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カテゴリ:工場計画論( 38 )

お知らせ:プラントのレイアウト(Plot Plan)最適設計手法に関するウェビナーを開催します(11月13日11:00〜)

えー、続き物の記事の途中ですが、ここでまたスポンサーからお知らせです(笑)

以前の記事で、設計行為には4つのレベルがある、と書きました。
1. 選択問題(選択的決定):設計の選択肢からどれかを選ぶ(いわゆるカタログ・エンジニア)
2. 求解問題(演繹的決定):科学技術計算で、主要な設計変数を逐次導出する
3. 最適問題(最適化決定):評価関数を最大化する設計変数の組を探索する
4. システム合成問題   :多軸的な評価関数をバランスよく満たすような構造と機構を合成する

この順で、設計は難しくなります。と同時に腕の見せ所でもあり、エンジニアにとって、やりがいが大きくなる訳です。とくに4番目のシステム合成問題は、複数の評価関数をバランスよく満たす必要があり、多目的最適化の考え方が必要になります。

その典型が、工場・プラントの3次元レイアウト設計問題でしょう。工場の全体レイアウト(プラントの場合はプロットプラン=Plot Planと呼びます)を決める仕事は、考慮すべき項目の多い、難しい仕事であり、ふつうはかなりのベテランが取り組みます。

基本的には、工場やプラントの製造工程を構成する機械・装置群を、ムダなく配置し、かつ、モノの流れや人の動線が短く、合理的となるよう設計すれば良いのです。ただし実際には、ある流れを優先すると、別の流れの邪魔をしたり、敷地効率を追求して詰め込みすぎると、機械のメンテに支障をきたしたり、といった問題が発生します。つまり、「あちらを立てればこちらが立たず」=『トレードオフ現象』が生じるのです。

このような複雑なレイアウト設計問題に対し、コンピュータの力を借りて、最適化問題としてアプローチしようという考えは、以前からありました。しかし、ちょっと調べれば分かりますが、「計算爆発」「次元の呪い」「NP完全問題」など、恐ろしそうな言葉が並ぶ分野です。最適化どころか、実行可能解を一つ求めるだけでも大変という世界でした。

さらに、評価関数が複数あるので、それらの線形荷重和を最小化する、というアプローチが多くとられてきました。でも、それは結局、多目的なモデルの評価を、単一目的の最適化で解いている訳ですから、問題の全体構造を俯瞰して、トレードオフを考たりするのは難しいのです。しかも、配置問題においては、定量化できる評価軸ばかりとは限りません。むしろ、定性的な評価項目も結構多く存在します。

という訳で、やはりレイアウト設計はベテランの経験と勘に頼る、という時代が長く続いてきました。そして人手でやる仕事ですから、案は一つか、せいぜい少し変えた2案を比較する程度が限界でした。

この限界を打ち破りたい、と考えたわたし達は、あらためて問題を根本から考え直してみました。最適化問題は、モデリングが命です。対象の系を、どのような要素に分解するか。それをどう組合せるか。そして制約条件をも、目的関数化できるか。これがポイントです。そして、トレードオフ状況の中で、ユーザが対話的に、もっとも満足できるバランスを探すような仕組みを作りたいと、技術開発を続けてきました。

今回、ようやく、その成果を公開できる段階に達しましたので、一緒に開発してきた同僚・仲間と、ウェビナーを開催することになりました。題して、

プロットプラン自動設計システム「Auto Plot PATHFINDER」
〜 プロットプランを最適設計する新しい方法 〜

このセミナーでは、良いプロットプランの条件とは何なのかについて考え、日揮が開発した、最適なプロットプランを設計する新しいシステム「Auto Plot PATHFINDER」について、ご紹介します。またゲストとして、当分野の権威である香川大学教授 荒川雅生氏から「多目的最適化の最新の技法」についての解説もいただきます。

日時:2020年11月13日 11:00 - 12:00 AM
(事前登録制、参加無料です)

講演者:崎山弘道(日揮グローバル)、佐藤知一(日揮ホールディングス)
ゲスト:香川大学教授 荒川雅夫氏

ウェビナー登録サイト
LinkedIn ウェビナー案内

なお、内容の概略については、以下の短い動画でのご覧になることができます。
YouTube :
LinkedIn :

工場・プラントのレイアウト問題に対する、次世代の新しい設計手法にご興味のある皆様の、幅広いご参加をお待ちしております。


日揮ホールディングス(株) 
チーフ・エンジニア(Business Analyst) 佐藤 知一


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  (2020-05-07)
  (2020-05-15)
  (2020-05-20)


by Tomoichi_Sato | 2020-11-05 00:12 | 工場計画論 | Comments(0)

製造業のデジタル化におけるミッシング・リンクとは + オンライン講演のお知らせ(10/30)

2000年の4月に、共著で「MES入門」(中村実・正田耕一編)という本を上梓した。わたしは第3章「MESを中核とした垂直統合 -プロセス産業のケース-」を執筆し、その中でMES/ERP/SCM/DCSなど、製造業の生産物流活動に関わるITシステム群の機能関係と構造を図解した、一種のソリューション・マップを提示した。それが下図である。
製造業のデジタル化におけるミッシング・リンクとは + オンライン講演のお知らせ(10/30)_e0058447_23220930.jpg

この図は、プロセス産業を念頭に置いたものだが、今眺めても、それほど違和感はない。本社にあるSCMシステムが広域の生産・物流計画や需要予測などの計画系業務を受け持ち、ERPが受発注や販売・財務・人事など取引と管理系業務を受け持つ。中央にMESがあって、製造のスケジューリング・指示や製造実績・品質・技術図書(図面)・保全などを差配する。そして、製造のレベルでは、DCSが様々な現場のサブシステムをコントロールしている

念のために、主要な略号を説明しておこう。
SCM: Supply Chain Management(サプライチェーン・マネジメント)
ERP: Enterprise Resource Planning(基幹情報システム)
MES: Manufacturing Execution System(製造実行システム)
DCS: Distributed Control System(中央制御システム)

なんだか英語と日本語が対応していないじゃないか、と思うかもしれない。とくにDCSなど、英語と日本語が、よく見ると真逆の意味になっている(笑)。だが、これでいいのだ。英語ではいろいろな経緯を背負って用語が成立してきたが、日本に翻訳される際には、そのエッセンスで紹介されるので、日本語のほうがむしろ、実情にあっている。(図には、他にもESDだのMMSだの見慣れない用語が並んでいるかもしれないが、ここでは説明は割愛する)。

そして図にあるように、複数のソリューションからなる全体が、きちんと統合されて動いている。もちろん、図はモデルを示したもので、現実の統合の度合いは、会社や工場によって違いがある。だが、目指す方向が概ねこのような姿であることは、業界内の暗黙の合意だ。

過去20年で目指す姿があまり変わっていないのは、石油や化学などのプラント分野の技術変化が遅い証拠だ、と思うかもしれない。だが、それだけプロセス産業は、他の組立加工系などの製造業よりも、先に進んでいたのだ、という解釈も成り立つだろう。

プラントは大型の装置や配管などの中を、原料や製品の流体が動いていくので、基本的に製造の様子が外から目に見えない。したがって、プラント内の随所に、温度計・圧力計・流量計など、各種の計器・センサーが多数、設置されている。そして、そこから継続的に得られるリアルタイムのデータを元に、中央制御室から、プラントの主要な決断や指示や制御を下すことになっている。相手が流体なだけに、手作業の介在も少なく、機械化が進んでいる。

つまり、ある意味では最新の「スマート工場」を、20年以上も前からプロセス産業は実現している訳だ(なので、この産業に働く皆さんは、いまさら「Industry 4.0」だの「製造業DX」だのの言葉にびっくりせずに、もっと胸を張っていいのに、とも思う)。

ただし、プロセス・プラントにも泣き所が一つある。それは品種切り替えとか多品種少量化に弱いことだ。そもそもプラントは24時間連続運転を前提に作られている。そこにはバッチ的な仕組みも混在しているが、順次切り替えて、擬似的な定常運転を作り出すタイプが多かった。

ところが化学産業が、付加価値の高いファインケミカルに特化していくと、次第に顧客別の仕様の受注生産形態が入ってくる。そして多品種化してくる。プラントはあちこちの装置が配管でつながっているので、品種切り替えに伴うレシピの管理、といった問題が出てきた。連続変数だけで制御できていたシステムに、離散変数が入り込んでくる。そして、このようなプロセスを制御する方式を、業界内で共通に記述する方法が必要になった。

この問題を解決するために、『ISA-88』(略称S88)という標準規格が、計装制御の国際組織 ISA(International Society for Measurement and Control)によって策定された。1988年に始めたので、この番号がついている。詳細はここでは説明しないが、興味のある方は、ジャパン・バッチ・フォーラムが「S88入門」という非常に分かりやすい小冊子を出しているので、ぜひ参照されたい。

S88の誕生によって、DCSやSCADAなどの制御システムの設計・運転は、格段に分かりやすくなった。他方、受注生産におけるオーダーや在庫量などの扱いは、本社でERP(基幹業務システム)が受け持つ。あとは、両者をインタフェースでつなげば、これでオッケー、と思われた。

だが、実際にやってみると、話はそんなに簡単でないことが、次第にわかってきた。90年台前半のことだ。なんといっても、客先からの受発注の業務と、製造現場における制御の指示では、粒度が全然違うのだ。受発注は製品単位である。納期だって日単位だ。ところが制御の世界では、相手はバルブや計器などデバイス単位で、流れるモノは工程ごとのバッチ(ロット)単位、そして時間は秒単位だ。この両者を、どうやってつなぐのか。

明らかに、両者をつなぐ輪が、欠けている。ここにミッシング・リンクがあった、という認識が次第に広まって、ISAでは、それをつなぐための新しい標準、『ISA-95』(S95)の策定が始まった。S95は、プロセス産業のみならず、製造業全体における、ERPと現場制御の間をつなぐ業務プロセスをカバーするという、野心的な構想のもとに、進められた。

そして、製造業における汎用的な階層モデルの記述のために、Purdue Modelが参照された。パデューは、米国の生産分野研究のメッカの一つ、インディアナ大学のある場所の名前だ。階層は下から、
 Level-0(物理的処理)、
 Level-1(インテリジェント・デバイス)、
 Level-2(制御システム)
 Level-3(製造オペレーション・システム)
 Level-4(ビジネス・ロジスティックス・システム)
と分類さている。

では、ミッシング・リンクとはどこなのか。それはLevel-3のところにある。パデュー・モデルでは製造オペレーション・システムとよんでいるが、これはいわゆるMESの層にあたる。本社系ERPと現場の制御系をつなぐもの=それがMESなのだ(最近はLevel-3を表す「製造オペレーション管理」ソフト、英語でManufacturing Operetions Management = MOMという用語もよく使われる)。

そこで、前回の記事の図を思い出してほしい。製造業における情報とデータの流れの、中段に「工場管理者レベル」があった。じつはこれが、ISA-95におけるLevel-3を表している。だから、製造業の生産システムを上から下まで、ちゃんとデジタル化したかったら、真ん中にMES(MOM)が必要だ、ということがわかると思う。前回記事の図は、業務と情報の流れだった。それを、あえてシステムとデータの流れに翻訳し、さらにS95のレベルを追記したのが、次の図だ。
製造業のデジタル化におけるミッシング・リンクとは + オンライン講演のお知らせ(10/30)_e0058447_23252433.jpg

次世代スマート工場にはMESが必要だ」というわたしの主張は、ここが立脚点なのである。もちろん、MESは工場スマート化の必要条件であって、十分条件ではないから、MESを入れてもスマートでない操業はありえるが、MESがないスマート工場なんて考えられない。

ところが。このISA-95のカバーする概念領域自体が、日本ではほとんど知られていない。なんといっても、80年代後半から90年代初頭まではバブル絶頂期で、「ジャパン・アズ・ナンバー1」=日本的経営の絶賛の頃だ。「もう欧米に学ぶこと無し」と言われていた時代だった。だから90年代の終わり頃まで、日本の製造業には、欧米発の経営思想やIT思想がほとんど輸入されなかった。S88もS95も、流行らなかった。

ERPやSCM、そしてTOCなどが知られるのは、ようやく90年代も終わり近くだった。その頃にはバブルが崩壊し、製造業は不況で生き残りに必死モード、今度は情報投資どころではなくなってしまった。かくて、欧米企業とは20年分のギャップが空いたまま、Industry 4.0やら製造業DXやらの潮流を迎えたわけだ。

このギャップ、経営思想の認識の違いに根ざしているから、お金で最新IoT技術を買ってくるだけで、簡単に埋まりはしない。回り道でも、概念レベルから学び直す必要がある。ただ、幸い日本企業の基本的なオペレーションの水準は高いので、ちゃんと理解さえすれば、キャッチアップは可能だろう。

その一つの手がかりが、ISA-95のいうLevel-3の領域である。ISA-95には問題点もあると個人的には考えているが、知っていて使わないのと、知らないのではぜんぜん違う。もっと普及と認知が必要であろう。

ということで、このような問題意識を共有する人たちと、下記の通りパネル・ディスカッションを開催することになった。テーマは、スマート工場と経営システムのギャップ、つまりまさにミッシング・リンクとしてのLevel-3領域の話だ。出席者の藤野直明氏、水上潔氏、藤井宏樹氏はいずれも、この分野で名を知られた論客ばかりである。


<記>

(1) ダッソー・システムズ『DELMIA Operations World Tour 2020 Japan』(オンライン・セミナー)

日時: 2020年10月30日(金) 14:00 ~ 17:30
   (小生の出席するパネル・ディスカッションは16:30~17:30の時間帯です)

テーマ:「デジタル変革を支える持続可能な製造システムの再考」

主催: ダッソーシステムズ(株)

登壇者: 野村総合研究所 主席研究員 藤野直明氏
     RRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会)統括 水上潔氏
     日揮ホールディングス(株) チーフ・エンジニア 佐藤知一
     (司会)ダッソー・システムズ ディレクター 藤井宏樹氏

セミナー詳細: 下記からお申し込みください(無料、定員なし)

急に決まったので、かなり直前の案内になってしまったが、オンライン形式なので、もし時間があったら少しでもご参加いただけると、大変うれしい。


<関連エントリ>

 →
 (2012-10-12)


by Tomoichi_Sato | 2020-10-19 23:56 | 工場計画論 | Comments(2)

お知らせ:次世代スマート工場に関するオンラインセミナーを再度開催します(7月14日10:30〜)

先月の23日に開催したオンラインセミナー:
日揮の考える《次世代スマート工場》とは ~どう動くのか、どう作るのか~
は、おかげさまで大勢の方から参加申し込みをいただき、すぐ定員100名に達しました。

そこで、参加できなかった方のために、下記の要領で7月14日(火)10時30分から、アンコール開催をいたします。もちろん前回同様、無償です。

1時間枠で、最初にわたしが40分ほど講演し、その後20分ほどQ&Aをオンラインで行うという形式で行います。講演内容は前回と同じですが、後半のQ&Aはもちろん、その場で頂いたご質問にできる限りお答えする形式です。

前回も書きましたが、『次世代』スマート工場とつけたのは、現在あちこちで語られている「スマート工場」と、少し区別したいからです。その多くは、現場の機械やセンサーからデータを取得し、蓄積・分析して、故障予知や生産性カイゼンに活かす取り組みだと想像します。

ただ、それだけでは、デジタル技術やIoTの使い方として、非常に勿体ない。こうした新しい技術は、日本の工場の在り方を根底から変えるインパクトを秘めているはずです。工場全体が「インテグラルな(統合された)システムとして設計され、スマートに操業される」存在にかわる可能性がある。それを称して、「次世代スマート工場」とよんでいます。

そして、この話を理解していただくためには、どうしてもシステム工学的な視点=システムズ・アプローチを持っていただく必要があります。今回のオンラインセミナーでは、人と、機械と、モノと、建築と、データとからなる、実体を持つシステム=工場に関する、システム工学的なアプローチについて、まずご説明します。デジタル技術に興味を持つ技術者で、製造業の仕事に関わる方ならば、どんな職種・ご専門でも、興味を持って聞いていただけると思います。

オンラインセミナーは前回、初めて実施してみましたが、その場にいなくても、多くの方と直接やり取りができるのがオンライン形式の良い点だと、実感しました。また、沢山の良い質問を頂戴しました。たとえば、

・ディスクリート系の工場は製造能力の把握が困難だが、方法はあるか
・現場責任者が工場ダッシュボードを見て判断する仕組みと、中央がガイダンスを下す仕組みの優劣
・ディスクリート系とプロセス系の中間に位置する生産方式の工場の特性とは
・工場全体のスマート化は必要と思うが、予算がかかると上の了解がとれないジレンマの解決法は
・生産効率と「人が働きたくなる工場」の間には,密接な関係があるか

などなど。中には答えの難しい問いもありましたが、また皆さんと一緒に考えられればと思っています。


<記>

日揮の考える《次世代スマート工場》とは  ~どう動くのか、どう作るのか〜

日時: 2020年7月14日(火) 10:30~11:30 (講演40分+質疑応答20分)
主催: 日揮ホールディングス(株) IT Grand Plan 2030事務局

講師: 佐藤知一
    日揮ホールディングス(株)チーフエンジニア(ビジネス・アナリスト)

講演概要:
「スマート工場」の概念は、IoT技術の進展やドイツIndustry 4.0などの動きとともに、世界的に注目を浴びています。しかし日本国内の取組みの多くは、単純なデータ収集・可視化に留まり、工場全体のスマート化につながらないように見受けられます。本講演ではまず、一般的な組立加工系の工場に生じやすい問題を、システム工学の観点から分析します。その上で、工場全体の知能化のために必要な『中央管制システム』の概念を紹介し、これからの新しい工場づくりのあり方を論じます。

参加費: 無料(事前登録制)
申込み: 下記をご参照ください

※ご登録後、ウェビナー参加に関する確認メールが届きます。
※今回も定員100名となっております。もし定員を超えた場合は、別途ご連絡させていただきます。

以上、よろしくお願いします。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


<関連エントリ>
 → 
(2017-09-04)


by Tomoichi_Sato | 2020-07-06 21:01 | 工場計画論 | Comments(2)

お知らせ:次世代スマート工場に関するオンラインセミナーを開催します(6月23日15:00〜)

という訳で、お知らせです。
(「という訳」の意味を知りたい方は、前回の記事 をご覧ください)

次世代スマート工場に関する、オンラインセミナーを6月23日に開催します。もちろん無償です。1時間枠で、わたしが40分ほど講演し、その後20分ほどQ&Aをオンラインで行うという形式でやろうと思っています。

わざわざ『次世代』スマート工場とつけたのは、理由があります。現在あちこちで語られている(そして実証実験=PoC等が進められている)「スマート工場」と、少し区別したいからです。

もちろん、世の中にスマート工場の厳格な定義はありませんので、誰でも、どんな工場だって、「これはスマート工場です」と呼ぶ権利はあります。ちょうど、昨今のDX=デジタル・トランスフォーメーションという言葉にまつわる状況にも、少し似ています。

ただ、スマート工場という言葉が普及し始めて3〜4年たちますが、その多くは、現場の機械やセンサーからデータを取得し、蓄積・分析して、故障予知や生産性カイゼンに活かす、という枠組みの活動に見受けられます。分析にはデータ・アナリティクスや深層学習なども、利用するのでしょう。そうした取組み自体の価値を、否定するつもりは全くありません。ただ、それだけでは、新しく登場したデジタル技術やIoTの使い方として、非常に勿体ないと思っているのです。

わたしは、デジタル技術やIoTが、日本の工場の在り方を根底から変えるインパクトを秘めていると考えています。すなわち、工場全体レベルでの操業の知能化であり、また物理的なレイアウトの劇的な変革です。もう少し言うならば、工場全体が「インテグラルな(統合された)システムとして設計され、スマートに操業される」存在にかわる可能性を持っているのです。それを称して、「次世代スマート工場」とよぶ次第です。

そして、この話を理解していただくためには、どうしてもシステム工学的な視点=システムズ・アプローチを持っていただく必要があります。ただし、システム工学といっても、ITプログラミングの話ではありません。人と、機械と、モノと、建築と、データとからなる、実体を持つシステム=工場に関する、総合的なアプローチのことを指しています。

こうしたアプローチや技術を教えてくれる大学・学科は、あいにく、日本にはありません。ですから、自分の本来の専門とは別に、学ぶ場が必要です。自分が電気屋だろうが土木屋だろうが機械屋だろうが、もちろんITエンジニアだろうが、ある意味平等に、「工場のシステムズ・エンジニアリング」のプロになれるチャンスが有るのです。(ちなみに、そうした教育を施してくれる大学・学科は、他所の国にはあります。そういう違いが、日本との競争力の差を少しずつ生んでいるのです)

という訳で、今回のセミナーは、デジタル技術に興味を持つ技術者で、製造業の仕事に関わる方ならば、どんな職種・ご専門でも、興味を持って聞いていただけると思います。

おっと、いつものように、前口上ばかり長くなってしまいました。 委細は下記のとおりです。

<記>

日揮の考える《次世代スマート工場》とは  ~どう動くのか、どう作るのか〜

日時: 2020年6月23日(火) 15:00~16:00 (講演40分+質疑応答20分)
主催: 日揮ホールディングス(株) IT Grand Plan 2030事務局

講師: 佐藤知一(日揮ホールディングス(株)デジタル統括部 Chief Strategic Analyst )

講演概要:
「スマート工場」の概念は、IoT技術の進展やドイツIndustry 4.0などの動きとともに、世界的に注目を浴びています。しかし日本国内の取組みの多くは、単純なデータ収集・可視化に留まり、工場全体のスマート化につながらないように見受けられます。本講演ではまず、一般的な組立加工系の工場に生じやすい問題を、システム工学の観点から分析します。その上で、工場全体の知能化のために必要な『中央管制システム』の概念を紹介し、これからの新しい工場づくりのあり方を論じます。

参加費: 無料(事前登録制)
申込み: 下記をご参照ください
 または、itgp2030@jgc.com までお問い合わせください。
※ご登録後、ウェビナー参加に関する確認メールが届きます。
※定員100名となっておりますので、定員を超えた場合は別途ご連絡させていただきます。

以上、よろしくお願いします。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


<関連エントリ>



by Tomoichi_Sato | 2020-06-11 21:36 | 工場計画論 | Comments(0)

工場のデジタルツインとは何か、製品のデジタルツインとはどこが違うか

1.「デジタルツイン」概念はどこから来たか

デジタルツインという言葉を、以前よりよく聞くようになった。例によって、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に関連する文脈で、登場する。とくに製造業のDXと共に、語られることが多い。

デジタルツインとは、物質的(フィジカル)な存在のモノの、双子のコピーを、サイバー(デジタル)空間内に構築したもの、というほどの意味である。IT関係の流行言葉の常として、あまり厳格な定義がある訳ではない。だから、いろんな人が、思い思いの文脈で使っている。

デジタルツインという概念は、ドイツの「Industry 4.0」戦略とともに注目された。Industry 4.0それ自身も、ずいぶんと広範な概念だが、一応リファレンスとなる定義文書がある。とくに2013年にドイツのAcatech(国立科学技術アカデミー)が連邦政府に提出した、「『戦略的イニシアティブ Industrie 4.0』の実現へ向けて」は、初期の重要な文献である。ドイツ語版だけでなく英語版もあるし、さらには野村総研の藤野直明氏らが訳した日本語版も存在する。

この文書の最初の方に、Industry 4.0は、Cyber Physical Systems(CPS)の活用によって実現し、それは「スマート製品」と「スマート工場」の二本立てで行う、という意味のことが書いてある。とくに、スマート製品というコンセプトは重要である。ここから、デジタルツイン概念までは、ほんの一跨ぎだからだ。

ところで、不思議なことに日本では、「インダストリー4.0は無人工場を目指すものだ」といった誤解が案外、広まっている。昨年わたしは、慶応大学の松川弘明教授らと一緒に、ドイツのフラウンホーファー研究所や複数の工科大学を訪問して、インタビューを行ったが、無人工場が理想だ、などとは誰も言わなかった。むしろ、Industry 4.0は"Human-centered production"(人間中心の生産)を目指す、という発言を聴き、なるほど明確な思想に基づいているな、と感じたものだ。

人間が生きて働くことの中心には、ものづくりがある、とドイツ人たちは思っている。だからデジタルが、それを支えるべきだ、と。

ところが、ものづくり大国ニッポンに来ると、話は全然逆の受け止め方をされるらしい。デジタル技術やロボットは人間を駆逐する、だから無人化の最先端の競争に乗り遅れてはならない、というふうに。どうやらよほど、日本の製造業は(少なくともメディアは)「人間ぎらい」であるらしい。他方、日本のものづくりの現場を見ると、働いている人の「やる気」と、職人的な「感覚」にばかり頼っている。まこに奇妙である。それとも、日本企業は人間ぎらいというよりも、「労働者ぎらい」なのだろうか? たしかにロボットは労働組合を作ったりしないが。

話がそれた。

Industry 4.0の中核にあるCPS (Cyber-Physical System)というのは、これまた一種の抽象概念である。これは特定の種類のITシステムを意味している訳ではない。サイバー世界と現実世界の間に紐づけ、ないし橋渡しをして、上手にマネジメントを進化させる「仕組み」についての概念だ。

フィジカル(現実)空間内だけで戦わないで、サイバー空間内でシミュレーションや分析を行い、決断を下す。これがI4.0のCPSが目指すところである。現実世界で何か試したり、実験したりすることは、製造業の場合、必ずしも容易ではない。サイバー空間内なら、もっと気軽に予測や検討ができる。そこで、現実に瓜二つな「双子」をデジタルで作ろう、という発想になる。これが「デジタルツィン」だ。

もっとも、CPSもデジタルツインも、別にドイツ人が発明した言葉ではない。CPSは2006年に、米国国立科学財団(NSF)が言い出した概念だ。Digital twinという言葉はもっと早く、2001年に米国ミシガン大学のM. Grievesらによって提唱された。だが、どちらの言葉も2010年代の半ばになるまでは、あまり普及しなかった。その証拠に、2012年にGEが作ったIndustrial Internetのコンセプト・レポートには、CPSという言葉は登場しない。

ただ、デジタルツインの概念については、GEによる積極的な喧伝が大きかった。ジェットエンジンや火力発電用のガスタービンはGEの主力商品の一つだが、彼らはそれを早くから3Dモデルで設計しただけではない。その動作状況を各種センサーとIoTでモニタリングし、コンピュータ内で3Dで精密に再現することを、新しいビジネスモデルのコア技術として採用した。GEのデジタル戦略自体はいささか迷走気味で、業績も近年はふるわないが、IICコンソーシアムの設立活動と共に、デジタルツイン概念を皆に知らしめる上で大きな力となった。


2.スマート製品・スマート工場・デジタルツィン

ところで、ドイツIndustry 4.0でいう「スマート製品」とは、ユーザの手に渡ってからも、自分の状態を克明に検知発信できる機能を持つ。まさにGEがガスタービンで実現しようとした機能である。いや、そればかりか、製造途中の段階でも、それぞれの半製品や部品が、複数工場からなるサプライチェーン上で、次にどこに行くべきかを、自分で知っていて、行き先も自発的に制御できるという、いささかSFチックなコンセプトでもある。

彼らは、なぜ、こんな事を考えたのか。その理由は大きく2つあった。一つは、スマート製品が、顧客の手に渡ってからも、IoT技術を使って、顧客の使用状況をリアルタイムにモニタリング可能とすることで、新しい製品の付加価値をもたらしたり、設計に有用な情報をフィードバックできるようにするためだ。スマート製品は、「自らが最適に機能可能なパラメータ、及び、ライフサイクルを通して消耗の徴候を検知可能な、パラメータ」をビルトインしている(上掲書P. 19)。それによって、ベストな使い心地をユーザに提供できる、という。

もう一つは、スマート製品(スマート部品も含む)により、生産におけるマス・カスタマイゼーションを実現したいからだ。マス・カスタマイゼーションとは、顧客の個別ニーズに応じた製品でありながら、大量生産の利点も得ようとする生産思想である。そのためには、製品のコンフィギュレーションに応じて、部品・半製品が、異なる工順や工場ルートをたどる必要が出てくる。そこで、スマート製品は「製造中でさえ、自らの詳細な製造プロセスを知っている。これは、スマート製品が半自律的に個々の生産段階を制御できることを意味する。」(同、P.19)のである。

このような流れから、とくに、ジェットエンジンや風力タービン、あるいは電気自動車など、複雑な機械の分野におけるスマート製品の開発において、デジタルツィンが注目されるようになった。さらに、ビジネスモデルのサービス化(サービタイゼーション)の道具にもなることで、GEやロールスロイスなどの取り組みが注目をあびた。

ところで、自動車とか携帯電話ではなく、素材を作る業界、たとえば資源・化学・石油・建材などの業界では、どうか。こうした分野では、さすがに「スマート製品」は実現困難だ。そこで、デジタルツインの関心の向かう先は、「スマート工場」の取り組みとなった。

たとえば、海外での石油・化学業界のDXに関する最近のカンファレンスを見る限り、この分野でのデジタルツィンの目的は、生産設備の効率化が主眼にある(彼らはこれをAsset optimizationと呼ぶ)。とくに石油・ガス企業は、オフショア(洋上)生産設備のデジタルツインに関心が高い。洋上設備だけに、安全性の要求も厳しいし、問題が起きたからといって、すぐ見に行くという訳にも行かない。したがって、コンピュータ内に双子のモデルを作り、遠隔から監視・操業できるならばメリットも大きいはずである。

そういう意味で、デジタルツィンは、工場・プラントのO&M(操業・保全)が主目的になっている。そしてITベンダーの積極的な宣伝もあって、デジタルツィン実現への期待は高い。しかし、その具体的な定義や内容はまちまちで、業界としてまだ定まっていないのが実情である。


3.スマート工場のデジタルツイン――その機能と構造を考える

では、デジタルツィンはどのような機能と構造を持つべきなのか。多くの人の期待感を抽象化してみると、ある程度の共通項が見えてくる。すなわちデジタルツインとは、機械や建築など人工物に対して、以下のデータと機能をサイバー空間内に表現したものである:

(1) 設計データ(とくに形状に関する3D modelと、構成部品に関するBOM・属性データ)
(2) オペレーション・データ(使用状況、入出力、パフォーマンス、保守履歴等)
(3) 分析・表示・予測機能(シミュレーション機能)
工場のデジタルツインとは何か、製品のデジタルツインとはどこが違うか_e0058447_21263149.jpg
データは当然データベースに格納されマネージされるが、通常は、3Dモデルのビューから、ユーザに統一的なアクセスを与えるようなUIを持っている。またオペレーションデータは、時系列で膨大となるため、データ・アナリティクス技術の対象となる。もちろん、BIツールでコックピット表示などもできるだろう。しかし、単に過去を分析し、現状を「見える化」するだけでは、意思決定に役立ちにくい。やはり予測のためのシミュレーション機能が必要である。それは以前、「工場コックピットで、何を見たいか?」にも書いたとおりだ。

そしてデジタルツインは、自動車や航空機など機械製品の分野が先行してきた。これに対し、建築や工場・プラントなどの分野では、利用企業もITベンダーも、機械業界のアナロジーから出発しているように見える。だが、機械・建築・プラントでは、特性や機能に差異が大きい点に注意が必要だ。まとめると、以下のようになる。

(1) 機械業界(自動車・航空機など)

・デジタルツィンの対象は、製品である。
・機械製品においては、部品の幾何形状と、その力学的機能・構造が一体化している点に特徴がある。そこで設計データとしては、3Dモデル・部品表(BOM)・材質等が必要になる。オペレーション・データとしては、個別製品の使用状況(IoT技術で取得)、位置・速度・燃費などで、製品数が多いため、ビッグデータになる。
・予測機能としては、動きのシミュレーションが中心だが、構造解析、伝熱なども必要かもしれない。

(2) 建築・土木業界

・デジタルツィンの対象は構築物であるが、この分野では「BIM(Building Information Modeling)概念」を業界全体が志向している。
・建築の全体構造と、設備や各室の機能は、相対的に分離している点が特徴である。そこで、3Dモデル・材料表・コンポーネント属性(ベンダー固有情報等)が設計データになる。オペレーション・データとしては、利用者(人間)の動きが中心で、センサーが少ない。いわゆるビル・マネジメント系+補修履歴などで、データ量は比較的少ないだろう。
・予測機能は、建築では動きのシミュレーションの要素は少なく、構造解析と流体力学が主になる。

(3) 一般製造業(素材産業を含む)

・デジタルツィンの対象は、工場・プラントである。
・工場においては、プロセス(機能)設計と空間設計とは、ある程度独立している。そこで設計データとしては、機能的なVSM(プラントならばP&ID)と、3Dモデル、機械設備(アセット)とその部品表(BOM)・材質・属性等になる。とくに機械設備はベンダー固有情報が多い点が要注意だ。また人の作業が重要な要素となるため、人間のモデリングが必要である点が、特徴だ。
・オペレーション・データとしては、4M(人・機械・物品・製造方法)のデータ収集が望ましい。センサーデータをPLC/DCSがリアルタイムに処理し、データロガーやヒストリアンに蓄積することになろう。保守履歴データも要蓄積である。
・予測機能としては、機械と人による製造・物流のシミュレーションが必要だ。ただ化学プロセスでは、反応を含む動的シミュレーションが必要で、こちらは難易度が高い。応力解析や腐食もテーマだが、優先度は低い。

そして、CPS(Cyber Physical System)の観点から言えば、工場のデジタルツインを実現するためには、少なくともMESが必要であることは分かる。それがないと、現場の機械やデバイスがいくら自動化されIT化されても、そのデータが上位系とつながっていかないからだ。現在の日本の多くの工場では、そこを人手とExcelあたりが繋いでいる。おかげで、現場の機械にセンサーをいくら付けても、それが「どのオーダーの何を作っているのか」すぐに分からず、分析も簡単でないという状況になる。

なお、工場のデジタルツイン構築についていえば、既設の工場やプラントの双子を、ゼロから作成するのは非常に手間がかかる。無論、3D Scanなどの技術は利用可能だろうが、それでも大変な仕事だ。他方、新設の工場・プラントならば、設計・建設を請け負うメイン・コントラクター(もし居れば)に、アセットの設計データ部分の作成協力を依頼しやすい。そういう理由か、最近プラント分野では、海外の先進企業から、「フィジカルなプラントだけでなく、デジタルツインも納入してくれ」といった要求が出てくるようになった。

だが、業界としてまだ共通の合意がないので、どこまでがスコープの範囲なのか、から始まって、まだまだ解決すべき道のりは遠い。デジタルツイン構築のためには、プラントのオーナーやエンジ会社だけでなく、多数の機器・装置ベンダーなどの協力も必要になるため、もっと互いのベネフィットとリスクを共有できる、標準的な合意点をつくりたいところだ。


4.スマート化に関する勉強と議論の場の必要性

・・と、ここまで書いてきて、あらためて気づいたことが、ひとつある。本サイトの読者諸賢には、製造業に働く技術者、とくに生産技術者やITエンジニアの方が少なくないと思われる。そういう方々にとって、デジタルツインだの、スマート製品・スマート工場といった話題は、技術的興味の対象にはなりえても、実際の日々の仕事からは遠い領域のトピックに、聞こえるのではないか? 興味はある。だが現実にはあまりに障害が多い、と。

実際、日本の製造業における生産技術者は不足しており、非常に忙しい。しかも、長年の不況の結果、工場への設備投資は抑えられ、通信ポートさえ持たない旧式の機械のお守りや、頻繁な新製品の試作対応、そして海外工場への支援対応などで忙殺されているケースをよく見かける。さらに、製造現場に詳しいITエンジニアが、SIベンダーには驚くほど少ないため、製造用ITシステムの導入・保守もままならぬ。デジタル音痴の上層部については言うに及ばず、という具合だ。

しかたなく多くの技術者が、自分の関われる範囲で、こつこつ実践を重ねてスキルをつけたり、経験をもとに将来の絵を描いたりしている。ただ、それが自らの状況の枠内からの発想に留まっているとしたら、とても残念なことだ。

技術者にとって、環境依存の知識やスキルを積み上げても、これからはあまり活きない。環境依存というとIT系の人は、OSやマシンのことかと誤解されるかもしれないが、そういう意味ではない。「自社内という環境」に特化した知識・技術、という意味だ。自社でしか通じない用語・概念、自社の固有の業務ニーズ、そして自社がたまたま伝統的に使用してきた特定メーカーの技術や製品。そういった物事の上に、自分のスキルや技術成果を積み上げても、汎化も転用もできない。別の言い方をするなら、不況で自分が会社からバイバイを言われたら、その瞬間に価値がなくなるような技術スキルのことだ。

どうせ情報収集をするなら、自分のバリューにつながるような勉強をしたほうが良い。バリューにつながるとは、すなわち「抽象化された概念モデルにもとづく」思考や技術であろう。なぜなら、それならば特定の環境にもベンダーにも依存しないからだ。

そして、そういう問題意識を持つ技術者のために、情報収集や意見交換の場を作りたい、というのが最近のわたしの願いだ。

そこでトライアルとして、今月の後半に、1時間程度の短いオンラインセミナーを、わたしの勤務先の応援を得て実施しようと計画している。くわしい案内は後ほど開示するが、現時点では6月23日(火)午後14時頃からを予定している。テーマは、「次世代スマート工場とは何か」である。わたしがまず40分ほどお話し、残る20分程度を質疑応答にあてたい。

デジタルツインだのスマート工場といった物事は、この会社・この業界・この国では夢物語かもしれない。だが、他の会社・他の業界・別の国では、もう手の届く現実だったりする。そこで、何を考え、どう現実を変えていくべきなのか。簡単な答えはない。だが、少しでも一緒に議論できればと願っている。


<関連エントリ>


by Tomoichi_Sato | 2020-06-03 22:18 | 工場計画論 | Comments(0)

次世代スマート工場の市場可能性に関する調査報告会のお知らせ(1月23日)

明けましておめでとうございます。今年はじめての講演発表のお知らせです。

一昨年より、一般財団法人エンジニアリング協会の中で、「次世代スマート工場のエンジニアリング研究会」を組織し、活動をはじめました。今回はその研究会が中心となって、JETRO(日本貿易振興機構)から受託した調査事業の、成果報告会という形になっています。わたしも報告者の一員としてお話いたします。

ご承知の通り、現在の日本の製造業における工場スマート化の試みは数多くあります。しかし、全体が大きな動きとなって前に進んでいる、とまでは言えません。たしかに機械設備にセンサーを付けてIoTデータを収集したり、AIの機械学習ツールで分析・故障予知などをする取り組みは、あちこちで行われています。ですが、その多くは実証実験(PoC)止まりのようです。

スマート化により工場全体のレベルで劇的なパフォーマンス向上を達成したとか、新しい発想で管理の仕組み・レイアウト自体まで変えた工場を作ったという事例は、それほど聞きません。そもそも、「スマート工場」とは何か、という概念レベルでの共通認識も、えられていないのが現状です。

わたしたちの「次世代スマート工場のエンジニアリング」研究会は、この現状を打破するため、大きく3つの柱をたてて活動を進めています。1つ目は、事例調査を内外で広く行い、優れた取り組みについて学び共有すること。2番目は技術開発で、工場全体レベルでのスマート化(知能化)を実現するために必要な、「中央管制システム」の概念設計を進めること。3つ目は、スマート工場実現への最大のボトルネックとなっている、人材教育のためのプログラムを考えることです。そして全体をまとめるために、新しい『次世代スマート工場』の概念モデル確立を目指します。

この目的のために、慶応大学管理工学科の松川弘明教授(現・日本経営工学会長)を研究会の主査に迎え、日揮・平田機工・野村総研から幹事を出して、運営しています。

たまたま昨年夏、JETROからインフラシステム輸出に向けた現地調査・情報普及事業の公募がありました。当研究会では上記事例調査の一環として、(財)エンジニアリング協会を中心に、日揮・日立製作所・竹中工務店・横河電機・SUBARU・平田機工・野村総研といった企業メンバーが協力し、「新しい輸出産業としての次世代スマート工場エンジニアリングの現地調査他事業」のテーマで応募・受託することができました。

この調査事業では、日本企業が得意とする、すり合わせ型のインテグレーション技術をコアに、次世代スマート工場のエンジニアリングを、新しい輸出産業として育てる可能性を探ります。具体的な調査フィールドとしては、タイを選びました。タイは東南アジアの製造業の一大集積地であり、自動車産業を始め日本企業も多く進出しています。加えて、国家戦略として「タイランド4.0」をかかげ、労働集約型産業からの脱皮に取り組んでいます。

本調査ではさらに、日本の潜在的なライバルとしてのドイツにも目を向け、彼の地におけるIndustry 4.0の最新動向と工場づくりのプロセスについて、情報収集と分析を行いました。その結果、巷間で言われるイメージとは異なる実相も、分かってきました。

今回の報告会はJETRO受託事業の一環として、一般向けに無償で公開されるものです。調査の結果を受けてわたし達が立てた、次世代スマート工場の市場開拓のための仮説について、皆様の忌憚ないご意見をいただき、その議論を成果報告書に盛り込むつもりです。

報告会は下記の要領で開催します。スマート工場に関心のある大勢の方のご来聴をお待ちしております。


日時:1月23日(木)10:00〜12:00
場所:一般財団法人エンジニアリング協会 会議室
   〒105-0001 東京都港区虎ノ門3-18-19 (虎ノ門マリンビル10階)
参加申込:下記URLをご参照ください


日揮ホールディングス(株) 
Chief Strategic Analyst 佐藤知一


by Tomoichi_Sato | 2020-01-05 11:36 | 工場計画論 | Comments(0)

工場コックピットで、何を見たいか?

上層部へのプレゼンは、呆気ないほど短い時間に終わった。あなたが懸命に準備して訴えた、「工場コックピット・システム」の提案は、事業部長からそっけなく拒絶されたのだ。あなたはIoT技術の進展、ライバル会社や欧米企業がスマート工場に向けて着実に動いていること、AIによる故障予知や熟練工スキルのデジタル化などのメリット、工場内で起きている事象をリアルタイムに可視化することの意義を訴えたが、通じなかった。

あなたの脳裏には、2年半前に欧州の展示会で見たエス社のシステムのイメージがあった。エス社が満を持して発表した、M…と言うソフトウェアは、工場内のあらゆる機械やデバイスから信号を受けとり、IoT技術によってクラウドにあげる。ユーザはあらかじめ定義された様々な部品を、グラフィックに組み合わせることで、自社の複数の工場にまたがる、様々な機械や人の動きを、リアルタイムに画面表示できる。

それは工場の通信ネットワークから、産業機械類、それらをコントロールするPLC、さらに上位系のソフトウェアまでを、幅広く持っているエス社ならではのシステムだった。工場に並ぶ工作機械は、ほとんどPlug & Playの状態でM…システムに接続でき、その制御パラメータ等も、上位から変更することができる。あなたはその技術の先進性と、インダストリー4.0に向かって邁進するドイツ産業界のスピード感に、舌を巻いた。

そうはいっても、日本の自社工場内では、様々な状況が異なる。機械もPLCもメーカーはバラバラで、互いに接続できるような通信系統もない。制御盤を持たない古い汎用機も、数多く存在する。あなたはそれでも、様々なセンサーと通信を組み合わせることによって、なんとか主要な機械の稼働状況をモニタリングできる仕組みを考案した。自動倉庫の制御システムWMSとも接続し、在庫状況もリアルタイムに表示できるようになる。セキュリティの懸念からクラウドは断念し、エッジサーバ上に構築しようと決めた。

あなたはこれを「工場ダッシュボード」と呼んだが、副工場長の助言に従って「工場コックピット」といい直すことにした。ダッシュボードでは自動車の運転席みたいだが、コックピットは戦闘機の操縦席である。「うちの会社は今、生き残りをかけた戦闘中だからな」と副工場長は言った。

だが、営業畑出身の事業部長の反応は、ニベもなかった。「うちの工場が、高コスト体質にあるのはよく知ってるはずだろ。このシステムは、下手をすれば億を超える金がかかるそうじゃないか。そんな投資は論外だ。」 賛同してくれると思った工場長も、意外に否定的だった。「うちの工場は、現場改善が命だ。デジタル化やAI技術では、現場主導のPDCAが回らなくなる。」

「こんなものに頼らないと、君は工場を経営できないのか?」事業部長が皮肉を込めて、工場長に尋ねる。「もちろん今でもちゃんとやっております。」当然ながら工場長はそう答えた。 あなたは懸命になって、「ですが、このシステムは一緒のカーナビのようなものです。現在の位置を正確につかみ、より効率的な経路を見つける手助けをしてくれます」とフォローしたが、工場長には響かないようだった。

意外だったのは、頼みにしていた長老の技術顧問も「リアルタイムの可視化だけでは得るところが少ない」と消極的なコメントをしたことだった。あなたは、ゴルフ焼けした事業部長の顔を見つめながら、それ以上反論することを断念した。

席に戻ったあなたは、自分の会社への気持ちが急速にしぼんでいくのを感じた。翌月、あなたは思うところあって、会社に辞表を提出する。政治の世界に転身することを決めたのだ。このままでは社会全体がダメになってしまう。何とか根本から変えなければいけない。

数年後、あなたはいくつかの幸運や、有力者のバックアップなども得て、党代表の地位に上り詰めた。さらにその半年後、総選挙で政権党がスキャンダルのため総崩れとなり、あなたの党が第一党となった。おめでとう。あなたは首相の座を手にしたのだ。

あなたは首相執務室の横に、かねてからの願いであった「首相コックピット」を設置することにした。日本社会全体の状況をリアルタイムに表示し、それを見ながら、あなたは次のうち手を考え、命令を下す。

では、その「首相コックピット」の画面には、何を表示すべきだろうか?

何よりも急務なのは、経済の立て直しだ。25年以上の長い不況を、終わりにしなければならない。だから第一に、GDPと、成長率の表示が必要だ。それも国全体だけではなく、都道府県別の数字が見たい。

政策の基本として、人口データの表示も必要だ。高齢化と人口減少が、多くの人を悩ませている。この流れを食い止めなければならない。もちろん就労人口と失業率も、経済指標として大切だ。

ところでGDPとは、企業セクターの稼ぐ粗付加価値額の、総合計である。したがって、各県別のGDPを、その県の就労人口で割ったものは、そこの付加価値労働生産性を示すことになる。これが地域によって案外バラバラなことを、あなたは肌で感じている。

例えば最近では、名古屋都市圏の経済規模は、大阪を抜いたと言われている。だとすれば限りある国の資金も、大阪から引き抜いて名古屋に投入した方が、有効活用されるはずだろう。

有効に活用されてない資源を引き抜き、より活用されているカ所に振り向ける。これこそ政策ではないか。首相たるあなたはそう考える。そういえば会社員だった時、ERPと言う言葉を聞いたことがあったな。ERPとは、Enterprise resource planningの略称であった。すなわち企業全体の経営資源の、最適な再配置をするための道具。だとしたら、自分がやっているのは、National resource planning = NRPシステムの構築だな。

である以上、交通や都市インフラへの、財政投融資の状況も見る必要がある。また、医療費や福祉介護への費用、教育費用等についても見たい。食料自給率の観点から、農業データへの目配りも大切だ。

これを実現するためには、全省庁と自治体をまたいだ、データ収集基盤のようなものが必要になる。時系列で非定形なデータもあるだろうから、巨大なデータレイクといったところだろうか。有能なデータサイエンティストを何人か連れてきて分析させれば、得られる発見も大きいだろう。

いかん、大事なことを忘れていた、とあなたは気がつく。防衛である。国土を守る防衛システムにも接続して、状況を見えるようにする必要がある。国家存亡の危機事態には、この官邸こそが、まさにその司令塔=コックピットになるはずではないか。

よし。これで万全だ、とあなたは思う。これで、某仮想敵国が北海道に攻め込んでこようと、別の某仮想敵国が南西部の島嶼を襲撃しようと、さらに別の隣国がミサイル(最近マスコミは妙に遠慮して「飛翔体」と呼んでいるが)を打ち上げてこようと、すぐに出撃対応できる。さすがに例のT大統領が、思いつきで何か難癖をつけてくるのだけは、防ぎようがないが。

かくて、巨額の費用をかけて、「首相コックピット」は完成した。これであなたは、日本をうまくマネージできるだろうか?

あなたは経済政策こそが第一優先だ、と考えた。だが、経済活動は企業が主役である。あなたは法律や税制を通じて、企業経営者に間接的に働きかけることができるだけだ。計画経済ではないのだから、これを作れ、あれを売れ、と自分で指示することは不可能だ。つまりコックピットに座るあなたの操縦桿は、じつはエンジン出力や翼の方向を直接、変えることができないのだった。

人口動態や保健医療についても同様だ。出世や結婚は各個人の行うこと。命令はできない。保健医療も、国や自治体が担うのはその一部でしかない。後は、民間の事業者に任せて効率化を図ってきたはずなのだ。

そもそも経済対策といっても、あなたに切れる札は、金融政策と、財政出動しかない。では金利を0.1%上げさせたとき、あるいは一兆円の公共事業投資を行った時、経済はどのように反応して動くのだろうか? もしマクロ経済学に確とした予測方法があるのなら結構だが、そうでないからこそ、この国はこんな状況に陥っていたのではなかったか。

あなたは付加価値生産性や失業率を、重要な経済指標と考えた。だが、では、その数値がどの範囲だったら正常で、どこを超えたら変調を示すのか、決めることができない。せいぜい海外や過去のトレンドと比べるだけだ。あとは、あなたのカンによる気付きに頼るしかない。異常が検知できないモニタリング・システムとは、どのような意義があるのか?

もう一つ。コックピットの前に座る人が、陥りやすい罠がある。それは「選択と集中」による資源の再配置、という思考方法だ。大阪から名古屋に資金や資源を再配置すれば、経済効率が上がるだろう、とあなたは考えた。それは、大阪と名古屋がまったく独立した経済圏ならば、正しいかもしれない。しかし両者の間には、様々なインタラクションがあり、相互依存性があるのだ。ある地域の効率低下が、別の地域の経済の足を引っ張る可能性もある。

それは産業間の資源再配置でも同じだ。各産業が全く独立しているなら、有力な産業に集中する意義もあろう。しかし産業間の連関や労働力のとりあいを考えれば、経済システムというのは単なる要素の足し算ではないことが分かる。

すべての結果は要素の掛け算と足し算で計算できる、という思考を、工学の世界では、「線形的」思考と呼ぶ。人間系が絡む大規模システムの最大の特徴は、線形ではないことだ。それは工場や、一般の企業組織も同じである。そうした要素間の有機的な関係が、コックピットで見えるように表示されていないと、間違った方針設定をしてしまうリスクが高くなるだろう。

結局のところ、「首相コックピット」は、起きている事態のモニタリングはできるが、リアルタイムに現場に指示やガイダンスを出すこともできず、標準値に基づくフィードバック・コントロールもかけられず、異常な変調にも対応できず、要素間の連関性も見えず、打ち手の結果予測すらできない。これでどうやってあなたは、日本国家全体をマネージするのか?

ふりかえって、あなたが会社員時代に作ろうとした「工場コックピット」は、これと本質的にどこが違うのだろうか。

もちろん、国の経済社会システムと、一企業の工場では、いろいろな点が異なる。工場は生産という目的が明確で、利益を目指して動く。製造工程もはっきりしている。一国の社会ははるかに多目的、ないし「存続自体が主要目的」であって、経済合理性だけでは動かない。それでも、より良くマネージするためには、単なる状況の可視化以上の工夫が重要であろう。

誤解しないでほしいのだが、わたしは工場ダッシュボードや経営コックピットといった、可視化の仕組みそれ自体の意義は、十分評価している。ただ、少なくともそこには、現場に対するインストラクションやガイダンスを直接下せる方法と、変調(標準値・目標値からの逸脱)をわかりやすく表示する仕組みが必須だと考えているのである。ユーザの気づきを促すような表示の工夫が大切で、データサイエンティストを連れてこないと状態がわからぬようでは、話にならぬ。

また現場側が、このシステムを通じて、単に「監視されている」と感じるだけではなく、問題が起きたときに、すぐに上が対応し、支援し助けてくれる、という感覚を醸成することも、この仕組みが機能する必須の条件である。

その上で、望むらくは、何らかの予測とシミュレーションの機能が欲しい。あなたが事業所部長に、「これはカーナビです」と言った時、それは半分正しかったのだ。カーナビは少なくとも、最短経路を選んで、到着時間を予測してくれる。

ただしカーナビは、自分の位置を測定するGPSを積んでいる。工場では、どの機械や人が動いているかを知るだけでは、状態把握としては十分ではない。それがどの品目を加工していて、どこまで進んでおり、どのオーダーに紐付いていてるか、までリアルタイムに分からないと「現在位置」の役に立たないのだ。そして、その実現は、決して簡単ではない。

それでも、それは向かうに値する目標である。それは、工場全体レベルでの賢さ(「スマートさ」)を持つためには必須なのだ。賢さとは、答えを出す頭の回転の速さ、の別名ではない。全体を見通し、自分で気づき、事実から学ぶ能力を言うのだから。


<関連エントリ>
 →「『スマート工場』はスマートか?」 (2018-05-26)


by Tomoichi_Sato | 2019-12-01 19:12 | 工場計画論 | Comments(0)

お知らせ:「化学工学」誌に論文『ディスクリート・ケミカル工場の生産システムを考える 』が掲載されました

「化学工学」誌の2019年4月号に、わたしの論文『ディスクリート・ケミカル工場の生産システムを考える』が掲載されました。

化学工学、という学問名称には馴染みのない方も多いかもしれません。これは化学プラントの設計論を研究する工学で、19世紀の終わり頃から急速に発達した分野です。

英語ではChemical Engineeringと呼び、Mechanical Engineering(機械工学)とか、Electrical Engineering(電気工学)などと並んで、かなりメジャーな技術の一つです。ただ、戦前日本に輸入された際、英語を直訳したため、一つの学問名称の中に「学」が2回登場するという奇妙なことになりました(似たような例は、他に「科学哲学」がありますが)。

「化学工学」誌は、文字どおり化学工学会の学会誌です。以前は紙媒体のみでしたが、現在はWeb化されており、2019年4月号は下記のURLから閲覧ができます。
〔目次〕

わたしの「ディスクリート・ケミカル工場の生産システムを考える」は、以下の場所です:

なお、わたしの論文にある次の図が、今月号の表紙を飾っています。
お知らせ:「化学工学」誌に論文『ディスクリート・ケミカル工場の生産システムを考える 』が掲載されました_e0058447_22390083.jpg

ただし本サイトの読者は、学会員でないためアクセスできない方がほとんどだと思いますので、少しだけ説明します。この図は、一般的なシステムにおける二種類のアーキテクチャーを示しています。上が、密結合された「インテグラルなシステム」、下が、疎結合な「モジュラーな集合体」です。

システムとは一般に、「目的を成し遂げるため、相互に作用する要素(element)を組み合わせたもの」と定義されます(国際システム工学協会INCOSEによる定義)。その意味で携帯電話もシステムですし、自動車もコンピュータもシステムです。

そして工場も、システムの一種です。ただ、その要素に、働く人も含まれている点に特徴があります。工場を設計するとは、単に機械や建物の設計図を書くだけではなく、機械と人と建物とITからなる、複雑なシステムを設計することに他なりません。

ところで日本では、化学・石油などいわゆるプロセス産業の生産設備を「プラント」と呼び、自動車や家電製品などを作る場所を「工場」と呼ぶならわしになっています。英語ではどちらもPlantなのですが、日本では別物だと思われています。実際、外見もずいぶん違います。前者は屋外にあって配管が縦横無尽に走っており、後者は建物の中にあって工作機械やコンベヤと人が並んでいる、と。

たしかにその通りなのですが、じつは両者の最大の違いは、システムとしてのアーキテクチャーの違いにあるのです。いわゆるプロセス産業のプラントは、密結合された「インテグラルなシステム」であり、他方、組立加工系産業(ディスクリート型ともいいます)の工場は、「モジュラーな工程の集合体」になっています。

そして、このようなアーキテクチャーの最大の違いは、その運転(操業)のあり方に現れます。いわゆるプラントでは、「中央制御室」があって、そこから工場内の主要な工程は全てモニタリングされ、決定されています。ところが組立加工系の工場にはそうした仕組みが一般になく、現場の各工程が分散的に意思決定をするようになっています。
(なお、正確にはプロセス系とディスクリート系の間には、その混合的な性格を持つ「切替型連続生産」という形態がありますが、ここでは省きます。興味がある方は拙著『革新的生産スケジューリング入門』をごらんください)

わたしの論文では、このようなアーキテクチャーの差異が、じつは扱うマテリアルが流体か固体かという、単純な違いに起因することを明らかにします。この差は、さらに工場の設計方法(手順)にも大きな影響を及ぼします。インテグラルなシステムであるプラントでは、化学工学の一領域である「プロセスシステム工学」が最初に全体を設計し、ついで機械装置や配管・計装など要素の設計に進みます。ところがディスクリート系の工場は、こうした流れが確立しておらず、機械設計と建築設計が独立して平行に進んだりします。

ところで日本の化学産業は、近年、エチレンなどの基礎原料(バルクケミカル)から、機能性素材などの製品に利益の源泉が移っています。機能性素材の多くは個体のハンドリングが要求され、ディスクリート系の性質を強く持っています。したがって最近の化学工場は、両者の特性を併せ持つ「ディスクリート・ケミカル工場」ともいうべき存在になっており、その設計論は新たな進展が要求されている、というのが論文の骨子です。

ここまでなら、たぶん化学産業以外の人には、さほど興味ない話題だと思います。事実、わたしは2006年に『ディスクリート・ケミカル工場』の概念を、化学工学会の展望講演で発表し、このサイトにも関連記事を書いたのですが、ほとんど反応はありませんでした。

ところが最近になって、ここにIoTという注目の技術が登場します。IoTとセンシング技術は、従来モジュラー型でしか設計し得なかった組立加工系の工場を、インテグラルなシステムに変える潜在的可能性を持っています。この可能性に早くから着目したのが、ドイツの「インダストリー4.0」構想でした。

ただ、あいにく日本では、ただ単体の機械にセンサーをつけてデータ解析するだけの、部分的な「スマート化」としか理解されませんでした。そもそも、システムのアーキテクチャー、といったシステム工学の概念が、工場設計(生産技術)の分野で希薄だったのです。それに追い打ちをかけたのは、リーマンショック以来の生産技術部門の弱体化でした。

わたしが昨年来、「次世代スマート工場」のエンジニアリングに関する研究会組織を立ち上げて活動しているのは、そういった背景があるのです。このまま日本の工場作りの弱体化を見過ごすべきではない、という気持ちを、エンジニアリング業界の人間として、強く感じています。

この「化学工学」誌の特集『プロセス産業のスマート化への挑戦』には、他にも東芝(前Siemens)の島田太郎氏による「プロセス業界におけるIndustrie4.0」をはじめ、注目すべき解説論文が並んでいます。ご興味のある方は、ぜひ読まれることをお勧めします。



<関連エントリ>
 →「ディスクリート・ケミカル産業」 https://brevis.exblog.jp/3240905/ (2006-04-17)
 →「ディスクリート・ケミカル工場を設計する」 https://brevis.exblog.jp/3304091/ (2006-04-26)
 →「『スマート工場』はスマートか?」 https://brevis.exblog.jp/27295851/ (2018-05-26)
 →「『インテグレーター不在』という深い谷間」 https://brevis.exblog.jp/27172645/ (2018-04-01


by Tomoichi_Sato | 2019-03-30 22:48 | 工場計画論 | Comments(0)

パン屋問題の解決、または中小製造業の生き残る道

あなたは町のパン屋さんである。以前は都会でエンジニアとして働いていたのだが、やむを得ぬ事情で郷里のパン屋を継ぐことになった。店は昔ながらの商店街にあり、店の奥では職人が小さな工場(こうば)でパンを焼いている。ところで、地域のチェーンストアからサンドイッチ製造の仕事を依頼されたのだが、受けてみたら大変な仕事だった・・という事情までは、前々回の記事「下請け型受注生産という日本的形態を考える」https://brevis.exblog.jp/28051644/ に書いた通りだ。

何が大変かって? チェーンストアは、コンビニの向こうを張って、いわゆる「JIT納品」(ジャスト・イン・タイム納品)を要求してくる。1日4回、FAXで注文が来て、2時間以内に納品しなければいけない。おまけに製造後6時間以内の品であること、という鮮度指定もついている。ところが注文を受けてからカツを揚げてサンドイッチを作っていては、2時間の納期に間に合わないのだ。

したがって、あなたはやむなく1日のはじめに、見込みで数量を決めてカツを揚げ、食パンやその他の具を用意させることにした。ちなみにFAXの注文は、朝8時・10時・12時・午後2時に来る。納期はそれぞれ2時間後だ。だが朝8時にサンドイッチを作り始めては間に合わない。だからあなたは6時半すぎには店に出て、指示を出すようにしている。パン屋だから、朝早いのは慣れて来た。しかし、朝の見込みと現実とが違って、その日の売れ行きが良すぎると途中で足りなくなり、逆に売れ行きが良くないと売れ残りが生じてしまう。

普通の町のパン屋だって、もちろん売れ残りは頭痛の種なのだ。だから閉店間際になると値下げして、なんとか売り切ろうとする。しかし、チェーン店向けのサンドイッチは、プラスチック包装も専用だし、具の肉や野菜もそのチェーンから仕入れるので、自分の店で勝手に売ってはいけない契約になっている。結局、見込み違いが起きると、結構な数のサンドイッチを捨てることになる(家族やパートが引き取って食べたりするが、量はしれている)。食べ物を捨てるのは胸が痛むし、じつは自分のお金を捨てている訳なので、財布も痛む。

何とか解決できないものかと、あなたは考えてみる。

問題は、サンドイッチの製造に着手してから納品までの生産リードタイムが、納期の2時間より長いことにある。そう気づいたあなたは、リードタイムの内訳、すなわち各工程に必要な時間を、代表的なロット数量である60食分について調べた。結果は次のようになった:

カツの調理(75分) →サンドイッチに具をはさみ袋に入れる(45分) →出荷輸送(30分)

リードタイムの合計は、2時間半である。他に、チーズや野菜類の具もあるのだが、やはりカツが一番時間がかかっている。食パンの方は、学校給食用などもあり、もたくさん焼いているのでネックになることはない。

自社の生産能力不足を外注で補うような器用な真似は、この小さな町ではできない。また、人や設備能力を増やして製造のリードタイムを短縮するには限界がある。具をはさむ作業は、人を増やせば短縮できるだろう。人を3倍に増やせば、計算上は45分が15分に縮まって、リードタイムの2時間に収まる勘定だが、そんな短時間だけのパートはありえない。他方、カツの調理は、肉を解凍して衣をつけて揚げる作業なので、解凍時間や揚げる時間にしばられる。人を増やしても短縮効果は小さい。

顧客の要求納期は2時間だ。だとしたら、具(カツ)とパンを、前回の記事で解説した「カップリングポイント」の在庫理論にしたがい、ストック在庫しておけば、いいことになる。製品にまで作ってストックする必要はなかったのだ。そうすれば、受注から納品までのリードタイムは1時間15分に縮まる。注文を受けたら、カツをはさんで出荷する。出荷した分のカツを、並行して揚げて補充する。

では、どれくらいのストック在庫量が必要なのだろうか?

需要が毎日8時間で240食なら、およそ平均2分のポアソン到着になるのだろう。平均値=60のポアソン分布の標準偏差は、平均値の平方根だから、だいたい8弱だ。形は正規分布に近いはずだし、欠品の危険率を2.5%とすると、安全在庫数量はその1.96倍とればいいから、16食、という計算かな? 元エンジニアのあなたは、昔取った杵柄で、暗算で考えてみる。つまり、60+16=76食の基準在庫量を維持すればいいのか。

いや、これではダメなのだ。そもそもサンドイッチの需要は日中の波が明確にあって、単純なポアソン分布は当てはまるまい。それに夕方、76食が在庫に残っても、それは捨てるしかないのだ。あなたは首を振る。在庫に有効期限がある場合、あまり需要に近い下流に在庫ポイントを置くのは、危険である(それは、前回記事で述べた「はなまるうどん」の事例も、暗示している)。

どうしようか。このままでは、多忙なばかりで、利益は出ない。店の改修もおぼつかない。

いや、待てよ。チェーンストアとの契約では、「サンドイッチは作ってから6時間以内」となっている。別に、「カツを揚げてから6時間」とは、規定していないじゃないか。前日の夕方揚げたカツを、翌朝パンにはさんで出荷して、何がいけないのか。衛生管理はちゃんとしていて、たいして傷む訳でもない。客も気がつくまい。そうだ。そうしよう・・

その時、下の娘が店に来て、目の前で売れ残りのサンドイッチを厨房から持っていった。もう食べ盛りなのだ。そして、あなたは、はっと我に返った。自分の娘に、18時間前に揚げたカツをパンにはさんで、新品だといって食べさせるだろうか? お弁当に持って行かせるだろうか? 自分なら、しない。だったらなぜ、顧客なら構わないと思ったのか。

危ないところだった。あやうく、パン屋の魂を失うところだった。ちゃんとしたものを売る−−そこが作り手の最低限の誇りじゃないか。あなたは前職の会社で、ある大手サプライヤーの品質問題で迷惑を被ったことを思い出していた。自分の会社よりもずっと大企業のサプライヤーだったが、品質記録を偽装していたのだ。おかげで膨大な出荷マスタを、端から全部チェックさせられるはめになった。

品質欠陥で、顧客に実質的な損害はあたえていない、とその会社は弁解していた。そうかもしれない。だが、このところ何年間も、似たようなニュースが繰り返し報じられている。そのほとんどは、「納期のために品質を犠牲にした」ケースだったのを、あなたは思い出した。今は、その裏にある事情を、少しだけ理解できたような気がする。だが、その結果、失ったものは何だったか。

それは「学び」の能力なのだ。品質の記録は、PDCAの基礎である。品質データが事実でなければ、改善のサイクルなど回せるはずがない。すると、日本企業が一番得意としたはずの、現場改善が回らなくなり、現場が事実から学んで成長することができなくなる。それは、会社が成長を放棄することなのだ。だったら、パン屋の経営者のあなたは、別の方策を考えなければいけない。

カツの形での在庫は無理だ。だが、パン粉をつけて、揚げる直前の形で冷凍しておくのだったら、品質劣化の心配は、はるかに少ないと思いついた。揚げ物の時間は、鍋の大きさ(面積)がネックだ。そこであなたは、ガス台と鍋をもう一台ずつ増やし、倍の量を一気に揚げさせることにした。油きりのバットも増やした。かかる時間は、45分。こうして、かろうじて注文から2時間で納品できるようになった。野菜の在庫ロスのリスクは残るが、目をつぶろう。

もっとも、いったん解凍した肉を再度冷凍すると、香りや歯ごたえが少しだけ失われる。だがそこはもう、客の判断に委ねるしかない。これで売れ行きが落ちたら、この仕事からは撤退しよう。そう覚悟しながら、でも、あなたは売れ行きを見届けたくて、納入先のチェーンストアをそっと訪れてみた。一番近い店舗は、歩いて10分のところにある。

昼前から夕方まで、サンドイッチ売り場の棚を行きつ戻りつ、客のふりをしながら横目でじっと観察した。そして、そのうち気づいたことがあった。お昼のピーク需要は短期的で、11時半過ぎから1時ごろまである。だが夕方は、4時(これが最後の納品だった)から、7時ごろまで、少しずつダラダラと売れて行くのだった。そして最後にストアは値引きして、サンドイッチを売り切ってしまう。

だとしたら、4時の納品は、分納させてもらってもいいのではないか。これがあなたの思いついたことだった。たとえば50個の注文が来たとする。それを、4時に25個、5時に25個、分けて納入させてもらう。それでもストアの商品が欠品することはないはずだ。もしこれが可能なら、最後のロットだけは、3時間のリードタイムがあるから、確定受注生産が可能になる。それにより、ストック在庫量のレベルをギリギリまで下げられるはずだ。

あなたはチェーンストアの仕入れ係に、ダメ元で交渉してみることにした・・

* * *

今回のシリーズの記事で、読者諸賢に、パン屋問題の解決方法を募集したところ、大勢の方からご意見を頂戴しました。まずは何より、深く感謝いたします。そして、似たようなシチュエーションにある方が結構いらっしゃることにも、あらためて驚きました。

もとより、この問題にきちんとした正解があるわけではありません。上に述べたストーリーは、単に一つの例です。そもそも、工程別の時間などの詳細なデータを書かなかったので、具体的に考えようがないじゃないか、と憤然とした方もおられたでしょう。その点についてはお詫び申し上げます。

いただいた案のすべてはスペースの制約上記載できませんが、素晴らしいと感じた指摘のいくつかをご紹介します。

「カツを、あらかじめ揚げる直前の状態まで作って冷凍で持っておく」というアイデアをご提示いただいたのは、中小製造業経営者の庄司さんです。また匿名の方(「素人パン屋」さん)からも、同じく「揚げる前までまとめて加工し、冷凍保管」とのコメントをいただきました。これは、上述のわたしの案と同じです。

前回のうどん屋の事例をご教示いただいた愛知県の江藤様からは、「2段階のストック在庫を設置する」、すなわち「日々の需要変動に追従するのは難しいが,週・数日単位では平準化される」という視点から、在庫ポイントの活用策があるはずとというメールを頂戴しました。加えて、「保存技術に投資することで,カップリングポイントをよりゴール付近に持っていくなどが将来の打ち手」とされています。これはわたしの思いつかなかった、優れたアイデアだと思います。

これらはいずれも、在庫の持ち方の工夫による問題解決です。

先ほどの庄司さんは、さらに、「スーパーの要求種類をそのまま作るのでなく、特別メニューを開発して、そればっかり注文が入るようになれば、生産や廃棄量も自社で調節できるようになる」とも書かれています。これは、匿名の方(「素人権限なしマネージャー」さん)の「チェーンストアとの間で、味を最終的に決める調味料とパッケージ以外を、店頭販売で使用できるよう交渉します。」という提案にも通じますね。特定顧客仕様という前提をはずせば、たしかに『下請け型受注生産』から卒業できるようになります。

チェーンストアとの交渉という点では、井上様(製造業勤務)から「早期に納期と数量の確定注文を出してもらった場合、何%OFFにするといった『早割』サービスを提案」との面白い案をいただきました。関連しますが、製造業OBの西牟田様からは、「小さな約束ごとを積み重ねるているうちに、発注元がこけたり
ミスしたりします。その時に、短い自社のリードタイムを活かして(もしくは、短納期飛び込み)で、相手を助けてあげると、以降はこちらの希望もある程度聞き入れられるようになります。」とのアドバイスも頂戴しました。

ちなみに上に引用した庄司さんは、自社では「一人を多能工化して、終段の追加工は全部できるようにし、メインの製造を撹乱しないようにします」と書かれています。これは一種のATOによる短納期化の工夫です。

知人の経営コンサルタント・本間さんからは、(下請け型受注生産という)「日本型ATOに追い込まれている背景には、内示という商慣習問題があるように思います。コンサル先には、必ず内示精度を分析するように伝えます」という指摘をいただきました。トヨタ式の内示については、記事「Pushで計画し、Pullで調整する」 https://brevis.exblog.jp/21721306/ にも書きましたが、精度と計画に対するコミットメントが重要です。

予測精度については、片本様(製造業)から、「需要予測をストア側と二重で行うのではなく、パン屋側に取込み一本化したい。精度向上のためPOSデータをもらい、2時間のオーダーロットを可能な限りリアルタイム化する」との案をいただきました。さらに、匿名の方(「Y.U」さん)は、「チェーン内での需要見込みの共有を提案」とコメントされています。

わたし自身は、この指摘は非常に重要と考えています。というのも、結局この問題は、需要予測の精度の低さを、JIT納品という形で、サプライヤーにおしつけた点から発生しているのです。である以上、パン屋の主人がやったように、店頭の売れ行きを実際に共有した上で、次の予測を立てていく方が合理的だと思うからです。

すでに米国では30年も前に、小売のウォールマートと製造のP&G社が、在庫のかさばる紙おむつ「パンパース」の販売データを共有することで、合計10週間分あった流通在庫を、3週間分まで削減することに成功しました。これがQuick Response運動として、SCM改革の原型となったのです。このエピソードは20年前に共著で発刊した『サプライチェーン・マネジメントがわかる本』 でも、中村実氏が紹介しましたが、残念ながらバブル崩壊後の日本では、馬の耳に念仏だったように感じます。

JIT納品に関しては、先の本間峰一氏が、「むしろ発注元の企業の方が在庫を持って変動をカバーし、発注先の中小企業には平準化した量を作らせる方が、サプライチェーン全体ではコストが安くなるはず」と、かねてから提案されています。卓見だと思います。安定した計画生産ならばサプライヤーの品質も保てるし、実需要に近く財務体質の強い側がストック在庫を持つというのは、理にかなっています。

しかし、元の問いに戻りましょう。それは、「このことに気づいた貴方は、どうすべきなのか?」でした。

* * *

それで、もしも貴方が、この国の製造産業政策の根幹を担う立場の方だとしたら、ぜひともこの問題を是正するために、どういった施策が有効なのか考えて欲しい。すでにこの国の中小製造業が疲弊していることは、周知の通りだ。そして大企業のメーカー達も、近年とみに不祥事が頻出し、経営がおかしくなってきている。大企業は従来、下請けに寄りかかって身を支えてきたのだが、下請けの納期問題や廃業等で、もはやそれが通用しにくくなっているのだ。早く手を打たないと、危ない。

あるいは、かりに貴方が生産工学や経営学の研究者だったら、このような生産形態がどれほど広く行われているのか、ぜひとも実態調査を行って欲しい。こうした調査は、わたしのような会社勤めの人間が、片手間でできることではない。明らかにアカデミアの仕事である。そして、それを政策立案者と共有していただきたい。正確な統計調査と事実把握こそ、良い政策立案の基礎だからだ。

実は昨年から政府は、EBPM(Evidence-based Policymaking=「証拠に基づく政策立案」を、中央省庁の全ての歳出分野に適用することを決めている。逆にいうならば、事実と証拠がなければ、政策は変わらないのだ。
こうした生産形態の調査研究が、科研費を取りやすいかどうか、また論文誌にのりやすいかどうかは知らないが、この国の急務であろう。ぜひ、よろしくお願いしたい。

あるいは、貴方が多くの下請けを使う製造業の経営者だったら。まあ、そんな方がこのサイトを読んでいる可能性は微塵もないと思うが(笑)、その場合、ぜひとも自社がJIT納品の旗印のもとに、需給リスクを下請け企業にヘッジしていないか、調べて欲しい。そして、むやみにトヨタの真似をしてJIT生産を導入しても、自社のサプライチェーン特性に合わない場合が多いばかりか、むしろ製造現場が混乱疲弊するばかりだ、という認識を持っていただきたい。そして、それを財界の中で広めてほしい。

さて。産業政策の枢要を担う訳でもなく、アカデミアの俊英でもなく、経済界の重鎮でもない、読者諸賢は、どうしたらいいのか。つまり、筆者のこのわたしと同様、世に号令をかける立場でない人間は、どうすべきなのか? 

なかなか難問だ。この問題の解決は、アメリカの経営書を探しても載っていない。ただ、一つ言えることがある。それは、「このパン屋の問題は、パン屋だけでは解決できないし、するべきでもない」という認識を、世に広めることだろう。そうなのだ。無理な生産形態は、無理な大手のリスクヘッジが生み出したものだ。そして、一つだけ確かなことがある。

世の中で、無理は決して長くは続かないのだ。



by Tomoichi_Sato | 2019-03-23 22:00 | 工場計画論 | Comments(0)

戦略としての生産形態 - リードタイムを設計する

前回の記事 https://brevis.exblog.jp/28051644/ では、「下請け型受注生産」とも呼ぶべき生産形態が存在し、それは特定顧客仕様の製品を、需要を見込んで生産する形態だ、と書いた。このような生産形態は普通の生産管理の教科書には出てこないが、わたし達の社会では、案外広く見られる。特に、大手セットメーカーが、「JIT納品」をサプライヤーに要求する場合、部品メーカー側はこの形態を強いられることが多い。

そして、このような生産形態は、サプライチェーンの需給ミスマッチのリスクを、経営基盤の弱い中小下請けに背負わせるうようなやり方であり、この国の産業構造の見えない弱点になっている、とも述べた。この指摘は、なぜか意外と多くの読者の注意を引いたようで、驚いている(というのも、似たようなことは10年以上前から、書いてきたつもりだからだ)。

では、どうしたらよいのか?

そもそも「下請け型受注生産」の形態が生じる最大の理由は、「顧客の要求する納期が、自社の生産リードタイムよりも明らかに短い」ことに起因する。

だったら答えは明瞭だ。生産リードタイムを短縮すればいいのだ。

前回の記事で、パン屋の主人であるあなたの悩みは、FAXで注文を受けてから2時間後に納品しなければならないのに、サンドイッチを作るのに2時間以上かかることだった。もし、これが2時間以内だったら、悩みは基本的に解決する。

でも、どうやってリードタイムを短くすればいいのか?

えーと、その前にここで注意を一点ほど。「リードタイム」という言葉は、しばしば漫然と使われている。だが、リードタイムにはいくつもの種類があり、どれを指しているのか明確にしないと、誤解が生じる。生産リードタイムと、納入リードタイムは違う。そのことについて、すでに書いたはずだ。と思って探したら、やっぱり解説があるじゃないか。なんて役に立つサイトだろう(笑)
 「リードタイムとは何か」 https://brevis.exblog.jp/7376582/ (2008-02-27)

ついでにこちらの記事も読んでおいてほしい。こちらは12年前に書いたものだ。
 「購買リードタイムとは何か?」 https://brevis.exblog.jp/6006346/ (2007-07-01)

さて、生産のリードタイムを短縮する方策として、たいていの場合思いつくのは、以下の4つだろう。
(1) 能力オーバーの分を外注に出す
(2) 機械化を進めて生産性を上げる
(3) 人を増やす
(4) あらかじめ作りだめしておく
では、これらを一つ一つ検討してみよう。

ただしこの先は、論点を分かりやすくするため、6時間の鮮度指定の制約を、いったん外して考えよう。つまり機械部品などのように、作ったら1週間でも1ヶ月でも、置いておけるとするのである。

納期対策として、まず誰もが思いつくのは、(1)外注化である。需要のピーク時に、自社の生産能力が追いつかない場合、外注化して量をさばくやり方は、従来から多くの製造業で行われてきた。外注するかどうかを生産管理部門が決める場合もあるが、製造現場が自分たちの判断で、一部を外注化してしまうケースも、実際には見かける。あるいは飲料業界のように、季節性が高いため、製造委託業が広く行われてきたところもある。

しかし、外注化はじつは両刃の剣である。社内で作れる製品を外注化すれば、当然ながら自社の粗付加価値(つまり利幅)は薄くなる。それに昨今、どこも空雑巾を絞るような人減らしと設備廃棄をしてきた後の、降って湧いたような人手不足状態である。製造能力を持て余している工場など、それほどない。おまけに、あなたのパン屋のケースについていうと、日中わずかの時間帯だけサンドイッチ製造を引き受けて欲しい、という要望だ。小さな町で引受け手を見つけるのは無理だろう。

余談だが、工場の余剰能力を、UberやAir B&Bみたいに気軽に取引できるようにするべきだ、という議論もある。可能ならば、それはそれで結構であろう。だが、小口の製造委託を受けるとは、言いかえれば納期を確約することを意味する。そうでなければ、誰が頼むだろうか? だが、自分の工場でさえ受注オーダーの正確な納期回答が難しいのに、よその工場では確約できるはずだと考える根拠は、一体何か。

昨今、結構大手の企業においても、納期問題や品質問題が多発しているが、その多くの部分が、サプライヤーや外注先に由来しているようだ。大手企業が従来のように、下請けの納期をコントロールできなくなっているのだ。いや、もっとはっきり言おう。従来は大手の無理難題を聞き入れてくれた下請けが、もう応えられません、という状況になってきている。そのあおりを受けて、大手の社内でも生産スケジュールが混乱する。混乱すれば、結果は品質にはね返る。

かつてのような、能力ピークをしのぐための外注化は、簡単にできなくなった。では、自社内でどこまで作れるか、どう判断すべきか。製造の実態は、ITシステムを見てもわからず、実は現場の班長と毎日書き換えるExcelだより、という状況下では、適切な外注判断はとても難しい。

この問題は結局、自社の生産能力を正確に把握することが困難である、という根本原因から生じている。これ以上は話が長くなるから深入りしないが、多品種を扱っている工場では、どこも納期確約は難しいのだ。タクシーやホテルみたいな調子では、工場の能力はなかなかB2B取引できないことを知っておいてほしい。

では、二番目の方策はどうか。すなわち機械化である。もっと大きなパン屋なら、それもあるだろうな、とあなたは思う。しかしサンドイッチに具をはさむ機械とか、ビニール袋でラップして段ボール箱にしまうロボットとか、本当にあるのだろうか? たとえあったとしても、品目が増えたり、レシピが変わったりしたら、自分で設定を直せるだろうか。

店のパン焼き職人は、もっと大型の食パン専用焼き窯が欲しい、とも言っていた。だが、パンを焼く速度が全体を律しているとは思えない。それに、学校給食が減っているのに、食パンだけ能力増強するのも、アンバランスではないか。機械化による生産性向上は、量産型のところでないと、なかなか功を奏さない気がする。

それなら、(3)人を増やす、という古典的な対策は? まあこれは人手不足の昨今、容易でないことはご承知の通りだ。それに、いったん人を雇ったら、すぐに首は切れない。でも、景気も需要も変動しがちである。人を増やせばリードタイムを短縮して、余計な製品在庫を抱えるリスクを減らせるが、その代わり不稼働な余剰人員(リソース)を抱えるリスクを増やすことになる。実はリスクが姿を変えただけである。

この問題があるから、過去25年間の不況の間、企業は正規従業員数を増やしたがらず、パートや季節工など、人数の増減がしやすい雇用形態へシフトしてきた。特に今世紀に入ってからはその傾向が加速し、派遣労働に頼る割合が増えた。つまりリソースを変動費扱いできるような状況を、企業経営者は求めてきたのである。

だがその結果、今度は労働者の側に、いつ仕事を失うか分からない、というリスクとなった現れた。「メーカーの在庫リスク」→「下請けの余剰人員リスク」→「労働者の雇用リスク」、という風に、リスクが姿を変えながら、より弱い立場に転嫁されてきたことが分かる。そればかりか、低賃金で不安定な雇用条件の人口が千万人単位で増加し、総需要が減って、ものの売れない状況が、ますますが固定化してしまった。

まあそれはさておき、今時、パートでさえ確保は困難だ。おまけにあなたのパン屋さんの場合、1日の中でも昼前が一番忙しく、午後は暇になって、ピーク人数だけでは考えにくい。家族を手伝わせるのも限界がある。

ということで、どうも答えは、(4)「需要を見込んであらかじめ作りだめしておく」、しかないように思えてくる。実際、下請け型受注生産を強いられている部品材料メーカーの中には、顧客納入先の近くに倉庫を借りて、作りだめした製品をストックして置く企業も、それなりに存在する。注文を受けたら、そこから出荷する。中には、サプライヤー同士で共同倉庫を運営しているところさえある。

だが、そんな非効率な形態はやめたいから、解決策を考えているのだ。とはいえ、何を、どこまで作りだめしておいたらいいのか? いろんな段階の部品も製品も、全部作りだめしておくのか?

ここに、『カップリングポイント』という重要な概念が登場する。

図を見てほしい(この図は2015年に書いた記事「「すべての製造業は受注生産かつ見込生産である」 https://brevis.exblog.jp/23904094/ の再掲である)。生産を始めてから終わるまでの工程が、一列に並んでいる。ところで、各生産工程に要する時間を合計した総リードタイムは、顧客の要求するリードタイムよりも長い。これが問題の根源なのだ。
戦略としての生産形態 - リードタイムを設計する_e0058447_23032163.gif
問題を解決するためには、出荷からさかのぼって、要求リードタイムよりも長い上流側(図の左側)の部分を、あらかじめ計画的に作っておくしかない。そして、途中まで製造した中間部品ないしサブアッシーを、在庫としてストックしておくのである。顧客から確定注文が入ったら、そのストック在庫から出発して、残る右側の工程を粛々と進めていく。このような在庫点を、カップリングポイントと呼ぶ(APICSの用語ではCODP = Customer order decoupling point)。

カップリングポイントの左側、上流側は需要予測に基づく計画生産になる。そして右側、下流側は、確定受注にひもづいた受注生産である。つまり、このような生産形態は、見込み生産と繰返し受注生産を、カップリングポイントで接合した形である。いわばハイブリッド型の生産形態といえよう。カップリングポイント以外の在庫は、できれば減らすほうがいい。

もちろん、上の図は直鎖的な工程だけを描いたが、実際には複数部品を組み合わせるケースも多いだろう。また多品種で共通する資材もあるだろうから、カップリングポイントの設定は、それなりに複雑である。また、カップリングポイントのストック在庫量の適正値はどう決めるか、という問題もある。ただ、こうした細部については、今回は割愛しよう。

なお、カップリングポイントを持つハイブリッド型生産形態とは、全体としてATO(Assemble-to-order)ではないかという疑問をお持ちの方もあるだろう。確かに似ているが、厳密には少し違う。米国生産・在庫管理協会APICSは、ONBOK第3版でATOをこう定義している:

(拙訳)「ATOの形態では、製品は、顧客の注文を受けた後に、部品から組み立てられる。組立工程ないし最終工程に使うキー部品類は、あらかじめ顧客の注文を想定して計画生産し在庫しておく。注文を受けたら、組立を開始する。オプション選択の組合せによって製品に多くのバリエーションがあり得るが、共通部品の組立てで製造可能な場合に、この戦略は有効である。」
(参考)APICS Operations Management Body of Knowledge Framework, Third Edition 4.2節

つまり、ATOとは、カップリングポイントをできるだけ下流側に引きつけて、注文を受けたら一気呵成に組立出荷する形態であり、かつ、多数の製品バリエーションを実現する工夫でもある。

ところで、逆に考えると、カップリングポイントをどこに置くかによって、あなたの会社は納入リードタイムを設計できる、ということだ。ポイントを極力、下流側(図の右側)に置いて、注文から出荷までを短くし、短納期を競争力にすることもできる。ただしその場合、最終需要に近い中間部品をストックすることになるから、在庫の陳腐化リスクも高まる。

逆に、カップリングポイントを上流側(左側)に置けば、注文から納入までのリードタイムは長くなるが、より共通性の高い基礎的な部品材料をストックするだけで済むため、おそらく在庫リスクは小さくなる。また、在庫ポイントは普通、自社で持つから、それ以降は内製が基本だ。内製する部分が多くなれば、それだけ利益も、粗付加価値額も高まるだろう。

このように、自社の強み・訴求点をどこに持つかに応じて、どのような納期を設計し、どこまでを内製化するかが決まる。つまり、自社の生産形態というのは、すぐれて戦略的な決定事項なのである。

この概念を説明するのに、わたしは以前からうなぎ屋のたとえを使ってきた。しかし最近、愛知県の江藤様という読者の方から、大変素晴らしい事例を教えていただいたので、簡単にご紹介させていただきたい。それは、うどん屋チェーンのケースである。

うどん屋は、顧客の注文を受けてから作る、繰返し受注生産である。そのチェーンの代表が、「丸亀製麺」と「はなまるうどん」だ。ところでこの両社は、実は異なる戦略を取っている、というのである。
戦略としての生産形態 - リードタイムを設計する_e0058447_23122280.jpg
(写真は江藤様の資料より引用)

「丸亀製麺」は、小麦、野菜などはすべて素材形状のままで在庫し、店内で麺打ちから調理し販売する。他方、「はなまるうどん」では、麺や揚げ物はすべて別の工場(セントラルキッチン)で調理したものを使い、店舗では最終の茹で、揚げを行うのみである。

「丸亀製麺」は、麺や汁を計画生産してカップリングポイントとし、揚げ物や茹でなどは受注生産する、ハイブリッド型形態である。ただ、注文を受けてから具を作るので、リードタイムが長い。それをカバーするため、大勢のリソースを厨房に使う。顧客に手作りかつ出来立てのうどんを提供できるのが特徴だ。

逆に「はなまるうどん」は下流側にストック在庫持つことで、短い納品リードタイムを実現している。つまり受注組立生産(ATO)に近い。そして少ないリソース、狭い店内で顧客要求に対応できる。このように、両者には一長一短がある。肝心の味に関しては、両派ともに言い分があろう。

うどんは多品種的な商品だし、それを組み合わせで実現できるから、はなまるのATOは一応、理にかなっているように見える。しかし、よく考えてみると、カップリングポイントが最終需要に近いため、需要の読みが正確でないと、在庫ロスが生じやすい。またセントラルキッチンからの輸送時間・コストもかかる。出店はセントラルキッチンと一緒に計画する必要があるため、面で出店計画を考えざるを得ない。丸亀製麺なら、店舗を個別に増やすことが可能だ。

では、両者の業績はどうなのか。その比較は、以下の通りだ。

丸亀製麺    2018年3月期: 904億円、利益140億円(利益率15.5%) 792店舗
はなまるうどん 2018年2月期: 306億円、利益 6.7億円(利益率2.2%) 458店舗

この二つの会社は、ほぼ同じ時期(2000年)に一号店を出店した。だが、今や差は歴然としている。この差がすべて、上記の生産形態に関する違いから生まれたかどうかは、定かではない。ただ、現時点までを見ると、丸亀製麺の方が上をいっている。おそらく、より的確な戦略を繰り出せたのだろう。

生産形態というのは、製造業にとって、非常に重要な戦略なのである。それは、よくよく考えてデザインすべきだ。それなのに、過去の経緯に引きずられて、漫然と決めている企業が多すぎるように思う。それは単純に「もったいない」のである。わたし達の社会には、技術も現場も、優秀な人には事欠かない。しかし、会社全体・サプライチェーン全体を見た戦略が、足りないのだ。戦略の欠落を、なんとか戦術で補おうと、真面目な人たちが苦心惨憺している。それは本当に、人の使い方が「もったいない」のである。


<関連エントリ>

カップリング・ポイント
 →「工場計画論(5) BTOと製品アーキテクチャー」 https://brevis.exblog.jp/12306818/ (2010-03-14)

デリバリーの設計とCODP
 →「すべての製造業は受注生産かつ見込生産である」 https://brevis.exblog.jp/23904094/ (2015-11-25)

(追記)
あなたのパン屋の場合も、うどん屋のように、在庫の賞味期限(鮮度指定)の問題がある。だからサンドイッチという製品で在庫するのは、もちろん得策ではない。でも、部品であるカツやパンだって、期限がある。こちらはさらに難問である。読者の皆さんだったら、どうアドバイスされるだろうか? たまには双方向で、議論して見みたいと思うので、メールでもコメント欄でもいいから、解決策を書いてみていただけると幸いである。



by Tomoichi_Sato | 2019-03-12 23:34 | 工場計画論 | Comments(3)