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どの人にどのタスクを割り当てるか 〜 感情と思考の4類型を理解しよう

  • P&PA研究会のPM研修プログラムでやり残したこと

「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」は、わたしがスケジューリング学会の下で組織した研究会で、2011年の5月に発足後、13年間活動を継続し、昨年解散した。研究会が産みだした成果の一つは、『PM教育分科会』で開発したプロマネのための研修プログラムだ。これはいくつかの企業や、浜松ソフト産業協会などのセミナーで実施し、それなりに好評だったと自負している。

わたし達が構想したのは、2日程度をかけた合宿形式の研修で、プロジェクト・マネジメントの様々な面を、手を動かしながら身につけてもらう方式だった。その柱の一つは、紙のカードを使って、横長の大きな模造紙にプロジェクトのネットワークを作成し、全体構造を理解してもらう点にあった。残念ながらコロナ禍の影響でリアルな集合研修ができなくなり、研究会活動のブレーキになったのだが、そこはさておき、現実のセミナーでは、やりたいと思ってもできずに終わった事があった。

その一つが、アクティビティ(タスク)の特性に応じた、人のアサインの問題である。紙のカード自体は、研究会副幹事であった串田悠彰さんが作成した(そう、拙著「ITって、何?」を編集出版してくださった、未来生活研究所の串田さんである)。この問題も、串田さんの発案による。


  • タスクの種類と、人のスキル

研修で使った例題は、生産管理システム開発のITプロジェクトで、業務分析のような上流工程から、開発テストのような下流工程まで、様々なタスクから構成される(プロジェクトのネットワークを構成する要素は「アクティビティ」と呼ぶのがPMBOK流の世界標準だが、日本のIT業界では「タスク」と呼ぶ習慣なので、これ以降はそう呼んでおく)。

串田さんが考えたのは、企画・分析・設計・開発・試験・文書作成といったスキルの種別を設定し、プロジェクトに配員される人ごとに、そのスキルレベルを点数化する、という形式だった。

たとえば「入社N年目の中堅PG。ややムラはあるものの好調時の開発の生産性は高い。一方、上流工程は苦手なため、有力なアーキテクトがいるチームで本領を発揮する」といった要員に、企画:60、設計:110、開発:150・・といったスコアを割り当てる。そして、どのタスクにアサインされるかによって、同じ人間でも生産性をかえよう、という案だ。

非常に興味深いアイデアだったが、あいにく現実の研修は時間の制約が強く、この部分はカットせざるを得なかった。ただタスクのカードの隅に、「設計」とか「試験」とか目立たぬ形で表記してあったことに、気づいた参加者はいたかもしれない。


  • 人の類型と適性について

プロジェクト・マネジメントでも、あるいは先月の記事で触れた設計マネジメントでも、誰にどの仕事をやってもらうかを決めることは、非常に重要だ。人間には個性があり、同じ専門エンジニアといっても仕事の特性に対して、向き不向きがある。だが、他人のスキルレベルを評価するのは簡単ではない。だから試験科目別の得点表みたいには、なかなか整理しきれない。

そこで、ある程度マネジメントに慣れた人は、なんらかの人間の類型論を内心、持っている場合が多い。人間類型は科目別点数よりもラフだが、それでも「彼はこのタイプの人間だ。だからこれを任せよう」とか、「彼女はこういう類型だが、このタスクは荷が重いかも」という風な判断の根拠にはなる。むしろ、どのような人間の類型論を持ち合わせているか、その人のマネジメントの熟達度合いを示すといってもいい。

もちろん人間の類型論には、様々な種類がある。内向的とか外向的とか、思考型と感情型と直感型とか。性別とか出生地とか世代で、人を分けて説明する思考法も根強い。それこそ、血液型や干支や生まれの星座だって、一種の類型論ではある。でもさすがに、人事施策を星座で決めている会社は、現代にはあるまい。今日ではもう少し『科学的』なアプローチが望ましい。

その一つが、「ソーシャルスタイル」と呼ばれる類型論だ。これは、横軸に「感情の開放度」をとり、縦軸に「思考の開放度」をとった4象限で、人の類型を考える。元は、マーストンとガイヤーという行動心理学の研究者の発案になるらしい。
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  • ソーシャルスタイルの4類型

感情の開放度が高い人とは、喜怒哀楽など自分の感情を、すぐ豊富な形でオープンに出すような人である。感情表現の豊かな人という言い方もあろう。逆に、自分の感情を抑えてなかなか外に出さない人、内心の感情とは別の表情を作るような人は、開放度が低い。

また思考の開放度とは、自分の考えをまっすぐな形で、オープンに口にするタイプの人だ。意見が明確とも言えるが、言葉をかえると、思ったことを割とすぐ口にする、とも言えよう。逆に思考の開放度が低い人とは、人の意見をまず聞く人だ。自分の考えをあまり表出しない、とか、じっくり考えて簡単に結論を出さないタイプとも言える。

感情も思考も開放度の高い人は、感じたこと・考えたことをすぐ表に出す。まあ、感覚派の類型で、たとえば「プロモーター」とも呼ばれる。逆に、思考も感情も開放度の低い人は、思考派で「アナライザー」である。4象限の左上は、行動派「コントローラ」である。喜怒哀楽がはっきりしているが、口数は少ない。右下は、協調派の「サポーター」で、意見も言うが自分の感情はおさえる。

あなたは、ご自分がどのタイプだと思われるだろうか? わたし自身は明らかに、左下に属する(その証拠に、わたしの名刺には「チーフエンジニア(システム・アナリスト)」と肩書きがついている)。たとえば上であげた、企画・分析・設計・開発・試験・文書作成といったスキルは、どのタイプが向いているだろうか。そして、プロジェクト・マネージャーに適しているのは、どのタイプだろうか。

ちなみに、このソーシャルスタイルの4象限の図は、わたしの勤務先がずいぶん前から社内で使っているツールでもある(ちょっとアレンジを変えているが)。また「アナライザー」などの呼び方も、いくつか流儀がある。それに、この4類型がいつも万能という訳でもない。すぐれたマネージャーは、いくつかの類型論を組み合わせて使うものだ。

しかし、いやしくも「マネージャー」と呼ばれる立場になった人は、人の個性と類型について、何らかの理解の枠組みを持つべきである。そうでなければ、良いアサインメントの決断はできない。良いアサインができなければ、良いプロジェクトのプロダクトが産まれる訳がないではないか。


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