お知らせです(この頃、お知らせが続いてますが、イベントってなぜか重なる時は重なるんですよね)。 じつは昨年の秋から、自分が幹事を務める(財)エンジニアリング協会「次世代スマート工場のエンジニアリング」研究会で、MESの業務標準機能に関するプロジェクトを始めました。この活動が、幸いにもこの6月に経済産業省から出たばかりの『ものづくり白書』 に紹介されました。また今月開催されるダッソー・システムズ社のプライベート・セミナーでも、お話しする予定です。 この活動を始めたきっかけは、近年MESが注目されると共に、「MESの標準11機能」というリストがネット等でかなり出回るようになった事です。この11機能については、かつて当サイトでも批評したことがありますが、日本の製造業の現場から見て、決してわかりやすいものではありません。 理由は、業務プロセス中心ではなく、ITシステム目線での機能リストになっていること、ディスクリート系とプロセス系が一緒に扱われていること、ISA/IECのS95標準とも合致していないこと、などです。元々、90年代に米国のMESA Internationalが制定したという経緯もあり、上位系にERPが動いており、それと連係するのを前提としている点も、多くの日本企業の実情とは異なっているでしょう。 しかし、自社工場にMES導入を検討したい製造業のエンジニアの中には、この「MESの標準11機能」をベースに、将来構想を考えようとされる方が、しばしば見受けられます。あいにく、わたし達の社会では、MESシステムに詳しいコンサルタントや学者がほとど存在せず、製造業に出入りするIT業界のSIerの多くも、じつは現場にあまり明るくありません。他に頼るべき情報もあまりないため、当事者としてはこの機能リストに頼らざるを得ないのかもしれません。 まあそれだけならまだしも、製造業をクライアントとするコンサルタント業者の中には、MES導入を相談されると、ちょこっとネットで調べて「標準11機能」を見つけ、それをベースにRFPを作成して提出する人たちもいるようです。こういう類いのRPFを受け取ったMESベンダーこそ良い迷惑。皆、頭を抱えて、「この顧客は一体何をしたいんだ!?」と困惑する事態が、しばしば出現するのです。 こうした状況を打開しよう、日本の製造現場の実情に合った、新しい標準的な枠組みを作ろう。そう考えて、わたし達の研究会では昨年秋に、約30名の有志によるプロジェクト・チームを立ち上げました(これは純粋に技術者によるボランタリーな活動で、公的支援も、スポンサー企業も、一切ありません)。 わたし達が目指したのは、製造業の担当者がMES導入の構想を作り、RFPを作成するのに役立つ、標準テンプレートづくりです。そのために、ITシステム視点ではなく、業務プロセスの視点から、工場におけるオペレーションを洗い出し、リストアップする方法をとりました。つまり、日本の工場におけるAs-Is業務のカタログ作りです。 まず工場の業務を、おおきく12種類に分類しました。「製造」「品質管理」を中心として、「生産管理」「設計」「生産技術」「保全」「物流/在庫管理」「環境/HSE」「品質保証」「従業員」、そして「購買/資材」「工場経理」の12です。最後の二つは本社機能とされる(かつERPでカバーされる)場合も多いのですが、製造と密接な関係があるため、あえて加えてあります。 その上で、ものづくりに関わる単位的業務を洗い出したところ、約500種類のオペレーションのリストができました。たとえば、『製造指図書発行』『着手順割り付け(ディスパッチング)』『治工具払出指示』『部材投入』『ピッキング』等々、現場での直接業務も、それを支える各種間接も含みます。 とはいえ、工場業務は業種により多種多様です。わたし達は、日本で一番数が多いと思われる、組立加工系(ディスクリート型)の工場を想定しましたが、他の業種への目配りもしつつ、最大公約数を抽出したつもりです。 こうして洗い出した約500の業務オペレーションを、Excel表形式でカタログ化しました。それぞれの業務の簡単な説明に加え、MES/MOMシステム化の対象とすべきかどうかの判断(我々研究会の推奨を○×△で表示しました)、代替可能なシステム名(ERP/PLM等)と、インテグレーション対象のデータなどを詳述しています。 この表を元に、ユーザ企業が自社の望むTo-Be業務像を整理し、MES/MOMで実現すべき機能のスコープ(星取表)を編集作成して、RFPに添付する活用形態を想定しています。 無論これは一種のカタログですので、すべてを完璧にカバーしていると主張するつもりは、ありません。また、ある業務オペレーションが、製造に分類されるのか、それとも生産管理や生産技術に分類されるのかは、企業によりけりでしょう。大事なのは分類軸ではなく、重要な業務がカバーされていることです。 本資料は(一財)エンジニアリング協会のHPから無償でダウンロード可能とします(案内はこちらのページにリンクがあり、資料配付作業を開始しまs)。 なお、本資料は約8ヶ月間の検討議論を経て作成したものですが、無論ブラッシュアップすべき点も多々ありますので、一種の『パブリック・コメント版』として位置づけています。多くの方にご清覧いただいた上で、コメントを頂戴できれば幸いです。 ありがたいことに、この活動は経済産業省にも注目いただき、5月31日に発刊した本年度の『ものづくり白書』で、コラムとして紹介されました(第1部第5章・P.227)。白書は、経産省の下記HPから無償でダウンロード可能です。わたし自身の名前はありませんが、でも写真にはちゃっかり登場しています(笑)。 加えて、6月21日(金)夕刻に『3DEXPERIENCE Conference Japan 2024』と同日開催されるダッソー・システムズ株式会社DELMIAブランドのユーザー会『DELMIA Community Summit Japan 2024』にて、下記の講演を行います。 演題:「スマートなシステムとしての工場を作る」 (日揮ホールディングス株式会社 - 佐藤 知一) 概要:演者は’21年に、ダッソー・システムズと日揮の共同Webセミナーで「システムとしての工場を作る」という講演をした。それから3年、日本のスマート工場作りは大きく先に進んだろうか? 我々が(財)エンジ協会「次世代スマート工場」研究会で行った調査では、確かにMES/MOMの普及は進みつつあるが、構想・要件策定に悩む企業も多い。本講演では製造業における情報・データの流れと神経系のあり方からはじめて、MESの新標準機能定義の試み、MESが可能にする新しい工場ハードの姿などについて論じたい。 場所:ANAインターコンチネンタルホテル東京 RoomF 時間:17:00 - 18:00 申込み方法:本講演は『3DEXPERIENCE Conference Japan 2024』に参加の方が受講いただけます。直接会場(RoomF)までお越しください。ご参加にあたっては『3DEXPERIENCE Conference Japan 2024』への登録が必要となります。 以上、本活動の成果に、大勢の方が関心を持っていただけることを願っております。 佐藤知一@日揮ホールディングス(株) <関連エントリ> 「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (2) MESの機能と階層を理解する」https://brevis.exblog.jp/26007261/ (2017-08-27)
by Tomoichi_Sato
| 2024-06-06 19:24
| サプライチェーン
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