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建設通信新聞6月20日インタビュー記事「マネジメントは〝技術〟」より

今年の初めに、建設通信新聞社の取材を受けた。テーマはPM。創刊75周年記念号に使うという。実際の誌面掲載は6月20日号になったが、業界紙なので読む機会のない方も多いと思う。そこで、このサイトに少し抜粋して掲載したい。


【導入文】
多くの人を束ねる「管理」を研究対象とする学問がある。「プロジェクトマネジメント」、英語の頭文字を取ってPMと呼ばれる分野だ。達成すべきアウトプットが決まっており、複数人が協力して行い、失敗のリスクもある。こうした〝一発勝負〟の仕事をプロジェクトと定義し、現場で誰もが使える〝負けないための定石〟を理論化する。エンジニアリング、ITシステム開発などの現場で導入が進んでおり、近年、大きく発展している。多くの人が協力し、安全に工期内で現場を納めるには何が必要なのか。PMのプロに、建設業の課題解決のヒントを聞いた。

【インタビュー】
佐藤知一 氏
日揮ホールディングス(株)チーフエンジニア、筑波大学教授(グローバル教育院)
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Q PMでの「管理」とは、何を意味するか。

A 日本では、管理という言葉がとても幅広く使われる。ただ、英語にすると▽マネジメント▽コントロール▽アドミニストレーションと3つの言葉に分かれる。
 アドミニスレショーションは働く場所を維持する仕事を指す。総務課、庶務のようなイメージだ。例えば現場入場者の台帳制作、などの仕事を指す。
 コントロールは、工程表や予算表などの計画を立て、その進捗(しんちょく)を確認し、予定と実行を把握していくことだ。機械を運転・操作しているイメージだ。
 最後にマネジメントだが、これは暴れ馬を乗りこなすイメージがある。例えば、自分の車を前に「I can control my car」と言ったら、自分の車を正確に運転できるという意味になる。しかし「I can manage」だったら、古くて故障が多いといった問題を何とか乗り越えている、という感じになる。

Q マネジメントとは

A マネジメントの根本は人に働いてもらうことだ。施工図を書くのでも、リベットを打つのでもいいが、自分でやる仕事はマネジメントではない。人に設計図を書いてもらう、リベットやコンクリートを打ってもらう。これをマネジメントという。
 大きい構想を立て、人を組織化する。ルールを決める。当然お金のやり取りもある。構想が実現していくように持って行くのがマネジメントだ。その上で、実際のお金や進捗が予定通りに行っているかどうか確認する、これがコントロールの世界だ。出入金の伝票をつけるのはアドミニストレーションの仕事となる。
 このように三つは全部違うのに、一緒くたに管理と言ってしまうと、訳が分からなくなる。

Q 現場管理はマネジメントであるのに、PMが建設業界で馴染みが薄いのはなぜか

A マネジメントやコントロールには「技術がある」という認識が、特に日本では非常に乏しい。マネジメントやコントロール、つまり人の上に立つに当たって必要なのは気合いで、「それは本人の資質の問題だ」というのが、日本の古い考え方だ。

Q 具体的には

A 例えば「腹の据わったやつを現場所長に据える」とか、「有名な大学を出た優秀そうなやつを技術者のトップに据える」とか。これで物事がマネジメントできるというのが、日本の感覚だ。人格や出身、資質の問題で、「技術」の問題ではないと。その結果どうなるか。現場ごとにやり方が違い、デコボコの大きい業績になっていく。
 マネジメントが人格や、生まれつきの資質の問題なら、トレーニングの余地がないことになる。「生まれ変わってこい」としか言いようがなくなる。大勢の人を集めて、〝適任者〟だけを選別し、重要なポジションにつける。そうした考え方だったのだ。
 そうしたやり方は、人が無尽蔵にいた時代には成り立っていた。今は、人をきちんと育てていかなければいけない。マネジメントやコントロールを技術として教え、身につけさせる。その上で、技術を動かすための道具、ITなどを充実させていく。これが今、建設業界が向かっていくべき方向性ではないだろうか。
Q エンジニアリング業界でPMが普及する理由は

A 一般建設業界とプラントエンジニアリング業界は、非常に大きな違いがある。大手ゼネコンの多くは、江戸時代からある土着の業界だ。だがエンジニアリングは輸入業界で、アメリカで発達した産業の形を日本も導入した。日本のエンジ会社は、アメリカの同業のやり方を一生懸命学んできた。
 さらに、日本のエンジ業界大手3社(日揮ホールディングス、千代田化工建設、東洋エンジニアリング)の仕事の7、8割は海外だ。海外の顧客は「ちゃんと計画を最初に立てたか」「進捗(しんちょく)通りか、毎週・毎月レポートしろ」という。遅れたら「本当にこれで納期に間に合うのか。リカバリープランを出せ」と、こうくる。
 エンジ会社も建設業も、同じ日本人がやっているが、物の考え方、やり方が全然違う。それは海外のお客様と国内との、要求レベルの違いだ。だからプロジェクトマネジメントが重要視される。

Q 建設業は取り残されているのか

A プラントの設計は技術、これは誰も疑わない。装置を設計するのは機械学科を出た人たちで、鉄骨を設計するのは土木学科を出た人たちだ。ところが、エンジニアリング会社には、プロジェクトマネジメント部門があり、プロジェクトマネージャーという職種があって、その下にプロジェクトエンジニアがいる、というピラミッドがある。
 「この人達はプロジェクトマネジメントという技術を担って、動かしている」。そうエンジ会社は思っている。しかし、おそらくほとんどの建設会社、あるいは設計事務所もだろうが、マネジメントは技術という感覚が薄く、昭和時代の感覚のままずっときているのではないだろうか。

Q 難題は信頼関係と職人技で納める。そうした風土が足かせとなっているのか

A 人が人を動かす、人に働いてもらうには、必ずヒューマンファクターが影響する。ただ、「属人的でない技術がある」という感覚を持っているかどうか。これが一番大事な違いだ。もしも、建設業界にその感覚が薄いのであれば、労働者が減少する国内市場で生きていくのは難しくなると思う。
 昔は働く人は日本人ばかりだったが、今は外国の方も沢山いる。指示の出し方も変わっていく訳で、そこの部分も含めて「技術」として、きちんと人に伝えられるようにしていく。これが一番基本的なポイントだと思う。


【略歴】
佐藤知一(さとう・ともいち)1982年4月日揮株式会社入社。設計部門・プロジェクトマネジメント部門にて、国内外の工場・プラントづくりに従事。2012年より経営企画部門。専門書に加え、対話形式でPMを解説する「時間管理術」(日本経済新聞出版)、「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」 (技術評論社)など、初学者が手に取りやすい著書も執筆する。

by Tomoichi_Sato | 2025-07-05 20:29 | B1 プロジェクト・マネジメント全般 | Comments(0)
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