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研究部会・最終講演『プロジェクト&プログラム・マネジメントの過去・現在・将来』より(1)

このサイトでもお知らせしたとおり、8月19日の最終例会をもって、「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」は活動を終了しました。そのときの、わたしの講演『プロジェクト&プログラム・マネジメントの過去・現在・将来』の最初と最後の部分を、ここに紙上再録してお届けすることにいたします(中間部分はアカデミックなOR的な研究の紹介のため、Blogでは割愛します)。

研究部会に参加された方も、ご都合で参加できなかった方も、あらためて御礼申し上げます。ありがとうございました。

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今日が最終回ということで、若干残念ではありますけれども、まあ13年間、続けてこられたのは皆様のおかげだと思っています。まずは御礼申し上げたいと思います。

スケジューリング学会の下でずっと続けてきた研究部会で、主査はわたし、それから副主査として、静岡大学の八巻直一先生、それから慶応大学の松川弘明先生に、ずっと幹事をお願いしてきました。あと、今日は残念ながら参加できないんですけれども、副幹事として未来生活研究所の串田悠彰さんにご尽力いただいています。

この研究会の目的、もともとやろうとしていたことは、次の3つのことです。ですが、この目的に向かって、ほとんど 1mm も進んでないなという反省があって、この研究部会の形を今のまま続けるのは問題があるかなと思い、最終回にしているのです。

一つ目は:
プロジェクトとその上位概念であるプログラムの価値、スケジュール、リスクなどの客観的な分析と評価手法を工学的に確立する

この「工学的」が大事なんです。主観的に評価するのは簡単です。でもそれを工学的にやりたいと思った訳です。

二つ目は:
それによって組織におけるプロジェクトあるいはプログラムの意思決定に資するとともに、プロジェクト・アナリストという専門職域を構想したい

と考えたわけですが、残念ながらそう願う人は、ほとんどいなかった。少なくともこの国には。これが、13年間やってみた感想です。

三つ目が:
現実のプロジェクト/プログラムの事例検討を行う。それを可能にするクローズドな場をつくる

これはこれで少しは実践し、意義もあったと思うんですけれども、学会というのはオープンが原則なので、学会活動の一部としてやることができない、という矛盾を最初からはらんでました。まあ、ここら辺もプロジェクト・マネジメントの分野に取り組む難しさだとは思っています。

ちなみに、2016年から始めたPM教育のための分科会がありまして、いろんな方に協力いただきながら、仕組みを作り上げました。また、八巻先生には教育を実践する場として、浜松ソフト産業協会と橋渡しいただいて、毎年続けてきました。それは2日間のプログラムとして、八巻先生、串田さん、それからわたしの3人で、実施してきました。

ともあれ今日は、初心に帰って、この研究部会で何ができて、何ができていないのかを振り返りたいと思ってます。

2011年の5月に研究部会の第1回を開催しました。まだ、関東全体が毎日、余震におびえていた時期でした。第1回の研究講演はわたしがやったので、その時のパワポを今日は持ってきました。その主要部分を振り返り、その後のわたし自身の研究の進展を多少ご紹介します。

そして最後に、タイトルは大きく構えちゃいましたけど、今のプロジェクト・マネジメントについての課題、まあマネジメント自体もそうですけど、特にPM研究での課題、ないし必要な部分は何かについて、かなり個人的な意見を入れてお話しさせていただこうと思います。

ところでちょっとだけイントロを。今日は実は、この前に、東京海洋大学でPM講義をしてきました。大学でプロジェクト・マネジメントを教える際に、いつもつかっているクイズ問題があるのです。そこからスタートさせて下さい。

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(注:以下は、当サイトに掲載した『モダンPMへの誘い 〜 この質問の意味が分かりますか? 2024-01-14 と同じ趣旨の説明のため、こちらもご参照いただきたい)

問題プロジェクトが起きたとき、その状況をどう調べるか。皆さんが化学企業の経営者だとしたら、プロマネに何をたずねるべきか。今は21世紀なので、2000年前の始皇帝と同じことを聞いてちゃおかしいんですよね。

皆さんが経営者だったら、部下のプロマネを呼び出して聞くべきことって、実はこういうことなんです。

(1)プロジェクトの『スコープ』はどうなっているのか。WBSを見せろ。
(2)このプロジェクトの『クリティカル・パス』は何か? Activity networkの上で示せ。 主要なリスクは何か?
(3)現在までのPV, AC, そしてEVはいくらか。完成時のCost EACを計算せよ!

少なくともわたしの会社の経営者だったら、言葉遣いは少し違うかもしれないけど、こういうことを聞きますよ。ここに出てくる三つ用語が分かるようになってくれ、っていうのがプロジェクト・マネジメントの大学の講義の目的・狙いです。

それぞれ、WBSはスコープをコントロールする道具であり、クリティカル・パスはスケジュールを予測するためのツールであり、EVMSとはコストのコントロールの仕組みなわけです。これらは最低限、必要条件として、理解してないとモダンPMが分かったとは言えない。

もちろんこれら三つが分かったからといって、プロジェクトを上手くマネージはできないですよ。必要条件であって、十分条件じゃない。でも、少なくとも、ここに出てくることが何か分からない状態では、とてもじゃないけど、ある程度の大きさのプロジェクトを計量的にマネジメントすることはできないわけです。

そのモダンPMの基本概念とは、「大きくて複雑な仕事も、単位となる要素業務、すなわちアクティビティの連鎖によって表現できる」ということです。1950年代のアメリカ人が、この事に初めて気がついたんです。それはデュポンのエンジニアたちでした。この時から、やっとモダンPMが始まった。 ほぼ同時期に、ブーズ・アレン・ハミルトンの人たちも、ポラリスミサイルの開発で、似たような概念に到達するんです。

つまり、紀元前215年から1950年までの、2000年以上の間、人類はプロジェクトって、まるごと一個しか理解できず、このでっかい丸ごとを、どうにかしようとしてきた。 それを、アクティビティと、その論理的な順序関係で表現された、ネットワークだと気がついて、そこからモダンPMが始まったわけです。

アクティビティの連載によって作られる一過性の仕事が、「プロジェクト」ということなんですね。 だからプロジェクト・マネジメントには、アクティビティ・ネットワークのシステム工学の理解が必要だとこういうことになるわけです。なるんですけれども、話は実はそれだけで済まないんですね。

というのは、プロジェクトにはいろいろなネイチャー(性質)があるからです。システム工学の立場から言うと、システムはどれぐらいの規模・スケールなのかが大事です。またもう一つは、そのシステムのいわば構造、ないしシステムのドライバー(駆動力)がどこにあるのかが、大事になります。

それをプロジェクト・マネジメントに当てはめると、こういうチャートになる。

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縦軸は規模を表します。上に行くほど大きく、下は小さい。ただし異なる分野のプロジェクトの規模を、お金で比較することは難しいので、ここでは技術分野が単一に近い均質なものか、多数の分野の技術が変わるか、と書いてます。


横軸は何かというと、右側にあるのは自発型のプロジェクトです。つまり、スコープは自分で決めることができる。 自分がイニシエートできるプロジェクトです。そして左側にあるのは受注型です。わたしの勤務先、日揮みたいなエンジニアリング会社がやってるプロジェクトは、ほとんど全部これです。受注型では、スコープはお客さんが決めるっていうタイプです。


そして、この4象限のどこにあるかによって、実はプロジェクト・マネジメントに必要とされるものが変わってくるんですよね。


この右下の小型プロジェクトは、単一分野で自発型のプロジェクトです。こういう種類は、端的に言って、管理技術ぬきで、リーダーシップと気合いで、なんとか行けちゃうんです。


これが受注型になって、スコープ制約が厳しくなると、基礎的なプロジェクト・マネジメント技術が必要になってきます。


さらに、これが大型になると、専門的プロジェクト・マネジメントの技術が必要になります。そして上の右側になると、もうプログラム・マネジメントの領域になるんです。


たとえるならば、左上はオーケストラであって、いろんな専門の人たちがいて、プロジェクトマネージャーという名前の指揮者のもとに、タクトに合わせて動いてる。じゃあ右下はどうかっていうと、ジャズバンドで、指揮者がいなくても、お互いのインタープレイで動いていける。


プロジェクト・マネジメントを議論する時に、もう一つ注意しなきゃいけないのは、リーダーシップとマネジメントの区別ということです。これも経営学の世界では、いろんな流儀の定義があるんですけど、とりあえずここではこういうふうに整理しています。


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マネジメントって何かっていうと、それは他人に働いてもらって目的を達することです。つまり、スポーツでいえばチームの監督の仕事です。監督は自分でバット振ったりしないですよね。指示を出すだけです。かつ、英語のマネージって、どっちかというと、御しがたい対象をなんとか乗りこなすみたいな、暴れ馬を乗りこなすイメージです。


またマネジメントってのは、普通は強制力を持ってるんですよ。いうことを聞かないと、どうなるかわかってるだろうな。こういうことを言える強制力です。 そして一番の特徴は、これです。マネジメント・システム化ができる。皆さんの会社にもクオリティ・マネジメント・システムとか、なんとかマネジメントシステムって、いろいろおありになるでしょう。システム化できるんです。


これに対して、リー ダーシップって何かというと、スポーツチームのキャプテンの役割みたいなもので、対等な仲間を動かしていくことです。 だから、マネジメントとリーダーシップの両者は、人を動かす力というところが、共通してるんです。


でもリーダーシップってのはどちらかというと、自分が強制力を持たない相手を動かすことに普通は使うので、その時には影響力を使うしかない。 かつリーダーシップっていうのは、普通は属人的で、システム化できません。リーダーシップ・システムなんて、聞いたことないでしょ?


今ここで議論したいのは、プロジェクト・マネジメントです。それは特に、図の左側の、リーダーシップと重ならない、非属人的なマネジメント技術の領域です。そして技術を開発するためには、工学的研究が必要だということで、この研究部会を始めたんですよ。 今から13年前です。


ここからしばらくですね、この13年前の研究について、少しご説明しようと思います・・


(→この項続く。ただし研究の部分の説明は省略し、次は課題と展望の部分のお話をご紹介します)


<関連エントリ>

『モダンPMへの誘い 〜 この質問の意味が分かりますか?』 https://brevis.exblog.jp/30687052/ (2024-01-14)




by Tomoichi_Sato | 2024-08-26 00:54 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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