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モダンPMへの誘い 〜 出費が予定を超えなければ大丈夫?

もう10年以上も前のことになるが、ある大手システム・インテグレーターに呼ばれて、そこの有力なプロジェクト・マネージャーさん達の話を聞いたことがある。プロマネさんの1人は、こんな話を切り出した。

PDCAサイクル、なんて言ってもさ、それって大体、絵に描いた餅じゃないか。そもそも最初に計画なんか、ふつう立てないだろ? プロジェクトに飛び込んだら、最初はまず、様子を観察するはずだ。顧客やメンバーに話を聞いて、これまで使った費用とかを確認して、状況を理解する。その上で方針を決めて、やるべきことをやっていく。これが現実のサイクルじゃないか。」

その時は、ふーん、と言う気持ちで聞いていたのだが、後になって、この人はいわゆる「OODAループ」の説明をしていたのだと気がついた。PDCAはPlan, Do, Check, Actionの略だが、OODAはObserve, Orient, Decide, Actの頭文字だ。OODAは「ウーダ」と発音し、米軍発の意思決定手法だが、ここでは詳しい説明を省かせていただく。興味があれば、ネットにいくらでも情報はある。

わたしが、ふーんと思ったのは、感心したからではない。この会社の人たちは、最初に計画を立てないのが当たり前なのかと、驚いたからだ。計画なしに、集団で仕事をしていて、不安にならないのか? 羅針盤も海図も持たずに、一緒に船出して、よく平気でいられるものだ。

それに、有能なプロマネが、途中から急にアサインされると言う状況も、よくわからない。大事なプロジェクトなら、なぜ最初からこの人たちをリーダーに立てないのか。どうやら、優秀なプロマネたちは、しばしば火消し人として、途中からプロジェクトに送りこまれるものらしい。

まぁ、それはこの会社の方針、ないし組織文化なのだろう。よその人間が批評しても、はじまるまい。それに、これだけ立派な規模の会社だ。ならば、プロジェクト計画だって、少なくとも最初に大枠ぐらいは決めているはずだ。そうでなければ、途中でプロジェクトに入り込んで、これまで使った費用を確認したって、予定の金額と比較しないことには、状況判断もできないではないか。

ただし、である。念のため書いておくが、プロジェクトの途中の時点で、それまでに使った実際の出費と、当初想定していた予定の出費と比べて、本当にそのプロジェクトの状況がうまく判断できるだろうか。

モダンPMでは、実績出費の額を、Actual Costの頭文字をとって、ACと略す。また、予定出費の方は、Planned Valueの略でPVと呼ぶ、約束になっている。

ここで問題にしたいのは、
AC < PV
という集計結果が出たとして、それで、「このプロジェクトはうまくいっている」と言う状況判断をして良いかどうか、という問いだ。

ちょっと分かりにくいかもしれないので、図で解説しよう。

横軸は、プロジェクトの開始日から終了日までの時間軸だ。縦軸は、出費の金額を表す。点線は、プロジェクト計画に基づく、ベースライン(予定)の線である。どんなプロジェクトも最初はゆっくり立ち上がり、途中から活況に入る。

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たとえばSI系プロジェクトの場合、初期は要件定義や基本設計業務で人数も少ないが、実装からテストフェーズに移るに従い、関わる人数も増え、協力会社の仕事も多くなるし、ハードの出費もあるだろうから、出費の金額が増えていく。

しかしテストも終盤に差し掛かり移行作業に移る頃は、しだいに出費もなだらかに戻る。かくて予定出費の線は、全体がローマ字のSに見えるので、「Sカーブ」と呼ばれる。大手企業なら、そのS字の線のパターンだって、標準的に持っているかもしれない。

さて、プロジェクトが始まって、実際の出費を集計してプロットしてみたら、図の青い実線のようになったとする。これを見ると、実績出費は計画線を下回っている。だとしたら、このプロジェクトはうまく進んでいると考えていいだろうか?

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この質問を大学の講義ですると、院生たちは慎重で微妙な答え方をする。予定より実績が小さいのだから、なんだか自明に見えるのに、講師は意地悪だから引っかけがあるのだと勘ぐるようだ(笑)。で、あえて「いや、うまく進んでいないと思います」などと答えてきたりする。たとえば青線の最近の立ち上がり方が急カーブすぎる、といった理由をつけて。

でも、「うまく進んでいる」も「進んでいない」も、正解ではない。じつは、正解は「分からない」なのだ。なぜ、分からない、が正解なのか? それは、このような状態になる原因が2つ考えられるからだ。すなわち、

(1) 実際にうまくコストをマネージできている
(2) 仕事が予定より遅れているため、出費もまだ小さいままである

そして、この2つのどちらであるのかは、実はこの2本の線だけを眺めても分からないのである。もちろん、個別の出費伝票や個人個人のタイムシートまで戻って分析すれば、把握できるかもしれない。だが、プロジェクト全体のSカーブというマクロな観点からは、判別できない。

もしも読者の皆さんが顧客の発注責任者の立場だったとして、受託側のSIerがこの2本のSカーブで毎月の報告を出してきたら、どう判断するだろうか? あるいは、最初の会社の例のように、プロジェクトの途中からアサインされたプロマネの立場だったら? このプロジェクトの状況の良し悪しは、2本の線をいくら観察したって、ひと目でわからないのだ。

だが、これを一目で判別できるようにする方法がある。ただしそのためには、この図に3本目の線を引く必要があるのだ。少し長くなってきたので、その解説は次回に続く、とさせていただこう。

<関連エントリ>
→「??モダンPMへの誘い ? この質問の意味が分かりますか???」 https://brevis.exblog.jp/30687052/ (2024-01-14)


by Tomoichi_Sato | 2024-01-22 12:29 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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