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モノの「作り方を管理する」システムとは (そしてMESに関するシンポジウムのご案内:10月7日AM)

別段、料理が趣味という訳ではないが、ときおり必要に応じて、自分で作る。得意料理は(やや平凡ながら)カレーである。といっても、スパイスを混ぜるところから始める、それなりに本格的なインドカレーだ。じつは若い頃、留学生寮に住んでいた時に、知人のインド人の奥さんに教えてもらったのだ。

以来、アレンジは時によって変化しつつも、作り方はずっと頭の中にある。材料や配合はほぼすべて、目分量。それでもなんとか仕上がる。

ところで最近、チキン・ビリヤニというインド料理専用の、スパイス・ミックスを入手した。簡単に言うと、カレー風味の炊き込みご飯である。しかし、作り方を知らない。そこでスパイスの箱についていた、小さな文字の読みにくい英語レシピに従い、一応忠実に作ってみた。材料もきちんとレシピ通りの量で、調味料の配合には計量スプーンを用い、牛乳や水も、ちゃんとカップで計る。

出来上がりの味は、まあ、家族から苦情が出ない程度には、まとまった。ただお米の料理なので、火加減や水加減が難しいなあ。それが感想である。

レシピrecipeとは、モノづくりとしての料理の作業手順=『作り方』を示した情報である。レシピには普通、まず「材料表」がついている。製造業の用語で言えば、BOM(部品表)に相当する。そして、材料の下準備、カット、加熱調理、味付け、仕上げ、盛り付けなどの手順が並ぶ。それぞれの作業ステップでは、何がインプットの材料で、どんな調理器具(製造業で言えば機械やツール)を使い、何分間・何度で加熱すべし、といった作業の詳細スペックが並ぶ。

さて、世の中の普通の生産管理システムは、BOM(部品表)データをマスタとして保持しており、製品の需要量から、部品展開して、製造工程や資材購買の指図(オーダー)を生成する機能を持っている。さらに、ここに在庫引当と正味所要量の計算、そしてタイム・バケットと標準リードタイムといった時間軸の計算機能まで加われば、いわゆるMRP(Material Requirement Planning)システムになる。SAPなど、大手ERPパッケージも、生産管理の根幹に、このMRPを発展させたロジックを内蔵している。

ところで、上述のレシピ情報は、生産管理システムの中に、登録・維持されているだろうか? おそらく、NOだろう。元々のMRPの概念は、構造型部品表(M-BOM)までは含んでいた。その中には、子の部品がいかなる工順を経て、親である製品になるか、まではモデル化されている。だが、それがどんなフライパン、いや機械設備を使うのか、何度に昇温して何分間保つのか、なんてことは、MRPの対象外なのだ。

じゃあ、現場の機械の中に、レシピ情報は格納されているのか。それはちょっと違う。焼成炉の中に材料を仕込んで、何度に昇温し何分間維持するか。そういった制御は、手で毎回設定する設備もあるだろうし、あるいは機側盤にコントローラー(PLC)が内蔵されていて、プログラムが保持されている場合もある。

とはいえ、それは、焼成炉という機械単体の手順に過ぎない。レシピとは、複数の材料と、中間製品と、最終製品全体を含み、さらに手作業を含む様々な設備や機械を、カバーしていなければならない。それは、単体の機械の制御システムの範囲を超えるものだ。

生産管理システムの中には、ない。現場の制御システムの中にも、ない。では、レシピ情報は、一体どこに保持されているのか?

答えはおそらく、「作業する人の頭の中にある」、が圧倒的多数であろう。つまり、わたしのインドカレー状態である。わたしのインドカレーは、わたしが作る限り、ちゃんとした味(=品質)で仕上がる。作る時間(=製造リードタイム)も、ほぼ見えている。コストもまあ、材料代と手間賃の合計だから、だいたいの範囲にはいっている。

レシピ(=詳細な「作り方」)は、製造業の三大指標である、QCD(品質・コスト・納期)を、実質的に支配するのだ。そしてレシピが、誰かさんの頭の中に留まっている限り、仕事の成果は、やる人に依存する。その人の習熟度に、依存する。

そこで会社では、新入社員に対して、OJT教育に時間を掛けて、頭の中に叩き込む。そのため、終身雇用のような、人の定着率が高くなる人事制度をとる。こういう論理で、昭和の高度成長期は会社が動いていた。

残念ながら今は、その前提条件が崩れている。現実の日本の工場を見ると、外国人だらけだ。彼らが学んだことを、そのまま一生、その工場で活かし続けてくれるとは、誰も信じていない。また、日本のマザー工場でできていることを、そのまま海外工場に移植しても、日本のような品質の出来上がりは無理だ。つまり、今や日本の工場の多くは、持続可能(サスティナブル)でもないし、拡大可能(スケーラブル)でもない状態にあるのだ。

レシピは、人の頭の中にある。つまり、レシピは熟練工の暗黙知である、と。本当だろうか? レシピというのは、実はきちんとした形式と論理構造が決まったデータではないか。つまり、本来的に形式知であるはずのものである。それを「暗黙知」の状態に落としていたのは、何かの仕組みが足りなかったせいではないか。

実は、そのレシピを登録し維持し、画面や帳票に出力し、人間や機械に落とし込み、さらに実際その通りに進められているかをモニタリングするのが、MES=Manufacturing Execution Systemなのである。これを「製造実行システム」と直訳したのは、致し方ないかもしれないが、内容がちょっと分かりにくい。そこで最近では、MOM=Manufacturing Operation Management(製造マネジメント)システム、という言葉も登場した。ただ、まだMESという用語もかなりの業種で残っている。

ちなみにモノの「作り方」を示す、レシピという用語は、化学工業(とくにバッチプラント)の分野では使われるが、それ以外のディスクリート系(加工組立系)では、あまり聞かない。これに対応する概念は、SOP=Standard Operation Procedure(標準作業手順書)である。このSOPは、その背後に、BOP=Bill of Processes(工程表)があり、BOPはさらに遡ると、M-BOM(製造部品表)を骨組みにして構築される。

MESとは何なのか、MESがあると何がうれしいのかというと、まず第一に、レシピ/SOP(=形式知化された「作り方」)をベースに、誰もが一定品質で、製造作業を進められるようになる。これによって、工場が持続可能で拡大可能になる。経営面からすると、これが最重要であろう。

また工場で製造マネジメントに従事しているミドル層にとっては、MESが上位(本社系)の基準生産計画と、現場の機械制御や人への指示と状態把握とを、半自動でつないでくれる点に、有難さがある。とくに、現場の状態を今までよりもリアルタイムに、かつ正確に捉えられるようになる。ロットトレースとか、オーダーの進捗確認・納期回答なども、ずっとやりやすくなるし、個別の原価把握も正確になる。

そして現場にとっては、SOP・レシピに準じた、より正確な指示が降りてきて、非熟練者でも作業がしやすくなるし、機械と連動してくれれば、より自動化も進みやすいことになる。3K職場が、少しでも楽になる。

(さらに、もう少しMES周辺に詳しい人なら、SOP/レシピの管理だけじゃなく、保全管理のCMMSとか、製造履歴データ保管のHistorianとか、ラボ情報のためのLIMSとかも、MESの領域じゃないか、と指摘されるだろう。まさにそのとおりである。これらも「製造マネジメント」の仕事の一部だからだ)
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もちろん、MESを活用した「スマートな工場」を実現するには、いろいろと乗り越えるべき課題もありそうだ。具体的には、どんな業界でどんな先行事例があるのか、知りたい。そもそも日本では、どんなMESパッケージソフトウェアが売られていて、どんな機能があるのか。こういった情報が、今は極めて欠けている。

そこで、(ここからお知らせになるのですが)、エンジニアリング協会「次世代スマート工場のエンジニアリング研究会」では、今年度の活動の柱の一つとして、

 「製造実行システムMESのの現在と将来」   10月7日 AM(9:00-12:00)

と第するシンポジウムを企画している(現時点ではオンライン形式を想定)。参加費は無償である。

MESは次世代スマート工場に必須の要素ながら、我が国では過去20年間、ごく一部の業界のみの利用に留まってきた。だが今や、IoT技術の普及と、製造業におけるDXの動きとともに、最近ニーズが高まりつつある。ただ、MESの製品や活用事例に関する情報は、極めて限られた状態にある。わたしが共著者の一人として書いた「MES入門」(工業調査会)は、2000年発行で絶版だが、今でも高価な値段で取引されている。

そこで研究会では、内外の有力MESベンダー各社にお声がけし、半日をかけて、各社製品の特徴や、活用事例などを紹介いただく場とし、全体を通したQ&Aセッションも実施することになった。

参加を希望される方は、エンジニアリング協会のこちらのページから申込みいただきたい。
参加企業と詳しいアジェンダについては、上記ページで追って公開する予定である。工場のデジタル化や自動化などに関心のある諸賢のご参加を期待する。

・・うむ、お知らせなので、なんだか文体が固くなってきたぞ。皆さん、お暇だったら、来てよね。いや、お暇かどうかはともかく、こうしたオンラインセミナーは現在、非常に多数企画されていると承知している。ただ、当研究会は、MESに関わるユーザーもベンダーも会員であり、ある意味「チーム・オブ・ライバルズ」として、中立な立場から、このシンポジウムを企画している。その点では、ユニークな試みと信じている。

どうか関心ある大勢の方のご来聴を賜らんことを。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)

by Tomoichi_Sato | 2021-09-17 23:16 | 工場計画論 | Comments(3)
Commented by OBT at 2021-08-26 15:40 x
いつも拝読させて頂いています。
念のためご報告ですが、、、
今回の記事が3つ重複して投稿されています。

10/7のセミナーも参加させて頂きます!
Commented by Tomoichi_Sato at 2021-08-29 22:00
ご指摘どうもありがとうございます。最近、exblogではときどきなぜか、こうしたことが起きるので、こまっています(書き上げた記事だけを表示していると、自分で気づきにくいのです)。重複した記事は削除しました。
Commented by Tomoichi_Sato at 2021-09-17 23:19
本文にも書きましたが、エンジニアリング協会のHPに、参加申込みのためのページができましたので、アップデートしました。
URLはこちらです。
https://www.enaa.or.jp/seminar/52299
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