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モダンPMへの誘い 〜 『フロート日数』の意味とは

  • 余裕日数の意味を考える

前回の記事「モダンPMへの誘い 〜 計画のSカーブは、実は2本あり得る」 (2024-05-24)では、タイトルの通り、プロジェクト計画には最早ケースと最遅ケースの二つがありうることを説明した。より正確に言うと、最早と最遅の2ケースは理屈上可能な両極端を表しており、実際はその中間帯に、いくらでもバリエーションを取ることができる(ただし実務上は、たいがい最早ケースで計画を設定してしまう。そのよしあしについては後で論じよう)。

ところで、なぜ計画にこのような幅が生じるのか。それは、プロジェクトを構成するActivityの中に、余裕日数を持つものがあるからだ。前回の例で言えば、それは「ハード選定」と「ハード納品」の2つで、どちらも10日の余裕日数があった。というのも、並列して遂行している「詳細設計」「ソフト開発」の2つの方が、トータルで余計に日数がかかるからだった。まあ、IT開発系のプロジェクトではよく見られることだが。

この余裕日数について、もっとわかりやすい例を考えてみよう。たとえば、あなたは月曜日の朝、上司から急に、「○○の件のレポートを今週中に作ってくれ」と命じられた。内容は、書くのに丸3日くらいかかりそうな、ごっついレポートだ。ほかにも仕事はあるのに、参ったなあ。しかし、命じられたからには仕方がない。

今は月曜日の朝一番である。提出期限は、金曜日の夕方だ。レポート作成には、丸3日かかる。やろうと思えば、今すぐ着手することもできる。この、最も早く着手できるタイミングのことを、『最早開始日』という。英語ではEarliest Startと呼び、頭文字を取ってESと略す。

そして今すぐ着手して、脇目も振らずにレポート作成に邁進すれば、最早で水曜日の夕方には完成できる。この、最も早く完了できるタイミングを、『最早終了日』Earliest Finish(略称EF)と呼ぶ。

でも、逆の考え方をすることもできる。つまり、遅くても金曜日の夕方にレポートができていれば良い訳だよね? これを『最遅終了日』といい、英語はLatest Finish(略称LF)である。そして、そのためには、まあ、ぎりぎり水曜日の朝、着手すれば間に合う。これを『最遅開始日』Latest Start(略称LS)という。図にすればこんな感じだ。
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図の実線は、レポート作成に従事している作業時間を示す。そして点線が、各ケースにおける余裕日数を示しているのである。それは、どちらも2日間だ。


  • あらゆるActivityは4種類の日付を持つ

このようにスケジューリング理論では、どんなActivityも4種類の日付を持つ、と考える。

最早開始日 Earliest Start = ES
最遅開始日 Latest Start = LS
最早終了日 Earliest Finish = EF
最遅終了日 Latest Finish = LF

そして、このケースでは、最早開始日ESと最遅開始日LSの間に、2日間の差がある。これが、レポート作成作業の余裕日数を示すのである:

余裕日数 = 最遅開始日LS — 最早開始日ES

この余裕日数のことを、スケジューリングの専門用語では『フロート』Float と呼ぶ。なぜこう呼ぶのかは、よく知らない。ただガントチャートなどを描いていると、余裕日数を持つActivityは、最早開始日と最遅開始日の間を自由に動かせて、<浮遊している>感じがあるからかもしれない。

余裕日数=フロートがN日あるとは、どういう意味か。それは、Activityの開始日を、最早開始日から最大N日間まで遅らせても(=最遅開始日までずらしても)、全体納期には影響しない事を示す。


  • Total FloatとFree Float

なお、厳密に言うと、フロート日数には、"Total Float"と"Free Float"の2種類がある。たとえば最初の例に戻ると、「ハード選定」Activityは、10日遅らせても、後続の「ハード納品」も同様に10日ずれるならば、プロジェクト全体納期には影響がない。

ところが、担当者の思惑や何らかの都合で、後続の「ハード納品」の開始日は、4日しか後ろにずらしたくない、となったら、どうだろうか? その場合、「ハード選定」も4日しか、遅らせられないことになる。

そのActivityの開始日を、後続のActivityの予定に影響しない範囲で、どれだけ遅らせられるかを示す余裕日数を、Free Floatと呼ぶ。この例では、つまり4日だ。それに対して、後続のActivity(複数あるかもしれない)も全部、最大限遅らせた場合、何日までずらせることが可能かを示す余裕日数を、Total Floatと呼ぶ。

ちなみに、Activityのつながりの図を作った際に、複数のActivityが直列につながるだけで、途中に分岐も合流もないような経路上にある場合、それらは同じTotal Floatの値を持つ。だから「ハード選定」と「ハード納品」のTotal Floatは、同じ10日なのだ。

まあ、後続の「ハード納品」を4日しか遅らせたくない、というケースを今しがた考えたが、これは多分、「できれば」という希望であって、「どうしても」という制約ではあるまい。もしもこれが必須の制約条件ならば(たとえば調達先メーカーがお盆休みに入るため受注受付期限がある、などの場合)、そもそも「ハード納品」の最遅開始日は35日ではなく29日だった訳で、そうすると先行する「ハード選定」も「ハード納品」も、Total Floatは10日ではなく4日であることになる。このように計画立案の実務では、Free Floatを問題にするケースはあまりなく、ほぼTotal Floatだけを注視するといってもいい。

そして計画全体を、早め早めの最早開始日ベースで作るアプローチを、『フォワード・スケジューリング』と呼び、逆にギリギリ間に合うタイミングの最遅開始日ベースで考えるのを、『バックワード・スケジューリング』と呼ぶ。次回は、この二つのアプローチを統合すると、何が見えてくるかを説明しよう。


<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い 〜 計画のSカーブは、実は2本あり得る」https://brevis.exblog.jp/31379110/ (2024-05-24)



by Tomoichi_Sato | 2024-06-16 22:21 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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