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産業界のカーボンニュートラルについて少し勉強しよう

  • 日本の「2030年マイナス46%目標」とは

日本政府が「2030年の温室効果ガス排出量を2013年に比べて46%削減する」、と宣言してから1年が経つ。

前年の10月、菅首相(当時)は、2050年までに「カーボンニュートラル」化する、と突然宣言して産業界を驚かせた。それまでは、世界の脱炭素の動きから、だらだら言い訳して、ずっと逃げ続けるのだろうと思われてきた。ところが、日本という国は不思議なことに、ずっとこだわり続けている政策が、ある日突然ポッキリ折れたように転換してしまう国らしい。

2030年のマイナス46%という数字は、2050年の炭素排出量ゼロから直線的に逆算したと言われている。2013年の排出実績が14.08億トン。30年目標が7.60億トン。策定時が2021年だから、残る9年でCO2排出を6.48億トン、つまり毎年7200万トン、毎月600万トンという猛烈な速度で削減していかなければならない。

政府資料「地球温暖化対策計画」によれば、産業のエネルギー消費は、4.63億から2.89億へ、1億7400万トンを削減(38%減)。家庭のエネルギー消費は、2.08億から0.70億へ、1億3800万トンを削減(ほぼ1/3に減らす!)。運輸・業務その他・エネルギー転換などの対策も進めることで、エネルギーに関係する削減量は、全体の86%にあたるおよそ5億5800万トンを削減する(45%減)。そして「代替フロン」の回収強化、プラスチックごみの焼却処分削減などで、およそ3650万トンを削減。森林の整備などによって、二酸化炭素をおよそ4770万トン吸収するという計画(というか目標値の計算)だ。

なお、温暖化対策の日本の技術を海外に提供して削減量を相手国と日本で分け合う「二国間クレジット制度」(JCM)も活用する、となっている。その目標値は1億トンで、「我が国として獲得したクレジットを我が国のNDC(国家削減目標)達成のために適切にカウントする」とも記している。

ともあれ、宣言を追うようにして、20年12月、経済産業省が「グリーン成長戦略」を発表、さらに21年10月には、「エネルギー基本計画」を閣議決定する。それによると、2030年の電源構成は、需要抑制により、総発電量自体を2019年度実績の10,240億kWhから、9,300-9,400億kWhに大幅削減する。内訳では、再エネ36-38%、原子力20-23%、LNG20%、石炭19%、石油等2%、水素・アンモニア1%とする。特に、2019年度に37%を占めていたLNGの量的な削減が含まれている点が特徴だ。

  • カーボン・ニュートラルLNGへの期待

さて、産業界の排出量は38%を削減しなければならない(単純計算で毎年4.2%ずつ)。家庭は66%削減(毎年7.3%ずつ)である。どうするのか? 日本企業はすでに苦心して省エネルギーを達成してきた。家庭だって、そんなに急に減る余地があるとは思えぬ。

ということは、発想を転換し、出るのを減らすのではなく、入ってくるエネルギーを、炭素フリーなものにしたらどうか、との考えが生まれてくる。そのための一つの手段が、たとえば、「カーボン・ニュートラルLNG」などの商品である。

欧州最大のエネルギー企業であるShellは、カーボン・ニュートラルLNGについて、すでに3年前にこんな発表をしている:
高品質な自然起源のカーボンクレジットによるオフセットで、天然ガス資源の探査・生産・そして最終消費者による利用まで(つまり後述するScope-1から3まで)をカバーする。天然ガスは石炭に比べて45-55%しか温室効果ガスを排出せず、大気汚染物質は1/10以下である。
ちなみに、「ロシアのGazprom社と協力して進めた」ともある。今は、どうしているのだろうか。

また、こんな記事もある:
こちらは自然起源(Narture-based)のプロジェクトとして、とくにインドネシアの「Katingan泥炭地復興保全プロジェクト」と、ペルーの「Cordillera Azul自然公園プロジェクト」の名前を挙げている。土地の保護、用途転換と再生を図ることで、植物によるCO2の吸収と酸素の放出を進める。また第三者による監査も行うと。

これらのカーボンクレジットは、もちろんお金がかかっている。したがって、カーボン・ニュートラルLNGは、通常のLNGよりも値段が高い。高くても、脱炭素というプレミアムが乗っているから、顧客がいる訳である。

  • LNGとは何か

ちょっと脇道になるが、でもLNGのことが分からないと、この話は先に進まない。そこでごく簡単に解説しよう。LNGは液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)の略称である。天然ガスは化石燃料の中では、石炭・石油製品類に比べて、最もクリーンで環境負荷の小さいエネルギーだと言われている。もちろん燃やせばCO2が出るが、熱量あたりの排出量が最も小さい。

天然ガスは通常、パイプラインでガスのまま輸送する。しかしパイプラインで運べないような場所や、パイプラインを設置しにくい地域には、液化してタンカーで輸送するのである。これをLNGという。

天然ガスの主成分はメタン(CH4)ガスだ。メタンの沸点は-161℃なので、これ以下の温度に冷却すれば液体になり、体積は約1/600に減少する。これを専用の冷凍タンクを持つLNGタンカーで運ぶ訳である。このようにLNGの製造と保存は、超低温の技術を要する(ドライアイスの温度でもせいぜい-79℃程度だ)。そして液化のために、結構なエネルギーも消費する。

世界大百科事典によると、「LNGの本格的なタンカー輸送は,1964年,アルジェリアの天然ガスのイギリスへの輸出によって始まった。日本でも70年前後からLNGの輸入が盛んになり,アラスカ(1969年に開始,以下同様),ブルネイ(1972),アブ・ダビ,インドネシア(ともに1977)など」から順次輸入が拡大した、と記述がある。

LNG terminalとは入出荷設備とLNGタンクを組み合わせたプラントで、日本語では普通、「LNG受入基地」と訳される。今、ドイツがあせって作ろうとしている施設である。「LNG受入基地ではLNG専用のタンクにLNGを貯蔵し,これを再びガス化して発電用や都市ガス用の燃料として使用する。ガス化には海水や工場の温排水が利用される」(世界大百科事典)

LNGの比重は原油の比重の約半分しかない上に、断熱保冷と耐圧のために特殊な金属材料や構造がいる。このため,積載トンあたりの建造費は原油タンカーの数倍も高い。まあ簡単に言って、LNGとは、液化して作るプラントも高価で、輸送手段も高価で、受け入れて都市ガスなど既存パイプラインにつなげる基地施設も高価なのである。それでも、地面の下を掘ったらガスの吹き出してくる国(カタールとかロシアみたいな国)で作れば、価格競争力のあるエネルギー源になりうる。

ちなみに天然ガスではなくLNGを必要とするのは、どんな国か。まず、原則としてパイプラインの届かない、かつ自国で天然ガスの殆ど出ない島国である。日本とか、台湾とか。韓国は地図で見ると島国ではないが、唯一国境線を接する北朝鮮が敵対国なので、地政学的には島国と同じある。

もう一つ、中国やインドのように国土が広大すぎ、かつ沿岸部に大都市が複数あって、ガス・パイプラインでは追いつかない国も、LNG輸入国になる。米国もシェールガス革命までは、輸入国だった。なお、LNG設備は高価なので、あまり貧しい国は借金しない限り利用できない。

  • カーボン・ニュートラルLNGは本当に、排出量ゼロなのか?

話を戻そう。LNG自体は化石燃料で、相対的にはクリーンだが、燃やせばCO2が出てカーボン・ニュートラルではない。そこでShellなどは、『カーボンクレジット』という制度を併用して、「他でCO2削減プロジェクトを並行して進めているから、結果としては足し算引き算で相殺して排出量ゼロになります」といって売っているのである。こういう手法をカーボン・オフセットという。

ご存じの通り、各国政府はパリ協定でNDC(Nationally Determined Contribution)として削減にコミットしている。日本の「46%削減」もその一つだ。この削減義務は、日本国内での排出量に関するものである。ところで、カーボン・ニュートラルLNGで「同時に削減します」といっているのは、海外での森林などによるものである。しかし、海外での削減により発生するクレジットは、日本企業が削減目標を達成するために使えるのだろうか

各国が二酸化炭素排出量の削減に取り組む際には、自国領土内だけでなく、他国における削減の取組への貢献も、NDCに繰り入れることを可能にすべきというのが、国際社会の合意事項だ。炭素という実物商品を国際取引するのと逆で、炭素削減という責務(債務)を取引するので、カーボンクレジットと呼ばれる。

だとしたら、すべてのカーボンクレジット取引は、排出量削減に貢献可能に思われる。しかし正確に言うと、その企業の買うクレジットの削減実績が、日本国自体のNDC義務の達成に使えるかどうかにかかってくるのである。

何が国のNDCにカウントできるかについては、パリ協定の第6条が規定しており、昨年のCOP26でガイドラインが明確になった。それによると、削減プロジェクトのホスト国と日本の間で削減の双方での二重計上を避けるための「相当調整(Corresponding Adjustment)」の合意をしたものだけが、NDCに貢献できるとされている。日本の制度ではJCM(Joint Crediting Mechanism)によるクレジットだけが、これに該当する。

ちなみに相当調整という手続きは、複数国にまたがる国際プロジェクトが排出量削減を実現した際に、その削減が関係国でダブルカウントされないために、必要とされる。たとえば日本企業がインドネシア企業と組んで合弁会社を設立し、日本の資金と技術供与で、Nトンの炭素削減ができたとする。その際に、日本とインドネシアの両国が共に全量を計上すると、地球上では合計2Nトンが削減されたことになってしまう。そうならないよう保証するのが、相当調整の制度である。

さて、日本の民間企業はすでにずっと以前から、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)での報告義務が課されてきた。今後マイナス46%目標が、どのような形で削減義務として乗っかってくるかは、まだ現状決まっていない。ただ、公的目標にせよ自主目標にせよ、企業による我が国のNDC貢献に対する何らかのコミットメントは避けられないだろう。

その際、貢献にカウントできる海外クレジットは、上に述べたとおり、現状JCMだけだと思われる。なぜなら、「パリ協定でNDC達成へのカウントが認められていないクレジットをいくら海外から持ち込んでも、日本政府として負っている日本全体としての削減義務達成の役に立たないから」というのが、わたしの勤務先のエキスパートの見解である。

Shellなどのカーボン・ニュートラルLNGは、JCMクレジットではない、民間の『ボランタリー・クレジット』を利用している。Gold Standard、Verraなどの認証機関のお墨付きは得ていても、「相当調整」は行われていない。ということは、これをいくら買っても、自社のCO2削減にはカウントできない(少なくとも政府への報告書には記載できない)はずなのである。

  • カーボン削減問題解決への道筋

結局、産業界における脱炭素の問題は、お金だけでは解決できないのである。産業界の削減目標は46%ではなく38%減で、そのうち工場外の事業所などの排出もあるだろうから、工場に限ればおそらく30%にはなる。

だが30%相当、約1.4億トンをすべて、公式なカーボンクレジットを買うだけで解決することはできない。排出権価格は、ウクライナ戦争で暴落したとは言え、欧州で1トン60ユーロ前後はする。そのままでは年間1兆円を超えてしまう。これが製造原価を直撃したら、産業界は耐え切れまい。

また、国を頼りにしてもダメだろう。近年の財界はなぜかお国に頼る傾向が強く、最後はお国が税金を出して助けてくれるという感覚があるようだ。だが、こうした問題における国の発想はたいていの場合、「傾斜配分」である。つまり、業界ごとに濃淡をつけて配分する、となる。もっと分かりやすく言えば、「大事な業界とつぶれてもいい業界に分けて対応する」である。国が大事とする業界がどことどこか、それはご想像にお任せしよう。ただ、プラント・エンジニアリング業界がその中に入っていると思うほど、わたし個人は楽観的ではない。

そうなると、道は三つしかない。一つ目は、日本での工場をたたむこと。ただし、海外に工場を移転しても、それはScope-1の削減にしか貢献しない。原料や電力(Scope-2)はどうせ必要だし、売り先をかえない限りサプライチェーン(Scope-3)だって変わらずに残る。だから、業態にもよるがあまり根本的な解決にならない。

二番目の道は、お金と技術と両方をつぎ込んで、実現方法を開拓することである。

まずは、エネルギー源の転換だ。熱エネルギー源を、化石燃料から電力に転換する。電力ならば再エネ由来の電力を購入することができる。あるいは燃料を、燃やしても二酸化炭素の出ない水素やアンモニアに転換する。ただしまだ燃焼技術には改善課題がたくさんある。それが無理なら、せめて炭素排出量が比較的少ない燃料に転換する。石炭から石油製品へ。同じ石油製品なら重油・軽油からガソリン・LPGへ。そして石油から天然ガス・LNGへと転換する。

動力エネルギー源も、燃料を使う内燃機関から、電力によるモータに転換していく。工場で動力源としてよく利用する圧搾空気も、電力で作る。あるいはエネルギー効率を考えて、直接モータ駆動とする。

もちろん省エネも重要だ。すでにどこの企業もそれなりに省エネに取り組んでは来たが、CO2のクレジットコストが高くつくようになれば、もっとヒートポンプなど省エネ設備を導入するようになるだろう。省エネに比べると技術的にはやや遠いが、燃焼後の排ガスからのCO2分離回収(CCS)も有力な方法ではある。

さらに、他国でのエネルギー削減に協力して、相当調整付きのクレジットを持ち帰ることも有用だろう。国際協力である。日本よりも価格効率性の高いCO2削減機会のある国は、いくらでもある。

そして三番目は、複数企業の協力である。単一企業での取組みに限界があるならば、地域内の企業群や、同一業種・取引関係のある企業群などで協力して、相互的なエネルギー需要の調整をする方法も、理論的にはありえる。工場内のエネルギー需要には高低の波があるが、複数企業で相互にリアルタイムに需要を融通し合うのである。むろん、すぐに実現可能だとは言わないが、むしろ相互信頼に重きを置く日本社会にこそ、実現可能性のある方法ではないかと考えている。

いずれにせよ、こうしたことを考えていくためには、2030年に向けた『工場グリーン化のロードマップ』が必要なのである。スマート工場というと、デジタル化とかロボット化のことばかりが語られるが、わたしはグリーン化も同じくらい重要であり、そのためのロードマップが必要だと信じている。そしてこの問題は、経営・財務戦略だけでなく、技術戦略が重要になる。そういう意味で、ふたたび技術屋の出番の時代が回ってきたと思うのである。

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 (2022-01-31)

by Tomoichi_Sato | 2022-05-01 22:48 | ビジネス | Comments(0)
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