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製造業のデジタル化に必要な、情報とデータの基本的流れを理解しよう

製造業のデジタル化をめぐる動きが最近、活発である。理由は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉がバズワード化してきたからかもしれないし、あるいは経産省が「2025年の崖」というレポート を発表して、日本企業のデジタル化の遅れに警鐘を鳴らしたことも、後押ししているかもしれない。とにかく企業の経営層が、『デジタル』なる言葉を、普通に口にする世の中になったようだ。世の中全体は不景気だが、そして不景気になるとIT予算が真っ先に切られるのが常だったが、状況が少しは変わったらしい。

まあ、デジタル化の「動きが活発」といっても、今のところはまだ、議論が活発なだけで、実装はまだまだかもしれない。ともあれ、こうした状況は、IT業界にとっては慶事だろう。また、コンサル業界にとっても嬉しいに違いない。しかし製造業各社がこぞって、デジタル化のバスに乗り遅れまいと走り出すと、今度はもう一つの崖というか、ギャップがあらわになってくるに違いない。

そのギャップとは、製造業の情報化に強いITエンジニアやコンサルタントが、とても少ない、という事実である。日本のITエンジニアは、知っての通り3割がユーザ企業の情報システム部門に、残る7割がIT業界に働いている。そして製造業の情シス部門は、ふつう本社にあって、人事・財務・販売・IT基盤など、いわゆる本社と営業部門系のシステムを面倒見ている。工場に情シス部門がある企業は、少数派である。

IT業界の方だって、発注権のあるユーザ企業の情シス部門に顔を向けて、仕事をとってきている。だからいきおい、生産に関わる分野が、不得意になる。製造業向けと言っても、せいぜい製品企画設計部門(これはたいてい本社にある)に、CAD/PLMなどの技術系システムを売り込むくらいだ。泥臭い製造現場に入り込んで、機械騒音の中をあちこち調整して回るような仕事を好むSEは、めったにいない。その証拠に、「設計製造ソリューション展」のような展示会にいっても、設計系と製造系は、感覚的に8:2くらいで、製造系が少ない。

それでは工場の側はどうするか。しばしばあるのが、生産技術部門か製造部門の中に、「パソコン好き」なる若手がいて、自発的に現場が便利になるツールを、ExcelやAccessなどで作り始めるケースである。するとそのうち工場長の目に止まって、いつの間にか「製造IT担当」に昇格し(あるいは命令されて)、生産管理システムなども面倒見るようになる、という姿だ。

こういう人は現場のニーズを肌身で知っているから、作ったけど使われないようなシステムは、生み出さない。しかし、もう少し大きな会社レベルの視点で、あるべきITのグランドデザインを考え、それに合わせて業務のあり方を変えるような訓練は、もちろん受けていない。

こういう状態でいきなり、専務から「生産を含めた全社DX」の指令がおりたら、どうなるか? 専務だって技術屋で、設計開発部門の出身かもしれないが、ITのことも製造現場のことも、たいして知らないダンナである。本社に急遽集められた「DXプロジェクト・チーム」は、さきの現場の元パソコン青年・現「製造IT担当」をはじめ、営業、設計、購買、製造、物流など各部門の、若手中堅の面々である。情シス部門の次長が一応、事務局を務める。

キックオフ・ミーティングで、まずは当社の「あるべき姿」To-Beと、「現状の姿」As-Isを把握して、ギャップ分析をもとに、デジタル改革すべきである、というような話になる。とはいっても、製造業の業務プロセスは、複雑で奥が深い。多数の部署にまたがっている。この全体像の、どこをどう突っつくと、どう改善できるのか。そもそも、As-Isの業務だって、全貌を知っている人など、社内に一人もいないのだ。

一方、専務のオフィスには、おいしそうな匂いを嗅ぎつけた高級戦略系コンサルや、外資系ITベンダーが入れ代わり立ち代わり、訪れる。彼らはDXの通り相場の処方箋、すなわち「デザイン思考+アジャイル開発+MVP(minimum viable product) × AI」で、サイクルを超高速に回せば驚くような成果が現れる、というような話を吹き込んでくる。だが、その気になった専務から紹介されて、彼らとDXチームが対話を始めるが、なんのことはない、製造のことなんかロクに知らないことがすぐに分かってくる・・

あ、念のため、これはフィクションですよ、フィクション。あなたの会社がもっと上手にやられていることは、よく承知しております。

ただ、こうした混乱がときおり生じているのは、製造業における基本的な情報とデータの流れが、あまり整理されていない(少なくとも社会の中で共有されていない)ためだ。だから、どこにどのようなソリューションを当てるべきかについて、ユーザ企業とITベンダーの間にコミュニケーションのギャップが生じる。

実務とITのギャップ、マネジメントと現業のギャップ、本社と工場のギャップ・・わたし達の社会にある
こうしたギャップを埋めるための、概念と技術を提供し、議論の土台を作りたいというのが、このサイトの基本的な願いである。もちろんわたしは会社員だから、エンジニアリング会社と顧客企業とのギャップを埋めたい、という気持ちももって、やっている(笑)。

そもそもソリューションとは、本来は「解決法」であって、課題ありきで発明され開発されたものだ。課題は、A-IsとTo-Beのギャップから生じる。そして製造業における課題とは、個別の企業・業種を超えて、かなり普遍性があるのである(そうでなければパッケージ・ソリューションなるものも、生まれる訳がない)。

そこで、ITエンジニアと実務者のギャップを埋め、両方の人が理解できるよう、製造業における情報とデータの基本的流れを説明してみよう。

まず、製造業の持つ生産の仕組みを、『生産システム』ととらえてみる。システムであるから、インプットと、プロセスと、アウトプットを持つ。以前の記事にも書いたとおり、「生産システムとは、需要情報というインプットを、製品というモノに(あるいは製品の形に具現化された付加価値に)変換してアウトプットする仕組みである」。

では、インプットをアウトプットに変換する仕組みの、中身はどうなっているのか? それは抽象化していうと、直接的な業務である製造プロセスと、間接業務として製造を支援し方向づけるマネジメント・プロセスからなる。

図を見てほしい。左側は、小さな製造業のケースを描いている。経営者がいて、現場で製造をする人がいる。そして企業内では、Plan-Do-Seeの基本的な経営サイクルにそって、情報が流れていく。まず需要情報(受注かもしれないし需要見込かもしれないが)を受けて、経営者が計画を立てて(Plan)、現場に指示を出す。現場はそれを実行し(Do)、その結果を報告する。経営者は生産量・在庫などを把握評価し(See)、顧客への出荷指示を出すと共に、次の計画に反映する。かくして、指示と報告の情報は、両者の間を反時計回りに流れていく。

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しかし零細企業を脱し、中堅あるいは大企業になると、企業は本社と工場に分かれる(図右)。工場内は、工程・作業区単位に分業化が進む。とうぜん、工場の中を束ねるために、スタッフ部門(オフィスにいる工場管理者)が必要になる。工場も社内に複数、あるかもしれない。

本社と各工場との間の情報の流れは、基本的に左の図と同じである。一方、工場内での工場管理者と現場の実行者との間も、よく似たマネジメントのサイクルが作られる。ただ、現場とやり取りする情報は、本社とやり取りする情報とは、粒度や中身が少し異なる。

本社から各工場に降ろされる指示情報は、製品単位が基本だ。製品に、数量と納期が付随している。Whatだといってもいい。ところが、工場管理者から各現場に出される指示は、製品を構成する部品表をもとに、工程展開された、工程(作業区)単位の製造指示に、詳細化される。そこでは工程単位の期限と、必要な人員・機械・金型等の製造資源と、さらに製造仕様や作業手順など、詳細化されたHowが必要である。

逆に、各工程・作業区から上がってくる報告情報も、製品単位や工程レベルで集約して、何がどこまで進捗し、あるいは完成したか、そして品質はどうかを、まとめなければならない。本社を通じて顧客に出荷できるのは、品質がOKとなった完成品だけだからだ。

このように、ふつうの製造業では、業務は3階層になっていて、その間の情報の流れは、それぞれが反時計回りに、2つのサイクルが重なって、いわば「8の字」のように動いていく。

これをもう少し粒度を上げて描いたのが次の図だ。なお、煩雑を避けるため設計業務は略したが、個別受注生産では設計プロセスも入る。また購買と入荷は、サプライヤーとの情報のやり取りだから、サプライヤーの生産業務が、製造の下側に並ぶ。実際には、その中身は、これと似たような三層構造になっている。そして、さらにサブサプライヤーにつながっていく。このように、複数のサプライヤーが鎖やネットワークのようにつながって、サプライチェーンを形成していく。
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さて、ここまでの話では、指示情報・報告情報のように、すべて「情報」と表記してきた。ところで、「情報」と「データ」は別物であり、わたしは意識して区別して使っている。

情報は人に意味をもたらすもので、不定形なものだ。それ自体は紙に書いてあっても、口頭で言ったものでも、かまわない。データは、定型化された記号の並びであって、電子媒体、あるいはゆずっても、せいぜい紙のカードなどでハンドリングされる。データは蓄積・ソート・検索・集計など、機械的処理に向いている。

零細企業では、指示も報告も、口頭や紙の伝票の「情報」だけで、十分、回るだろう。しかし、企業規模が大きくなり、扱う量が増えると、必然的に機械処理に向いた「データ」化していく必要がある。これが『デジタル化』の基本的モチベーションだ。そしてデータを扱う仕組みを、ITシステムとかソリューションと呼ぶ。

しかし、人間が生み出した情報を、定型的な「データ」に転換するためには、ある種の標準化・コード化が必須である。機械に「あれ持ってこい」では通じない。「棚番1234にある品番XYZを、コンベヤ搬出ステーションに置け」になる。そのためには、品目や機械や人員や倉庫棚に関する、台帳を整備しなければならない。

製造業の場合、その中心に来るのは、品目の台帳(マテリアル・マスタ)と、品目間の関係を規定した部品表(BOM)になる。ここができていないと、8の字のサイクルを、データがスムーズに流れず、あちこちで人間が介在しなければならなくなる。人間が介在した途端、スピードは落ちるし、ミスも混ざるし、状況も見えなくなりがちだ。

そして、この情報とデータの流れが、いかにシームレスに統合されているかが、その企業の「デジタル化」を図る尺度となるのである。


<関連エントリ>
 →「データと情報はこう違う」 (2012-07-24)


by Tomoichi_Sato | 2020-10-12 08:15 | サプライチェーン | Comments(0)
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