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全てをスケジューリングする必要はない

前回の記事で、日本企業はしばしば、過剰に計画したがる傾向がある、と書いた。その主な理由は、先にお金の出入り(予算)を押さえておきたいためと、リスクに対する不安があるためだ。研究開発や業務改革などは、スコープ自体が柔らかくて、行うべきアクションの内容や仕事量が精度よく見積もれないのに、過剰な細部まで先に決めたがるのである。

似たような事情は、プロジェクト・スケジュールや、生産スケジュールにおいても起こり得る。そもそもスケジューリングとは計画作業の一部だから、まぁ当然と言えば当然である。

この傾向は、日本よりも計画重視の傾向が強い米国発で、日本に持ち込まれたのかもしれない。もともとPERT/CPMなどのプロジェクト・スケジューリングの手法は、1950年代に、アメリカで開発されたものだ。

実は同じ頃、生産スケジューリングの理論においても、アメリカで重要な発見がなされた。それは、ジョンソン法と、ジャクソン法と呼ばれる手法だ。いずれも、RAND研究所における発見である。RAND研究所は米軍系列のシンクタンクであり、当時の作戦研究(OR = operations research)のメッカでもあった。

これについては、かつて拙著「革新的生産スケジューリング入門」で触れたことがあるので、以下その第3章から少し引用させていただこう。


「今日はまず、ジョンソン法の話から始めましょう。

ジョンソン法は、生産管理の本などには必ずのっている、古典的なスケジュ ーリング理論の手法です。ある意味では古典的理論の成果といってもいいでしょう。

今、2段階の工程からなる製造過程を考えます。ジョンソン法は、この2段階の工程に複数の生産オーダーが出ているとき、どういう順序でやれば全体の作業期間が最短になるかを教えてくれます。具体的には以下の手順で順序付けを行います。

(1) 未決定の生産オーダーのうち、工程作業時間が最短のものを選ぶ。
(2) その作業が第一工程なら未決オーダー群の着手順の最初に、また第二工程なら最後に割付ける。
(3) そのオーダーを、未決オーダー群から削除し、(1) に戻る。

こうして未決オーダー群がなくなったら終了です。
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この例では、2つの工程の加工の順序が決まっていますが、製造作業の内容によっては加工の順序を逆にしてもいいものがあります。そのような工程を、ランダム・ショップと呼びます。工程の順序が決められていて変えることができないものは、フロー・ショップと言います。ジョンソン法はフロー・ショップの順序付け手法ですが、これをランダム・ショップに拡張したものがジャクソン法です。

ジョンソン法の考え方を、自由度という観点から解釈するならば、作業時間の最も短いものから順に端に置いていくのですから、『自由度消費が最小になるような順序で着手順を決めよ』ということになります。

さて、このジョンソン法の成り立つ条件は、次のようなものです。
・すべてのタスクの作業時間が確定していること(1点見積り)、かつその見積りどおり変動なく実行できること
・すべてのタスクの納期が同じであること、ないし納期(の優劣)は気にしないこと
・すべてのタスクが着手可能であること (EPST = Earliest possible start timeが同じ)
・タスクが後から次々飛びこんできたりしないこと
・2工程であること (3工程以上には簡単に拡張できない)

このように条件をならべてみると、ジョンソン法が実務上使える範囲はきわめて限られていることがわかります。数学的に最適性が保証されているので理屈としては面白いですが、実用上の価値はほとんどないといっていいでしょう。」


金字塔的な古典理論に、実用的価値がない、などと書いたためかはわからないが、本書は出版当時、スケジューリング学会からは、必ずしも好評ばかりを得たとは言えなかった。スケジューリングの研究者たちは、スケジューリング問題を数学的な最適化の枠組みで解きたい、と言う問題意識を持っているからだ。

しかしわたしは同本の中で、「スケジューリングは最適化の問題ではない」とまで主張したので、議論を呼んだ訳だ。最適化の問題でなければ、一体何なのか。それは、動的な適応制御である。次々に入ってくる注文、時々刻々と変わる生産現場の状況、あるいはサプライヤーの納入、こうした外乱や変動にどれだけ上手に適応しながら、生産していくかを考えるのがスケジューリングだ。

そのためには最適化し過ぎてはいけない。最適化しすぎると、ちょっとした変更に対しても、計画全体がもろくなってしまう。変更の影響範囲が広がるし、再計算にも時間がかかる。むしろスケジュールの中に一定程度の自由度を残して、外部環境や内部状況の変動にうまく適応できるようにするべきだ。——これが同書で主張した私の基本的なスタンスである。

もともとスケジューリング問題は、いくつかの視点から分類 することができる。

機械群における最適な製品生産順序を求めるスケジューリング手法は、対象となる製造オーダの条件があらかじめ全て決められている静的問題と、オーダがつぎつぎ飛び込んでくる動的問題に分類される。

また、作業時間が確定的なものと、確率的なものがある。さらに工程数および加工順序に関して、いくつかに分類される。加工順序が決まっているものをフローショップ、加工順序が製品により前後しうるものをランダムショップと呼ぶ。これら問題の種類により、用いるべき解決手法が異なるのだ。

さらに、スケジューリングそれ自体に、多目的性がある。スケジュールを評価する指標として代表的なものは、
・最大滞留時間(総生産時間):全作業が終わるまでの時間
・最大納期遅れ:製品のうち納期に最もに遅れた時間
・機械の平均稼働率:機械群の稼働率の平均値
などがあり、スケジューリング問題の多目的性を示している。

こう考えてみると、古典理論におけるジョンソン法は、すべてのオーダーがあらかじめ与えられていて、かつ作業時間は確定的で、しかも評価指標は最大滞留時間を一番短くすること、と言う問題を解いていることがわかる。おまけにフローショップで、2工程の工場に限る。とても制約が多い。

だから、実際にジョンソン法を用いて生産スケジュールを動かしている会社というのは、少なくともわたし自身は日本で見たことがない。

古典理論は数学的な最適性が保障されているが、現実にはあまり使えない。そこで90年代以降出てきたのが、APS(Advanced planning and scheduling)と呼ばれるソフトウェア群だ。最適解は保障されないが、少なくとも現実的な規模の問題を、短い時間で解くことができる。

では、この道具を用いれば、あらゆる製造現場の問題を解決することができるか? なかなか、そうはいかないのだ。

マスターデータの整備の手間が大変だ、と言う事はよく指摘される。それ以外に、私は2つボトルネックがあると思っている。

その1つは、生産の実績進捗を、なかなかリアルタイムに把握して、次のリスケジューリング時にフィードバックできないと言う問題。もう一つは、そもそも作業時間自体にある程度、ムラや幅があって、計画の精度が上がらない問題だ。

後者は例えば、なかなか品質が安定しない製造工程や、作業者の技量に大きく依存してしまう工程などで顕著である。工場と言うところは、同じものを同じペースで確実に製造できる、と思い込んでいる人も多い。そういう人は、半導体の後工程などを勉強すると良い。もう昔の話だが、Intel Pentium CPUなど、初期の良品率は10%すらなかったと言う。

そこまで特殊な例を出さずとも、多くの製造現場では、作業時間のブレに結構悩んでいる。そういうところで、すべてを細部までスケジューリングしようというのは、必ずしも得策ではない。

ではどうすべきなのか? APSベンダーの人に聞くと、APSの適用には、概ね2つのパターンがあると言う。1つ目は、計画者が全部を細部までスケジュールするやり方。この場合、スケジュールを現場におろして、現場は単純にその指示に従うということになる。

もう一つのやり方は、現場側にある程度の裁量を残すやり方だ。例えば、タイム・バケットを1日単位で集約し、1日の中の各オーダーの着手順については、現場側の裁量に任せる。こうすれば、作業時間に多少の伸び縮みがあっても、1日の中で収めることさえできれば、現場のやりやすい順序で仕事を流すことができる。

このように、全てを細部までスケジューリングするばかりが、ベストな方法とは限らない。頭のいい計画者がいて、現場は全員、そのロボットのように動く、というイメージは、英米や中国のような中央集権的経営思想の強い国には向くかも知れない。だが、少なくとも日本では、必ずしも受け入れられないだろう。また、作業時間のブレを考えた場合、現実的でもない。

だからといって、現場側にあまりに裁量を残しすぎるのも、いささか心配がある。というのも、製造現場はしばしば縦割り組織になっており、必ずしも各職場が「全体最適」を意識して判断してくれるとは限らないから。

そこで、このような時に役に立つ知恵が必要になる。その一つが、優先番号法である。だが、また長くなってきてしまったので、これについては項を改めて、また書こう。




by Tomoichi_Sato | 2021-07-25 23:14 | サプライチェーン | Comments(0)
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