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MES(製造実行システム)を理解したいエンジニアのために 〜 この6編の記事で全体像が必ず分かる

前回もご案内したとおり、来る9月1日(木)に、MES=Manufacturing Execution System(製造実行システム、ないし製造管理システム)に関する、総合的なシンポジウムを開催する。

工場スマート化のための製造実行システム”MES” ― 広がる導入と実例に学ぶ活用方法
 (参加申込み: https://www.enaa.or.jp/seminar/57017

主催は(財)エンジニアリング協会で、わたしが幹事を務める『次世代スマート工場のエンジニアリング研究会」が企画立案している。オンライン形式で、参加無料である。幸いにも、すでに200人を超える申込みをいただいているようだが、まだ受付中なので、興味がある方はぜひご参加いただきたい。

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このシンポジウムは製造業の実務に携わる方を、主な対象として想定して、講演プログラムを依頼してきた。ところで、いまさらだが、これは本当に正しかったのだろうか? というか、想定として十分だったのだろうか、という疑問が頭に浮かんできた。IT業界にいるエンジニア達も、MESシンポジウムの聴衆として考えるべきだったのではないか?

というのも、この種のシステムを構築する仕事は、通常、製造業の中だけで内製することは難しいからだ(よほどの大企業は別として)。当然ながら、外部のITエンジニアの力を借りる必要がある。良く知られているように、わたし達の社会では、ITエンジニアの7割はIT業界にいて、ユーザ企業には3割しかいない。その3割の人員も、殆どは本社にいて、人事・財務・販売そしてITインフラ系などの業務に従事している。

昨年10月に同じ(財)エンジ協会で行った、MESに関する第1回シンポジウムでのアンケート結果を見ても、工場にMES導入をリードする部署が見当たらない、という回答が、製造業からの参加者の81%を占めていた。普通この種の大がかりな、複数部門をまたぐシステムの導入を主導するのは、IT部門と考えられる。いいかえると、製造現場にIT部門がありません、という回答が8割以上、ということだ。

(ちなみに昨年のMESに関するアンケート結果は、今年のシンポジウムでも簡単にご紹介する予定だが、詳細なレポートは経産省のHPから見ることができる。『令和3年度 省エネルギー等に関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費』という、いささかその中身を想像しにくいタイトルの報告書で、後半部分のP.22からアンケート結果が示されている)

工場にIT部門がないから、製造のデジタル化が進まないのか、それとも製造現場にデジタル化のニーズが乏しかったから、工場にIT部門がないのか。卵と鶏のような問題ではある。むろん、会社の規模にもよるだろうが、昨年の参加者は比較的大企業が多かった。だから、やはり製造系のITを引き受けるITエンジニアは、工場側には足りないのだ。

もちろんMESの普及は、IT業界にとっても重要なビジネスチャンスである。ただ、これまで製造現場というのは、IT業界にとって敷居が高かった。まず、業務が複雑で、分かりにくい。それも業界・業種による違いが大きい(人事や財務などは比較的、業種を超えて業務の共通性が高い)。しかも、PLCやらロボットやら、いわゆる制御系とも、お付き合いしなければならない。おまけに、遠い(工場はたいてい大都市ではなく地方にある)。

それはしかし、逆の面を見ると「参入障壁が高い」のだから、早くマーケットに入り込んで橋頭堡を確保してしまえば、過当競争で値下げ合戦、みたいな状況を避けられるはずである。

そこで、もし製造業の外で働くITエンジニアで、この分野に興味がある方がおられたら、ぜひ9月1日のシンポジウムにもご参加いただけたら、と願っている。ただ、そのためには、MES=製造実行システムというものについて、少しは事前に予習ができると良いだろう。

そのために新たな解説記事を起こすことも考えたが、じつは当サイトでは、MESに関する記事を、過去それなりの分量で書いてきた。その中から、MESの位置づけや概要に関するエントリを6つ、選んでダイジェストを紹介することにしよう。いわば、多忙なITエンジニア向けの、「これだけ読めばMESの概要が分かる」6編である。


  • 製造現場の業務を理解する2編

まずは、業務を理解できないとITの話は始まらない。そのために、まず読んでいただきたいのが、次の2本の記事である


このエントリでは、工場長の仕事、ならびに工場を構成する各部門(製造/生産管理/資材購買/生産技術など)の仕事について解説している。主題との関係上、生産管理部門の仕事をとくに詳しく書いているが、それはまさにMESと関係が強い部分なので、読んでみてほしい。

なお、文章だけだと各部門の流れやつながりが分かりにくいと思うので、念のために図をつけておこう(本図は上述の経産省への報告書p.102でも引用している)。
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2. 「『生産統制』の三つの課題」 (2017-11-23)

生産管理という仕事は、生産計画と生産統制の二本柱からなる(と、日本の生産管理学の教科書には伝統的に書かれている)。その割に、「生産統制」という言葉は、あまり製造業の実務では使われていない言葉だし、生産管理部の下に、「生産統制課」なるセクションがある会社は見たことがない。

ただし英語で、生産計画=Production planningと、生産統制=Shop floor controlと対応づけてみると、ずっと話は分かりやすくなる。PlanningとControlはセットだからだ。海図に航路の線を引く。これがPlanningである。実際に船を操舵して、航路の通り運行する。これがControlである。Planを持たずに海に出るのは無茶だし、操舵せずに船がまっすぐ進むと思うのは素人である。

そしてMESとは、非常に簡単に言ってしまうと、生産統制のためのシステムなのだ。まあ市販のMESパッケージには計画系の機能もあるのだが、日本ではあまり使われない(理由を書くと長くなるので別の機会に譲ろう)。ともあれ、Shop floor controlでは、(1)モノと情報のトラッキング、(2)資源モニタリング、(3)パフォーマンス計測が重要である、ということを書いている。


  • MESの位置づけと三層モデルを理解する2編

3. 「MESとは何か」 (2011-06-02)

ということで、10年以上前の記事になるが、まずはそのものズバリ「MESとは何か」である。MESの位置づけを理解するためには、1990年代にAMR Researchが提唱した、「三層モデル」の説明を省く訳にはいかない。もともとMESは、このモデルの第1層と第3層をつなぐ『ミッシング・リンク』として定義されたからである。

MESのないスマート工場なんて考えられない」というのが、わたし達研究会の理解だ。それは、この真ん中をつなぐ第2層の仕事を、現在は人間系が担っているために、データが蓄積されないからだ。

三層モデルはその後、ISA-95という標準規格制定活動の中で、Purdue Modelと呼ばれる5層モデル(Level 0〜4まで)に置き換えられていく。MESはそのLevel-3を担うもの、と位置づけられる。

ちなみにISA-95(S-95とも略称される)は、MES=Manufacturing Execution Systemという言葉ではなく、MOM=Manufacturing Operation Management、という用語を使っている。このため欧米でも、MESとMOMという、二つの言葉が使われていて、若干、分かりにくい現象を起こしている。

本来、S-95の立場では、MOMはMESより広義である(MESは製造のみだがMOMは品質・在庫・保全管理もカバーする)、とされる。だが先にMESの名前でパッケージ商品が生まれ、それが機能を拡張してきたので、必ずしもこの概念規定通りにはなっていない。なので、昨年も今年も、シンポジウムでは基本的に、MES/MOMと併記することにしている。


このエントリは、実は昨年10月の第1回MESシンポジウムのお知らせ記事なのだが、個人的に愛着があるので、ここに取り上げさせていただいた。上記2の記事では、生産統制に3つのエレメントがある、と書いたが、その後でもう一つ、追加すべき事があるのに気がついた。それが、「モノの作り方」に関する情報、すなわちレシピと、SOP=Standard Operation Procedureである。

従来の生産管理システムでは、このレシピやSOPなどの粒度の情報はマスタとして持てなかった。かつ、制御システムだけでも、やりにくい。しかも、レシピやSOP(もっと広くいうとBOP=Bill of Processes)は、設計業務と深くつながっている。大量見込生産を旨とする米国と異なり、日本では少量多品種・設計変更多発だから、ここの部分をいかに人間系からデジタルに置き換えていくかが、重要な課題なのである。


  • MESの主機能と構成を理解する2編


わたしが2000年に、共著で「MES入門」(工業調査会:版元倒産のため絶版)を書いたとき、すでにMESは4業種で広く使われていた。その4業種とは、半導体・医薬品・石油化学・自動車(最終組立ライン)である。そして、それ以外の一般的な産業にも広まるだろうと期待して、本を書いたのだ。

だが、そうはならないまま、過去20年間が過ぎた。その普及のボトルネックは、製造現場の制御機器・デバイス類との通信にある、というのが本エントリの主題である。そして、IoT技術の登場が、この問題を解決するだろう、と、(5年前に)書いた訳だ。

だがそれにとどまらず、この記事では、新しい仕組み・システムが普及するときは、どのようなパターンがあり得るかについても論じている。この視点から、今後のMESの再普及を占ってみるのも面白いだろう。


このエントリは、5の続きである。この記事では、いわゆる「MESの11機能」と呼ばれるリストの解説から始まる。この11機能は、MESA Internationalという米国の団体が発祥の地だが、正直、分かりにくい。これが分かりにくいために、MES全般が分かりにくくなってしまった面さえある。

本エントリでは、なぜ、このような分かりにくさが生じたのかについて、プロセスとディスクリートという製造の二大分野を、一緒に標準に取り込もうとしたからだ、と分析した。そして、ARC Advisory Groupの最近のレポートで(といっても2017年のレポートだが)、Upper MES/Lower MESという新概念を導入したことを、前向きに評価した。実際、この区別は、とくにディスクリート系のMESを理解する上で有用と思われる。


以上、これら6本のエントリをお読みいただければ、MES/MOMに関わる全体像が、それなりに俯瞰できるはずである。もちろんそのためには、ERPだとか、データモデルだとかいったものが、ある程度分かっている必要があるが、そこはまあ、ITエンジニアだったら敷居は低かろう。そこを踏み越えれば、あなたは今、MES/製造実行システムの玄関口に立っているのである。


by Tomoichi_Sato | 2022-08-12 18:02 | 工場計画論 | Comments(0)
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