当サイトの以前からの読者はお気づきかもしれないが、最近、記事のカテゴリー分けを見直した。「A 生産マネジメントとSCM」「B プロジェクト・マネジメント」「C システムとしての工場」「D 情報システムのマネジメント」「E ビジネス・マネジメントと管理技術」「F 考えるヒント」「G 書評」の、実質7カテゴリー・23分類に詳細化したのである。これで、話題の広がりが見通せると同時に、関連記事が少しは見つけやすくなっただろう、と信じる。 そう言いながら、自分の記事の分類に自分で悩むことも結構ある。例えば今から書こうとしている本記事にも、その一つだ。なぜなら、2種類のトピックに関して、その関連性を考えようという記事だからだ。2種類のテーマとは、 次世代スマート工場の必須の道具であるMESと、製造における重要なKPIである『品質』のことである。前者には、カテゴリーC2「スマート工場」があるし、後者はカテゴリーA4「コスト・品質・安全」に属する。 今回はそれでも、後者のカテゴリーA4に分類しようと思う。 なぜなら、品質について改めて考え直してみたいからである。
こんなことをネットで書くべきではないのかもしれないが、最近気になることをある製造業に詳しい知り合いの法務専門家から聞いた。この方によると、品質偽装はかなり多くの企業で起きていて、もはやそれを前提に色々と対策を考えざるを得ない、という。 かつての品質大国ニッポンは風前の灯だ、とのことだ。 たしかにちょっと振りかえってみても、数多くの偽装問題が新聞を賑わせた。たとえば:
・・などなど。どれも防衛・鉄道・自動車・半導体など社会の基幹インフラに関わる事案で、なおかつ人も知る(社会的信用もあるはずの)大企業によって行われていた。なお、新聞沙汰になったのだから実名を書いてもいいのだが、個別企業の経営批評が目的ではないので伏せ字にしておこう。
偽装のはじまりが1980年代の終わり頃、つまり高度成長が終わったバブル時代くらいにまでさかのぼるケースも多い。偽装は近年に始まった話ではないのだ。ただ、それが近年になって発覚した事例が多い。なぜだろうか? 内部告発等があったにせよ、ではなぜ、長い間だれも声を上げずにきて、急に最近増えたのか、疑問が残る。 え? コーポレート・ガバナンスが浸透したから? 金融庁関係者ならそう思うかもしれないが、どうだろう。だったら架空取引とか売上偽装事案だって、もっと出てきてもいいはずではないか。なぜ品質偽装ばかりが多いのか。 そこには二つの要因があるのではないかと、わたしは推測している。すなわち人手不足と、製造現場へのデジタル技術の浸透である。これらはまさに、コロナ禍の時代に前後して、製造業に共通して進んだ事象だ。人手不足は、熟練工の引退と若手の採用難、そして派遣労働者への依存と歩を合わせて進んだ。若手や中堅の転職も増えている。偽装には、その秘密を守れる仲間意識が必要だ。だが、自分は職場と運命共同体という感覚を、次第に持てなくなってきている訳である。 そしてもう一つが、現場のデジタル化である。従来は、生産管理システムがあっても、現場の差配は紙の帳票ベースが主体だった。ところが、ITは生産管理から現場の製造管理までおりてきた。それがMESである。現場の検査機や製造装置の数値を、そのままI/F経由で読み取ってデジタル製造記録に残すのが、MESの主要な役目だ。そうなるとMESの検討段階で、「おい・・やばいなこれ、どうすんだ?」という内緒の会話が始まるのである。
そもそも、なぜ品質偽装なのか。それは簡単に言うと、QCDのしわ寄せが現場に来た結果である。製造業の三つの主要指標、QCDはトリレンマの関係にある。トリレンマは三すくみ、つまり他の2つに影響を与えずに1つだけいじることができない関係を表す。コストを下げたら、品質か納期に影響が出る。納期を早めたら、品質かコストにしわ寄せが来る。 ところで、製造業では誰がその三つを決めるのか。実は、別の部門が決めるのだ。図は以前、「製造業のトリレンマ・QCDを決めるのは誰か」(2024-11-19)にあげたものの再掲である。コストはそもそも、製品設計や工程設計や調達など、製造に入る前の段階で(多くは本社で)、大半が決まってしまう。納期は、生産管理業務を受け持つ工場の製造マネジメント層(中二階)が決める。そして製造品質は、現場が作り込む。でも、会社の力関係は、本社>マネジメント>現場、となりがちだ。だから、コスト>納期>品質、の順にしわ寄せがくるのである。 MESとは製造管理システムともよばれるように、主に現場の業務を支える。それもふつうは、製造指図が上位系のERP/生産管理システムから下りてきた所が起点となる。MESは詳細な手順を現場の作業員に表示し、あるいは物品にバーコードラベルやRFIDを発行してロット識別し、機械と通信I/F経由で指示値や実績値をやりとりする。 作業者が間違えてロットを投入しないよう、ラベル照合したり、機械に応じた設定条件を通信で送ったりといった、いわゆる「ポカよけ」は、MESの得意分野である。正しい標準作業手順SOPにしたがって、モノづくりをするようガイドする。つまりMESとは、納期を司る生産管理よりも、品質を保証する役割の方が強いのだ。
「スマート工場とはMESを活用する工場である」 と、わたしは言い続けてきた。単なる機械単位・工程単位のデジタル化・IoT化も結構だけれども、工場全体が賢さを得なければ、本当の意味で製造業の問題解決にならない。そのためには、まずMESが必要だ、と。だから部分的なスマート化と区別したくて、あえて「次世代スマート工場」という言い方を選んできた。そのポイントは、工場レベルでの賢さの実現である。そして「賢さ」には、偽装のような悪だくみに陥らない、という意味もこもっている。 誰だって、やりたくて偽装をやってるのではない、と思う。最初は誰かがやむなく命じ、時間がたつと次第に職場の「習慣」となっていく。だが、やる当人は気持ちのいいものではない。少なくとも、自分の子どもに向かって、胸をはって話したい事ではない。働く人が、働くモチベーションを失ったら、良い製品ができるはずがないではないか。それは「賢さ」とはほど遠い。 今こそ、「なぜスマート工場なのか」を議論すべき時なのだと信じる。たまたまちょうど、信頼する研究会仲間である松本卓夫氏から、経営工学会が主催する、次世代スマート工場に関するシンポジウムの案内を頂戴した。内容は下記の通りである。 テーマ:「次世代スマート工場の運営と管理を考える」 日時:3月14日(土)13:00〜17:00 場所:青山学院大学(青山キャンパス17号館17810教室)。オンラインあり 費用:無料 ちなみにエンジニアリング協会の「次世代スマート工場研究会」からは、太田裕文氏が工場物理学(Factory Physics)について講演される予定だ。また神奈川大学からはリチウム電池再利用のビジネスモデルの提案、大手自動車部品メーカーからは労働集約型工場の海外・日本での運営について、講演が予定されている、という。 あいにく日程の関係から、わたし個人はオンラインで部分的に視聴するだけだが、こういった場でぜひ、製造業のあるべき姿と、現状の悩みについてディスカッションすべきだ、と思う。ちゃんと議論できないこと。それこそが、今のわたし達の社会の、一番根底の問題なのだから。 <関連エントリ> 「製造業のトリレンマ・QCDを決めるのは誰か」 (2024-11-19) 「スマート・ファクトリーとはMESを活用する工場である」 (2023-12-02)
by Tomoichi_Sato
| 2026-02-16 19:56
| A4 コスト・品質・安全
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