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Auto Plot PATHFINDER ~ 多目的最適化エンジンを用いたプラント・レイアウトの自動設計 (1)

(先週9月17日に開催されたスケジューリング学会の年次大会「スケジューリング・シンポジウム2022」で、首記のタイトルの講演発表を行った。発表の共著者は、小生の他に、日揮グローバル(株)の山田祥徳・小糸弘之・嘉山陽一殿、そして香川大学の荒川雅生教授である。

本テーマはプラントのレイアウト設計であって、スケジューリングとは直接関係が無いが、最適化手法の専門家が多く集まる学会のため、あえてこの主題で発表させていただき、おかげで発表後も会場で有益なディスカッションができた。ただ、学会の場はどうしてもアカデミアの方が中心となり、実務者の参加は多くないため、本サイトでも、紙上講演の形で再現させていただくことにした。なお、ご興味がある方は、末尾の学会予稿集論文を参照されたい)

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ただいまご紹介いただきました、日揮ホールディングスの佐藤です。本日はプラントのレイアウト自動設計について、この3年半ばかり取り組んできた成果について発表させていただきます。

化学プラントや石油プラントにおけるレイアウトの設計は、その投資額と操業費用を左右する重要な因子で、ある意味、エンジニアリング会社の競争力の源泉の1つともいえます。しかしレイアウト設計は、数多くの要素を考慮に入れなければならない複雑なプロセスのため、従来は熟練したエンジニアが、数週間かけて、ようやく1つの案を作成することができました。できるなら、複数の案を作成し比較検討して、より良い提案をしたいのですが、そのような時間は多くの場合許されません。

いわゆるプラントの基本設計の手順は、大きく4つの段階からなっています。最初に、プロセス・システム全体の物質収支とエネルギー収支をとって、全体システムとして必要な性能と、機能的な制約条件を満たすように、装置構成と各機能を決めます。この結果は、Process Flow Diagram = PFDと呼ばれる図面に表現されます。

次に、プロセス・システムを構成する各装置の機能要件から、その装置のサイズや段数・材質等の諸元を計算して定めます。その結果は、機器リストと呼ばれるデータベースに格納します。

3番目に来るのが、レイアウト設計のステップです。すなわちPFDと機器リストをもとに、機器群のレイアウト・配置設計を行います。レイアウト設計の結果を表明した平面配置図のことを、プロットプランPlot planと呼びます。

最後に、レイアウト設計の結果を受け、プラント配管の流体力学的な制約、あるいは制御の要求を考慮し、スタートアップやシャットダウン時の必要性なども勘案しながら、プロセスシステムのより詳細な構成と機能を定めます。この結果は、Piping & instrumentation diagram = P&IDとよばれる図面に集約されます。

プロットプランを作成する際は、最初にマクロな視点から制約条件を考えます。具体的には、まず敷地の全体形状が制約になります。また、プラントと外部との取り合いの位置も考慮しなければなりません。例えば、図で言うと製品の出荷は左下のバースから行うとか、原料は南側の隣接するプラントから受け入れる、といった取り合い点です。これを、バッテリーリミットと呼びます。
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また風向きも考慮しなければいけません。図の右上にある「フレア」とは炎を発する装置のため、引火性を考慮し、その下流に置ける装置が限られます。さらに隣地境界との騒音レベルや、離隔距離など、各種の法規に従わなければなりません。そしてまた建設段階において、搬入すべき機器の大きさとその搬入経路についても考慮が必要です。

このマクロな全体レイアウト図の、一つ一つの四角いブロック(一部は不整形ですが)を、通常「ユニット」と呼びます。

レイアウト設計では、各ユニット内のミクロな視点での制約条件もあります。

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例えば個別のユニットのエリアの形状、ユニットの外部との取り合い位置などです。プラントの中は通常、パイプラックと呼ばれる、いわば配管専用の通路が用いられます。このパイプラックに沿って、外から原材料を受け入れたり、出来上がった中間物質を送り出したりします。外にも、高圧ケーブル等の引き込みの場所も考慮しなければなりません。風向きや、機器間の離隔距離にも、同様に制限があります。

さらにオペレーターによるアクセス性や視認性が、操業上大事なポイントになります。加えて、メンテナンスのためのアクセスも必要です。例えば図の下側には熱交換器が並んでいますが、熱交換器は定期修理の際に、中のチューブバンドルを引き出して、洗浄する必要があります。このためチューブの引き抜きスペースを確保しておかなければなりません。他にも、顧客やライセンサーの設計上の規格等も、守る必要があります。

では、そうした数々の制約条件を守って作成した、レイアウトの評価尺度にはどのようなものがあるでしょうか。表には、7つほど代表的なものを挙げています。操作性・保守性・安全性、これら3つは運転と保守のやりやすさを表しますから、操業費用を左右します。

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拡張性も重要な要素です。頭の左下の④番は、将来拡張のためのスペースを確保したエリアです。

そして配管の物量(すなわち配管長と内径の積ですね)、これもプラントの投資額の大きな部分を占めます。上手にレイアウトすると、配管物量をかなり削減することができます。それからパワーケーブルや、計装用ケーブルといったケーブル長。さらに全体の広さなどが評価尺度としてあげられます。

最後の3つの尺度(配管物量・ケーブル長・敷地面積)は、比較的簡単に計算することができる定量尺度です。これに対して、最初に挙げた4つは、どうしても定性的な判断になります。

以上のように、プロットプランの設計とは多目的最適化問題である、と考えられます。

しかも、複数ある評価尺度の間には、あちらを立てればこちらが立たず、といったトレードオフがしばしば生じます。敷地面積を節約しようとして機器を詰め込めば、メンテナンスのためのスペースが取れなくなる。あるいは、配管物量を削減しようとして、太い配管同士で接続された機器を隣接させようとすると、逆にそれ以外の細かな機器が周辺に散らばってスペースが広がってしまう、などです。

多目的最適化ですから、唯一無二の「全体最適」の解はありません。このような問題、本当にコンピューターで解けるのでしょうか?

私たちはこの問題に、以下のようなアプローチで取り組むことにしました。

まず、中核となる配置問題には、多目的最適化手法を用います。定量評価関数については、満足化トレードオフ法に従い、ユーザが希求点を設定し、パレート解(非劣解)を探索します。最適化エンジンは、遺伝子アルゴリズムGAを用いて実装します。

配置問題を解くにあたっては、最初に、敷地内のメイン・パイプラックと、サブ・パイプラックのトポロジー形状を与えることにします。プラントでは、配管の通路となるパイプラックの相対的な位置が、重要だからです。その上で「機器グループ」を、ラックに沿って配置します。

ちなみにプラント全体を、いわゆるユニットに分割するにあたっては、従来、プロセス・エンジニアが、関係の強い機器群をまとめてきました。しかし我々は、従来のユニットよりも、もう少しだけ細かな点「機器グループ」に分割することにしています。これはレイアウト設計における最適化性能を、より上げるための工夫です。機器グループへの分割においては、PFDと機器リストのデータから、グラフ・クラスタリングの計算によって行います。

分割生成された、各機器グループの必要面積を計算するために、私たちは、熟練技術者の暗黙知をEppinger(2016)らのDSM = design structure matrix手法によって形式知化することにしました。実はこの作業だけで一年近くかかったのですが、ともあれ、機器リストから諸元データを与えれば、メンテナンススペースも含めた必要面積を導出するロジックを、ほぼ確立することができました。

これらデータを、多目的最適化エンジンにインプットし、得られた複数の解は、3Dで表示します。プラント用の本格的な3D CADは、かなり重たい仕組みなので、計算結果の3Dモデル表現は、より軽量な3Dツールで実装しました。これを見ながら、ユーザ(技術者)が、定性評価を行います。そして、もし計算結果に不都合や不満な点があれば、例えば「この機器はこの場所に固定すべきだ」といったフィードバックを与えて、最適化エンジンを再度回すようにするのです。

満足化トレードオフ法については、わたしよりもこの学会に集まった皆さんの方がよくご存知かと思います。

中山弘隆らが開発したこの手法は、最初に、希求点を設定します。目的関数に対して、計画者が目標値と考える希求水準を定めるわけです。その上で、重み付最小化問題を解きます。この重みは、計画者が与えた希求点によって計算されます。
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簡単に言うと、エンジニアは、最適化エンジンに対して、がんばって目指すべきゴール地点を最初に与えるわけです。コンピュータは、所与のパイプラックのトポロジー形状を守りながら、遺伝子アルゴリズムGAを回し、そのゴール地点に向かって次第に世代を重ねるごとに前進していきます。もちろん制約条件があるため、どこかに見えない壁があって、そこで前に進めなくなり、計算は打ち切ることになります。この見えない壁のつながった連続したカーブが、多目的最適化問題で言う「パレート境界」を形成するわけです。

わたし達の作り上げた、『Auto Plot PAPTHFINDER』と名付けたレイアウト自動設計のシステム構成は、以下のようになっています:

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(この項つづく


<参考文献>
佐藤・山田・小糸・嘉山・荒川(2022): Auto Plot PATHFINDER - 多目的最適化エンジンを用いたプラント・レイアウトの自動設計, スケジューリング・シンポジウム2022講演論文集, pp.148-151

<本記事に引用した画像の権利はすべて日揮ホールディングス(株)に帰属します。無断転載・引用はご遠慮ください。Auto Plot PAPTHFINDERは日揮グローバル(株)の商標です>

by Tomoichi_Sato | 2022-09-26 08:56 | 工場計画論 | Comments(0)
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