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その時間の使い方は投資? 営繕? それとも価値創出ですか

多忙だ、多忙だ。現代人のわたし達は、よくそんな言葉を口にする。時間に追われる日々から脱して、もっとゆったりした暮らしをしてみたい。そんな気持ちになることも、しばしばだろう。

時間の悩みを解く手法」ーーこれは、わたしが初めて単著で書いた本『革新的生産スケジューリング入門』に付けた、サブタイトルであった。幸い専門書としては好評で、比較的長い間、版を重ねることができたが、このサブタイトルも、興味を持ってもらうきっかけの一つになったのかもしれない。

数年後、日本経済新聞社からの依頼で、日経文庫『時間管理術』を執筆した。先程の本は製造業における生産計画の専門書だが、こちらはより一般的なビジネスマンのための、仕事のスケジューリングに関する内容である。

本の冒頭で、わたしは、「時間なんか誰も管理できない」と書いた。時間は誰かの所有物ではない。何かをしても、何もしなくても、時間は勝手に流れていく。時間それ自体は、管理できない。時間管理とは、実は時間の使い方のマネジメントなのである。

毎日、時間に追われる暮らしから抜け脱し、ゆとりを持って働きたかったら、上手な時間の使い方を、身に付けていかなければならない。

ところで、「測定できないものはマネジメントできない」、という格言がある。何かをマネジメントするためには、測って、モノサシ=指標化することが必要だ。指標化し、標準を定めて、標準値を改善していく。指標化せずに、主観的に良し悪しを感じるだけでは、本当に改善し進歩できているかどうかがわからない。

だから、タイムマネジメントが上手になりたければ、自分の時間の使い方を記録し、指標化することを習慣化するべきである。

時間の使い方の記録とは、すなわち「タイムシート」のことだと考える人も多いだろう。一日の時間の内、どの仕事にどれだけを使ったかを記録する、一種の日報である。

タイムシートをオフィスでつけることを義務化している会社が、何割あるのかは、よく知らない。ちなみに、ちょっと調べてみたら、「人事業務に役立つ情報メディア・HR NOTE」というサイトに、2018年7月時点のアンケート調査として、こんな記載があった:

「タイムカードでの打刻」が26.4%で一番回答が多く、続いて「紙の出勤簿に記入」が19.9%、「PCを起動しWEBブラウザ上で打刻」が15.6%となっています。(「勤怠管理に不満がある従業員が実は多い?|勤怠管理に関する調査」 より引用)。また、就業管理システムのベンダーであるミナジンによる、人事総務担当者への調査(2020年9月)でも、「タイムカードを利用」が33.2%で一番多く、次が「勤怠システムで管理」30.2%、「手書きの出勤簿」が13.8%、であった、という。(「1000名未満の企業では勤怠管理でタイムカードやExcelの利用が半数を超える」より引用)

つまり1/3程度の会社は、どうやら今でもタイムカード方式を採用しているらしい。事務所への入退場時に、カードに時刻を打点するやり方だ。とくに店舗など流通業や工場など、現場業務を抱える会社では、出退勤と労働時間の把握のために、タイムカードを使っているところが多いと思われる。

ただしタイムカードでは、事業所での総労働時間はわかるけれども、その内訳は記録できない。残業時間は給与に紐付くから、これはこれで必要だろう。だが、勤怠管理だけでは、時間の使い方のマネジメントには必ずしも役立たないのだ。ましてこの1 〜2年はリモートワークが普及して、職場への入退場という概念自体が希薄になった。

ところで、わたしの働くエンジニアリング業界では、ずっと昔からタイムシートを採用するのが常識だった。わたしも新入社員の時からつけている。同業のライバル企業に就職した友達は、「会社はこんな事まで管理するのか!」といって憤慨していた。だが、わたしには別に違和感はなかった。エンジニアリングとは本質的にサービス業であり、自分たちのプロフェッショナル・サービスを時間単位で売る仕事だ。弁護士だって、やはりタイムシートをつけているではないか。

もちろんエンジニアリングではプラントや工場のような、目に見える成果物をおさめて代金をいただく形態も多い(むしろそちらの方が中心だ)。それでも社内的なマンナワー(Man-hour)コストを把握するのは必要だし、当然でもある。いずれにしても、もしわたし達が自分の時間の使い方をきちんと把握して、生産性や創造性を上げたいと考えているなら、自分自身のタイムシートを作って記録すべきである。

会社でタイムシートを記録している人も、使っていない人もいるだろう。だが、会社のタイムシートは、あなたのタイム・マネジメントの目的には半分ぐらいしかミートしない。なぜならそれは、あなたが会社に対して、公式に働いている時間だけを記録する道具だからだ。どんなビジネスマンも、自分が所属する企業組織に対して働いている時間と、プライベートな時間がある。もしもわたし達が、会社で働いている時間以外に、自己啓発のために勉強会に参加するとか、あるいは副業を持ちたいとか言う気持ちがあるのならば、自分のプライベートな価値創出の時間も記録したくなるはずだ。

かく言う私自身、もうずいぶん前から、自分自身にフィットするタイムシートを設計して使い続けている。私の場合それは、Excelシートにマクロを組み合わせたツールである。会社のタイムシートには、そこから転記入力している。

ちなみに弁護士事務所やコンサルティング・ファームでは、「Billableな時間、non-billableな時間」という区別をする。つまり、顧客に請求可能な時間と、そうでない時間という意味である。BillableのかわりにチャージャブルChargeableということもある。

私たちが受注型ビジネスに携わっている場合、会社で働く時間のうち、ある部分は特定の顧客にチャージャブルである。例えば特定の顧客のプロジェクトのために、設計書を書く時間は、その顧客に対してチャージすべき時間である。また別の部分、例えば社内の教育研修を受ける時間等は、どの顧客にもチャージできない。そこで受注型ビジネスでは、従業員にタイムシートをつけさせて、チャージャブルな時間は、それぞれのProject番号(ジョブコード)で分類集計できるようにする。

ちなみにわたし達が所属する会社のために働く時間は、全体として会社に対しチャージャブルな時間である。もしも副業を持っていたら、別の雇用主に対するチャージャブルな時間もあるはずだ。

ただし、タイムマネジメントを通して、自分の時間の使い方を向上していくためには、単にどの顧客向けの時間を使ったかを記録するだけでは不十分だ。「時間の使い方の質」も、見る必要がある。とても生産的な時間もあれば、漫然と過ごしてしまった時間もある。いや、一生懸命働いてはいるのだが、実は自分の責任でミスをしてしまった結果を、必死にリカバリーしている時間だってあるはずだ。

マッキンゼーなどの外資系コンサルティング会社では、「バリューを出せ」、という言葉をよく使うと聞く。顧客に対して、本当に価値を提供できているかどうかを、自分につねに問いかける態度を求めるわけだ。したがって、時間の使い方の記録においては、どのようなモードでその時間を過ごしたかの分類も、考える方が良い。

私自身は、時間の使い方を、大きく、3つに分類している。それは、投資、営繕、そして価値創出である。

何か知識を得たり、人の話を聞いたり、あるいは具体的な用途は決まっていないが、先に役立つだろうと思うことを準備しておいたりする時間は「投資」である。インプットがなければ、アウトプットできない。種に水をやり肥料をやらなければ、実は結ばない。投資の時間は直接何かを生み出す事はないが、必要なものである。客先の要求仕様書を読んだりするのも、投資の一部である。

価値創出の時間が、上に述べた「バリューを出す」に対応する事は言うまでもない。例えば資料をまとめて上司にプレゼンテーションをしたり、客先とのネゴシエーションをして追加条件をえたり、もちろん設計成果物を作るのも価値創出である。私にとって、このサイトの記事を書くの価値創出の時間だ。

営繕とは、インプットでもアウトプットでもない、オペレーションとメンテナンスの時間である。雑多なメールの読み書きをする時間、さほど情報量のない会議に出ている時間、出張のチケットを予約したり経費精算をしたりする時間。外出の移動時間。もちろん先ほど書いたような、自分のミスをリカバリーしているのも営繕の時間である。

自分の生産性を上げたいのならば、価値創出の時間を増やし、インプットや、とくにムダな営繕の時間を減らすのがポイントである。もちろん、営繕の時間はゼロにできないし、すべきでもない。わたし達の睡眠時間は、身体の営繕の時間だが、ゼロにすることはできない相談である。

では、自分の働いている時間の中で、バリューを出している価値創出の時間の比率は実際にどれくらいあるのだろうか。 60%? それとも80%?

正直にいおう。わたしの場合、バリューを出している時間の比率は、ほぼ20%である。投資が約40%、営繕も約40%だ。

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20%? 2割しか価値創出の時間がないの? 偉そうに日経文庫に『時間管理術』とか書いている人間が? ——はい。その通りです。そしてこの比率は、わずかずつ高くはなっているが、過去何年間もそう大きくは変わっていない。2割だから、週5日の内、実質1日しか価値創出していないことになる。だが、これが事実なのだ。

わたしの個人的タイムシートは、ToDoリストと一体型になっている。毎朝、最初にToDoリストを開ける。その日の予定、打合せだとか来客だとかを入力する。さらにその日にやるべきタスクを入れ、それぞれ開始時間と終了予定時間を入れる。時間単位は最小15分刻みだ。

そして、チャージャブルな時間の場合は、プロジェクト・コードを表す記号を入力する。また、それが投資なのか、営繕なのか、あるいは価値創出なのかを入れる(1日が終わったときのふりかえりで、「あれは価値創出じゃなくて営繕に過ぎなかったな」などと考えて変更することもある)。

なお、一日の中には必ず、「メール処理」という項目がある。これは様々なプロジェクトやノン・プロジェクトのメールのやりとりで、細かく分類不能な時間の総称だ。これがだいたい一日2〜2.5時間あり、一括して営繕に分類している。つまり時間の約25%が、最初から営繕として天引きされているような状態である。残念ながら管理職とかをやっていると、この種のメールはどうしても増えてしまう。

それで、どうしたら有用で生産性の高い時間の使い方にシフトできるか、である。

もちろん、まずは事実をおさえ、指標化しなければ始まらない。だから自分用タイムシートでデータ化し、バリュー比率を見ているのだ。ToDoリストは必ず日誌とセットで、毎日、毎週1回、そして毎月1回はふりかえりのために見直している(この見直しとふりかえりの時間も、「営繕」に含まれる)。

次は、自分がやらなくてもいい、ムダな作業をしていないか、あるいは、力仕事的なことは、誰かほかの人に頼めないか、考えてみる。テレワークとWeb会議が普及したおかげで、移動のための拘束時間が減ったのはありがたいことだ。

もう一つ、大事なことは、時間を細切れにしないことだ。15分の時間を4回分バラバラに持つのと、集中できる1時間とでは、生産性が全く異なる。小刻みな時間は、どうしても営繕的なことにあてざるを得ない。まとめて時間を確保できたら、バリューのために使う。そのためには、あらかじめタイムテーブルを見て、「自分で自分を予約する」のである。打合せもメール処理も入れない、純粋に作業に集中できる時間帯をあらかじめスケジュールに確保しておく。

今日のプロフェッショナルなオフィスワーカーの時間単価は、6千円から1万円程度にはなる(給与収入ではなく、会社にとっての売値である)。時間6千円でも、1分100円、1秒=1.67円の計算だ。1円玉を落としても、かがんで拾うのに1秒以上かかったら、それはペイしない。あるいは、電車で15分かかるところを、タクシーなら5分で行けるとしよう。もし価格差が千円以内なら、タクシーに乗る方が経済的である。

そういう時間単価を見据えつつ、価値創出の時間比率を測り、たとえ1%でも上げる方策を工夫する能力こそが、多忙な今の時代のわたし達に求められるスキルなのである。


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by Tomoichi_Sato | 2022-05-12 23:59 | 時間管理術 | Comments(0)
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