょう。

「へえ、単にブラックだったわけじゃないんだ。」

--そのおかげで、都市近郊に、自動車を買える勤労所得層が生まれ、ますます自動車市場は拡大しました。そこまで考えていたんだと思いますよ。それまでの自動車は、特注の個別受注生産でした。今の業務系ITシステムみたいでしょ?

「ですね。すると、T型フォードはパッケージソフトか。」

--さて、時代は下って1960年代。この頃までに製造業は発展し、次第に製品が増え、多品種化していきます。ところでフォード以来、部品工場はロット生産でした。そもそも米国の製造業は、自社の決めた標準仕様品を大量生産することで、価格を下げる方針が強い。『1ダースなら安くなる』という評語の通りです。ところが多品種化が進むと、工場内のあちこちで、やたらと部品在庫が増えるようになった。需要を読み間違えると、みんな不良在庫化して除却損になります。そこで、必要なモノを、必要なタイミングで、適正量だけ作るような生産計画が求められたのです。

「あ、それが、有名なジャスト・イン・タイム生産ですねっ!」

--いや、そう急がないでください。必要なモノを必要な時に必要な量だけ作るなら、ジャスト・イン・タイムですが、『適正量』作ると申し上げたでしょう? 経済的ロットサイズという概念があって、ある程度の数をまとめて加工した方が安くなる、というのが米国式の考えです。そこで、構造型部品表というマスタ・データをつかって、製品の需要を工程別に展開し、標準リードタイム分だけ差し引いて着手タイミングを決める手法が考えられました。これがMRP (Material Requirement Planning)です。
 MRPは、史上初めてコンピュータを生産管理のために応用した手法です。開発の中心となったのはIBM。

「さすがはIBM、か。」

--ですね。ただ、MRPには弱点もいくつかありました。代表例は、計算時間がかかること。1回の計算が夜間バッチで一晩かかる、というケースは珍しくありませんでした。

「そりゃひどい。そんなに計算量が多いんですか」

--まあ60年代ですから。当時の汎用コンピュータの、能力の限界ですね。それに、計画立案はいいけれど、現実からのフィードバック・ループが弱いこと。つまり何らかのトラブルなどで計画通り現実が動かなくなったとき、リカバーがけっこう難しいのです。
 そして、製造機械の能力や労働者の人数の上限を、考慮できないこと。これを専門用語で『無限負荷計画』と呼びます。だから、実行できない計画もできてしまう。

「それじゃ、計画立案の手法として落第じゃないですか?」

--ただね、当時も今も、米国では工場を作るとき、将来の需要増を見越して、最初からかなり過剰投資気味に作ることが多いんですよ。だから、工場は生産能力が余っているのが普通でした。したがって、標準リードタイムを多少長めに設定すれば、実際には何とかなったのです。
 MRP登場以前は、その余っていた機械能力を使って、沢山の品種の部品を、大ロットでがんがん作るもんだから、あちこちに中間在庫の山ができていた。MRPは製造のタイミングを、真に必要な時からリードタイム分だけ前倒して、指示を出すわけですから、、少なくともその問題は解消されました。
 しかし、70年代に入ると、予想もつかぬ出来事が起きて、アメリカの製造業を大きく揺るがします。

「いったい何ですか?」

--’73年の、石油ショックですよ。

(この項続く)


by Tomoichi_Sato | 2018-07-23 22:56 | サプライチェーン | Comments(0)

生産システム、そのパラダイム・シフト

「工場づくりが仕事です」と、よく自分のことを説明してきた。ときどき、「おたくの会社はプラント屋じゃないの?」といわれることもある。だが、英語でたとえばCar plantとは自動車工場であり、Plant Managerは工場長を指す。だから「プラント」と「工場」を区別するのは、日本独特の習慣だとも言える。

ところで、「工場」とは、そもそも何を指す言葉か? じつは、ここにいささかややこしい事情が生じる。というのも、工場とは、以下のような複数の意味合いで使われるからである:
・建物を指す場合(「工場建設」のように)
・組織を指す場合(会社組織図で、AA事業部の下に「aa工場」がある)
・機能を指す場合(「ウチの工場は納期が長くって」・・)
こうした問題があるため、工場を論じると、しばしば誤解や行き違いが生じる。まことに面倒である。

かりに、ここで工場を「生産機能」として括ったとしても、それでは、工場に製品設計の機能は含むのか、購買機能や物流出荷機能はは含むのか、という疑問が生じる。いや、工場と呼ぶからには、純粋に製造機能だけを指すべきだ、というご意見もあろう。しかし、「純粋な製造機能」だけを、はたして括り出せるのか。たとえば、部品保管や、配膳や、電気・水・ガス供給は、製造ではないのか? 等々。

そこで、わたし自身は、機能的な仕組みを表すとき、あえて「工場」ではなく、『生産システム』という言葉を使うことにしている。

(本サイトの読者には毎度の注釈で、くどいけど、「システム」とは『仕組み』を指す言葉である。コンピュータ・システムだけのことを指しているのではない)

では、生産システムとはどのようなものか。実際の工場には、機械加工もあれば組立もあれば化学も金属精錬も食品もある。すべて個性があり、ばらばらだ。それら全てに共通する「仕組み」なんて、あるのだろうか?

もちろん、ある。そうでなければ、たとえばドイツは「インダストリー4.0」なんてことを考えなかっただろう。ものごとの個別性・共通性は、相対的なものだ。林檎とオレンジは、まったく別物だともいえるが、木になる果実で、丸くて手にのるサイズだ、というレベルでは共通だとも言える。わたし達の文化はなぜか個別性にこだわりたがるが、西洋文化はわりと抽象化思考を好む。

そこで、「生産システム」についても、かなり抽象化したレベルでの、共通モデルを示すことは可能だ。システムの機能を説明するときは、インプット・プロセス・アウトプット(頭文字をとってIPOモデルと略称することもある)を理解することが鍵である。それが図だ。この図は2年前にも説明したが、あえて再掲しておく。
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生産システムのアウトプットは、製品(の形で具現化された付加価値)である。これに対し、主要なインプットは、需要情報である。需要情報とは、確定した受注かもしれないし、予測された需要の場合もあろう。そして、原料資材と、副資材・ユーティリティが、脇からのサイド・インプットとなる。

設計情報について言うならば、受注設計生産の場合は、生産システムの中で設計が行われる(設計機能がシステムに含まれる)。それ以外の生産形態(繰返受注生産や見込生産など)では、設計はすでに終わっていて、外部からインプットとして与えられることになる。設計部門はたぶん、本社に座っているのだろう。いや、工場の建物にいるのかもしれないが、そこは生産システムとは別のライフサイクルで動いている機能だ。

生産システムの主要な構成要素(構造)をあげると、以下のようになる:
・働く人
・機械設備(ツール・金型・治具等を含む)
・空間と、それを支える建築(用役供給を含む)
・情報系(伝票とコンピュータ・システム類)

この中を、モノが流れていくわけだ。いわゆる生産の「4Mといわれるもの(Man=人、Machine=機械、Material=モノ、Method=方法)のうち、加工対象のモノ(マテリアル)は機能の対象であり、仕組みそれ自身には含めない。

そして、生産システムには動的特性に応じた制御が付随する。「制御」といっても、このレベルでは、通常「生産管理」と呼ばれる機能を指す。すなわち、計画系(指示)と実績(報告)系の、両方からなるコントロールである。計画・指示のない生産管理はないし(それは管理ではなく「なりゆき」と呼ばれる)、実績・報告のない企業では、お金をきちんと勘定できない。

指示と報告の対象としては、
(1) 数量・納期の指示と結果(進捗)報告
(2) 仕様の指示と、性状(品質)の報告
があげられる。もちろん、「かんばん」のような同期化の仕組みも、制御の一種である。そして、異常の発見と処理も、制御の一部だ。

生産システムは、その要素に人間を含む第二種のシステム(法政大学西岡教授の用語)だから、制御に隣接した項目として、ルールや評価尺度も含むことになる。また、生産システムをとりまく環境・制約条件なども、考慮する必要がある。

こうした、いわば最上位レベルの機能・構造・制御は、業種や品種によらず、ほぼ共通である。ただ、実際の工場づくりに進むためには、業種業態に応じて、この下のレベルに設計(システム・デザイン)が入ることになる。

ところで、2年前の記事「生産システムとは、どういう仕組みだろうか」 https://brevis.exblog.jp/24388827/ でも書いたことだが、四半世紀前の時代は、生産というもののとらえ方は一般に、もっと単純だった。それは、「原料・部品」を主インプットとし、「用役・副資材」がサイド・インプットで、アウトプットは「製品」だった。この絵には、どこにも需要情報が登場しない。かりに描くとしても、サイド・インプットの扱いだろう。
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なぜか。それは、作れば売れたから、である。これが戦後復興期から昭和の高度成長期を経て、平成初期まで長く続いてきた、従来の考え方だった。基本的に、社会の側に、需要はある。良いものを作れば、必ず、売れる。そうした無意識の仮説が、ずっと世の中を支配してきた。

先日も、自動車業界のある大手企業に招かれて講演をした折に、上記の図をお見せしたところ、生産システムの主要なインプットが「需要情報」であるのはなぜか、との質問をいただいた。昔は、原料・部品が生産における重要な制約であったが、今は需要情報の方が大事になったので、主客逆転が起きたのだ、とお答えした。たとえ手元に十分な原料部品があり、品質について満足できる状態であっても、需要がないところで製品を作ることは、現代では無意味なのだ。

ところが、多くの日本企業では、この思考方法の転換(パラダイム・シフト)がうまくいっていない。

プル型の生産方式、という言葉は、世の中に普及するようになった。Pull型とは、すなわち、需要情報を主要なインプットとして、工場を動かす方式を言う訳だ。だから、実質的には同じ事をいっている。では、工場のマネジメントの人に、絵を描いてもらったら、上記のような絵になるだろうか? 相変わらず、原料・部品が製品に変わる絵を描くのではないか?

もう10年以上、いや15年以上も前から書いてきていることだが、「大量見込生産の仕組みを残しながら、多品種短納期の受注生産に対応しようとしてる」ことが、日本の製造業を難しくしている根本問題である。時代の変化についていくためには、生産システムの抜本的な再考・再設計が必要なのである。

そこを、多くの会社では怠ってきた。そういう問題意識で、物事を見てこなかった。

では、システムとは、どう設計すべきものなのか。それを考えるためには、システムとは、どういった性質を持つものかを理解しなければならない。

システムを考える際、まず理解すべきことは、「ミクロを積み上げてもマクロにはならない」という原理だ。全体は部分の総和ではない、と言いかえてもよい。

これはすなわち、「ベストなプレイヤーを9人集めればベストな野球チームになる」とは限らないことを示している。あるいは、「総員その持ち場で最善を尽くせ」、という類いの方針が、全体の最良のパフォーマンスを生む保証はないのだ。

むしろ余計な、ムダに見える部分を置くことで、かえって全体がよくなることがある。これを意図して行うのが、システム設計のポイントである。そもそも、限られたリソース(経営資源)を、どこに傾斜配分するかがマネジメントの鍵だ。経営資源には限りがある。

上から順にベストなメンバー9人をチームに揃えられないとき、じゃあ、どこを強くしてどこは抜くかを考えるのが、野球の監督の仕事だ。同じように、どこを手厚くし、どこは緩くしておくかを、生産システムでは考えなければならない。

そしてシステムでは、効率性(生産性)と柔軟性(追随性)は、しばしば相反する。列車の目的は移動することで、速く走れて多くの乗客を乗せられる新幹線はある意味、最高の効率をもつ。だが、その線路は簡単に引いたり変えたりすることはできない。車にたとえるならば、最高速で走れるレーシングカーは、しかし、狭い町中を小回りするには向いていないのだ。そこにはトレードオフが存在する。同じように、低コストと短納期だって、簡単には両立しない。だから、何を重視し、何を犠牲にするかについて、設計思想がいるのだ。

したがって、工場を構想する人は、システムの設計原理を知るべきである。工場づくりは、すぐれてシステムズ・エンジニアリングの問題なのである。こういう思考方法をすっ飛ばしたまま、自動車業界で有名な「なんとか生産システム」の、道具立てだけ導入しようとしても、ふつう役には立たない。無理にそんな事をトライしても、結局「コンサル疲れ」した現場が残るだけだ。

そして、わたしがここに書いたようなことは、本当は、経営レベルが理解すべき事である。

だが、世の現実を見ると、工場を監督する立場にある人は、本社の営業出身か設計出身の事業部長だったりして、「工場が生産システムである」ことを知らないことが多い。だからせめて、現場を預かる中堅技術者は、知っていなければならないと思うのである。営業云々と書いたが、これは文系・理系の問題ではなく、そういう視点を持ち得るかの問題である。

だからわたしは、工場よりも本社の多い東京・新宿で、あえて生産計画系のセミナー を引き受けているのである。「生産システムとは何か」を、ここに書いたよりは1段階詳しいレベルで、理解してもらうためだ。セミナー講師が生業ではないから、せいぜい年に1回か2回程度だが、演習を交え、多少自分の手を動かして、身につけられるようなコースにしている。こうした視点でモノを考えてみたいという方のご来聴をお待ちしている。

この1〜2年、IoTブームがきっかけとなって「スマート工場」が脚光を浴びている。さらに人手不足が深刻化したせいで、生産自動化のための投資も、久しぶりに承認を得やすい状態になってきている。そうした仕組みを考えるためにも、ぜひ「生産システムズ・エンジニアリング」の分野への関心が高まってほしいと願う次第である。


<関連エントリ>
 →「生産システムとは、どういう仕組みだろうか」 https://brevis.exblog.jp/24388827/ (2016-05-17)
 →「特別な我が社」 https://brevis.exblog.jp/2641571/ (2001-02-03)


by Tomoichi_Sato | 2018-04-28 14:56 | サプライチェーン | Comments(0)

講演のお知らせ:「生産スケジューリングの基礎とリードタイム短縮のポイント」(6月27日)

お知らせです。6月に、生産スケジューリングとリードタイム短縮をテーマとした研修講演を行います(有料)。
わたしは長年、エンジニアリング会社で国内外の工場・プラント作りに関わってきました。また、それなりに数多くの工場も見てきましたが、疑問を感じるケースが少なくありませんでした。「なぜ、こんな所に在庫を持つのだろう?」「どうしていらないモノはたくさんあるのに、必要なモノは欠品しがちなのか?」「ここを工夫すれば、もっと効率よく、かつ楽に仕事ができるはずなのに」
そうした非効率が生じるのは、生産活動の仕組み=『生産システム』の基本デザインに問題があるからです。つまり、生産活動のシステム・エンジニアリングが欠けているのです。むろん、ここで言うシステムとは、コンピュータのことではありません。情報系も一要素ですが、むしろ働く人々と、機械設備と、物流と、それを包む建築空間のことをいっています。こうした基本的なことを抜きにして、ただ最近の流行である「スマート技術」を追いかけても、部分的な改善効果しか生まないのがつねです。
また生産システムは、自社を取り巻くサプライチェーンの特性に応じて、適切な機能構成を選ばなくてはなりません。単に、業績の良い他社の物真似をしても、生産形態が違えば、役に立たないのです。
拙著「革新的生産スケジューリング入門」や「BOM/部品表入門」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視しています。そのため、生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、より上手に設計するためには何に留意したらいいを考える『システムズ・アプローチ』をとります。したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です。年1回行っているこの講演も6回目になりますが、今年はさらにバージョンアップしてお届けするつもりです。

普通の現場改善コンサルタントや、ITベンダー系コンサルタント達の提言に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんの、ヒントになればと思っています。

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「生産スケジューリングの基礎とリードタイム短縮のポイント 〜演習付〜」(3月24日)

日時: 6月27日(水) 10:30~17:30
主催: 株式会社日本テクノセンター
会場: 株式会社日本テクノセンター研修室
     東京都新宿区西新宿2-7-1 小田急第一生命ビル22F
     (都営地下鉄大江戸線「都庁前」駅または丸ノ内線「西新宿」駅)

生産計画とスケジューリング、リードタイム短縮について、事例と演習を含めてお話しします。

セミナー詳細: 下記のURLをご参照ください(受講申込もここからできます)

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関心のある大勢の方のご来聴をお待ちしております。

佐藤知一


by Tomoichi_Sato | 2018-04-15 23:56 | サプライチェーン | Comments(0)

「インテグレーター不在」という深い谷間

先日、ある技術系コンサルタントの方が来訪したので、最近の話題を聞いた。AI技術がこのところ注目を集めており、工場の製造現場でも、様々な取り組みを始めている。ただ、汎用的なAIのエンジンを、自分たちの仕事の用途に合わせて、テーラーメイドで開発するには、それなりの力量が要る。

そこで最近は、FA用途に向けた「アプリケーション特化型」のAIソフトが出てきた、という。特定の目的、例えば機械の振動のデータを蓄積分析して、異常の予兆を診断するといった、目的特化型のAIソフトが出てきているらしい。これが次のトレンドかな。なるほど、なかなか面白い。

ただ、ひとつ心配な点がありますね、とわたしは指摘した。そうしたアプリケーション特化型のAIソフトを売るベンダーと、工場でそれを使用したユーザとの間に、1つ問題となるギャップがある。それは、AIのソフトウェアパッケージと、工場側の具体的な制御システムないしMESとの、インテグレーションの仕事である。

その仕事を、自分たちだけでできるユーザが、果たして日本の工場でどれだけいるだろうか? かといって、2つのシステムを統合する難しい仕事を引き受けてくれる業者、すなわち製造現場に強いシステム・インテグレーターがいるかというと、世の中には決して多くない、という事情がある。

つまり、AIベンダーと製造現場のユーザーとの間に、「インテグレーター不在」という深い谷間があるのだ。

いや、話はAIのソフトウェアに限らない。MESのソフトを導入するにせよ、あるいはデジタル屋台のシステムを買ってきて、社内の3D-CADとつなげるにせよ、同様の困難がある。いや、それどころではない。例えば産業用ロボットを買ってきたり、あるいは気の利いた搬送システムや立体自動倉庫を買ってきて、自動化・省力化を図る場合だって、自社の製造ラインとのインテグレーションが必要になるのだ。こうした仕事はしばしば、生産技術を受け持つ機械エンジニアだけの手には余る。

もちろん、高価な機械を何台も買ってやるから、ついでにインテグレーション業務もしてくれ、と機械メーカーに要求することは可能だ。実際、有力な機械設備メーカーの中には、自社製品を買ってくれることを条件に、請け負ってくれる企業もある。ただ、そうした「つなぎ」の仕事は、しばしば、子会社や下請けにやらせたりするらしい。

逆に、いや、それはお客さんの仕事です、と突き放すメーカーもある。請ける・請けない、いずれの場合も、機械メーカーやパッケージソフト・ベンダーが、製造現場におけるインテグレーションの仕事自体を好んでいない点では、同じだ。

なぜか。儲からないからである。

『インテグレーション』とは何か。それは、それぞれ単独で完結した機能を持つ要素群を、上手に連結して、一体として働くようにすることである。

例えばパソコンのソフトに例えるならば、ワープロと表計算とのあいだで、クリップボードを経由したコピー&ペーストを可能にすることも、インテグレーションの一例だ。今日では、まるっきり当たり前のように思えるこの機能も、'90年代前半までMS-DOSやCPMといった旧世代のPC用OSを使っていたユーザにとっては、とても新鮮なものだった。当時の感覚では、Lotus 1-2-3で表を作成して、WordPerfectの文章の中に貼るなど、想像しにくい使い方だったのだ。

だからMacOSやウィンドウズが登場して、OSレベルでカット&ペーストをサポートし、複数のアプリケーション間でデータのやり取りを統合的に行えるようにした事は、ほとんど革命的な進歩だった。これがインテグレーションの価値なのだ。

あるいは、鉄道の世界でたとえるなら、インテグレーションとは「相互乗り入れ」がそれに該当する。私の勤務先は横浜の「みなとみらい」地区だが、実家は今は埼玉県所沢市にある。以前は、職場から実家まで帰るためには、渋谷と池袋で2回、乗り換えなければならなかった。そのたびごとに階段を上り下りし、行列に並んで席に座らなければいけない。

だから、西武池袋線と副都心線と東横線・みなとみらい線が相互乗り入れを開始し、みなとみらい駅のホームに小手指行き列車が到着した瞬間は、頭がクラクラするほどの衝撃があった。実際、乗り換えの不便が減ったし、所要時間も圧倒的に短くなった。これも、インテグレーションがユーザにもたらす価値だ。

周知の通り、システムにおける要素間のインタフェースには、密結合疎結合の2種類がある。製造現場の例で言えば、一貫生産ラインは密結合であり、工程間に在庫のスペースがあるのは、疎結合である。コンピュータなら、「ファイル渡し」は疎結合であり、APIの呼び出しなどは密結合だ。

高度なインテグレーションとは、サブシステム間を密結合・強連結にすることである。すなわち、一つの指示(インプット)で、複数の要素が連携協調して動作するようにすること。あるいは、モノやデータの受け渡しのある要素間では、処理量とタイミングを同期化することだ。

また、部分に異常が生じたら、全体が安全にスローダウンする、ないし、共通したアラームを発信するといった対応もいる。さらには、必要に応じて、個別要素を部分的に立ち上げたり、全体を止めずに切り離したりできる機能も必要だ。

したがって、構成要素数が多く、かつ高度にインテグレーションされたシステムには、主要な全要素をモニタリングする「情報のハブ」が、必然的に生まれてくる。そこが、全体のタイミングをとり、要素に適切な指示を出す。まあ、オーケストラの指揮者のようなものである。

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こうした「インテグラルなシステム」を作る仕事のプロが、インテグレーターである。

つまり、インテグレーターの仕事とは、システム構築=仕組みづくりである。だが、「システム」という、目に見えないものが理解できない人たちには、そもそもその価値が分からない。この人達には、目に見えやすいもの、たとえばロボットだとか、立体自動倉庫だとかAIソフトパッケージだとかいったものが、価値の中核に見える。インテグレーション作業はオマケだ、という訳である。

高価な機械を買ってくれる代償として、周辺のインテグレーション作業を請け負うメーカーは、ある意味、そうした理解ないし誤解を助長しているとも言える。もちろん、エンドユーザーを助けるという積極的な面もあるわけだが。

インテグレーションの仕事は、ユーザの個別性の高い要求(制約条件)に合致するよう、複数の要素を選んで組み合わせる能力を必要とする。つまり、「すり合わせ」型の業務である。工場のように、既存の機械や仕組みと組み合わせる場合、相手の状況に応じて作業量が変わるし、つながらないリスクもある。だから、本来は固定金額の見積にはなじまない仕事だ。

それなのに、たいていの顧客は、インテグレーション・サービスに要した人工(工数)分の費用しか、インテグレーターに払ってくれない。曖昧でリスクが大きいのに、である。だから、インテグレーションは儲からない商売だ、という事情が生まれる。

だったら、単体売りに徹する方が、商売として「堅い」「手切れが良い」ということになる。かくて、ウチは単体設備メーカーです、というスタンスを持った企業が栄えることになる。いいかえると、優秀な部品メーカーは多いが、全体システムの売り手はあまりいない、ということで、どこかの業界によく似た構図ができている。

工場系の生産システム・インテグレーターは、機械メーカーの下請けに位置せざるを得ない。だから、中小零細企業が多い、という話を良く聞く。そうなると、人材の確保や育成も課題だ。

それでも、信頼できるインテグレーターを、身近に抱えている企業なら、まだ良い。多くの場合は、ユーザが自分でインテグレーションするしかない。そこで、機械設備やIT系における、モノの受け渡しやデータ通信インタフェースの標準化、せめて共通化が望まれる。

いや、本当は、機械設備メーカーやITベンダーなどは、インテグレーションされることを前提に、自社製品を考える態度が必要なのだろう。だが、かつてIBMのOS/360開発のプロマネで、後に名著『人月の神話』を書いたBrooks Jr.によると、要素をインテグレーション可能な形にするには、単に作るだけに比べて、3倍の費用がかかる、という。

これはソフトウェアの場合の話で、機械設備の場合は、もう少し小さな数字になるだろうが、余計なコストがかかるのは事実だ。コストがかかれば、製品の価格に跳ね返る。価格競争にさらされるメーカーにとっては、ありがたくない話だろう。

では、どうしたら良いのか。要素技術のプロバイダーと、ユーザの間には、「インテグレーター不在」という深い谷間がある。ここうまくつながないと、ユーザが困るだけでなく、優れた技術を持つAIベンダー・機械メーカー等のベンチャー企業も、日本では育たないことになる。

もちろん、エンドユーザーである日本の製造業の、経営管理職の人たちが、インテグレーションの価値を認めて、それにきちんとお金を払うようになることが、理想型である。しかしそれは、百年河清を待つ、の類だろう。

わたしは、こうしたFA系のインテグレーターたちが、下請けや系列の地位から脱するためにも、せめて一個の独立した業界として認められ、その価値を世間に対してアピールしていくような方策が必要だろうと思う。そのためには、業界団体の結成も、ひとつの手段だろう。聞くところによれば、近々、経産省の旗振りで、「ロボット・インテグレーション協会」が設立されることになる見通しだと言う。これは良いニュースだ。

しかし「深い谷間」の問題は、ロボットという(先進的な見かけの)部分だけでは留まらないはずである。より広く、産業システムのエンジニアリング、ないし生産システム・インテグレーションの担い手が、求められているのだ。以前、政府の「ものづくり白書」には、『ラインビルダー』という言葉も紹介されていた。こうした業界の確立を助けるために、国の支援策も必要だろうし、標準的な契約や仕様のあり方も、議論される必要がある。

ドイツのIndustry 4.0の向こうをはって、日本は「ソサエティー 5.0」を目指すのだそうだ。"Connected Industries"というスローガンも、よく見かける。それが具体的に何を意味しているのか、わたしにはまだよくわからない。だが、少なくとも、インテグレーター不在と言う深い谷間を、埋めるための努力が必要だという事だけは、明らかだろう。



by Tomoichi_Sato | 2018-04-01 18:45 | サプライチェーン | Comments(0)

POPとは何か、MESとはどこが違うのか

工場見学が趣味である。いや、趣味というのは言い過ぎかも知れないが、とても好きなことは確かだ。昨年から思うところあって、いわゆる組立加工系の工場について、機会があれば業種を問わず見学して歩いている。国内外あわせてすでに1ダースを越えたから、平均すると一月に1ヶ所は訪問している勘定だ。むろん、工場の改善指導をしているプロのコンサルタント諸氏には及びもつかないが、まあそれなりに見ている方ではないか。

工場見学に行ったら、何を見るべきかについては、すでに記事も書いた(「超入門:上手な工場見学の見方・歩き方https://brevis.exblog.jp/21898734/ 2014-04-16)。とくに製造現場を歩いているときは、できるかぎり、現品票を見ることにしている。

現品票とは何か。それは、工場の中を行き来している部品・材料などの現品に添付されて回っている紙の帳票のことである。なお、機械加工系では、加工対象の物品のことを「ワーク」Workとも呼ぶ。英語のworkは仕事・作業の意味が強いが、仕掛品のことをWork in Process(略称WIP)と呼んだりもする。そこで以後、この記事の中では、現品とか物品という代わりに、ワークということにする。現品票とは、工場内でワークに添付されている紙の帳票のことである。

ワークはそれぞれが個別だから、現品票もそれに1対1でついている必要がある。ただしワークが小さな部品である場合や、ロット単位でずっと流れていく場合は、複数個のワークに1現品票のこともある。ただ、その際は、複数個のワークが、通い箱や台車などに入っていて、物理的にワンセットで動かなければならない。そうしないと、ワークと現品票の対応関係が崩れてしまうからだ。

現品票とは、ワークについて「これは何か」を示す名札のようなものだ。小学校の新入生につける名札と思えばいい。高井戸小学校・1年4組・佐藤知一、という風に(たしか1年のときは4組だったと思う・・違っているかも知れないが)。現品票には、少なくともそのワークの品目コード・品名が表示される。

そして、通常は、そのワークが使用される『製造オーダー』の番号と付帯情報も示される。もっとも、日本では生産関係の用語に統一がないため、企業によっては製造オーダーではなく「製番」「製造指図番号」と呼んだりする。付帯情報とは、製造作業の納期、必要数量、製作図面の番号、どの最終製品に使われるか、どの工程(作業区)で使用されるか、等々だ。ちなみに、トヨタ生産方式で使われる「かんばん」も現品票の一種である。

工場内には多種多様なワークが流れている。それに対して、一対一で現品票を発行し添付するのは、手間とコストがかかる。ただ、それをやらないと、目の前のモノが何なのか、本来どこに置くべきか、いつまでに使用されるのか、等々が、「良く知っている担当者」以外の人には分からなくなってしまう。だから、すべてのワークに現品票がついているかを見ると、その工場のマネジメント・レベルがすぐ判断できる。

そして、現品票にバーコードがついているかどうかも、大事なポイントだ。

現品票には、人間に必要な情報は印字してある。では、バーコードは何に使うのか? 答えは、POPに使うのだ。

POPとはPoint of Production、すなわち「生産時点情報管理」の略称だ。ふつうは、それを支えるITシステムのことを指す。流通業界、たとえばコンビニでは、お客が買い物をすると、レジで商品のバーコードをスキャンして、品目・数量を確認し、金額を計算する。この時点で、購入情報はレジを通して吸い上げられる。この仕組みをPOS(Point of Sales)=「販売時点情報管理」という。そしてバーコードリーダと通信機能のついているレジを、「POSレジ」と呼ぶ。

POSシステムが表れる前は、商店は、一日が終わって棚の残量をチェックするまで、販売数量を知る方法がなかった。その時点で翌日の仕入れ数量を決めるのでは、遅すぎる。だからPOSという概念が現れた。

同じように、従来多くの工場では、一日が終わって作業者が「製造日報」を記入するまでは、何がどれだけできたのか、把握する方法がなかった。これでは、短納期化した注文に追いつくことが難しい。そこで、流通業界を真似る形で、POPシステムを導入する工場が現れるようになったのだ。

POPシステムでは、現場の作業者が新しいワークに対する作業に着手するとき、現品票のバーコードをスキャンする。また、作業が完了したときも同様に、スキャンする。これによって、作業区単位(ないし機械単位)に、どのワークを、いつ着手/完了したかを、システムがリアルタイムに把握する。

POPの目的は、大きく三つある。一つめは、個別オーダーの進捗把握である。受注生産では通常、個別の注文(オーダー)ごとに、納期と数量が決まっている。生産管理担当者は、製品単位の「生産オーダー」を、部品展開(工程展開)して、各部品ごとの「製造オーダー」に展開する。この時点で、各工程ごとの数量と期限が決まる。そして、これを製造現場に指図として送る(これを「差し立て」ないし「ディスパッチング」とよぶ)。と同時に、それぞれの部品に対して「現品票」を発行し、現品に添付させるのである。

したがってPOPシステムを利用して、予定した製造作業の期限に対し、きちんと完了の信号があがってきているかをチェックすれば、進捗状況が把握でき、遅れがある場合は検知できる。現品がどの作業区にあるかについて、ラフな所在管理もできる。

二番目の目的は、作業時間の計測である。着手・完了時刻を取得している訳だから、作業時間を計算するのはたやすいし、従来の日報に比べて、正確だ。作業時間が分かると、賃率をかけることで、個別オーダーのコストの集計・管理ができるようになる。すると、オーダー単位の利益が計算できるし、また次の見積にも基礎データとして役に立つ。

三番目の目的は、生産性の把握だ。こちらも作業時間の計測が基礎になるが、さらに機械単位ないし作業者単位に、どれだけの生産数量ができたかを集計し、生産性を比べることができる。もしも標準工数が決まっているのならば、作業区別の負荷と余力も推算することができる、という訳だ。

POPシステムの概念は決して新しいものではない。図は、わたしが1992年に、中小企業診断士の受験参考書のために描いた、手書きの図(笑)である。日刊工業新聞社「工程管理ハンドブック」を参考に作図した。今から26年も前の話なので、「ホスト・コンピュータ」などと書いてある。今ならPCサーバとかエッジサーバと書くところだろう。
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ちなみに、POPに隣接する概念として、SOPおよびデジタル屋台の支援システムがある。SOP(Standard Operating Procedure=標準作業指示書)とは、適正な作業を行い品質を保つ目的で定める、作業の詳細な手順指示である。これは医薬品製造や食品製造などの分野で広く用いられる。これを電子化し、現場の作業者に端末経由で示し、それにしたがって確認記録を入力することで、製造作業をガイダンスする仕組みを、この分野ではよく用いている。とくに医薬品はGMP(Good Manufacturing Practice)の法的要請があり、適正な作業記録が義務づけられるからだ。

デジタル屋台とは、組立工程における一種のセル生産の仕組みである。ちょうど屋台のように、作業台を一人1台ずつ与え、台の周囲に部品供給用の引き出しやラックを置く。そして、作業台にはモニターを設置して、作業者に対して組立作業をワンステップずつ、3D的に図解して示すのである。とくに組立の部品点数が非常に多いケースや、個別受注で組立手順が毎回少しずつ違うケースに有効である。

さらに、作業者が部品棚から正しい部品を正しい個数取り出したか、とか、適正なトルクでネジを締めたか、といった点までセンサーでモニタリングすることも行われる。現在、静岡大学客員教授の関伸一氏が、2000年代にローランドディージー社で見事なデジタル屋台システムを作り上げ、広く知られるようになった。この事例では、作業者一人ひとりの生産性を測定し、自分の能力アップを実感できる仕組みにして、作業者のモチベーション向上に大いに貢献したという。

SOPもデジタル屋台も、必ずしも現品票とバーコードを活用するとは限らないが、作業時間を計測しているので、いろいろと付加的な機能を持てる点で共通している。

このようにメリットの大きいシステムであるにもかかわらず、日本の全ての工場に常識的に普及しているかというと、決してそうでもない(だから毎回、工場見学のたびに現品票とバーコードをチェックしているのである)。技術的には、25年前から存在し、ある意味、もう枯れた技術である。なのに、なぜ普及しないのかについては、ここではあまり深入りしないが、大きく3つの要因がある。一つめが、こうした製造現場のIT化投資に関する経営側の無理解、二つめが現場作業者のもの言わぬ抵抗、三つめは生産管理(とくに生産計画)担当部門の力量不足である。(さらに4番目をつけ加えるなら、現場に強いITエンジニア不足もあるが)

ところで、この1〜2年ほど、少し潮目が変わったかな、という感じを受けている。IoT技術の進展と、スマート化・AIブームなどの影響で、再び製造現場のIT化の遅れが問題視されるようになった。今回は特に、深刻な人手不足問題が追い打ちをかけている。自動化を進めないと、受注をさばききれない、という状況があちこちに生じたのだ。その結果、たとえばわたし自身も、MES(Manufacturing Execution System=製造実行システム)に関する問合せを受けるようになってきた。MESの話題なんて、この15年間、特定業界以外の人はほとんど誰も口にしなかったのに。

MESが何かについては、別に解説記事も書いた(「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (1) MES普及を妨げたもの」 https://brevis.exblog.jp/25991822/ 2017-08-19)ので、ここでは繰り返さない。ただ、POPとMESの関係だけは整理しておこう。簡単に言うと、POPとはMESの第一歩である。

そもそも、組立加工系の工場におけるMESの機能要素は、7種類くらいに分けることができる(世間的にはMESA Internationalの「11機能」を列挙するのが通例だが、あれはプロセス系も混ざり込んで分かりにくいので、自分流に整理し直した)

(1) 詳細な工程(作業)展開と指示発行(SOP含む)
(2) 機械設備の高度な連携制御(DNC含む)
(3) 製造プロセスのモニタリング
 →これは、機械・人の状態監視と、ワークの所在・数量・移動の把握に、さらに区分できる
(4) 製造オーダーのトラッキング
 →これも、進捗と完了予測、そしてトレーサビリティ機能に区分できる
(5) 品質と製造パフォーマンスの計測
 →すなわち、品質・リードタイム・生産性の計測と分析である
(6) 製造資源の維持・保守
(7) 製造技術情報(製作図面・BOMを含む)の共有・検索

逆に、MESでは通常、対象外となる機能もある。すなわち、
(8) 通常の制御系機能
(9) 調達・コスト管理機能

POPは、上の機能リストで言うと、(1)と(3)を部分的にカバーしている。つまり、MESのサブセットという訳だ。もちろん、別に上の機能全てをカバーしなければ、MESと呼んではいけない、というつもりはないし、工場によって必要な機能のセットは異なるだろう。そこはもちろん、IT化の手間と効果、そしてコストの見合いで決めるべき事柄だ。一般に、対象業務の規模が大きくなり、コントロールすべき物事の数が増えたら、IT化の効果が出やすい。

さらにいうなら、市販の生産管理システム・パッケージや、ERPパッケージにも、ある程度POP的な機能が実装されている場合が多い。現代では、選択肢はいろいろあるのだ。ただ、生産管理やERPが、どちらかというとコスト管理目的に傾斜しがちであるのに対し、単体のPOPやMESは、製造プロセスの円滑なマネジメントが主目的であるという違いはある。それに応じて、現場に要求される作業も微妙に変わってくるだろう。

わたしの個人的な意見としては、最初から製造現場に細かなコスト管理の仕組みを持ち込むよりも、まずは製造が遅滞や不良なく円滑に進むことを、優先すべきではないかと思っている。ここは異論のあるところかもしれないが、もしも納期遅延や生産性に悩んでいるのなら、単体のPOP構築からはじめてみるのが、賢い選択ではないだろうか。

<関連エントリ>
 →「超入門:上手な工場見学の見方・歩き方https://brevis.exblog.jp/21898734/ (2014-04-16)
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (1) MES普及を妨げたもの」 https://brevis.exblog.jp/25991822/ (2017-08-19)

by Tomoichi_Sato | 2018-03-21 14:56 | サプライチェーン | Comments(1)

お知らせ:納期遵守のための1日セミナーを開催します(11月18日・大阪)

来る11月18日(土)に、大阪府工業協会で納期遵守をテーマとした1日セミナー(有償)を行います。主に受注生産型の工場における、納期遵守のための生産計画と統制(コントロール)について、製造業の実務家向けに、理論・事例と演習を含めてお話しします。3年前からはじめた本シリーズも、今回で5回目の開催になります。

人手不足が深刻化している昨今、多くの企業が納期問題に直面しています。しかし、だからといって生産性の向上はそう簡単ではないし、高価な最新鋭機械を導入すれば解決する問題でもありません。生産リードタイムは、生産システム全体のパフォーマンスで決まるからです。

拙著「革新的生産スケジューリング入門」や「BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視します。そのため、生産活動の仕組み全般を『システム』としてとらえ、その生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、また仕組みをより上手に設計するためには何に留意したらいいか、を考える『システムズ・アプローチ』をとります(もちろん、ここでいうシステムとはコンピュータのことではありません)。

したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です。普通の現場改善コンサルタントの講義に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんのヒントになればと思っています。関心のある方のご来聴をお待ちしております。


<記>

日時: 2017年11月18日(土) 9:30-16:30

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ 工程管理担当者の実務能力の強化 ~」

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会

会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 2-6-12 サンマリオン NBFタワー4F
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅9番出口より徒歩4分)

セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)


by Tomoichi_Sato | 2017-10-15 22:15 | サプライチェーン | Comments(0)

IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (3) MESの未来像とは


最近、ある工場を見学に行った。ここでは仮にX社と呼ぼう。中堅の機械メーカーで、精密な加工技術を要する製品(というか、より大きな機械に組み合わせて使うモジュール的部品)を作っている。顧客の個別仕様要求が多く、生産形態としては受注設計生産に属する。

組立工程の現場のチーフ格の人から、話を聞いた。ここの現場では、一種の「デジタル屋台」というべき方式を採用している。ちょうどラーメンの屋台のように、一人に一台の作業用のラックが与えられ、目の前の端末には組立工程の作業指示が1ステップずつ、3D的図面に表示される。

X社が作っているのは小さな製品で、組立にはネジ止めを多用する。ネジ止め作業では屋台(ラック)に付属する電動ドライバーから、トルクなどの情報を自動的に取って、作業を自動的にチェックし、ミスを防止している。他企業でも見たことがあるが、優れたやり方だ。

ラックのサイドに部品入れの抽斗が並んでいて、部品はそこから手で取り出して、とりつける。取り出すべき抽斗の位置も、自動的に表示される。そこまではいいのだが、使うのは小さなネジなので、どうしても取り出すのにイラついたり、あるいはサイズや本数を間違えて取ってしまうことがある。

そこでこのチーフ格の人は、何か解決策はないものかと考えた。そしてある日、100円ショップから、色付きストローを何本か買ってきた。ストローの先端を、ちょっと丸める。そしてストローの逆側からネジを何本か入れてみた。こうすると、ストローの中でネジが数珠つなぎになり、ストローの先端からは、ネジの先っぽが顔を出す。一本引っ張って取り出せば、次のネジがまた顔を出す。

かくてワンアクションで、確実にネジを1本取ることができるようになった。ネジの種類に応じて、ストローの色をかえれば、取り間違えも防止できる。見事な知恵である。これ以外に他の現場でも、いろいろ創意工夫を聞いて、X社の職場の志気の高さに感心した。

それにしてもX社は、多品種 小ロットの受注設計生産がメインである。このデジタル屋台の作業指示の3D的画面は、誰がどのように作っているのだろうか? 3D-CADで設計しているから、というのは答えの半分でしかない。繰返し性の高い量産工場なら、3Dモデルから、工程設計者が細かく作業展開して、指示データを作っておくことができる。しかし小ロット個別受注で、そんな手間がかけられるのか?

X社の秘密は、設計の標準化と、コンフィギュレータの利用にあった。設計については、徹底した標準化を進め、製品各部分のサイズや材質については、パラメータ化している。また、共通部分と、個別にカスタムで変えるべき部分についても切り分けられているようであった。その上で、見積と受注段階で、コンフィギュレータを使う。コンフィギュレータというのは、製品の顧客要望の仕様を入力すると、適切な部品やパラメータの組み合わせを自動的に検索・計算してくれるソフトウェアのことである。

これによって受注時に、基本的な設計BOM(E-BOM)が自動的に選定されており、また価格も見積もられる仕組みだ。その設計BOMと付帯情報は、3D-CADに組み込まれたロジックにより製造BOM(M-BOM)に自動展開され、さらに別のソフトにより、デジタル屋台の作業指示画面が生成される。

製造現場の作業者に対して、ステップ・バイ・ステップで標準作業の指示を与える機能は、典型的なMESの機能である。医薬品分野のMESでは、「SOP(標準作業指示)」機能と呼ばれる。組立の分野では、紹介したような組立図の画面表示がよく行われる。作業の着手と完了時に、ワークに付随するバーコードやRFIDを読み取って、誰がどの部品をいつ・どれだけの時間をかけて製造したかをモニタリングする「POP(製造時点情報管理)」と並んで、MESの基本機能と言っていい。かなり制御層に近いので、前回記事の言い方を借りれば”Lower MES"ということになるが。

ところで、作業指示をステップ単位で表示するためには、MESが対象製品の製造部品表(M-BOM)と、作業工程表(BOP=Bill of Process)のデータを知っていなければならない。ご存じの通り、部品表(BOM)と作業表(BOP)は、製品設計からスタートする情報の流れ、すなわち製品の『エンジニアリング・チェーン』の中で生成される。つまり、MESという仕組みは、企業のエンジニアリング・チェーンときちんとデータ・レベルで結合されていないと役に立たない、ということになる。

そして製品のエンジニアリング・チェーンというものは、納入先顧客数が増え、製品の品種数が増えるほど手間暇がかかるようになり、部品点数や個別仕様が増えるほど、設計変更の可能性が増える性質を持っている。少品種・大量見込生産の高度成長期に比べ、個別受注設計・小ロット生産が主体の今日は、エンジニアリング・チェーンとMESのスムーズな結合・連携は、はるかに重要かつ難しいといえるだろう。多くの企業では、生産技術部や製造部の技術者達が人手で対応して、つないでいるのが現実だ。

エンジニアリング・チェーンからBOMやBOPデータを受け取ることと並んで、MESにとって大事なのは、生産オーダーの情報を上位系から受け取ることである。どのオーダーは、どの顧客向けで、どんな数量と納期になっているのか。これが分からないと、各工程における優先順位やスケジューリングができないことになる。製造工程のスケジューラは、前回も紹介した通り、MESのもう一つの重要な機能である。こうした納期・顧客・数量のデータは、サプライチェーン関係の仕組みから入ってくる。MESの3層モデルが示すところである。

エンジニアリング・チェーンとサプライチェーン。MESがつながる相手は、これだけで十分だろうか。いや、まだある。

IoT技術が進展しつつある今日、MESの普及を阻害してきた現場の機械・制御系とのやりとりが可能になり、稼働監視や複数機械の連携制御、そして予防保全などが新たな期待となっている。それはつまり、MESが設備情報のマスタ・リストを持たねばならないことを意味する。工場の機械設備等のBOM構成・能力やプロファイルなどのマスタデータはどこから来るか。それは、設備に関するもう一つのエンジニアリング・チェーンからくる。多くの企業では、生産技術部門や保全部門などが主導し、工務部門や調達部門もかかわる業務の流れである。

他には? MESが現場作業者に指示を出し、制御系やPOPなどから工程実績をとれるようになると、次には工程別や個人別の生産性に目がいくと思う。「デジタル屋台」などはそれに非常に適した仕組みである。作業ステップごとに、組立作業時間の実績が分かる。こうなると、自分の目標値や自己ベストや職場のチャンピオンの時間との比較も可能になる。こうした生産性比較は、上手に使えば個人のモチベーションアップにつながる(もちろん、下手な使い方をすれば、単に全員を「競争馬の疲弊」に追い込むことにもなり得るが)。

ともあれ、こうなるとMESは人事や労務管理プロセスから、作業者のマスタ・データを受け取り、あるいは能力・実績を送り返す必要が出てくる。

まだある。製造現場には、顧客サイドからのフィードバックが入ってくることがある。主に品質に関する情報だ。顧客サービス部門が起点で、製造部門にまず入り、そこから設計をさかのぼって製品企画部門に至る、製品改善のチェーンである。5月にフィンランドで開催されたMPD 2017で、たまたまご一緒したIVIのエバンジェリストである富士通の高鹿初子さんは、これを「顧客サービスから製品企画に持ち帰るフィールド・プロセス」と呼ばれていた。よい言葉だと思うから、借りることにしよう。

MESには、フィールド・プロセスから来る品質に関するクレームや提案を、製品ロットやシリアル番号とともにインプットする機能も必要だ。

結局、それはMESが情報のハブになる、ということだ。これが、IoT技術の進展と共に、MESに起きる一つめの変化なのだ。従来のMES機能モデルでは、本社の上位系から計画情報を受け取り、実績情報を返す、と書いてきた。前々回で、わたしは「8の字モデル」をご紹介したが、そのバリエーションだ。ISA-95はもっと複雑だが、資材・スケジューリング・在庫といったSCM系情報が中心で、品質・保全系がサブに見える。だが今後は、MESは製造業における情報のハブとしての機能を、強化する必要があるだろう。もっと分かりやすくいえば、外部とのインタフェースがもっと増えるだろう。同時に、マスタデータの同期をどう図るかという、運用設計上いささか面倒な点も考慮しなければなるまい。
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もちろん、こうした機能の全てを皆がいつも必要とする訳ではない。また、MESパッケージがこれら機能全てを備えるべきだとも思わない。製造現場のニーズは多様であり、個別目的にフィットしたパッケージやモジュールを選んで組み合わせて使う、という風になっていくのではないか。それはプロセス産業で一足先に実現している姿だ。

さて、冒頭のX社の事例を見学しながら、わたしは10年近く前にかかわった別の企業のことを思い出していた。そこをY社と呼ぼう。Y社も個別性の高い多品種少量・受注生産形態の、機械のメーカーだった。受注の半分以上が、設計工程のある受注設計生産だったと思う。

Y社を思い出したのは、そこもやはり受注に当たってコンフィギュレータを活用していたからだ。かなり早い段階から自社開発していたと聞く。営業部門は引合いの段階からコンフィギュレータを使って型式選定や見積を行い、受注後は、自動的に標準製作部分と、追加設計の必要な部分に分けてE-BOMが出力される。部品の発注手配も、そこから行われる。設計部門が設計作業をおえてE-BOMを完成登録すると、システムが自動的にM-BOMに展開していく。なかなかすぐれた仕組みだった。

Y社の元々の構想では、M-BOMと図面情報から、工作機械(NCマシン)の加工プログラムまでつなげて、生産性を高めるはずだった。だが、Y社の製品は、部品点数や材料のバリエーションが非常に多く、またサイズも最初のX社の製品よりずっと大きい。結果として、マテリアル・マネジメントがいくつかの理由で混乱して、部品在庫が沢山あるはずなのに、欠品による納期遅れが多発していた。エンジニアリング・チェーンから自動的に製造管理の仕組みにつなげるアドバンテージを、生かし切れていなかった。何より、個別オーダーの納期管理の責任が、いくつかの部門間に分散されていた。

わたしは、社内に「受注コントロールセンター」的な機能を作って、納期管理を徹底させることを提案した。ちょうど空港の管制センターが、入ってくる飛行機に次々に指示を出して、限りある滑走路やゲートを割り当てていくように、個別のオーダーの指示とモニタリングを集中化するのだ。かなりの受注オーダーをさばくY社の業態には、こうした機能が必要に思われたのだ。だがそのためには、情報システム関係にもかなりの改変が必要になる。結局その提案は受け入れられずに終わった。

冒頭のX社は、PCベースの工場スケジューラを導入して、この問題を乗りこえようとしておられた。まだ工場の全工程まではカバーし切れていない様子だったが、その方向性はとても正しい。標準形はあれども個別性の高い要求使用を受けた受注生産を、マス・カスタマイゼーションと呼ぶ。そう。ドイツIndustry 4.0がターゲットにしている生産形態である。マス・カスタマイゼーションでは、製造全体をカバーするような、中央管制システムのような仕組みが必要なのだ。

そして、まさにIoT技術の進展が、それを次第に可能にしてくれている。これまで、現場の手作業やアナログ機械の状態監視ができなかった。また工場内を動く部品やワークの、所在や流れを追いかけることも困難だった。IoTのおかげで、そうした要求は、(コストのハードルはあれども)指呼の間に入ってきたのだ。Lower MESという言葉が出てきたように、MESが制御層と直接やりとりする界面がずっと広がった。今後は、MESと制御システムとのつながりはもっとシームレスになっていくだろう。そして工場全体の流れや動きがリアルタイム的に分かるようになるだろう。

MESの分野に起きる、もう一つの大きな変化とは何か。それは、MESと制御システムがより一体化して、工場全体の「中央管制システム」のような仕組みが生まれることである。従来からプロセス・プラントには中央制御室があり、そこから工場全体を監視し指示を出すことができた。ディスクリート系工場も、いずれ、似たような中央管制システムを持つようになるだろう。これがわたしの二番目の予想である。

もっとも、こうした予想に対しては、「欧米流トップダウン式の中央制御の仕組みは、日本のボトムアップな現場力を損なう」という反論があり得よう。読者はどう思われるだろうか?

でも考えてみてほしい。空港には管制塔がある。では、航空機の世界はトップダウンだろうか。飛行機の機長は、ただ上から言われたことをやるだけのロボットのような存在だろうか? そうではあるまい。たぶん、そういう意見は、中央に情報のハブを持つ仕組みと、軍隊式の命令服従型の組織構造を、なんとなくごっちゃにしている。冒頭のX社は、中央管制システムの実現に相当近い位置にいる。だが、現場の人はものすごく独自な知恵を出して、さらなる改善を続けているではないか。誰かがオーダーの最初から最後までを追いかけていることと、現場の創意工夫とは、まったく矛盾しないのだ。

わたしはむしろ、中央管制システムの実現に対して、もっと別の心配をもっている。それは、誰がこのような制御とITにまたがったシステムの構想を描き、設計をリードし、実装と運用の面倒を見るのだろうか、という問題だ。よほどの大企業だったら、工場にも情報システム部門があるだろう。だが普通の企業では、情シス部門は本社にいて、製造現場の泥臭いことには手を出したがらない。多くの工場では、生産技術や製造部の、「ちょっとパソコンに詳しい若手」が、片手間にその任に当たることになっているのだ。だがこんな大きな仕事、片手間でできるだろうか?

製造現場にIoT技術が広がる現在こそ、わたしは経営層に、こうした生産情報系への関心を持ってほしいと切望する。「ウチの現場力は外国に負けない」と自負されるのは結構だ。だがその現場力は、きちんとモノと情報が交通整理された工場ではじめて十分発揮できるのだ。

昨今、ものづくりの競争力のコアは製品開発にある、製造は単なる力仕事だ、といった通念がメディアで流布しているように思う。冗談言わないでくれ、というのがエンジニアリング会社で働くわたしの率直な実感だ。経営者はもっと製造現場を見て、そこで働く人達の悩みを理解してほしい。せめて聞く耳を持ってほしいと思うのだ。

それを怠ったら何が起きるかって? いうまでもない。ここに書いたこと、これまで3回にわたって縷々説明してきたことは、すべて日本にも外国にも共通した話なのだ。放っておけば、必ずや頭の良い外国人達が、情報のハブとしてのMESと、MESによる中央管制システムの仕組みを、実現していくだろう。それが第4次産業革命のコア技術となるのだ。いや、そればかりか彼らは例によって、勝手に標準規格を作って、押しつけてくるかもしれない。そして日本はまた、その動きを後追いすることになりかねまい。

そういう受け身の状態を、わたしはこれ以上見たくない。だから、こうした予測や議論を共有したくて、記事に書いているのである。まあこんなサイトに書いたからといって、経営層の人が見る気遣いはあるまい。しかし、読者の中には心ある技術者の方がいて、こうした意見を含め上申されるかもしれない。わたしはいろいろと足りない人間だが、言葉を連ねる能力だけは、多少あると思っている。

多くのエンジニアは、寡黙である。寡黙なるが故に、力量があっても理解されない。せめてわたしは、声なき技術者にかわって、言挙げし続けようと思っている次第である。


<関連エントリ>
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (1) MES普及を妨げたもの」 http://brevis.exblog.jp/25991822/ (2017-08-19)
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (2) MESの機能と階層を理解する」 http://brevis.exblog.jp/26007261/ (2017-08-27)
 →「部品表と工程表」 http://brevis.exblog.jp/25634844/ (2017-03-22)

by Tomoichi_Sato | 2017-09-04 23:28 | サプライチェーン | Comments(0)

IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (2) MESの機能と階層を理解する


前回の記事(http://brevis.exblog.jp/25991822/)で、IoT技術の発達はMES(Manufacturing Execution System=製造実行システム)にどのような影響を及ぼすかを考えたい、と書いた。MESの概念が提唱されてから、すでに20年がたつ。その間、限られた一部の業界を除くと、MES自体はあまり大きく広まらなかった。そのボトルネックが、製造現場の機器や人との通信インタフェースにあったことも、前回書いたとおりだ。

そもそも、MESとは何か。どのような機能を持つITシステムなのか。これをきちんとおさえないことには、IoT技術のインパクトも論じられない。MESの持つべき機能については、MESA Internationalが早くから「MESの11機能」を定義していた。「MES入門」の中村実氏の解説を元に列挙すると、次のようになる。(なお、日本語だけだと誤解されかねない部分があるので、元の英語も併記した)

(1) 生産資源の配分と監視 Resource Allocation & Status
 生産資源の監視・管理、資源の配分と予約、資材や設備の監視・管理、などを行う。なおここで生産資源とは、人・機械・治具・金型など、それがないと製造ができないが、材料と違い製造後にも残って他の仕事に使えるものをいう。

(2) 作業のスケジューリング Operations/Detailed Scheduling
 スケジューリングの策定、ロットの発番とリリース、実績の把握に基づくスケジュールの修正。この部分だけを見ると、いわゆる工場スケジューラの機能である。

(3) 差立て・製造指示 Dispatching Production Units
 差立て(ディスパッチ)、製造指示の発行、ロット(現品)管理、現場作業員に対する作業のガイダンスを行う。このうち、製造指示書の発行と差立ては、中堅以上の工場ではどこでもほぼIT化されていると思う。

(4) 仕様・文書管理 Document Control
 仕様・工場モデルの設定・管理(BOM、SOPを含む)、製造記録の管理、ペーパーレス・オペレーションなどを行う。なおSOPとはStandard Operating Procedureの略で、「標準業務手順書」のことである。医薬・食品など品質管理を厳密に求められる分野で重視される。

(5) データ収集 Data Collection Acquisition
 作業報告・POP、データ収集・蓄積などを行う。日本の現場では、作業報告はおおくは日報の形で記録され、翌日上がってくるのが普通だろう。POPとはPoint of Productionの略で、流通業界でPOS(Point of Sales)システムとよばれるものの製造現場版だ。つまり、作業の着手と完了時に、指示書のバーコードをスキャンして、どこの誰が何をいつやったか、リアルタイムに収集する仕組みである。
 他方、「データ収集」(Data Aquisition)と英語で言う場合は、制御系のDCS/PLCなどからタイムスタンプ付きデータを、リアルタイムに自動的に転送してくる仕組みを普通いう。

(6) 作業者管理 Labor Management
 作業者管理・セキュリティ管理などを行う。といっても勤怠管理や現場のゲート・コントロールなどは普通、別に仕組みがあるはずだろう。

(7) 製品品質管理 Quality Management
 統計的品質管理、品質情報の蓄積と管理、品質分析・解析の支援、顧客サービスの向上などを行う。

(8) プロセス管理(工程品質管理) Process Management
 通常のプロセス制御、高度なプロセス制御(工程間制御、フィードフォワード、モデル予測制御など)、例外状況のアラートなどを行う。

(9) 設備の保守・保全管理 Maintenance Management
 保守・保全管理を行う。なお、この部分だけに特化したCMMS(Computerized Maintenance Management System)というパッケージのソフトウェアも存在する。

(10) 製品の追跡と製品体系の管理 Product Tracking & Genealogy

(11) 実績分析 Performance Analysis
 レポート作成、分析作業支援、進捗管理、出荷予測を行う。

・・以上だが、読んでいて、なんだか分かりにくいと思うのはわたしだけだろうか? たとえば、通常のプロセス制御(フィードバック制御など)が、なぜ (8) Process Management機能の一部なのだろうか。これは制御層の仕事ではないのか? また、トレーサビリティ関連の機能が(3)(7)(10)に分散しているように見えるのはなぜだろうか。どうも今ひとつ、自分の頭の中ですわりがわるいのである。

そこで調べてみると、じつはMESの機能モデルはこれだけではないことがわかる。

たとえば、ISA-95 (IEC/ISO 62264)という標準規格がある。ISA-95は、ビジネス(経営)ドメインと製造ドメインとのインタフェース仕様を定めたもので、その中には以下の12の生産関連機能が書かれている(番号はわたしが勝手にふった整理番号である)。

ビジネスドメイン:
 1 オーダ処理、
 2 製品原価管理、
 3 製品出荷管理、
 4 マーケティングと販売、
 5 研究開発および生産技術、
 6 調達、
製造ドメイン:
 7 生産コントロール
両者の境界線にまたがる機能:
 8 生産スケジューリング、
 9 製品在庫管理、
 10 品質保証、
 11 保全管理、
 12 資材およびエネルギー管理

ビジネスドメインと製造ドメインにまたがる機能がMESの役割と考えると、スケジューリング、在庫、品質、保全、資材・エネルギーの5(6?)種ということになる。ただこれらは「お仕事の機能」であって、IT機能モジュールという意味ではないので注意。

ほかに、あまり知られていないが、日本発の標準化を目指した製造科学技術センター(MSTC)の「オープンMES」の9機能というのがある。

1 製造指示管理、
2 工程管理、
3 設備管理、
4 資材管理、
5 搬送管理、
6 製品仕様管理、
7 スケジュール管理、
8 工程仕様管理、
9 保守管理

ISA-95と比較すると、搬送管理や工程仕様管理が入っている点が目をひく。こちらはさらに、製造現場に立脚したモデルという感じを受ける。ただオープンMES自体は、実証目的で試験的実装まで行われたが、技術的及びマーケティング的理由で、現実には広まらなかった。

ところで、ARC Advisory Group(米国の製造業系ITの調査コンサルティング会社)のつい最近の調査レポート:
ISA-95 Integration Standards: Evolution, Revolution or Irrelevance
を読んでいたら、興味深いことが書いてあった。著者はIoT技術の普及進展と共に、MESがいかに影響を受けるかを論じていて、とくにISA-95規格が「進化するのか変革されるのか、それとも無関係なのか」と問うている。その中に小さな図が一つはいっていて、例の3層モデル風の絵が描かれているのだが、そこではMESをさらに

 - Upper MES
 - Lower MES

に分けているのだ。Lower MESは、制御層に一部食い込んでいる(ISA-95はパーデュー大学が開発した機能階層モデルを採用しているので、「制御層」という言い方はしないが)。上位MESと下位MES? 似たような表現を、別の制御ベンダー資料でも見たことがあった。
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いったい、Lower MESとは何か。それは制御層の機能を抱え込んでいるか、切れているのか? これは、上記MESA Internationalの(8) プロセス管理 Process Managementで感じた違和感にも通じている。そもそも、本社機能と現場をつなぐのがMESシステムではなかったのか。だったら現場の機械を動かす制御が、どうしてMESの一部なのか。

こういうヘンテコな現象がMESの機能モデルで生じるのは、じつは理由があるのだ。それは、上述のアメリカ発の標準体系が、ディスクリート系とプロセス系の両方を取り込んだ結果なのである。彼らは抽象化と汎用化を強く志向する人達なので、どんな製造業にも当てはまるモデルを求めたのだろう。だが、それが混乱の元だった。両方をそれなりに見てきたわたしの意見では、プロセス系と組立加工(ディスクリート)系は、制御層の構造がものすごく違っているのである。

簡単に言うと、プロセス産業では、制御レベルで工場(製造ライン)全体が統合されている。プラントにはDCSというシステムが中央制御室にあって、そこから工場内の全てのできごとが監視でき、また主要な機器・バルブなどを操作できるようになっている。

ところが、ディスクリート系では制御が機械単位で行われているのが普通だ。現場に製造機械がある。それのモーションを制御するPLCは、機側盤の形ですぐ横についていて、オペレーターはそのパネルから操作するのが普通だ。搬送機器なども同様である。だが、工場レベルではバラバラだった。前回書いたように、建物の一歩外に出ると、中の機械が動いているか止まっているのかさえ分からないのである。

これではこまるから、複雑な機械作業の連動が必要な半導体や液晶や医薬品工場では、MESが発達したのだ。MESが各機械・設備を統括し、連動して工程間制御の指示を出す。だからMESの中に制御的な機能が入ってくるのである(いわゆるLower MES)。これはプロセス系MESではほとんど不要なことだった。

現場センサーの接続についても、状況はまったく異なっている。プロセス系では、現場の圧力計のトランスミッターと、中央制御室のDCSのメーカーが違っていても、つながってあたり前である。通信がつながるかどうかの心配なんて、誰もしない。もう何十年も前からそうなのだ。だがディスクリート系では、長らく、つながること自体が技術力の証だった。「つながる工場」といったって、つながり度が全然違うのである。

だから制御システム業界では、プロセス系をPA(Process Automation)、ディスクリート系をFA(Factory Automation)と呼び、社内的に区別してきた。技術の考え方がまったく違うからだ。

プロセス系とディスクリート系は、製造における仕様や品質管理の思想も違う。このことは、強調しておいた方が良い。ディスクリート系では、モノに属性がある。また、モノに(やろうと思えば)シリアル番号をふれる。それが当たり前だと、皆、思っているだろう。なぜなら、扱うモノが個体で、混合しないからだ。

だが、プロセス系では、モノではなく、ライン(配管内の流れ)に属性がある、と考える。なぜなら扱うのが流体や粉体で、任意の比率で混合するからだ。そして混合比率も性状も、経時的・連続的に変化する。ただしプロセス系といっても、連続生産でなくバッチ生産の場合は、品質的に均質と言える範囲をロットと定義して管理する必要があるが。

ともあれ、無理に木に竹を接ぐと奇妙なモデルが生まれる。これが、「システム・モデラーが天職」を自称するわたしの、MES標準化活動に関するいささかゴーマンな主張である。もちろん、プロセス系とディスクリート系の境界領域は存在する。わたしのいう「切替型連続生産」業種で、上流はプロセス、下流はディスクリートになる。こういった領域ではモデリングにも細心の注意が必要だと、わたしも思う。

それで、主題はIoT時代のMESの将来であった。わたし自身は、プロセス系のMESについて、すでに「MES入門」「MES活用最前線」でいろいろ書いてきたので、この記事ではあえてディスクリート系のMESについて論じよう。IoT技術が現場とのつながり方を速く広くしてくれたことで、MESはどうなるのか。MESとは工場の製造管理者(工場のホワイトカラー層)を助ける仕組みである、というのがわたしの前提である。一部の欧米人は、本社が直接、MESで製造現場を指示統制できれば製造管理者など不要になると空想しているかもしれないが、わたしはそうは考えない。

その前提の上で、わたしはMESに二つの変化を予想している。だが、今回も問題整理で長くなりすぎてしまったようだ。変化の方向性については、稿を改めて、次回書く。


<関連エントリ>
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (1) MES普及を妨げたもの」 http://brevis.exblog.jp/25991822/ (2017-08-19)
 →「工場計画論(6) ディスクリートとプロセス--製造業の分類学」 http://brevis.exblog.jp/12850087/ (2010-06-23)



by Tomoichi_Sato | 2017-08-27 12:54 | サプライチェーン | Comments(0)