人気ブログランキング |

ふーん、デジタル時代には双方向のインテグレーションが必要って事?

前回からつづく)

――ええと、今日このDXチームで議論しているうちに、やっと自分の言いたいことがわかってきました。たしかにウチの社内の各システムの間には、インターフェイスはあります。でも、全体がつながるって、別のことだと思うんです。

情シス次長「意味がまだよく分からないけど。」

――つながるって、1方向だけじゃダメだと思うんです。両方向のループになっていないと。最近のデジタル技術、例えばロボットとか、3Dプリンタとか考えてみてください。プログラムが命令をして、ハンドやノズルを動かすんですが、でも対象物の種類や状態を見て、自分の側の動きも調整できるでしょう?

生産技術「フィードバック制御をかける、っていうこと?」

――そうですね、フィードバックです。動く主体と、働きかける対象との間がループになって、対象のデータが戻ってくる点が大切なのです。それによって、次のアクションを変化させます。そうしないと、物理世界とうまく関われないのです。現実社会は変動が大きいですから。それも、速いスピードでフィードバックが戻ってこないと、役に立ちません。

設計「何を言いたいんだね。」

――例えば製造原価の大半は、設計で決まります。設計部門からは、図面と仕様書の形で、情報が工場に渡ってきます。でも設計者の所には、実際の製造原価のデータが戻っていないでしょう?

設計「だから、早く製造原価管理システムを入れるべきだと、さっき言ったばっかりじゃないか」

――はい。だからこれって、片つながりで、フィードバックループになっていないんです。納期についても同じことがいえます。営業さんが受注伝票を起こして、納期を工場に連絡します。でも現実の納期はさっき言ったような状態で、ちゃんと営業さんに返せていません。

営業「それやってくれると、すごく助かるんだけどな」

――品質も同じです。品質の大半は、工程設計で決まります。でも製造記録と品質データがつながっていないので、生産技術に毎回の品質実績を戻すことができません。サービス部門も同様です。保守の指示は工場から出ますが、お客さんの実際の使用状況は、工場にも設計部門にもすぐには戻ってきません。人事採用だって、同じでしょう。

人事「つまり・・」

――つまり全然スピード感がない、ダイナミックじゃない、ってことです。現実の動きに対応して、いろんな部署がつながりあって協力し、即応できるような能力を作るのが、製造業のデジタル化の目的じゃないんですか。デジタルは伝票や月報や喋り言葉よりも、はるかに速いですし、広く伝わりますから。

品管「たしかに、今の仕組みって、受注から始まって、最後の出荷納品まで、いろんな部署のシステムの間を案件の情報が流れていきますけど、バケツリレーっていうか、水が河を流れていくみたいな、一方通行ですね。」

経営企画「そっか! 会社全体がウォーターフォール型なんだ。それをアジャイル型に変えようってこと? たしかにアジリティって素早さのことですよね。ふんふん、それがさっきのコンサルの人の言っていた、企業のダイナミック・ケイパビリティってことか!」

――かもしれません。中でもとくに、ループが切れていて、データのつながっていないのが、工場の生産管理と製造現場の間なんです。本社の受注オーダーから現場の製造指図につなぐ、生産スケジュールもExcelですし、製造日報と品管日報から製造実績を集計するのもExcelです。

生産技術「ついでに言えば、設計部品表から製造部品表への展開も手作業、製造仕様書からNC加工や搬送ロボットのプログラムも手修正だな」

情シス次長「まあたしかにそれじゃ、アジリティからは全然遠いね。ふーん、デジタル時代には、受注から製造現場、製造現場から顧客サービスの現場まで、双方向でエンド・ツー・エンドのインテグレーションが必要、って事かい。顧客の要求仕様をインプットしたら、工作機械のプログラムや検査器械のセットアップまで、してくれると。そうなりゃカッコいいけど、お金のかかりそうな話だ。」

ふーん、デジタル時代には双方向のインテグレーションが必要って事?_e0058447_23010776.jpg
――でも、すでに海外のライバル会社は、そっちに向かっているような気がします。

営業「それどころか、お客様も最近じゃあ、製品だけじゃなく3D-CADのデータも収めてくれ、なんて言い出しているところがあるよ。今は平身低頭、2次元のCAD図面で勘弁してもらっているけどね」

――あるサプライヤーさんによると、実際、ウチの韓国の競争相手からは、図面のFAXではなく、属性付き3D-CADデータで注文が来るのだそうです。なので、そこから製作図をすぐに展開・作成しているようです。

営業「どうします、設計さん? 既存のCAD図面に手書きでマークアップして、関連部門やサプライヤーに流す時代じゃない、ってさ。最終納品時までに図面をCAD化するんじゃ、時代のスピードに遅れるみたいですよ。」

設計「3D-CAD化は粛々と進めています。しかし、属性まで入力するなんて、技術部の仕事でしょうか。なんでもCADに入力すればいい、というものではないですよ。少なくとも今の人員と出図納期では、とうてい無理です。もし必要なら工場側で入力してほしいです」

生産技術「いや、そもそもCADってのは、図面清書用の道具じゃなくて、CAMとBOM展開のためのフロントエンドとして位置づけてほしいなあ。そうすれば設計納期の考え方も、がらりと変わるもの。」

設計「いや、過去の膨大な設計資産があるのだから、それを活かすことが省力化の道です」

情シス次長「どうやらエンジニアリング・チェーンを製造現場に結びつけるまでには、まだハードルが高そうだね。他に、どこから手を付けたらいいんだろ。」

財務「だから、製造原価管理システムからじゃないですか?」

――やはりそっちの話になってしまうんですね。でも現場の作業時間の実績を取るのが、また難問です・・

品管「あのぉ、質問なんですが、セットアップ時間のコストって、原価はどこにつくんですか?」

生産技術「セットアップって、機械の段取り替えとか、例の画像検査装置の設定替えの作業のこと? だとしたら、次に作る製品の原価だろうな。」

財務「その製造ロットの原価に計上するのが決まりです」

品管「でもそれって、不思議じゃないですか? だって、こないだも工場では、午前中にAラインである製品を作って、終わったと思ったら、夕方Cラインで同じ製品を流し始めたんですよ。連続して作れば、セットアップなんて不要なのに」

――客先からの急な飛び込み変更で、生産スケジュールがたまたま、そうなっちゃったんだと思います。なにせウチは多品種ですから。今、部品加工マスタだけで3万点近くあるんです。

品管「それって、作る製品のためのコストなんでしょうか? セットアップ作業って、工場ではすごく多いんです。それを減らすのも、コストセンターとしての工場の責任範囲なんでしょうか。」

生産技術「もう少し、内作加工で作る部品のバラエティを減らしてもらえると助かるんだけどな。」

設計「設計側としては、個別の客先ニーズに合わせて、部品を1mmでも小さく、1gでも軽くしていくのがミッションです。それが原価低減になるはずじゃないですか。」

――でも確かに、バリエーションが増えると、製造で目に見えないコストがかかるんです。

生産技術「1mm違ったって、NC工作機械のプログラムは書き直さなきゃいけないし、セットアップも変えなきゃならない。コーディングと実作業と教育の手間が増えるよね。」

設計「NCプログラムに、長さのパラメータだけその都度、渡してやるようにできないのか」

生産技術「あのねえ、そもそもNCプログラムってのは、工作機械メーカーによって少しっつ違うんですよ。ウチは昭和時代からの各種機械を大切に使ってるからね。その部品をどの機械にかけるかによって、直す箇所も変わる。どの機械にかけるかは、生産スケジュール次第です。」

設計「だったら、NCプログラムを標準化しておいて、機械ごとに自動コンバータを作ればいいじゃないか。頭を使ってください。」

生産技術「それより、設計で部品をもっと標準化していただけませんか、って言ってるんだけど。」

――そうですね、そうしていただければ、流用設計の手間も減るはずですし。既存の部品を使うほうが、トータルでは安いってことになりませんか。

設計「広い範囲で部品を共通化するのは、今の製品アーキテクチャじゃ無理ですね。設計思想を根本から変えれば別だけれど、そうしたら、過去の設計資産が全部ムダになってしまうから、部門としては絶対に飲めません。それに、そんな事がDXですか」

情シス次長「まあ、多品種化は、製造業の宿命なんじゃないの。」

人事「・・なんだか議論がデッドロックですね。品管さんが去年導入して、コスト低減で社員表彰までもらった画像検査装置なんかは、画像認識でいわばAIの一種なんだから、あれを軸にしてDX展開を考えられませんか?」

品管「DXの目的って、DXをすることなんでしょうか。・・あの、生意気いってすみません。でも、あの装置を入れたのは、コストダウンがねらいじゃないんです。ホントは、あの全品目視検査っていう工程を、なくしたかったからなんです。」

人事「どういう事ですか」

品管「私、工場に配属になって最初にショックを受けたのが、あの検査工程を見たときだったんです。部屋の中に机をぎっしり並べて、大勢の人、それもほぼ女の人ばかりが、一つ一つ部品をチェックしていました。なんだか息が詰まるような気がして。」

生産技術「まあ、あの手の仕事は、忍耐力のある女性向きだからな」

品管「でも、来る日も来る日もずっと、ただ検査用ルーペで部品を全品にらんで、ひたすら欠陥を探すだけの単調な仕事なんです。それって、皆さんは、自分の妹や弟にやらせたい仕事ですか?」

設計「だったらそういう仕事は、中国かベトナムに出せばいいじゃないか」

人事「まあ待ってください。中国人やベトナム人だって人の子ですよ。他に職がなければどんな仕事だってやるでしょうけど、単調でやりがいのない労働って、お金だけが目的になるから、諍いや退職が多くて、労務管理がすごく大変になるんです。」

品管「それで、以来ずっと何年も、あの仕事をなくせないかと考えていました。やっと去年頃から、どうやら何とかウチも手の届く値段で、実用的な精度の機械がでてきたので、誤認識の問題とかいろいろありましたけど、とにかく使えるようにしたんです。」

――それで、精度も上がり、コストも下がったんですよね。

品管「でも、それよりも、単調でつらい仕事を、世の中から一つ減らした、って事のほうが、ホントは自分にとって大切でした。デジタル化って、よく分からないですけど、機械的な労働から人を解放できる、っていう意味なんじゃないでしょうか?」

財務「それがコストに見合えば、ですね」

品管「もちろんそうです。ここは会社ですから。でも工場の中には、目視検査の他にも、人間らしくない仕事がいっぱいあるんです」

経営企画「そういうのって、なんで全部ロボット化できないんですか? 単純にコストの問題?」

――そうでもないと思います。結局、ロボットって、石頭で融通がきかないんです。位置精度も妙に要求が高いし。画像認識もそうですね。それに比べて、人間て器用で臨機応変です。ものを見て、それが何だか判別して、不定形な品物でも適度に手で持って運んでくれますし、位置が少しずれていたって分かります。

生産技術「ロボットって、バリエーションや例外に弱いんだよ。画像認識とか、3Dプリンタとかだって同じ。デジタル化したきゃ、もっと標準化を進めなけりゃ。」

――結局人間がありがたいのは、その場で判断してくれるからです。判断といっても、別に高度なことじゃありません。リンゴかみかんか、皮にキズはあるのか、腐ってたら捨てるべきなのか、たとえて言えばそんな事なんです。

設計「人間の判断には、判別と、決断の2つの面がある。そのうち、判別の方は、AIがだんだんやってくれるようになるから、不要になる。デジタル化で、人間の決断だけが残る、と言うことですか」

品管「決断だって、ルールが決まっていて定量化されていれば、機械に任せられる分はかなり多いと思います」

――そうやって引き算していけば、残るのは、人間が決めるべき大事な決断だけになるでしょうね。データ化とルール化と、自動機械化を進めていけば、人の仕事からきつくて単調な部分が減って、もっと働きやすい職場になるはずです。

人事「デジタル技術は、さっきおっしゃていたように、物理的な世界と直接関わるように進化してきた訳ですから、データ化と自動化によって、人の仕事から、ロボット的な部分を取り除くことになるんですね。それが製造業のデジタル化だと。それって、働くことが楽しい工場・職場を作るんだから、良い話じゃないですか。」

情シス次長「ふーん、そっちの方が近そうだねえ。DXで現場作業のデジタル化かあ。
(そのとき突然、携帯電話が鳴り出す)
はい・・あ、専務! いえ、まだ打合せの途中で・・え? はい、それはもう・・。
(後ろを向いてしばらく小声で話してから、急に皆の方を振り返る)
諸君、専務からだ。方針変更だよ。」

全員「ええ!?」

(次回完結)


<関連エントリ>
  (2020-10-24)
  (2020-11-01)


by Tomoichi_Sato | 2020-11-08 23:48 | ビジネス | Comments(1)
Commented by 通りがかり at 2020-11-09 10:16 x
いつも楽しく拝見させていただいております。
今回の小説、すなわち、工場の情報・データの流れとDXがテーマになっている件、私の仕事上まさにドンピシャの内容でした。半沢直樹よりもおもしろいです。
今後とも、素晴らしい記事を世の中に発信し続けてください!
<< お知らせ:BOM/部品表のマネ... お知らせ:プラントのレイアウト... >>