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欠品を起こさないための在庫手配入門(2)――引当てとストック在庫

前回のつづき:)あなたは新米の営業マンとして、営業所の製品在庫の手配担当を任されている。あなたの担当する製品Xは、平均して1営業日あたり、平均5個の需要がある。そして本社に製品Xの生産依頼をかけると、納入されるのは最長2ヶ月先になる。

さて、製品Xの在庫量は月初に24日分(=120個)あった。加えて、先月のはじめ、すでに18日分(90個)の生産依頼を本社に出していた。それは来月初に入荷するから、累積で24+18=42日分(210個)の供給がある訳だ。でも逆に言うと、42営業日(=2ヶ月と2日、再来月の月初め)後には、欠品が起きる見込みだ。

だからあなたは、再来月中に欠品を起こさないためには、やはりここで、40日分(200個)の生産依頼を出しておこうと考えた。ところが、隣の先輩が、「おい、製品Xの在庫のうち、55個はもう引当てしているからな」と、あなたに言うのだ。

在庫の引当てって、なんだろうか?

前回記事でも説明したとおり、在庫問題を考える際には、「累積需給曲線」を使うと便利だ。これは横軸に日時をとり、縦軸に製品量の日数基準(=数量を1日あたり平均消費量で割った値)をプロットしたグラフである。ここに需要(出荷)の線と、供給(生産)の線を書き入れて、バランスを見ていくのに使う。生産管理分野で使う「流動数曲線」のバリエーションだが、縦軸に日数基準を使うのがポイントだ。

ところで、前回の図では、累積需要線は右肩上がり45度の直線で描いた。これは毎日、製品Xが律儀に5個ずつ売れていくならば、正しい。しかし、現実には、そんな風には売れていかない。個別のお客様から、もっと大きな数量単位で、ときどき注文が入っては出荷していくのだ。だから実際の需要線は、図に描くと階段状になる
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上図の例を見てほしい。ここでは向こう3ヶ月分の需給状態を示している。青が需要で、赤が供給だ。需要の正確な予測は難しいから、当初は計画線として、45度の右上がりの青い点線を引いた。しかし、個別の顧客からの注文と出荷の累積線を描くと、青い実線のような階段状になる。5日後と17日後に、それぞれ10日分を出荷した。ちなみに本日は、25日目であるとしよう。

そして、当然のことだが、受注をうけた日と、実際に出荷する日はイコールではない。お客が八百屋の店頭にやってきて、大根を買って持ち帰るような訳にはいかないのだ。顧客は普通、複数の製品をまとめて引き合ってくる。こちらは、まずは価格を見積もり、さらに該当する製品の在庫状況を調べて、納期を回答する。営業所に在庫がない場合は、近隣の営業所から「横引き」してもらうか、あるいは本社に緊急の生産依頼をかけなければならない。そして価格と納期を回答し、交渉して、ようやく確定注文をもらえるのだ。もちろん欠品を理由にその注文を断るという選択肢もありうるが、それはできる限り避けたい。

図でいうと、本日ある顧客から16日分(80個)の注文を受けたが、出荷予定日は10日後の35日目になる。この80個の在庫品は、もう出荷が予定され、「予約済み」状態になっている。

このように、受注日と出荷日の間には、通常、ある程度の日数の開きがある。言いかえるならば、手元には在庫品として物理的に存在しているが、すでに近い将来出荷用に予約されている。これを在庫の『引当て』と呼ぶのだ。

さて、ここで重要な概念を一つ、理解してほしい。在庫には、『ストック在庫』と『フロー在庫』の二種類があるのだ。ストック在庫とは、文字通り、ストック用途であり、まだいつ消費するか、どこに出荷するかが定まっていないような在庫だ。これに対して、フロー在庫とは、具体的な消費予定が決まっている種類を指す。引当てされた在庫は、フロー在庫の範疇になる。

営業所の製品倉庫の中には、じつは二種類の在庫がある。まだ出荷先の決まっていない「ストック在庫」と、すでに出荷予定に引き当てられている「フロー在庫」である。同じ品目でも、この二種類がある。顧客から新規に注文が入った時、割り当てて良いのは「ストック在庫」の分だけである。これを区分できないような受注管理システムや在庫管理システムは、いささか機能不足と言えよう。

また、たとえば本社から営業所に向かって「輸送中」の在庫(トラックの車上や輸送船上にある在庫)も、同様にフロー在庫である。少なくとも、向かうべき営業所は決まっているからだ。だなお、営業所の倉庫に入った途端に、その物品は「ストック在庫」のカテゴリーに戻るかもしれない。でも輸送中はフロー在庫なのだ。から、車上や船上にある在庫を、ストックだと思って勝手に転用してはいけない。

あなたのケースに戻るならば、先輩が、「55個はもう引当てしている」というのは、すでに受注済みの分として、その55個(=11日分)が近い内に出荷され、在庫から無くなってしまうことを意味している。ということは、24-11=13日分しか、手元にはストック在庫がないのだ。これでは今月中に欠品の可能性がある。ただ、来月の月初に既手配済みの18日分が入るので、一息つくことはできるが。

それで、どうすべきか。いずれにしても、本社への生産依頼は不可避だ。じゃあ、何個を手配するべきか。あなたの選択肢は、2つある。一つは、前回の記事で述べたような考え方、すなわち、発注から納入までのリードタイム=2ヶ月間分の数量(製品Xでは200個)を、まとめて手配するというもの。そして、入荷したら、在庫量を定期的にチェックして、残りの数量が2ヶ月分を切ったら、また2ヶ月分を手配する。

そうなると、納入される直前には、在庫はほぼゼロになる。納入直後は、2ヶ月分=200個になる。だから、営業所における製品Xの平均在庫量は、長期的には、その半分の1ヶ月分=100個になるだろう。

だが、もう一つの考え方もある。あなたは、とにかく毎月のはじめに、製品Xの生産依頼をかけるのだ。その時の数量は、累積需給曲線から予測される、2ヶ月後の基準在庫量からの不足分とする。基準在庫量とは、もちろん月初に1ヶ月分(100個)の在庫があることだ。今のあなたの状況では、2ヶ月(40日後)には在庫ゼロになっている。だから、とにかく1ヶ月分100個を、依頼する。来月も同じように、1ヶ月分を依頼することになるだろう。でももし、たとえば翌月末に5日分でも在庫が残る見込みなら、20-5=15日分の手配で良い。

このようなやり方をすると、長期的に製品Xの平均在庫量は、手配量の半分の0.5ヶ月分=50個になるだろう。

営業所の先輩は、「営業部門には『在庫責任』があり、過剰な在庫量を抱えていると、査定でマイナス点をくらう」と言っていた。だとしたら、平均在庫量は少ないほうが良いはずだ。だとしたら、後者のやり方のほうが良いではないか。

いやいや、ちょっとまてよ。あなたは考える。毎月1回、100個からの不足分を頼むより、毎週手配すればいいではないか。基準在庫量を、1週間分の需要量25個とする。週のはじめに、そこから不足している分を補充するよう、生産依頼する。そうすれば、平均在庫量はその半分の12.5個にまで下がっていくはずだ。ああ、なんと名案なのだろう。

さっそくあなたは先輩に、毎週、生産依頼をかけることにします、と報告すると、
「馬鹿じゃないのかお前は!」
と叱られてしまった。

――えっと、なぜですか?

「鉛筆みたいな文房具を手配するんだったら、そういうやり方も分かる。注文すれば、明日くるからな。だが、ウチの製品は本社に依頼しても納品は2ヶ月後だ。来週のことすらよく分からないのに、なんで基準在庫量を1週間分25個にできるんだ。もしお客から26個以上の注文が来たらどうする? たちまち欠品だろうが」

――あっそうか。そうですね。

「そうですね、じゃないだろが。それに本社工場の立場になってみろ。毎週毎週、うちの営業所から小刻みな生産依頼を受け取ったって、月次生産計画にはどうせ全部の営業所からの依頼を集計して、まとめ生産を考えるんだ。生産ってのは、まとめて作るほうが安くなるからな。」

――そうすると、生産依頼の手配の間隔は、月より短くしても意味ないですね。

「そうだ。生産計画のサイクルが月次である以上、それより短くはできない。無理に短くしたら、工場に対しては、月の半ばで追加変更をかけているのと同じことだから、迷惑なんだ。これが商社みたいに、よそから仕入れた商品を売ってるなら別だがな。」

――でも本社の計画サイクルがもっと短ければ、もっと在庫は減らせますね。

「理屈じゃあ、そうだ。だがな、本社工場からこの営業所まで、トラックの配送にかかる運転手の時給やガソリン代なんかは、製品を1個運ぼうが、トラック満載で運ぼうが、コストはほとんど同じなんだ。だから少量多頻度の配送は、相対的にコスト高になっちまう。」

――じゃあ、どうしたら良いですか。やっぱり、月1回ずつ生産依頼するのが良いでしょうか?

「まあ多くても月1回だろうな。ていうか、そもそも毎月、定期的に需給の傾向を見て、足りなそうな分だけ手配するやり方ってのは、要するにベースになる予測が必要なんだ。そいつは手間がかかる。精度も必要だ。製品Xなんか、わりと一定のペースで売れていく商品だし、季節性もあんまりないから、在庫量があるラインを切ったら発注をかける方式でも、十分じゃないのか?」

(ちなみに在庫管理学の分野では、在庫があるレベルを切ったら一定数量発注手配する方式を、「不定期定量発注」とよぶ。また、定期的に在庫の推移をチェックして、不足分を発注手配する方式を「定期不定量発注」とよぶ約束になっている。前者は、ある意味、受動的・簡易的な手配方式であるのに対して、後者は、能動的・計画的な手配方式である。だがそれゆえ、計画=予測の精度が要求されることを、先輩は先輩は指摘している訳だ。

また、この記事の例でも分かる通り、定期不定量での補充手配を行う場合、発注から納入までのリードタイムよりも短いサイクルで期間を設定すると、手配した品目が入荷する前に、次の手配をかけなければならなくなり、難易度が高いので、注意が必要である)

――そうですね。分かりました。じゃあ、製品Xはとりあえず、2ヶ月分の200個を注文しておきます。それで、再来月以降も、在庫量が200のラインを切ったら手配するようにします。

「いやいや、お前さんまだ分かっていないな。それだけじゃ、足りないんだ、」

(この項続く)


<関連エントリ>
(2020-07-20)



by Tomoichi_Sato | 2020-07-26 23:39 | サプライチェーン | Comments(1)
Commented by Kuniyoshi Takahashi at 2020-08-01 10:55 x
大変勉強になりました。
また、教えてくださいm(_ _)m
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