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敗北から何を学ぶか 〜 その1・学ばないための5つの方法

久しぶりに会った年下の知人が、なんだか元気のない顔している。理由を尋ねてみると、数カ月間打ち込んで懸命にやった仕事が、見事にライバル会社にかっさらわれたのだそうだ。勝負に打って出たが、負けてしまった。疲れて意気消沈し、他の事にもあまり手がつかない。気がつくと、失った仕事のあれこれを考え、頭の中が堂々巡りの状態だという。

「まったく参りました。早く忘れて気分を切り替え、次の仕事に取り掛からなければと思うのですが、何か良い方法は無いでしょうか? 」

--どうだろう。本当に早く忘れるのが一番良いことなのかな。必ずしもそうではないと思うけど。

「なぜですか? 同じところで足踏みしてたって、先には進めません。職場の先輩にもそう言われましたが。」


彼の言葉を聞くまでもなく、職場の皆がそう言いたい気持ちは、もちろんわかる。敗北は早く忘れて、次の一歩を考えろ。Don’t cry over spilt milk. 英語にもそんな感じの諺があるではないか。過去をいつまで振り返っていても仕方がない・・。

だが、それなりの年数、受注ビジネスに従事し、入札にも何回も関わってきた(そして、残念ながら負けた経験も少なくない)わたしは、少しだけ違う意見を持っている。敗北を忘れるためには、その前に、失敗経験からの「学び」を、ちゃんと記録しておく方が有用だ。そんなふうに、最近は考えている。

もっともわたし自身は、この何年間かプロジェクトの現場を離れて、企画部門に働いているので、必ずしも自分があるべきと思う通りに、仕事ができているわけではない。だが、自戒と反省を込めつつ、わたしは彼に答えた。


--だって、将来、全く同じでは無いかもしれないけれど、似たようなビジネスにまた君の会社がチャレンジしたくなる可能性もあるだろう? だとしたら、今回の教訓をちゃんと記録して、共有しておいた方が良いはずだ。

「・・うーん、まあそうかもしれません。ただ、自分ではもう二度と御免だ、と言う気持ちですが。」

--もちろんわかるよ。何も今日すぐに、とは言わない。少し気持ちが落ち着いて、でも具体的なディテールを忘れない内に、早めに取り組むことをお勧めする。

「といっても、一体何を学ぶんですか? ビジネスは結果が全て。今回は、武運拙く負けた。でも結局、負けは負けじゃないですか。」


(ビジネスは結果が全て。よく聞く言葉だ。勝ちか、負けか。1か0か。確かにそこからは、何も学びようがない。だが本当にそうなのだろうか?)


--もしもビジネスが、サイコロを転がして、出る目を当てるだけのようなゲームだったら、前回「1」が出ても、今回は何の目が出るか全くわからないのだから、結果からは学びようがないね。じゃあ君も、今回はサイコロのようにまったくの偶然で、勝敗が決まったと言うのかい?

「いや、そうは言いませんよ。ですが、偶然の要素は大きいんじゃないかな。偶然というか、自分ではどうしようもない環境要因ですかね。」

--なるほど。自分も受注競争に負けた後は、よくそう考えていたものだ。だけどね、ひと月経ち、三月経ち、頭も冷静になってから振り返ると、やはり負けた時は、『負けるべくして負けたのだ』と、考え直すことが多かった。よく、ラッキーによる勝利はあるが、偶然のアンラッキーによる敗北はない、と言われるのは、根拠のないことじゃない。

「でもそれって、論理的に矛盾していませんか? 偶然による+100があるのなら、偶然による− 100もある。そういう風に思えるのですが。」

--じゃあ、野球の世界で言う『 1点差の負けは、監督の責任』って諺は聞いたことがあるかな。大差で負けた時は、戦力自体に大きな差があるか、あるいは勝敗の大きな流れみたいなものに左右されて、抗いがたい。明らかに自分たちのリソースや、技術や体制に問題がある訳だ。だが、僅差での負けは、ちがう。マネジメントの判断ミスによるものなのだ。

「そうかなぁ。どうしてですか?」

--どんな勝負事やスポーツでも、チャンスが巡ってくる時というのが、あるだろう? それも、2つ3つ、続けてやってきたりするものだ。なぜだか知らないけどね、まるでエレベーターみたいに団子になってやってくることが多いのさ。(「なぜエレベーターは(そして仕事も)、一度にまとまって来るのか」 https://brevis.exblog.jp/27699308/ 参照のこと)

「そういうことは、あるかもしれません。」

--その時に、良い判断ができる監督は、最初のチャンスでうまくアドバンテージを掴んだら、それをさらに次のチャンスで増幅する。ちょうど、賭け金を増やしていくようなものかな。ところが判断の悪い監督は、賭け金を増やすことを怠る。逆に、チャンスを失うと、次の賭け金を増やしたりする。君は、連続するチャンスに上手く乗ることのできる判断能力を持つ人と、一つ一つをバラバラにしか判断しない人と、どちらが、より信頼できる監督だと思う?

「それは、ちゃんと賭け金を増やす判断のできる監督でしょう。」

--だよね。しかし、負けた直後には、自分ではなかなかわからないものだ。自分自身がその渦中にいて、事態を客観的に見る余裕がないからだ。とくに貴方みたいにリーダーの立場だったら、なおさらだね。しばらく経ってから、ようやく振り返って、やはり負けるべくして負けたのだと悟ることになる。

「うーん。では、どうしたら良いのですか?」

--そうだね、まず敗北したときの振り返りで、やってはいけないことをあげよう。5つ位あるかな。


  • 失敗に学ばない5つの方法

まず第一。誰かのせいにしてはいけない。顧客のせいにしてはいけない。上司のせいにしてはいけない。無能な部下や同僚や、勝手な営業のせいにしてはいけない。誰かのせいにした途端、思考がそこで止まってしまう。それでは学びにつながらない。

顧客が馬鹿だった、は禁句にする。賢い顧客なら、貴方の会社が勝ち、馬鹿な顧客だったら、あなた以外の会社が勝つ。もし本当にそうなのだったら、あなたのビジネスモデル自体が、根本から間違っていることになる。

「どうしてですか?」

--世の中にはね、会社の門前に、いわば見えない行列ができて、その中から自分の好ましい顧客の仕事だけを、選び取って受注していくような会社だって存在するんだよ。貴方がもし、馬鹿な顧客の仕事を取ろうと、ライバル会社と競争しているのだったとしたら、賢い顧客からのみ選ばれるようなビジネスモデルをめざさなければいけない。そうだろう?

「・・反論しにくいですね。」

--ちなみに、敗北は誰かの責任だと考えて、悪者探しを始める代わりに、全員の気合が足りなかった責任だと考えて、総懺悔するというのも、もちろん学びには通じない。だって、負けるたびに総懺悔しているのであれば、毎回、全く同じ反省内容になってしまうわけだからね。

2番目。敗北に別の名前をつけてはいけない。たとえば、一番極端な例をあげると、戦前の大本営発表のように、敗退を「転戦である」と 言い換えたりする。これも良くない。ひどいときには、戦いなどそもそもなかった、と強弁する。

「もしも負けていないのなら、学ぶ必要など全然ないですものね。」

--その通りだ。人間は、だれでも心の中に、見てはいけない・触れてはいけないアンタッチャブルな思考停止の領域を持つと、全体として思考能力が低下する状態に陥りやすい。これは断じて避けなければいけない。

3番目は、競争の制度やルールが悪いと批判することだ。

「だめですか。僕は今回、そこのところにけっこう不満があるんですけれども。」

--競争のルールやあり方そのものに、問題がある場合は結構多いし、それは改善していかないと世の中全体が良くなっていかないよね。しかし不公平なのは、相手側にも同様なんじゃないか。それとも、完全にフェアで公正な競争だったらば、君の会社が必ず勝って、不公平なルールだったら君のライバルが必ず勝つ、と言うようなゲームなのかな? だとしたら、そんな勝負の土俵に上がらないとビジネスが続けていけないこと自体に、問題があると言えるだろう。

「うーん・・」

--4番目は、『結果が全てだ』と考えて、途中のプロセスを考えないことだ。勝敗の結果は、すべてプロセスの積み上げによって決まる。野球だってサッカーだって、序盤、中盤、終盤戦があって、それぞれ布陣や作戦を変えるものだ。いや、試合が始まる前から、様々な準備や情報収集がある。ビジネスだって同じだろう?

「そうかもしれません。」

--これが競争入札なら、顧客の案件察知という準備段階から始まって、顧客要求の理解と読み込み、見積設計、サプライヤーへの引き合い、納期とスケジュールの計画、コスト積算、リスクのレビュー、提案書の作成、魅力あるプレゼンテーション…と言う具合に、様々なステップからなっているプロセスだ。

こうした作業一つ一つを、万全に積み上げてこそ、ようやく勝利が手に入る。このプロセスのどこまでがうまく進んだのか。どこでつまずいたのか。どこら辺から、戦況がおかしくなったのか。それを知ることこそ、次の学びにつながるんじゃないか。

「戦況の変化かあ。潮の変わり目は、たしかにあの辺りだったかもしれないなあ・・」

そして5番目は、敗北後の総括や情報収集を怠ること。客観的で正確な情報把握ができなくては、どんな反省をしても、意味のない無駄なものになってしまうからだ。たとえば入札だったら、技術面と価格面と納期と、どこで負けたのか。競争相手とどんなに開きがあったのか。こうした情報を取ってこなければならない。

ただ現実には、ここが1番難しい。ここは組織の行動習慣(いわばOS)が、問われる部分だ。特に顧客や競合相手の情報収集に対しては、営業部門の力が必要にある。だが、負けた仕事はすぐに忘れて次の仕事にかかるべし、と言う部門方針だと、ここが機能しなくなってしまう。

それと、上位マネジメントの姿勢も大切だね。現場に対して十分な支援をしなかったくせに、末端のリーダーだけ責任を負わせて査定を下げる、みたいな状態で、うまく『学び』が働くわけがない。最初に言ったように、誰かのせいにして終わり、だったら何も学ぶ必要はないのだから。

「・・なるほど。やっちゃいけない、『べからず集』みたいなものは、多少わかりました。じゃぁ具体的に、敗北から学ぶには、何をどうしたらいいのでしょうか?」

(この項つづく)


<関連エントリ>
 「トラブル原因分析を、責任追及の場にしてはいけない」 https://brevis.exblog.jp/22555315/ (2014-11-09)
 「なぜエレベーターは(そして仕事も)、一度にまとまって来るのか」 https://brevis.exblog.jp/27699308/ (2018-12-05)



by Tomoichi_Sato | 2019-07-28 19:48 | ビジネス | Comments(0)
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