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お知らせ:コンサルティングを再開します + MES解説の記事を「工場管理」に執筆します

タイム・コンサルタントの日誌から」という名の本サイトをはじめたのは、2004年のことだった。当時メインに持っていたサイト「革新的生産スケジューリング入門」からのスピン・オフとして、当時はまだ目新しかったBlog形式で、自由な発信をしてみようと思ったのだ。その頃わたしはビジネス・ソリューションを外販する部門にいて、実際にコンサルティングやSIビジネス、そして工場づくりの仕事に携わっていた。

ところで、その後何年かして、わたしは本社スタッフ部門に移ることになった。以来、経営企画とIT企画の仕事がメインになり、直接、外の顧客へのコンサルティングがしにくい立場になった。それでもまあ、いつかはラインの仕事に戻るだろうと思い、あえてBlogのタイトルから「コンサルタント」の言葉を外すことはしなかった。

わたしは一応、中小企業診断士の資格も持っているが、典型的な「企業内診断士」である。個人的に頼まれてセミナーやイベントで講演をすることもあったし、雑誌や本の執筆もしてきた。大学でも教えてきた。だが本格的なコンサルティングからは遠ざかったままだった。

ところで、ようやくまた、その現場にもどれる状況になってきた。すでにご案内した通り、わたしの勤務先ではこの21年度から、「ネクストファクトリー・ソリューション部」(略称NFS部)という部門を作って、本格的に次世代スマート工場づくりに取り組む体制となったのだ。わたしもアドバイザーとして、その部を手伝うことになった。

日揮(株)ネクストファクトリー・ソリューション部のWebサイト

NFS部は、エンジ会社として工場設計を請け負うだけでなく、より幅広い取り組みとして、コンサルティング面で製造業のお客様をお手伝いする事も、サービスメニューに組み入れている。わたしが経営企画部門に所属することに変わりはないが、社内的な建てつけ上、ライン部門を支援する形で、コンサルティング機能を補強することになったのである。

わたし達のコンサルティングの特徴は、三つある。第一に、工場と生産の中身に詳しいこと。第二に、メーカーやベンダーから中立な立場であること。そして三番目は、構想立案だけでなく、いざとなったらPMCとして設計・実装まで伴走できることである。

世の中にコンサルティング・ファームは数多い。だが、多くは本社とだけおつきあいして、製造現場の泥臭い内実にはノータッチ、が普通である。「製造業に強い」といいながら、聞いてみると製品企画や設計開発部門がカスタマーで、工場には足を踏み入れたこともない、なんて方も少なくない。

だが、わたし達は違う。本当のものづくりが、いかに微妙で、かつ、いかにシビアか熟知している。どこがポイントで、どこに問題が生じがちかも承知している。建築も機械も電気も制御もITも、エンジ会社は工学のデパートだから、プロのサービスを提供できる。それも、個別にではなく、総合的に提供できるのだ。

ちょっと宣伝くさかった? でも続けさせてください。エンジニアリング会社は、自分では工場を持たない。建設労働者も抱えない。工場の資機材は、文字通り世界中のメーカーから、もっとも適切でリーズナブルと思われるものを、毎回選んで調達する。「ベンダー中立」のポリシーが、それを保証するのだ。もし自前の工場や商品を持っていたら、どうしてもつい、それを売りたくなるだろう。だが、それではコンサルティングが、営業セールス行為の一部になってしまう。

そして三番目の特徴が、PMC=プロジェクト・マネジメント・コンサルティングが可能なことである。この言葉、ちょっと誤解を招きやすいが、PMCとは「PMの手法を教えるコンサル」ではない。顧客と一緒に、顧客のプロジェクト遂行を支援をする、いわば助っ人である。

生産改革の構想づくりから始まって、具体的な施策、たとえば製造ラインの自動化だとか、ITシステムの導入だとかBOMの再構築などは、いずれも部門横断的なプロジェクトになる。だが多くの企業では縦割り組織にはばまれて、こうしたプロジェクトがなかなか前に進まない。また、そのための余分な人材も足りないものだ。そこを補うのが、PMCの仕事である。

普通のコンサルは、構想書を作るまでだ。その後、定期的なアドバイスくらいはしてくれるだろう。だが、本格的なプロジェクトとなったら、基本仕様を固め、RFPを作り、ベンダーを選定し、経営者に投資判断を求め、予算と進捗と品質をモニタリングし、ユーザを教育・・と、やるべき仕事は山のようにある。これを手伝って、実際に手を動かすのが、PMCの役割である。

ちなみにわたしがライン部門に移る前に、最後にやっていた仕事は、中東の国営石油会社と日本の企業が合弁で進めていた、石油化学コンプレックスの拡張プロジェクト(正確にはプログラム)のPMCだった。そしてこれはとびきり、面白い仕事だったと今でも思う。

ともあれ、このような分野の仕事を手伝えることになり、わたしはワクワクしている。日本の製造業は今、とても難しい状況にある。サプライチェーンは混乱、資材価格はインフレ、デジタル化には出遅れて、製造現場はひどい人手不足だ。それを一気に解決できます、などと言うつもりはないが、少しでもお役に立てればうれしいと思っている。

さて、これに関連することでもあるが、日刊工業新聞社の月刊誌「工場管理」に、2回に分けてMES(製造実行システム)の解説記事を執筆する。その第一弾として、今月発売の4月号に

「MESとは何か~製造業に広がる背景と活用の実態~(上)」

が掲載される。製造現場のデジタル化に関心のある方に向けて、MESと呼ばれる仕組みの入門的な解説をした記事だ。

MES=Manufacturing Execution SystemというITシステム(海外ではMOM=Manufacturing Operations Managementと呼ばれることも多い)は、半導体や医薬品など一部業界を除いて、日本ではなじみが薄かった。だが、これは本社の管理系と現場の制御系をつなぐ、製造データの中核的なハブとなる仕組みである。MESのないスマート工場など考えられない、というのが我々の理解なのだ。

たまたま、わたしは2000年に共著で「MES入門」を執筆し、また昨年秋にはエンジニアリング協会でMESに関するシンポジウムも企画させてもらった。くわえて、わたしの勤務先は、プロセス系と医薬品工場を中心に、相当数のMESを、工場の設備ハードとインテグレーションして収めてきた実績がある。ということで、執筆依頼の白羽の矢が立ったのだろう。

MESの分野には国際標準もあるのだが、それだけ読んでもわかりにくい。かといって、製造現場に密着したものだけに、公開されている情報も限られている。この上巻の記事では、MES概念が生まれた経緯もふくめ、機能範囲や提供価値を、できるかぎり分かりやすく説明したつもりだ。書店で見かけたら、ぜひ手にとって見てほしい。

このサイトはもちろん、ずっと無料で情報を公開してきたし、その方針をかえる予定もない。ただ、わたしが本職の仕事以外に割ける時間は、限られている。知っていることは、いくらでもお伝えしたい。だって知識は人に渡しても、自分の手元から減らないのだから。でも、自分の時間は有限だ。だとしたら、勤務時間ないに多少の価値をつけて、必要とする人に提供するのも、有用なのではないか。そしてわたしのささやかな知恵が、どなたかのお役に少しでも立つのなら、それこそ望外の喜びなのである。

<関連エントリ>
 →「時間、売ります」 (2007-04-10)・・ああ、もう15年も前の記事だ。

by Tomoichi_Sato | 2022-03-17 20:09 | ビジネス | Comments(0)
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