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モダンPMへの誘い 〜 Forecast Dateの意味とETD/ETA

  • コントロール業務と着地点予測

このシリーズの前回記事から、半年間もギャップが開いてしまったが、また再開していきたい。プロジェクトのコスト・コントロールから、スケジューリングに話題を転換しようとしているところだった。

コスト・コントロール、そしてスケジュール・コントロールの一番大事な役割は、プロジェクトの『着地点予測』である。いつ、終わるのか。そして、全部でいくらお金がかかるのか。もしもそれが元の計画から乖離している場合は、計画していた費用と期間内に、なんとか納めるよう方策を見いだすことが、大事な役割である。

ちなみに着地点予測というのは、わたしの用語だ。モダンPM理論の世界では、他にあまり適当な用語が見当たらない(知らないだけかもしれないが)。もちろん、"at Completion"という言い方はある。Cost Estimate at Completion(完成時総原価予測)=略してCost EAC、のように。また、"to Complete"のような形で、Cost Estimate to Complete = Cost ETC(残作業コスト予測)でも使う。

ただ、そのような値を予測する作業自体を指す、適切な言葉がないので、着地点予測と呼んでいる。なお、コストの代わりに完了日程を予測する場合は、Time EACといったり、Estimated Completion Date = ECDと呼んだりもする。

ちなみにプロジェクト・コントロール業務の対象は、コストとスケジュール以外にも、スコープ、品質、ドキュメント、コミュニケーション、リソース、変更、リスク等々、いろいろある。その中で、コストとスケジュールが一番重視されるのは、もちろんお金と納期で縛られるからでもあるが、それ以外の項目には、なかなか定量化しにくいものが多い、という事情もあったりする。


  • 目標、計画、予測、実績

さて、上記のETCとかEACの用語は、いずれも"Estimate"(見込み・見積)という言葉が使われている。なぜだろうか。なぜ、たとえば"Plan date"とか"Planned cost"という風に、Plan(計画)という言葉を使って言わないのか。

実はそこに、重要な違いがあるからだ。Estimate(見積)やForecast(予測)などは、客観的に決まる計算値のことを指す。一方、Plan(計画・予定)には、そこに計画者の意思決定が込められた数値になっている。

拙著『革新的生産スケジューリング入門』でも書いたように、

「計画=予測+意思決定」

なのである。先のことは分からないので、現状や先行きの環境について、様々な仮説がありうる。計画者はその中から、自らの価値観にとって最も適切と思えるものを選んで、予測値に補正を加える。これが計画値である。

残念ながら、わたし達の社会では多くの企業において、予測と計画の二つがきちんと区別されずに、ごっちゃに使われている。いや、それどころか、人の尻をたたくための目標の概念まで持ち込まれる。営業の持ってくる数字が、売上目標なのか、販売計画なのか、それとも需要予測なのか分からず、頭を抱える技術屋をよく見かける気がする。

予測、計画、目標は、別の概念である。予測(Forecast)は客観的なものだ。天気予報をWeather forecastと呼ぶように。開花予報の日が3月21日なら、その日に花が咲くだろう。これは、異なるプロが予測しても、そうブレたりはしないはずだ。しかし、だから完成記念パーティを3月23日にしようと計画するとしたら、これはもう意思決定が入っている。花ひらく下で、気分良く楽しみたい、と。

そして、だから(少し余裕を見て)3月20日までに完成必須だぞ、とメンバー全員に知らしめるとしたら、これは目標である。目標は多くの場合、モチベーションを引き出すため計画よりも少し「背伸びをした」数値になる。つまり理性的判断だけでなく、感情的尺度も入り込むのである。だから計画と目標は、意思決定する人によって少しずつ違う可能性が高い。


  • Forecast Dateの意味と輸送業界のETD/ETA

さて、客観的予測であるForecast/Estimateに戻る。プロジェクトではしばしば、計画と現実がずれていく。それもたいていは、望ましくない方向にずれていく。かりにプロジェクトの中に、上流側工程と下流側工程があり、別々のメンバーが担当するとしよう。当初、プロジェクト計画で、上流側から中間成果物を下流側に引き渡す日程を決めていた。しかし様々な理由で上流側が遅れている。では、下流側はどんなつもりで準備していたら良いか?

元々の計画における引渡の予定日は、Plan Dateである。実際に引き渡した実績日は、Actual Dateだ。かりに、Plan Dateは3月31日だったとしよう。現状を見ると、その日に引き渡すのは無理そうだ。だからまだActual Dateは空欄だ。

このときに、プロジェクト・コントロール業務の担当者は、引継ぎの『予測日』Forecast Dateが、4月12日だ、という風に下流側に告げるのである。これは計画でもない。実績でもない。その間にある概念だ。でも、プロジェクト・マネジメントには、これが必要なのである。

ところで面白いことに、サプライチェーンに関係する輸送業界では、よく類似した概念が存在する。海運や航空業界では、船や航空機の発着に関連して、2組・3段階の、合計6個の日付を使う。STD/STA, ETD/ETA, そしてATD/ATAである。

頭文字のS, E, Aはそれぞれ、Scheduled(時刻表上)/Estimated(予定)/Actual(実績)を表す。真ん中のTはTimeで共通、最期のDとAは、Departure(出発)とArrival(到着)の意味である。そして、貨物輸送や旅客輸送の業界では、やはり元々の計画であった時刻表と、過去の現実を表す実績だけでは不便で、業務を回すためにForecast Dateが必要なのである。
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だからプロジェクト・マネジメント用のソフトウェアにも、当然ながらPlan/Forecast/Actualの3種の日時が設定できなければ、役に立たないことになる。

ちなみに、このForecast Dateについて、確か以前書いたはずだよなあ、と思って検索してみたら、2006年の記事「予定と実績の間のミッシング・リンク」 であった。さすが役に立つサイトだ、と自負すべきか、それとも20年近くたってもForecast dateのような重要な概念が普及しないこの社会を嘆くべきなのか、わたしはいささか迷っている(笑)。


<関連エントリ>
「予定と実績の間のミッシング・リンク」 https://brevis.exblog.jp/3008707/ (2006-03-17)
「モダンPMへの誘い 〜 『フロート日数』の意味とは」 https://brevis.exblog.jp/32489713/ (2024-06-16)



by Tomoichi_Sato | 2025-01-25 16:19 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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