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透明な燃料アンモニアに、なぜ青(ブルー)や緑(グリーン)の色があるのか?

1.はじめに

アンモニアを燃料に使うという話をはじめて聞いたのは、10年以上前のことだ。東大の平尾雅彦教授と話しているときに、トヨタが興味を持って研究していると聞いたのだ。

なるほど、アンモニアは可燃性ガスで、液化もたやすいから、自動車燃料の代替にできる可能性はある。だが毒性もあるし、燃焼過程でNOxも生じやすい。なぜアンモニア? とたずねたら、「カーボンフリーですから」という答えだった。

うーん。わたしはうなった。たしかにアンモニアを燃やすと、原理的には水と窒素ガスが発生するだけだ。分子に炭素を含まないから、CO2は排出しない。

ちなみに平尾先生は、日本におけるライフサイクル・アセスメントの大家で、技術の社会コストや環境影響に詳しい(ついでに、わたしの学位論文の指導教官でもある)。問題はコストでしょうね、というのが先生の見解だった。炭素税のような制度が取られない限り、普及は難しいと思います、と。


2.化石燃料はサステイナブルか

ところで石油ガス関係のプラントビジネスで、長年働いてきたわたしがいうのも何だが、地下から化石資源を掘り出して燃やし続ける、現在の社会のあり方がサステイナブルだとは思えない。石油を燃やすと発生するCO2が温暖化ガスだから、という理由だけではない。そもそも、地下資源は有限だからだ。

わたしがプラント業界に入った頃、石油の埋蔵量は「あと30年」だと言われていた。だが、その後、何年経っても「あと30年」と言われ続けた。

主な理由は、原油の値上がりだ。30年の埋蔵量とは、経済的に引き合う可能採掘埋蔵量の意味だった。原油の値段が上がれば、それまで引き合わなかった地層や海底の油田も、採掘可能になる。加えて、シェールガス革命に代表される、採掘技術の進歩もあった。

この結果、2010年頃から、業界では「ピークオイル説」(そのうちに石油産出のピークがあり、そこを過ぎたら先細りになるという予測)は、語られなくなった。かくて石油業界全体が楽観ムードに包まれたわずか数年後、脱炭素問題という猛烈な逆風が吹き始めた。

その後は知っての通りだ。昨年秋のCOP26で、多くの国がカーボンニュートラルを目標として宣言する時代になった。そして石炭や石油を燃やして発電する者は、人類の敵であるかのようにいう環境アクティビストが増えた。

しかし元々、地下にある炭化水素資源は有限なのだ。それを無限であるかのごとく見なすのは、一種の思考停止だった。今、わたし達は我に返って、新しい将来の姿を、思考回路を全開にして考え抜かねばならないタイミングに来ている。

ちなみに炭素という物質それ自体は、価値のある元素である。わたし達の身体を作っている、主成分の一つでもある。もちろんダイヤモンドから、樹脂、炭素鋼まで、様々な物質・素材の構成要素として活躍している。固体でいる限り、かなり有用な物質なのだ。問題なのは、二酸化炭素となって、大気中に拡散した時だけである。

わたしの個人的な意見では、地下の炭化水素化石資源は、燃料として燃やしてしまうのではなく、化学産業の大切な原料として、全量を活用するのが望ましい姿だと思う。


3.本当に水素燃料の社会は来るか

さて現在、新しい時代の燃料の主役として語られているのは、水素である。

しかし、技術的に見ると、水素ガスは危険、かつ極めて扱いにくい物質だ。貯蔵するには高圧タンクが必要で、液化するためには超低温まで冷やさなければならない。シクロヘキサンと化合させて貯蔵する方法もあるが、逆反応で得られる水素ガスは、純度が下がってしまうため、そのままでは燃料電池などには使えない。

水素が 燃えるときは、無色透明な炎になる。つまり、燃えているかどうか目によく見えないのだ。プラントで漏洩した水素が燃えているのに気づかず、手を出して指を落とした人もいると、先輩から聞いた。

しかも水素脆性という問題がある。容器や配管の鋼材に吸収されると、そこを脆くしてしまう性質があるのだ。だから、現在の都市ガス配管設備を、そのまま水素ガスに転用することは難しい。ガスコンロのスイッチをひねると、ぱっと水素の明るい炎が点ったりするシーンは、つまり夢物語なのだ。

ここで登場するのが、水素キャリアとしての燃料アンモニアである。アンモニアは、燃料としての水素の技術的難点を回避する有力な手段として、現在注目を浴びている。水素キャリアとは、水素を運ぶ(含む)担体という意味だ。

アンモニアは純粋な水素に比べると、はるかに扱いやすい。液化しやすく、液体にすれば貯蔵も輸送も、比較的安価に行える。既存のタンクや配管等の転用もやりやすい。

もっともアンモニアの重量比発熱量は、メタン(天然ガスの主成分)の4割程度だ。重さの割にカロリーが低い。だから航空機などの燃料などにはきびしい。だが、それでも発電用タービンなどへの混焼では、有用と考えられる。たとえば(株)JERAは、2025年から碧南火力発電所で、アンモニア混焼の商業規模での実証を予定している(ちなみにJERAとは、東京電力と中部電力の共同出資による世界最大級の発電事業会社だ)。


4.アンモニアや水素はどこから来るのか

ところで、そのアンモニアはどうやって作るのか。これは、大気中の窒素と、水素とを原料とするのだ。約100年前に、ドイツの化学者であるハーバーとボッシュの2人が、いわば空気を原料に、水素と反応させてアンモニアを作る方法を開発した。アンモニアは窒素肥料の主成分なので、2人の発明は、20世紀の食糧生産を支えたとも言える。

別の言い方をすると、水素さえあれば、いつでもアンモニアを合成することができる。できたアンモニア(NH3)を燃やすと、窒素分Nはまた窒素ガスに戻る。水素Hは燃えて、水になる。

では、その水素はどこから来るのか? 何を原料に、どうやって水素を製造するのか。特にCO2ガスを発生させない、クリーンな水素の作り方は。

すぐに思いつくのは、再生可能エネルギーの電力による水の電気分解であろう。あるいは、原子力の電気を使った水の電気分解も、可能性としてはありだろう。

だがそれで現在の燃料需要を賄い切れるだろうか。なにせ途方もない量である。仮に自動車を全てEV化したとしても、他にまだ工業的な加熱炉から、飛行機や船の燃料、そして地域的な暖房まで、燃料の需要は幅広い。

水素を作るには、他にも1つの方法がある。工業化学でよく取られる方法、すなわち炭化水素(石油・天然ガス)からの水素の製造だ。

たとえば天然ガスの主成分であるメタンCH4に、水2分子を加えると、水素ガス4分子と二酸化炭素の混合物ができあがる。
 CH4 + 2 H2O → CO2 + 4H2

正確に言うと、これはメタンの水蒸気改質反応(CH4 + H2O → CO2 + 3 H2)と、水性ガスシフト反応(CO + H2O → CO2 + H2)の二段階の組合せなのだが、上の化学式はそれを合算して書いている。

出発する原料がメタンではなく、メタンやプロパン、その他の炭化水素であっても、同じように水素を得ることができる。工業化学的に言って、炭素Cは水素Hの原料なのである。ただし、バイ・プロダクトとして、二酸化炭素ができてしまう。

できてしまうのだが、このCO2は比較的扱いやすい。化学プラントの中で発生するし、濃度も高い。なので分離しやすい。これが大気中のCO2だとか、エンジンの排ガス中のCO2だったりすると、集めるのも難しいし、濃度も希薄で、分離濃縮は極めて困難である。

分離回収したCO2をどうするか。一番良いのは、何かに吸収あるいは化合させて、固体化・固定化することである。ただしCO2は燃えカスみたいなもので、化学ポテンシャル的に自由エネルギーの準位が低く、合成原料には使いづらい。次善の策は、地中かどこかに埋めてしまうことだ。これをCCS (Carbon Capture & Storage)と呼ぶ。


5.ブルーなアンモニアと、グリーンなアンモニア

結局まとめると、アンモニアを作る方法には、2種類あることになる。一つは、クリーンで再生可能なエネルギーによって、水を電気分解し、その水素から作る方法。もう一つは、石油ガスなどの化石資源を原料にした水素から作り、副産物のCO2はCCSで回収処理をして、大気に出さないようにする方法。

前者の方法で作るものを、『グリーン・アンモニア』と呼ぶ。環境負荷のないやり方だからだ。他方、後者の方法で作るものを、『ブルー・アンモニア』と言って、区別する。CO2は発生するが、一応分離回収するので、環境負荷が少ないやり方と言える。
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回収したCO2は、例えば油田に再圧入する。油田では地層からの原油の回収率を上げるために、あえて地上から、圧力をかけたりする方法がとられる。これをEOR (Enhanced oil recovery)とよぶ。CO2を、このEORに利用するのである。

もっとも、油田が近くにない場合も多いだろう。その時は代わりに、単純に地中に封入貯留したり、あるいは海底に、水和物として貯留する方法も検討されている。

ちなみにCO2を分離回収しないで、大気中に放出するのが、現在の主流のやり方である。これを『グレー・アンモニア』と言う。グレー(灰色)からブルー(青)→グリーン(緑)になるにつれて、だんだんキレイに(?)なると考える訳だ。

透明なはずのアンモニアを色分けするのは、このような理由によっている。もちろん作り方がこれだけ違うのだから、コストも当然ながら異なる。グレー・ブルー・グリーンの順に、高くなると考えられている。

地球はかけがえのないものだから、可能な限り環境負荷の小さいエネルギー源で、社会を動かすべきだと言う主張があるのは事実だ。他方、この世は経済原理第一で動いているのも、事実だ。全く同じ商品である燃料アンモニアを、作り方によって、異なる値段をつけた場合、普通は安い方に流れるだろう。

もしそのような状況を防ぎたければ、値段の順序が逆になるような方法を考えるしかない。その1つの手段が、原料としての石油・天然ガス(=化石資源)から生じる二酸化炭素に税金をかける、「炭素税」なのである。あるいは、より一般的な言い方として、カーボン・プライシングと言う市場的メカニズムを導入することなのだ。冒頭に平尾先生が言われたのは、この意味である。

ご存知の方も多いと思うが、今年に入ってから、EUの「タクソノミー」(分類基準)が、天然ガスと原子力を条件付きで容認する方向になった。これはいわば、妥協の産物である。天然ガス資源は有限だし、ウラン資源だって有限だ。どちらも、真の意味ではサステイナブルではない。しかし従来のように、石炭や重油を燃やし続けるのに比べれば、よりクリーンである、と言う意味で容認している訳である。

こうした状況下で、産油国で製造するブルー・アンモニアも、一種の経過措置として、しばらくは有力であると思われる。いわば産油国と消費国の思惑が合致した形だ。ただし、天然ガスが容認されたおかげで、ガス・パイプラインで資源国とつながっている、欧州や米国、中国、東南アジアなどは、天然ガスのまま利用を継続拡大できる見通しになった。

したがって、燃料アンモニアは天然ガス資源のない、日本のような島国の燃料にとどまる可能性もないではない。カーボン・フリーではあるが、世界的な燃料の中心の座を占めるかどうかは、今のところ不明である。もちろん不明でも、技術開発の努力は続けるべきだろう。上に述べたように、純粋な水素燃料への道は、ハードルがかなり高い。かといって全てを電化することも現実的ではない。エネルギー・トランジション(転換)の選択肢を広げるためにも、いろいろな色の燃料にトライすべきなのである。


by Tomoichi_Sato | 2022-01-31 23:54 | ビジネス | Comments(0)
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