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納期問題は生産管理部が解決できるか?(そして『生産統制セミナー』1月22日・大阪のお知らせ)


  • わたしの研修セミナーの特徴について

このところ外部から、研修セミナーの講演を頼まれる機会が増えている。それは当サイトにおける「お知らせ」記事の増加からもお気づきだろう。生産管理、プロジェクト・マネジメント、スマート工場、BOM・・テーマはさまざまだ。そして幸いにも、大勢の方が聞きに来られる。定員が満員になって、アンコールを依頼されることもある。日本の技術者は急に、勉強に熱意を燃やし始めたのだろうか?

ちなみに、例えばわたしが生産管理とか生産統制のセミナーでお話ししているのは、こんな内容だ:まずは、リードタイムと在庫の関係の基本理解。これは納期問題が生産管理の主要テーマだからだ。ついで基準在庫・安全在庫量の計算法。在庫管理にはちゃんと理論があることを知っていただく(こういう事を、そもそも知らない人が多いので驚く)。そして生産形態と在庫ポイントの理解へと進む。

さらに、生産リードタイムの計算演習、生産計画の基本的なサイクルの理解へと(計画と統制は車の両輪なので)進み、生産管理系ITシステムを少し紹介した後、リードタイム短縮の定石を解説する。そして(多くの場合は)トヨタ生産方式がそのままでは合わないことを説明して締めくくる。そして最後に、「本セミナーの参加報告書の雛形」をお見せする。多くの方は会社から派遣されて来ているので、報告がいるだろうから、との親切心(?)である。

わたしのセミナーには特徴が二つある。一つは、特定の業種業態にこだわらず、マクロな観点から問題を捉えるためのアプローチを提供すること。もう一つは、一応定量的な理論がバックにあり(数式はほとんど出さないが)、ITシステム活用につなげやすいことだ。

これはわたしが、製造業出身者でなくエンジニアリング会社の人間だから、かもしれない。仕事柄、いろいろな業界の工場を見たり作ったりしてきている。そしてIT開発プロジェクトにも一応通じている。大手製造業出身者のセミナーは、実務の知見は豊富だろうが、どうしても自分の業界に偏りがちで、かつITに強い人があまり多くないように感じられる(IT部門と実務部門が分業しているからかも)。


  • その業務課題は、受講者が解くべき問題なのか?

だが受講者の方とのQ&Aを通じて、最近いささか感じることがある(わたしは大学みたいな一方通行な講義スタイルが好きではないので、相互対話の時間を極力取る)。それは、「本来はこの人の立場で考えるべきでない問題を、なんとか自分で解決しようとして」セミナーに勉強に来られる方が、少なからずおられる、ということだ。

例を挙げよう。前々回の記事『製造業のトリレンマ・QCDを決めるのは誰か』 にも書いたように、製造業ではコストC・納期D・品質Qは、互いに関係し合ってお互いを制約している。

そしてコストの大勢は設計と調達で決まってしまい、製造段階で改善できることは限られている。だから工場では「納期と品質の戦い」になるのだが、品質の大勢は工程設計と製造部門で決まってしまう。だから生産管理部門は、ごく狭いプレーグラウンドの中で、顧客(≒営業部門)からの納期圧力に抗することになる。

かくして納期問題に悩む生産管理部門の、実務担当レベルの方が、わたしのセミナーを聞きに来られる訳なのだ(技術者ばかりでなく、事務職で採用された女性も結構こられる)。もちろん、各工程にオーダーを手配するのは生産管理の仕事だから、工夫すればリードタイムを改善できる部分は多い。

しかし、「直近の急な割り込み・納期変更が多いので、どうしたら良いか」といった質問がよく出る。その際、自分はまず相手の業種や生産品目を聞き返し、製造リードタイムの概略をつかむ。でも、それより極端に短い期日で変更を受け付けるには、どうしたら良いかとの質問には、「いや、ちょっと待ってください」と言いたくなる。


  • 納期管理にはコストがかかる

生産管理にマジックはない。そんな無理な納期対応のためには、すでに他にやりかけていた手を止めて、割り込みのために製造資源を割かなくてはならない。

「それには余計なコストがかかりますよね。御社はそのコストを、顧客にチャージして上手に回収できるのですか?」という質問が、喉元まで出るのだが、いつも我慢して止めなければならない。その質問にYESと答えられるなら、生産管理担当者がわたしのセミナーに、勉強に来るはずなど無いからだ。「それは工場が頑張って何とかしろ」と会社に言われるから、仕方なく学びに来ているのだろう。

納期変更にはコストがかかる。短納期にはその分プレミアムがつく。これは、QCDのトリレンマを理解していたら、当たり前の原則だ。したがって、短納期を武器にしたり、急な割り込みをあえて受け取って受注したりすることで、その分を価格に転化して利益を上げている会社を、わたしも数社は知っている。それは一種のすぐれた戦略であり、経営判断である。

だが大多数の製造業では、そうではない。コストも品質も決まった上で、納期だけなんとか無理をしろ、と現場は上から言われる。上というのは工場の責任者かもしれないし、強い営業部門、あるいは経営者からかもしれない。それが誰でもいい。その誰かは、QCDのトリレンマ原則も知らないで、納期問題だけを担当者に押しつけているのだ。


  • 原理原則とルールの力を理解しよう

ちなみに生産計画の分野では、『タイム・フェンス』という大事な概念がある。これには二種類あって、

  • 需要タイム・フェンス:これ以上、需要の変動・割り込みを許さない確定需要の期間

  • クリティカル・タイム・フェンス:すでに生産オーダーが発行済みで資材も手配中のため、一定の制約のもとでのみ変更を受け付ける期間(通常は需要タイム・フェンスよりも長くとる)

と定義されている。製造業が自社のコストや利益を守りたかったら、この2種類について、生産側と販売側が合意してルールを決めるべきなのだ、本当は。そして、そういうルールや仕組みを決めるのは経営層なり上級管理職の仕事である。

でも多くの企業では、現実にはそうなっていない。というか、そういう原則自体を上位の人たちが知らない。知らないまま、問題を実務層に片付けさせている。タイム・フェンスの説明など、拙著『革新的生産スケジューリング入門』 に、24年も前に書いたことで、何を今さら、なのだが。


  • マネジメントの欠落を現場がカバーする、日本の病

無論、彼らにも言い分はあろう。代表的なのは「お客が認めないから」である。なぜ認めないのか。それは調達部門が、納期変更にはコストがかかると認識していないからだ。

日本の(大企業の)製造業の調達部門に、いろいろと問題があるのは事実だろう。本当は調達部門の人ほど、ちゃんと生産管理を知らなければならない。だが、では自社の調達部門には、生産管理を勉強させているだろうか。お客から無理な納期変更があったからと言って、後ろを向いて部品サプライヤーに無理な納期変更を要求しているなら、自分も同じ問題を再生産しているだけではないか。

戦略が欠落しているのに、戦術でなんとか頑張ろうとしている。日本の共通の病が、これだ。経営者が決めない問題を、現場で解決しようとする。発注者に思慮が足りない問題を、下請けがなんとか受け止めようとする。これでは「兵隊は勇敢だが、将軍は無能だ」と敵国に揶揄された、どこかの国の軍隊と同じではないか。

でも、話を戻そう。わたしのセミナーに、何か特徴があるとすれば、マクロな視点から、問題構造を理解できるようになる点だ。「着眼大局、着手小局」という格言があるが、大きな問題理解の上で、自分の裁量範囲でできることを考える。それがまあ、組織人として生きる道だ。

実際、拙著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』や『革新的生産スケジューリング入門』 などで紹介してきたケース例などでも、本来は上位マネジメントが整理すべき問題を理解した上で、実務でどう動くかを書いてきた。現実はもちろん、本の物語よりも複雑だが、それでも動くべき大きな方向性を知れば気持ちの助けにはなるだろう。


お知らせ:生産統制セミナーを来年1月22日に大阪で開催します

ということで、お知らせです。今回はリアル開催ですので、より密度が高く理解の深まるセミナーにするつもりです。関西圏の方、ぜひご参加下さい。

<記>

日時: 2025年1月22日(水) 9:45~16:45

テーマ: 納期遅れを起こさない 生産統制のポイント

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会

会場: 大阪府工業協会 研修室

セミナー詳細・申込み: 下記Webサイトをご参照ください


佐藤知一


<関連エントリ>
「製造業のトリレンマ・QCDを決めるのは誰か」https://brevis.exblog.jp/33340696/ (2024-11-19)


by Tomoichi_Sato | 2024-12-10 14:36 | サプライチェーン | Comments(0)
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