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優先番号法(ディスパッチング・ルール)とは何か

日本企業は、ボトムアップ型で、現場に大きな権限を与えている、という言い方をよく聞く。「現場力」という言葉も使われるし、企業の強さは現場カイゼンから生まれるとか、三現主義(現場・現物・現実)を大切に守っているから、といった解説も多い。

もっとも、こうした言い方をそのまま受け取るには、少しばかり留保が必要ではないかと、わたし自身は感じている。日本の製造現場に真面目で優秀な人が多いのは、もちろん事実だ。そういう人達は自主性を持って働き、自分自身で問題解決する能力もある程度、持っている。だから、労働者をロボット並みに扱う、米国流のトップダウン型とは、異なるマネジメント・スタイルになるというのも、もっともな話である。

だが、逆に言うと、現場の優秀さや自主性に頼って、いろいろな点で「現場依存・現場丸投げ」になっている面もある、と感じることも少なくない。それはたとえば、次のようなことである:

(1) 製作図面や製造仕様書の完成度の低さ(2D-CADに手書きの修正でも現場は受け取ってくれる)、
(2) 標準作業手順書SOP=Standard Operation Procedureの不在(改善が日常的に行われるという理由で、作られない)
(3) 生産スケジュールの変更が多く、生産管理システムの予定とは別に、現場側で着手順を決めている

こうした習慣は、生産のフレキシビリティを上げている面も、たしかにある。だが実は、製品設計や生産技術や生産管理の仕事が、十分に標準化・デジタル化されずに、現場の人間系に依存している事をも、示している。だから製造業のいわゆる「DX」が、ちっとも進まない遠因にもなっている。

そして、日本のマザー工場を海外に展開しようとした際には、現場側の能力を期待できないため、こうした習慣すべてが、かえって足かせとなるのだ。

いや、それどころか、今や日本国内だって絶望的に人手不足である。工場で働きたい人を見つけるのは、至難の業になってきている。そんな時代に、工場の人達が、言われたとおりに無言でよく働き、優秀であることを期待して、業務を回すのはずいぶん危ないことである。

じゃあ、欧米流のトップダウンで、管理者がすべてを決めて、労働者に指示命令を下すべきだというのか? 働く側はロボットのように、ただ言われたことだけをやれ、と?

——という反論も聞こえそうだから、念のために書いておく。わたしは、前回の記事にも書いたとおり、全てをスケジューリングする必要はない、という考えである。

どうもこの種の議論をすると、トップダウンかボトムアップか、白か黒か、みたいな論調になりがちだ。だが、現場で働く人の「シビルミニマム」やモチベーションのありかをどうするか、という事と、標準や指示を作って下ろすかどうかは、別問題であろう。

オーケストラや合唱団は、指揮者のタクトにあわせて楽譜通りに演奏すると、自主性やモチベーションを失うのだろうか? 俳優は、演出家の指示に従って、台本通りのセリフをしゃべると、ロボット並みになるのだろうか? 逆に、脚本家は集団のモブシーンで、一人ひとりの動きを全部いちいち書いておくべきなのか? 常識で考えれば、どれも答えはNOであろう。

スケジューリングの話題に戻そう。前回の記事で、APS(生産スケジューラ)の適用には、二つのパターンがある、と書いた。生産計画担当者が、全部を細部までスケジュールするやり方と、現場側にある程度の裁量を残すやり方だ。

後者の場合、生産スケジュールでは、ある程度の幅というか枠を決めておき、その枠内では現場側に判断を任せる。典型的な例は、タイム・バケットを1日単位としておき、各工程(作業区)単位の個別オーダーは、その日のうちに終わるならば、着手順を現場のチーフが決められる、といった形だ。

個別オーダーの正味作業時間は、たとえば数十分とか、せいぜい数時間である。だから1日の中で複数のオーダーを処理できる。ただ、標準リードタイムは1日で設定しておく(つまり、朝10時に出来上がろうが夕方5時に終わろうが、次工程に運ばれるのは翌日だ)。そして、1日の中での順番は、現場が決めていい、とする。

現場側には、機械やツールや人手など、いろいろな生産要素の都合から、やりやすい順番というものがある。それを生産スケジュールで、ガチガチにしばられるより、裁量範囲を残してもらう方が生産性が上がるのである。

このようなやり方は、生産順序が全工程で決まっているフローラインよりも、ジョブショップ型の生産方式で求められることが多い(生産方式の種類については、「ライン、ショップ、セル 〜 生産方式を理解する」 2021-05-15 を参照のこと)。

ただし、こうしたやり方には短所がある。一つ目は、全体リードタイムが長くなりがちなことだ。

どんなに短い正味作業時間のオーダーも、リードタイムを1日に設定するわけだから、1つの工順が5工程から構成されたいたら、全体では必ず、5日以上かかってしまう。もしかしたら、その材料を終わった順にすぐ次工程に回せば、1日で済むかもしれないのに、5日かかるのである。だから、受注から出荷までの生産リードタイム(サイクルタイム)が、本来よりも、かなり長くなってしまう。それは競争力の面から見て、ハンディである。

出荷までのサイクルタイムが長くなるということは、工場の中に滞留する仕掛品が増えてしまうことを意味する。これが2つ目の短所だ。工場の中に仕掛品があふれると、どうしても、モノ探しが始まる。それを避けたかったら、所在管理が必要になる。途中で在庫棚に搬送して入出庫する手間が増える。物を探したり、棚まで運んで出し入れする時間は、付加価値には一切、貢献しない。単にコストが増えるだけだ。

そして3つ目の問題点。それは、溜まっているオーダーの中から、着手順を決める判断基準が、実はその工程(作業区)の都合だけで決まっていて、工場全体のことを考えていない、ということだ。着手可能なオーダーの中には、納期ギリギリのものや、すでに遅れているものもあるかもしれない。だが、その工程のやりやすい順番では、後回しになるかもしれない。着手待ちのオーダーが、それでも1日で片付く量の範囲内だったらいいが、もっと滞留が増えたときは、明らかに全体としてはまずい判断になってしまう。

いいかえると、現場の着手順の判断が、局所最適になっていて、全体のベストを考えていないのである。とはいえ、各作業区のリーダーには、工場全体の状況など見えないのだから、それを責めるのは酷なことだ。

この時に役に立つ知恵がある。それが優先番号法である。各工程ごとに、滞留中の待ち状態のオーダの中から、順番付けをして着手(デイスパッチ)していく。ディスパッチング・ルールとも言う。

優先順位付けの指標として、最小作業時間順、最小スラック(納期余裕)順などが用いられている。 そして、この分野に関しては、昔からスケジューリング研究者が、様々な研究や数値実験を行ってきた。その結果、最小スラック順が、平均的に最もパフォーマンスが良いことが、知られている。

「スラック」とは納期までの自由度、あるいは余裕日数を意味する。プロジェクト・スケジューリング分野ではFloat日数とも呼ぶ。すなわち、次の式で決まる量である。

 スラック(自由度) = 納期までの日数―所要製造日数

納期までの余裕がないオーダーから、先に着手せよ。まあ、ある意味で、当たり前のことを言っている。

ただ、この「当たり前」を製造現場で実現するためには、工夫が要ることが多い。つまり、スラック(自由度)の「見える化」の仕組みを作る必要があるのだ。

たとえば、「着手可能リスト」を工程(作業区)ごとに作成する。あるいは、納期余裕率を信号色(青・黄・赤)などを使って表示する。たとえば、青:自由度>67%、黄色:66%>自由度>34%、赤:33%>自由度 などである。

さらに、現品票にも、納期と、工順ごとの所要日数を印字する。仮置場書には、到着順ではなく納期順に置く、などなど。現場でものを見たときに、すぐ、その納期余裕が分かり、かつ、いろいろ溜まっている中から、最小の余裕日数のものを、すぐ取り出せるようにしなければならない。

そして、こういう時にこそ、まさに工場におけるデジタル技術の出番であろう。紙の現品票(一度出力したら変えられない)をRFIDとスマホやタブレットで置き換える、とか、アイデアはいろいろとあり得よう。

全てをスケジューリングする必要はない。ただ、生産スケジュールの中で、現場側に委譲された着手順の判断は、ある一貫した方針に従うことが望ましい。そして、デジタル技術はそのために、役立つ使い方があるのだ。

デジタル技術は、とても便利な道具だ。だが、どこでどういう時に使うかに、知恵がいる。言い古されたセリフかもしれないが、ITは使い方(Know-how)よりも、しおどき(Know-when)の方が、もっと大事なのである。


<関連エントリ>
  (2021-05-15)
  (2021-07-25)


by Tomoichi_Sato | 2021-08-03 23:12 | サプライチェーン | Comments(0)
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