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プロジェクトの進捗を計る「アーンド・スケジュール法」とは何か 〜 その内容と課題

EVMS(Earned value management sysytem)とは、プロジェクトのコストと進捗を、「アーンドバリュー」(出来高)と呼ばれるメトリクスを使って測定し、コントロールする手法であって、モダンPMの技術の三本柱の一つになっていると前回の記事で書いた。ところがEVMSには、ある弱点があった。「アーンド・スケジュール法」は、この問題を克服するために、2003年ごろから考案され発展して、ついにはPMBOK Guide第6版やPMI Practice Standard for Schedulingにも正式に採用されるようになってきた。

それでは、EVMSの進捗管理における問題点とは何なのか? これを論じるためには、そもそも『進捗管理』(スケジュール・コントロール)という仕事の目的を、きちんと理解する必要がある。

進捗コントロールの目的とは、大きく次の4点にあると考えることができる。

(1) 現状の正確な把握:

プロジェクトの進行状況が、現時点でどうなっているかを、正確につかむ。プロジェクトを航海に例えるならば、自分の船は今、どこの位置にいるのか。そして、どれくらいの速力で移動中なのか。それを正確に知ることが、まず第一の目的である。船ならば現在はGPSで正確にわかるが、昔は北極星の位置や六分儀から割り出す必要があった。プロジェクトという目に見えない航行も、色々な手がかりから現在位置や速度を求めることが行われる。

(2) リスクと問題点の検知

船の航海のたとえを続けるならば、出発時に海図の上に線を引き、航行計画を立てたはずである。その予定線と現状は、どれくらい一致しているか。予定より進んでいるのか遅れているのか。積み荷の量は予定通りか。航行に要する燃費は想定通りか。こうした点をチェックして、問題があるなら、対策の手立てを取る必要がある。たとえ現状に問題がなくても、台風の発生や航路上の想定外の障害など、この先のリスクについて、定期的にウォッチしておかなければならない。

(3) 完了日時の予測

今のままのペースで行くと、船が目的地に着くのは(つまりプロジェクトが完了するのは)何月何日になりそうかを予測する。これは案外見過ごされがちだが、進捗コントロールの重要な仕事である。完了日時の予測がないと、プロマネが適正に判断できないばかりか、プロジェクトに人を出している関係部門も先の予定が立てられない。だから完了予測のない進捗報告は、単に虚しいレポート作成に過ぎない。なお、完了時点でのコスト予測(完成予想額:Cost EAC = Cost estimate at completion)も当然ながら重要で、完了日時とコストを合わせて「着地点予測」と呼ぶ場合もある。

(4) 次への学びをまとめる

プロジェクトが完了したり、あるいは大きなマイルストーンを超えて別のフェーズに入ったら、それまでの教訓(LL = Lessons Learned)をまとめ、次の航海に備える。これも忘れてはならない進捗コントロールの職務である。

さて、このような見地から、とくに(3)の目的に照らしてみると、EVMSによる進捗コントロールにはいささか不便な点があった。EVMSでは、計画と実績の予実比較のために、コストとスケジュールで二組の指標を計算する。

コスト差異:
 CV (Cost variance) = EV - AC
 CPI (Cost performance index) = EV / AC

スケジュール差異:
 SV (Schedule variance) = EV - PV
 SPI (Schedule performance index) = EV / PV

いずれも差をとるか比をとるかで、合計四種類の指標が出てくる。これらの指標は、どれも、数値が大きければパフォーマンスが高く、プロジェクトがうまく行っていることを示す。

さて、完了時の着地点予測を考えてみよう。コストの場合、通常は次のような計算をする。

Cost EAC = 現時点までの実績コスト(AC) + (今後行うアクティビティの予算額)/ (今後のCPI)

たとえば、予算総額1億円のプロジェクトを考えよう。現時点までに、およそ6割程度のアクティビティが完了しており、それに費やした実績費用ACは7500万円だった。ただ、元の予算は6000万円で済むはずだった(EV = 6000万円)。この場合、CPI = EV / AC = 6000/7500 = 80%である。

そして、残りのアクティビティに必要な費用は、4000万円と当初の計画では想定していた。現状すでに7500万円使っているから、7500 + 4000 = 1億1500万円、と見ていいか? そうはいくまい。これまで、7500万円かけて、6000万円分の仕事しかできなかったのだ(CPI = 80%)。この先も同じペースで行くと想定すると、

Cost EAC = 7500 + 4000/0.8 = 1億2500万円

が完成予想額だ。2500万円も赤字になる、ということになる。

では、完了日時の予測は、同じようにできるだろうか? たとえば、上の例で、全体期間は10ヶ月だが、今は7ヶ月経った現時点であり、SPI(=EV/PV)は、CPIと同じく80%だったとしよう。つまり、開始後7ヶ月時点でのPV=7500のはずだった。だったら、次のように計算していいか?

Time EAC = 現在までの経過時間 + (残りの予定時間)/ (今後のSPI)
 = 7ヶ月 + (10 - 7)/0.8 = 10.8ヶ月

そうはいかないのだ。なぜなら、まず、SPIというのはEV/PVという金額の比率指標であって、時間あたりの進捗指標ではないからだ。それにもう一点。今後のSPIは、現在の80%よりも必ず大きくなることが予想されるからだ。というのも、定義からいって、プロジェクト完了時点でのSPIは、100%に戻るためである。

これは、スケジュール差異SVに置き換えても同じである。SVは完了時点で必ずゼロに収束する。図を見て欲しい。CVは、完了時点で、一定の値が残るのが普通だ。だがSVは0に戻ってしまう。
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かならずゼロに漸近するような数値が、いつゼロになるかを予測するのは、とても難しい。だから、SVやSPIだけを用いて、完了日時の予測をするのは困難なのである。これがEVMSの持っている弱点だった。

さて、ようやくアーンド・スケジュールの登場である。ES (Earned schedule)の定義は、シンプルである。それは、"Earned Schedule (ES) is the point in time when the current Earned Value was to be accomplished" と定義される(Stratton 2005による)。日本語に訳せば、

アーンド・スケジュール(ES)とは、現時点での出来高(EV)が達成されるはずだった日付をいう」

となる。図を見てもらえば一目瞭然だろう。そして、ここから二種類の指標が導出される。

e0058447_15232446.jpg

 SV(t) (Schedule variance on time) = ES - AT
 SPI(t) (Schedule performance index on time) = (ES - AT) / ES

ここでATとはActual time、すなわち実際日付(現在日付)のことである。そして完了日時予測は、

Time EAC = 現在日付(AT) + (全体工期 − ES)/ SPI(t)

で計算する。上記の例でいうと、かりにEV=6000となる日時が開始後6ヶ月の予定だったとすると、
 ES = 6 - 7 = -1ヶ月
 SPI(t) = 6 / 7 = 86%
 Time EAC = 7 + (10 - 6) / 0.86 = 11.7ヶ月
という計算になる(無論ここでは、現時点までのSPI(t)の値が、今後もあまり変わらないという想定が入っている)。

Earned scheduleの概念と計算式は、米国のWalt Lipkeという人が2003年頃から提案したものだ。なお、アーンド・スケジュール法の各種指標については、次のサイトにまとまっている:

ただ念のために書いておくと、EVの値から横に線を引いて、PVカーブの日付を求めるアイデア自体は、Lipkeよりも前からあった(たとえばFleming and Koppelman、Anbariなど)。また実務でも、以前からわたし達は進捗率カーブを引いて、何日分進んでいる・遅れていると表現してきた 。そういう意味では、アーンド・スケジュール単体では、それほど独創的とは言えない。

ただ、わたしが注目したのは、このESを使った進捗コントロール手法が、米国防省に広まることで、かなり膨大なデータが蓄積されるだろう、という点だった。なぜなら、EVMS手法の進歩には、米国の防衛宇宙産業での膨大なデータの蓄積が役立ったからだ。

ちなみに、上の完成予想額の計算で、「この先も同じペースで行くと想定すると」と書いたが、これは、今後のCPIも同様な値が続くと、という意味だ。そして、米国におけるEVMSに関連する膨大なデータから、

プロジェクトのCPI値は、全体期間の最初の2〜3割を過ぎると、良くも悪しくも安定する

という経験値の集積があったから、使えたのである。そしてSPIは、途中でいったん1から離れても、また1に漸近するという性質のために、このようなデータ傾向が得られないのだ。

ちなみにわたしの記憶が正しければ、米国では50万ドル以上の公共事業では、EVMSを適用することが法律で義務付けられている。そして公共事業のデータだから、それは政府自治体だけでなく、社会全体がエッセンスを共有して使える。こうした各種プロジェクトデータの集積と、経験知の共有は、ある意味オープンな米国社会の強みでもある。

ひるがえって、たとえばわたし達の社会では現在、東京オリンピックを目指して多数の公共プロジェクトが進められているが、そうしたデータは誰がどう蓄積しているのだろうか。たしかに個別案件の予算などは取引上の秘密で、受託企業の競争領域に属するだろう。だが、CPIやSPI(t)などに関する統計分析は、強調領域として、皆の共有すべき知識となるはずであろう。

ともあれ、アーンド・スケジュール法に話を戻すと、この手法の登場によってEVMSの弱点は補強され、プロジェクトの進捗把握と完了日時の予測は、より高い精度でできるようになった −− のだろうか?

そうはいかないのだ。実は、ES法にはまだ、深刻な落とし穴が、一つある。だが、またしても長くなり過ぎたようだ。その問題について説明するのは、また次の機会に譲ることにしよう。


by Tomoichi_Sato | 2019-05-26 15:32 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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