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2011年 03月 20日 ( 1 )

計画技術者の目から見た「計画停電」

わたしはエンジニアだ。調査票やアンケートにもそう記入する(選択肢があれば、だが。無い場合はしかたなく「会社員」を選ぶ)。工学部の大学教育を受け、エンジニアリング業界で働き続けている。職場で周囲を見渡しても技術屋ばかりだ。

何の専門のエンジニアか? と聞かれたら、わたしの場合は相手の立場を見て答えを決める。まったくの素人さん相手なら、「プラント関係の仕事です」と答えるだろう。これで相手は分かった気になる(らしい)。理工系相手なら「大学の専門は化学工学です」と答えたいところだが、8割以上の人は『カカクコウガク』というものが分からないので、白衣を着てビーカーを振っているように思うらしい。自慢じゃないが白衣なんて中学以来着たことがない。でも、これが英語での質問なら、"I'm a chemical engineer."でピタッと理解される。英米では、mechanical engineerと並んでメジャーな職種の一つだからである。

でも、もしも同じ業界の人に聞かれたら、"I'm a schedule engineer."だと答えるだろう。「スケジュール・エンジニア」という専門職種が、わたしの業界には確立しているからである。ああ、それじゃあPlanningとかProgress controlとかを毎日やっているんだ、と理解してもらえる。Time Managementが専門の技術者、と言いかえても良い。

そのスケジュール・エンジニアの目から見て、今回の「計画停電」というのは、率直にいって、きわめて筋のわるいスケジューリングのやり方である。ちなみに、電力会社はわたしの勤務先の顧客筋の一つに当たる。そして、わたしは一応このサイトを実名で書いている訳だから、あまり批判めいたことをするべきではないのだが、家庭用電力の単なる一ユーザーとして、一言述べさせていただこう。

計画とかスケジュールというのは、何のために立てるのか。それは、あらかじめ「準備するため」である。準備して、事態に備える、あるいは、仕事をスムーズに立ち上げる。それを見越して材料や要員を頼んでおく。

逆に言うなら、スケジュールで一番大事なことは、準備できるだけの時間を前もってとって公表することである。準備に1時間かかる作業を、5分前になって指示されても、誰もついて行けない。もう一つ大事なことは、「やる」と計画したら、多少遅れてもよいからきちんと「やる」ことである。「やるかやらないか、その場にならないと分からない」では、やった準備作業が無駄になってしまう。だから、今回のやり方は失礼ながら「無計画停電」というに等しい。

電力を落とすということは、鉄道・交通信号から工場・商店の操業そして医療・保育まで、ありとあらゆるところに大きな影響が出る。それは電力事業者ならば誰でも分かっていることだ。でも消費電力のたぐいは気象にも左右されて、気まぐれで予測が難しい。そして、供給能力は限られていて、万が一にも消費が上回ったら、(家庭内で電気消費が大きすぎるとブレーカーが突然落ちるように)それこそ大規模停電がいきなり起きてしまう。--こういう、電力会社や監督官庁の不安は、もちろん分かる。

需給がバランスを欠きそうな時に、手立ては二種類ある。需要側に、自主的な節減努力を期待するか、供給側でコントロールするかである。そして、この国は後者のやり方をいつも好んでとってきたように思う。かつて米の不作の時もそうだった。

だが、わたしは需用者側のふるまいに期待するのが近代社会のサプライチェーンの姿ではないかと思う。そのためには、たとえば供給エリア毎に「使用量」と「供給可能上限」とを、リアルタイムに「見える化」すればよい。それこそ、メーターの形にしてネットで見せるだけでも効果があろう(どうせ制御監視室ではこの数値を見ているのだから)。今日の技術ならきわめて簡単に実現できる。携帯でちらとメーターを見て、やばい、この地域は上限に近づいてる、節電しなきゃ、と消費者が考える--これが実現されれば、「さすがは日本人だ」と世界中が感心するはずではないか。

あるいは、もう少し大がかりな手法で、電力需要ピークを下げるために、工場や職種を選んで2~3時間程度の時差勤務を要請する、というアイデアを提案している人もいる。前倒しと後ろ倒しのグループ間で最大4時間程度の差をつければ、ピークはかなり減ると考えられる。一種の大規模なサマータイム制である(これは電力会社だけではできないので、その監督官庁のガイドラインによる指示の形になろう)。

それでも、無責任で気まぐれな国民なんか信用できない、計画停電しか方法はない、というのなら、せめて以下の二点を提案したい。

・地域を18グループくらいに分けて、停電時間は1時間以内とする
・計画された停電は、必ず実行する。スケジュールは週単位で固定し、3日前に予告する

1時間以内とする理由は、各種の自家発電装置や無停止電源装置の容量を考えてのことである。3時間分もの容量をもつ事業所は多くあるまい(たしか、例の福島原発の緊急ディーゼル発電機が背負っていた補助バッテリも1時間分じゃなかったか?)。また毎日3時間分の燃料油を確保するのも困難だ。さらに人間の心理としても、1時間程度ならまだしも我慢しやすいだろう。

停電時間帯が毎日変わるというのも、困難さの大きな一因だ。これはせめて週単位で固定すべきだろう。そして、スケジュールは、先に述べたように、準備期間を考えて3日前には予告する。予告したら、もう計画は変更しない。これをスケジューリング用語で「タイムフェンス」と呼ぶのだが、ここが守られないから皆が困惑しているのだ。

むろん、たとえ1時間でも停電してもらっては困る、という事情も、あり得るだろう(とくに工場や食品関係では)。たとえばわたしの勤務先は大型コンプレッサーを多数、関東に工場を持つ企業に発注しているのだが、もう製造は出来上がってこれから出荷前検査という段階に来ている。ところが、24時間連続運転試験ができないから、出荷の見込みが立たないのだ。こうした事業所には、一週間連続給電するかわりに一日停電する、といった代替の選択肢が与えられるべきだと思う。

現在の「計画停電」のやり方では、停電する区域は事前に分からないし、どういう基準で決められているかも不明だ。ある企業は交渉して停電を免除してもらっている、などというまことしやかな話(根も葉もない噂だと信じたいが)も通用し始めている。このままでは、電力という公共財としての商品が、『利権』の対象になりかねない。そのような状況は、ぜひ避けるべきだと思うのである。
by Tomoichi_Sato | 2011-03-20 23:30 | リスク・マネジメント | Comments(5)