ARC Advisory Groupは、米国の製造業向け調査会社の老舗である。とくにオートメーション業界の動向に強い。そのARCが7月に、ちょっと面白い記事を流していたので紹介しよう。それは、"10 Coolest SCM Boutique Consultants" すなわち、「今、一番クールなサプライチェーン・マネジメント専門企業10社」という内容だ。
SCM関連業界を洋服業界にたとえるならば、IBMのような大型百貨店、SAPやi2 Technologiesのような大手メーカーがいる。しかし、記事を書いたSteve Banker氏が対象に選んでいるのはboutique、すなわち専門店に相当する、小粒だが個性のある企業だった。どの会社とどの会社が選定されているのか、くわしくは原文を見ていただくとして、ここでは興味深い何社かをあげてみよう。 たとえば、Clarkston Consultingというコンサルティング会社がある。Clarkston社は、特定業界にフォーカスすることで特色を出している。得意分野は消費財とライフサイエンス分野である。これらの分野では、SCMそれ自体の確立に負けず劣らず、製品戦略の策定が重要になる。それは商品企画やイノベーションの領域までを含む。彼らはしかし戦略を策定するだけでなく、システムの導入までもおこなう。実績で一番多いのはSAP(APOを含む)だが、CASやOracleが選ばれることも多いという。コンサルタントとしてベンダー中立な点がポリシーの一つであるようだ。 あるいは、Chainalyticsも面白い。この会社は主にサプライチェーン・ネットワークのデザインを主力としている。すなわち、どことどこに物流拠点を置き、どのような輸送手段を用い、どこにどれだけ在庫を持てば最適か、といった問題を専門にするのだ。これは広大な米国では、中規模以上の企業にとって、つねにつきまとう悩みである。(この種の問題は私たちもトライしたことがあるが、日本は狭くて道路網が発達しているため、アジア広域で水平分業しているような大企業を除けば、ニーズが少なくてビジネスとして成り立たない)。同社の強みは、全米および海外での、ロジスティックスに関するコスト・データをかなり持っていることである。 enVista社は、SCEシステム(サプライチェーン実行ソフト)導入の専門企業だ。SCEシステムが何であるかについては、『SCE(Supply Chain Execution)ソフトとは何か』(生産計画 ワンポイント講義)を参照されたい。いわゆるWMS(Warehouse Management System=倉庫管理システム)や輸送管理・作業者管理などのソリューション構築にたけている。彼らもまた輸送コストに関する独自データベースをもっていて、顧客の実際の物流コストをオーディットし、どれくらいの節約が可能かを分析するサービスもおこなっている。 しかし、一番おどろいたのは、リストにOliver Wight Internationalが入っていたことだ。故オリバー・ワイトといえば、'70年代に「MRP十字軍」の名前のもとに、全米の製造業にMRP Ⅱの思想を普及して回った人物ではないか。彼の、米国における生産管理思想への貢献はきわめて大きい。その彼のコンサルビジネスを継承して、計画系のプラクティスを支援する会社が30年後にも生き残っているのだ。これは、米国におけるMRP Ⅱが、ERPに支えられながら、いまだに主流として継承されていることを意味している。 こうした専門コンサルティング・ビジネスの会社が米国で成り立つことは、日本とは大きな違いだと言えるだろう。日本では、コンピュータ・メーカー、大手会計系コンサル、金融系SI総研などが、大企業の信用力とブランドで市場を系列化してしまっており、知恵だけでビジネスを立ち上げて伸ばすのは容易なことではないからだ。 とはいえ、よく考えてみると、それは米国産業のあり方の変化にも、関係しているのかもしれない。たとえば、別の老舗調査会社AMR Researchが最近の記事に書いているように、3PLやロジスティクスの世界にも、業界内合併や投資銀行による買収の波が押し寄せてきている。たとえばSchenkerによるBAX Global買収($1.2B)、Deutsche Post/DHLによるExel Logistics買収($6.6B)などは前者の例だし、Apollo ManagementがTNT logisticsとEGL Global Logisticsを買収したのは後者だろう。 こうした合併や買収の後には、必ず物流ネットワークの整理、拠点の集約化、情報システムの共通化、そして人員削減などがおこなわれる。そのとき、プランを出すのは誰だろうか。合併や買収をリードするのは本社にいるMBAあがりのマネージャーや財務マンたちで、彼らは現場の状況をよく知らない。しかも米国企業はある意味でトップダウン、上意下達の組織であって、現場の知恵に上層部が耳を貸す風習はない。そうなると、呼ばれるのは外部のSCM専門家たちである。かれらが現場に分け入ってデータを収集し、分析検討の結果、案を出す。 かくして米国では、複数の企業・地域のデータを保有するコンサルビジネスが成立する、という具合である。たしかに、これにより横断的な比較とベンチマーキング、ベスト・プラクティス確立が促進されるといっていい。それは一つの知恵ではある。日本企業にときおりあるように、自社内の経験知だけでものを考える内向きなスタイルには、いらいらさせられるのも事実だ。しかしその一方で、エンジニアとしての私は、現場の知恵を計画や設計にフィードバックできる、統合された組織の姿に、より大きな価値を感じるものだ。スマートでクールなコンサルが軒を並べる米国の姿に、多少の違和感をぬぐえないのである。
by Tomoichi_Sato
| 2007-09-06 21:51
| サプライチェーン
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Comments(1)
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by
サムライグローバル鉄の道
at 2024-08-17 11:47
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最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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