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プロジェクト・コード制(別名・製番管理)とは何か

前回の記事では、モノづくり産業におけるコト(=仕事)の構造について考えてみた。仕事はアウトプットを出すために行うものであり、そのためにはインプットがいる。そして進めるためには、する人と、機械設備や場所・ツールといった「リソース」を一時的に割り当てる必要がある。そして、マネジメントするために指示と報告のやりとりも必須だ。

さて、モノゴトを「管理」するとは、どういう意味なのかについても、少し前の記事で考察した。対象がモノであれ金であれ、あるいは人であれ、その第一歩は、管理対象をリストアップして、「台帳化する」ことから始まる。

台帳にモノや人を記載するときには、当然、何らかの管理番号をつけることになる。それが資材台帳とか部品マスタだったら、「品目コード」であり、人員台帳とか従業員マスタの場合は、「従業員コード」ということになる。

したがって、もしもコトをちゃんと管理したかったら、最低限、コトに管理番号を付ける必要がある、というのが、必然の論理展開である。

しかし、目に見えもしない「コト」に、いちいち管理番号なんかつけられるのか? そんな洒落たこと、してる会社あるのだろうか。まあ、外資系ならいざ知らず、目に見えぬ物事には無頓着な日本社会で、そんな企業がほんとに存在するのか?

もちろん、あるのである。というか、少なくとも製造業では、かなり多くの企業がやっているのだ。それは、「製造オーダー」に対する付番である。製造オーダーとは、製造現場に対して発行する指示書だ。まあ企業によっては、製造指図書とよんだり、ショップオーダーとよんだり、呼び方はいろいろだが、このサイトでは統一して製造オーダーと呼ぶことにしている。

(わたし達の社会では、人の流動性が低いためか、どうも言葉の通用性をあまり大切にしないらしく、こういう用語を標準化したり統一したりする動きはほとんどない。これが実務に近いマネジメント研究を阻害している一つの要因なのだが、まあ余談だ)

ともあれ、ある程度以上の管理レベルの工場では、現場に対して製造オーダーを発行している。紙の帳票の場合がほとんどだが、会社によっては電子的な指示の場合もあろう。いずれにせよ、そのオーダーの帳票イメージのヘッダ部分には、「オーダーNo.」が記載されているはずである。

もちろん、人間は知的で融通無碍だから、オーダーとか指示書などなくても、自分で動く場合がある。実際問題、インプットとなる部品・原材料が、自分の受け持ちの工程に届いたら、それで作業着手する工場だって、かなりある(とくに零細はほとんどがそうだろう)。

また、働くすべての人が、製造オーダーを受け取る訳ではない。「モダン・タイムス」のチャップリンのように、ベルトコンベヤの側で小さな繰り返し作業をする労働者には、いちいちオーダーは発行しない。ただ、ああした量産型の大工場でも、製造ライン全体に対しては、いつからいつまで、何をどれだけ製造しろ、というオーダーは下されているはず(たぶん現場のチーフ宛に)である。

それでは、製造オーダー=「『モノづくり』というコト」の番号体系は、どうとるべきか。

モノづくりというのは通常、複数の工程からなっている。だから、モノを作っていく各工程(ないし作業Operation)ごとに、番号がいるわけだ。ただし、それらは、[材料a]→[部品A]→[中間製品X]のように連関がある。そうした作業の順序によるつながりを、番号を手がかりに、たどりやすい方が、便利である。

さらに、たいていの工場は複数の品種を扱っている。同じ切削や組立作業でも、扱う対象品目によって、それぞれ少しずつ異なるのがつねだ。ということは、モノにも紐づいている方が便利そうだ。

ただし、その両方を同時に具現化するのは、ちょっと面倒そうだ。図を見てほしい。作業が横に、つらなっている。これは、それぞれの製品を作る流れを示す。製品は1個とは限らず、複数個のロットで作る場合がほとんどだろうが、とにかく、あるまとまりをもって、おそらく別々の納期をもって、流れていく。

縦に並んでいるのは、同種のモノを扱う工程である。つまり、工場内の作業群は、モノという縦軸と、納期という横軸の、マトリクスになっているのだ。それで、管理番号を付番する場合は、縦軸で紐づけていくのか、横軸でまとめていくのか、二種類の選択肢があることになる。
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縦にまとめるケースでは、あくまで、作業を扱うモノに紐づける。つまり、各工程が作り出すアウトプット(部品なり中間製品なり最終製品なり)に準じて、発番する。必要ならば、複数の納期にぶら下がった作業を、製造しやすいロットサイズにまとめて、一つの作業にすることもある。あるいは、厳密なロット・トレースが要求される場合、原料のロット番号単位に作業を紐づけることもあろう(その場合、複数の原料ロットに属する作業をまとめることはしない)。

もう一つは、納期に紐づけて発番するやり方だ。納期とは、計画生産の場合は、MPSにおける製品単位の「生産オーダー」で決まる。また受注生産の場合、顧客の個別のオーダー(注文書番号)で定められる。

そのどちらを取るかは、もちろん、その企業のモノづくりの特性と、何を主眼としてマネジメントしたいか、に依存する。図に示したとおり、モノに紐づける方式は、量産型で、比較的繰り返し性の高い企業に向いている。同じモノを各工程で何回も何回も作る場合は、同種のモノを扱う作業同士の紐づけ、比較がやりやすいからだ。たとえば品目AbCdを扱う作業には、AbCd-NNNのように、品目番号を機軸とした管理番号を付番していく。

他方、製品単位のオーダー(注文)に紐づける方式は、多品種・受注型で個別性が高いモノづくりに向いている。個別性が高いと、扱う品目にかなり違いがあるからだ。

個別の注文毎に、設計作業を経て、モノづくりをする形態を、受注設計生産と呼ぶ。英語ではETO (=Engineer to Order)と略す。産業機械だとか、船舶とか、車両とか、航空機などは、ほぼETO形態である。ある意味、それぞれが異なるので、「プロジェクト型生産」と呼んでもいい。

したがって、あらゆる作業コードを注文番号に紐づける方式を、「プロジェクト・コード制」と呼ぶ。別名、「製番管理」ともいう。製番は製作番号の略だ(例によって、「作番」と略す会社もあり、まあ、呼び方は様々である)。各作業への製造オーダー(指図書)は、そのプロジェクト・コード(顧客新の注文書)単位で独立している。A社への部品と、B社向けの部品を、一緒にまぜて加工したりは、原則しない。

こうしたプロジェクト・コード制(あるいは製番管理)は、基本的にETO生産形態の発想であろう。需要予測(見込)にもとづいて、同じモノを繰り返し作っていくケースで、この方式をとっている企業は、ほとんど見たことがない。

プロジェクト・コード制には、いくつか利点がある。たとえば:

(1) 個別原価計算がやりやすい
(2) 個別納期の予測がやりやすい
(3) 設計変更の影響範囲が把握しやすい

各作業に、同一のプロジェクト・コードが紐づいているのだから、(1)は作業原価を足し算するだけですむ。もちろん、各作業は個別納期に紐づいているから、納期予測だってやりやすい。さらに、設計変更が起きた場合でも、その影響範囲は他の注文からは隔離されているから、明確だ。

他方、欠点もある。たとえば:

(1) 共通購買によるコストダウンが難しい
(2) 部品共通化や作業標準化がはかりにくい
(3) 在庫の複数プロジェクト間での転用がやりにくい

何せ、個別に設計し材料発注するのだから、(1)や(2)はいうまでもないだろう。(3)は、在庫がすべて、個別のプロジェクト_コード(注文)に紐づいているから、やっかいである。というか、基本的に、特定の注文に紐づかないストック在庫、という発想自体が、薄くなってしまう。

もっとも、ここまで読んだIT技術者は、内心、「何言ってんだ、品目コードとプロジェクト・コードの複数キーをもつ構造にすれば、作業は縦横どっちにも集計できるじゃないか」と思ったかもしれない。じつは、そうは行かないのである。コード体系は、そのユニークネスのスコープを、管理範囲が定めることに注意してほしい。

受注設計生産ETOの場合、設計の産物として、品目コードが生成される。だが、この品目コードは、プロジェクト・コード内でユニークであれば、用が足りてしまう(作業上、他と混ざらないから)。つまり、会社全体で、品目コードを統一するモチベーションが、設計者に働かないのである。プロジェクトをまたいで品目コードを統一しようとすると、(じつはわたしの勤務先でも経験したのでいうのだが)大変な労力が必要になる。

話を元に戻すが、両者の違いは基本的に、繰り返し性の大小にある。別の言い方をすると、個別に設計作業が必要かどうかといってもいい。自動車部品メーカーのように、受注生産だが、繰り返し性の高いところでは、プロジェクト・コード制(製番管理)は、さほどメリットを生み出さない。

ただし、世の中全体としては、次第に多品種化に向かい、見込生産から受注生産の形態に、シフトしつつある。これは成熟した産業社会における潮流だ。しかしながら、社内が大量見込生産時代の仕組みのままで残っていると、小回りのきく受注生産に対応しきれなくなる。もちろん、逆も真なりだろう(その方が少ないだろうが)。だから、適切な管理方式を選んで設計することが重要なのである。

世の中に管理職と名のつく人は多い。管理が好きな人の割合だって、案外高いだろう。だが、ここに書いてきたような、本当の意味での「マネジメントの仕組み」を理解し構想できる人は、まだまだ足りないのではないだろうか?


<関連エントリ>
  (2021-04-17)
 (2021-03-16)


by Tomoichi_Sato | 2021-04-25 16:36 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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