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欠品を起こさないための在庫手配入門(3)――安全在庫を確保する


前回は、営業所の在庫手配において、「物理的にはそこに存在しているが、近い将来出荷用に予約されている」状態の在庫品、すなわち『引当て』の考え方を説明した。手元にある総在庫量の内、自由になるのは、したがって、まだ引当されていない分である(もちろん不良品はないという前提)。これを未引当在庫量、ないし有効在庫量という。

 [有効在庫量] = [総在庫量] − [引当済み在庫量]

工場の部品在庫などでも、すでに製造オーダーが切られていて、使用予定が決まっている分は、「引当されて」いる状態にある(たとえ仮にまだ、資材倉庫の棚にあっても、近い内にピッキングされて製造現場に払い出される)。だから、MRP(Material Requirement Planning)の資材所要量計算では、各品目について

 [総所要量] − [有効在庫量] = [正味所要量]

という計算をする決まりになっている。この正味所要量から、さらに子部品の総所要量へと、部品表(BOM: Bill of Material)にしたがって展開していく計算を、MRPの部品展開という。

さて、営業所にいるあなたの場合は、できあがった製品在庫だけを相手にしているため、部品展開だの製造オーダーだのといった話は、関係がない。純粋に、現時点での有効在庫量を元に、先々顧客から入るであろう注文の数量(需要量)と、本社から補充供給される予定の数量(供給量)から、在庫量の推移を考えればいい。

あなたは、担当する製品Xについて、現在庫量が24日分、そして来月初に18日分の供給予定があることを知っている(なお、1ヶ月は平均20営業日とする)。だが、現在庫量のうち、11日分はすでに引当されていて、有効在庫量は実質13日分だ。

引当済みの分は、一週間後、すなわち5営業日後に出荷される予定になっている。ということは、今月の需要を1ヶ月分=20日分とすると、そのうち11日分はもう引当済みだから、残る20-11=9日分の需要を、賄えれば良い。手元には13日分の有効在庫があるから、なんとか今月は乗り切れそうだ。今月末の在庫は13-9=4日分まで減少しているだろう。だが、来月の月初には、先月手配した18日分の追加供給があるから、月初在庫量は4+18=22日分ということになる。来月末まで、なんとかもちそうだ。

ただしこのままでは、来月末の在庫は22-20=2日分しか残らない。再来月の早々には、欠品が起きる可能性がある。だから本社に今日、生産依頼をかける必要があると、あなたは判断した。納期は2ヶ月なので、今日頼めば再来月の頭には届く。そこで、製品Xの需要は比較的安定しているという先輩の経験知にしたがい、発注から納入までのリードタイム日数分、すなわち40日分(数量でいうと200個)を、本社に依頼しようとした。

ところが先輩はあなたに、「それだけじゃ、足りないんだ」という。

――なぜですか。200個あれば、次の補充までの2ヶ月間の需要には間に合う計算です。

「計算上は、な。だが世の中、計算通り行くとは限らないんだ。月の需要量が100個と言っても、それは平均だろ。もっと売れる月もある。あまり売れない月もある。たくさん売れたらどうする。たちまち欠品するじゃないか。たくさん売れたら自分が困るような営業所じゃ、ビジネスにならない。」

――てことは、もっと多めの生産依頼をかけろ、ってことですか?

「とりあえずは、な。2ヶ月分ってのは、いわば最低必要な基準の数量だ。それじゃ欠品が起きる可能性があるから、それにゲタを履かせるべきだ。安全在庫ってやつだな。」

――分かりました。それじゃ、いくつ上乗せすればいいですか?

「いちいち聞かずに、自分で調べて考えてみろよ。」

先輩はそう言い残すと、客先まわりに出かけてしまった。あなたは例の、累積需給曲線を描いて考えてみる。需要を表す線は、毎日平均的に売れていく場合、右上がりの 45度の直線になる。横軸も縦軸も、おなじ日数単位だからだ。どの品種をとっても、この図の描き方に従えば、右45度の線になる。それが、この図の利点だ。

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だが、先輩の言うことも分かる。たしかに、多く売れる月もあれば、あまり売れない月もある。売れ行きの良いときは、線の傾きはきつくなるし、逆に、売れ行きが芳しくないときは、傾きは緩やかになるのだ。傾きが急になると、供給線とぶつかってしまう。需要線が供給線を上回るときは、欠品の発生を表す訳だ。欠品を起こさないためには、本社に手配する生産依頼の数量を増やして、供給線を需要線からもっと離す必要がある。

では、どれくらい離せば良いのか? 自分一人では、見当もつかない。仕方なく、あなたは過去1年間の製品Xの出荷量を調べてみることにした。といっても、販売管理システムには、個別の受注オーダーと出荷実績しか残っていない。しかたなく、全部をリストアップして印刷し、手元のExcelに転記して、月ごとに集計してみた。結構めんどくさい仕事だったが、次のような数字を得た。

月  出荷量
  1  89
  2  41
  3 147
  4 122
  5 101
  6 123
  7  70
  8  83
  9 126
 10 114
 11  82
 12 102

ウーン。この先どうすれば良いのかなあ。ともあれ、数字を眺めてみると、たしかにずいぶんバラツキがあることは分かった。安定した需要だ、なんて先輩はいっていたが、一番多い月は、147個も売れている。平均のほぼ5割増しだ。逆に少ない月もある。一番売れなかった月は、41個で、平均値からは6割減だ。ちなみにExcelで平均値を見ると、ちょうど100個になった。まるで作った問題みたいだ(笑)。

だとすると、最大値の147個から見て、ざっくり50個ほど、余裕を見て「安全在庫」をもっておけば良さそうに思える。でも、これって、過去1年分の数字を見ただけの結果だ。それで十分と言えるのか? あなたはだんだん意地になって、先輩の鼻を明かしてやりたいような気持ちになっている。ただ、じゃあ過去3年分を調べるかというと、あんな面倒くさい作業はもう嫌だ。何か、もっとうまい方法はないのだろうか?

あなたは、ネットで検索してみた。すると、安全在庫の計算式というのを見つけることができた。なんとかコンサルタントの日誌から、というようなタイトルのサイトだったが、そこには、発注点管理の場合の適正在庫量は、次の計算式で求める、と図が示されてあった。

 適正在庫の発注点 = 基準在庫量 + 安全在庫量
 
 基準在庫量=手配から入手までのリードタイム期間分(L)
 安全在庫量(安定需要の場合)=
  サービス率:95%    1.65 × 需要量の標準偏差 × √L
  サービス率:99%    2.33 × 需要量の標準偏差 × √L
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手配から入手までのリードタイム期間分(L)、ってのは、2ヶ月分だな。それが基準在庫量になる、と。あなたが考えていた事はそこまでは正しかった訳だ。ただ、安全在庫量のところにある「サービス率」って何だっけ? 以前、先輩が何やら口にしていた気もするが、これも調べてみると、「サービス率とは、顧客の要求に応じて製品を出荷できる割合。欠品率の逆。」と書いてある。

すると、サービス率が95%というのは、欠品する確率が5%ということなのだな。サービス率99%は、欠品率1%だ。どっちが良いのだろう?

2ヶ月分ずつを発注するんだから、まあ平均すると2ヶ月に一度、発注手配をかけるわけだ。すると、サービス率95%なら、20回に1回、欠品が起きる。つまり40ヶ月=3年と4ヶ月に1回ずつ、という訳だ。これがサービス率99%だと、100回に1回、つまり200ヶ月に1回だ。それって18年弱だ・・そんなに先まで、この営業所にいないよな。そもそも、製品Xだって、そんな先まで売れてるかどうかあやしい。じゃあ、95%でいいや。これでも3年は持つわけだから、立派なもんだ。

あとは、需要量の『標準偏差』かあ。聞いたとこはあるけど、どうやって求めるんだっけ。・・えーと、なになに、「標準偏差は、ExcelのSTDEVA関数で求めれば良い」か。親切なサイトだなあ。

言われたとおり、Excelで過去1年分のデータを選択して標準偏差を計算してみると、28.9個という数字になった。それに、1.65をかけて、さらにリードタイム期間の2の平方根をかける、と。2の平方根は、SQRT(2)だな。結果は、67.5個となった。まあ端数は繰り上げて、68個が、適正な安全在庫量ということだ。需要量の平均は1営業日に5個だから、3週間分よりちょっと少ない程度の量だな。

あなたは外回りから戻った先輩に、今月は268個の生産依頼を本社にかけます、また今後(再来月以降)は、在庫量が268個を切ったら、200個ずつ手配をかけることにします、と伝えた。先輩は「わかった」とだけ答え、特にそれ以上、何も言わなかった。サービス率や標準偏差について、聞かれたら説明しようと思っていたので、あなたはちょっと拍子抜けだった。だが、ともあれ宿題は一つ果たしたのだ。

ただ、こういう作業を担当する全部の品種についてやらされたら、たまらないな、とも思った。こういうのは、販売管理システムか何かの中で、自動的に計算してほしい。コンピュータなんだから、さ。この式は、どんな品種にも、当てはまるんじゃないか。それが安定した需要である限り(そして安定需要かどうかだって、コンピュータで計算できるはずなのだ)・・


以上が、欠品を起こさないための在庫手配の顛末である。なお、もう少しだけ注記を付けておく。

(1) サービス率について:

需要量には上限がないので、あたりまえだが、サービス率=100%ということは、理論上ありえない。だから、99% とか95%とか、実用的な目標値を設定することになる

(2) 安全係数と需要変動のパターンについて:

上の式に出てくる1.65とか2.33という数字は、『安全係数』と呼ばれる。これは統計学的に言うと、正規分布において、標準偏差のn倍の領域内の面積比率に対応している。だが、世の中の需要パターンが、正規分布に従うとは限らない。だから本当は、まず過去の出荷量の変動パターンをきちんと分析して、正規分布に近い場合にのみ、使うべき係数である。

たとえば、もっと間欠的な需要(つまり、数ヶ月おきにポツリポツリと出ていくような製品)の場合、上の式の安全係数を当てはめると、在庫が大きくなりすぎる傾向がある。その場合は、別の計算式(ここでは省くが)を使ったほうがいい。

(3) 計画手配時の安全在庫について:

上に説明したのは、「不定期・定量発注」で、発注点方式の在庫手配を行う場合の計算方法である。毎月、定期的に行う「定期・不定量発注」方式の場合は、先の期間の需給量を予測して、計画手配を行うことになる。この場合にも安全在庫の考慮は必要だが、上の式を機械的に適用してはいけない(安全在庫がかなり多くなってしまうはずだ)。計画手配を行う品目は、売れ筋商品の場合が普通だし、季節性を伴うケースもあるだろうから、より深刻な在庫過剰を招く。

同様に、MRPなどの計画生産を行っている工場での部品資材在庫にも、適用すべきではない。この問題については、機会があれば、また別に解説することにしよう。

ともあれ、心に留めておいていただきたいのは、上に述べたような考え方は(在庫理論としては初歩に属するが)、どんな業種のどんな品目にも当てはまる汎用的な式だ、という事である。このような方法論を、『マネジメント・テクノロジー』とわたしは呼んでいる。

マネジメント・テクノロジーの領域は、どんな業界の、どんな会社でも共通に当てはまる。いわば協調領域の知識である。あなたの会社が知らなければ、あなたの会社は見えない損をしている。しかし、ライバルも知らないだろう、と思ってはいけない。少なくとも、海外の有力なライバル企業は、よく知って活用していると想像したほうが良い。日本にはまだ、マネジメント・テクノロジーを教える大学は少ない。だが、欧米では確立した分野だし、中国やアジアの優秀な人材は、そうした国々に留学し、現代的な手法を学んで帰ってきているのだ。

我々だって、気合と根性の「竹槍時代」を卒業し、もう少しモダンの時代に飛び込むべきときが来ているはずである。


<関連エントリ>
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by Tomoichi_Sato | 2020-08-05 21:12 | サプライチェーン | Comments(0)
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