本サイトでもすでにお知らせしたとおり、小生が幹事を務める(財)エンジニアリング協会の『次世代スマート工場のエンジニアリング研究会』では、先月、MES導入のための標準テンプレートを策定し、パブリックコメント版として公開しています(入手先のURLはこちらです→https://www.enaa.or.jp/research/smart/mes ) この標準化活動は、研究会の有志メンバーが、手弁当で活動して作り上げた成果です。でも、なぜこのようなプロジェクトを立ち上げたかというと、実は「製造とITに両方通じた専門家が、この国には払底している」という、共通の問題意識があったからです。 スマート工場にはMES/MOMの導入が必須である、という事は、当サイトでも何度か訴えてきました(たとえば、「スマート・ファクトリーとはMESを活用する工場である」 https://brevis.exblog.jp/30503581/ 2023-12-02 参照)。 もちろん、スマート製造はデジタルだけで達成できる訳ではありません。どんなに立派なITシステムが動いていても、その工場が鉄骨スレート・外気解放で、夏暑く冬寒い建屋だったら、誰がそこで働きたいと思うでしょうか? 重い部品や金型を手で抱えて、あちこちレールをまたいで歩かなければならないとしたら、そんな工場はスマートでしょうか? 「スマート工場とは、そこを見た人は誰もが、ぜひ働いてみたいと感じる工場だ」と繰返し述べてきたのは、そのためです。 でも話を戻しますが、加工や搬送がどんなに自動化されていても、毎朝現場にExcelの日程表が配られ、品質履歴は紙の台帳をいくつもひっくり返さないとトレースできないようでは、やはり「スマート」ではありませんね。 そして問題なのは、このようにハードとソフトと、運用マネジメントとをバランスさせて、自社にとって現実的なビジョン・姿を描ける人間は、どこにいるのか、なのです。見渡したって、自社には居なさそうだ、と。じゃあ外部、頼りになる専門家は大勢いますか? 3月に、ドイツのミュンヘンで開かれた「スマート製造エクセレンス・サミット」という会議に参加し、同時にBMWの最新の電気自動車工場を見学してきました。欧州は不況だと報道されていますが、カンファレンス自体はレベルが高く、盛況でした。発表者の多くは製造業の当事者です。ただITベンダーとコンサルタントも適度に交じり、バランスのとれた意見交換ができていました。 うらやましいと思ったのは、製造業のユーザと、IT業界のエンジニアと、コンサルタント達の間で話がちゃんとかみ合って、距離感が近いと感じられたことです。残念ながら、わたし達の社会では、現業の人はITにうとく、SEさんたちは現場に関心が無く、コンサルタント達は製造業をよく知らない――という例を、たくさん見てきました。 製造業務とITシステムの両方が分かる専門家が、足りない。社内にいなければ、外部に(つまりコンサルに)求めるのが普通です。しかしある意味で日本の製造業をとりまくコンサルタント業界は、二極分化しています。一方には、経営戦略コンサルティング会社があり、とくに外資系や有名どころとなれば、かなりの費用がかかります。この人たちは、戦略やITには詳しい。ところが製造の現実をよく知らない。 他方、個人ベースのコンサルタントも大勢います。わたし自身も一応、中小企業診断士ですが、多くは企業OBで、製造業出身者も多い。こういう個人コンサルの人たちは、現場改善などのアドバイスには強いのですが、ITには弱い人が少なくない。 なぜこのように二極分化したかというと、理由は簡単です。ほとんどの工場は、コンサルティングに払う予算をあまり持っていないためです。直接資材の予算はあります。機械購入の予算だって、まあ、もっている。でも業務コンサルティングの予算はない。なぜなら、工場はコストセンターであり、業務カイゼンは自分の仕事だから、という訳です。そこに潤沢な予算がないのだから、大手コンサルも寄りつかない。 大手に払う予算をもっているのは、本社です。だから大手コンサルは本社の経営企画やら、商品開発・設計など「プロフィットセンター」の仕事を手伝い、工場に出入りするのは現場改善の個人コンサル、という分極化が起きているのです。この図式の中で、「ERP-PLM-MESの連携」だとか、「工場内サプライチェーンとM-BOMの再構築」とか、あるいは「MESと自動搬送設備の連動」といった、今日的なスマート化の課題について、アドバイスできる人が大勢出てくる訳はありません。 だったらどうしたら良いか。そのためには、やはり自分で製造とITの根幹を理解し、問題解決ができる能力を身につけるしかないのです。そういうトレーニングをしてくれるセミナーは、世の中に殆どありません。われらが『次世代スマート工場』研究会は、そのための1日コースを提供できる、希少な組織であると自負しています。 ちなみに、我々の1日セミナーは、製造業の実務家だけでなく、まさに上記のようなギャップ問題に直面している、コンサルタントやITエンジニアの方にも、十分役立つ内容となっています。製造業とはどういう情報の流れで成り立っている仕組みなのか、生産マネジメントとはどういうレイヤーの仕事なのか。これを論理的に、かつIT的なアーキテクチャの中で説明するコースは、日本では珍しいと思います。なぜこれが可能かというと、今回の主な講師が、製造業に特化した中堅コンサルティング企業とか、工場作りに携わるエンジニアリング会社のメンバーだからです。 ということで、宣伝文句を並べる形に聞こえたかもしれませんが、多くの方のご来聴をお待ちしております。受講すると、PM系の資格のための認定単位も得られます。しかも財団法人の主催ということで、格安です。こうした取り組みにより、欧米に負けない「スマートな」人財の育成を通じて製造業に貢献したいと、わたし達は願っております。 <記> 第4回SP-T1「スマート工場 構想企画人材 育成セミナー」 日時: 2024年7月31日(水) 09:30 ~ 17:15 事前登録制 会場受講:24名 オンライン聴講:30名 講演者と内容:(敬称略)
セミナー詳細: 下記をご参照ください <関連エントリ> 「スマート・ファクトリーとはMESを活用する工場である」 https://brevis.exblog.jp/30503581/ (2023-12-02)
by Tomoichi_Sato
| 2024-07-14 00:51
| 工場計画論
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