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情報の経済的ロットサイズを考える

部品材料の購買においては、経済的ロットサイズの理論があって、買う量がそれより多すぎても少なすぎても、余計にコストがかかることを、前回書いた(2007/08/21)。この事情は、社内の製造工程などにも同じように当てはまる。最終組立などは一個流しが理想といわれているが、材料加工・塗装やチップマウントなど、技術的制約からどうしてもロット加工の方がやりやすい工程が存在するものである。こうした工程では、ロットサイズを決める際に、Wilsonの公式から割り出した経済的ロットサイズ(EOQ)をたよりに計算すると効果的だと考えられている。

社内加工の場合には、購買発注をかけるたびにかかる手数のコストのかわりに、段取り替えのセットアップ・コストをつかって計算する。ロットをあまり小さくしすぎると、段取り時間ばかりが増えて正味作業率が下がることになる。逆にロットを大きくしすぎると、仕掛り在庫量が増えてしまう。

ところで、この考え方をさらに敷衍して、社内を順に流れる情報についても適用できないだろうか、と思うことがある。それは、プロジェクトにおいて機能組織の間を流れていく情報の、経済的ロットサイズである。

たとえば、私にとって一番身近な、エンジニアリング系のプロジェクトを例にとってみよう。こうしたプロジェクトでは通常、最上流工程で機能設計を行い、ついで運用設計も加味して基本設計図面に落としこむ。後工程の部門は、これを受け取って構造設計・制御設計・電気設計・・などに展開し、部品表(BOM)と仕様書を作成する。購買部門はさらにそれを受け取って、引き合い書類を作成し、また生産技術/工務部門は加工手順計画を立案して労務手配に動く、といった風になる。つまり、情報が上流工程部門から下流工程部門へと、順に加工されて流れていくのである。

このとき、問題となるのは、どれだけのかたまりで情報を下流部門に流すか、である。ここのさじ加減が、結構適当に決められる場合も多い。いうまでもないが、仕事というのはある程度の分量がまとまらないと、結果を公式に発信しにくいものだ。また受け取る側も、ある程度まとまらない限り、手をつける気がしないものである。こうしたことは単なる感情論だと思われがちだが、そうではない。知識労働においては、頭を切り換える時間(頭を次のことに向けて準備し集中するための時間)は案外、大きい。つまり思考のロット切替には見えないコストが無視できないほどかかっているのだ。このため、情報ロットは大きめになりがちである。

では、そうした切替ロスのコストを承知の上で、情報のロットサイズを意図して小さくしたら、何か効果がえられるだろうか。工場の部品の場合は、仕掛り在庫が減るという、目に見えるメリットがある。しかし、情報の場合、そもそも在庫という概念がマッチしない。すると、利点はないのだろうか?

そんなことはない。むしろ私は、情報のロットサイズは小さめにした方が効果が現れやすいと考えられる。どこにその効果が出るかというと、プロジェクト全体の「リードタイム短縮」である。

IEの工程分析をやったことのある方ならおわかりだろうが、そもそもロット生産における最大の問題点は、「ロット待ち時間」の無駄の発生である。ロット全数について、ある仕事が完了しないと、次の工程に流れないような工場内物流設計の場合、ロットを構成する個別の部品にとっては、仲間がそろうのを待っている時間が一番多くなるのだ。情報のロットサイズにも、この問題がつきまとってしまう。逆に言うと、情報の受け渡しの単位を小さくすれば、それだけ全体のリードタイムは短縮される。

これは、プロジェクト・スケジューリングにおける「ファーストトラッキング」の技法にも通じる。ファースト・トラッキングとは、2つのタスク間に“先行が完了→後続が開始”という順序依存関係(F-S関係)がある場合に、それを“先行が開始→後続もつづいて開始”という並列関係(S-S関係)に変えてしまう技法である(「StartとEnd -- タスク間の依存関係」『プロジェクト・マネジメント ワンポイント講義』参照)。つまり、上流からの情報が全部そろうのを待たずに、少しずつ受け取ったはしから処理を開始するやり方を意味している。

しかし、だからといって、情報のロットサイズをむやみと小さくすればいいというものでもない。たとえば、BOM(部品表)データを、できた端から毎日1個づつ流されたのでは、下流部門はたまったものではない。加工計画や購買手配は、ある程度の量と全体像が見えてから進めないと、かえって非効率になってしまうからだ。

そこで、一番ちょうど良いロットサイズがどこかにあるはずだ、という考えに至るのである。むろん、Wilsonの公式はそのままでは適用できまい。もう少し別の数学的道具立てが必要となってくるのである。しかし、私の見るところ、設計段階でコンピュータ利用が進んできているのにもかかわらず、普通に行われている情報のロットサイズは、過去の紙の時代の習慣を踏襲して、大きすぎる状態だと感じる。どのような単位での流し方が適当なのか、もう一度熟考すべき問題である。
by Tomoichi_Sato | 2007-08-29 23:42 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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