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敗北から何を学ぶか 〜 その2・結果よりもプロセスに学べ

--敗北から学ぶために必要な方法にも、いくつかある。ここでは4つぐらいあげようか。

まず第一に、勝敗の結果だけではなく、プロセス中間目標を設定しておく。本当はこれは、戦う前に、やっておく必要がある。その上で、個別の戦局や、あるいは全体における達成度を吟味する。

「どういうことですか?」

--つまりさ、ローマは1日にしてならず、というだろう。たとえば何でもいいけど、大学受験を例に取ろうか。難関の名門校に入りたい、と。そうしたら、受験科目のどれが得意か、どう勉強するのか、予備校には行くのか、考えるだろう? また、模試を複数回受けるとして、現役1回目は何点くらい、2回目は何点、と想定して、直前模試でA判定になればいいはずだ。

こう言う風に、単なる勝ち負けだけでなく、プロセスと中間目標を設定する。そして、途中途中で、目指した通りに進んでいるか検証する。うまくなければ軌道修正する。仮に現役では合格できなくても、もう一度チャレンジするべきか、考え直す。そして反省点を翌年の試験に生かそうとするだろう・・それなのに、受験生のときにはできていたことが、ビジネスマンになるとすっかり忘れてしまうとしたら、奇妙なことだ。

「確かにそうですね。でも、その中間目標というのは、実際にはどう立てたらいいんでしょう。ビジネス上の戦いは、受験ほど単純じゃありません。偏差値の表もなければ、予備校の模擬試験もありませんし。」

--もちろんだ。だから2番目に大切なことは、適切な戦略を選んでから、中間目標に落とし込むと言うことだ。

「戦略を選ぶ、ですか? 戦略って、毎回個別に考えるものかと思っていました。」

--もちろん、そうさ。そうだけれども、戦略にはある種の定石ないしパターンがある。まあ、戦略論は多岐に渡るから、ざっくり簡単なパターンに絞って説明することにしようか。

たとえば市場における競争戦略は、その会社の立場によって異なる。チャンピオンの戦略と、挑戦者にとっての戦略と、ニッチプレイヤーの戦略は異なる。あなたのところの会社は、チャンピオンかな、それとも挑戦者か、ニッチプレイヤーなのかな?

「えーと・・あまり考えたことがありませんでした。今回の戦いに限って言うと、トップ企業じゃないから、チャレンジャーかなぁ。」

--なるほど。どんな業界も大体、少数のトップ企業と、それに次ぐチャレンジャーたちと、多数の小さなニッチプレーヤーからなる、いわばピラミッド構造になっている。

業界のトップ企業は、その規模を生かして、製品もフルラインナップを揃えているし、営業ネットワークもあるし、物量を生かしてローコストで大量生産ができる。だから最終的には価格競争に持ち込んで、顧客を囲い込む。これを『コストリーダーシップ戦略』という。戦争に例えるならば、正面攻撃の戦術といってもいい。

「はい。」

--一方、チャレンジャーたちは、正面から価格競争を挑んでも、勝てそうもない。そこで普通は、『差別化戦略』を考える。大手が販売する製品とは、かなり異なった特徴のある製品を売り出して、価格とは別の面で顧客に訴求する。側面攻撃の戦術と言っていいだろう。

「確かにある意味で、僕らが戦う上でとっていた方策は、差別化を志向したと言ってもいいかもしれません。意識してやったわけではありませんが。」

--なるほど。そして大多数の、中小零細規模のプレイヤーたちは、ある狭い局地的範囲内のみに、自分たちの持てる経営資源を集中して、そのニッチなマーケットだけは死守しようとする。例えば顧客との長いつながりで商売を続けている、地方の老舗の商店を考えればわかるかな。あるいはごく特殊な製品のみを扱う、その分野でのみ全国的に名の知られている企業なんかも、これに近い。いわば局地戦、ないしゲリラ攻撃の戦術だ。これを『集中戦略』という。

そしてこの3つの戦略ごとに、立てるべき方策も、中間目標も異なっている。
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「なるほど、そういう風にロジックを持って考えると、中間的な目標も立てやすいですね。」

--ただしね、ここに挙げたのはパターンに過ぎないから、実際には具体的に何をどうするかを考えないと、戦略の名に値しない。戦略とは、固有名詞が入って初めて、役に立つものだ。

たとえば第二次大戦中、ドイツ軍に占領されたフランスを奪還するために、連合軍が作戦を考えるとしよう。その時、側面攻撃しよう、フランスの大西洋岸から上陸だ、だけでは戦略とは呼べない。具体的に、カレーを攻めるのか、ノルマンディーから上がるのか、それとも別の攻略ポイントを探すのか。具体的な地名と、時期と、兵力と、方法がなければ、戦略にならないし、準備もできない。わかるだろう?

「たしかに。」

--もしも、あなたの会社がチャレンジャーで、差別化戦略を志向するなら、どのような訴求点を持つべきか。どの程度他社を引き離すべきか。それによって得られる金銭的なアドバンテージはいくらぐらいか・・といったことについて仮説を立て、目標設定して、検証していくんだ。

戦略とは仮説だ。「こう戦えば、きっと勝てるはずだ」という仮説だ。だがしばしば、仮説には間違いがある。だから途中途中で検証しながら進む必要がある。人間は誰だって、自分たちが有利であると言う思い込みにとらわれやすく、そこから間違った仮説が生まれやすい。したがって、仮説を文字に残しておくことがとても重要だ。

「でも、方針というのは、いったん書面にすると、仮説どころか、絶対化されやすいですが。」

--そうだね。だから、3番目に大事なのは、戦いを始める前に、状況を客観的・数値的に分析しておくことになる。たとえばマーケットの戦いならば、敵は誰と誰で、どういった商品を揃えていて、どんな販売チャンネルを抱えているのか。これまでの売上高や、受注確率はどれくらいなのか。顧客はどんなセグメントからなっており、どういう好みを持っているのか。こうしたことを事前に分析しておかなければいけない。

「具体的には、例えばどんなことですか?」

--そうね。例えば営業における受注競争なら、過去の勝率はどうだったのかという事さ。もしも自社の平均的な勝率が約3割で、今期の受注目標が10億円だったら、最低でも合計33億円以上の可能性のある競争案件を、営業リストに載せなければ、目標は達成できない。また、既存顧客には強いのか、大型の案件には弱いのか、といったことも分析の対象だ。

「それってでも、案件ごとに条件が違うと思います。確率なんか言われても、個別の現場担当として役に立ちません。問題はむしろ、勝敗の質じゃないか、って感じるのですが。」

--勝敗の質ね。そう言いたい気持ちはわかるよ。でも、あなたは製造業の人だから、あえて尋ねるけれども、じゃあ不良品はモノの質が低く、良品はモノの質が高い、と言えるだろうか。むしろ、検査結果にデコボコがあって、予測し難い点に、問題があるのではないか。つまりモノの質ではなく、プロセスの質を上げるべきではないか。

同じように、個別の戦いの勝ち負けだけが問題なのではなく、勝敗が予見し難いことが問題ではないのか? そうなると、自社の体制や人材も、前もって適切に準備できないだろう。それはやはり、プロセスの問題なのではないか?

「つまり、事前にもっと計画しておけ、ってことですね。でも、ウチのボスは、『どうせ計画した通りには現実なんか運ばないんだから、計画を立てるなんて時間の無駄だ。現場を見て状況に応じて考えればいい』と、つねに言っています。」

--もちろん現場を見て考えるのは、いつでも大切だ。しかし、計画抜き・現場判断、というやり方が通用するのは、ごく小さな戦局か、あるいは自社がリーダーで、戦い全体を自分たちの思惑通りに運んでいるときに限る。連合軍がノルマンディーに上陸するか、カレーに上陸するかを、現地を見て決められると思うかい? 上陸する兵士や機材を動員するのに、数カ月はかかる。上陸地点によって、必要な装備も違うだろう。数字に基づいた計画がいるんだ。

第二次大戦の英雄だった米国のアイゼンハワー大統領は、「計画通りに現実は動かない。しかし計画を立てるプロセスは絶対に必要だ」と言っている。君の上司との違いがわかるよね。

「たしかに、違いはありますね。」

--計画のための情報収集と分析は、分担を分けた方が良い。なぜなら分析は、総合的な情報を集めて行うべき仕事だからね。個別の情報入手した時点で、勝手にローカルな分析を行って解釈した結果を、中央に集めたりするのはあまり良いやり方ではない。データ収集には、必要ならば第三者の知恵を借りることも、するべきだろう。市場調査会社とか、コンサルタント、エージェントといった人たちだ。

そして、戦いの中間の要所要所で、データを集めて状況を分析し、戦略を補正する。ターゲットとすべきセグメントが間違っていることもある。あるいは顧客の要求を読み間違えることだってある。それを一つ一つ、データによって検証する。ときには、撤退を考えなくてはならない場面もある。

前に「マジックナンバー=5」という話をしたのを覚えているかなあ。対等だと思った勝負に5連敗したら、もう対等だという仮説は捨てたほうがいい、という数学的法則だ。こういう判断は、データを積み上げないと出てこない。

「データを集め、数字から学ぶ、ってことですか。確かに、ウチに一番欠けていたのはそこかもしれません。」

--そして最後の4番目は、戦いが終わったら、根本原因(Root cause)の分析を行うことだ。Root causeの定義とは、「論理的に見つけられる基本的原因で、かつ、マネジメントによって解決可能であるもの」だ。

表面的に、客が悪いんだとか、運がなかったとか、不況や円高などの環境のせいにしては、いけない。それは自分たちには解決可能でない。だから根本原因に選んではならない。選ぶなら、なぜ客筋をきちんとアセスしなかったのか、なぜ為替リスクのヘッジを怠ったのか、運不運で決まるような案件に、なぜ大きな勝負を賭けたのか、を問題にすべきだ。

「リーダーの責任というのは、どうなるんです?」

--根本原因分析をするときに気をつけるべき点は、「責任追及の場にしない」ことだよ。もし責任追及が主目的だったら、誰もが自分をかばって、本当のことを言わなくなる。本当のことがわからなかったら、根本原因分析なんて、どんな意味がある? 

根本原因分析の最大の目的は、同じ種類の間違いを繰り返さないこと、つまり再発防止にある。そのために、自分たちの仮説や行動に足りなかった点は、どこかを明らかにする。そして教訓を文字に残す。

敗北などのトラブル事象を、リーダーとか誰かの責任、で説明してしまうと、対策はその人間をポストからはずす、しかなくなる。じゃあ、他の人間をそのポストに据えたら、同種の間違いは決して起きない、と言えるのか? それに、失敗したら責められる、という組織では、だれが新しい創造的な仕事に挑戦するだろうか。

「ふー。結構大変ですね。とくに、勝負の前にやっておくことが多いですし。・・これ、ウチでやりきれるかなあ。」

--まあ、わたし自身だって、正直言って、いつも全部はできていなかったさ。ただ、こうすべきだったと思うから、偉そうに聞こえたかもしれないけれど、あえて喋らせてもらった次第だ。

「でも、自分のところは、計画立案能力も弱いし、データ活用も、からきしダメです。片方だけでも大変なのに、両方なんて到底無理かな。」

--でもないさ。計画とデータ活用は、じつはワンセットの能力だから。

「そうなんですか?」

--うん。計画を立てない組織には、ちゃんとした「ふり返り」もない。客観的なふり返りを知らない組織は、後で活用するためにデータを蓄積する、と言う姿勢もない。最初に用意しないまま、あとになってからデータを分析しようとするのは、予算も立てずに決算だけするようなものだ。

「その財務の喩えは、よく分かります。計画とふり返りが、データ蓄積の基本なんですね。」

--計画とは、いいかえれば具体的なアクションの塊だ。そして計画を立てられないようなビジョンは、と言う。夢を見ているだけでは、現実は近づかない。

夢に近づきたかったら、まず事実と経験から学ばなければ。たとえそれが、痛い経験であってもね。昔の人も言ったじゃないか、「過ちて学ばざる、これを過ちと言う」ってね。


<関連エントリ>
 「失敗の無限ループから抜け出すマジックナンバー『5』」 https://brevis.exblog.jp/15454723/ (2011-09-15)


by Tomoichi_Sato | 2019-08-07 23:12 | ビジネス | Comments(0)
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