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BOMのレベルとは何か

  • BOM用語はなぜ分かりにくいか

BOMの用語はややこしい。BOM(Bill of Material=部品表)の概念自体はもう、50年以上もの歴史がある。その間に、いろいろな用語・概念が確立し、徐々に変遷してきた。またBOMをめぐるソフトウェア業界にもいろんな技術進化と流行があり、大手ベンダーが差別化のために提唱した用語が、いつの間にかスタンダードみたいに普及していくこともある。

近年では、BOP(Bill of Processes)という用語がそうだ。このBOP概念はここ10年くらいに普及してきたものだが、実はまだ発展段階で、きちんと定まっていない。同一企業内でも異なる意味で使っていたりする。ちなみに2004年に発刊した拙著「BOM/部品表入門」では、BOPという言葉は取り上げなかった(ほとんど使われていなかったのだ)。しかし最近のBOMのセミナー等では、かならず説明する必要がある。

ちなみに、ERP(Enterprise Resource Planning)という用語だって、ある意味その一例だ。これは元々、MRP(Manufacturing Resource Planning)=製造資源計画という、生産管理用語からきている。これは部品・資材をはじめ、機械設備、人員、そして資金など、製造活動に必要な資源(Resource)を包括的に計画する活動を指す。その中心にあるのが、製品とその部品表BOMデータだった。80年代後半頃の話だ。

ところで、そこにドイツのSAPという会社が現れ、財務と管理会計を中核にして、企業内のあらゆる活動(部門間取引)データを集約するパッケージを考えた。彼らは、企業の財務部門が原価をベースに、すべての経営資源を計画するのが理想だと考えた(らしい)。そして、MRPをもじってERPなる造語をつくったのである。だがSAP社がメジャーになるに従い、ERP概念も通用範囲が広まり、今では世のはじめからある一般概念みたいな顔をしている。


  • BOMのシングルレベル表現とは

話を戻そう。BOM概念は、MRP(Material Requirement Planning)=資材所要量計画という生産管理手法と共に産まれ育ってきた。60年代アメリカでの話である。ここで述べている60年代のMRPと、上で書いた80年代のMRPでは、頭文字は同じだが、単語・概念が違うことに注意してほしい。普通は区別するため、後から出てきた方(製造資源計画)を、"MRP II"とよぶ。

MRPが産まれた当初、コンピュータは大型ホストしか存在せず、言語はアセンブラかCOBOLかFORTRANのみ。RDBなど存在すらしない時代だった。この時代に、ツリー構造のBOMデータを定義した先人達は、相当な苦労をした。

今日のテーマであるBOMのレベルとか、シングルレベル・マルチレベルという表現は、その時代からある考え方である。これには、コンピュータ内部のデータ構造としての側面と、ユーザに見せる表現系としての側面がある。でも分かりやすいように、表現系の話からしよう。

一番初期のBOMは、単純な部品リストだった。つまり製品を構成する部品の表である。親子関係は1段階。BOMの世界では、ツリー構造に表示した際に、上から順にレベル番号をふっていく。建物のように、一番下を1階として、順に上の階に番号を振るのではなく、最上階から下りるように番号を振る。

BOMの最上位にある最終製品を、レベル0とよび、そこから段階に従ってレベル1、レベル2とする(なお、最終製品を1とする流儀もあるが、レベルとは最上位からの距離を示す「距離」だと考えて、0とする方が計算上、何かと便利なので、わたしはこちらを採用している)。


  • 機械組立図の部品表と、シングルレベルBOM

さて、機械製品などでは、設計部門が組立図を作成する。そして通常、製品を構成する部品をリストアップして、図の右とか下に表形式で表示するのが、つねだった。これが設計部品表(E-BOM = Engineering Bill of Material)の原型だ。ちなみに古い時代は、Bill of MaterialをBOMではなく"B/M"と略すことも多かった。この部品表は、親である製品と、子である部品の1段階の親子関係を示す。つまり、機械組立図から導出される部品表は、通常、シングルレベルBOM(サマリー型部品表)になる。

ところで機械モノではしばしば、アッセンブリー品(Assembly item)が用いられる。これは、ある程度独立した機能と内部構造を持つ、パーツのことである。たとえば、駆動用モーターなどがその例だ。同じモーターが、複数製品に用いられたりする。そこで設計部門は普通、アッセンブリー品の組立図を別に作成する。その組立図にも、アッセンブリー品の部品表がつく。これもシングルレベルBOMだ。

BOMのレベルとは何か_e0058447_10452438.png
さて、BOMの重要な用途は、構成管理や資材手配計画である。だから、二つバラバラにあるシングルレベルBOMを結合して、一緒に見たくなる。こうして、マルチレベルBOMが形成されることになる。E-BOMは、このように複数階層のマルチレベルBOMになりうる。

ちなみに、「部品のローレベル・コード」とは、その部品がマルチレベルBOMの、どの階層に現れるかを示す数字である。汎用的な部品は同一製品で複数カ所に使われたりするが、その場合は、一番下の階層を指す。


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  • シングル/マルチレベルと、サマリー型/ストラクチャー型

もしその企業が、部品はすべて外部から購入し、自社では組立しか行わないのなら、これでBOMとして完成である。「BOMとして完成」とは、これで構成管理もできるし、原価企画も可能だし、生産・購買計画と、工場へのオーダー指示にも使えるからだ。つまりBOMの主要な用途に耐えうる、という意味である。

このようなマルチレベルBOM(組立図に表されるシングルレベルBOMを統合したもの)は、設計部門だけで作成できることに注意してほしい。つまり、担当部門別のカテゴリーでいえば、E-BOMなのである。今日の大企業なら、それは何らかの洒落たPDMないしPLMパッケージソフトの中に、データとして構築されるケースも多いだろう。

そして日本の大企業には、部品はサプライヤーに納入させ、自社は組立・検査・出荷だけ、という形態の企業が、案外多い。こういうケースでは、

  E-BOM = M-BOM = P-BOM、

という等式が成り立つ。作成・保守に関わる部門は、製品設計の1部門だけ。ツールはPLMだけ。非常に単純である。大企業の設計部門は、本社にいて予算も持っていることが多い。だからPLMベンダーなどは、「BOMはPLMだけで大丈夫ですよ」などと宣伝することになる。

ただし、ここには外部から購入した材料の、加工などの段階が含まれていない点に注意してほしい。社内で部品加工などの工程をおこなう製造業では、さらに外部購入の原材料まで遡った、中間段階を付け加えて、はじめてBOMがが完成する。少なくとも、生産・購買計画と工場へのオーダー指示には使えない。こうした加工工程や購買に関する情報は、普通は設計部門ではなく製造部門が所掌とするので、担当部門別のカテゴリーでは、製造部品表(M-BOM = Manufacturing BIill of Matrial)になる。

ともあれ、シングルレベルBOMという呼び方自体は、E-BOM、M-BOMなどの種別にかかわらず、用いられる用語である。これは用途や作成部門ではなく、表現の形をしめす概念だからだ。

ところで、シングル/マルチレベルと、サマリー型/ストラクチャー型の区別は、別の概念である事に注意してほしい。たとえば、今でもよく用いられるサマリー型の購買部品表P-BOMは、親の製品に対して、その外部購入の原材料が並ぶ表である。これは1段階の階層しか、もたない。しかしそれは直接の親子関係を示すものではない。

かりに機械製品の原材料に、ステンレス丸棒が書かれていたとしても、それは通常、切断され加工され表面処理などをされた上で、機械部品として組み込まれるからだ。つまりP-BOMというのは、途中の親子関係を全部捨象して、最終製品と一番元の原材料を示しているのである。だから、これはシングルレベルBOMとは呼べない、ということになる。シングルレベルかどうかと、サマリー型かどうかは、厳密に言えば別なのである。

・・などと説明していたら、うーん。例によって、思わず長くなってしまった。データ表現としてのシングルレベルBOMの話は、稿を改めて、また別に書くことにさせてください。


<関連エントリ>
「BOM(部品表)、その第1世代~第2.5世代の変遷を知る」 https://brevis.exblog.jp/32520484/ (2024-06-24)

by Tomoichi_Sato | 2024-10-18 10:58 | サプライチェーン | Comments(0)
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