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時間を可視化するために(2) 完了よりも着手を見よう

前回の記事「時間を可視化するために」 (2021-09-20)では、ガントチャート上のイナズマ線や、組立中のワークの位置を動かしていくことによって、作業の進捗を「見える化」する工夫を紹介した。

しかし実際には、稼働や進捗率の可視化だけでは、本当の意味での納期問題の発生を、タイムリーに把握できないと述べた。多くの場合、納期遅れが発生する原因は、担当者の能率が悪くて作業が遅れるためではなく、手待ちが生じるためだからである。

そして、手待ちが生じると、プロジェクトの工期は単純な足し算にならない

ここで、簡単なシミュレーションをやってみよう。図のように、前工程と後工程の2段階からなる仕事を考える。前工程は、並行する3つのアクティビティからなる(1a, 1b, 1cと名付けておく)。後工程は、1つのアクティビティからなる。各アクティビティの平均所要日数は、全部、同じだとしよう。

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ただし、アクティビティが着手してから完了するまでの所要日数には、普通ばらつきがある。ここでは単純に、実際の所要日数はサイコロを転がして、出た目の数で決めることにする。2の目が出たら、2日かかるとする訳だ。サイコロの目は1から6まであるから、平均値=(1+2+3+4+5+6)/6 = 3.5日になる。

どの工程も平均値は3.5日なのだから、全体での合計は、3.5 + 3.5 = 7日になるはずだ。そう思って、サイコロを転がし、シミュレーションを1000回、やってみた。

結果はどうなったか。意外にも、全体の合計日数の平均値は、7日ではなく、8.5日(!)になってしまった。最初の推定よりも、2割以上も延びた訳だ。もしも納期7日で約束していたら、相当に顧客に頭を下げなければならないだろう。

ちなみに、前半の工程の完了日の平均は、3.5日ではなく、5日だった。下の図が、その結果を集計したグラフである。

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前工程が、単純に1つのアクティビティだけだったら、完了日の分布は、文字通り1日〜6日まで、均等でフラットなグラフになっていたはずだ。そして平均値は3.5日になる。だが、前工程は、3つの並列アクティビティからなっており、実際の完了日は、3つの中の最長の日数で決まってしまう。Activity 1aと1bが頑張って作業を1日でおわらせても、もし1cが6日かかったら、前工程の完了は、6日になるのだ。

そして、前工程全部が終わらないと、後工程は着手できない。1aと1bのアウトプットはできあがっているのに、1cが遅れたために、2は着手を待たなければならない。どこか1箇所が遅れると、他の作業の頑張りが、ムダになってしまう。

合流のあるアクティビティ・ネットワークの場合、全体の合計日数(の平均値)は、各アクティビティの平均値の合計にはならないことが、お分かりいただけたと思う。理由は、手待ちが発生するからである。

(数学的には、正規分布する複数の変数から、その最大値を取ったものの分布系は、正規分布ではなくβ分布になる。1950年代にPERT/CPMを考案した人達が、アクティビティの所要日数をベータ分布と仮定したのは、こんなところに根拠があったのだろう)

では、実際の仕事では、どんなケースが相当するか。たとえば設計の場合は、上流側から(あるいは客先から)入るべき情報が来ない。製造の場合、必要な部品や製作図がそろわない。こうした理由で、しばしば手待ちが発生する。

ところが、働いている人間はたいてい真面目で賢いから(少なくとも日本の場合は)、手待ちが発生しても、その間、なんらかの仕事を自分で作り出す。それは多少の念入りな準備作業かも知れないし、あるいは全然別の仕事を先食いすることかもしれないが、「ヒマであくびをしている状態」を避けるものだ。

そして、一番まずいのは、このような「仮の仕事」「先食い」なのである。なぜなら、手待ち問題の発生を分からなくしてしまうからだ。だから、単に進捗を見える化するだけでは、なかなか真の解決に至らない。

ちなみに、もともと「見える化」はトヨタ用語である。だが、トヨタの「見える化」は、主に異常検知のためにある。それがムダや、解決すべき問題の存在を明らかにするからだ。そして、異常を検知するためには、何が正常であるかの基準が必要になる。だから標準なくして改善なし、という格言もある訳だ。

トヨタでは、たとえばコンベヤを利用した組立ラインでは、作業者の「作業域」を決めている。そして、ワークが自分の作業域に来ないと、作業が着手できないようになっている。それまでは、「手待ち」状態である。手待ち発生というムダが明らかになるよう、「見える化」されるのである。

逆に作業が止まったとき(あるいは他を止めざるを得ないとき)には、「アンドン」を上げて、ライン全体に知らせる、というのもトヨタのやり方だ。昔、読んだ話だが、ある技術者が勉強のため、トヨタの工場のラインに入って、実際に自分で作業をしてみた。ところが、回りの技能員に比べて、自分はどうしても仕事が遅れてしまう。

彼はやむなく、昼休みを早く切り上げてラインに戻り、午後に作るべき分を、先に作ることにした。生産の足を引っ張り、回りに迷惑をかけないためだ。ところが、そうしていたところを、工場に紹介してくれた人に見つかり、かえって彼は叱られたという。「それは『作りすぎのムダ』です。それは決してやってはいけません」

じゃあ、どうしたらいいのですか、と問い直すと、返ってきた答えは、「アンドンを上げて、作業が間に合わないことを知らせてください」と言われたという。文章には書かれていなかったが、おそらくその場合、ラインの班長などが入って、応援するなり問題解決をするのだろう。

問題が発生したら、必ず支援と解決の手立てを講じてもらえる、という状況を作ることが、進捗問題の可視化の必要条件である。そうでなければ、誰が遅れなど報告するだろうか。「問題が起きたら、その作業をやっている奴が悪い」という無言の圧力がかかる組織文化では、問題はつねに抱え込まれて、可視化されなくなる。

話を戻すと、ふつう進捗のモニタリングや可視化を行う際には、アウトプットの登録/入庫や、作業の完了報告などを、把握することが多い。それはそれで必要だ。だが、じつは完了だけでなく、作業の着手の報告が大事なのである。より正確に言うと、仮作業や先食いを除いて、真に「作業が着手可能になった」ときの着手報告が必要なのだ。

そしてこれが、なかなか難しい。なぜなら、着手報告を上げるためには、「作業指示」が明示されている(その作業に識別可能なオーダーNo.が発行されている)必要があるからだ。トヨタ系の工場ならば、それこそ「かんばん」が一種の作業指示として機能するから、ある意味、これはやりやすい。

ところが、多くの現場では、作業指示はないか、あってもかなり粒度の粗い指示なので、日々の着手をコントロールし切れていない。そこで作業者がモノの在庫や施工図の到着などをベースに、自分で作業順序を決め、着手する。

まして、オフィスで行う設計業務のようなプロジェクト的仕事では、作業の指示(オーダー)という概念自体が乏しい。たとえば読者諸賢は、プロマネや上司から、何か作業を命じられたとき、「ワーク・オーダー」の紙切れをもらったことはあるだろうか? プロジェクトIDと、オーダーNo.とが記載され、やるべき作業の簡潔な記述と、必要なアウトプットとインプットと、期限日が規定されている、紙切れだ。

おそらく、あるまい。いや、紙でなくて電子伝票でも良い。こういう仕組みを完備しているオフィスは、滅多に見たことがない。オフィスでの知的作業はすべて、融通無碍、あうんの呼吸で行われ、着手日も手待ち状態も記録されぬ、「暗闇行軍状態」がわたし達の日常である。

こうした環境では、手待ちの発生も不明だし、その結果、生産性も、ちゃんと測ることが難しくなる。生産性が分からなければ、リードタイムの推定も困難で、だから納期は予測不能、という事態に陥るのだ。

キャパシティ(能力)も生産性も、ふつうは単位時間あたりの数量で測る。そして、仕事を頼む側は、相手の負荷を知りたい。今、どれだけのタスクを抱えているのか。今、使っているその時間は、誰のための仕事に紐づいているのか。もちろん頼まれる側だって、期限の切迫度を知りたい。可視化するなら、こうした面まで、見えるようにするべきであろう。

そのためには、「オーダー」や「チケット」の仕組みが必要なのだ(チケットは、ヘルプデスク・サービスなどでよく使われる仕組みであり、オーダー=指示の一形態である)。

そしてオーダーやチケットには当然ながら、着手と、正味所要時間と、完了の記録が必要になる。その入力を個人の負担にさせないためには、デジタル技術を駆使すべきであろう。バーコードでも、カメラでも、PC操作記録でも何でもいい。そのために最新の技術があるのだ。

わたしが、エンジニアやオフィスワーカーにむけて、To Do List(タスク・リスト)と日誌を使いこなそう、と訴え続けてきたのも、その一環である。タスク・リストこそ、ある意味、自分に対するワークオーダーの明確化だからだ。

わたし達にとって、一番貴重で稀少なもの、それは時間である。誰でも、人生は一度だけで、限りがあるからだ。だからこそ、時間の使い方のマネジメント=時間管理が大事なのである。だが、その目的は、決して時間に吝嗇になることではない。このサイトでは何度も書いたが、時間管理術の一番の目的は、「考える時間」を生み出すためにあるのだ。

なお、時間管理術については、最近、沢井製薬「サイエンスシフト」というサイトに、3回にわたって入門的な文章を書かせていただく機会があった。拙著『時間管理術』(日経文庫)の前半のエッセンス部分を書いたものである。もしご興味があれば、こちらもぜひご覧いただきたい。

時間管理術(1) 時間をあなたの味方にするために

時間管理術(2) タスク・リストの使い方

時間管理術(3) ミーティングを時間どろぼうにしないために


<関連エントリ>
  (2021-09-20)


by Tomoichi_Sato | 2021-09-27 07:48 | 時間管理術 | Comments(0)
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