ガントチャートの「イナズマ線」については、ご存じの方も多いと思う。スケジュール計画を立て、工程表をガントチャートの形で図にしたら、あとは一定期間ごとに、そこに各作業の進捗状況を書き込むのである。 下図は4つのアクティビティからなる簡単なプロジェクトの例だ。企画調査とコンセプト検討は、第4週から始めて6週で終わり、予算確認とレポート作成は7週からはじめて9週の初めに完了する計画だった。ところで、現在は第7週の初めだが、コンセプト検討がまだ終わっていない。事情で着手が1週遅れたからだった。一方、予算確認は1週先行して、すでに完了している。 言葉にするとこんなゴチャゴチャした記述になるが、イナズマ線で描けば明快だ。イナズマ線は、各アクティビティの進捗率にしたがって、50%進捗ならば、作業を表すバーの真ん中に点を、67%ならば作業バーの2/3の場所に点を打ち、それらの点を、縦に線でつなげるのである。このとき、すでに完了したアクティビティについては、100%の点ではなく、現在日付のところに点を打つ。 こうすると縦にジグザグの、稻妻に似た線ができるので、イナズマ線という(英語では単純にProgress lineとよぶことが多い)。イナズマ線が、現在日付(Time now)よりも左に凹んでいるアクティビティは、遅れを意味し、右に出っ張っている部分は、予定よりも先に進んでいることを示している。こうすると問題発生部分が目に見えやすくなるので、定期的なプロジェクトの進捗ミーティングなどで、問題解決に向けた話し合いができる。 作業の進捗というのは、はたの目に見えにくいものだ。だが進捗が遅れると、納期に影響する。だからガントチャートのイナズマ線は、時間を可視化する工夫だと言える。いや、むしろイナズマ線を引かないガントチャートなど、実際の役にはほとんど立たないと言ってもいい。もちろんイナズマ線を「読む」ことのできないプロジェクト・マネージャーは、プロマネの名に値しない。 もともとモノや人は目に見え、五感で知ることがたやすい。他方、時間は目に見えない。でも時間的な制約や納期をもつ仕事は多い。だから、動きや働き、過程や進捗などを、なんらかの位置に変換して、時間を可視化するための工夫が必要になるのである。 ところで、この『進捗の可視化』を、工場における組立工程にうまく応用している例を、見たことがある。数年前、日立製作所の大みか工場を、ご厚意で見学させていただいた。この工場は、電力制御システムなどを製造しており、金属製のキャビネットの中に、電子回路や電源装置、そしてケーブルなどを組み付けていく。細かな部品が多い上に、毎回個別に受注して設計するタイプの製品なので、納期管理も難しい。 ちなみに以前、本サイトでは生産方式を「フローライン型」「フローショップ型」「ジョブショップ型」「セル型」の4種類に分類した。だが、実は第5の種類として、 「ドック型」 というのがある。これは、製造対象のワークが工場の中を移動するのではなく、同じ位置にずっと置かれたまま、加工作業や組立作業を行うタイプである。造船業のドックなどが、その典型で、船はドックの中で次第に完成形になっていく。航空機などもそうだ。 大みか工場のような、比較的大きく重量もある制御盤などの工場でも、ふつうは組立エリアにキャビネットの箱を据え付けて、その中に部品を組み付けていく。つまり「ドック型」生産方式なのである。しかし、なにせ箱の内部に組み付けていくのだから、外から見ても作業の進捗度が見えにくい。 ところが、この工場では、キャビネットを固定位置に据え付けてはいなかった。キャビネットを移動可能なキャスター台の上に置いて、そこで組み立てていく。そして、組立作業の進み具合に応じて、キャスター台の位置を、組立エリアの出口(出荷口)に少しずつ、移動させていくのである。そのためにキャスターにはたしか、移動用のガイドワイヤーがつなげられていたと記憶する。 こうすると、組立エリアの中のどの位置にあるかを見ると、その組立の進捗度がすぐに分かる。ちょうど、ガントチャートのイナズマ線をひく位置のようなものだ。わたしが見たのは少し前で、今もやられているかどうかは不明だが、とても巧みな、面白い工夫だと思った。さすがは日本企業で唯一、世界経済フォーラムWEFの選定するスマート工場(”Lighthouse”)に認定されるだけのことはある。 もっともこのやり方は、組立エリアにそれなりに広い面積を必要とするので、どこの工場でもすぐに真似できる方法ではない。それに本物の船だったら、それこそドックの中を移動する訳にもいかないので、対象が限られているのも事実だ。だが、面白い工夫であることにかわりはない。 わたしは、自分のエンジニアリングの業務にこれを応用したらどうなるかと、夢想してみた。工場づくりのエンジニアリングの仕事は、3D-CADを使って設計するのが基本である。そして、この3D-CADの進捗状況が分かりにくい。社内では3D modelの完成度について、標準的なメジャーメントの取り決めがある。だが、それでも分かりにくいのである。それは3D-CADがコンピュータの「サイバー空間」にあって、目に見えにくいからだ。 そこで、3D-CADのデータが集約される部門の担当者、つまりプラント系なら配管設計、建屋系なら建築設計の担当者が、少しずつ、席を移動していくのはどうだろうか。 「うーん、中村君は出口に近い、あの位置か。北米向けの案件は順調に進んでいるようだな」 「おや、伊藤君は先月からずっと、あの席のままじゃないか。中東向けの案件は設計で問題が生じているらしい」 と、すごく話が分かりやすくなるのではないか・・ だが、わたしはこの「妙案」を、会社に提出することはしなかった。まず、そんな風に人がまばらに座るような、贅沢なオフィススペースの使い方は、とてもできない。だがそれ以前に、3D-CADの完成の遅れは、その担当者自体の問題と言うよりも、その担当者(設計データを集約してCADにインプットする役割)に対する、上流側各部門の遅れが影響しているはずだからだ。 下流側の結果で問題を検知しても遅すぎる。その上流側も遅れを「見える化」しなければ、素早い打ち手はとれない。だが、上流側設計部門の全てのオフィスを、同じように「位置ずらし方式」レイアウトにするなど、経営から見たら論外であろう。 んじゃあ、人が物理的に場所をずらす代わりに、デジタル画面に進捗を表示したらどうなの? そう。もちろん、それくらいは取り組んでいるのだ。設計業務の進捗をEVMS的に定量化し、くどいくらいの頻度で測り、レポーティングする仕組みは、社内にできあがっている。グラフにもなっている。だが、それでもプロジェクトに遅れが発生するのは、なぜなのか? それは、稼働や進捗率の可視化だけでは、ある問題をタイムリーに把握できないからだ。それは、手待ちの発生である。 (この項つづく) <関連エントリ> (2021-05-15)
by Tomoichi_Sato
| 2021-09-20 15:48
| B3 プロジェクト・スケジューリング
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