拙著『BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)
本書は山崎誠氏との共著だが、全体構成と本文の8割を私が執筆した。2000年に出版した『革新的生産スケジューリング入門―“時間の悩み”を解く手法 ところで、本書の執筆には1年ほどかかったが、書くにつれて、自分自身BOMに関する認識の深化していくのを感じていた。じつは、書き始めたときは、ERP技術者向きの本にするつもりだったのだ。それなのに、書き終わる頃には、まったく別の意図をもった本になっていた。そのメッセージとは、こうだ:「BOMデータを、特定のパッケージや外部コード体系に依存するべきではない」。なぜなら、広義のBOMとは、生産に関する企業内コミュニケーションの基盤であり、製造業のすりあわせ的統合の要(かなめ)となるからだ-- BOMの問題に気づいたのは、生産スケジューリングの仕事にいくつかたずさわるようになってからだった。じっさい、多くの企業でスケジューラ導入時にぶつかる主要な困難が、BOMデータの構築なのだ。スケジューラはお金を出せば一応、買える。しかし自社の部品表データは、世の中のどこにも売っていない。だから自分たちで整理するしかない。上の方の偉い人は、“そんなのソフトウェア・ベンダーにやってもらえばいいだろう”などと無責任に発想するが、現実を知っている技術者はそうはいかない。まして、「設計部門と製造部門で持っているBOMが違っているんです」なんて、コワくて報告できたものではない。 MRPⅡをベースにしたERPパッケージの生産管理システムの場合、ある意味で問題はもっと深刻だ。MRPのスケジューリングは、タイムバケットと標準リードタイムと無限負荷計画が生み出す、ラフな近似でしかない。近似は近似として使いこなせばいいのだが、困ったことにERPは原価管理に主眼がある。ERPのもつ奇妙な厳格さが、ここでは足かせとなってしまう。たとえば、製品を構成する部品を全部きちんとリストアップしないと、正しい原価がつかめない。購買オーダーも出てこない。つまり、おなじ部品表というマスタを見る視点が、違う粒度を持っているのだ。 一つの会社の中で、相矛盾する複数の部品表が生まれてしまう原因は、複数の機能部門が、異なる目的と粒度でBOMを見ているためである。BOMはもともと、資材購買の必要性から生まれ、ついで生産計画の主要概念になった。そこから派生して、設計・生産技術・生産管理・購買・在庫・製造・物流・保守・サービス・IT・営業・財務と、あらゆる部門が大なり小なり関わるハブ的な存在となっている。 そこで、『BOM/部品表入門』では、各々がいかなる視点からBOMをながめ、そこにどのような要件を持っているかを解説することで、BOMをとりまく課題を多角的に示そうとしたのである。そして、その結果としてたどりついたのが、「BOMプロセッサの発想である。企業内コミュニケーションの基盤情報をコントロールするための、アプリケーションから独立した一種のデータベースが必要だ、というのが私の結論だ。 一種のデータベースであるから、できれば標準スキーマを示すべきなのだろう。しかし、いろいろ考えた末、本書ではスキーマを書くのはやめてしまった。製造業は多様である。BOMはプロセス生産から切替型連続生産をへて組立加工生産まで、あらゆる生産形態に存在する。それらの最大公約数的なスキーマを提示しても、誰の役にも立たないからだ。むしろ、その企業固有の思想を反映するかたちで、各企業がスキーマを自分で考えるべきだと私は信じる。 (とはいえ、何かテンプレートとなるものがあると助かる人は多いと思う。この点で、私は渡辺幸三氏の仕事=Conceptware 生産管理に期待している) この本では、まだ書き残した部分も多い。たとえば: ・設計ブロックと製造ユニット ・トランザクションBOMデータの内容とマスタからの変換 ・個別受注生産のBOMの問題 などだ。こうした点については、どこかでおいおい書いていきたい。 企業内のBOMとマテリアル・マスタの統合は、今日のサプライチェーン問題を解決する最重要課題である。そのためには、企業内に、BOMの登録とライフサイクルをつかさどる、クロス・ファンクショナルな機能が必要になる。BOMに関してだけは、どこからか『解決策』を買ってくることはできない。自分たちで解決するしかないのだ。拙著が、そのわずかな助けにでもなれば幸いである。
by Tomoichi_Sato
| 2008-01-23 23:20
| A5 BOM(部品表)
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