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欠品を起こさないための在庫手配入門(1)――まず、累積需給曲線を理解しよう

あなたは新米の営業マンである。営業所に配属になって、先輩と一緒に客先まわりをするかたわら、営業所の抱える製品在庫の手配担当になった。具体的には、顧客の注文に応じて「出荷指示」を出し、また足りなくなりそうだったら、補充のために本社に「生産依頼」をかける仕事だ。出荷指示も生産依頼も、コンピュータの販売管理システムから入力する。箱詰めとか荷揃え・入出荷などの手作業は、委託先の物流会社がやってくれる。

あなたの担当する製品Xは、平均して毎月100個の需要がある。週休2日で月20日の営業日と考えると、1日あたり平均5個、売れていく勘定だ。

本社に生産依頼をかけると、納入されるのは2ヶ月先になる。なぜそんなに時間がかかるのか、と疑問に思って、先輩に聞いてみた。先輩の説明によると、各営業所が入力した「生産依頼」は、月締めで本社が集計し、翌月の生産計画に反映する。生産計画も月単位で動くし、本社から営業所への配送も、トラックに複数製品をまとめたりするので日数がいるから、最大2ヶ月のリードタイムがかかるという。

ここで、やさしいクイズを一つだそう。今が月初だとしようか。あなたがコンピュターの端末から調べてみると、営業所の手元には、製品Xの在庫が120個あった。では、あなたが本社に依頼すべき生産数量と、その結果起きる事を考えてみていただきたい。

別に難しく考える必要はない。今、製品Xは120個の在庫がある。月間の需要量は平均100個だ。だから今月は間に合う。しかし、来月になったら早々にも、在庫がなくなって、注文を受けても欠品状態になる。たとえ本社に今日、生産依頼を出しても、それが納入されるのは再来月だ。あなたの営業所は、製品Xについて、来月は欠品のため100-20=80個分を売り損なう、ということになる。

この売り損ない(販売機会損失)を防ぐ方法はあるだろうか? 今からでは、方法はない。だとしたら、せめて次回以降は二度と、こういう欠品の事態がおきないようにするしかないと、あなたは考える。

では、あなたが今日、本社に依頼すべき生産数量はいくつかのか?

生産依頼をかけてから納入されるまでのリードタイムが2ヶ月間、ということは、少なくとも、2 x 100 = 200個分を依頼しなければ、次回以降もまた同じ問題が起きるはずだ。だから、最低でもあなたは200個の生産依頼を出す必要がある。さらに、在庫数量はコンピュータの端末を見れば分かるのだから、あなたは定期的に製品Xの在庫レベルをチェックし、残りが200個を切りそうになったら生産依頼をかけるべきだ、と分かる。

このように、在庫レベルを見て、ある数量を切ったら補充のための手配をかけるやり方を取る場合、その基準となる在庫量(=手配数量)は、発注リードタイムの期間内に消費(=出荷)する数量に等しくなる。

 基準在庫量 = 発注リードタイム期間の需要量

では、あなたの営業所における、この製品Xの在庫量の平均値はいくつになるのだろうか?

この計算も、それほど難しくはない。あなたは製品Xの在庫数量が200個を切ると、生産依頼をかける。その後2ヶ月間で、ちょうど在庫はゼロになる。ゼロになったタイミングで、200個が補充される。つまり、在庫数量は、200個と0個の間を、行ったり来たりするのだ。だから在庫量の平均値は、ちょうどその中間、100個になることが分かる。

こういう在庫量の問題を考える際に、よく「ノコギリ状の線図」が使われる。横軸に日付をとり、縦軸に在庫量を取るグラフだ。在庫から毎日、需要に従い出荷されていくと、在庫量は右下がりのスロープで減っていく。そして補充があると、垂直にぽんと立ち上がる。縦軸は数量を取る場合が多いが、金額で表示するケースもある。

だが、わたしはそのかわりに、『累積需給線図』を使うことをおすすめしている。横軸は日付で、そこは同じだ。しかし、縦軸には毎日の需要量と供給量を取る代わりに、期初からの需要量と供給量の累積値を取るのだ。生産管理の分野では『流動数曲線』と呼ぶことも多い。

また、縦軸には個数や金額ではなく、「日数分」を取ることをおすすめする。日数分というのは、数量を、1日あたりの平均需要量で割った値だ。あなたの製品Xのケースなら、1日平均5個の需要があるから、120個ならば24営業日分、という計算になる。

図を見てほしい。これは、会社全体における、ある製品の需給の状態を示している。青い線は、累積需要曲線を示している(ここでは直線的だが)。毎日、1日分が顧客に出荷されていく。赤い線は累積供給曲線で、こちらは生産計画に従って描く。
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供給曲線の傾きが、なだらかだったり急だったりするのは、一日あたりの生産量の変化を示している。傾きが急なときは、高速な製造ラインを使っているとか、あるいは複数工場で生産しているなどの事情を表している。また、縦軸に切片があるのは、期初の在庫量を示している。もちろんこのチャートは、工場単位や営業所単位に、個別に作成することもできる。

そして、ある日の時点で、流動数曲線における供給曲線と需要曲線の縦の差は、その日に会社が持っている在庫量を表している。だから、供給曲線は原則として、需要曲線よりも上にあることが望ましい。供給曲線が需要の下に来ていると、その時点で欠品が生じていることを表すからだ。

また、グラフを横方向に見た際に、供給曲線と需要曲線の差は何を表すかというと、「納期余裕」を示すことになる。これがゼロになっていれば、ジャスト・イン・タイムに供給している訳だ。つまり累積需給曲線(流動数曲線)での、縦の差は在庫量を、横の差は納期余裕を示すのだ。だから、結局、

「生産マネジメントの主要な目標の一つは、需要曲線と供給曲線を可能な限り一致させること」

にある、と言ってもいい。ジャスト・イン・タイムで、かつ、在庫も最小である、と。これが、製品のみならず、半製品や部品を含めた、すべての品目について達成できている状態が、一つの理想だ。

在庫量それ自体の表ではなく、累積需給曲線のようなチャート形式に表現することで、あなたは在庫手配について、時間軸をもって考えることができるようになる。さらにいうと、倉庫の中に静かに寝ている「在庫」というイメージではなく、もっと動的な「フローの視点」を得られることが、より重要だ。

ちなみに、縦軸に日数分換算をとるメリットは、2つある:

(1) 需要のブレが少なく一定の場合、需要曲線がちょうど45度の傾きの線になること
(2) 尺度が共通になるため、複数の品目間の比較ができるようになること

もっとも、日数分を計算するためには、個別の品目の平均需要量をおさえる必要がある。これはまあ、製品については取りやすいだろう。必ず出荷(納品)記録があるからだ。だが、工場内の品目となると、きちんと部品倉庫で入出庫を記録していないと、難しい。もちろん、生産量から部品表をつかって逆算(バックフラッシュ)することも可能だが、現場在庫の処理など、やや面倒ではある。


さて。営業所におけるあなたの話に戻ろうか。あなたは製品Xの在庫量が120個あることを確認して、今から本社に生産依頼をかけようとしている。ところで、じつは先月、あなたの先輩がすでに90個、生産依頼をかけていたことを、販売管理システムの端末から、あなたは知ることになった。すると、来月の月初に、90個が補充される訳だ。てことは、来月末の在庫は、いくつになる計算だっけ。

そう。こういうときに、流動数曲線の表示が便利なのである。月初に120個(24日分)ある。来月初に90個(18日分)入るから、累積で210個(=42日分)の供給線だ。営業所の供給線は、階段状になる(毎日工場から製品が供給されるわけではないので)。それに対して、需要線は、45度の右上がりの線になる。来月末(40営業日後)には、まだ2日分の在庫が残っている。しかし、42営業日(=2ヶ月と2日)後に、両者はクロスしてしまう。それは再来月の月初めだ。
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だからあなたは、再来月中に欠品を起こさないためには、最低でも60-42=18日分(90個)の生産依頼がいるのかな、と考える。もっとも、それではまた来月の頭に手配をかけなければならなくなるから、やはり40日分(200個)を依頼しておくべきかもしれない。

ところが、外出先から隣の席に戻った先輩が、妙なことを言いはじめた。
「おい、製品Xの在庫のうち、55個はもう引当てしているからな」

引当て? 在庫の引当てって、なんだろうか?
(この項続く)


<関連エントリ>
  (2015-01-11)



by Tomoichi_Sato | 2020-07-20 20:18 | サプライチェーン | Comments(0)
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