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IT、OT、ET、そしてマネジメント・テクノロジー

前々回、そして前回と続けて、本サイトのテーマである『マネジメント・テクノロジー』の領域について、あらためて考えてきた。

マネジメント・テクノロジーは、目に見えにくい領域における技術である。わたし達の文化は、目に見えるもの(五感で感じられるもの)に対しては細部にまで徹底してこだわるが、見えない物事や抽象的概念には、いたって無頓着、という傾向が強い。

たとえばカレー屋さんの場合、料理の味と、その材料やレシピには研究を怠らない。しかし客の注文をどうとってどういう順序でデリバリーするか、何をストックし作る量をどう予測するか、といった店を運営する過程や仕組みには、なりゆきで応対する。これが多くの店のあり方だろう。

カレーの料理法は「固有技術」で,店の運営の仕組みは「管理技術」(マネジメント・テクノロジー)に属する。もちろん固有技術(味)は、いわばビジネスのベースで、これが不味ければ商売は成り立たない。しかし管理技術(運営の仕組み)ができていないと、商機に乗って展開することも、急な環境変動にうまく応対することもできず、気づかぬうちに非効率と機会損失を出してしまう。ここが弱いと、皆が必死に働いているのに、なぜか儲からなくなるのだ。

わたし達の社会は、このマネジメント・テクノロジーの存在と、その重要性を見過ごしてきたことで、長い不況を抜け出せずに来たのではないか。それが本サイトの問題意識だ。

そして、マネジメント・テクノロジーは、隣接する3つの固有技術領域、すなわちIT(Information Technology)、OT(Operational Technology)、ET(Engineering Technology)と少しずつ重なり合いながら、その方向性を広げてきた。では、このIT、OT、ETとは、それぞれどのような技術なのか。
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マネジメント・テクノロジーの領域図(再掲)


ITについては、すでにネットの内外に、数多くの情報があるため、いまさらここでは解説不要だろうと思う。コンピュータのハードウェア設計から始まり、OS、通信ネットワーク、ミドルウェア、データベース、そしてその上で活躍する応用ソフトウェア群(とくに業務系システム)の設計・実装・運用技術までが、ここに含まれる。

本サイトでも、随分前だが、『ITって、何?』という連載をのせた。長い記事になっているが、あそこで書いたコアのメセージは、
ITの本質は、データと情報のサイクルを回すこと
である。データとは定型化された符号の並びで、他方、情報とは人間に意味を与える(不定形な)ものだ。だから情報を機械に与えて蓄積・処理できるようにするには、定型化してデータにすることが必要だ。データは上手に組織化し提示しないと、人間に意味をもたらさない。この双方向をうまく回すのが、IT=情報技術である。

固有技術としてのITの基礎を支える科学は、コンピュータ・サイエンス(計算機科学)である。それは数学・論理学から電子工学さらには言語学まで、様々な科学領域にまたがって存在している。だから、大学のコンピュータ・サイエンス学科を卒業して、専門職としてのITエンジニアになる、というのが米国流の普通のキャリアパスである。日本があまりそうなっておらず、大学にも「計算機科学科」がめったに存在しないのはなぜか、わたしはよく分からないが。

さて、これに対して、OT(Operational Technology)とは何か?

OTについては最近、IoT技術に関連して注目されるようになり、世の中にもいろいろな解説が流布している。ネットでちょっと調べただけでも、以下のようなものが出てくる。

「交通手段やライフラインといった社会インフラにおいて、それに必要な製品や設備、システムを最適に動かすための「制御・運用技術」を意味します。」(キーエンス IoT用語辞典

「データを収集・分析し、経営に生かすテクノロジーがITであるのに対して、ハードウェアに働きかけ、制御・運用を行うためのテクノロジーを言います。(中略)OTの構成要素には、PLC、SCADA、DCS、CNCおよびcomputerized machine toolsといった制御装置と、制御装置と産業用ロボット・パワーサプライなどを結ぶフィールドネットワークがあります。」(Mono-watch IoT用語集

「ガートナーは、様々な装置のオペレーションを高度化する技術のことを、OT(オペレーショナルテクノロジー)と定義している。ファクトリーオートメーション(FA)などが、OTの代表例だ。」(日経コンピュータ World IT Watch 2011-09-01)

こう見ると、社会インフラ向けと言ったり産業機械向けと言ったり、定義には幅があっていろいろだ。最後の米国ガートナー社の定義は2011年のもので、中では一番古い。ちなみに現在はこうかいてある:

"Operational technology (OT) is hardware and software that detects or causes a change, through the direct monitoring and/or control of industrial equipment, assets, processes and events.” (Gartner Glossary)

この定義は英語版WikipediaのOperational Technologyの記事にも冒頭で引用されている(日本語版ウィキペディアの記事は、現時点ではその部分的抄訳でしかない)。

ただ、このガートナー社の定義は、わたしの目から見ると、少しだけ制御系や通信系の仕組みに偏りすぎているように感じられる(ガートナーはIT系コンサルティング会社だから、主な顧客はITエンジニアである)。

たとえば、NC(数値制御)のマシンを対象に入れるのだとしたら、その加工プログラムは、明らかにOTに入るはずであろう。そうなると、そのための切削条件決定や、加工ツール・バイト(刃先)の選定も、OTに含まれなければ、おかしい。搬送やチャッキングや検査の仕組みだって、そうだ。こうした機械工学系の加工技術は、現場の熟練者たちの手中にあって、ITコンサル会社には見えにくいのだろうが。

いいかえると、OTとは加工技術や機械制御といった、直接ものづくりに関わる固有技術だと、広く捉えるべきであろう。もちろんNC装置の加工プログラムや、SCADA, PLC、DCS、MES(とくにLower MES)など制御系も、この領域に入る。

日本のIT分野は世界の最先端に比べて遅れつつある、という認識が最近は広まっているが、それに比して、OTの分野に関しては、まだかなり世界的な強みを維持している。この点は強調しておいていいと思う。NC工作機械やマシジングセンタ、ロボット、物流搬送系設備、制御システムなど、世界トップレベルの企業がごろごろいるのが、この分野だ。

最後に、図の下の方に配置したET(Engineering Technology)に触れておこう。ETとは、製品設計や工程設計・レイアウト設計などに関わる固有技術領域である。ここには、機械・電気・制御・建築・空調・化学プロセスといった、いわゆる工学系技術が活躍する。そしてCAD/PLM/BIMなども、この分野のためのツールだ。

もっとも、IT・OTに比べて、ETという用語はあまり広く用いられていない。調べると、たとえば米ARC社は次のように使っているが、これが唯一の用法という訳でもない。

"ARC defines ET as those technologies that comprise digital models. … In the digital data environment of IIoT, engineering technology, those technologies that create virtual models must be included in the convergence conversation.” (ARC Insights, IT/OT/ET Convergence, May 25, 2017)

じつはETという用語が広まらないのには、別に特殊な理由がある。米国の大学教育コースの中に、”Engineering Technology”という学科が、”Engineering”とは別に設けられているところがあるのだ。たとえば英語版WikipediaでEngineering Technologyをひくと、Engineering Technologistという項目に自動転送されて、こういう説明が出てくる。

"Engineering technologists are more likely than engineers to focus on (post-development) implementation or operation of a technology but this is not a strict rule as they often do design original concepts.” (英語版Wikipedia: Engineering Technologist)

設計よりも実装に近い仕事を受け持つ技術職。日本の高等教育で言えば、高専のカリキュラムに近いのかもしれない。ET(Engineering Technology)というと、米国ではこちらのことを連想するらしいのだ。ともあれ、他に適切な言葉も見つからないため、上記の図ではETと表記しておいた。

そしてManagement Technologyは、OT+IT+ETの三本柱の上に乗っており、一部は重なっているのである。重なった部分は、それぞれ
OM(Operations Management)
EM(Engineering Management)
IM(Information Management)
と呼ぶべき領域である。

そして、これら3つのマネジメント・テクノロジーは、日本ではいずれもほとんど教えられておらず、知られてもいない。理工系はもちろんのこと、いわゆる文系の経営学でも、またビジネススクールでも、ほとんど等閑視されている。米国にはちゃんと、OMやEMを教えるコースを持つ大学・大学院があるのに。

なお、ITと重なる領域を、IM(Information Management)と表記したが、この言葉はプラント・エンジニアリング業界では、ある特殊な狭い領域の業務を指すことがある。本当はより一般的に、DM(Data management)とか、KM(Knowledge Management)などと併用すべき用語に思われる。

そして、図中には、他にもSCM(Supply Chain Management)PM(Project Management)MM(Material Managemen)といった、やはり物づくりに関連するマネジメント・テクノロジーの領域を入れておいた(ただし図中の位置は場所的に散らしているだけで、必ずしもPMがIMとEMの中間にあるという意味ではない)。

ちなみに、上の説明ではOTに属するPLC/DCS/SCADAや、ETに属するCAD/PLMなどを、ITとは別のものとした。だが、これらはみんなコンピュータのハードとソフトで実現するものだから、ITの一部ではないか、という議論もあるだろう。

しかし現実を見ると、業務系システムと、制御系・組込系システムと、科学計算系システムでは、作る人達も売る企業も、業界的に分かれている。技術の要素も相当に違っており、昨日まで製造原価報告書を設計していた人が、今日から偏微分方程式の収束計算を設計できるかというと、まあ無理であろう(逆も真なりだ)。繰り返すが、図中の「IT」は、主に業務システム系の領域を主に意識している。ITとOTの融合が語られはするし、そうした動きを否定するつもりはないが、それは、建築と機械の融合、くらい大変な話であることは理解しておいたほうがいい。

ともあれ、これがマネジメント・テクノロジーの領域の見取り図である。固有技術の領域では、日本の技術者たちはそれなりに優秀だ。みな真面目だし、ほぼ例外なくハード・ワーカーでもある。だが、縦割り組織と分業病におかされているため、固有技術を束ねて、全体をオーケストレーションする部分が弱い。オーケストレーションの技術、それがマネジメント・テクノロジーである。

もちろん、マネジメント・テクノロジーを学ぶとしても、この図の全部に通暁する必要はないし、そんなスーパーマンもいないと思う。ただ、わたし達は、自分が何を知っておらず、どこを探しに行けば先人の知恵を学べそうか、その方角を知るために、こうした地図を必要としているのである。


<関連エントリ>
 →「マネジメント・テクノロジーの領域を知ろう」(2019-10-05) https://brevis.exblog.jp/28610522/
 →「マネジメント・テクノロジーの技術地図を見渡す」(2019-10-13) https://brevis.exblog.jp/28623704/
 →『ITって、何?』https://brevis.exblog.jp/i12/


by Tomoichi_Sato | 2019-10-20 17:36 | ビジネス | Comments(1)
Commented by Tomoichi_Sato at 2019-10-28 22:20
なぜか同じ記事が2つ重複して表示されてしまったので、片方を削除します。そちらの方にコメントしていただいた方がいらっしゃるので、恐縮ですがこちらにコピー&ペーストいたします。ご了承ください(佐藤知一)

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見習いPM at 2019-10-23 22:38
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早速の更新興味深く拝読しました。あまり気の利いたことは言えないのですが、学術的な蓄積を踏まえた大胆なモデル化と感じました。

貴サイトのテキストから多くを学んでおり、敬意と感謝の念をお伝えしたく今回コメントを残した次第です。マネジメントの話題だけでなく、例えば「よいとき」の存在も貴サイトから知り、愛用しております。今後もご健筆を振るわれることを願っております。

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