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マネジメント・テクノロジーの技術地図を見渡す

前回の記事では、技術(Technology)とは2種類あり、固有技術と管理技術に分類できる、と書いた。わたし達が大学の工学部などで習う技術のほとんどは、固有技術である。これは対象分野に固有の科学法則に基づくテクノロジーだ。これに対し、管理技術(Management Technology)とは、仕事の仕組みそれ自体に関する技術で、たとえば、プロジェクト・マネジメントの分野では、CPM(Critical Path Method)やEVMS(Earned Value Management System)などがこれに相当する。

わたしは大学でプロジェクト・マネジメントを教える際に、いつも「この講義で教える内容は、ほぼすべて社会人になってから学んだことで、わたし自身は大学ではほとんど教わった記憶がありません。だけれど、それでは非効率なので、こうやって大学に来て皆さんに講義をしているのです」と説明している。

実際のところをいうと、大学の学部生レベルでは、プロジェクト・マネジメントの講義をしても、あまり響かない。人と一緒に仕事をして苦労した経験が乏しいからだ。これが大学院の修士課程くらいになると、一度は「卒論」というチャレンジを経験した後なので、少しは話を聞く態度に身が入る。そしてもちろん、一番皆がちゃんと学ぶ姿勢になるのは、社会人大学院生や、企業相手の講義のときだ。

まあ、だからといって大学での講義が全くムダだとは、思っていない。アーンド・バリューだのクリティカル・パスといった概念の意味は忘れても、いざ自分が卒業して、仕事で問題に直面したときに、「そういえば、昔なんだかこれに関連する話を聞いたよな」と思い出せれば、あとは自分で探して調べることができる。

自分が本当にニーズを感じているときほど、良い学びの機会はない。このとき、頭の中に、たとえぼんやりとでも「技術の地図」のイメージが残っていれば、(ああ、あっちの方に探しに行けばいいんだな)と、希望を持つことができる。技術者という人種は、「技術的に可能だ」という希望を持てることが、いちばん大切だからだ。そして優秀な人なら、自分で調べて勉強していく。

しかし、わたし達の社会では、管理技術をほとんど大学で教えないため、そうした技術の地図を知らないまま、世の中に出てしまう。つまり、そもそも「仕事の仕組み」には技術があること、人・モノ・情報などの配置と流し方に、ちゃんと先人たちの叡智と工夫があることを、知らないのだ。その結果、各人がゼロから車輪を再発明することになる。いや、それどころか、「リーダーシップ」「気合と根性」でなんとか乗り切れ、という話がまかり通る。

これに関して、わたしがよく使うたとえは、オーケストラの指揮者である。指揮者という仕事は、ちょっと見たところ、リズムに合わせて棒を振っているだけで、誰でも(楽譜さえ読めれば)できそうに思える。自分では笛を吹くわけでもなければ弦をこするわけでもなく、何の音も出さない。そもそも、管楽器や弦楽器の演奏技術も持っているまい。ただ、オケに指揮棒で指示を出すだけである。

では、指揮にはとくに技術はないのか。指揮者は、どのように育成するのか?

日本の組織では、幹部やリーダーの地位に登っていく人を、「ジェネラリスト」として育てるところが多い。その典型は官庁で、「キャリア職種」と呼ばれるエリート候補生たちは、2〜3年ごとに部署を変わっていく。しかも前職とろくに引き継ぎもしないことが多いので、役人と付き合う民間人たちは、相手が変わるたびに一から説明し直しになる、という。

技術者の場合、専門的な仕事を覚えて一人前のプロとして通用するには、ふつう10年くらいかかる。それがスペシャリストというものだし、医師や弁護士だってそうだ。それなのにキャリアと呼ばれる人たちは、わずか2〜3年の間で、その領域の仕事を概略理解し、何らかの成果を上げて次のポジションに進んでいく。だから、こうした制度は、彼らエリート層の優秀さの証左なのだ、という説明も聞いたことがある。優秀かどうかはともかく、スペシャリストを束ねて指揮するのは、ジェネラリストだ、という思想がそこにある。

こういう話を聞くたびに、じゃあ日本社会では、オーケストラの指揮者もジェネラリストとして育てることになりそうだな、と思う。指揮者のキャリアパスは、まずビオラで3年、次にフルートで2年、さらに打楽器とトランペットなどを経験し、最後に第一ヴァイオリンでコンサートマスターを5年ほど務めた後、めでたく指揮者の地位になる、と。

こんなバカなやり方で指揮者を育てる音楽界は、世界中どこにもない。指揮者は、専門家であり、指揮は専門技術だ。音大には指揮科があり、そこで指揮の理論や技術を学ぶ。それから指揮者の見習いとして、先輩について指揮法の実際的なスキルを学んでいく。たしかに、ときにはピアニスト出身の指揮者やヴァイオリニスト出身の指揮者もいる。だが、彼らだって、ちゃんと指揮法を学んで棒を振っているのだ。ただやみくもに棒を振ればついてくるほど、オーケストラという集団は甘くない。

人が集団で仕事をするとき、とくにその専門分野が多岐にわたり、規模が大きくなればなるほど、専門的なマネジメントの技術が必要になる。そして、そこには理論もあるし、学ぶことも、伝えることも可能だ。

では、そうしたマネジメント・テクノロジーを学ぶとしたら、それはどのような範囲をカバーすべきか。いいかえると、「技術の地図」は全体として、どのようになっているのか。

もちろん、それはかなり広い領域にまたがることになる。プロジェクト・マネジメント(PM)はその一部分にすぎないが、それだけでもPMBOK GuideやP2Mなど、分厚い教科書的な本がいくつも存在する。

そこで、ここでは一般的な製造業における物づくり分野について、その全貌を考えよう。また、マネジメント・テクノロジーを考える際には、隣接する固有技術との関係で理解したほうが分かりやすい。わたしの考える、物づくりに関わるマネジメント・テクノロジーの領域と、隣接する固有技術との関係マップを示しておく。

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隣接する3つの固有技術とは、以下の3つだ:
IT(Information Technology)
OT(Operational Technology)
ET(Engineering Technology)

それぞれが具体的に、どのような種類の技術領域を表すかについては、長くなりそうなので、次回書くことにしよう。
(この項続く)


<関連エントリ>
 →「マネジメント・テクノロジーの領域を知ろう」(2019-10-05) https://brevis.exblog.jp/28610522/
 →「オーケストラの指揮者かジャズ・バンドのリーダーか - プロジェクト・マネジメントの4つの類型を知る」(2014-02-02) https://brevis.exblog.jp/21641066/


by Tomoichi_Sato | 2019-10-13 15:32 | ビジネス | Comments(1)
Commented at 2019-10-16 22:00 x
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