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モダンPMへの誘い 〜 プロジェクトのActivity間には4種類の依存関係がある

  • プロジェクトのクリティカル・パスとロジック・ネットワーク

プロジェクトの全体工期の長さを決めるクリティカル・パスとは、そのプロジェクトを構成するActivityからなるロジック・ネットワークにおいて、開始点から完了点までを結ぶ種々の経路の中で、最長の経路を指す。プロジェクトの工期を短くしようとしても、クリティカル・パスが「つっかい棒」のように邪魔をして、それ以上短縮できないからである。そしてロジック・ネットワークとは何かというと、プロジェクトを構成する全てのActivityを、お互いの先行→後続の依存関係にしたがってつなげて表示した、有向グラフである。

プロジェクトをActivityのネットワークとして理解する、という概念は20世紀の半ばに、アメリカ人達がはじめた。1950年代のことで、プラント建設プロジェクトにとりくむ化学企業デュポン社のエンジニアと、ポラリス・ミサイルの開発プロジェクトに携わった海軍のコンサルタント、ブーズ・アレン・ハミルトン社の人びとであった。クリティカル・パス概念自体は、デュポンで生まれた。そして、プロジェクトをこのような「要素的作業=Activityのネットワーク」としてのシステムと理解し、そのシステム工学的な性質をとらえ、数値的にマネジメントしよう、という発想が、『モダンPM』の始まりだった。

その後、クリティカル・パスの計算手法が発達するとともに、プロジェクトのより具体的な構成や制約条件も、取り込みたいとのニーズが高まった。たとえば初期には、Activityの間には、「先行」→「後続」という直列的な依存関係しか考えられていなかった。しかし現在は、依存関係には4種類がある、と考えられるようになっている。

4種類とは、先行と後続それぞれのActivityに、開始(Start)と完了(Finish)があるので、かけ算で4つのバリエーションが生まれることを指す。すなわち、以下の4種類だ。
1. Finish to start (略称FS)
2. Start to start (略称SS)
3. Finish to finish (略称FF)
4. Start to finish (略称SF)
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  • FS型・SS型・FF型の依存関係

さて、Activity間の4種類の依存関係のうち、最もベーシックで、実務でも最も多く使われるのがFinish to start (FS)である。先行Activityが完了したら、後続Activityが開始できる。設計が完了したら、実装が開始できる。資機材の調達が完了したら(=入荷したら)、据付作業が開始できる。例の枚挙にはいとまがない。資機材が入荷もしていないのに、据付ができる訳がない。設計も終わっていないのに、作り始めるのは愚かである。これは分かりやすい。

Start to start (SS)とは、どんな依存関係か。それは、先行Activityが開始したら、後続も開始できるという関係だ。ただ通常は、この二つのStart日時の間に、一定の期間が挟まる。これを英語ではLagと呼ぶ。

たとえば、家やマンションの塗装工事を考えよう。塗装は普通、下塗りと上塗りの2工程からなっている(場合によっては中塗りを入れて3工程)。下塗りをしたら、それが乾燥する(落ち着く)まで一定の時間がかかる。それを待ってから、本塗りをする。だが、下塗りを建物全体に行って、それが全部乾いてから、上塗りを開始するかというと、そんなことはしない。たとえば1階部分の下塗りが乾いたら、そこの上塗りを開始する。同時に、まだ2階や3階の下塗り作業が続いているかもしれない。だが一定の日数をはさめば、下塗りと上塗りの2つのActivityは並行して進めるのだ。こういうときに、Start to start (SS)の依存関係を使う。

では逆に、Finish to finish (FF)を使うのは、どんな場合か。たとえば設計書を作成するActivityと、そのレビューを行うActivityなどがその例だ。設計書が多数ある場合、レビューはできたものから順次着手して、並行して進む。しかし設計書が全部完成しないうちに、レビューだけ勝手に完了できる訳がない。最後の部分のレビューに必要な期間が、Lag日数になる。


  • SF型の依存関係の、本当の意味

ところで、最後のSatrt to finish(SF)型とは、どんな依存関係だろうか。先行Activityが開始しないと、後続Activityが完了できない? なんだそりゃ? こんな関係、意味が分からん。

ということで、これは理屈だけのもので、現実には意味がないと考える人も、ときどきいる。事実、実務でもまあ、たまにしか使わない。だが、使うときはあるのだ。それは、どんなケースか?

実は、上のような図は、ミスリーディングなのだ。本当はSF型は下のように理解すべきである。
モダンPMへの誘い 〜 プロジェクトのActivity間には4種類の依存関係がある_e0058447_19092056.png
すなわちSF型依存関係とは、「後続Activityがスタートしたら、先行Activityを完了できる」というケースなのである。英語のtoという語は、ここでは時間的な前後関係ではなく、論理的な依存関係を示している。たとえば、システム移行に伴って、旧型システムの運用は、新型システムの運用が開始したら、終了できる。後続の開始が遅れたら、先行Activityの期間も伸びてしまう。後続が開始しない限り、先行は完了できないという関係を、SF型は意味しているのだ。

ということで、Activity間の依存関係はやはり、4種類必要なのである。クリティカル・パスをベースにしたスケジューリング・ソフトウェアも、これら4種類の関係を定義できる機能を取り込むようになった。その種のソフトの代表格が、普及価格で手に入るMicrosoft Projectと、プロ用のツールであるPrimavera Project Planner(通称P6)である。

プロジェクト・スケジューリング・ソフトを導入すると、なんとなく自分たちもすぐに、プロジェクトをうまくマネージできるような気分になる(ソリューションの売り手側も、そういう気分を盛り上げて、販売促進をするわけである)。でも、4種類の依存関係をちゃんと理解して使いこなせるようになるまでは、まだ習熟の期間が必要だ。ソフトの導入完了と、実務の運用能力アップの開始には、だからFinish to Startの関係の上に、Lag日数があるのである。


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by Tomoichi_Sato | 2026-01-31 19:14 | B3 プロジェクト・スケジューリング | Comments(0)
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