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モダンPMへの誘い 〜 EVMSというツールの「使用上の注意」

さて。すでに数回に渡り、Earned Value Management Systemについて書いてきたので、読者の皆さんも、そろそろ飽きてきた頃かもしれない(笑)。

でも本当は、これから以下に書くことを述べたいがために、その前説としてEVMSの基礎について解説してきたのである。ということで、あと1回だけおつきあい願いたい。

すでに述べたように、EVMSはロジカルで素晴らしい、プロジェクト・コントロールの手法である。ただ、現実に適用するには、重大な課題をかかえているとも思える。課題は、わたしの見るところ、大きく三つある。

まず第一に、予算 Budget が明確なプロジェクトでなければ利用できないことである。これは自明だと思う。スコープが契約で明確に規定された『XX構築プロジェクト』を、一括請負で率いているときは、EVに何の曇りもない。

しかし、あなたが仮に某化学会社の研究所で、これから何年かかるか判らない新型アンモニア合成プロセスの開発プロジェクトをやっているとしたら、どうだろう?。あるいは、本社で『意識改革プロジェクト』なる漠然としたテーマを、総務本部長から与えられたら、どうするか?

世の中の多くのプロジェクトは、最初はスコープを定義するフェーズからスタートする。そして、このフェーズだけで数ヶ月とか、ときには1年以上もかかる。エンジ会社だとかSIerといった業種は、すでにスコープがかなり確定したプロジェクトをビジネスの対象としているが、その前の、もやもやした段階は、顧客(プロジェクトの投資主体)がさばいているのだ。

そして、このスコープ定義の間はずっと、EVMSは進捗報告において、無力である。だって、どこまで行ったら終わりか、よくわからないのだから。

第二の問題点は外部調達コストに関わる点で、もう少しやっかいかもしれない。前回記事『モダンPMへの誘い 〜 EVMSでは、いつ費用を計上すべきか』でも論じたとおり、実績コストACの計上タイミングを、どこに設定すべきか、という問題だ。コスト発生には、発注時・請求時・支払時の3種類がある。これを費目・WBSごとに個別にバラバラに選んでいたら、計画と実績の対比に意味がなくなってしまう。であるから、できれば統一した基準を決めたい。

そしてハードの購入や一括発注などでは、発注書(PO)を切ったら、もう予算上ではかなり確定である。1億の予算で、8千万のPOを切ったら、あとは2千万しか自由に使える残りはない。だとしたら、予算管理の観点からは、極力早めのタイミングで出費をつかまえるのが、良いように思える。

ところが、実は発注書を切ったあとで、しばしば追加変更とAmendが出る。そんな、生煮えの状態でACを計上すべきなのか? そもそも、調達(ベンダーの製造)というアクティビティはまだ始まったばかりじゃないのか。アクティビティが完了したらEV/ACを計上するって、最初の方の回で書いていたはずだぞ。

その通りである。これは、一括発注で何かを調達する際に出てくる悩みだ。そこで発注時に出費を計上する場合、ETCの変化を予測するツールを別に作って、コントロールして行く必要がでてくるのだ。でも、だとするとEVMSは補足ツールがいるということではないか。

第3の課題は、さらに深刻だ。EVMSでは、全てのアクティビティにコストを配布して積算する。その結果、クリティカル・パス上に乗っているアクティビティも、そうでない雑多なアクティビティも、すべてコスト配分の重みで評価される。

したがって、クリティカル・パスが遅れていても、他の多数のタスクが予定よりも進行していれば、プロジェクト全体は滞りなく進んでいるかのように見えるのである。プロジェクト全体は遅れているのに、どうでもいいアクティビティだけを急がせて、進捗率を稼ぐことができてしまう・・・

EVMSを使う人は、これら問題点を十分理解した上で、賢明な使用法をされるよう望みたい。


<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い 〜 EVMSでは、いつ費用を計上すべきか」 https://brevis.exblog.jp/30869005/ (2024/3/25)


by Tomoichi_Sato | 2024-04-07 23:10 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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