もうすぐ待ちに待った、年末・年始の冬休み。ということで、今回はビジネスマン必読、というと言い過ぎだろうが、読むと少しは得するかもしれない3冊をご紹介します。冬の夜長のお供にどうぞ。 「サーチ・インサイド・ユアセルフ」 チャディー・メン・タン著 Amazon honto ![]() 「 Googleの陽気な善人」——これが著者チャディー・メン・タンの、名刺に書いてある肩書らしい。 なかなか面白い肩書きではある。 従業員番号が107と言うのだから、同社のかなり初期からのメンバーだったのだろう。そのITの専門家が、なぜ瞑想=マインドフルネスに関する本を書くのか? それはもちろん、瞑想が、理知的な仕事に携わるエンジニアの生産性や心理的安定性に、非常に良い効果をもたらすからだ。 そのことが数値的なデータとして実証されているのでなければ、Googleが会社として取り組むはずはない。 本書のタイトルとなっている「Search inside yourself」(SIY)は、 著者が中心となってGoogleで開発した、マインドフルネスとEQ(情動的知能)の自己育成プログラムだ。 自己の内面をサーチせよとは、いかにも検索エンジンの巨人らしいネーミングではないか。 ちなみにEQとは 心理学者ゴールマンが『EQ こころの知能指数』 で提唱した概念で、Emotional quotientの略だ。Emotionとは感情・情動のことだから、その活用能力を示す指数という意味になる。これは通常の知能指数 IQ (Intelligence quotient)と対比して使われる。 わたし達人間は、実はとても感情的な存在だ。それにもかかわらず、ビジネスは、特にテクノロジーに関わるビジネスは、合理性だけで進められているかのような感覚(錯覚)がある。 実際には仕事は人と人との間で協力しながら進めなければならない。そこに情動の果たす役割は大きい。 ところが、わたし達を内部からつき動かす、この感情・情動に関する「取扱い説明書」に類するものは、なかなかお目にかからない。というのも感情は、押さえ込もうとすると、別の場所から噴出したり、無視しようとすると、かえって注意を奪われたりと、なかなかコントロールしにくい厄介な性質があるからだ(なお、本書ではemotionを感情ではなく情動と訳しているが、ほぼ同義の言葉としてここでは使っておく)。 ではどうしたらいいのか。心を静めて、感情や思考の波が通り過ぎるのをゆっくりと観察し、自然な流れに任せて、余計な心的エネルギーを放出するのである。これを「瞑想」とか「マインドフルネス」と呼んで、一種のプラクティスに発展させたものが本書のテーマだ。 じつは、わたし自身、本書を読む以前から、3年ほどになるが、ほぼ毎日瞑想している。それで何か顕著な効果があったのか、素晴らしいひらめきでも生むようになったのか。実は自分でもよくわからない。あるような、ないような、である。ただ、以前の自分は、かなり怒りやすかったし、感情にしばしば動かされていたのに、自分でそれが見えていなかった。そのことに、自分で少しは気がつけるようになったのかもしれない。 ともあれ、我流のやり方では限界がありそうだ。そこで本書を読んでみることにしたのである。さすが、アメリカのテック企業生まれであるだけに、「サーチ・インサイド・ユアセルフ」は、非常に構造化され、順序だてて身に付くよう出来上がったプログラムである。座って行う瞑想だけではなく、歩く瞑想や、「マインドフルな会話法」など、日常生活で役に立ち、感情的なレジリエンスを高める方法論がたくさん載っている。 「マインドフルネスの練習を積むと、痛みと嫌悪が別個の経験であるのがわかる」(第5章)と著者は書く。これは賢帝マルクス・アウレリウスの言葉「なんであれ外界のものに苦しめられているなら、その痛みは、もの自体のせいではなく、それに対する自分の評価のせいだ。そして、その評価なら、いつでも取り消す力を私たちは持っている。」にぴったり対応している。 また、著者は人間が求める幸福感について、 ・「快楽」 ・「情熱」(フローとも呼ばれる) ・「崇高な目標」(自分より大きくて、自分にとって意味のあることの一部になる) の3種類に分ける。その1番の違いは、持続性の違いだ、との指摘はとても鋭い。 瞑想と言うと、なんとなく宗教がかった、胡散臭いものに感じる人が多いと思う。だが、そうした捉え方は少しずつ変わっている。自分の心に向き合い、自分が制御しがたい感情とうまく付き合い、人との関係性を、よりストレスの少ないものにしていくためにも、ぜひ学ぶべきプラクティスだと思う。 「誰も教えてくれない『SCM計画立案・遵守』の疑問」 本間峰一・著 Amazon honto 良書である。著者の本間峰一氏は昔からの研究会仲間で、知人の本の批評をするのは難しいものだが、本書は安心してお勧めできる。 もともと、本書はPSI計画をテーマにする本として企画されたが、出版社が「SCM」をタイトルに入れたいとの意向で、こうなったらしい。 PSI計画とは、Production(製造)・Sales(販売)・Inventory(在庫)計画の略で、正販在計画ともよばれる。つまり製造業のサプライチェーンを横串に束ねた上位計画のことであるが、あいにく日本では、この用語や概念が、あまり普及していない。その一方で、コロナ禍や半導体問題など、サプライチェーンの混乱はかなり、ビジネス界の頭痛となっている。そこで、こうしたタイトルになったのだろう。 もともと90年代後半に、「サプライチェーン・マネジメント」の概念を、日本に紹介した先駆けの1人が、著者・本間峰一氏であった。1998年に、中村実氏(日本IBM・当時)や、わたし自身との共著で、SCM研究会名義の『サプライチェーン・マネジメントがわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター刊)を上梓した。 しかし、米国発の需要予測や計画系ソフトウェアを中心としたSCMは、2000年の.comバブル崩壊とともにブームが去り、日本ではあまり語られなくなってしまった。「日本にはトヨタ生産方式という、立派なSCM文化がある」との思い込みもあって、海外での動向もあまり紹介されなくなった。 しかし、トヨタを真似た大手企業らが、製品在庫や資材在庫の削減を、強引に追求した結果どうなったか。過去2、3年のサプライチェーンの混乱が、欠品と言う形で製造を直撃することになった。 加えて著者は、販売計画の精度が、以前に比べ、かなり落ちたことを指摘している。その理由は、営業の仕事内容の変化である。第二章「販売計画を過信してはいけない」に詳しく述べられているが、商物分離の進展や、EDIの普及によって、卸売業者や営業マンが販売・物流に関与することが減り、そのため市場の需要に対する感度が、落ちたのである。加えて、大企業が出してくる先行内示の精度の低さ、さらにサプライチェーンのブルウィップ効果(半導体がその典型)等により、需要予測が極めて難しくなった。 加えて著者は、日本の製造業が過度に多品種化してきていることを問題に挙げている。これは極めて重要な指摘だが、このことを言う論者はとても少ない。品種数が増えれば増えるほど、需要の予測は難しくなり、在庫のコントロールも、適切な発注も、困難になる。もちろん、製造における段取り替えや切り替えロスも、顕著に増えていく。この問題に早く気づき、適切な手が打てるかどうかが、実は製造業のパフォーマンスを大きく左右するのである。 本書はさらに、一般的な生産管理システムが、実は日本の製造現場であまり有効に使われていない理由についても、わかりやすく説明している。ここら辺は姉妹篇の「誰も教えてくれない『生産管理システム』の正しい使い方」 のエッセンスを書いており、そういう意味でもお買い得な本である。 トヨタを表面的に真似しただけの、「ジャスト・イン・タイム購買」の問題点については、以前から著者は警鐘を鳴らしてきた。それは要するに在庫リスクを、大手がサプライヤーに押しつけるだけであり、結果としては見えないコスト高と、需給変動への対応能力低下を招く。 SCMのテーマは、「ジャスト・イン・タイム」から「ジャスト・イン・ケース」に移ってきている。それはグローバルなサプライチェーンの、予見不可能性が高まったからである。そこから身を守るためには、バッファーとして在庫を積極的に活用するしかない。そのための道しるべとして、PSI計画を学び、確立するべき時代が来たのである。 「経営改革大全」 名和高司・著 Amazon honto ![]() わたしの信頼する、ある経営者から勧められて、本書を手に取った。読んでみるとたしかに非常に面白く、読み手の思考を刺激する、英語風に言えば“Inspiring”な本だ。 著者の名和高司・一橋大学教授は、元々マッキンゼー出身のコンサルタントである。その著者が、まず経営にまつわる「通説」を紹介し、それを「真説」で掘り下げ、論駁するというスタイルになっている。 その通説がまた、巷間の旧来の経営論よりも1レベル上の、いかにも外資系戦略コンサルタントが言いそうな内容なのである。例えばESG投資を重視せよとか、ワーク・ライフ・バランスの実現が大切だ、とかいった主張だ。 それらを的確に批評しつつ、より高い見地から結論づける所が、本書の真骨頂だろう。上の例で言えば、ESGのG〔ガバナンス〕はまだ他律的だ、もっとパーパス(志)を内在化しなければダメだとか、ワークとライフを切り分けて対置するのではなく、ワーク・イン・ライフの視点を持つべきだ、という。つまり、通常の経営論よりも、2レベル上まで読者を連れていく訳である。 ROEを高めるためには、B/Sに現れない無形資産にもっと投資すべきだ、との議論も説得力がある。また、将来ビジョン策定では、2050年が重要だ、それは世界人口100億人とカーボンニュートラルとAIのシンギュラリティとの交差点だから、との指摘も虚をつかれた思いがする。 ちなみに著者の思想の中核には、センター(中枢)よりもエッジ(周縁)、仮想・デジタルより実物・現場、という発想があり、そこが英米系との違いを際立たせる。本書を読むと、日本で通用している経営思想が、いかに流行りものの輸入品であるか、を感じてしまう。 経営にはサイエンスとアートの二つの要素があると言われる(科学とセンスとも言い換えられる)。だが、コンサルはサイエンスのことを言いたがる。そうすると、どうしても中枢側・仮想側に引き寄せられるので、警鐘を鳴らしているのだと理解した。 加えて、著者・名和教授には、システム・ダイナミクス(SD)の考え方が、発想のベースにあるように感じる。ローマクラブ『成長の限界』はSDに基づいているが、若い頃、SDに関わったと書いておられるので、その時の体験が根底にあるのだろう。 本書は、先人の書物や発言への引用量がすごい点も印象的だ。もっとも、いささか言葉だけが踊っている箇所もあり、特に後半のリベラルアーツ的な内容の部分に、それを感じる。 とはいえ、扱う範囲は広く、視点も高く、経営問題を勉強するにはとても有意義な本である。安心しておすすめする次第である。
by Tomoichi_Sato
| 2023-12-17 00:16
| G 書評
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