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危険予知:プロジェクト・リーダーに必須の能力として(11月16/23日・PMセミナーのお知らせ)

KYという流行語が、かつてあった。「空気が読めない」とか「空気読めよ」の略で、調べてみると2007年の「新語・流行語大賞」にノミネートされている。

この言葉が流行る前は、じつはKYは労働安全分野の略語だった。『危険予知』の略である。「KY活動」などとも使う。KYが「空気読めない」の意味で流行してしまった後は、あえて「KYK」とよんだりもしているらしい。まあ、地味なおじさん用語では、ネットやJKの影響力に勝てないし。

本サイトの読者で、労働安全に関心のある人は、正直あまり多くないと思う。だから「KY活動」だって、初耳かもしれない。製造業や建設業の現場では、危険を伴う作業を行うので、事故やケガが起きがちだ。いわゆる労災である。そこで雇用者に、労働安全のための監督義務を課している。

労働安全の分野では、「度数率」というモノサシで、安全を測る。これは労働時間100万時間あたりの労働災害の発生件数で、人は年間2000時間近く働くから、ざっくり言って500人規模の事業所で、年間何回くらい災害が起きるかを示している。まあ1〜2程度の数値と思えば良い(全産業平均で1.8程度)。

そして、度数率を下げるために取組をする訳である。労働災害の原因は、本人や周囲の「不安全行動」(これくらい大丈夫だろう、と考えて行うリスキーな行動)であることが多い。そこで安全衛生活動として、4S活動(整理・整頓・清潔・清掃)などと並んで、「危険予知(KY)活動」を行うのである。

典型的なKY活動は、たとえばミーティングで、作業の状況を示すイラストや図面を見せたり、実際の動作をしてみせたりしながら、どこに危険があり得るかを話し合う。そして重点項目や指さし確認などの対策を皆に理解してもらうのである。これをやることによって、危険性(=可能性)が皆の意識の中に、視覚的イメージとして植え付けられるので、それなりに災害防止の効果がある。

危険予知活動は、リスクアセスメント活動の一環であり、その現場レベルでの取組とも言える。じつは日本では2006年に、労働安全のためのリスクアセスメントが法律で導入された。法的な枠組みなので、経営者が主導し、管理職レベルの安全管理者を任命し、推進チームを組織して、職場におけるリスクを評価することになっている。

だが、こうした取組は、現場レベルできちんと実装され、皆の行動習慣に落とし込まれなければ、効果は上がらない。そしてまあ、ここのところが難しい。なぜなら現場とは、納期だの売上だの利益だのといった、別のモノサシでドライブされることが多いからだ。

そしてこれは、オフィスで行うプロジェクトでも同様なのである。PMBOK Guide(R)などを見ると、プロジェクトでは計画段階でリスクアセスメントを行うのが良い、と書いてある。またSIなどの受注型プロジェクトでは、見積提出段階で、一応のリスク評価がなされることとも多いだろう。会社としても、あまりリスキーな、赤字覚悟の仕事は受けたくないからだ。

だが、実際のプロジェクトの現場では、しばしば避けるべき問題が発生する。オフィスだからケガや事故は滅多にないだろうが、病気で倒れるとか、メンタルで休みがちになる人が出て、チームの戦力が落ちる。また疲れや不注意で、品質が低下する。結果として納期が遅れ、赤字に陥るなど、残念ながら珍しくない話だ。

もちろん、プロジェクトを率いる立場になったら、誰だってこうした出来事は避けたいと願う。そのためには、やはりプロジェクトの開始時点で、実際に働くキーパーソン達を巻き込みながら、より具体的なリスクアセスメント、すなわち一種の危険予知活動を行うのが望ましい。

ところが、プロジェクトにおけるリスク・マネジメントは、案外、ガイダンスとなる良い教科書や手本が少ない。その理由は、製造現場の労働安全などと違って、プロジェクトが非定型業務だからだ。毎回、顧客も作るモノも道具立ても違う。プロジェクトには、何らかのチャレンジ的な要素が、必ずある。すべてのチャレンジを、未経験だからリスクと認定して回避したら、プロジェクトが成立しない。

そもそも、深刻な問題はたいてい、二つ以上の原因が重なって起きる。たとえば「冒険的な行動」と「危険な環境」といった組合せだ。だが、トラブルが起きて原因分析をする際、どちらを根本原因とみるべきかについて、じつは判断基準のない組織が多い。こういう企業では、過去に起きたトラブル事例などのLessons Learned(教訓)が、なかなか次に活かしにくくなっている。

また、リスクの洗い出し方法も問題だ。「このプロジェクトで考え得るリスクを出してください」というと、『納期遅延のリスク』などと言う人が、よくいる。だが、納期遅延は結果事象でしかない。何かの理由があって納期が遅れるのであり、それを防ぎたかったら、結果ではなく原因にしたがって、リスクを洗い出す必要がある。たとえば「不慣れなツールによる生産性の低下」とか、「海外調達の機器の納期が不安定」とかいった風に。

しかも、海外調達の機器の納期が不安定だとして、それがプロジェクト全体の工期に影響を与えるかどうかは、それがスケジュール上のクリティカル・パスに乗っかっているかどうかにも依存する。つまり、リスクを評価するためには、プロジェクトの全体像を理解していなければならないのである。

おまけに、プロジェクト・リスク・アセスメントでは普通、リスクの優先度を、
 【発生確率】×【影響度】
で評価する。そう、教科書に書いてある。だが、プロジェクトは毎回個別で、発生確率は統計で得られないことも多い。それに、そもそも、無理な価格や納期で受注したプロジェクトの場合、それ自体がリスク源ではないか。あるいは任命されたプロジェクトのリーダーが頼りなかったら。いずれも確定した事実で、すでに確率=100%である。じゃあリスクと見なさなくても良いのか? 等々。

こういう風に、実際に現場で適用しようとすると、悩んでしまう事があまりに多い。

そこで、プロジェクトを率いる立場になった人達を対象に、プロジェクト・スケジューリングとリスクアセスメントを柱とした、二日間のトレーニングコースを、下記の通り実施することにした。これは、わたしが関わっている「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」のPM教育分科会で開発した、最新のカリキュラムでもある。

主催は浜松ソフト産業協会なので、セミナー開催地は従来、浜松だった。しかし、幸か不幸か、今年はzoomによるオンライン形式で行う。そこで、全国からご参加いただけることになった。有償で、かつ休日に開催するセミナーなので、個人参加には多少ハードルがあろうかと思うが、もし職場のOKが出るようなら、そしてプロジェクトのスケジュール計画やリスクアセスメントの能力を伸ばしたいと思われるなら、ぜひご参加いただきたい。

<記>

研修セミナー名称:
プロジェクトマネジメント研修 ~リスクマネジメント編~

日時:11月16日・23日 各10:00~17:00
講師
  八卷 直一氏(静岡大学工学部 名誉教授)
  佐藤 知一氏(日揮(株) 博士(工学)/静岡大学 客員教授)
  串田 悠彰氏((株)未来生活研究所 博士(工学))

参加申込み:


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by Tomoichi_Sato | 2021-10-10 17:32 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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