日本の製造業が景気回復の手応えを感じはじめてから、もう2年近くたつ。業種・地域ごとに濃淡の差はあれども、いまはどこの会社に行っても、多忙な状況だ。10年以上続いたひどい不況の時代に、企業は可能なかぎり人減らしをすすめたから、今さら急に業容が拡大したって、体制が追いつかないのは事実だろう。
製造現場はそれでも、派遣労働者をあつめてきて何とかしのいでいるみたいだが、技術者となると、そうはいかない。その業種・その会社の技術内容をよく知った人間でないと、エンジニアはつとまらないからだ。おかげで、どの会社でもエンジニアの労働時間がふえる一方だ、このままでは過労で倒れそう、と声なき悲鳴が聞こえる昨今である。 そんな現状があるからだろう。人・モノ・金につづく経営資源の第4の要素として、『時間』があらためて注目をあびるようになった。会社組織として、時間をいかに管理していくか。それは納期短縮にも製品開発競争にも人事施策にも人件費削減にも直結する。例の「ホワイトカラー・エグゼンプション」の議論も、ある意味その一環にちがいない。 ところで、人や金といった他の経営資源とちがって、時間は管理できない。時間は所有できないからだ。万人に共通に与えられ、使わなくても手元から消えていく。お金の予算は、ゼロになれば「無い袖は振れない」となって、使えなくなる。しかし、時間は足りなくなっても無限に消費(補給)可能だ。だから、どんどんプロジェクトの予定が遅れていく訳である。ここが、タイム・マネジメントの基本的な問題点である。 いうまでもないが、時間を占有できない我々にとって可能なのは、「時間の使い方」のコントロールである。つまり、時間の「予算」(スケジュール予定)・「実行記録」(日誌とTo Doリスト)・「決算」(進捗と生産性評価)の3つが、がエンジニアのための時間管理術 ところで、こうした話をすると、よく“ぼくらは忙しすぎてTo Doリストなんて書いていられませんよ”と反論されることがある。毎日が忙しすぎる。だからうまくスケジュール管理はしたい。でも、自分がかかえているタスクのリストは書きたくない。なぜなら“忙しすぎるから”だ、と話が円環を描く。聞いているこちらは、酒飲みの国を訪問した「星の王子さま」みたいな気分になってくる。では、どうしたらいいのか? じつは、「忙しすぎてできません」というセリフには、どんな場合にも裏側の意味がある。これは、“自分が本当に多忙かどうかはともかく、自分の優先順位評価から見ると、それは優先度が低い仕事です”といっているのだ。ウソだと思ったら、押し売りの電話に自分がどう答えるか思いだしてほしい。「今忙しいから」といわないだろうか? To Doリストを書いたり、日誌をつけたりすることに対する“忙しすぎるからできない”との言い訳も、同じ意味である。「そんなの、やってもやらなくても仕事の結果にはかかわらない。だからやりたくない」と考えているわけだ。タイムシートはつけ忘れたら残業代にさしつかえる。しかしTo Doリストは給料に影響しない。だから自分にとって本来の仕事ではない。第一、書いている時間があったら、やってしまった方が早いじゃないか。 ここには、どうやら根本的な誤解があるらしい。それは、To Doリストは宿題(タスク)をもらった人間が書くものだ、という誤解である。もしも、あるタスクが誰かからの指示によって発生したならば、それは指示(発注)する側の人間が書きこむべきなのだ。それが、作業のオーダーという意味なのである。 考えてみてほしい。設計担当者が工場の製造現場に対して、何らかの製造指図書や作業指示書を出す場合、それはエンジニアが書くのが当然だと、誰もが思うだろう? だとしたら、ホワイトカラーが指示や依頼でタスクを他のホワイトカラーに渡したときだけは、なぜ受け取った側が紙に記録すべきだと考えるのか? 頼んだら、頼んだ側が忘れないよう心がけるべきではないか。 べつに、他人のTo Doリストに直接書き込むのではなく、ミーティング・メモやメールの形で書いてもいい。依頼した側と依頼された側が誤解なく、忘れないようになっていれば良いのである。あるいは、電子的にリストを共有する仕組みを使うのもいい。「e工程マネージャー」をはじめ、最近ではグループ内でタスク・リストを共有するツールはたくさんでている。いや、Excelで運用しても、カードに書いて渡してもいい。方法など、いくらでもあろう。 顧客からの電話での依頼はどうするか? たしかにその場合は、自分で書くしかあるまい。電話連絡票をかいて、「自分はこれこれのタスクを受け取りました」と顧客にメールで返しておく。これが由緒正しいやり方である。とくに有償サポート契約などでは、どこでもそうしているはずだ。 では、顧客や他部署からの質問はどうするか? すぐ答えられなければ、調べなくてはならない。その場合、人件費が発生するわけだ。だから、サービスフィーをもらうべし、というのが筋道になる。え? そんなの非現実的だ? --そうだろうか。たしかに、実物経済中心の今の取引慣行では、そうかもしれない。しかし、いつまでもそうでありつづけるだろうか。これだけタイム・マネジメントの意識が普及していけば、しだいに「時間のコスト」に皆が自覚的になっていくはずではないか。 人件費だけはただ、という時代は早く卒業するべきだろう。
by Tomoichi_Sato
| 2007-03-12 22:09
| E5 時間管理術
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